猫の手も借りたい!ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/10〜06/14
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●本文
イタリアはローマの片隅に、アルヴィーゼという青年が住んでいます。年の頃は二十代半ば、見た目も性格もそれほど目立たたない、のほほんとした青年です。
けれども、彼には秘密がありました。アルヴィーゼは、猫獣人だったのです。
猫獣人のアルヴィーゼは、猫が好きです。なにしろお話が出来るのですから、嫌いになれるはずがありません。構ってあげたいときに『うるさい』って言われても、でも好き。
この間までお付き合いしていた恋人は、『猫と暮らしていればいいでしょ!』と去ってしまいましたが、でも猫は大好きです。恋人がいなくなってしまった愚痴を聞かされる猫はどう思っているのか、お返事もしてくれませんが。
そんな猫好きのアルヴィーゼに、大問題が起きたのでした。
アルヴィーゼが住んでいるアパートの近くには、随分と古い空き家がありました。かなり大きな家なのですが、住んでいた人が亡くなって、遺産相続でもめていたので空き家になっていたようです。
この空き家、実は猫の楽園になっているのでした。
最初はネズミがたくさん出たので、近所の人に頼まれたアルヴィーゼが近くの野良猫をこの家の庭までつれてきたことから始まります。もちろん『ネズミとってね』『おまえにはやらん』という、フレンドリーな会話をしながら、お願いして来てもらったのです。すぐにネズミは少なくなって、近所の皆さんも一安心。
ところが今度は猫達が集まって、この空き家を集会所にしてしまいました。猫の集会。春先にはとてもともて賑やかですが、やさしい近所の人達はネズミが来なくていいよと笑って許してくれています。
それなのに、今度の持ち主はこの家を全面リフォームするのだそうです。工事の業者さんが来る間、猫達には危険だから近寄らないように言わなくてはいけません。
ああ、それなのに!
勝手気ままな猫達は、心配しているアルヴィーゼのことも知らずに、自分の縄張りで呑気に暮らしているのでした。一匹ずつ探して、集会所の危機を知らせて、近付かないように説得しなくてはいけません。
猫達は、空き家を中心に半径三キロの地域に子猫も含めて十六匹も住んでいたりするのです。工事は半月後には始まってしまいます。
一日も早く、全部の猫を見付けて、事情を説明して、工事が終わるまでは近付かないように言わなくては‥‥
ああ、猫の手も借りたい! 出来れば猫獣人がいい!
でも、手伝ってくれるなら、誰でもいいから助けて!
そう、アルヴィーゼは思っているのでした。叫んでいるかもしれません。
●リプレイ本文
●始まり
この日、アルヴィーゼはとっても喜んでいました。だって、困っている彼のために、たくさんの人が集まってくれたからです。
しかも、その半分が猫獣人!
これでもう安心だと、アルヴィーゼは思ったのですが、事はそれほど簡単ではありませんでした。
集まってくれた猫獣人さん達は、セシル・ファーレ(fa3728)さんと葵・サンロード(fa3017)さんと藤野リラ(fa0073)さんとリュシアン・シュラール(fa3109)さんです。葵さんとリュシアンさんことルカさんが男の人で、セシルさんとリラさんは女の人。
それから狼獣人の藤野羽月(fa0079)さんと群青・青磁(fa2670)さんに、虎獣人の源真 雷羅(fa0163)さんもお手伝いです。ハヅキさんはリラさんと結婚している人で、ライラさんは飛行機を乗り間違えてヨーロッパに来てしまった女の人。群青さんは、この中では多分一番年上の男の人ですが‥‥
「おっさん、ここはローマの街中だぜ?」
「だからどうした。俺は世界中どこでもこの格好だ」
別のお仕事でご一緒したことがあるライラさんが、群青さんの被っている狼頭の覆面を『目立つよ』と言ったのに、群青さんは聞いちゃいません。マイペースです。あまりにもマイペース過ぎます。セシルさんがまじまじと見ていますが、全然気にしません。
これから皆で手分けをして、野良猫達を探さなければいけないのですが‥‥これってどうなのでしょう。
