【城塞都市】誘拐中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
6.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/23〜06/25
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●本文
エジプト某所にある街の、それほど大きくはないホテルの中の一番大きな部屋で、十人ほどの男女が剣呑な雰囲気でいた。更にもう二人、他の十人の親か祖父の年代に当たる男性達は落ち着いているが、困惑を隠そうともしない。
「普通なら、警察にお願いするところなんだがね。シンデレラはあの遺跡の資料一切合財を持っていたのかい?」
「そうです。だから、警察に通報するべきかどうかをご相談に」
若い男女の中では一番落ち着いた様子の青年が、問いかけられたことにそう答えた。
それに対する返答は、簡潔で。
「誘拐犯がこの二人なら、警察は必要ない。シンデレラが危害を加えられることも、まずないからね。違うなら警察だ」
話題になっているシンデレラの祖父、アレキサンダーが取り出した写真に、シンデレラと一緒に写っている青年二人が誘拐犯だと、居合わせた十人は全員が頷いたのである。
エジプト国内に点在する城塞都市。大抵はオアシスなどの水源を中心に、砂害や敵対部族などの襲撃を避けるために作られた城砦に囲まれた、ものによっては何百年も前の建築物ばかりの都市だ。今は大半がライフラインの敷設が困難、現代生活に合わない、水源が移動したなどの理由で打ち捨てられたいる。
その一つが、現在WEAに細々と連なる獣人組織の管理下に置かれていた。組織そのものはアフリカ地域の遺跡、文化などの保護を目的とした環境保護組織で、本部はローマ。何十年か活動をしている実績も信用もある組織で、現在の責任者はイタリア人の劇作家兼演出家のキールという。
WEAに連なる組織だからといって、常にナイトウォーカーやオーパーツに関係する遺跡ばかりをどうこうしている訳ではないのだが、この城塞都市には『地下に獣人関係の遺跡がある』との伝承があった。それで組織は様々な手を使い、この城塞都市の保護、発掘、研究、管理、利用の権利を手に入れたのだ。
そうして先日来の調査で、確かにこの遺跡の地下には遺跡があることが判明し、また内部の一部を撮影した結果、なんらかの文字が描かれた場所も発見された。映像そのものはいささか不鮮明だったが、描かれていた文章の文字の形の解読が済んで、今度はその文字が古代エジプトなどに関係するものかどうかを確認しようと、組織の若者達が資料一式を抱えて近くの街まで移動していた。
ちなみにこの街には、組織の責任者であるキールと、その友人夫婦でオブザーバーのアレキサンダーとパナシェという夫婦が逗留していた。若者達はこの三人に合流して、遺跡で発見された文章の解読を行う予定だったのだが‥‥
移動中に出逢った二人連れによって、発掘チームの一人のシンデレラが、資料と一緒に攫われたのである。
誘拐犯は、二十代前半の二人連れ。レンタカーらしい車に乗って、街へと向かうシンデレラ達一行と幹線道路ですれ違った。その際に先方から合図を寄越し、彼らにこう尋ねたらしい。
「ミセス・フローレンス・カンパニーレは、この先の遺跡にいるだろうかと言うので、そんな人はいないと答えたんです。二人とも不思議そうな顔をしていましたが、シンデレラが顔を覗かせたらお互いに何か叫びだして」
「イタリア語だね。ヴェネツィア方言だから、君らには耳慣れないかな。ところで相手は、マダム・フローレンスと言わなかったかい?」
ミセスではなく、マダム。細かい違いを指摘されて、青年がそういえば他は英語だったが、マダムと言ったと思い出した。どちらにせよ、日頃遺跡の発掘や調査に携わっている彼らには、知らない名前である。フランス人も仲間に入るが、男性だ。
「たしかに、マダム・フローレンスでした。どなたかご存知ですか?」
