蛇、ヘビ、へび! 壱 アジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
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担当 |
龍河流
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
3.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/09〜03/15
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●本文
それは、着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』団長の笹村恵一郎にとって、悪魔からの申し出だった。
「蛇の芝居をやって欲しいんですよ」
娘達が友人知人とミニブタの調教に精を出しているその日、仕事の依頼にやってきた男性は開口一番そう言った。
固まる恵一郎。
そんな彼の横では、長男の睦月が手早く話を進めている。依頼人の希望は、非常に簡潔だった。
「蛇が主役で、大活躍するアクションものの芝居が観たいんです。場所は専門の劇場とはいきませんが準備しましょう。昨年末にやっていた舞台のこの頭部だけ蛇の役者の方は、こちらの所属なんでしょう?」
何故かしっかりと昨年末のスキー場での舞台『白雪姫と七人の小人』のお妃の写真を持ち出し、依頼人は熱っぽく『蛇が主役』と繰り返す。
彼の正体は、疑う余地なく蛇マニア。どうも自宅で何匹も飼うのみならず、同好の士とHPの出来を競ったり、頻繁にオフ会をしたり、繁殖に努めたりしているらしい。身なりはよろしく、持っている鞄も品良く高そうな代物だが、人の趣味はよく分からない。
けれども、彼の同好の士が『これは出来が良いマスクだ』と写真に収めたお妃を求めて、わざわざ『ぱぱんだん』を訪ねてきたのだから、実行力はたいしたものだ。挙げ句に金払いも良かった。
「あれは特殊メイクですか? それとも企業秘密かな? マスクではあの質感は難しいでしょう。いずれにしても、ああいう蛇がもっとリアルな風で出て来る芝居を作ってください。手付けはこれだけ用意しましたが、足りますか?」
特殊メイクなどは費用がかさむと聞いてますからと、取り出した封筒はかなり分厚かった。どうぞと勧められて睦月が数えたところ、一万円札が五十枚。もう一度数えても五十枚。
「劇場の借り賃は不要です。私の会社の建物ですが、広さはありますからそちらを利用してください。後日確認していただけると安心ですね。五月に数日空になるので、それにスケジュールを合わせていただいて、お客は僕が今から集めておきますよ」
「それはつまり、蛇好きのご友人を?」
睦月の問いに、依頼人は明朗に答えた。
「ええ。あとその家族も。犬や猫ほどではありませんが、蛇を飼う人も案外いるものですよ」
晴れ晴れとした笑顔であった。その表情で、ものすごい金額の報酬も約束してくれた。五十万円の段階で、すでに破格なのだが相場を知らないらしい。知っていても、とにかく『リアルな蛇』にこだわりがあるのかもしれない。
恵一郎は、相変わらず固まっている。
「甥の見ているアイオンも、やられ役が爬虫類なんです。特撮では、良くある話ですが‥‥ドラゴンくらいでしょう、正義の味方になるのは。たまには哺乳類がばたばたやられる話を見てみたいとは思われませんか?」
「それはパンダやウサギや虎が悪役で、最後に退治されるような話ですか?」
「そうです。お分かりいただけましたか」
依頼人と睦月ががっちりと握手している横で、恵一郎は真っ青になってふらふらしていた。
しばらくして、契約書を取り交わして依頼人が意気揚々と帰っていくと。
