取り戻せ、VTR!中東・アフリカ

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 2.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/19〜02/21

●本文

「やられたーっ、VTRがない!」
 そこは中東の某国。観光立国を目指している国の、新興観光地の近くの撮影会社に空き巣が入った。
 盗まれたのは、観光地の宣伝VTR用に撮影された映像。ごっそり、もれなくやられていた。
「まずい、あれが流出したらうちの会社は潰れる。警察なんか待ってられない、回収するんだ」
 盗まれたのは主に欧州向けに撮影された宣伝映像なので、この国の多数派宗教からは歓迎されないビーチの水着姿女性映像がある。この部分が加工されて、国内の変なルートに流出した日には、新興観光地のイメージダウンだ。背景は、いかにも場所が判るようなところが多かった。
 観光地のイメージがダウンすれば、もちろんそれを招いた原因として撮影会社の管理責任を問われることになり、間違いなく会社は潰れる。依頼人は近隣地域の有力者の集まりなのだから。
 同時に。
「芸能人の肖像権保護を理解していないなんて、言われてたまるかーっ!」
 同業者から総すかんを食らうのは、絶対に嫌。

 そうして撮影会社は必死の捜索で、犯人達の潜伏先である住宅街の一軒家を突き止めたのである。
 後は、VTRを取り返すだけだ!

 でも、どうやって?

●今回の参加者

 fa0163 源真 雷羅(18歳・♀・虎)
 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa1101 相馬啓史(18歳・♂・虎)
 fa1737 Chizuru(50歳・♀・亀)
 fa1758 フゥト・ホル(31歳・♀・牛)
 fa1830 冬月透子(20歳・♀・鴉)
 fa2239 寒河江 薫(18歳・♂・鴉)
 fa2249 甲斐 高雅(33歳・♂・亀)

●リプレイ本文

 ビーチの映像なんて、金になるのだろうか。
 源真 雷羅(fa0163)の素朴な質問に、製作会社の社長はライフル片手に何か叫んだ。が、あまりの興奮状態に、何が言いたいのかよく分からない。
「なるわねぇ。欧州の女性のヌードグラビアくらいの扱いかしら」
 フゥト・ホル(fa1758)が代わりに説明して、ベルシード(fa0190)以外は見事に名前か姿か両方が日系の応援一同を納得させている。ベルもChizuru(fa1737)、冬月透子(fa1830)やライラと同じく、長袖シャツとズボンにスカーフ姿で頷いていたが。
 それは居心地の悪い話題だねと、目顔を交わしているのは寒河江 薫(fa2239)と甲斐 高雅(fa2249)である。カイ君は持ってきた色々な荷物の中の包みを一つ、鞄の底にしまいこんでいた。そういう使い方だと分かれば、出すわけにはいかないブツがあったのである。ライラも目的が問題と、他の映像との交換交渉は諦めたようだ。
 ハトホルも自分が水着になったわけではないが、一緒に仕事をした女性陣が被害に遭うのは捨て置けない。ましてや正規の目的とはまったく違う使用である。幸いカイ君が持ってきた予備映像を使うまでもなく、VTRの納入は済んでいたので、取り戻す際に品物に被害が出ても会社が多大な不利益を被ることはないようだった。
 ただし。
「もちろん取り戻すべきですが、あの方はご一緒できないと思います」
 千鶴さんの言い分はもっともで。いくら依頼人で、会社の責任者でも、ライフルを振り回して社員に制止されている人を連れて行くのは問題だ。ベルがライフルはこの辺で売っているものなのかと尋ねたら、『結婚式の祝砲を撃つのに使うじゃないか』と返された。それにしたって怒りの銃弾は勘弁である。一緒に盗まれた現金や貴重品より、VTRを気に掛けるあたりは見上げたものかもしれなかったが。
 とりあえず、犯人達のアジトの様子を確認するのが第一であろう。

