後輩育成〜地下遺跡探し中東・アフリカ

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 フリー
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/27〜05/01

●本文

 欧州出身の獣人を中心に、でもワールドワイドな人種と国籍の集まりであるカクテル同好会という団体がある。遺跡探索を主な活動としていた獣人達、ただし現在は五十代から六十代のおじ様おば様の集まりだ。
 団体といっても公的なものではなく、WEA関連組織でもない。単に仲間内の寄り合い所帯だが、彼らには二つの共通点があった。
 一つ目。後進教育と称して、若者を弄るのが大好きだ。様々な方法で弄り倒し、いびり倒してもいる。この教育は遺跡探索のみならず、時には芸能活動のこともあった。
 二つ目。カクテル同好会に所属する人々は、また幾つかの集団に分化して、世界各地の自然や歴史保護活動、各種の慈善活動に取り組んでいた。これは本人達が若いころから始めて、現在まで続いている息の長い活動だ。
 そうして。

 七日間ばかり、楽しい後進いびり生活を繰り広げてきたカクテル同好会有志の面々は、エジプトのカイロにいた。せっかく人が集まったので、メンバーの一人であるキールが保護活動の一環を担い、また何をどうやったのか五十年契約で借り受けた遺跡、城塞都市の見物をしようと思い立ったのだ。
 ついでに、今後の全体活動の相談もしておかなくてはならない。活動内容は違えど、宣伝や寄付集めなどの多種多様な事柄は、個別でやるより集団のほうが効果的なことが多いからだ。色々と融通しあうものもあることだし。
 今回、メンバーを接待する立場のキールは、かなりのご満悦である。
「この間の上演の評判がなかなかでね、次の公演の問い合わせが来ているんだ。先日の観客からの寄付も予想額を上回ったし、幸先がいいよ」
 キールは五十代、カクテル同好会の中では若い方だが、その分劇作家兼演出家としての活動はノリにのっている。おそらくはカクテル同好会の中で、現在最も有名な人物だろう。
 だが、しかし。
 そんな彼の考えることを、カクテル同好会の人々はお見通しだった。
「もったいぶらないでぇ、早く言いなさいよぉ。ここってばぁ、地下に遺跡があるって評判の街じゃないのぉ。イシスの杖ぇ」
「‥‥どうして、知ってるんだい?」
「そりゃあ、おまえ、一部で有名だから」
 お姐様方にやり込められてがっくりしているキールが使用権と調査権を所有する遺跡は、過去に二回、カクテル同好会の面々が挑んだことのある場所だった。だがなにしろ、これまでは遺跡扱いもされてこなかった場所のため、発掘許可は取れなかった。テレビ局などの取材目的では短期の逗留しか出来ず、カクテル同好会以外の獣人達も地下の遺跡を発見するには至っていない。
 おかげで地下遺跡そのものが風聞で、実在しないのではないかとも言われているが、カクテル同好会の面々はあると信じていた。
「なんだ、驚かせようと思ったのに。もう行ったことがあるのか」
「残念ですわね、キールおじさま。でももうおじさまが発掘できるんですもの。すぐに見付かりますわよ」
 カクテル同好会見習い扱いの若手、シンデレラがうきうきとした口調でキールを慰めたが、事態はそう簡単ではない。
 この城塞都市は、城砦の一部が破損しているために街の中に大量の砂が入り込んでいる。これを何とかしないことには、地下に何かがあるのではないかと探すこともままならないのだ。要するに、まずは掃除が必要なのである。
「いいんじゃない? 若い人にやってもらいましょう」
「こんな地味な作業をやってくれる人がいるものかね」
 シンデレラの祖母にして、カクテル同好会要のパナシェが言うのに、祖父のアレキサンダーが混ぜ返す。もっと目先の結果が欲しいかもしれないよと口にするのは、前日までの出来事が記憶に新しい精かもしれない。が、パナシェは気にしない。
「ウェンリーのリバーススフィアだって、事前調査に何年かかったと思っているの。今だって継続調査中でしょう。遺跡とはそういうものよ」
 それが分かる若人こそ、我々の後進と呼ぶにふさわしいとかなんとか。
 別に若人の側からしたら呼ばれたくないかもしれないことを言いつつ、パナシェはシンデレラに大きなトランクを差し出した。
「行っておいでなさい。あなたは長時間の単純労働も潜伏も定点観察も案外得意だけれど、体力がないから鍛えるのにちょうどいいわ」
「はぁい、おばあさま」
「どうして私の孫なのに、こんなに体力がないのかしら。不思議だわ」
「それはね、パナシェ。シンデレラは兎獣人だからだよ」
 まったくその通りだとカクテル同好会有志一同が頷いたのだが、パナシェだけは納得しなかった。
 なんにしても、遺跡都市の砂掃除と地下遺跡探しを同時展開してくれる人々を募集である。