「知っているよ。日頃はパナシェと呼ばれているが、妻の本名だ。今のうちに白状しておくと、シンデレラを連れて行ったのは、我々の孫でシンデレラの兄達になる。だから、シンデレラの安全の心配はいらないよ」
「でも、あの馬鹿孫二人がスポンサーのところに駆け込まないうちに、捕まえないといけないわね」
シンデレラがこれこれこんな若い男二人に攫われた、と聞いて飛び出していったパナシェが戻ってきて、口を挟む。細かい説明は聞いていないが、彼女もだいだいの事情は察しているらしい。
十人の若者達が、ちらりと『この人達は、どういう生活をしているのだろうか』と思ったとしても、それは責められまい。なにしろシンデレラは、半獣化で飛び掛ってきた男に、あっという間に掻っ攫われたのだ。しかももう一人は、掻っ攫って着地した先に僅かの時間で車を回している手際のよさ。
はっきりきっぱり、まったく堅気には見えなかった。
「下の車を見てきたら、シンデレラのパスポートが残っていたの。あれがなければ国外には出られないから、国内にはいるでしょう。そのうちに、パスポートを奪いにやってくるわよ。迎撃しましょう」
「今回は仕方がない。捕まえて、国につれて帰ろう」
堅気に見えない孫を持つ祖父母も、言うことがまともではなかった。
「そうだね。あの二人には悪いスポンサーとは手を切ってもらって、我々に協力してくれるように説得しよう」
キールの言い分も、『洗脳しよう』に聞こえた一同だった。
「本当に、やってきますか?」
「シンデレラはどこかに置いてくるでしょうけれど、連れて帰りたいからパスポートを取りに間違いなく来るわ。人を増やして、念入りに迎えてあげましょう。あなた達も、一度くらいは実戦を経験しなさい」
嫌だとは、とても言えない雰囲気に、思わず一同は頷いていた。
その頃のシンデレラは。
「ああ、おじいさま、おばあさま。交通費がなくて帰れませんの。どうしましょう」
どこかの安ホテルの一室で、お財布を取り上げられた困っていた。
「喉が渇いたのに、ビールも買えないなんて」
部屋には炭酸飲料があるのだが。
・お仕事の内容
城塞都市を襲撃してくる(はずの)二人組獣人をとっ捕まえて、誘拐していったシンデレラの居場所を白状させる。捕まえれば、アレクとパナシェがお仕置きしてくれるが、参加してもOK。
誘拐犯は、殺さなければ痛めつけてもいいらしい。
・シンデレラ
ただいま誘拐されている最中の兎獣人、自称十七歳。
性格に幾つか不思議なところがあり、まず自力で脱出はしてこない。王子様待ち。
・誘拐犯
シンデレラの兄二人。愛称はピノキオとネロ。一角獣と兎の獣人。
獣人としての能力は高いらしいが、祖父母も正確なところはよく分からない。
・アレキサンダーとパナシェとキール
シンデレラの祖父母がアレキサンダーとパナシェの夫婦。キールは家族ぐるみのお付き合い。
今回はパナシェが参戦。
・城塞都市現地スタッフ
獣人種族色々で十二名。年齢層は十代後半から二十代前半。戦闘経験はまったくないが、参戦予定。
・募集人員(いずれかにあてはまればよい)
戦闘力、または敏捷性が高い。
銃器が扱える。
当該遺跡について詳しい。
後始末の工作が出来る。
●リプレイ本文
兎のシンデレラの兄は、一角獣のピノキオと兎のネロ。お歳は二十二歳の二卵性双生児だ。ピノキオがシンデレラと同じ髪と目の色でけっこう男前、ネロはシンデレラが男だったらこんな顔かなと思う程度によく似ている。
この人騒がせな双子は身内とうまくいっていないと考える者はいたのだが、それを尋ねた高邑雅嵩(fa0677)と御影 瞬華(fa2386)は、この城塞都市に来るのも、依頼人達と関わるのも初めてだった。
返答はといえば。
「どこで育て方を間違えたかしら」
「変なことはしていないが」
「‥‥最近までシンデレラは遺跡探索に興味がなかったのを、この二人が連れ歩いていたから、本人が嫌がることを強制していると思ったんだろう。子供の頃に『訓練だ』って色々変なことをやらせていたから、孫からの信用がないんだよ」
今だってパナシェとアレクサンダーは孫と若者達に変なことはやらせているし、その片棒をキールも担いでいるが、少なくともキールは自覚があるようだ。
