お菓子の家建設友の会アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 1.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/13〜07/19

●本文

 着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』は、札幌市内に事務所を構える一族経営の劇団だ。ついでに副業でコンビニエンスストア経営その他諸々をやっている。なにしろ一族経営なので、仕事がないときは皆一緒。副業の一つもやらないと、揃って食べるに事欠く生活になりかねない。
 そんな『ぱぱんだん』の一員、食いしん坊パンダの笹村カンナは、コンビニレジの仕事を父親の恵一郎と交代して、自宅に戻ってきた。玄関の引き戸を開けた途端に、聞こえてきたのは豚の悲鳴。飼っているミニブタ、ブーとフーの声である。
 続いて、今度は聞きなれた従弟、漆畑卯月の叫び声がした。
「離せーっ、離せったら離せー。その鱗が気持ち悪いー」
 ぴいぴい悲鳴を上げつつ逃げてきたブーとフーを両脇に抱え、カンナは台所と居間の間の廊下まで来た。彼女が用があるのは台所の冷蔵庫だが、声は居間からする。とりあえず覗いてみると、姉妹同様に一緒に育った従姉の初美が、半獣化して卯月の腕を捻りあげているところだった。
 初美は蛇獣人である。
「ええい、失礼にして生意気な。そもそもあんたにも同じ血が流れているのよ!」
「それを言うなーっ。俺は爬虫類がどうしても苦手だー! 親父の遺伝なんだから仕方ねえだろーっ」
 カンナの父親の恵一郎、その弟の虎太郎は、爬虫類全般が苦手だ。恵一郎は特に蛇が怖い。それでいて、幼馴染とはいえなぜ母親の文子と結婚したのかは笹村家の最大の謎とされているが‥‥嫌いな蛇の中でも、文子と息子の睦月、葉月、それから初美は除外してあるらしい。この全員が蛇獣人。
 卯月も今まで『爬虫類怖い』なんて一言も言ったことなかったのだが‥‥実はそうだったようだ。言えば今の状況のようにいびられることは目に見えているので、敢えて黙っていたのだろう。
 ただし、初美も卯月もカンナの従姉弟だが、初美は母方、卯月は父方なので、双方の間に血縁はない。そんなことも忘れるくらいに、密接した親戚関係ではあるけれど。
 でも本当は違うのに。と、カンナは思っていたが、虫の居所が悪そうな初美に逆らうと後が怖いので、なんにも言わずに冷蔵庫を目指した。初美の腕の鱗を見て悲鳴を上げたブーとフーも、お相伴に預かれるとご機嫌にカンナを追う。
 だが、しかし。
「あたしのヨーグルトがないーっ!」
 数秒後、笹村家全部どころか家の外にも聞こえそうな大声で、カンナが叫んでいた。

 その日の夕方。
 姉のヨーグルトを無断で使ったことで危うく食いつかれるところだった葉月は、出来上がったヨーグルトケーキを切り分けていた。ヨーグルトの提供者である食欲魔人に大きめに切り分けないと、めちゃくちゃうるさいから気を付ける。
 そんなことをしていたら。
「はっちー、れんわ」
 プライベートタイムの大半はパンダ姿のカンナが、電話だと彼を呼びに来た。この電話のためにちょっと席を外している間に、食欲魔パンダはヨーグルトケーキを四分の一掻っ攫っていくのだが、それはそれ。

 『ぱぱんだん』の笹村葉月は、調理師免許を持っている。その専門学校時代の友人が、今度自分の店を持つことになった。開店するのは洋菓子店だ。
 この店の開店時期が、商店街のこの夏何回目かのバーゲンセールと重なるので、イベントに何かやってくれと頼まれた友人の頭に浮かんだのは『お菓子の家』だった。子供の憧れ、お菓子の家を建築実演したら、さぞかし注目されるのではないか。
 けっこう時期的に無謀な案を、でも冷房がんがん効かせればなんとかと商店街の会合に提出した彼は、材料費の協力を取り付けた。
 そうして、人手が足りないので葉月に電話してきたのである。ついでに、こうも言った。
『学園祭の時に来た、あの面白いお姉さん達も連れてきてよ。着ぐるみで、ふりだけでいいからお菓子の家作るの手伝って欲しいんだけど』
 もちろんその分の給与は出る。お菓子の家建築と、商店街の客寄せ、福引コーナーの店番などをひっくるめて、『ぱぱんだん』にご依頼だった。
「おきゃちのひえ‥‥」
 お菓子の家を思い浮かべて、口から何か垂れ流している食欲魔パンダは、すっかりやる気である。