 犯人達の素性は、すでに判明していた。撮影会社がある近隣の建物警備を多数請け負っていた警備会社の社員達だ。窃盗集団が警備会社に入り込んでいたのか、社内で組織立ったのかは不明だが、この近隣の会社や事務所が一時にごっそりと被害にあったのである。警備会社とは、もちろん被害の賠償についてもめている真っ最中。
 こんな事情なので犯人の行方は警察も追っているが、会社ではまだ居場所を通報していない。VTRを取り戻してから通報したい心積もりのようだ。
「ところで居場所は、どうやって調べたの?」
 ベルの問いには、『犯人の知り合いに金を払って聞いた』とさらりと返ってきた。たいていの者はこれを聞いて『買収?』と思ったが、ベルはなぜか目がきらきらしている。
「そんなに他人に見せるのは嫌なんだね。関係者で誰かに迷惑が掛かるのかな」
「ホテルオーナーの娘さんが、今度結婚なんですよ。倫理にもとる画像を流出させた会社と付き合いがあるなんて言われたら、申し訳が立ちません」
 今度は『我々があんな警備会社を利用したばっかりに』と嘆きだした会社の人々も頼りになるとは思えず、カイ君は片手で顔を覆っていたが、その間にちょっとは落ち着きのある社員とトーコが色々調べてきてくれていた。
 件の住宅を知人宅だと思って訪ねてきた外国人とその知人という触れ込みで、どういう人々が住んでいるのかを近隣に聞いて回ったのだ。犯人達は最近この家を借りたようで、トーコは前の住人の知人と思われたらしい。おかげで疑われることもなく聞いてきたところによると。
「住んでいるのは兄弟が二人。自宅で仕事をしていると言っているようで、かなり人の出入りがあるそうです。全員で八人くらいだろうと聞きましたが、いつが一番手薄かはさすがに分かりかねました」
 多めに見積もって十人程度が問題の家に出入りし、誰かしらが必ず家にいるようだと報告してもらって、一同はさてどうやって内部に入り込むかと知恵を出し合った。
 社長と違い、いきなり荒事で片をつける気持ちがなかった一同は、機材を借り受けての偽番組取材を考えた。欧米や東アジアで時々見られるドッキリ番組と旅番組の取材の二案が出て、当地の社員に旅番組のほうが安心だろうと言われる。
 ここは写真撮影に煩いことを言わない国だが、女性の中には他人に映像を撮られるのを嫌がる人がいる。あんまり派手に向かうと、近所からも苦情が入る可能性があるというのだ。それで警察を呼ばれては、あべこべである。
 それなら人が少ない頃合を見計らって、前の住人を訪ねたふりで旅番組の取材と偽ろうかということになり、今度はベルがライラと飛び出していった。正確にはライラはお目付け役というか、護衛。さすがに偵察を主張したベルを一人で送り出すのは、他の皆がためらったのだ。揃って伊達眼鏡をかけた二人は、わざわざハトホルが用意したコートの裾を翻して出掛けていった。
「この国の女性には見えませんわね」
「確かにそうだけど、外国人の若い娘に表立って何かする人もいないでしょうから」
 あまり目立たないといいがと見送った千鶴さんとハトホルは、旅番組の体裁を整えるための相談を始めていた。機材の準備はカイ君とカオルの分担である。
「VTRのことがなければ、別件逮捕を狙うのもありかと思ったけど‥‥家捜しする時間を稼がないといけないのが辛いな」
 辛いという割に淡々としているカオルだが、VTRさえ確保出来れば、理由はこじつけてでも警察を呼べば逮捕してもらえる相手に容赦がない。念のために犯人との会話を録音しておこうと準備しているカイ君が、夜に訪ねて停電を起こされられたらいいのにと言ったときに、閃いたらしい。
 カイ君に頼まれていたライラとベルが、配電盤は家の外には見当たらなかったのを確認してきて、また色々相談である。
「女手がないらしくて、食事時には外食するみたいだぜ」
 ライラがそんなことも言ったので、作戦時間もある程度決まってくる。

