おいしい音楽を探してアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 谷口舞
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/19〜11/25

●本文

「‥‥うーん、違うんだよなぁ‥‥」
 プレイヤーの停止ボタンを押し、プロデューサー河本圭介は腕を組んでうなった。
 彼の傍らでは、今もなお撮影が続いている。
 今年の冬に放映が決まっている、お菓子のCMに使うクレイアニメーションだ。
 たった3分の短い放映のために実に1年近くも収録を必要とするためか、スタッフ達の気合いの入れようは半端ではない。テレビシリーズと違い、CM作品は予算と労力を惜しみなく使うことが出来る。時間こそあまりないものの、その分スタッフを多く使うことでカバーさせていた。
 現在はクレイアニメ部分の撮影がほぼ終わり、あとは編集で音楽とタイミングを合わせる程度。
 だが、その要である音楽で問題が発生していた。
 どうもいまいち決まらないのだ。
 候補として上がっている音楽はどれも今流行りのPOP音楽。スポンサー側から「子供向けの楽しい映像にして欲しい」と言われていたせいだろうが、それ以上に制作側の趣味を感じてならない。
 幅広い募集を掛ければ良いのだろうが、CMという性質上、詳細をあまり掲示出来ない。
 何とか人づてに使える曲を探していたのだが、そろそろ限界を感じ始めていた。
「やっぱ募集をかけるしかないかなぁ‥‥」
 ポータブルパソコンの中にいれてある、プロダクションデータを何件か検索する。
 やはり、気が乗らず、サンプルとして送られてきた新しいCDをプレイヤーの中に放り込んだ。
 これを何日繰り返してきただろうか。そろそろスポンサー側も動向が気になり始めてきたようすだ。
「話だけでも掛けてみるかな」
 プレイヤーの電源をきり、圭介はふらりとスタジオを出ていった。
 
■募集要項
 新しいチョコレート菓子のCMソング。クレイアニメーションのBGMとして使用します。
 アニメーションの内容は、不意に生えてきたチョコレートのキノコを食べようと、森の動物達が集まり、食べた途端美味しくて皆で踊り出す、という内容です。曲が流れるのは、この「美味しくて皆で踊り出す」シーンになります。
 チョコは試食可能です(何種類かカカオをブレンドし、新製法のはちみつとフルーツを混ぜたソースが中に入ったカカオの苦味が殆どないお菓子です)
 3分間と1分半の2タイプのアレンジが必要となります。また、それより短い放映もありますので、アレンジがしやすい楽曲でお願いします。
 歌詞が入る曲でも構いませんが、歌手は若い女性に限定させて頂きます。
 主に子供(幼稚園児から小学生)をターゲットにしております。そのことも念頭に入れて作曲してください。

●今回の参加者

 fa0075 アヤカ(17歳・♀・猫)
 fa0237 野村 承継(56歳・♂・鴉)
 fa0964 Laura(18歳・♀・小鳥)
 fa1406 麻倉 千尋(15歳・♀・狸)
 fa1457 笹原詩音(11歳・♂・鴉)
 fa1518 リュティス(14歳・♀・小鳥)
 fa2084 Kanade(25歳・♂・竜)
 fa2105 Tosiki(16歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●本領発揮のために
「それじゃあ、今日から使用ということで良いですね? ご希望通り、使用期間の間はこのフロアを立ち入り禁止にさせておきます。それじゃ、頑張って下さい」
 スタジオと倉庫の入り口の鍵がセットになったカードキーを手渡しながら、ビルの管理人はそう告げた。
 CMの新曲作成という名目で人払いを願い出たところ、意外にもあっさりと認可された。
 どうやら時々そういった注文で借りていく者がいるらしく、管理側もLaura(fa0964)とTosiki(fa2105)の2人の申し出を訝しがることはなかった。
「さてと、とりあえず手慣しに1曲作ってみるか。確かスタジオ見学は明日だよな?」
「ええ、スポンサーの方が丁度来られるそうなので、一緒に上映会をするそうですよ」
 Lauraはノートパソコンから伸ばしたケーブルをTosikiのキーボードに接続させる。
「準備はこれでOKだな。あとは‥‥」
 Tosikiは静かに意識を集中させた。見る間に彼の姿が獣の姿へと変化していく。
 事前に話は聞いていたものの、目の当たりにするとさすがに驚きを隠せないようだ。
 Lauraは大きな瞳を瞬かせ、じっと彼女の前に出現したコウモリに注目した。
「‥‥おかしいか?」
「いえ‥‥何か不思議な感じがして‥‥」
「そういう自分も同類だろ?」
 苦笑いを少しだけ浮かべながら、Lauraは背から黒い翼を出現させる。その姿に満足しながら、Tosikiはキーボードの電源を入れた。
「まずは‥‥そっちの持ち歌を唄ってみることにしよう。伴奏データは持ってきたよな?」
「ええ。今呼び出させますね」
 Lauraは細い指を軽やかにタイピングさせた。途端、デスクトップ上に楽譜が呼び出され、それと連動してキーボードが音を鳴らし始める。
 伴奏に合わせて身体を揺らしながら、Lauraはしっとりと唄い始めた。