・お菓子の家建築友の会
 建てるお菓子の家は、幅一メートル、奥行き二メートル、高さ一メートル半のいささか小ぶりな洋風の家。四方に窓、屋根に煙突、家の周囲に柵と花壇のご用命。現場は五メートル四方、通り側が前面ショーウィンドーの空き店舗。洋菓子店の隣にあたる。冷房完備。
 最低限家の形になればよいので、別の素材で枠を作ったうえに、お菓子類を貼り付けるものでもよい。ただし、あんまりあからさまにそれが見えないように注意すること。柵と花壇は全部別素材でも、見栄えがよければよい。
 建築日程は三日間。三日で建てても、初日に作り終えて三日間飾ってもよい。
 格別資格がなくても、手伝いは可能。

・商店街仕事
 チラシ、風船、割引券などの配布、福引コーナーの店番、金曜日は清掃ボランティアに小学生が来るので同行。
 着ぐるみ(自前毛皮も可)が混じっていることが好ましい。

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa1401 ポム・ザ・クラウン(23歳・♀・狸)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa1810 蘭童珠子(20歳・♀・パンダ)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2361 中松百合子(33歳・♀・アライグマ)
 fa2544 ダミアン・カルマ(25歳・♂・トカゲ)

●リプレイ本文

 子供達憧れのお菓子の家に惹かれたのは、『ぱぱんだん』の食欲魔パンダ笹村カンナばかりではなかった。
「商店街のお仕事に回っても、食べる時のお手伝いはしていいのよね?」
「やっぱり食べる楽しみが‥‥その前に作る楽しみだよな」
 姉川小紅(fa0262)とトシハキク(fa0629)は思わず口にしてしまって、蓮城久鷹(fa2037)に『大きなお友達の食いしん坊』とカンナとまとめてからかわれていたが、今回集まった全員が『お菓子の家』に惹きつけられたのである。
 今回は笹村葉月とその友人で新規開店洋菓子店『らびっと☆はうす』店長の如月雄太に加え、栄養士で女子大時代にお菓子の家を作った経験があるポム・ザ・クラウン(fa1401)もいる。使用するお菓子の種類と材料はこの三人にお任せで、他の人々のアイデアや希望も取り入れてダミアン・カルマ(fa2544)がデザイン画を起こした。
 と、不意に予定外の発言が。
「あら、駄目? お菓子の家って、お部屋の中はないの?」
「可愛い〜。姉御、ぜひ作って」
 家具類の材料と作り方の計画も立ててきた中松百合子(fa2361)のアイデアに、無邪気に賛成しているのは蘭童珠子(fa1810)だ。お菓子作り以外の仕事専門予定の諫早 清見(fa1478)も、それが出来たら記念撮影は楽しみにしているらしい。今回は撮影の専門家のヒサがいるので、記念撮影はちゃんと予定に入っていた。
 しかし。
「部屋の中を作って見せるとなると、どこを開ければ強度が保てるかな?」
「ああ、それは考えなかったな。被写体にはいいんだが」
「外から見えるとなるとこの辺だけど‥‥中の壁の材質はどうしよう?」
「‥‥なんか、難しい話になってんな」
 ダミアンがデザインラフをもう一枚起こし、それを前にポムと葉月と如月にユリ、見栄えの助言でヒサが、型枠作りでジスも加わって相談が始まった。キヨミやタマ、小紅とカンナはどうなるかと待っている。
 しばらくして。
「庭にテーブルセットを作って、飾るから」
 家が傾ぐと困るので、当初の予定通りに外観のみ。代わりに家具類はベッドを除いて、庭の一角に飾りつけることになった。ユリが考えて材料だと、部屋の大きさに比べて可愛らしすぎたのが決定打だったらしい。
 なお、お菓子作り専門で働くのは如月と葉月の他には、ポムとユリ、ダミアンにジスの四人だ。ヒサは商店街と兼任、タマ、キヨミ、小紅にカンナは商店街のお仕事専門だ。