「親父、もう倒れていいぞ」
「む、むちゅき、お、おま、おまえ、にゃんかふみゃんが」
「ないない。単にいい仕事だから請けただけで。でも親父は留守番でいいから」
よく倒れなかったなと感心されたところで、恵一郎の緊張の糸がぷっつりと切れたらしい。ばたんと音を立ててひっくり返った。
ちょっと騒ぎ。
そうして、その話を聞いた『ぱはんだん』主要メンバーのパンダのカンナ、虎の虎太郎、ウサギの由美と卯月はあごが外れそうなほど驚いた。恵一郎もパンダ獣人だが、奥で布団を被って寝込んでいる。
衣装担当の初美、アクション担当の葉月は、ものすごく嫌そうな顔だ。
「あ、初美も出なくていいから。衣装に凝ったのを頼む」
「あらそう? それなら、あたしはいいけど」
「こら睦月。蛇って言わないの。Sと言いなさい、Sと」
母の文子に怒られた睦月がぺろりと舌を出した。
「こんな仕事請けたら、そういう気遣いは無理だろ。親父が倒れるのと、五月が過ぎるのとどっちが早いと思う?」
「この機会に、直らないかねぇ、親父の蛇嫌い」
恵一郎は、実は蛇が大嫌いだった。見るのも、名前を聞くのも嫌。本物が現れたら猛然と逃げるタイプの人だ。
でも不思議なことに、文子は蛇獣人。長男次男と同居の姪も蛇獣人。プロポーズの台詞は、『文子さんが蛇の姿でも、ぼかぁ、手が握れるよ。文子さんだけは』だったそうだ。その後、睦月と初美と葉月が加わったが、彼らは基本的に滅多なことでは獣化しない。恵一郎が真っ青になって、震えながら手を繋ぐのが可哀想だからだ。恵一郎は、今も律儀に手を繋ぐ。
その滅多にない機会で注目されて、今回の仕事になったわけである。
「とりあえず人を集めて、脚本を作ろうぜ。舞台を作る場所も確認して、大道具小道具も揃えなきゃ‥‥下手な芝居うったら、なに言われるかわからねぇ」
その前に、蛇獣人のあの姿をどう誤魔化すのか考えろよと、誰かが突っ込んだが。
もう、お仕事は請けてしまったのである。
●リプレイ本文
ジーン(fa1137)とポム・ザ・クラウン(fa1401)と蘭童珠子(fa1810)とダミアン・カルマ(fa2544)の四人は、一日ぶりの訪問だった。
「昨日まではブタを調教して、今日からは蛇芝居か。いっそ入団しろよ」
これまで仕事でこの四人と一緒だったことのある蓮城久鷹(fa2037)が、いささか呆れて口にした。ポムと同じプロダクション所属のリュシアン・シュラール(fa3109)と、他所の舞台でポム、ダミアンと一緒だった三田 舞夜(fa1402)も、なんともいえない表情だ。
『ぱぱんだん』の仕事はおろか、舞台製作に一から関わるのも初めてと言う藤田 武(fa3161)だけが、緊張した面持ちで笹村家の居間に正座していたりするが‥‥
「このブタは、どうしたら?」
ミニブタに膝の上を占拠されて、タマとダミアンに救出されている。しかし、しびれた足を叩きに来るパンダのカンナがいて、これはジーンが首根っこを押さえてくれた。
こういうのを見ると、『ぱぱんだん』の仕事は初めてのマイヤーもルカも、なんとなく雰囲気が飲み込めてきた。タケも緊張が取れて、足を崩している。
着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』、ご家族向けの賑やか芝居が基本である。緊張は不要だ。
ところで、今回の特注芝居の要望は『蛇が大活躍のアクション盛り込み芝居』だ。けれども集まった八人には蛇獣人はいない。よって、
「主役は睦月君と葉月君になるの。別に問題ないよね?」
「ない。あとはパンダと虎が一人ずつ、ウサギが二人出せる」
ポムが睦月と一緒に、全員の獣人種別を確認している。舞台に立つかどうかは別にして、ポムが狸、マイヤーとジーンが狼、タケがアライグマ、タマがパンダ、ヒサが鷹、ダミアンがトカゲ、ルカが猫と、『ぱぱんだん』とあわせて実に十種類と多彩な顔ぶれだった。