●上映会
 その日は朝からからりと晴れ、気持ちのいい青空が広がっていた。
「こんな日にまで、窓1つないスタジオにこもりきりってのいうは虚しいものがあるな‥‥」
 案内されたアニメ制作スタジオを見渡し、野村 承継(fa0237)は苦笑いを浮かべた。
 彼の傍らにいるアヤカ(fa0075)はスタジオ内の方が興味あるらしく、承継との話もそこそこに、スタジオ内をあちこち見て回っている。
「わー、人形が一杯ニャン♪ これ全部撮影に使うの?」
「ええ、そうですよ。少しづつポーズが違うでしょう? この人形達を交換しながら1コマづつ撮影していくんです。今はこういうのもCGで作ったりなんかもしてるみたいですけどね、うちは昔ながらの手法で撮影が殆どですよ」
 丁度撮影作業に取り掛かっていたスタッフが丁寧に説明を始めた。
 何か新曲のネタにならないかと真剣に聞く者、単に興味半分で聞いてる者、早くも飽きて上映会が始まらないかとそわそわする者と彼らの態度は様々だ。
 だが、一度新作CMの話になると彼らは積極的に質問を始めた。
 中でもリュティス(fa1518)は、商品詳細やCMテーマなどの細やかな部分に渡り質問を投げかけていた。少しでも作品の雰囲気を掴みたい、そんな思いがひしひしと感じさせられる。

 そうこうしている内にあっという間に時は流れていった。
 ちらりと時計を見ながら、圭介が一同に告げる。
「そろそろスポンサーの方が来られる時間ですね。先に試写室へ向かいましょう」
 スタッフの案内のもと、一同はスタジオ奥にある小さな部屋へと向かった。
 それぞれ着席して待っていると、いかにも中年サラリーマン風の男が3人ほどはいってきた。
 一番真ん中にいる小太りの男が今回のスポンサー主である製菓会社の社長らしい。
 いかにも菓子が好きそうな奴だな、とKanade(fa2084)は囁いた。
 人が良さそうな笑顔をにんまりと向け、彼はにこやかに挨拶をしてきた。
「いやー、美人さんが多いねぇ。君達はアレかね? ここのスタッフさんかね?」
「あのー‥‥もしかして伝言お聞きしてないんでしょうか‥‥」
 少々焦りながらも、圭介が一同の紹介を始める。
 社長は一同を見据え、そういえばTVで見たことがある者もいるな、と呟いた。
「とりあえず時間もあまりありませんし、上映を始めましょう。その前に、皆さんに新作チョコをお配りします。召し上がりながら映像を楽しんで下さい」
 そう言いながら、圭介は部屋の電気を消した。途端、スクリーンに映像が映し出される。
 森の中を舞台にしたコミカルな映像を全員がじっと見る光景は少々異様ではあったが、まだ年若い麻倉 千尋(fa1406)や笹原詩音(fa1457)がいる分マシなのだろう。
 音のないフィルム上映会は数分の内に終わった。
 だが、音楽家達はこれからが本番である。
 上映会最後にお土産をもらい、彼らは早速それぞれ作曲作業へと取りかかるのだった。

