【城塞都市】遺跡探索行中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
15.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/21〜07/30
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●本文
エジプト某所にある、遺跡だが扱いの特殊な城塞都市の地下には、獣人達に関わる遺跡が眠っていると噂されていた。そうして、その遺跡は実際に発見され、内部のほんの一部が探索され、謎の文字列が確認された。
これが鏡文字との指摘をカイロのエジプト考古学博物館で受け、関係者が熱心に解読を試みた結果に出てきたのは。
『この地を荒らすものには、速やかな死が翼に乗ってやってくる』
そんな一文だった。ツタンカーメン王墓の入口に書かれていたとされる、有名な一文である。
この一文が確認されて、城塞都市の発掘に携わる若い十三人の獣人達は大喜びだった。ツタンカーメン王の墓と同時代の遺跡かもしれないと、更なる発掘に意欲を燃やしている。
発掘と言うより内部調査を進めるためには、この先は狭苦しい洞窟のような場所を這って進み、どこまでどういう形で続いているか分からない遺跡の全容を確認する必要がある。獣人によっては半獣化も出来ないくらいの床と天井の合間が僅かな場所をくぐっていくことが必要だが、全員がけっこうやる気だった。
とはいえ、この十三人は獣人としての経験はもとより、若いがゆえにうかつなところも多いので、応援を呼ばなくてはならない。そうしないと、内部の資料映像や発掘品の保管、その他諸々の手続きなども絶対にミスするからだ。
「あらまあ、私達ったら、信用がありませんわ」
こんなことを、あっけらかんと口にするシンデレラがいる時点で、せめても彼女の性根を叩き直してくれる人材は必要であろう。あいにくと頼りになる彼女の祖父母は、別の孫二人の性根を叩き直すのに忙しくて、今回は不在である。
遺跡は この城塞都市の外周に沿う四箇所にある、エジプトの神話のトト神を示すアフリカ黒トキと水時計のレリーフを入口としている。今のところ、この一箇所から内部への侵入が試みられているが、これがほとんど垂直降下の手掛かり足掛かりのない縦穴だった。飛行能力があれば、途中からは飛んで降りることが出来るが、それ以外の獣人は運んでもらうか、それともクライミングの真似事をして降りなくてはならない。
しかも入口から町の中心部方向に向かって下っていく天井部分が、床面から二メートル半のあたりまで続いているところだった。ここまでは、半分だけの漏斗を伏せたような形で、そこから壁が垂直に落ちている。この壁の下のほう、床から約五十センチちょっとのところに、問題の一文は刻んであった。
そうして、遺跡のその先を目指すには、文章のすぐ下から口を開けている高さ五十センチ、横幅一見三十メートル弱、ただし先の様子はまだ未確認の隙間を這いくぐっていかないといけない。
遺跡の全貌を明らかにするための活動の、何回目かの始まりである。
●リプレイ本文
発掘お目付け役の人々が到着した時、城塞都市に常駐している十三人のスタッフはご飯を食べていた。ちゃんと八人の分もある。
それに喜んだのが、料理好きの穂積 彩子(fa3136)とお菓子作りをする海斗(fa1773)、土産でワインを持ち込んだ群青・青磁(fa2670)だった。他の面子も嬉しくないわけはないが、この三人は際立っている。
と、群青の土産を嬉々として受け取ったシンデレラにフゥト・ホル(fa1758)が。
「シンデレラさんは何歳なの?」
飲酒して大丈夫な年齢かと尋ねた。ちょっと慌てたのは、何故か敷島ポーレット(fa3611)だ。後は明らかに少年のカイ以外、お目付け役は見るからに成人なので問題なし。現地スタッフも何人かが明後日の方向を眺めている。
「に‥‥十七ですわ。でもイタリアでは十六からアルコール解禁ですの」
「エジプトって何歳から飲めるんだ?」
