後輩育成?〜遭難者捜索中東・アフリカ

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 1Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 やや難
報酬 12万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/11〜02/18

●本文

「ああ、おじいさま、おばあさま。一体どこに行ってしまわれたの!」
 そこは中東とアフリカの狭間の海を望む某所。砂浜に座り込み、両手も着いて嘆いているのはシンデレラという女性である。本気で嘆いているようだが、動きが一々芝居がかっている。そして、芝居だとしたら下手。
 それはさておき、シンデレラが嘆いているのには、もちろん理由があった。彼女は祖父母と共に地中海を望む国々を外遊中だったのだが、祖父母が行方不明になってしまったのだ。
 シンデレラの祖父はアレキサンダーと言い、イタリアでモデル事務所を経営している。祖母のパナシェは、考古学の研究者を名乗っている。どちらも業界での有力者とは程遠いが、入国時の審査書類にそう書き込んで問題がない仕事をしているはずだ。孫のシンデレラは、売れないモデル。
 この三人、先日からバカンスをしていたのだが、アレキサンダーがどうしても夫婦二人で過ごすのだと言い張り、シンデレラをホテルに置いて、地中海のどこぞの島へとキャンプに出掛けてしまった。往復は借りたモーターボートを、アレキサンダーが操縦して出掛けている。
 ところが、戻ってくるはずの日になっても二人は戻らず、心配したシンデレラがまずはボートをレンタルした会社に問い合わせた。ところがこちらにも連絡はなく、会社が近くの港にボートの入船がなかったかを問い合わせたところ。
「船を盗まれて、きっと二人とも助けを待っているに違いありませんわ。早く助けに行かなくては」
 どうやら、不心得者が島に停泊していたボートを奪って、近くの港に持ち込んでいたらしい。盗人は捕まったが、ボートは漂流していたのを見付けたのだと言って譲らない。どこの島から持ってきたのかと警察が追求中だが、なかなか口は割りそうにないとのこと。
 挙げ句に、アレクとパナシェの夫婦は困ったことに、行く先の島を『この辺のどれか』と適当なことしか言わずに出掛けていた。シンデレラは船会社が、会社はシンデレラが詳しい行き先を聞いていると思い込み、結局どこに行ったのかは不明だ。候補の島は、全部で八つ。いずれも無人島で、たいして大きな島ではない。警察がしらみつぶしに捜している最中だが、今のところ二人は発見されていなかった。
 不幸中の幸いは、二人が何を思ったのか二週間分は優にある食料と水をボートに積んでいたことだ。それらの食料が見付かったボートからは発見されず、犯人達が懐にした形跡もないので、二人がどこかの島に下ろしたものと見られている。また、釣りの道具も持って出たことが確認された。
「二人とも、もう六十半ばですもの。私も探しに行きますわ」
 シンデレラは悲壮な決意を固めていたが、連絡を受けた彼女の両親、特に夫婦の息子であるところの父親はこう言っていた。
『一番遠い島まで、二十キロ? 泳いで帰ってこないなら、多分楽しんでいるんだよ。気をつけて探しに行きなさい』
 親のことより、娘のほうがよほど心配といった口調である。

 まだ警察が捜しきれてない島は、あと三つ。いずれも周囲が十五キロ程度、申し訳程度に林があり、岩場に囲まれた無人島である。これらの島を巡り、シンデレラと共にパナシェとアレクの夫婦を捜して、連れ戻してくれる人の募集である。
 島までは大型モーターボート、操縦はシンデレラが出来る。

・島A
 二人が出発した港から、約十五キロ。三つの島の中では、もっとも林が大きい。小さい泉もあり、水も得られる。

・島B
 港から約十八キロ。三つの島の中でもっとも大きい。島のほとんどが岩の多い草原で、中央に低いながらも岩山のようなものがある。この島には水は湧いていない。

・島C
 港から約二十キロ。三つの島の中ではもっとも小さい。この島にも水は湧いていないが、釣りのポイントとしては最も優れている。島の三分の二が草原。

 周辺海域に危険な生物はいない。島にも大型の獣も確認されていない。

●今回の参加者

 fa0163 源真 雷羅(18歳・♀・虎)
 fa1101 相馬啓史(18歳・♂・虎)
 fa1423 時雨・奏(20歳・♂・竜)
 fa1737 Chizuru(50歳・♀・亀)
 fa1758 フゥト・ホル(31歳・♀・牛)
 fa1830 冬月透子(20歳・♀・鴉)
 fa2239 寒河江 薫(18歳・♂・鴉)
 fa2249 甲斐 高雅(33歳・♂・亀)