「とりあえず、猫がよく見られる場所に何人ずつかで出向いてみましょう。猫は別々がいいですね」
猫獣人なんて言って、誰かに聞かれたらいけないので、ルカさんはちょっと言葉をはしょりました。どうせみんなも分かるから大丈夫。
それで、それぞれに行きたいところをあげてみたら、まあ偶然。猫獣人さん達はちゃんと別々の場所に一人ずつ入るのでした。これで、野良猫達とのお話が出来ないなんてことはありません。
あとは、アルヴィーゼに野良猫達の特徴と名前を聞いて、メモを人数分作って、猫を見付けたら携帯電話で他の人にも連絡です。こうしておけば、きっと手早く物事が進むに違いありません。
行き先は、空き家でお昼寝する猫待ちのルカさんとライラさん。公園担当がセシルさん、裏路地が葵さんとリラさんとハヅキさん。もちろん、他のところで人手が足りなかったら、『柔軟な対応』というのをします。
後は。
「確かに猫は猫道を通っていますけど‥‥」
群青さんに捕まったアルヴィーゼは、二人であちこち巡り歩きです。皆で手を振ってお見送りしましょう。
●空き家の庭
本当は勝手に入ってはいけないのかもしれませんが、空き家の庭はなかなか素敵なところでした。芝生がはげて、土がむき出しですか日当たりは最高。日陰が恋しくなったら、テラスに行けば大丈夫です。もう工事の道具が運び込まれていて、無用心にも門が開けっ放しだったので、ライラさんとルカさんは庭で日向ぼっこをしていました。
「しっかし、猫好きもあそこまでいくと恋人探しも大変だよな。おんなじ趣味じゃねえと、ふられても仕方がないじゃん」
「猫獣人以外は、よほどの女性でないと猫との会話に入れなくて苛々するでしょうしね」
ルカさんが持ってきたバスケットの中には、ベーグルサンドに紅茶の入った魔法瓶、なんと蓋つきマグカップ、カップ入り手作りティラミスまで入っていました。ほとんどピクニックです。二人とも、それを摘まんでお話して、のんびりと猫を待っています。
もちろん猫達のためにも魚の干物や煮干、それから花がつおと日本の猫が大好きなものを揃えています。あと、キャットニップ液とまたたび。これもまた、猫達が大好きなものでしょう。
お空はとっても青くって、風はとっても気持ちよく、なんだかいい気分になってしまった二人がうとうとし始めたのは、それからしばらくしてからのことでした。だって、おなかがいっぱいになったら眠くなってしまうものです。
●公園
午後の二時頃。セシルさんは三匹の野良猫達を前にしながらも、全然お話できない状態になっていました。だって、ご一緒したおばあさまのお話が全然終わらないのです。猫達に間違いなく出会えるようにと、アルヴィーゼにおばあさまの名前を教えてもらって、公園の入口で待っていたのですが‥‥そのまま一時間、おばあさま独演会。
「そうですか。あのおうちにも、昔は猫さんが住んでいたんですね。そんな上品なシャム猫だったら、ぜひ見てみたかったです」
しかも、セシルさんはしつけが行き届いたお嬢さんなので、お年寄りのお話を熱心に聞いてしまいました。猫の話ばっかりだったからでもあるのですが‥‥
「あらまあ、こんな時間。せっかくだから、お茶を飲みに行きましょう。可愛い猫のアイテムを取り揃えたお店があるのよ。カップもクッションもぬいぐるみも」
セシルさんが、どこかへ連れて行かれてしまいました。猫達は反対方向にさよならしています。
●裏路地
藤野さんご夫妻と葵さんは、裏路地にいました。猫達へのお土産は、猫用ミルクに牛乳、パンとお魚です。三人とも色々悩んで、ローマの猫達に気に入ってもらえそうなものを持ってきています。なにしろ子猫連れのお母さん猫がいるはずですから、たくさん食べてもらわなくては。
あと。
「羽月さん、それではおばんですになってしまっていますわ」
「猫語は難しいな‥‥発音がつかめない」
「そりゃあ、我々の動物との会話は本来発音ではありませんけれど」
リラさんと葵さんは、ハヅキさんに猫語の講習会中でした。狼獣人のハヅキさんが猫語を理解する日が来るかは分かりませんが、講習会に夢中な三人の横では、お母さん猫が子猫達に猫用ミルクを飲ませています。三人が悪戯したりしないと、分かってくれたみたい。
それで、お近づきの印にハヅキさんがお魚を切ってあげようと思ったら。
ばりっ!