国によって違うよなと、今回初めて城塞都市にやってきたジーン(fa1137)がハトホルに尋ねた。しかし、エジプトはそもそも宗教的に飲酒をしない国である。
「この辺の人に見られるなよ」
「それでいいのか?」
高邑雅嵩(fa0677)の発案に、レーヴェ(fa2555)がどうしたものかとハトホルに問いかけたが、それ以前にシンデレラが。
「節酒ですわね‥‥」
おそらく飲酒仲間と思われるスタッフ達と、背中を丸めて『節酒』と呟いている。禁酒ではないのかとカイや彩、ジーンなどは思うのだが、違うらしい。何故か節酒仲間には群青が加わっていた。
まあそれも、この後に続いた、
「まあ、あのおじさまの娘さん!」
という、ポーに対する勘違い発言で話題が終わっていた。確かにポーと同じ苗字の『おじさま』は、度々このアフリカ地域での遺跡関係仕事に携わっているが、ポーののんびり口調では、いろいろと訂正が利かないようだ。
「相変わらず賑やかだが、発掘は進んでるのか?」
雅嵩が問いかけたとたんに静かになるのが、なんとも状況を示している。
ご飯を食べたら、即作戦会議だ。デザートにちょうどよく、カイがキャロットケーキを作ってきてくれたことでもあるし。
遺跡の床は、地下三十メートル。そこまでほとんど手がかり足掛かりのない場所を降りる必要があるが、幸い、これまでの対応で内部の空気はそれなりに循環した。狭いところは不安なので小型の酸素ボンベを持ち込むとして、床面に降りてしまえばそれほど活動を妨げるものはない。
なお、お目付け役のうち翼があるのはカイと彩の二人。現地スタッフも四人だけで、全体の三分の一にもならない。しかも女性か年少者となれば、他人を抱えて降りるにも限度があった。撮影などの機材を運び降ろすのならばともかく。
それでレーヴェが調達してきたザイル製の縄梯子の出番となったが、これを入口から垂らして、何箇所か壁に打ちつけようという話になって‥‥
「そんなことをしていいの? ツタンカーメン王と同じ時代だと、十八王朝じゃない」
「公開しないとしても、考古学的に価値がある遺跡ってことだろ?」
「十八王朝って何? 有名な話?」
「ツタンカーメンは知っとるで」
ハトホルとジーンが『本当にいいのか』と言い出したので、カイとポーが身を乗り出した。他の四人も、後で面倒が発生したらとか、価値があるものなら壊すのは気が進まないとか思って、シンデレラ達の返事を待っている。
「あの碑文は、ツタンカーメン王墓発掘時の風聞で、お墓には実在しないそうなんですの〜」
要するに暗号文はそのガセネタを耳にした誰かが、遺跡内部に刻んだもので、
「二十世紀始めまでは、あの遺跡に人の出入りがあったわけか」
それは面白いと、雅嵩が苦笑した。『十八王朝!』と期待していた面々の消沈ぶりが目に入るので、明るく笑うわけにはいかない。
「それなら、多少の傷は構わないか」
「人の出入りがあっても、作った年数によっては価値があると思うよ」
「面倒だな。公開しないなら、穴の一つ二つ開けちまえ。安全第一だ」
レーヴェはあっさりと遺跡保護を脇に追いやろうとして、彩に諌められていたが、群青は安全第一と繰り返す。遺跡とはいえ、この城塞都市自体も六十年前までは人が住んでいたのだし、世界遺産だって住居として現存しているものは多数ある。
「練習してから、降りましょ」
しばらくして衝撃から立ち直ったハトホルが、縄梯子を固定する位置を最低限にするべく意見を述べて、ようやく話がまとまった。まとまってしまえば後は早い。なにしろ全員一斉に降りるなんてことは、都市部分の見張りをする点からも出来ないので、現地スタッフは羽があるか身軽な者だけ参加する。お目付け役八人も、縄梯子を伝い降りる技術はなくても体力があったり、度胸があり余っていたので、それほど無駄に時間を浪費することはなかったのだ。
ただ、さすがに地下遺跡で何日も過ごすのは何かと問題なので、行き来が大変ではあるが。
