ダンスの代役募集中アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
谷口舞
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
1.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/08〜12/14
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●本文
「おー‥‥すげぇなぁ‥‥」
扉を開けた瞬間飛び込んできた景色に、玉城・誠二(たまき・せいじ)は感嘆の声をもらした。
磨き上げられた床と白い壁。それほど広くは無く、窓1つ無いが白の膨張が聞いているのがやや解放感を感じられる。
天上にはコード類が張り巡らされ、それらの先に見たことのない機械と何かを撮影するカメラのようなものが並んでいた。
部屋の入り口にほど近い場所に2台のモニターが設置されている。
モニターに対面しながら煙草をふかせているのが、今回の作品の演出家でもある五十嵐・哲哉(いがらし・てつや)だ。
哲哉は哲平に気付くと、煙草を携帯灰皿へ押しつぶすように入れながら声をあげた。
「おはよう。悪いな、オフに呼び出して」
「‥‥おはようございます。で、なんすか‥‥これは」
そういえば数週間程前から業者がきて工事をしているらしいということは聞いていた。
が、制作進行である哲平は徹夜覚悟の外回りが多く、スタジオの中にいることなど殆どいない。こちらに出社するのも実に2週間ぶりだ。
「あー、前いってたろ。女性6人による新人バンドユニットのプロモを一部うちでやるって。なんかよ、こいつを使って作って欲しいんだってよ」
こんな部屋をぽんと借りれるなんて金持ちのプロダクションは違うよなぁ、と哲哉はぼやいた。話の筋がよく見えず、哲平は更に問いかける。
「使うったって‥‥こんなへんてこな機械をどうしようってんです?」
「聞いたことあるだろ、モーションキャプチャーってやつさ」
本人達が踊れればこんな手間は要らないんだけどな、と哲哉は苦笑いを浮かべた。
本来、本人達が踊るシーンを似顔絵のアニメキャラに代役させるというのだ。
つまり、この装置を使って役者の動きを収録し、アニメを創り上げるということになる。リアリティを追求する劇場作品やゲームに良く使われる技法だ。
昨今の技術発展により、表情などの微妙な筋肉の変化や素振りなどの素早い動きにも対応出来るようになった。たとえ激しいダンスでもお手の物だろう。
「そのバンドメンバーは唄は上手いんだが‥‥本気で踊りがなっちゃいないんだよな。舞台じゃ適当にごまかしてるがプロモじゃそうはいかねぇ。ダンサーに踊ってもらうっていうのもありなんだが、アップのシーンもあるからな‥‥実写じゃ不可能なんだとよ」
「いわゆる替え玉みたいなもんすね‥‥」
「ま、そういうことだ。んで、お前は撮影に協力してくれる代役の踊り子を探してこい。踊りが上手けりゃ文句無しだが、一応スタイルも気にしろよ、身長差がありすぎるのとデブすぎるのは修正が面倒だ」
ついでにとバンドユニットのプロフィールも手渡された。身長から3サイズまでしっかり書かれている。
「そいつら6人分だ。プロモ用に踊るってことだけで代役ってことは伏せとけよ、代役使っただなんて知れたら『彼女達の踊りを最新技術でアニメに表現』のうたい文句が駄目になるからな」
「‥‥って、それって嘘じゃないっすか!」
「ギョーカイでは良くあることだ。覚えとけ」
哲哉は再び煙草に火をつけようとした。さりげなく誠二がツッコミをいれる。
「‥‥ここ禁煙みたいですよ」
「‥‥そうか」
■プロモーションムービーで使用する、ダンスを踊る方を募集します。
・ダンス技術と音楽センスを重視しますが、在る程度スタイルの良さも希望します。
・ロック調の曲に合わせた踊りのため、かなり激しい内容になります。体力(持久力)もそこそこ必要とされます。
・15、6歳前後の一般女性体型を理想としますが、技術があるならば年齢と性別は不問です。
・練習や収録は非公開の特別な室内で行います。撮影中は、半獣化までは問題ありませんが、ヒトから姿を逸脱するような容姿は控えてください。
・ダンサーはメイン2人、バック4人の6人チームです。楽器演奏以外のシーンのため、演奏技術は必要ありませんが、メインは歌も唄います(ただし、唄そのものは収録されません。唄うそぶりだけですので歌唱力は問いません)
・収録中、全身にセンサーを設置します。多少動きづらいかもしれません。