 本当はドッキリ番組なら半獣化も出来て便利だったのに。そんなカオルのぼやきが聞こえたのか、会社の人が大きめの車を貸してくれた。翼が出ても、窮屈にはならない程度のものだ。半獣化なら一瞬で戻れるから、何かやってもすぐに車から飛び出せる。
「あんまり近所付き合いがないようですが、大きな物音がしたらご近所が駆けつけられるかもしれませんね」
 昼間だったら普通の家は男手がないので良かったかもしれないと、こちらも車に居残りのトーコが声を潜めて話しかけてくる。二人は共に鴉の獣人なので、半獣化でも翼が現れるのだ。そんなのが玄関に現れたら、普通の人でも間違いなく開けたドアを全力で閉じるだろう。ついでにトーコは先方に顔を見られているので、車に居残りだ。
 結局二人が車に残って様子を伺っている家には、すでにハトホルとカイ君を先頭にした一団が向かっているところだった。ハトホルは盗まれたVTRに顔が映っているはずだが、化粧を変えれば分かるまいと堂々と乗り込んでいる。付き添ったベルと千鶴さんがすでに半獣化しているし、ライラは格闘技の心得があるので危険は少ないはずだが、なにしろ銃器を出されたら対抗出来るとは限らない。
 けれども、前の住人に取材を申し込んでいましたという理由を引っさげて件の家を尋ねた一行は、ハトホルのマシンガントークに呆然としていた。ベル以外は以前にもハトホルと一緒に行動したことがあるが、こんなに口が達者だとは知らなかった。どうやって舌が回っているのかと、いささか呆然としたのだが、いつまでもそうしてはいられない。
 応対に出て来た男は『旅番組の取材です』と切り出されて、自分達は取材を受けた者ではないと切り返す暇も与えられずに延々とハトホルの勢いに押されていたが、さすがに奥にいた誰かが不審に思ったようだ。何事かと顔を出したのに合わせて、ライラの身振りで合図を受けたトーコとカオルが特殊能力を使っていた。電線を切断してのけ、カオルは一旦半獣化を解いて玄関にやってくる。
「はいはい、停電の修理なら出来ますよ」
「まあ大変、あらお加減でも悪いのかしら?」
「‥‥白々しいぜ」
 急に明かりが落ちて驚く二人を、これまた特殊能力大盤振る舞いで無気力に仕立て上げてから、ライラが抱えて玄関から離れたところに座らせた。こそっと、みぞおちに一発食らわせていたりもする。
 ベルは真っ先に奥まで入っていって、あまりの真っ暗さに困惑したようだ。人がいないので狂月幻覚の発揮しどころがなくて、つまらないのかもしれない。それでも、ビデオデッキの表示を見つけて、そちらににじり寄っていくのは見上げた行動力である。
 ゆるゆると動いているベルに比べて、カイ君は真っ暗でも気にせず中に入り込み、ビデオデッキの横に積んであったテープをざっと確認していた。いずれもラベルがないが包装も外されて、軽く二百本はある。勤勉な泥棒というのも、楽しい存在ではない。
「なんで見えるの?」
「そういう能力だから。懐中電灯くらい用意してくればよかったね」
 幸いライラがランタンを持参していたのと、駆けつけたカオルが車に積んであった懐中電灯を持ってきたので、カイ君以外もビデオテープの山を確認することが出来た。ちなみに懐中電灯は、トーコが『暗闇の必需品』と持たせてくれたらしい。気が利くのか、こういうドッキリ系の話が好きなのか判断に悩む人がいたかもしれない。
「ああ、ドッキリ系でよければいずれは放映できたかもしれないのに。あ、報道番組系の映像の心積もりをしていればよかったのね」
 そうしたらスクープで放映できたかもとハトホルが嘆いていたが、本来彼女が一番それどころではないはずである。
「それより、急がないと誰か戻ってくるかもしれませんよ」
 千鶴さんにそう促されて、彼らはせっせとビデオテープを用意されていた箱に詰め、ハトホルが用意していた一本をビデオデッキの中のものと差し替え、他の部屋まで全部漁って、パソコンの類は中身の確認が出来ないので本体を持ち出した。
「これって、見事にやり返してないか」
 カオルがポロリと口にし、ベルがぷるぷると首を横に振り、トーコが仕事ですと言い切った物品強奪は、思いのほか簡単に済むかと思いきや。
「お前ら、なにしてる!」
 ちょうど帰ってきた仲間に見付かって、カイ君が用意していた発煙筒をトーコが投げつける騒ぎになった。それでも実は車内にあったトカレフがベルやハトホルに見付かったのは、車が急発進してから。
「あんなところで撃つ羽目にならなくて良かったですわね」
 千鶴さんがなにを思ってそう言ったのかは、訊かないのが皆のため。
 後は、自分達が安全なところに逃げてから、速やかに警察に行ってもらうだけだ。証拠の物品を、色々持ち出してきてしまったけれど。