なお、現在確認されている遺跡内部への四箇所の通路のうち、出入り可能な一箇所から送風機で風を送り込むと、残り三箇所からしばらくして噴出してくる。この三箇所は現地スタッフたちが確認しているが、いずれも人が入るだけの幅がなかった。一種の通風孔ではないかと思われている。それにしては効率が悪いので、他に空気の取り入れ口があるのではないかとも予想されるが‥‥
「そういうところも確認事項なのね」
彩が言う通りに、現在あるのは入口付近の概略図のみ。ぜひとも全体図を手に入れたいところだ。求められているのは、そういうお仕事。
発見されるまでの状況からして、内部にナイトウォーカーがいる可能性は大層低い。また現在のところ、この近辺で動きを見せている獣人組織は他に確認されていない。襲撃の可能性も低いだろう。なにしろ価値があるのかどうかも、まだ分からないのだし。
よって、内部に入り込んだ一同は、まず遺跡内部、最初の半円型広場と名付けたところの調査を開始した。正確な高さ、幅、方角を確かめ、満遍なく撮影を試みる。ここは『明らかに人の手で整形されているよね』と言うことが確認された以外は、新たな発見も不思議なものも見付からなかった。
「煙草吸いてぇ」
「あら、何かとんでもないことが聞こえたわね」
途中、群青が度々こう漏らし、ハトホルににっこりとたしなめられることがあったが、もう誰もが慣れていた。群青の『覆面姿で珍しがられるのは飽きた』発言は、ここ以外で彼と同じ仕事をしたことがある人々には、我が耳と群青の常識の両方を疑う出来事で‥‥否応なしに慣れたのだ。ついでに群青が、見かけによらずカイやポー、シンデレラや現地スタッフの年少者に甘いことも、皆理解していた。
ゆえに。
「群青おじさん、ここ持って」
カイに、割といいように使われている。そのカイはすっかり探検でも行くような姿で、うきうきと各種調査を行っていた。そのまま件の天井五十センチ通路と言うか裂け目も入っていきそうな勢いで、これは匍匐前進するつもりのポーも同様だった。ポーなど瞬速縮地で先に進もうかと考えていたくらいである。
しかし、それでは先に何かあったときに危ないので、ハトホルと雅嵩の発案で、台車用に細工した板にカメラとICレコーダーを乗せたものを先に通して見ることになった。それ用の動力は用意がないので、棒を使って押す。押すのは当然男性陣のカイ以外。しかし。
「あら、案外力がないわね」
「‥‥それは、種族の違いでは」
雅嵩がぼそりと返したのは、ハトホルに対して。ジーンはちょっと呆れ気味で、レーヴェは無表情なのか仏頂面が極まったのか分かりにくい顔付きだ。彼ら三人より、ハトホルのほうが力強かったりしている。最年長の群青と二人でいい勝負。
「ま、出来ることをやっとく」
ジーンは速やかに頭を切り替えて、完全暗視の能力で裂け目の向こうを覗いている。雅嵩は一角獣救急箱を自認しているし、レーヴェはどちらかといえば緊急時要員だろう。彩、海斗は空中要員で、ポーはなんと言っても瞬速縮地の能力がある。
群青とハトホルの活躍で、裂け目が十五メートル弱あることと、その先がまた広がっていることが判明した。カメラは板の上で何度か向きが変わったらしく、映像は今ひとつだが、とにかく広い。少なくとも裂け目の先一メートルまでは、平坦だ。
「それやったら、ライト照らしてくれたら、うち、飛ぶで」
面白いものが見付かるとええと言いつつ、ポーが酸素ボンベと懐中電灯の確認をしてから、すっと『飛んだ』。そういう言い方が正しいかは別にして、一瞬であちら側に移ったのは間違いない。
そうして、何か大声で叫んでいるようだが、その内容はよく聞こえなかった。危険があれば、カイが持たせた防犯ブザーを鳴らすはずなので、異常事態ではないのだろう。
裂け目のこちら側では、今にも飛び込んでいきそうなカイとシンデレラを、彩と雅嵩が止めている。特にシンデレラの命綱は、雅嵩に繋がっているのみならず、彼にしっかり握られていた。
「信用がありませんわ」
「ほら、うきうきしていないで、音を聞いてちょうだい」
彩に怒られて、シンデレラは耳を済ませた。しばらくして、皆に。
「おもろいもんがいっぱいーって叫んでますわ。なんですかしら」
戻ってきたポーからも、『なんや工場みたい』と報告があって、全員は裂け目をくぐっていった。