●リプレイ本文

 遭難した芸能人の老夫婦の捜索だと聞いていたのに、何か雰囲気が物々しい?
 冬月透子(fa1830)の感覚は、けして間違ってはいなかった。遭難した老夫婦の孫と、彼らと面識のある源真 雷羅(fa0163)、相馬啓史(fa1101)、甲斐 高雅(fa2249)にフゥト・ホル(fa1758)の会話が、妙な緊迫感に満ちているからだ。その割に、誰も差し迫った危険はないだろうと思っているのが謎。
 ただし、老夫婦のこれまでの所業を聞いて、時雨・奏(fa1423)は近くの市場の場所を確認し始めた。酒はちょっと難しいかもしれないが、バーベキューの材料の買出しに行こうと言うのである。夫婦の経験を聞くに、この程度のことで死んではいないと彼も思ったらしい。
 この中ではもっとも年嵩のChizuru(fa1737)は、シンデレラの心配に共感しているが、その分落ち着かない彼女の様子にも不安を持ったらしい。
「えらい所にきてしまった」
 寒河江 薫(fa2239)の呟きは、この中のほとんどの者の気分を代弁している。
 それでも彼らは、用意を整えてから、捜索に向かうのだった。

 人手がないらしい警察が、それでもすでに捜索してくれた島は四つ、あちらが五つ目を捜索するのに合わせて、彼らは残り三つの島を順次探すことにした。島の名前はよく分からないので、適当にABCとつける。
 ついでに皆で話し合い、捜索順はB、C、Aとした。生水でも真水が手に入るAなら、いきなり生命の危機に陥ることは少なそうだからだ。Cも釣りに絶好のポイントらしいので、食料入手の可能性があるからBが最初。幾ら大量の飲食物の用意があっても、遭難のはず。念には念を入れて、探す必要があるだろう。
 こともあろうに、行方を不明にしている夫婦はカイ君がサーチペンデュラムの目的にしようとしたアクセサリーも時計もホテルに置いて出掛けていたのだ。生物は探知対象でないのか、それとも単に失敗したのか、便利アイテムの探知は反応しなかった。
 故にB島を探している間に、かなっち、カオル、トーコの三名が、空からAとCの様子を窺ってくれることになった。警察や漁業関係者に目撃されてはいけないので、まずは日没直前を狙うことにする。後は夜に火を焚いているのが見えないかを確認だ。
 そして、最初の捜索地B島までの移動手段だが‥‥
「ええと、このキーをここに入れて、ええと」
 カイ君が『日本の彼女に会わずに死ねない』と元気なく主張し、ライラが『やーだーよー』と拒否したシンデレラのボート操縦を、ちょっぴり楽しみにしていた人もいなくはなかったが、これで考えを改めた。ハトホルも言っていたではないか。『目的地に着かない恐れがある』と。
「姫サン、俺がしちゃろか?」
 スタントマンだから操縦できないこともない。そうけーちゃんが申し出て、シンデレラからボートのキーを受け取ったとき、カイ君とライラとハトホルはあからさまにほっとしていた。他の人々も、けっこう安堵していたかもしれない。

 一行は、B島に無事上陸した。
 彼らはトランシーバーを準備していた。これで地上と空どころか、何組かに分かれても捜索が可能だ。シンデレラは一人ですっ飛んでいかないように、誰かしらが側に付き添っていることにした。ボートにいるときからそわそわと落ち着かないので、千鶴さんが気を紛らわせるのに色々と話しかけていたくらいである。
 案の定、到着と同時に飛び出して転び、早速トーコに助け起こされた。かなっちとカオルがあーあと言う顔で見ているが、その二人がふと気付いたのは、人数が一人足りないということ。その点でもっとも危険人物のシンデレラは目の前なのに、けーちゃんがすでにやたらと離れたところを走っていた。
「これ以上、遭難者を増やすなっちゅうんや」
「追いかけなくていいから」
 かなっちが思わず悪態をつくのと、カオルが後に続こうとしたシンデレラを止めたのは同時。更に同時に、けーちゃん目掛けてかなり大きな石が飛んだ。
「やっぱり、当たらないわね。当たっても困るけど」
 ハトホルがころころと笑っているが、背中越しに落下した石を見たけーちゃんはさすがに足を止めた。いや、千鶴さんもカイ君もびっくりして固まっている。だが。
「戦争しに来たわけじゃねーよな」
 サバイバルにも程があると、景気付けに炭酸飲料を開けていたライラがぼやいた。その横では、トーコが見事小石を命中させて、こんなことを言っている。
「まあまあですわ」
 我々は遭難した老夫婦の捜索に来たんです。と誰かが思ったとしても、なんだか猛獣捕獲大作戦のようになってきていた。最初の獲物がけーちゃん。
 その後、トランシーバーの調子がどうの、誰と誰がどこに探しに行くのと騒いでいても何の反応もないあたりで、皆薄々と思っていたのだが‥‥B島には夫婦の姿も、彼らがいた痕跡も見付からなかったのである。
 やがて夕方になって、視認できる海上に他の船がないことを確認してから、飛べる三人が見てきてくれたところによると。
「Aにはそれらしい様子はなかったな」
「Cで火を焚いているのが見えましたわ。でもね‥‥」
 カオルの報告にうなだれたシンデレラが、トーコの言葉に目をきらきらさせた。けれど。
「二箇所あるっちゅうんは、なんでや?」
 かなっちの疑問への返答に、皆はちょっと嫌な気分になったのである。
「まあ。おじいさまとおばあさまったら、喧嘩でもしているのかしら」
 それが遭難している夫婦のすることなのか? そう口にしなかっただけ彼らは明らかに親切だ。