●リプレイ本文
●練習風景
「はい、そこでジャンプ! ワン、ツー、右足を前に出して身体をひねる! そうそう、上手いわ!」
演技指導役の女性の声がスタジオ内に響き渡る。
打ち鳴らされる拍手と曲に合わせて、踊り手達は軽い身のこなしで踊っていた。
だが、1時間、2時間と踊っていくうちに段々彼らの動きも鈍くなってきた。
基礎体力作りとリズム感の両方を作るためにと組まれた内容だけあり、通常のダンスよりより多く体力を消耗する。
数日しかないという短いスケジュールとほぼ初心者に近い新人が多いことから、半分スパルタを覚悟でのレッスンとなっていた。
踊り手達も半分は覚悟していたようで、誰ひとり根をあげることなく指導員の指示を聞いている。
初日に自分達の姿が映像に流れないことを伝えた際は動揺を隠しきれない様子だったが、ダンスの基礎を教えてもらえる上に未知なる技術への興味の方が強かったようだ。
集団のダンスは個々の技術は無論のこと、パートナー達やスタッフとの連携も大切になってくる。
休憩時間もお互いの位置の確認や動きの打ち合わせを行っていた。
その中でも熱心だったのが、バックダンサーを担当する一角 砂凪(fa0213)と筑波早桜(fa1754)だった。
特に本業である砂凪は基礎から技術を磨き直すため、大抵の者が半獣化している中、あえて力を開放させず人の姿のままレッスンに挑んでいた。無論そのためタイミングが上手く行かずに失敗する面もあったが、基礎が出来ているおかげか一番早く流れのコツを身に付けていた。
「そこのコウモリさん、もっと足をあげて! それじゃあ踊ってるようには見えないわよ!」
「は、はいっ‥‥!」
「メインは特に動きが目立つからね、オーバーな位に身体を目一杯伸ばしなさい!」
「うーん‥‥メインは大変だねー‥‥」
軽い休憩をいれていた大海 結(fa0074)がぽつりと呟いた。バックダンサーは複数人交代で行えるものの、メインは天羽 霧砂(fa0319)と観月・あるる(fa1425)の2人のみ。
メインダンサーは表情の変化も一緒にデータにとるため、2人は歌も唄う必要がある。異なる動作を同時に行うのは、体力以上に神経も使う。見せ場が多い分、バックに比べて踊りの内容も複雑だ。指先まで神経を張り巡らせなければならないため、ひととおり踊り終える頃にはすっかり疲れ果ててしまうこともあった。
「あれ、何読んでるの?」
「あ‥‥ごめん。明日テストがあるんだ‥‥」
ブリッツ・アスカ(fa2321)に声をかけられ、三月姫 千紗(fa1396)はそそくさと持っていたノートを後ろに隠した。
「そういやあんたまだ学生だもんね。こっちの活動と両立ってのは大変だろ?」
「そうでもないよ。色々と勉強になることもあるし、今回みたいに面白いこと一杯あるしね」
芸能活動はその仕事柄、同じ年代では味わえない体験をすることが出来る。違う年代層の人間との接触は人間性をより深くさせることが出来るし、演劇、歌、踊りは自分を磨く要素となる。今回のような体験も芸能生活ならではと言えるだろう。
「あれ‥‥あの人、ヴァニシングプロのマネージャーだよ。見学にきたの‥‥かな?」
「砂凪さんご存知なんですか?」
「前にちらっと俳優さんの付添いでスタジオに来てたの見かけたんだ。そっか‥‥別に顔は出なくても覚えてもらえるチャンスはあるみたいだね‥‥」
マネージャーらしき人物は演出スタッフと綿密に話し合ってる最中だった。どうやら今回のプロモの進行役をつとめているようだ。
「ふー‥‥疲れた‥‥」
とさり、と一同の輪の中に座りこみ、あるるは大きく息を吐き出した。
差し出された清涼飲料水を一気に飲み干し、ようやくほっと安堵の表情をみせる。
「何か体中が悲鳴をあげそうだよー」
「でも、ずいぶんと動きが様になってたよ。ラストの決めポーズなんかばっちり曲にあってたし」
「えへへ。そうかな?」
ぴくぴくと猫耳を震わせ、あるるは嬉しそうに笑顔を向けた。
「あっ、打ち合わせしてる。丁度いいや、聞いてこよーっと」
制作スタッフ達が集まっているのに気付き、彼女は素早く彼らの元へ駆けていく。
「‥‥元気ねぇ」
苦笑いを浮かべながら、霧砂は壁に深くもたれかけた。冷たいアスファルトの壁が火照った身体に気持ちいい。
「明日1日ゆっくり疲れをとって、明後日本番か。上手く出来るといいが‥‥」
心配げに小鳥遊 日明(fa1726)が呟いた。初日の審査で、あまりよい結果を得られなかったためか、失敗は許されないという思いが心の片隅で引っかかっていた。それをほぐそうと、結が心配いらないと声をかける。