最初に軽い小さな人からカメラと同じ板に乗って、また瞬速縮地を使ったポーにも引っ張ってもらって移動。その後段々に体格のよい人になって、まあまあ短時間で全員が移動は出来た。
彼らは裂け目の向こうにも手前以上の広場があることを確認する。
そうして。
「東西南北の記録はOK。確認よろしく」
ジーンが心配したような磁石の狂いもなく、地下遺跡は地上の城塞都市と同じ方位に角があるおおむね正方形だと判明した。おおむねなのは、壁の作りが端っこほど荒いからだ。広さは入口地点から測って、一キロ四方。
「地上部の五分の一? 一辺は五分の一だけれど、面積は違ってくるのよね、きっと」
城塞都市にも詳しいハトホルがあたりをつけたところでは、地上部の重要施設と地下遺跡の様子はあまり関係がなさそうだった。とはいえ、通風孔らしい穴が、地上部の外壁に延びているのだから、そちらも本当は綿密な調査が必要だろう。
ただし、あいにくと今回はそこまで手が回りそうにない。
「メジャー足りなーい。糸ちょうだいー」
「降りていらっしゃい。代わりましょ」
新しく見付かった、通称『工房』の広さを細かく測っているカイと彩が、通風孔までの高さを測ろうと四苦八苦している。『工房』は裂け目から三回ほど下る段差があって、通風孔により高さが違うのだ。メジャーも届かないので、糸を使うこともしばしば。現地スタッフの飛べる人達は、天井部の幅を計っている。こちらも糸で、印を付けるとシンデレラと群青がその長さを確認していた。
「面倒だな。こうお宝でも見付かれば、潜った甲斐もあるのによ。石のテーブルなんて、腹の足しにもならねえ」
「椅子もありましてよ」
あまりの会話に、その幾つもある石の作業台と思しきテーブルと、傍らの簡素な石の長椅子の材質確認をしていたレーヴェが一度振り返ったが、二人が作業はちゃんとしていたので何も言わなかった。声に出して呼んだのは、エジプト地域の遺跡は他にも潜っていると話していたことがある雅嵩だ。
「これは、エジプトの地図だと思うがどうだ?」
手が足りないので、全員が撮影作業も行っていたが、その途中でレーヴェが見付けたのはテーブル面の裏部分に掘り込まれた荒い筋だ。雅嵩が見ても、確かにエジプト。細かいところが怪しいが、かなりよく描けた地図だろう。
ライトを持ってきたポーが覗いても、確かに地図。ところどころに点が打ってある。彩色はされていない。
「あ、このテーブル、上の部分は置いてあるだけやな」
ポーがテーブル面がはめ込みでもなく、なんらかの接続もされてないことを発見し、考古学者が見たら号泣しそうだが、皆でえいやとひっくり返してみた。
「どう見ても、エジプトだわ。でもこの点、何かしら‥‥」
エジプト出身のハトホルのお墨付きも出た地図は、有名都市や遺跡とは関係なさそうなところに点がある。あいにくとこんなところに地図を持ち込んでいる人がいなかったので、何枚も大きさを違えた写真と映像を撮って、彼らは上に戻って‥‥
翌々日のイタリアはヴェネツィアで。
「ふうん、どう見てもこの地図の点の一つがあの遺跡だわね」
「けれど、あの遺跡だってまだ簡単に調べただけだよ。そもそも作りがおかしいからね。我々はあそこを集中して調べる。他の点は、信頼できる誰かに任せよう」
遺跡発掘のスポンサーの一員であるシンデレラの祖父母が、城塞都市から送られてきたエジプト地図石版の印と、手元の地図を見比べて、相談していた。
そう。地下遺跡で見付かった地図にあった点の一つは、確かに城塞都市の場所と重なったのである。
それでもって、城塞都市では。
「ええんか、ハトホル」
「そうだよ、駄目だったら怒っとかないと、絶対にこれから隠れてやるよ」
「私は異国人の飲酒にうるさく言うつもりはないけれど‥‥隠れて飲む態度は褒められないわね」
とりあえずすごいものが見付かった気がするので祝杯を挙げようと、ハトホルから見えない場所に隠れた有志が、ワインを飲むために集まっていた。隠れ飲酒。一番体を壊しやすいが、当人達は楽しそうである。
それがハトホル率いる一団に強襲されるまで、あとちょっと。