 パンダの小紅やタマ、狼のキヨミが商店街担当なのは、単にお菓子作りより向いているからだが、カンナはヒサに『つまみ食いされると迷惑』と厳命されていた。彼は『そのうち嫌ってほど食えるから』と飴とムチの使い分けもしている。
 故に妙にファンシーなエプロンドレス姿の小紅と、浴衣のキヨミは初日から売り出しのチラシや客寄せの風船、うちわを配り歩く。もちろん自前毛皮。子供に蹴られても、スカートをめくられても、二人乗り高校生自転車にぶつかられそうになっても、笑顔をキープだ。高校生にはうちわをあげる振りをして、無理やり自転車から降ろしたが。だって危ないし。
 そんな光景を見ながら、タマとカンナは福引所を担当していた。こちらは人間姿で、更にタマの相棒のキーちゃんがいるので賑やかだ。タマが一人で賑やかともいう。カンナはお菓子が回ってこないので、無口。
 とはいえ、雰囲気的にはぽわわんな二人に、口調が辛らつなキーちゃんが加わって、ここはこれでバランスが取れている。平日、しかも福引初日ではお客も少ないので、ガラガラ回してポンと玉が出るガラポンも静か。
 ただ西日が当たって暑いので、二人は時々水分補給をする。そうしていると、自前毛皮でのチラシ配りで水分補給がままならない上に、自前でも毛皮で気分的にとっても暑い二人組から冷たい視線が投げかけられるのだが‥‥
『あの二人、気付きもしない!』
 なおいっそう、小紅とキヨミの視線が冷たく白くなるだけだった。
『客が来ないナ。オマエ達、働け!』
「キーちゃんたら。お仕事お疲れ様でしょ」
 相変わらず、タマの腹話術はどう受け取ればいいのやら。

 この頃のお菓子の家建設友の会の面々は、まず現地の掃除を行っていた。なにしろ作った後で捨てるのではなく、食べるつもりだから、衛生面の問題は困る。幸いにして材料の大半は取引先の配達か、商店街内での調達が可能で、遠出をする必要もなかった。ゆえに、掃除には熱が入る。
 なお、家の柱に使うバウムクーヘンと屋根に使う牛乳煎餅は、葉月と如月が出身校に掛け合って製作を依頼した。有名メーカーのものを使いたかったポムには残念だが、資金も潤沢とは言い難いので仕方がない。
「ポスターはコピーに彩色して、商店街の掲示板に張ってもらえるようにしておいたから」
「型枠のタコ糸と竹ひごが足りないから、それだけは買いに行かないと駄目だな」
 掃除は吹き掃除までが終わると、ポムとユリがアルコールで拭き取りをしている。その間にダミアンはポスターの手配をして、ジスと型枠の材料を準備している。それをしながら、アクリル板をどう切って組み立てるかも相談していたが、この二人に掛かるとそれはたいした問題ではないらしい。
 ヒサは作業の計画書を見て、自分がいつどの仕事をするのか確認ついでに、写真撮影の予定も入れていた。作っている途中の写真も撮ると言われて、葉月と如月は最初は戸惑ったが。
「お菓子の家は滅多にない被写体だし、食わせてもらうからには駄賃代わりにチラシの題材くらい撮っておくさ」
 すかさず、それなら型枠を作ったところも資料用に撮影しておいてと大道具小道具から声が飛んだ。そんなことはヒサも予想済みと見えて、軽くいなしている。
「やっぱり葉月の友達は、面白い人が多いな」
 名前だけなら身内のような如月は、ユリとポムに『葉月君の友達なら同類』と思われていることには気付いていない。ポムがお祝いにお花を贈ろうしたら、遠慮なく『鉢植えで見栄えがするのを』と要求した剛の者である。
 しかし他人のお金でこんな楽しい作業が出来ることは滅多にないので、ポムとユリはどこをどうやって組み立てようかとうきうきしている。二人とも、お菓子の家の前で記念撮影を最初にするのは自分達だと思っているし、デザインに一番注文も多かった。バウムクーヘンの直径は十センチと指定したのはポムである。
 挙げ句に。
「あ、見て。カンナちゃんにプレゼントなのよ」
「‥‥姉御、カンナちゃんは二十歳過ぎだけど」
 ユリが出したのは、水色のケープだった。幼児が食事の時に着せられているようなアレだ。ポムが目を点にしたのも道理で、色の水色がこれまた幼稚園児のスモッグみたい。これを目撃した葉月は、腹を抱えて笑っている。

