獣人ドクターズED録音アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 4.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/20〜03/22

●本文

『音楽を愛する獣人達の住む世界で、謎のウィルスによる伝染病『フッキョーワヲーン』が発生。ワクチンの開発は成功したが、感染者達はなぜか禁断の扉を通って異世界人間界に逃亡してしまった。
 獣人には変身能力があり、人間の姿になることが出来る。そのために人間界で騒ぎになることはないが、時間がたつにつれて感染者は恐怖の『騒音魔』になってしまうのだ。
 この事態を重く見た獣人界衛生局防疫課では、選りすぐりの局員達に人間界への出向を命じ、『フッキョーワヲーン』感染者の保護とワクチンの投与を命じた。
 愛する家族や恋人と離れて、勝手のわからぬ人間界への単身赴任。または上司に疎んじられて、左遷同様に送り込まれた人間界。感染してしまった友人を追い求めて自ら志願した出向‥‥
 人間界で出逢った素晴らしい音楽、クラシックを心の支えに獣人ドクターズは今日も大都市の狭間を駆け抜けるのだった』
 今度、そんな特撮番組が始まるらしい。

 特撮番組を相当簡単に考えているスポンサーのクラシックレコード会社と、潰れかけの番組制作会社『るうぷ』では、この番組のエンディングテーマ録音を考えていた。先日OPの録音は済ませたので、彼らなりに順当な流れである。
 OPは『ワルキューレの騎行』はじめ、純然たるクラシック音楽を五曲ばかり収録した。総勢八名の演奏者は相当苦労したようだが、『るうぷ』の担当皆川紗枝にはその苦しみはあまり分からない。そのくらいクラシック音楽に縁遠い担当者を使用している時点で、番組としてどうかと疑われるかもしれないのだが‥‥スポンサーは今のところ進行に満足しているようだ。

 そうして、EDではOPと違う条件で演奏者と歌手が募集されることになった。
「この場合の歌手は、ポップスやロックではなくて、オペラなんかの声楽家ですよね?」
「もちろんです。今回の歌はオリジナル限定ですが」
 OPが既存のクラシック曲の演奏者を募集したのに対して、EDは広くオリジナルの楽曲を募集することになった。ただしスポンサーの意向により、エレキ楽器は不使用との条件付きだ。ギターでもウクレレでもバイオリンでも、電気使用は不許可。
 この条件を満たしていれば、作曲家が曲を持ち込もうが、演奏者本人が作った曲を演奏しようが、歌手が自分で作詞した歌を歌おうが構わない。楽器演奏の手が足りなければ、スポンサーが準備してくれる。作曲家が楽譜だけ持ち込んで、指揮を担当してもいいわけだ。
「つまりはオーディションですよね」
「そういうことです。採用されれば番組で使用して、CDの一枚は出ますね」
 この場合のCDは、番組のOP・ED曲集の中に収録される形での一枚だが、運が良ければそのまま名前が売れるかもしれない。少なくとも、採用されればテレビで曲が流れる。テロップに名前も出るだろう。
 そんなわけで、ED用のオリジナル曲の募集である。

『特撮番組用ED曲の募集。
 電源不使用の楽器で演奏されるオリジナル曲、または同楽器が伴奏であるオリジナル歌唱曲の募集です。歌唱曲の場合は無伴奏でも構いません。
 応募者はオリジナル曲の楽譜、あれば演奏・歌唱を収めたカセットテープ・CD等を添付の上で、以下の住所の履歴書と共に送付してください。楽譜・使用楽器一覧は必須です。
 この公募で採用された曲等は、番組のEDとして使用されます』

●今回の参加者

 fa0681 Carno(20歳・♂・鴉)
 fa0701 赤川・雷音(20歳・♂・獅子)
 fa1137 ジーン(24歳・♂・狼)
 fa1514 嶺雅(20歳・♂・蝙蝠)
 fa2239 寒河江 薫(18歳・♂・鴉)
 fa2853 紗雪(13歳・♀・兎)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)
 fa2925 陽守 由良(24歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