「手を出すなと言ってます」
「ああ、それはなんとなく分かった」
お母さん猫に思い切り引っかかれたのでした。ちょっと痛い。いえ、正直に言うとかなり痛いのですが、リラさんが心配するのでハヅキさんは我慢です。その間に、リラさんは一生懸命お母さん猫に空き家の工事のお話を始めました。
でもでもだけど、猫用ミルクを飲んでしまって、今度は牛乳に浸したパンをはむはむしている三匹の子猫を見たら、撫でたい気持ちがうずうず。葵さんは、ちゃっかり話しかけて、頭を撫でたりしています。
お母さん猫はお魚に夢中。子猫は可愛い。いつになったら説得できるのかは、相当謎なのでした。
●直感勝負!
群青さんとアルヴィーゼは、近所をくまなく歩き回っていました。ご近所の皆さんはびっくりしていますが、群青さんは気にしません。アルヴィーゼは舞台美術の人なので、近所の人も変わった俳優さんが来たらしいと思ったようです。
そう思っていなかったら、きっと警察を呼んでいたでしょう。アルヴィーゼのおかげです。でも。
「なんでどいつもこいつも逃げるんだ? おまえ、実は嫌われてねえか?」
群青さんは不思議そうですが、猫達も見慣れない狼覆面の人が走って追いかけてきたら、普通は逃げるのです。アルヴィーゼはそう思いましたが、群青さんに引っ張りまわされてぜえはあしていたので言えませんでした。
●結局
一日目は、猫達を全部見つけることも出来ませんでしたし、空き家で工事が始まると伝えられた猫もちょっとしかいませんでした。これは大変。
もっと頑張らなくては!
●頑張る、直感勝負
二日目以降の群青さんは、めちゃくちゃ頑張りました。猫達がいそうな場所を全部回って、見付けたら煮干や鰹節をあげようとするのですが、猫達は狼覆面を見ると逃げてしまいます。
「お、この辺はどうだ? 新しい集会所は、せめてこのくらい広くないと駄目だろう」
「はあ‥‥でも、魚屋さんの裏だから、怒られないかな」
流石に魚屋さんの裏庭で猫が集会していたら、猫好きの魚屋さんでも困ってしまうかもしれません。毎日、十六匹の猫がおこぼれ欲しいと寄ったら、商売あがったりです。
さあ、別の場所探してみよう! 猫は話を聞いてくれないから。
●頑張る、裏路地
ハヅキさんのお仕事は、魚を子猫達が食べやすいように切ってあげることです。手早くしないと、楽器を演奏する大事な指に爪を立てられてしまいます。気を付けなくてはいけません。顔を引っかかれたりしたら、シンガーとしてのお仕事にも差し障ります。
頑張って、小骨まで取ってあげているハヅキさんの横では、リラさんが熱心にお母さん猫とお話していますが‥‥
「あら、人間だと結婚したら」
何のお話をしているのでしょうか。なんだかとっても楽しそうですが、工事のお話ではないようです。お母さん猫は時々そっぽを向いていますが、リラさんはくじけません。子猫達の話をして、またお母さん猫がお話を聞いてくれるようになると、ちゃんと工事の話をしているようですが‥‥
「リラ、その猫の旦那さんがどうしたって?」
「お会いしたいけれど、気難しいんですって」
何のお話をしているのでしょう?
その間に、葵さんはといえば。
「大きな音がしたりするから、その時はここで集会をしたらいいですよ」
ちゃっかりと仲良くなった、親子猫とは顔見知りのぶち猫に、工事の話をしていました。けれども猫達は『リフォーム工事』といっても分からないので、色々分かりやすいようにお話しています。合間に、頭やおなかを撫でて、ちょっと幸せ気分。
ぶち猫も気持ち良さそうにしていますが、葵さんのお話がちゃんと分かっているかどうかは別です。なんだか、半分寝ているような?