ただし、マイヤーは音楽の演出が、ヒサは撮影と殺陣が、タケとダミアンは基本的に裏方が本業だ。細かいことを言えば、ポムはクラウン、タマは腹話術師、ジーンはスタントと‥‥
「役者が本業って、俺だけですかっ?」
ルカが悲鳴のような声を上げたように、俳優は彼だけだった。そんな彼とてまだまだ新人、顔が幾らか引きつっていても仕方あるまい。
『うろたえるな、見苦しいぞ!』
「ぱぱんだんの皆さんは経験豊かだから、心配することないわ」
突っ込みなのか、励ましなのか掴みきれないタマの言い分を受けて、ルカも腹を括ることにしたらしい。年齢的なこともあるが、自分より経験者が多いのだからと思い直したのだろうが‥‥彼の横では、手土産のリーフパイをカンナが熱心に数えている。
「カンナ、ちゃんと話を聞け」
「ブーとフーのお手本になるんだったよね。ほら、お菓子は後」
ジーンとダミアンが、ものすごく手馴れた様子で注意しているのを見ると、タケとルカとマイヤーはやはり思う。舞台の上では大丈夫なんだろうな、と。
その辺も考えるかどうかは後のこととして、まずはどんな内容の芝居にするかを決定せねばならない。
この芝居内容は、それほど悩むこともなく大枠が決定した。ヒサが指摘したように、蛇といえば伝承でも悪役が多いが、中国にある善玉の蛇の精の話をベースにした展開だ。中華風だと様々な動物が出しやすいとのジーンの意見が皆にも納得された。西遊記なり封神演義のイメージなら、パンダも狼も何でもござれである。依頼人の要望にも沿いやすい。
蛇の精霊が護る『瑞草園』なる場所を、その昔蛇精の親に封じられたものの復活した妖怪達が姦計を持って占拠する。挙げ句にその街の人々に疫病を撒き散らしたのを、蛇精がばったばったと蹴倒していく話の予定だ。細かいところは、舞台として借りる場所の確認がてら、依頼人に了解を取ってから決めることにした。
それで、さっそく先方と予定をすり合わせ、舞台設営担当のダミアンとタケ、殺陣指導のヒサ、音響担当のマイヤーに睦月が連れ立って出掛けていったのだが‥‥
「倉庫だったよね‥‥広かったなぁ」
タケが魂の抜けたような声で、戻った途端に口にした。劇場代わりの建物は、本物の倉庫でまあ広いこと。横幅二十五メートル、奥行四十メートル、高さは十メートルばかりある。これが空になるとはどういうことかと、行った全員が思ったようだが、ゴールデンウィーク前の出荷と、後の入荷で偶然そういうことになったらしい。
ちなみにルカが期待していたワイヤーアクションをするには、高さがありすぎてちょっと厳しい。ついでに建材の強度も確認していないので、トランポリンを使ったほうが安全だろうというヒサの見立てだった。
「広いのはいいが、音響ははっきり言って悪い。台詞は別録りだったな? スピーカーの位置をよく考えないと」
マイヤーも難しい顔をしているが、ストーリーは依頼人の快諾が取れたので音楽のイメージを練り直す必要がないことは喜んでいる。ただ現場が倉庫で、実際の音の反響具合などを確認できないのが不満のようだ。
ちなみにこの間、居残ったポムやタマ、ジーンとルカが何をしていたかといえば、依頼人のHPを覗き、早々に切り上げて、『ぱぱんだん』前身の『笹村一座』の小道具発掘をカンナと初美、葉月と行っていた。おおむね時代劇調の小道具だが、ものによっては使えるからだ。ついでにそれらの荷物が詰め込んである離れを、男性陣が泊まれるように掃除もしていた。
「あ、ダミアンは舞台に出るなら蛇の部下。これは決定だからな」
ジーンがいきなりそう言ったのには、もちろん理由がある。依頼人のHPは蛇、ヘビ、へびのオンパレードで、リンクも同好の士のところばかりだったが、一部はトカゲも含む爬虫類マニアだったのだ。これでトカゲを倒すと、苦情がきそう。