 個性的な顔ぶれで。
 他人のことを言えた義理ではない陽守 由良(fa2925)が口にした通り、確かに第一次審査に通ったのは個性的な面々だった。誰と一緒に来たと尋ねられた紗雪(fa2853)が、この中では他には寒河江 薫(fa2239)のみのOP曲録音参加者である。
 その他に、日頃はユラと一緒のグループで演奏している文月 舵(fa2899)が嶺雅(fa1514)と組んでいたり、オーディションにユニット参加のCarno(fa0681)と赤川・雷音(fa0701)が一緒の仕事は久し振りだと言い交わしていたりするのだが。
 ジーン(fa1137)がスポンサー側の皆川紗枝に挨拶した際に、『スタントマンだから、撮影じゃないの?』と確認されていたのが、多分一番変わっている。
 いずれにせよ、ここにいる六組八名が一次審査を通るだけの歌か曲を持ってきたことに変わりはない。

●『支え』
 今回、選抜段階の応募用紙を見て『この人の性別はどっちだ』と確認された者が何人もいたが、レイもその中の一人だった。更に別のことでも話題になっていたが、それは当人の耳には入っていない。
 今回の相棒である舵は、愛嬌が零れる様な顔写真と口を開いたときのギャップがあったらしく、集まっている一同におやという顔をされた。京言葉を珍しがられるのはよくあることなので、舵も気にはしなかったが。
 ただ、何に使うのかと思うほどに写真を撮られたり、演奏前に審査員と膝をつき合わせて話をさせられたのには、二人とも途惑わないでもなかったが。曲や歌について訊かれることは予想していても、まるでお茶でも飲むようにテーブルを囲むことになるとは思っていなかった。結局、応募した曲について話をさせられるのだが。
「テーマが一時休戦と支え、特に夜のイメージではありませんよね」
「そうどすな。どんな御仁かて頑張り続けるのはしんどいどすやろ? 一休みして、それからまた頑張りはる気持ちが伝わったら、嬉しおすなぁ」
 歌詞にも『また明日には 上手くいかなくても歩いていく』と最後近くに入っているのだから、休息とその後というテーマは籠められている。そうした話はおおむね舵に振られていて、彼女もそつなく答えたが、レイには審査責任者から一言があった。
「今日はどちらの発声です? この曲だと、かなりクラシックよりを意識しましたよね?」
「クラシック音楽が好きな獣人のドクター達の話だから、違和感のないように昔取った杵柄のほうで」
 さすがに大船に乗った気分でとまでは言えないが、レイも声楽は相当叩き込まれた経験がある。今の歌い方との切り替えも、練習で散々な思いをしたので取り戻せているはずだ。
 幸いなことに、二人とも録音まで行うオーディションだからと怖気づくようなことはない。

 前だけを向いていようと何度誓ったのだろう
 気付いたら自分の影を見ている

 ただ一音を糧に歌いだしたレイの声に、しばらくして舵が寄り添うようにピアノの音を添える。入れ替わるように伴奏だけの時間が入って、徐々にテンポが上がり‥‥
 やがて、長く伸びた声と音がほぼ同時に消えると、録音スタッフのOKのサインの後に他のスタッフから拍手が起きた。もちろんこれが合格を示すものではないが、レイも舵も歌と演奏には満足している。
 ちょっと不思議だったのは、この段になって楽譜を渡され、歌の練習をするようにと控え室とは別室を示されたことだった。これが続くほぼ全員に共通するとは、まだ彼らは知らない。

●彼方から
「やだよ」
 スタントマンだと皆の前で言われてしまい、少々どころではなく居心地が悪い思いをしていたジーンは、自分の順番が二番手でかなり嬉しかった。一時期は歌手を目指したとはいえ、現在はまったく畑違いの仕事の自分がこの場にいることに、違和感を感じないではないのだ。
 けれども、結果如何に関わらず名前は出さないで欲しいとの要望を聞いたスポンサー代表は、にこやかに一言で切り捨ててくれた。紗枝がぎょっとしているところを見ると、口調がいつもと違うらしい。
「一時審査に通ったからには、現在歌手かどうかは関係ない。匿名で出たいというなら考えるが、あまり悲しいことを言わないように。選んだ我々の耳を疑われてしまう」
「あぁ‥‥申し訳ない」
「そうそう。君は苦しくて歌わずにいられないタイプではなさそうだよ?」
 けれども、歌は故郷を遠く離れて異郷に暮らし、帰りたくとも帰れない作中の人々を想った内容である。