「隣で踊ってても変に見えなかったよ。僕はあんまり体力ないほうだから無茶出来ないし‥‥日明君はジャンプの場面も綺麗だったから充分自信を持っていいと思う」
「ざっと見た感じ悪い雰囲気はなかったし、今日注意された点に気をつければ何とかなるかな。心配してたらきりないし、頑張っていこ!」
大丈夫だよ、と早桜は皆を元気つけるかのように明るい声で言う。
「でも明日1日ごろごろしてちゃいいってわけじゃないよ。歌の打ち合わせとか、装置のテストプレイがあるんだから」
「あ、そっか。機械のメンテナンスようやくおわったんだね」
「本当にぎりぎりだけどね。でも間に合ってよかったよ」
「そういえば‥‥さっき聞きにいってたの、一体何だったんだい?」
ふと思い出したのか、何気なく結が問いかけた。「あれはね」と言いかけて、あるるは口を右手で覆い隠す。
「やっぱ秘密っ。質問っていうか‥‥お願いなんだ。プロモ完成まで楽しみにしてて!」
「そう言われると余計気になるよ」
「おーい、いつまでおしゃべりしてるんだよ。早く着替えないと風邪引くよ」
「あ、はーい。それじゃ、ね」
着替えを抱え、あるるはそそくさとシャワールームへと駆けていった。
●本番当日
その日はまるで天候ですら彼らを祝福するような、清々しい一面の青空だった。
「こんな日は外を散歩したい気分だよね」
「収録が終わったらいくらでも出来るよ」
そんな会話を交わしながら一同はスタジオの中へと入っていく。
先に来ていたあるると霧砂が機械の説明を受けていた。彼女らの身体のあちこちに白い丸のような印がつけられている。この印の動きをカメラに撮らせてデータにするのだそうだ。
「思ったより動きやすいかんじだね」
少しぎこちない感じはあるものの、踊りにそれほどの束縛はないようだ。
ただ、やはりセンサーを取り付けるために、いつも着ている衣装より身体のラインがしっかりと出る衣装に着替えることとなった。
制作スタッフは殆ど男性ばかり。彼らの視線は自然とスタイルの良い霧砂や、しなやかなでバランスのとれたダンサーらしい体つきの砂凪に向けられていた。
「見られるのには慣れてるけど‥‥下心ありそうな視線ってのはちょっと‥‥」
「だね‥‥」
事情を説明し、せめて撮影中だけは必要最低限のみのスタッフにと申請すると、あっさりOKがとられた。
これで存分に踊りに集中出来ると、安堵する一同にテスト開始の合図が告げられる。
「まずは動きの連動性を確認する撮影を行います。その後、少し休憩を挟んで本番に移りますのでよろしくお願いします」
「はーい」
軽いストレッチを兼ねた運動をしているメンバーを設置されたカメラが撮影する。
時折、立ち位置の確認と交代のタイミングを打ち合わせて、その日の午前は終了した。
●レッツダンシング!
スタジオ内に腹に響くような大音量のドラム音が鳴り響く。
足先でリズムをとり、ギター音が入ったと同時に彼らは一斉に動き始めた。
早いテンポのダンスを優雅に踊る姿はまさに蝶か妖精の様だ。タイミングもずれることなく、お互いの息を合わせてステップを踏んでいく。
「いいですね。こりゃ最高の出来になりそうですよ」
マネージャーがぽつりと呟いた。制作スタッフも満足げな表情を浮かべている。
「ん‥‥?」
バックを踊っていたアスカの動きに変化が生じた。ほんの少しずつであるが、踊り方がより伸びやかになってきている。
別段他のメンバーとはそれほど違和感がない範囲だが、あまり派手な動きはメインを殺しかねないため、スタッフは演出にこそりと報告する。
「ん。悪くなってるんじゃないし、あのままいこう。なんなら彼女のベースにして、他を少し調整すればいいさ」
「そう、ですね」
どちらにせよ微調整は必要のようだ。納期までは修羅場を見そうだなとスタッフは苦笑いを浮かべるのだった。
撮影が終わってから数日後。
制作メンバーだけのプロモ上映会が開催された。
自分達の踊りがアニメーションになっている姿を、踊り手達は真剣な眼差しで見ていた。
実際の動きをトレースしただけあり、動きはとても滑らかで実写と殆ど違和感がない。
「良い出来だね」
「うん」
あっという間にムービーが終わり、おまけのエンディングテロップが流される。
その時、画面の右端に踊っている小人達の姿に気付き、結は「あっ」と言葉をもらす。
「あれ、僕達‥‥? もしかして、この前のお願いって‥‥」
「折角だからって出してもらえないかお願いしたの。上手くいったみたいだね」
にっこりとあるるは微笑む。
エンディングの間中、コミカルなタッチの小人達は画面の下を踊りながら駆け巡っていた。