・遺跡城塞都市データ
 五キロ四方の城砦で囲まれた都市。過去にオアシスがあったが現在は地下水脈の移動で住民が移住してしまい、廃墟となっている。建築年代の古さと、過去の生活習慣などの研究が可能なことから、近年遺跡として保護する活動が始まった。
 この都市はローマに本拠を置くアフリカの遺跡・文化保護団体が、保全活動を行うことを条件に五十年契約で全域を借り受けている。内部の調査、発掘権なども所有するが、この場合は適宜担当部局への届出が必要。最も近い担当部局は車で一時間の街にある。
 都市の六割が膝丈以上の砂に埋もれているため、保全活動の最初の活動としてこの除去が必要。城砦の修復は、専門の事業者が近日中に工事を開始する予定。
 なお、一部の獣人間ではこの都市の地下には古い遺跡、二千年以上前の獣人達が遺したなんらかの祭祀場があると噂されているが、現在まで発見には至っていない。別の説では祭祀場ではなく、戦場跡でオーパーツが眠っているともされる。
 都市の地上部中央に集会所と思しき大きな舞台があり、他の類似の城塞都市とは異なっている。また獣人一族が複数住んでいたことが確認されており、彼らの間にも『地下に宝がある』と伝えられていることが『地下遺跡実在』を信じる人々の拠り所になっているが、元住人の子孫もそれ以上のことは知らない。

●今回の参加者

 fa0163 源真 雷羅(18歳・♀・虎)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa1758 フゥト・ホル(31歳・♀・牛)
 fa1773 海斗(14歳・♂・小鳥)
 fa2670 群青・青磁(40歳・♂・狼)
 fa2671 ミゲール・イグレシアス(23歳・♂・熊)
 fa3136 穂積 彩子(25歳・♀・鷹)
 fa3325 マーシャ・イェリーツァ(23歳・♀・兎)

●リプレイ本文

 城塞都市に辿り着いて、砂漠の中に佇む遺跡なんて素敵とマーシャ・イェリーツァ(fa3325)が感嘆し、海斗(fa1773)やシンデレラが同意していたら、ミゲール・イグレシアス(fa2671)が出て来た現地スタッフにこう叫んだ。
「まいどーっ! ミゲール言いまんがな。ミカエルでええでー」
 その言葉は何処のものとも思えないほどに不思議なイントネーションだった。まあ、英語を話す時にはフゥト・ホル(fa1758)はエジプト、源真 雷羅(fa0163)と群青・青磁(fa2670)、穂積 彩子(fa3136)、カイは日本、竜華(fa1294)は中国訛りかなと互いに思っているのだが‥‥ミカエルは相当変わっていた。これでも当人は北米の生まれだと言っている。
 そうして現地スタッフ達は、邪気のない笑顔でミカエルに『コメディアン?』と尋ねている。思わずライラが吹き出してしまったが、彼と彼女は格闘家だ。今回の主たる戦力になる予定である。
 互いに自己紹介を済ませると、マーシャとミカエル、名前に竜が入っているのに実は白虎だという白炎が首を傾げたが、現場の指揮権が当然のようにハトホルに移っていた。現地スタッフは大体が十代後半なのでハトホルよりは年下だ。だが年齢で言うなら群青のほうが更に上なのだが、誰もがハトホルの言うことを聞いている。
「ハトホルって、遺跡関係に強いのか?」
 砂防と日差し除けを兼ねた男性用の上着を着た白炎が、ちょっと大きいので袖を捲り上げながら彩に尋ねた。ここに来るまでの会話で、彼女とハトホルとライラ、カイ、シンデレラが以前にこの都市で上演された劇に参加していたと聞いていたからだ。ところが。
「そうではなくて、単純に性格的なものだと思いますよ」
「女神様の化身ですものねー」
 彩は多分、『ハトホルにはリーダーシップがある』とでも言ったつもりだったろう。けれどもシンデレラが口を挟んだら、『性格が女神様』に白炎の頭の中では転換されたらしい。挙げ句にミカエルもこれを聞いていた。
 もう一人、やっぱり聞いていた群青は、間違っちゃいないと正すつもりもなく。
 そんな中で、城塞都市の『お掃除』は始まったのだった。