それだけで、フゥト・ホル(fa1758)と甲斐 高雅(fa2249)は深ぁく納得したし、レーヴェ(fa2555)とアルケミスト(fa0318)はなんとなく納得した。それを見て、美川キリコ(fa0683)は何事か理解したようだ。
でも敷島オルトロス(fa0780)はお金に関係ないことには無頓着だ。
「要するに、ここに置いといたら妹が怪我すると思ったんだろう。そんなことより、迎え撃ち方だ」
気持ちはどうあれ、もっともな意見なので、彼らは速やかに作戦会議と迎撃準備を行った。
双子を都市内部におびき寄せて、街中央の舞台上で決着を付ける。場所の指定が入るのはそのほうが面白いから‥‥ではなくて、全体の連携のためだ。相手の目的がシンデレラのパスポートと予測されるので、本物は祖母のパナシェに持ってもらい、カイ君が作った偽物を応援の八人それぞれが一冊ずつ持つことになった。
「あちらもラスボ‥‥パナシェさんが持っていると考えそうだけれど、それらしいものが目の前にあったら確認はしようとするだろうから」
「俺、そういうのなら出来るかな」
偽物作りを手伝おうとして、あまり役に立たなかった雅嵩が懸命に気持ちを持ち直している。カイ君は演技力不足なので、確かに雅嵩に頑張って欲しいところだ。
その前に、ラスボス発言に豪快に笑っているハトホルにも気合を入れなおして欲しいところではある。アルミも基本的に無表情で口数も少ないのだが、確かに頷いていたし。
それはともかく。
「ラスボス、中ボスの皆様は否定したけど、実は地下の遺跡が目的なんてことはないわよね? なんだか変なスポンサーがついているとか言っていたし、何よりあの人達の孫」
「スポンサーか。相手の文化を尊重しねえ、札びら切って主張を通す奴らだとか聞いたぜ。理由が『舞台のため』だと。けっ、金の使い方間違ってるぜ」
『舞台』が『自分』だったら、きっと同調するくせにと面と向かってハトホルに言われたが、敷島はもちろん気にしない。彼はお金が好きだ。でも『舞台のため』なんていうのは理解できない。
「スポンサーの『舞台のため』って言うのも、名誉名声、収入のためって考えたら、ご同類? 大丈夫か?」
「あの人は素直にお金が好きで、他人に顎で使われるのなんか嫌だから平気」
雅嵩とカイ君の会話に、アルミはまた深く頷いていた。彼女も何か納得したようだ。
その頃、初めて訪れた城塞都市の地理確認に、現地スタッフを三人ばかり連れまわして案内をさせていたキリコは、御影について説明を入れていた。
「男だから」
あまり目立たないが喉仏があるので御影は男性である。見た目がどう見ても少女であろうと、可愛いなあと思っていたとしても、男性。御影本人は慣れているようで、物柔らかにそうなんですと返事している。
そこまでは、確かに物柔らかだったが。
「内部に車で入るとしたら、門しかないわけですから‥‥エンジンを狙うとしたらやはりあの位置でしょうか」
平然と物騒なことを口にした御影だった。今回の応援では、彼とアルミと雅嵩の三人が自前で銃器を持ち込んでいる。鴉と小鳥と一角獣と思うと、何かが間違っているようには‥‥キリコは思わなかった。狼の彼女は格闘も得意分野だが、そうではない場合に射撃武器を使うのは当然だ。それにアルミはどうか知らないが、御影と雅嵩の実戦経験はよく知っている。
「あたしゃ、撃つのは専門外なんで、アルミと確認してもらおうか。飛んだときの感覚は、あっちのほうが通じるだろ」
足を潰すのは戦術の鉄則、と理解しあっている二人の間で移動の足を潰すのが御影達、実際の足はキリコ達と決まった。
その実際の足潰し班に配置されたレーヴェは、自前の大型二輪は石畳が傷むと言われ、仕方なくスクーターで都市の中を巡っていた。後ろに現地スタッフの女の子が乗って、解説を入れている。レーヴェも相当無愛想だが、動じた様子はない。
「かなり道は補修してあるようだな」
「発掘や建物の補修用の機材運ぶために、最初に補修してありますからー」