 翌日。
 甚平姿で小学生のゴミ広い活動に参加したキヨミと小紅とカンナは、ゴミより子供を背負っている時間のほうが長かった。ゴミ拾いもぜんぜん出来ていないが、それには強力な援軍がいた。
『そこダ、拾エ! 早いノハ誰ダ』
 さすがにパンダが三人では偏りが激しいからではなく、単にキーちゃんと会話するのに獣化しなかったタマが、キーちゃんを抱えて小学生をキリキリ働かせている。ゴミをたくさん拾って、キーちゃんのお許しが出ないとキヨミや小紅、カンナに構ってもらえないのだ。生意気を言いそうな小学生も、何故かいいようにキーちゃんに使われている。
「なんかこう、最強まで行かなくても、すごく強い気がするの」
「俺もあのくらい気配りが出来るほうがいいのかもしれない‥‥」
 休憩時間に、小紅とキヨミの『性格がけっこう大雑把』を自認する二人が、タマの、と言うよりキーちゃんの勢いと小学生操り能力に敬服していた。けっこう細かいところまで、よく観察しているのだ。代わりにタマが溝に転げ落ちそうになったりしているが。
 その後も、ローテーションで福引所やチラシ配り、時に子供相手のアクションごっこ、休憩時間はこっそり獣化をといて水分摂取と忙しく働いた彼女達は、何のかんの言いつつ元気だった。