 現地スタッフリーダーの青年は二十二歳。笑顔を絶やさず、はきはきとしゃべり、仕事の手際も采配もよい上に何ヶ国語も流暢に操る優秀な若者だ。
 そんな優秀な彼だが、一つ欠点があった。
「ここから南西側一本目の通り、北東側二本目の通りは車両通行が可能です。北東側一本目、南西側二本目、三本目は石畳が抜けているので脱輪します」
 彼は、地図が読めなかった。ゆえに地図上で車両使用禁止の道を指し示すことが出来ず、マーシャとカイが言われたとおりに地図に印をつけている。
「地図が読めなくて、移動は大丈夫なのかしら」
 マーシャが心配そうに口にしたが、それは問題ないらしい。どう移動しているのか謎。
 しかしこの程度の謎はハトホルの意欲の妨げにはならず、休憩と称して酒盛りを始めた群青とシンデレラとミカエルを叱り飛ばし、全員に仕事を割り振る活躍中。
 その間に、カイと彩、ライラが前回の経験を活かして、街の中の水に関する施設にも印を入れている。オアシスだった場所柄、中央の舞台やその近くの旧神殿、近年は役所だった建物同様に重要性は高いと判断したからだ。ついでにシンデレラが借りてきた遺跡調査の書類とも照らし合わせたが、他所も同様なのか、水汲み場の類はかなり多い。噴水らしき池から、あちこちに水路が通っていたようだ。
 水に関するあたりに、地下遺跡への道があるのではと考えたのはカイと白炎だ。重要施設にはハトホル、彩が注目していたが、さすがにこれまでにこの城塞都市に挑んだ獣人達も調べ回り、その結果は惨敗の記録になっている。
 こうした中で、マーシャは皆のやることを熱心に観察し、自分がどう役に立つか考えているようだったが、ライラとミカエル、群青の基本姿勢は『とりあえず砂を全部片付ける』だった。
 結局のところは、まず『お掃除』なのである。

