後輩育成〜無人島決戦中東・アフリカ

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 不明
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/15〜04/21

●本文

 パナシェの決心は揺るがなかった。
「そこまで言うなら仕方がない。好きにしなさい」
 最後の防波堤の夫アレキサンダーも折れた。とはいえ、彼が防波堤足りえることはせいぜい三回に一回、よほど危険な場合のみだ。四十年を超える結婚生活で、パナシェの破天荒にはよくよく耐性が出来ているものと思われる。
 何はともあれ、先日合流した孫のシンデレラはパナシェの思い付きに口を挟むことなど考えもせず、仕事先で手に入れたバーボンを舐めている。さっきまでは地元のビールを飲んでいた。
 そうして、パナシェが含み笑う。
「久し振りに、カクテル同好会の会合をしましょう」

 カクテル同好会。
 これが単なる酒飲みの集まりであれば平和だが、実態は同時期に遺跡探索を中心に活動していた獣人達の相互扶助組織である。WEAのような大々的なものではなく、あくまで友人知人の集まりだ。隠れ蓑とするような組織名もなく、誰がつけたかカクテル同好会。
 または『アライグマ仮面捜索隊』とも呼ばれるが、面と向かって彼らにそう言った場合、身の安全は保障されない。ナイトウォーカー戦で鍛えた技の数々を披露されることになるからだ。
 そんなカクテル同好会の面々には、悪癖が一つ。
『後進を鍛えたい』
 これは、意訳して『若者をいびりたい』と読む。自分達が若いときに訓練と称していびられたので、今は他人にそれをやってみたくてうずうずしている迷惑な人々だった。
 そんなカクテル同好会の中心人物のパナシェに、少し前に『サバイバルは次回』と言ってしまった者がいる。しばらくパナシェもばたばたしていてうっかりしていたが、そう言われたからにはやらねばなるまい。
 幸いにして、仲間達は万障繰り合わせて参加してくれるという。


 紅白模擬戦のルールは以下の通り。
・無人島(周囲十八キロ、ほとんど絶壁、地上部は大半が林だがところどころに風穴あり)を二つに割って、紅白それぞれのチームの陣地とする。
・五日間で自陣地内に相手チームの行動を阻害するための罠などを設置、宝物を隠す。この間に相手陣地への偵察は自由だが、発見した側は以下のルールに乗っ取った報復攻撃を行ってもよい。
・あらゆる銃器・飛び道具の使用は禁止。ナイフなどの刃物は、直接人に向けない。ロープは使用しても良いが、首を絞めるのは禁止。獣人能力はすべて使用可能。トラップ類も掛かると死亡するものは厳禁。
・六日目の夜明けから日没までを模擬戦期間とし、その間に全員が行動不能にさせられた、または宝物を奪われたチームの負け。
・宝物は各チームが任意のものを用意して、それを初日に交換する。ただし縦横の一辺が最低二十センチ、高さが二センチ以上ある壊れにくいもの。
・宝物は自陣地内のどこに隠しても良いが、風穴を利用する場合には入口から二メートル地点までの場所にすること。
・七日目に休養を兼ねて親睦会をするので、参加者は必ずそれ用の飲食物を用意してくること。六日目までの飲食物はカクテル同好会で用意する。


 この条件を見てアレクは、妻に尋ねた。
「私も参加しないと駄目かね?」
「一角獣が来なくて、こんな真似が出来るものですか。審判しなさい」
 カクテル同好会側の参加者十二名、治療要員の一角獣獣人一名の十三名が、皆さんのお越しを待っている。

●今回の参加者

 fa0163 源真 雷羅(18歳・♀・虎)
 fa0167 ベアトリーチェ(26歳・♀・獅子)
 fa1758 フゥト・ホル(31歳・♀・牛)
 fa1830 冬月透子(20歳・♀・鴉)
 fa2555 レーヴェ(20歳・♂・獅子)
 fa2582 名無しの演技者(19歳・♂・蝙蝠)
 fa2670 群青・青磁(40歳・♂・狼)
 fa3157 ジェイリー・ニューマン(32歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