 一度戻って警察にC島での首尾を報告し、先方からも捜索した島に夫婦が見付からなかったと説明を受けた一行は、翌日はC島に出向くつもりだとやんわり主張した。警察にC島に来られて、万が一にも獣化しているところなど目撃されてはたまらない。警察は何の疑いもなく、A島に出向いてくれることとなった。
 さて、翌日はC島に上陸なのである。
 それでもって翌日の朝。やはり操縦はけーちゃんにお任せし、無駄に意気盛んなシンデレラを先頭にC島に上陸した彼らであるが‥‥、間の悪いことに夫婦が別々に火を焚いていたと思われるのは、上陸地点から大分離れたところだった。
「あのさ、シンデレラ。あのお二人は朝は早いのかな? それとももう朝食も終えて、何かしているころ?」
 生活習慣で居場所も違うだろうとカイ君が尋ねたが、これまた役に立たない答えが返ってきた。『キャンプのときは好きなときに起きて、食べて、寝る』のでは、行動の予測が付かない。
「あら、でも確かに木の燃える匂いがしますよ。風の具合からして、あちらの方向かしら」
 人目がないのを確認して獣化した千鶴さんが、早速鼻が利くところを示した。彼女の要望もあって、風下で船をつけられる場所を選んだのだ。この時点で、彼らは『いきなり夫婦の近くに行ったら危険かもしれない』と思っている。
 ちなみに彼らが上陸した海岸は、上がってすぐのところが小高い丘になっていて見通しは悪い。けれどもその丘の上に行けば、林の中以外は見通せるはずだった。少なくとも、トーコとかなっちの見立てはそうだ。
 そんなわけで、身の軽いけーちゃんと、体力に自信のあるライラが先に丘を登っていくと、行く手に人影が現れた。どちらもそれがアレキサンダーだと見知っている。
「あれ、じーさまなんちゃう」
「おっ、じーちゃん、探しに来たぜー!」
 おおいと手を振った二人に、アレクも手を振り返しているが、なにやら様子がおかしい。来るなと叫ばれて、何事かと二人が顔を見合わせたとき、彼らの足元で地面がばっくりと割れた。
「ばーさまの、壮大な悪戯?」
 このときのけーちゃんの呟きは、ハトホルのほぼ同じ意味の発言に重なっていた。カイ君は、思わず拳を握っている。
「怪し、思うたんや」
 かなっちも冷静に言ったが、カオルとトーコと千鶴さんは、シンデレラが飛び出していってしまったので困っている。先行した二人が落ちたのは、多分落とし穴だからうかつに追いかけられないのだ。
「あら嫌だ。シンデレラ嬢ったら、身のこなしが軽いのね」
 ところどころに見えている岩伝いに丘を登っていくシンデレラをハトホルはそう評したが、千鶴さんはそれどころではない。落ちた二人とシンデレラの心配をしていたが、ライラとけーちゃんが自力で穴から這い上がってきたのでようやく安心した。
「事情を説明していただかないと」
 カイ君が地の底から聞こえてくるような声で、四人一緒に降りてきた中のアレクに問いかけると、人間姿のアレクはものすごくすまなそうにまず謝った。
「ボートを盗まれてね、パナシェは自分が泳いで帰ると言い張ったんだ。二月の海で泳ぐのは駄目だと止めたら、喧嘩になったんだよ。彼女は、怒ると顔も見せてくれないからねぇ」
「それと落とし穴に、どんな関連があるんや」
 カイ君に続いたかなっちの冷たい声に、アレクは飄々とこう返した。顔だけ見ているととてもいいことを言われているようだが、内容は全然違う。
「パナシェの足止め。罠の一つも作らないと、彼女は止められないからね。大事な妻を冷たい海に入れるわけにはいかないだろう」
 でも落とし穴に落とすのはいいのか。
 確かにこのあたりの海は四月に泳げないこともないが、それだってかなり冷たいはずだ。二月に遠泳なんてとんでもないという主張は間違っていない。ただしそう納得したのは千鶴さんとシンデレラくらいのもの。
 後の七人は、揃って思っていた。
「結局じーちゃん、楽しんでたんだな」