 未だ硬く閉ざされた 彼の国へと続く扉は
 何時になったら開くのだろう
 故郷は 遠く 儚く

 歌い終えて、『るうぷ』の面々が感心して聞き入ってくれていたのを目にして、ジーンはかなり嬉しかった。

●Silent night 〜Nocturneより
 OP曲の録音にも参加したカオルは、居合わせたスタッフのほぼ全員と顔を合わせたことがあった。その分気は楽だが、演奏そのものに対する点が辛いのも知っている。
「ショパンの編曲でしょう? この間も言っていたけれど、本当に好きなんだねぇ」
「ピアノ曲でも、バイオリンの音の方が似合う曲も多いので」
 バイオリニストの断言に、先方はにこにこと笑って頷いていた。カオルの言い分を認めたのかどうかは、ちょっと分かり難い。
「君も、夜のイメージだったね」
「エンディングだし‥‥空を飛んだり、壁を駆け上がったりするドクターも夜は何か想って眠るでしょう。そういう雰囲気や、自然の音がふさわしいかと思って」
 説明しつつ、他にも夜を想う曲や歌がいたのかと思いながら、カオルはバイオリンを取り出した。もしかすると、全員分を集めたらテーマの似た曲が揃うのかもしれない。何曲採用されるのか分からないが、ふるい落とされるものがあるのなら残念だ。
 録音スタッフの合図で始まった曲は、最初紗枝や撮影スタッフが驚きを素直に表したほどの強さがあった。楽譜を覗いているのは、タイトルを確認しているらしい。
 そんな様子も、すぐに易しく穏やかな、どこかで聞いた旋律に取って代わって、ミキサー室でのばたばたは静まった。本当に静かになった。
「好きこそものの、だねぇ」
 演奏が終わって、審査責任者と録音スタッフはやはり微笑っていた。

●Beasts night Oratorio
 演奏補助にピアノの演奏者を頼んだ『Sagenite』のカルとライオンは、ぱっと見て母親程度の年齢の女性との音合わせに忙しかった。ライオンの演奏にカルが声を合わせるのは身に染み付いた感もあるが、まったく初対面の人が入るのだから念入りに練習する必要がある。それでも、相手も相当の腕でライオンなど武者震いしていたのだが。
「聖歌のイメージか。同じ夜でも、かなり明るい曲だね」
 歌詞は二人で、作曲はカル、編曲がライオンとまさに合作のこの歌を、カルは『希望のある』と言った。希望が感じられて、明るく聴いた人の心に響く曲にしようと作った、と。ライオンが『励みになるように』と捕捉している。
「君はバイオリンが専門ではないようだけれど、弾くのは楽しい?」
 曲についての説明をしていて、何気なく開いた掌を眺めた相手の指摘に、ライオンはにっと笑った。今でこそギターを中心に弾くが、彼はもともとバイオリニストの教育を受けている。だが、口にしたのはちょっと違うことだ。
「こいつと一緒に演るのが、とにかく楽しい」
「すみません、口のきき方がなってなくて」
 ものすごく冷静にカルが口を挟んだもので、ピアノ演奏の女性が吹き出した。ついでに、今の会話の間に床に零れ掛けたライオンの髪を掬い上げてくれる。気を付けないと、それこそカルが立ち上がったときに踏みつけかねない。もしかすると、この二人の間では日常かもしれないが。
 では証明をと促された二人は、それぞれの立ち位置に着いた。

 思い乱すノイズ打消し
 君に届け 星屑のシンフォニー
 心に生命の旋律を
 Beasts night
 今 夢を奏でよう

 伴奏なしで始まった歌が、すっと滑り込んだバイオリン奏でるメロディーとゆったり絡んで、間奏に入るとバイオリン・ソロが曲調を強いものに変えていく。その後ピアノがリズムを刻むように加わって、また緩やかなメロディーに戻った音と歌声とが、高くのびて消える。
 終わって、二人揃ってピアノ演奏者に頭を下げたのを、皆が柔和な表情で眺めている。