●曲の披露
「それではまず最初の候補作品です」
 CDプレイヤーを再生させると、遊園地で流れるようなコミカルで明るい音楽が始まった。
 民族楽器と木管楽器を組み合わせた単調だが覚えやすい曲だ。
 しかし、圭介はすぐさまCDを止めさせた。
 えっと顔をあげるリュティスと詩音を一瞥しながら圭介は言う。
「曲は面白いけど、少し素人くさいね。民族楽器は個性が強いからシンセで加工したのはすぐバレるよ」
 絶妙なブレスや音の強弱といった細かな部分はデジタル音響では難しいものがある。それをすぐさま指摘され、詩音はしょんぼりとうなだれた。
「‥‥恐ろしい依頼主ニャ」
 少々焦りを感じながらアヤカが呟いた。自分の作品に自信はあるものの、さすがに心配になってきたようだ。
「大丈夫だよ。きっと気に入ってもらえるさ」
 穏やかな表情でアヤカを慰めるように承継は言う。
 次に流れてきたのはその2人の曲だった。アヤカの元気な歌声に合わせてテンポよいオルガン曲が響き渡る。
 覚えやすい歌詞のため、2番が始まる頃にはサビを口ずさむ者もいた。
 CM曲にとって覚えやすいのは何より大切なことだ。その点ではかなり優秀な出来栄えと言えるだろう。
「いいね。とりあえず候補としておこう。あと2つか‥‥」
 メディアを入れ替え、再び再生ボタンを押す。
 次の瞬間、その場にいた全員が固まった。
「すごい‥‥」
 使われている楽器そのものは他の者と変わりない。ぽくぽくと聞こえる滑稽な音は木魚の音なのだという。
 瞳を閉じると、映像がダイレクトに流れてくるようだった。それほど、リズムも曲のタイミングもフィルムの流れにしっかりと沿わせている。
 一流の音楽家と匹敵するような完璧な曲に、聞き惚れていたKanadeがはっと気付いた。
「もしかしてキミ達‥‥」
「ああ、少し本気でいかせてもらった。仕事として引き受けたんだ。実力を十二分に発揮出来るようにするのは当然のこと、だろう?」
 この後、千尋とKanadeの曲が流されたが、先程の曲があまりにも印象強かったせいか、コミカルな曲にも関わらず誰一人笑みをもらす者がいなかった。
「ねえねえ、カラオケ版も流す?」
 一応用意してきたテープをちらりと見せながら千尋が囁く。
「‥‥さすがにこの雰囲気じゃ厳しいだろうな」
 端正な横顔に諦めににた笑顔を浮かべながらKanadeは呟いた。
 さすがにこれ以上千尋嬢ちゃんを道化にするわけにはいかない、そう言いかけたのをぐっとこらえているようだ。
「曲のコンセプトは面白いけど、やはり‥‥」
 スタッフ達もこちらの予想通りの反応をしめしている。
 幼い子供向けには良いのだが、さすがに要である曲のインパクトが薄められていては注目されにくい曲だ。
「完全に力を開放か。確かにそうすれば、とんでもない曲も作れるが‥‥他人に見られた時のことを思うと、な」
 半獣人という姿はよく見られるが、完全に開放となるとまた話は別だ。
 無論、それでも問題もない分野で活躍する者もいる。だが歌手はどうだろうか、見目を売りにしている者ならば尚更気をつけなくてはならない。
 そこそこ売れ始めた芸能人にとって、ゴシップは恐怖の対象でもある。ひとたび晒されれば、一生芸能界に足を踏み入れられなくなるかもしれないのだから。
「姿なんて、別に人に見られても平気じゃない?」
 どこが悪いのだろうとまだ詩音は納得出来てないようだ。
「‥‥キミも芸能活動を続けていれば分かることだよ」
 自嘲気味な笑みを少しだけ浮かべ、承継はぽむりと詩音の肩に手を乗せた。

 結果は言うまでもないだろう。
 全員賛成で、LauraとTosikiの曲が選ばれた。
「他の曲もバリエーションのひとつとして提案してみるよ。皆、お疲れさまでした」
 満足げな笑みを浮かべて圭介は全員にねぎらいの言葉をかけた。

 後日、CMは無事TVで流された。
 街にまたひとつ、人々の心に刻まれる曲が生まれた瞬間だった。