これについては、依頼人に会って『蛇愛』を語られた五人もHPをちょっと見て納得した。人の好みはそれぞれだが、極めちゃった感じが漂っている。
「当日は、控え室を覗かれたりしないように用心しないとね」
ダミアンが言うとおりに、用心したほうがよさそうだった。ついでにただ広い倉庫のどこかに、控え室を設営しなければならない。ブルーシートを張り巡らした中に、組み立て式の物置を入れるかと睦月は簡単に言って、運ぶ方法を心配したダミアンに大型車両も運転可能な免許証を示してくれた。
ついでに、二輪の限定解除も入っていることを目敏く見付けたジーンが、バイクの話でひとしきり睦月と盛り上がる。
それはさておき、依頼人の了解も取れたので、配役もさくさくと決まる。妖怪役に狼のジーン、猫のルカ、狸のポム、タマとカンナは双子のパンダ妖怪だ。後は虎とウサギが二人、これで足りなければアライグマのタケと狼のマイヤーも出て構わないということになったので、裏方の人数と相談しながらの交代参加も考えられる。
後はポムとタマが、村娘と瑞草園の巫女の役として、蛇の精の兄弟に助けを求めたりすることになった。
「やられ役は多ければ多いほど、喜びそうな奴だったからな」
ヒサの冷静かつ突き放した依頼人評が、全員を納得させる。『蛇が哺乳類をばたばた倒す話』なんてオーダーの時点で、グリム童話や日本の昔話とは縁遠そうな人物である。
「そうしたら、脚本は誰が書くの? 僕も横で見させてもらっていい?」
話の根幹が決まれば、確かに脚本書きだ。しかし、『ぱぱんだん』はそれこそ童話、昔話の類を基にした演劇が多いので、きちんとした脚本の書き手はいなかった。自然とマイヤーに視線が集まったが、彼も本職は音楽系。録音ならともかく、一から書けと言われても困る。
結局、アクション部分は特撮に詳しいはずのヒサに知恵を出してもらい、マイヤーが見学希望のタケを巻き込み、葉月が入って、脚本作りを開始した。最終的には、台詞の細かいところはそれぞれの配役担当が言いやすくしたり、イメージに合わせることになりそうだ。
この時、全員のイメージを合わせるのに瑞草園の下絵を描いたタケの画力が、やたらと自信なさげな態度と裏腹にかなり上手だった。ついでに舞台の設営の相談もはじめ、途中からダミアンも加わってどのくらいの幅と奥行きと床からの高さがあれば問題がないのかとやり始めた。幾ら倉庫が広くとも、簡単に設営出来なければ意味はない。
「あ、どのくらいのお客さんが来るかで、椅子のセットが違ったね」
「そんなにたくさんいるとは思えんがな」
蛇マニアが何百人も押し寄せてくるほど、道内の蛇マニア人口が高いとは誰も思わなかった。とりあえずダミアンの気付いた点は、マイヤーがメモしている。また睦月を通じて、依頼人に確認してもらうことになるだろう。
その頃の残り四人が何をしているかといえば。
「ええと、ここまででいいですか?」
「そうそう。あ、ジーンは腕下げないでね」
初美に採寸をされていた。背の高いジーンは初美では手が届かない部分があり、ルカが代わりになってあちこちにメジャーをあてている。そのルカは先程は初美に頭のてっぺんから足の先まで、細かくサイズを取られたところだ。ポムとタマも、同様。
「ふふふ〜、中華風の巫女さんの衣装なんて素敵よね」
「ポムはさっき出て来た着物みたいなのもいいなぁ。髪飾り、家にあるのを持ってくるね」
タマとポムはすっかり一から衣装を作ってもらうつもりで注文をつけているが、実際は可能な限りはあるものに手を加える方針らしい。なにしろ『ぱぱんだん』も八人も雇ったのだから、その分経費は切り詰めたいのだ。後々、ダミアンやタケが小道具をそれらしく変身させることになるだろう。今あるのは、おおむね時代劇の日本刀、薙刀などである。
「あと、かつらが必要でしょうか。この髪は中華風ではないので」