●Docter’s Eyes
 ユラがグランドピアノでの演奏を願ったからか、録音スタジオはグランドピアノ据付の部屋が選ばれていた。
「やっぱ、金があるとこは違うじゃないすか」
 彼にしては褒めたつもりなのだが、紗枝が身振りで『違う』とやっているところを見ると、失敗したらしい。悪気はないが、言葉遣いを直すのは苦手だった。
「そんなにピアノが気になるなら、先に演奏してもらおうか」
 あまり心中が察せられない口調で審査責任者が促すので、ユラは早々にピアノの前に着いた。ステージでしゃべるのは得意なほうだと自負しているが、偉い人の前でかしこまった言葉遣いはちょっと面倒だ。それに、今日は話し方を審査されに来たのではない。
 BGMとして挿入されて、そのままEDまでもっていけるようにゆったりと、でも物悲しい雰囲気から、徐々に前を見据えた勢いのある、はじけるような曲へと変化させる。勢いは落とさない。駆け抜けるようなテンポのまま、最後の一音も一際強く弾けるように。
「次回予告向きかもしれないねぇ」
「その辺も意識したんで」
 今度はちょっと注意して答えると、なにやら妙に納得された。なんだろうと思わないでもないが、対で応募した『録音した曲に重ねての演奏』を許可されたので、意識をそちらに向ける。こういう時、普段使っているシンセサイザーは便利だと思う。
「もう一回、主旋律を弾いてもらえるかな? こちらのピアニストを入れて」
 一体自分は何を試されているのだろうかと、少々不安にならないでもないユラだった。

●Night
 『OPぶりです』とのんびり、独特の挨拶をしたゆきに審査責任者は朗らかに笑った。今回のゆきは作詞作曲担当なので、演奏者も歌手もスポンサーが準備している。ギターとピアノ、ドラムと奏者はいるが、歌手が見当たらない。声に力のある歌手と頼んであるのだが、なにやら準備に時間が掛かるらしい。
「OPの、クラシックに‥‥迫力負けしないように‥‥‥ここの、ドラムは‥‥うんと強めに‥‥です」
 考え考えか、それともぽやんとしているだけか、演奏の指示も妙にゆったりしているが、曲はバラード調から激しいものも含んだ変調のあるものだ。コーラスについての指示も、楽譜に細かく書いてあった。
「もうちょっと掛かるから、面白いもの聞かせてあげようか」
 見た目が中学生の少女であるから、周囲も対応が柔らかいが、何曲か聞かされたゆきは首をかしげた。歌が入っているものは、いずれも聞いたことがある声だ。それも、つい先程まで。
「みなさん‥‥いい曲‥‥と声‥‥です」
「それはよかった」
 何が良かったのかと彼女が思っていると、ぞろぞろとやってきたのは他の応募者と見たことがない顔が何人か。信じられないという表情の者もいる。
「どうぞ‥‥よろしく」
 ぺこりと頭を下げられては、誰も文句など言わなかったが。

 今日を越えて 明日を越えて あの日の僕さえも越えて
 見果てないこの世界へ 駆け抜ける
 新しい夜求めて

 ピアノが一台では寂しい、ギターのほうが得意、本職は歌とは違うと言い出した者が複数いて、この曲は二回録音された。
 二度目の録音で、ゆきもOPに迫力負けしない手ごたえを得た。


 そうして。

 紗枝が書式の違う二種類の書類を何枚か取り出して、一方をsageniteのカルとライオン、ゆき、舵とレイに差し出した。もう一方がカオル、ユラ、ジーンの三人にだ。前者には『エンディング曲採用通知』、後者には『挿入歌曲採用通知』となっている。全曲採用となったらしい。
 しかし、ED曲が三曲とはどういうことかとライオンやレイが疑問を口にし、尋ね方があるでしょうとカルや舵にたしなめられている。ゆきとカオルは事情がわかっていたが、どちらも説明は得意ではなかった。挿入歌採用のユラは、どこで使われるか分からないのは探すのが大変だと言い、ジーンはまた戸惑ったらしい。
 けれども審査責任者は、平然としたものだった。
「OPが五曲あるのだから、三曲くらいないとつまらないでしょう。ストーリー展開で変わるEDなんて、話題になりそうだし」
 挿入歌は次回予告や登場人物のイメージソングなどに使う予定だそうだ。
「使えるものなら、全部使う?」
 誰かが思わず口にしたが、それはさらりと無視されて終わった。
「番組が売れたら、CDも大々的に売り出そうね」
 確かに、そうなって欲しいものである。