 無人島で戦闘訓練、ゲーム、宝探し。カクテル同好会のお誘いの受止め方は幾つかあったが、若者いびりだと気付いたのは宝物交換の時だ。挑戦者側は名無しの演技者(fa2582)のUSSRトカレフを出したのだが。
「全長百九六ミリ、四ミリ足りない」
 細かいことを言うカクテル同好会に、初対面のネームレス、レーヴェ(fa2555)、ジェイリー・ニューマン(fa3157)はそれぞれの感情表出具合に応じて面白くなさ気だった。
 ただし、この面々と何回も会っている源真 雷羅(fa0163)とフゥト・ホル(fa1758)はじめ、ベアトリーチェ(fa0167)も冬月透子(fa1830)も群青・青磁(fa2670)は同じことを思った。
「楽しんでるだろ、ばあちゃん達。ベテラン相手だからって、こっちも負けねェぜ」
「まさか本当にやるなんて‥‥そんなにお暇にも見えませんが」
「時間はやりくりするものよ」
 ライラとトーコにパナシェが返してから、勝手に挑戦者側と呼ばれている彼らの宝物はトカレフでよいことになった。対して、カクテル同好会の『宝物』は。
「力任せはきかねぇぜ?」
 群青が苦笑混じりにハトホルに囁いた理由は、宝物が一メートル四方の鉄の箱、辺は全部溶接済みだったからだ。相手が隠しにくく、自分達が発見しやすいものが良い。ハトホルは宝物の条件をそう考えていたが、カクテル同好会にやってのけられたわけだ。
「なかなか凝ったサバイバルゲームだ」
 レーヴェの感嘆に、べリチェとジェイルはそれぞれの思惑で頭を振ったが‥‥どちらにしても、『やれやれ』と思っているのは間違いないだろう。
 宝物を交換して、陣地の取り決めをし、同じ地図と発煙筒が全員に配布された。煙がピンクのタイプで、重傷者が出た時の合図用だ。この煙を見たら、アレキサンダーが駆けつけるのである。

 そうして、二手に分かれたカクテル同好会と挑戦者達はそれぞれに活動を開始したのだが、気合の差がいきなり開いた。
 迷彩色の上下で、完全獣化もしての木上からの偵察を敢行しているのはべリチェだった。合間に木々の間に色々と仕込んでいるが、おおむね器用に枝伝いに移動しては敵陣を覗いている。かなり高い木を選んでいるので、よほど木々が密集しているところ以外は大雑把ながらも様子が伺えるのだが‥‥何回相手の様子を伺っても、カクテル同好会の面々はあちこちでキャンプとしか思えない行動を取っているだけだった。
 べリチェが『まったく』と双眼鏡を目から離した上空では、ネームレスが飛行しながらの偵察を行っていた。が、こちらも張り合いがないことこの上もない。罠は破壊し、偵察に出てくれば捕まえて捕虜と考えていたのに、見えるのはキャンプ光景。
 いっそ誰か一人捕まえてと考えたが、カクテル同好会は最低三人で行動している。上空からと地上からの偵察を組み合わせて、怪しい動きの見張りを続けることにした。
 その間に、トーコはせっせと鳴子を仕掛けていた。この後は網も用意してある。トリモチだって、準備済みだった。穴掘りは他に任せている。
 しかし、と彼女が思うのは宝物の大きさだ。あの鉄の箱は百キロ近くあるらしい。先達との知恵比べ、第一段階では不利になってしまったので、この後は負けていられない。
 やはり、ぎゃふんと言わせたいではないか。
 そういう気分を共有はしているかもしれないが、行動的にはまったく別行動なのがジェイルだった。もともと団体行動は得意ではないし、一人のほうが偵察はしやすい。
 そう思って初日から偵察にいそしんでいるのだが、敵陣地内に入り込んでもまったく誰とも遭遇しなかった。罠を仕掛けている気配もない。
「焦らされているような気もするな」
 余りの反応のなさにジェイルは思わず呟いたが‥‥残念ながらそれを聞く仲間は近くにいない。
 そうして、レーヴェとハトホルは大変に困っていた。宝物の鉄の箱は、潅木の茂みに偽装してあるが、容易に動かせないのは体験済みだ。
「そうよ、このくらいはやる人達なのに」
 レーヴェはそうだったのかと思いつつ、ハトホルの苛立ちには口を挟まなかった。彼もしてやられた気分はある。おかげで二人で鬱憤晴らしに掘った落とし穴は、一動作では上がれないほどに深くまで掘れた。ハトホルは掘る手伝いをしただけだが、レーヴェは一応目的があったようだ。
「あの箱だが‥‥」
 ライラが『宝の隠し場所は聞かない』と言っていたので、レーヴェは声を潜めてあることを告げた。問題は二人だけで実行可能かどうかだが、ハトホルは断言した。
「あの人達はくれる情報も、宝物が完璧とは限らないのよ。宝物が壊れないだけましね」
 だから意地でも二人でやらねばと気合を入れているハトホルに、レーヴェが言わなければ良かったと後悔したかどうかは定かではない。
 ただ、日に一回は相手陣地に入り込んでいたレーヴェが一度も迎撃されず、他の者の結果も合わせて、大抵の者が気になっていた。
 が、全然気にしていないのも二人いる。
「だからさ、とっとと終わらせるためにも協力してくれよ」
「一人増えたのは予定外だが、こんなサバイバルゲームもどきよりは本物のお宝が出ないか探したほうがましだろう?」
 ライラと群青は、アレクがテントを張っている場所で、シンデレラを見付けて説得に入っていた。彼女は、皆が上陸した入り江で釣り糸を垂れている。
 現在は、三人で適当な枝を切り、糸と釣り針を分け合って、仲良く並んでいた。そうして、ああでもないこうでもないと作戦会議中。
「いいか、シンデレラ。これはばあさん達にも内緒だからな」
「なんか間違ってるような気もすっけど、早く終われば宴会出来るしな」
「それは楽しみですわ」
 この三人は、当初の目的を相当忘れている。