ルカが銀色の自分の髪を指して言ったのに、外見の色彩が似ているジーンもはたと手を打ったが、女性陣は案外とつれなかった。
「髪だけ真っ黒にしても、顔立ちに合わないわよ。妖怪なんだし、化粧で誤魔化せば?」
「京劇みたいに、濃い目のメイクだね。どんな感じか、試しにちょっと塗ってみる?」
「他の人も連れてきて、全員メイクしてるところ、写真に撮って比べてみたらいいわよね」
言葉だけ聞けば、とても熱心にメイクの研究でもしそうな感じだが、声の調子が裏切っている。ジーンとルカが念を入れてお断りしたのだが、こういうときの女性陣は男の希望など聞かないと相場は決まっている。
そんな彼らを救ったのは、脚本作成班の呼び出しだった。それぞれが可能なアクションなどを掴んでおいて、登場場面に反映させるのだとか。
もちろん、ルカとジーンは素直にそちらに向かっていた。タマとポムが遅かったのは、まあ色々と片付けていたからに違いない。
ただ。
「蛇と言うからには、やっぱり巻かれたりしないと駄目か? あの身体を誤魔化すのは相当難しいと思うが」
とのジーンの指摘に、ヒサが前髪を掻き揚げつつ嘆息し。
「ちょっと、村人が少ないからそちらに回るかな」
「上手に出来るかなぁ」
「それなら、カンナちゃん達のおじいさんおばあさんにお願いしたらどうかな」
マイヤーとタケが考え込んでいるのに、ポムが提案したのを聞いたカンナと睦月と初美と葉月が揃ってぴたりと動きを止めた。
「巻けと言われれば巻けるけどさ‥‥」
「ものすごい特殊装置の振りでもするか?」
「じぃじとばぁば、よびゅれちゅきゃあ?」
「話がまとまらなくなるから後よ」
散々皆の不安を煽るような言葉を並べた末に、四人で『祖父母はまだ呼ばない』と即決したのに、雇われた側の八人はそれぞれの態度で不審に思うところを表明した。蛇獣人の身体特徴は全員心得ているが、祖父母は呼ばないって即決する理由は一体なんなのか。
切実に人手が欲しい、それも出来れば妖怪役以外や裏方が出来る人材は、たくさん欲しいところなのである。団長は、ポムとタマが思わず微笑んでしまった理由で、副団長は副業のコンビニ経営で手腕を振るっている都合で出てこれないのだから、ぜひとも祖父母の皆さんに出てきて欲しいものである。
ダミアンとタマとポムとジーンは、この祖父母四人が全員元気なところを最近目撃している。
「使っちゃいけない理由でもあるのか?」
ヒサが代表して尋ねたところ、返答は別のところから返ってきた。
「理由も問題もない! わしは、主役を張れるな」
「ええい、一度は倒されるのが善玉の宿命じゃっ」
蛇とパンダのじい様二人の後ろでは、手にコップを握ったばあ様二人が、ニコニコと『虎です』『狐なのよ』と微笑んでいた。
「あ、あのどうしましょう」
「どうにかしてくれ」
「お元気すぎない?」
うろたえるタケと、説得を放棄したマイヤーと、正直な感想を述べたダミアンの視線を受けた睦月が、白々しく明後日の方向を向いた。
「え、俺はこれの予定なんですけど、譲れってちょっと」
「巫女さんはあたしがやります〜」
「ポムは村の人の役をやって欲しいなって思っただけで」
「歳を考えてくれ」
そして、衣装案の図を持っていたルカはじい様に取り囲まれて、タマと一緒に役を奪われそうになり、ポムはいい役が欲しいとごねられ、ジーンは冷静に率直な指摘をした。
「じぃじ、ばぁば、あたちといっちょにむりゃのしと、ちまちょ?」
カンナが説得に当たってくれることになったようだが、効果のほどはちょっと怪しい。
ただ、このじい様達は手先が器用で、大道具小道具作りの貴重な戦力になることが判明した。ばあ様達は笛や三味線をよくするらしい。
その辺を踏まえて、ご機嫌取りつつ、次の段階の舞台設営と音響、台詞別録りの準備を進めていかねばなるまい。