 ショベルカーは、車が入れる通りで一番砂の浸食が激しいあたりに投入された。運転席にいるのは、何故か彩である。借りたはいいが、誰も使い方を知らなかったので、一番飲み込みが良さそうだった彼女が押し付けられたのだ。実際に動き出すまで、少し時間が掛かるだろう。
 その間、結局人海戦術になった砂の片付けは、基本姿勢『とりあえず』の面々が大活躍だった。あちこち分散して片づけを進める方法もあったが、この場所は全員で取り掛かったほうがよいとハトホルが人海戦術を選択したからだ。広い分だけ砂の量も多く、小型トラックが入れられるから、それぞれが体力に見合った方法で砂の袋詰めをすればよい。
 そんなわけで、時々石畳を壊しているんじゃないかと疑われるような勢いで群青はスコップで砂を掘り返し、ミカエルは現地スタッフの女の子達とのコメディアンのように軽妙な会話を取り混ぜつつ、同様に働いている。ライラもスコップでざくざくと砂を袋詰めしていたが、たまに足元を蹴りつけるようにするのは下に何か隠されていないかと確かめているのだろう。この都市は屋外は全部石畳で舗装されているが、たまに道路標識のような役割らしい色違いの石が出てくるのだ。
 他にも建物の壁にエジプト神話の神様のレリーフがあったり、神像か何かが飾ってあったらしき台座が残っている。台座が出てくると、群青とミカエルが二人掛かりで動かないかと試しているが、今のところは怪しいものは見付からなかった。
 そうして、完全獣化しても非力に分類される兎のマーシャとシンデレラ、小鳥のカイは、現地スタッフのご同類と共に大きなスコップやショベルカーの入れない道端の砂を集めていた。隅っこの砂など集めるのは大変だが、キールの手配で準備されていた掃除機の逆バージョンの機械があるので、カイが背負って大活躍中だ。
 この機械は、太いホースから強風を出す。それを上手く使うと、砂は風で巻き上げられて、一方向にまとまっていく。誰も機械の名前を知らなかったが、園芸業者が芝生の刈り込みをした後片付けに使っているのを見たキールが借りてきたことをありがたく思っていた。出来れば、一台だけでなくもっと準備して欲しかったのだが。
 ともかくも、カイが頑張って機械を背負って働き、その前後でシンデレラとマーシャが箒を使って砂を集める。これを現地スタッフが袋詰めして口を閉じると、白炎がトラックまで運んでくれた。白炎は体力増強のためだと砂袋がいっぱいになってから運ぶのだが、同じものをマーシャとシンデレラが持とうとしたら二人掛かりでも持ち上がらない。
 でも、全体の様子を見回りつつ、砂袋を運んでいたハトホルは片手でそれを運んでしまったので、カイとマーシャとシンデレラとご同類の羨望の視線を一身に浴びている。白炎も感心していたくらいだから、まあたいしたものだ。なにしろマーシャ達は半獣化、ハトホルは人間姿である。白炎も感心して、ついでにどう鍛えたら筋肉が目立たずに体力増進が図れるかを尋ねてもいた。
 途中、ミカエルが『鍛えるなら任せて』とばかりにやってきたり、ライラも同じ虎獣人なので役に立つかも近付いてきたが、格闘家とは違う筋力を求めている白炎に的確な助言を与えるのはなかなか難しかったようだ。
 ただ、このときに皆が耳を疑ったのが。
「ライラさんって憧れるよね、その引き締まったスタイルに、鍛えられた筋肉に、僕を惨殺したときの鋭い身のこなし‥‥女の子の夢のお姫様抱っこが出来るようになりたい僕には、追いつきたい理想だよ」
 うっとりとカイが口にした言葉だった。前半は前半で何事かと思わせておいて、後半は誰もが押し黙ってしまう。『アイドルだから、ぜひとも女の子の夢は叶えたい』って、聞いた現役女の子達も語る言葉が見付からないようだ。
 この一種の緊張状態を突き崩したのか、やはりハトホルだった。彼女の視界に、あるものが入ってしまったのである。
「そこの二人! 仕事中に酒盛りは止めなさいとなど言えば分かるの!」
「酒じゃないから、ワインだから」
「活力の源ですのよ〜、水分ですもの」
 隙あらば、持ち込んだあらゆるアルコール類で酒盛りをしている群青とシンデレラが屁理屈をこねたが、ハトホルに撃破された。アルコール以外の水分を取れといわれて、発泡水を取り出すあたり、二人ともあんまり懲りていないが。
 そうして、他の人々も一休みして水分を取ったり、ちょっと甘いものを摘まんだりしている。格闘家もアイドルも、タレントもレポーターも舞姫も、もちろん水分摂取は大事。
 更に、慣れない機械に冷や汗をかいた彩も、使い方を飲み込んで本格的な作業に入る前に喉を潤していた。
 そんなこんなで、途中からあちこちに分散したものの作業は続き、その気があれば生活できなくはない程度にまで、砂は片付けられたのである。城砦の本格修繕がこれからなので、そこの部分は張り巡らしたビニールシートの隙間から多少の砂は入るのだが、今までの状態からは別の場所のようになった。
 相変わらず、遺跡に繋がるものは全然見付かっていなかったけれど。