それなら自分のバイクでいいのではないかとレーヴェは考えたが、この場で指摘はしなかった。したところで、『いい男とタンデム』目的を果たした現地スタッフは『緊急時は仕方ないので〜』と言っただろう。
一部緊張感が抜けていたが、それでも全員の準備はどんどん進んだ。
「おら、サボってんじゃねえぞ!」
敷島が現地スタッフをこき使って準備させた、とも言う。
準備に一日掛かったが、初日は幸いにしてピノキオとネロの双子は現れなかった。二日目も昼過ぎまで何事も起きていない。
「ウサギちゃんは短気で一途だって聞いたから、すぐに来るかと思ったのに」
「お姫様のご機嫌取りに忙しいのかもしれないわよ」
通称『お姉さまズ』のキリコとハトホルは、のんびりと待ちの姿勢である。慌てたところで向こうが合わせて動いてくれるわけではなし、聞いた双子の性格は迂闊なので、危機感も少ない。問題はどちらもすばしっこいことだが、空を飛ぶわけではないので、現地スタッフが道のあちこちでロープを張るべく待ち構えている。人がいなくても作動する罠も配置済み。
だから二人の気掛かりは、どちらかといえば双子の背後の『スポンサー』が噂にはよく聞く『ダークサイド』と繋がっているのでは‥‥なんてことだが、パナシェ達は『ダークサイドも噂が先行していて実体があるのかどうか』と関わったことがないらしい口振りだ。
ま、双子を捕まえて本人達に聞くかと思っているお姉さまズの背後には舞台があって、パナシェがパラソルの下に座っている。
そんな舞台から大分離れて、アルミと御影の二人は交代で上空警戒に勤しんでいた。人間に目撃されるといけないので、城塞見張り組の報告は適時確認している。車が通ったら、光学迷彩で姿が隠せるアルミの出番である。
しかし、物静かと無口が組んでいると、基本的に会話はない。
かと思えば、賑やかに過ぎるのは相変わらず敷島だ。思う存分暴れて、かつ金が貰えると張り切っているが、一番楽しそうなのは現地スタッフをこき使っている時だ。一応『舞台上で決戦』は了解していて、その近くに控えているのだが、そこはカイ君の居場所でもあった。
「手を抜くんじゃねえぞ」
「抜かないから、耳栓忘れずに」
兎のネロの耳を掻き乱してやろうと準備しているカイ君は、敷島が暇になると近くの建物の石像を持ち帰りたいと悩み始めるのにちょっと頭が痛かった。当人は追加報酬くらいの気持ちだろう。
と。
『中に入られましたー、ごめんなさーい』
本当に悪いと思っているのかと、敷島が速攻怒鳴り返した報告が、トランシーバーから流れ出したのだった。
大型バイクとマウンテンバイク、前者はスピード、後者は小回りのよさで移動に備えていたレーヴェと雅嵩も、この報告を聞いた。どうも双子はどこかに車を乗り捨てて、徒歩でやってきたらしい。この炎天下に正気かと思ったのは雅嵩で、レーヴェは人影が侵入したという方向にすでに向かっている。キールが『緊急時だけ』と念押しした大型バイクは、石畳という悪路をものともしない。
これが如実にスピードに繋がる雅嵩も後を追おうとして、ふと気付いた。
「侵入者は二人? どっちがどっちか分かる姿だったか?」
『角がありましたー。‥‥って、一人じゃん!』
「ウサギさんが他に回ってるかもしれない。四方の見張りは動くなよ」
いきなりこれだよと頭を掻いて、雅嵩はレーヴェと反対方向にマウンテンバイクを向けた。
その頃のレーヴェは。
「ピノキオのほうか」
「違う。カルロ。ここも遺跡なんだから、そういう重量物を乗り回すな」
すばしこいとは聞いていたが、屋根の上を走り回って移動するほどだとは聞かされていなかったピノキオと対面していた。レーヴェはバイクにまたがったまま、ピノキオは屋根の上だ。ピノキオの本名は、カルロというらしい。
「おまえが移動すれば、これで追う」
この際相手の本名はどうでもいいレーヴェは、半獣化しているピノキオに平坦な調子で断言した。ピノキオがバイクで追いかけられない逃走路を考えている時間を稼げれば、人海戦術に持ち込める。
そう考えていたら、彼の後方から銃声が響いた。もちろん目標物はピノキオだが、耳のよいレーヴェにもかなりの衝撃だ。
けれど。