「シンデレラもいるし、助けに期待していたからね。手を煩わせて悪かったけれど、わたしの身内は?」
 この頃、かなっちとけーちゃんは、バーベキューの準備を始めていた。朝食はしっかり食べたが、ぱーっとやらないと気が済まない。千鶴さんも獣化を解いて、その手伝いをしようか、シンデレラがうろうろしているのを止めようか考えていたが、ライラがシンデレラの手を握ったのでバーベキューの手伝いに向かった。
 ところが、身内がシンデレラしか来ていないと知ったアレクはご機嫌急降下だ。別に彼らには当り散らさないが、見るからに不機嫌。
「本当に遭難していたのに、お身内が来ないのは確かに残念かな」
 カオルが同情的な発言をしたら、アレクは切々と子供達の対応を愚痴り始めた。ちょっと聞いて、カオルが内心『そういう前歴の人達の心配はしない』と思ったような昔話が混じっていたが、あいにくと彼は表情豊かではないのでアレクも察してくれなかったようだ。
 ただ、夫婦がボートを盗まれたのは事実だったらしいことが分かり、一同は『悪戯じゃなくて良かった』と胸を撫で下ろした。これで『実は‥‥』と言われたら、何かが起きていただろう。
 まだ、パナシェを見付けて連れ帰るという難題が残っているのだが、これにはハトホルの一案があった。
「これなら絶対に寄ってきてくれるという一言があるにはあるけれど‥‥皆さんが怒らないかしらね」
 なにかしらと、何故か目を輝かせたトーコがハトホルに耳打ちされて、次にシンデレラにぼそぼそと伝えている。シンデレラが頷いたので、悪戯な笑みを浮かべた女性二人は自信を持ったようだ。
 こういう笑顔の女性は怖い。と、バーベキューの準備に加わっていなかった男性陣は思った。ライラはきょとんとしている。
 次の瞬間、レポーターのハトホルとミュージシャンのトーコ、オペラ歌手の千鶴さんほどではないが声量のある二人が声を合わせて、こう叫んだ。
「パナシェさーん、サバイバルとアレクさんのお仕置きは今度にして、今日は帰りましょー!」
 本気かとか、自分は付き合わないとか、お仕置きされる覚えはないとか、色々様々な声が海岸に飛び交ったが、三回ほど叫んだところでパナシェがやってきたので成功である。多分きっと、そういうことでいいだろう。
「皆さんにご迷惑掛けているんですから、速やかに警察で事情を話してください」
 カイ君に念押しされた夫婦は、まだ喧嘩が続いているようだが、神妙に頷いたのである。
「狂言やなくて、まあええけどな」
 夫婦喧嘩している暇があったら、狼煙の一つも上げてくれればよかったのにと言いつつ、かなっちは焼いた肉を平らげていき、一番年齢の近い千鶴さんがひとくさり夫婦に苦言を呈している。
「まあ、食料があってよかったですけれど」
「そもそもアレクが、シンデレラまで置いていくから」
「二人で過ごしたかったんだよ」
 どうやら、食料は三人分を更に余裕をみて用意していたのかと納得しつつ、けーちゃんとカイ君はビールを飲んでいた。飲まなきゃやっていられんと言うのもある。
 けれども、話は勝手に進んでいたのだ。
「ああ言ったものの、本当はサバイバルを強いる側に回りたいわね。あっはははは」
「豪快に笑ってんじゃねーよ。ばーちゃん、絶対にやる気だぜ。あたいは考えるね」
 確かにハトホルの『サバイバルは次回』発言は、ライラが嫌がるくらいにパナシェのやる気を発生させていた。その様子を見て、トーコが気軽に賛成したことをちょっと後悔中。
「悪戯程度なら、楽しいと思いましたけど」
 どうも、次回は落とし穴程度ではすまないようだ。さて、どうしたものか。
「鍛えられるね、シンデレラ」
 たまたま隣り合ったシンデレラにそう言ったカオルは、そのまま固まってしまった。シンデレラが、ぴえーと泣き出したからだ。

 次回があると、何が起こるのか。ハトホル以外は考える気にもならなかった。
 ご飯だけは、普通に美味しい。