 一日かけて、舞台や水路の中心の池とその周辺を調査した一行だが、遺跡に繋がるものは見付けられなかった。
「あの方々が見付けられなかった遺跡、ぜひとも見付けたいというのにっ」
「前からごっつー気になっとったんけど、、あの方っちゅうんは誰や?」
 ミカエルの疑問は、マーシャや白炎、彩も気になっていたことである。前後の脈絡からキールやシンデレラの祖父母達のことだとは分かるが、あのハトホルの拘りは理解不能。それが相当理解できるライラと、ちょっとは分かるカイは奇妙な表情になったが、群青は一日中狼覆面着用なので何を考えているかつかめない。が、最初に答えたのは群青だった。
「まあ、遺跡のことじゃ先輩だが、性格がよじれて曲がったじいさんばあさんの群れだな」
「孫に盗聴器しかけるあたり、あたいには理解できねぇ」
 でもやりそうとカイが頷いたもので、どういう人物像が聞いた人々の頭に浮かんだかは想像に難くないが、当の孫のシンデレラは地図に×印をつけながら平然としていた。
「あれは私の負けですわ。おばあさまったら、私がきっとライラさんや群青のおじさまとお話しするに違いないって思ったそうですのよ」
 次は負けないと力説するシンデレラに、何かずれていると思った人も何人か。
 と、『あの方達』への対抗心がめらめらと燃えている最中のハトホルが、他にありそうな重要施設をあれこれ並べていて、ふと気付いた。
「この街、角が東西南北と四十五度違わないかしら?」
 エジプト神話の神に関係しそうな星から道具から全部並べていたハトホルは、そのことに気付いたらしい。
 有名なピラミッドなら、角は東西南北を正確に示しているのだが、測ってみたら確かにきっちり四十五度違う。もちろん中央は舞台で、そこから東西南北に線を引くと城砦のど真ん中に行き当たる。
「この線上に何かないのか?」
 自分も貰っている地図を眺めて、色々と探した白炎がすぐに前言を撤回した。ものの見事に、その線上からは重要施設がずれている。全体に、重要施設も水場も適当に点在しているとしか思えない配置だった。
「上から見てきましょうか。海斗君も一緒なら、何か気付くかもしれないし」
 彩が提案して、近くの道路の遠方までスタッフが出向き、誰も通らないことを確認の上で、カイと二人が手早く上空を旋回した。これで二人が気付いたのが。
「城砦の真ん中には水汲み場があるのに、角にはないから調べてなかったと思うけど」
 今までそういうつもりで見ていなかったからだが、角は案外と厚みがあると言う。真ん中が少しすぼまっていて、四方が厚いだけだが、確かにあまり調べてはいない場所だった。
「そこの壁、ちょっと削ったら何かわからねぇかな」
 と群青が言い出して、遺跡なので傷を付けるのは本来ご法度だがシンデレラが電動ドリルを抱えてきた。もちろん充電済み。
 それを使うかどうかは別にして、四方に分かれて様子の確認をした一同は、同じレリーフがあるのを発見した。大分傷んでいて、これまで注目を引かなかったのだ。でもスタッフリーダーが写真からレリーフの絵を描きだすと、足の長い鳥が現れた。背後にあるのが水を使った何かもある。これが分かったのは、やはりハトホルだ。
「これが水時計だと思うから、鳥はおそらく黒トキね。水時計なんて一つもないのに、レリーフがあるのは不自然だわ」
 もうこの際、それらしいところは全部調べればいいんだとばかりに、群青が壁に穴を開けようとしたが、流石に止められた。仕方がないので、ライラやミカエルがレリーフの端を棒で叩いて、マーシャとシンデレラが耳を澄ませることになる。兎獣人が二人、壁にぺったりと耳をつけている姿はなんとなくおかしいが。
「空洞があるかどうかは分からないけれど、音は全然違うわよ。ね?」
 シンデレラも他の壁と聴き比べて、頷いた。試しに近くの建物の壁で試すと、同じような音がするそうなので、何かしらある可能性は高いだろう。
 ただ、この翌日には修繕工事の人間が来るので、目立つ真似をすることは出来なかった。それに、本当に地下への入口があったとしても、そこに入るならそれ相応の準備が必要だ。
「今のところは、我々のほうが一歩先んじているわけね」
 ハトホルの喜びに誰も水は注さず、一同はすっかり居心地がよくなった都市の舞台で、祝杯をあげた。