 色々あったが、五日目の夜。翌日は夜が明けると同時に、模擬戦開始である。天気は良さそうだ。
 この時間帯、なにやら島内は妙に不穏だった。
 例えばカクテル同好会のキャンプ地あたりでは、今までになく大きな物音がする。
 かと思えば挑戦者側も、ハトホルとレーヴェがなにやら始め、群青も眠れないとか言ってうろうろしていた。ジェイルはもともと皆の近くでは休まない。
 それでもべリチェとネームレスは明朝のために眠っていて、見張りを他の人々に任せていた。トーコも慣れない力仕事で、大体毎晩ぐっすり寝ている。ライラは疲れていなくても、良く寝た。
 その気配を探りつつ、またレーヴェとハトホルもごそごそと動いていて、用が済んだのは真夜中過ぎだ。
 やがて、夜明けが来る。

 夜明けと共に、入り江近くでアレクが放った模擬戦開始合図の花火の音がした。同時に動いたのは極少数だ。
「シンデレラがいねーな。罠の位置、教えてもらう約束だったのに」
「何してたのよ、あなた」
「ゲームとはいえ、懐柔はありなのか?」
 まだ人の気配が感じられないカクテル同好会との境界線近くで、ライラとハトホルに同行していたレーヴェが口を開いた。仮にも模擬戦なので、自分は囮で目立つ代わりに、他の者に宝物を探してもらおうと考えていたのだが、『まず潜伏、様子見』を選ばなかった二人は気配を殺すつもりがない。
 挙げ句に、色々方法も教えてもらったけど、どうせ罠を見付ける能力そのものがないから、正面突破の出たとこ勝負と言う。
 その意見には反対せず、彼ら三人は適当な位置まで潅木の枝を折る音も高らかに進んでいった。
 けれども、カクテル同好会はそちらには気が向かなかったようで。
 相手の夜明けと同時の強襲も警戒して、また空からの偵察を試みていたネームレスは、小一時間ほど仲間以外を見付けることが出来なかった。その仲間も囮役の三名のみ。
「喰えないお年寄りだ」
 今までは偵察も罠の設置らしい行動もなかったカクテル同好会だが、こうまで見事に潜伏されるとすでに自陣に入り込まれていてもおかしくはない。それでも、囮があれだけ派手に動けば何か動きがあるはずだと自陣に降りようとしていたネームレスは、彼では不可能な速さで飛び出してきた一団を目にした。と同時に、接近戦である。
「鷹が二人とは、恐れ入った」
 相手の早さには対抗できないが、ネームレスは端から相手の精気を吸い取る気でいたから、相手の首にかけた手を離さなかった。一撃で落ちてくれるように、念入りに精気を吸い取らせてもらう。
「これは相討ちかな?」
 それじゃあ人数で劣るこちらが困ると、突き落とされたネームレスは地上でも相手としばらく肉弾戦を繰り広げていた。
 これに飛び出してしまったのがトーコだ。鴉の彼女は、仲間を見捨てて結果を取るほど戦闘慣れはしていない。咄嗟に虚闇撃弾を撃ち込んで、それは狙いたがわず鷹のもう一人に当たったが、相手は向かってこない。それどころか竜二人と蝙蝠が加わって、一直線に向かう場所がある。
「体力自慢な方々ですこと」
 低空を飛ぶことで、向かう位置を仲間に伝えつつ、トーコも追う。
 境界線沿いに潜んでいて、これから敵陣に乗り込もうかとしていたべリチェも、上空の争いに当然気付いた。相手の目指す場所が自分のいるあたりだと知って、手にしていたトランシーバーを使う。同時に十五メートルくらい離れた場所で、電子音が上がった。本当は携帯電話のほうが使い勝手がいいのだが、無人島では送受信が出来ないのでトランシーバーだ。
 と、上空をトーコをいなしつつ飛び回っていた四人の誰かが、叫んだ。
「電波障害―っ、だからぁぼろいのは嫌ってぇ言ったのにぃー!」
 他人には聞かせられない罵倒語を思わず小声で並べつつ、べリチェは勿論トランシーバーを使う。ついでに気配を殺して移動して、なんとか一撃を加えられる場所を探し始めた。