 対してお菓子の家建設現場の面々は、激しく動き回ったりはしない。作業場が狭いこともあるが、そもそも飛んだり跳ねたりする仕事ではないからだ。とはいえ問題は。
「うーん、やっぱり空調が入ると乾燥するね」
 壁の下に張る固いビスケットを焼いていたポムが、洋菓子店の隣の作業スペースに入って唸っている。温度計は試しに入れた空調効果でいい温度を保っているが、湿度計は明らかに乾燥しすぎ。ついでに。
「なんだかここで作業してると、顔がバリバリするんだよ。手もかさつくし」
 お菓子の家の型枠作りをしているジスが、乾燥のせいかと顔をさすっている。外は七月の陽気だが、中で作業する彼は革ジャンなど羽織っている。多少動きにくいが、寒くて凍えるよりはよいと言うことだろう。だが今は試し運転なので、ジスのためにも速やかに空調は切る。問題は。
「外から見たときの見栄えを考えて、商店街からはっぴ借りたから。念のために洗濯したほうがいいよね」
 こちらは洋菓子店で花壇用のクッキー枠を作っていたダミアンが、様子見に戻ってきて寒さに顔をしかめた。彼が気にしたのはもう一つ。乾燥すると、手先が荒れて繊細な作業が難しいということだ。だからといって、下手にクリームなどは使えない。
 これはある意味専門家の姉御に尋ねたら、ユリはあっさりと戸棚からあるものを取り出した。
「サラダオイルとオリーブオイル、好きなほうを選びなさい」
 そんなわけでオリーブオイルを一滴、掌にすり込んで作業に戻るジスとダミアンだった。食用油は、さすがに彼らの頭には浮かばなかったらしい。
「後で写真を撮りに行くから。上着が脱げるようになったら知らせてくれ」
 屋内で寒そうに作業している写真では、日付を入れたときに不自然だからと細かいこだわりを見せるヒサが、洋菓子店の厨房撮影の手を止めて怒鳴っている。彼の要望で、如月だけでなく葉月もポムもユリも、コックコートに店の名前入りエプロンを付けて作業しているところだ。
 そんな風に準備をして、やがてお菓子の家建設が始まった。さりげなく厚着をして、上には商店街のはっぴか洋菓子店のエプロンなどをつけ、初日は工作である。アクリル板と竹ひごで作られた型枠に土台のパウンドケーキを設置する。柱はバウムクーヘンを建て、間に厚切り食パンをジャムで貼り付ける。途中に、溶かしたチョコで補強と彩り、食用色素も忘れずに。時々湿気と腐敗対策でラム酒入り霧吹きも。
「ちょっと待った。ここの高さが少しずれてるから」
「じゃあ、あっちの壁を張っとくから。あんまり渋い顔したら駄目だよ」
 柱を立てるのは男手が中心だったが、壁作りはジスとポムが担当だ。せっせとトーストを貼り付け、細かいところを修正していく。すでにウィンドーの外には子供が張り付いているので、あまり難しい顔付きで作業するわけにも行かなかった。
 葉月と如月は、小難しい窓の部分の作成を始めており、わざとウィンドーの前に陣取っている。細かい飾りを付けるのは、やはり如月が専門なので人目を引くようにそこにいるのだ。
 更に、ユリとダミアンはテーブルセットや花壇をクッキーやショコラタルト、細工を施したウェハースで延々と作り、飾り、ウィンドーに近い部分の作業をしている。
「あ、砂利部分のチョコレートが足りない。もう一袋あったと思ったけど」
「さっき開けたわよ。ああ、そこに山になってる。全体に薄くしたら足りるでしょ」
 石畳は板チョコ、隙間のジャリはカラフルな小粒のチョコレート。間違っても踏み潰すわけにはいかないので、敷き詰めるのはなかなかバランス感覚を要求された。その前に、全員揃っての屋根作りとか、色々大変なことは多数あったのだが‥‥
「カンナちゃん、皆で分けて!」
「あたしに食べてって‥‥」
 毎日夜には、余ったお菓子の争奪戦も起きる。作っているほうは一日眺めていると胸いっぱいだが、商店街仕事の面々は毎日飽きることなく誰が多いの少ないのと奪い合っていた。
 そうして。
「俺がここで商売していいのかね」
 お菓子の家建設二日目。出来上がったお菓子の家の前で記念撮影している一同を見た商店街の人々から、お客から、噂を聞きつけてやってきた遠方の物好きまで、ショーウィンドーの前で記念撮影に興じている。ヒサがカメラマンとして有能だと聞きつけた商店街からの依頼で、何故か専属カメラマンと化していた。頼まれた途端にレフ版を出してきたのだから、彼も準備万端なのだが。
 そうして。
「毎日食べたのに、まだ食べるのね。飲み物あるわよ」
「姉御、それは言っても無駄だと思う。あ、紅茶は砂糖なしで」
「その人形はフィギュアだから食べられないよ」
「あー、一日おくと幾らでも食べられる気がする」
 さすがにお客に解体したものを食べさせられず、お菓子の家は商店街が皆閉店する夜中近くに行われた。ご近所の店からも希望者がきて、賑やかに解体してはおなかに片付けていく。
 もちろん、その中でもっとも賑やかなのは。
「人が茶を入れている間に! 抹茶がいいんじゃないのか!」
「いやー、お酒が出てきちゃうともう」
「ポムちー、食べても水着だいじょーぶよ?」
 キヨミと小紅とカンナだった。彼らの前には山積みのお菓子とお酒と何杯もの飲み物がある。
 そんな横では、タマが葉月に愚痴っていた。
「どうして睦月さん、あたしがお帰りなさいって言うと疲れた顔するのかしら?」
「本気でそれを言うか?」
 真顔の会話はちゃんと。
「一応見せておくか」
 ヒサの報告ビデオに収められていた。。

●ピンナップ


トシハキク(fa0629
PCシングルピンナップ
ののこっと