 人間相手に特殊能力使いまくりの、滅多にない仕事は、首尾よく済んだとはいえ非常に神経を使った。おかげで戻ってきてから、なにやらがっくりと疲れた一同は、持ってきた『荷物』の検分を撮影会社の人々にお任せして一休みしていたのだが‥‥
「何事でしょう、まさか」
「そのまさかだと思う」
 隣室で上がった奇怪な声に、千鶴さんが腰を浮かせかけた。あまりに冷静なカオルの同意に座りなおしたが、深々とついた溜息は諦めを多分に含んでいた。
 反対にベルは何があったのだろうかと隣室へのドアに向かい、ライラは巻き込まれるのは御免だとばかりに離れている。この二人が一番極端だったが、他の人々もおおむねライラの側に同意しているようだ。と、ベルの目の前でドアが開いた。
「あらまあ、なんて期待を裏切らない人でしょう」
「ホントだね」
「期待してたのかよ」
 トーコがころころと笑って言ったが、同意したのはベルだけ。ライラはなおいっそう部屋の隅に向かっている。彼女が格闘家だと社長も知っているからだ。
 相変わらず興奮して何を言いたいのか分からない奇声を上げつつ、社長がライフルを持ち出していた。現地語に慣れているハトホルがしばらく耳を傾けて、一言。
「画像の加工が気に入らなくて、また殺してやるって叫んでるみたいね」
「どんな加工だか‥‥」
 想像するだけ、また居心地が悪いんじゃないかとカオルは肩をすくめたが、映像処理が本職のカイ君は気になったらしい。暴れる社長とすがる社員達の横をすり抜けて隣室に入っていき、しばらくして暗い顔付きで戻ってきた。皆が見守っている中、ごそごそと部屋の中を漁っていたかと思うとライターを見付け出し、また隣室に戻ろうとする。
 早まるなとライラが止めに入り、カオルが応援に加わり、千鶴さんまで飛び出したので、ベルとトーコも一応カイ君の服の裾や袖を掴んでみる。ハトホルだけは悠然と隣室のモニターを覗きに行って。
「火は危ないものね」
 と言い様に、箱に入ったテープを片端から床に投げ付け始めた。皆を振り切ったカイ君は、床に飛び散ったテープをライターから持ち替えた鋏でちょきちょき切り刻んでいる。
 テープを取り戻してくるより、その始末のほうがよほど労力を使うはめになったが、他の人々もそれに倣ったのである。なにしろ、早期に処分しないと社長とハトホルとカイ君が怖かった。
 数日後。
 幸いにして、彼らは社長が警察に捕まる光景を見ることもなく、依頼された仕事を終えたのだった。