 飛び道具厳禁とはいえ、投石はそれには含まれまい。と言う訳で手ごろな石を集めておいたジェイルも、流石に先程の叫びを聞いたら攻撃に移った。彼がいたのは敵陣の端、木の上だが、枝は適度に空いている。獣人能力での一撃を喰らうにしても、効果が幾らか軽減されるだろうが、彼の投石は気持ちいいほど良く飛ぶ。もちろん完全獣化の邪魔もする。仲間が巻き込まれても、この際相手の動きが鈍るほうが優先で勘弁してもらおう。
 トーコとべリチェとジェイル、それにネームレスが飛行系獣人達と勝負していた頃、ハトホル、ライラ、レーヴェの三人は六人を相手に奮戦していた。というより、まずは破壊活動。電波受信用のアンテナと通信機を念入りに壊している。
「どうりで宝物が交換な訳ね。まったくもう、勉強になるわ」
 それは違うとレーヴェもライラも思ったが、口にしている暇はない。鉈で近くの枝を切り落とした先達六名は、即席槍部隊を結成していた。刃物ではないから、とがった先を向けてもいいと言う解釈らしい。だが牛、虎、獅子は、力押しでは全然負けてはいなかったのである。
 三時間ほど経って。
「重傷者が出たら、即連絡。何回も言ったね?」
 怪我人の山を前に、アレクが暗く怒っていた。鉄の箱に発信機を仕込んだカクテル同好会は、目立って近付く気になれないだろう落とし穴の中に宝物を発見したが、その頃には体力が残っていなかった。挑戦者側も、相手を全部捕虜にするには至らない。
 カクテル同好会陣地でも、状況はほぼ同じ。体力派の若人にしてやられた面々のうち二人が、痛がる演技でライラを捕まえて、捕虜になった仲間四人との交換を持ちかけていたところで審判ストップ。
 ところで。
「二人足りないな」
 皆の意見をジェイルが代弁した時、高らかに笑う声がした。
「でかい箱はどうにもならなかったが、もう一つの宝は我々狼と兎のチームが手に入れているぞ!」
 カクテル同好会もこんなこととは思っていまいとばかりに、群青がいつもの狼覆面姿で現れた。シンデレラが後ろにいる。トカレフを持っているのは、シンデレラだ。
 と、呆気に取られたり、呆れたりしている一同を横目に、ハトホルがシンデレラに手を差し出した。重いでしょうなんて言われて、シンデレラが荷物を渡すと。
「これで、宝物は取り戻しましたわよねぇ、先輩方?」
 にこっと笑った。挑戦者一同、それはいいと身を乗り出したのだが。
「でもそれ、中身は別のところよ。軽いでしょ?」
 分解できるような宝は、もちろん小分けにしてあるのとパナシェが微笑んだ。
「いい加減にしなさい。孫に盗聴器を仕掛けるのは感心しないよ。発信機はいいけれど」
 よくないよと思った若人は多かったが、こういう時に他人に渡れされた物を調べないのは迂闊だと、超不機嫌なアレクは取り合わない。治療はしてくれるが。
 攻撃方法より先に、敵を理解しなさいねと言われて、素直に頷いたのはハトホルくらいだ。仲間も選ばなきゃと、パナシェがシンデレラを見て言っているが、盗聴器やら発信機やら仕掛ける人には自業自得であろう。
 誰も、同情はしなかった。

 半日ばかり休んでから、気分を切り替えて宴会になったが。
 カクテル同好会の用意した食べ物はなかなか豪勢でよろしかった。けれども、皆が用意した日本酒、梅酒、泡盛に各種洋酒の類をシンデレラが全種類飲み干して、体力を消耗した何人かの食欲を減退させている。
 それでも暴れた後だから、皆それなりに食べたし、飲んだ。飲まずにはやっていられないというのもあったが、美味いものはやっぱり美味いからだ。
 でも、今度何かで戦う時、調査する時は、対象の観察をすることを忘れないようにしようと、全員が思っていた。遺跡は発信機を送り込まないが、場合によってはより手強い敵がいることもある。
 そういう体験をしている者もすでにいて、次の『戦場』を思い描いていた。