「じーさん、あれほど言ったのに」
ハトホルに『遺跡に傷を付けない』と念押しされて、『それなら水平に撃つ』と決めた二人のうちの御影が、威嚇射撃にしては念入りにピノキオに銃弾を撃ち込んでいる。流石に当てるつもりはないはずだが‥‥当たっても『高邑さんがいるし』と思っていた。
そして、明らかにそれに動揺したピノキオが屋根から飛び降りたので、レーヴェが素早く組み付いて取り押さえるまで、一分足らず。
「ピノキオ、格闘は苦手か?」
「鉛玉当たってるんだよ」
御影の銃弾は遺跡に傷は付けなかったが、血痕は残したようだ。一角獣なんだから自分で治せよと、周囲は冷たい。
これからしばらく、ネロは見付からなかった。とはいえ、お姉さまズの尽力によりピノキオは早々にシンデレラの居場所を白状している。どういう尽力だったかは、自分が同じ目には合いたくないと心底思いつつ、でも誰もが笑いをかみ殺してしまうようなもの。
敷島は、レーヴェは一人対応したから次は自分の番だと主張しているが、時間がたつに連れて面倒になってきたらしい。どうせ給料が変わらないなら、このままのんびりしてやろうかと考えているのが丸分かり。それを見たアレクは。
「すぐに結果を欲しがる性格は、遺跡探索に向かないよ」
遺跡探索の結果は、調査に長い時間をかけて導き出されるものだと聞かされた皆は、そんなの嫌だなぁと思っている。敷島は聞いちゃいないが。
夕暮れ間近になって、ハトホルとカイ君が相談をして、皆に耳栓をするよう合図をした。ついでハトホルがマイクを握り。
「出てこないと、シンデレラにあることないこと吹き込むわよ。パナシェさんの協力も取り付けたから!」
かっこ悪い兄だと思われたくなかったら、正々堂々出ていらっしゃい。と、人海戦術を選択している側とは思えない挑発をかましたハトホルだったが、『パナシェの協力』がきいたかもしれない。雅嵩の見張っていた方向を少しずれた場所から、完全獣化の兎が壁を乗り越えていったと報告が入る。もちろん、現地スタッフには完全獣化解除をさせるように指示済みなので、途中で兎耳をなびかせた青年になってしまうわけだが。こちらももちろん、屋根の上を走る。そして、今度は姿を消したアルミに威嚇射撃とは思いがたい鉛玉の嵐を貰った。
「だあ、じじいの差し金かっ」
しかしピノキオよりは素早いネロは、姿を消しているアルミの居場所に耳であたりを付けたらしい。なにしろ鉛玉が飛んでくるので、そちらの方向に突進、ジャンプで蹴り一閃。
「よし、当たった気配!」
足元まで駆けつけた雅嵩が、姿を消したまま蹴り落とされたアルミをマウンテンバイクごと転倒しながら受け止めた。ネロは舞台のパナシェ目掛けてまた走り出しているが。
「女の子に怪我させるとは何事かーっ!」
というハトホルの絶叫に続き、カイ君が準備していたヘビメタ大音量アタックに鋭い聴覚が大打撃を喰らったらしい。屋根から足を踏み外し‥‥
「別に恨みもなんもねえが、目の前に落ちてきたら殴るしかねえだろ」
相手がよろよろしていようが、まったく気にしない敷島に、見兼ねた周囲が止めに入るまで殴られていた。だが。
「こんな女の子を蹴ったんなら、殴られても仕方ねえ。だけれどな、じじい、こんな女の子達にまで、射撃教えてんじゃねえぞ! 危ないとこには、自分で行きやがれ!」
アルミを見たネロは一応反省し、でも祖父アレクを責める真似をして除けた。聞いていると、シンデレラにライフルの撃ち方を教えたことを双子は根に持っているらしい。理由はネロが言ったとおり。
狩りに行くだけとかなんとか言い争いを始めた家族を見て、『馬鹿家族』と思った者は一人二人ではないが‥‥こんなのは放ってシンデレラを迎えに行こうと怪我を治してもらったアルミと体の心配をした雅嵩、話題の人の顔を見てみたいキリコと御影、護衛を兼ねたレーヴェがカイロまで出向いた。
「あら、慌ててどうなさいましたの?」
カイロの安ホテルで『新しい仕事を見付けた』と準備をしていたシンデレラは、こうお抜かしあそばして‥‥アルミにぎゅうぎゅう足を踏まれていた。
皆呆れたり笑ったりして、止める気配などありはしない。