それでも毎日言い聞かせれば、ちょっとは分かってくれた‥‥はずなのです。
●頑張る、公園
公園に来る猫達は三匹。うち二匹は割と素直で、セシルさんの言うこともまあまあ理解してくれました。大きな音がしている間は、行けと言われたって猫達も近付くのは嫌だそうです。音がしなくても危ないこともあるので、セシルさんはそれを伝えておきました。
それから、もう一匹にも同じことを言いたいのですが。
「あのー、ご機嫌はいかがですか?」
公園の遊歩道のど真ん中、誰が通ろうと動かず、人が避けて差し上げなければならない白猫は、おなかを出して長々と寝転びながらセシルさんを見上げています。偉そうです。
「皆さんの集会所の空き家のことなのですけれど、聞いていらっしゃいます?」
セシルさんの説得は、いつ頃終わるでしょうか。
●頑張る、空き家の庭
二日目からは、間違ってもお昼寝しないようにしていたルカさんとライラさんは、九匹もの猫に囲まれていました。お天気がいいので、猫達も集まってきたようです。さらに来てみたら、素敵なものがあったのでそのままくたりと‥‥
「なあ、その猫じゃらしについてるの、何?」
「キャットニップ液ですよ。そちらは?」
「またたび」
「まあ、似たようなものです」
二人は猫達と仲良くならなくてはと、お土産を広げ、猫じゃらしなどで遊んであげようとしていました。これは他の人たちもやっていたので、別に普通のことです。猫達もやってきた順に近付いてきて、猫じゃらしに飛びついていました。休むと、ルカさんに『もっと』と請求していたのですから、きっと楽しかったのでしょう。
それで段々仲良くなってきたので、二人はそれぞれに秘密兵器を取り出して、猫達にあげたのでした。キャットニップとまたたび。猫大好き、でも酔っ払います。キャットフードとは訳が違うのでした。
そんなわけで、二人の回りでは猫達がぐてんぐてんになって、寝そべっていたのです。これはお話になりません。
●結局、それで
それでも五日もあれば、十六匹の猫達と会って、ちゃんとお話を伝えて、『ふーん、わかった』とお返事してもらうことは出来ました。本当に分かっているのかは、ちょっと心配な猫もいます。分かっても、言うとおりにしてくれない猫はいそうです。
でも、アルヴィーゼは言いました。
「きっと大丈夫だよ。猫は危ないところを避ける才能があるから」
じゃあ、わざわざ人手を募って説得しなくても良かったんじゃないのとは、誰も言いませんでした。そんなに猫が好きで、構いたいのねと思ったのです。
「なるほど、猫は可愛いからな。俺も嫌いじゃあない」
群青さんも言うくらいですから、他の人達のその通りだと頷きました。そう思っていなかったら、誰もお手伝いには来ないのです。でも、群青さんときたら。
「だが俺は兎のほうがもっと好きだ!」
こう言うので、えーと思った人と、ふーんと思った人がいました。そしてアルヴィーゼは。
「僕も好きですよ。美味しいですよね」
こう答えてしまったのです。
「本当に猫以外はどうでもいいようだな。恋路は前途多難だぞ」
「兎の方は、あれじゃ無理ね」
幸せいっぱいの藤野ご夫妻に、断言されました。葵さんとルカさんは、やれやれという感じで頭をかいています。アルヴィーゼのための反論は、見付からないようです。
「牛や豚の人も、大変ですねぇ」
「そう言われてみりゃ、確かにそうだ」
セシルさんとライラさんは、変なことで納得してしまいました。
「「やめてくださいっ」」
怖い話になるからと、ルカさんと葵さんが揃って言うのですが‥‥
「近くに兎の食べられるお店があるから、行きますか?」
アルヴィーゼに新しい春は遠いと、全員が思ったのでした。
まあ、猫がいるから、彼はきっとシアワセです。