獣人Drs ・DVD製作アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 5.5万円
参加人数 8人
サポート 6人
期間 07/25〜08/03

●本文

 七月の三連休初日。弱小番組制作会社『るうぷ』に所属する英田雅樹は、自分の部屋で暑さと重さに苦しめられて目が覚めた。
「おかしい、なんでだ」
 暑いのは季節柄仕方がない。問題は、起きたら自分の胸を他人が枕にしていたことだ。そのせいで余計に暑かったに違いない。
 もう一つ問題なのは、英田がどんなに思い返しても、昨夜の寝る直前の記憶が出てこないことだ。昨夜はしばらくかかりきりだった番組の一応の打ち上げがあって、けっこういい気分だったので帰り道に更に缶チューハイを買って、帰ってきて飲んだ。
 久し振りに、と言うか学生時代以来の十何年ぶりに、飲みすぎて記憶が飛んだらしい。
「ま、いいか。暑いな」
 自分が、昨日帰ってきてから着替えた部屋着のTシャツとハーフパンツ姿で、まだ隣で寝ている同僚の皆川紗枝が彼のパジャマを着ていることを見た英田は、すっぱりと考えるのを止めた。これで知らない人が隣にいたら問題だが、そうではないからいいのである。
 それに、昨夜脱いだ時にベッドの上に放り出したままだったジャケットとスラックスがきちんとハンガーにかけてあって、紗枝の服はライデングディスクの上にきっちり畳んでおいてある。細かいことは、彼女に聞けばいいと英田は簡単に考えたのだが。
「お、買い出し日和だな。さすがに車は無理だが」
 まだ自分が酒臭いのに気付いて、英田は目いっぱい窓を開けた。外も暑いが、空気が入れ替わるだけでもいい気分だと思っていると、背後でどしんと音がした。振り返れば、予想通りに紗枝がベッドから転げ落ちている。
 そうして、目が覚めた彼女は、英田を見上げてこう言った。
「なんであたし、雅ちゃんの部屋で寝てるのかなあ?」
「おまえ、あんなにぴっちり服畳んで、記憶がないのかよ」
「えー、あー、あたしってば偉いなー。ちゃんと洋服畳んで、パジャマに着替えてるしー」
「俺のパジャマだけどな」
 結局二人とも昨夜の自分がなにを考えていたのかは、まったく思い出せなかった。けれども『この暑いのに、なんで二人で寝ようと思ったのか分からない』と意見の一致を見ている。
 おかげで余計に昨夜の自分のことが分からないとぼやいたが、それはお互い様なので喧嘩にはならなかった。
 代わりに。
「雅ちゃん、お酒の翌日は大根のお味噌汁がいいんだってば」
「買い置きがないんだから、わかめと油揚げで我慢しろ」
 と、まずは朝食のことで喧嘩をし。
「紗枝、トイレ掃除で一時間もかけるな」
「ここ三ヶ月もざっとしかしてないんだから、気の済むまで磨かせてよー」
 その他諸々、あらゆることで喧嘩を始めた。
 結局、料理関係を英田、掃除洗濯を紗枝が譲らずに、三日間を過ごしている。

 そうして連休明けの火曜日。
「連休は、二人でどこか行ったりしたんですか?」
「しない」
「なんで?」
 久し振りに落ち着いて社員三人が顔を揃えた始業前、後輩の金山圭吾に問われて、英田も紗枝も『何でそんなことを訊くんだ』という態度である。金山が不思議そうに、重ねて尋ねた。
「じゃあ、三日もずーっと二人でおうちにいたんですか?」
「料理してた」
「お洗濯とお掃除してた。カーテンもシーツもフロアマットも、全部洗っていい気分〜」
「‥‥買い物しかお出掛けしないで、つまらなくないですか? それともやっぱり、結婚して長いとそんなもんだっていうのはホントなんですか?」
 仕事の書類をばさばさと分け始めていた英田と紗枝が、金山を見る。目付きがちょっと怖かった。声はもっと怖かった。
「「ルームシェア」」
「‥‥は?」
 金山がハモった声に首を傾げると、今度は畳み掛けられた。
「俺達は事実婚でも同棲でもない。単なるルームシェアだ。住民登録も別々だぞ」
「そうよぅ。ルームメイトなんだってば。どうして皆、すぐ勘違いするのかな」
 入社してからずっと信じていたことを真っ向から否定され、金山はしばし硬直した。その後、言わなきゃいいのに余計なことを口にする。
「え、じゃあ、英田さんと紗枝さんって、全然そういう関係じゃなかったんですかっ!」
 しばし静寂が『るうぷ』を支配して‥‥
「始業時間だな。DVD作成のスタッフ、集めとけよ」
「午後から、演奏会の会場見てくるから。さ、今日もバリバリお仕事しよー」
 金山は、『大人なんて嫌いだ』と呟いている。


『獣人ドクターズDVD製作スタッフ募集』
 放送終了した同番組のDVD製作スタッフを募集します。
 DVDは全十三話を一から四話、五から八話、九から十三話の三巻構成で、それぞれに出演者インタビューなどの特典映像付き。
 今回のDVD製作では、そのほかに既存の映像から特典映像の編集を行ったり、製作裏話などを盛り込む予定。このため、同番組に関わったことがあるスタッフ、出演者、音楽担当者を優遇します。
 期間内に特典として製作出来るものであれば、新規のアイデアも受け付けます』

●今回の参加者

 fa0388 有珠・円(34歳・♂・牛)
 fa1402 三田 舞夜(32歳・♂・狼)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2084 Kanade(25歳・♂・竜)
 fa2249 甲斐 高雅(33歳・♂・亀)
 fa2411 皐月 命(17歳・♀・アライグマ)
 fa2661 ユリウス・ハート(14歳・♂・猫)
 fa3109 リュシアン・シュラール(17歳・♂・猫)

●リプレイ本文

 『獣人ドクターズ』DVD作成に集まったのは、あまり代わり映えのしない面子だった。ここで製作関係一新と言うのも怖い話なので、それはそれでよい。今回は実際にはしなかった特殊メイクの撮影が入っているため、その方面の担当として皐月 命(fa2411)が加わっていた。応援に中松百合子がいる。
 他は製作スタッフから有珠・円(fa0388)、蓮城久鷹(fa2037)、Kanade(fa2084)、甲斐 高雅(fa2249)が、出演者からは三田 舞夜(fa1402)、ユリウス・ハート(fa2661)、リュシアン・シュラール(fa3109)の三人を中心に、谷渡初音、黒曜石、エミリオ・カルマ、田中雪舟、乾くるみと来られなかった人の方が少ない集合振りだ。
 ただし。
「録音機材、足りてる? 撮影も人手大丈夫? 紗枝さん、スケジュール段取り悪すぎ」
「空いてないのに、無理してきてもらったんだってば」
「録音がカナデさんとうちやろ。撮影はヒサさんとアリスさんと、カイさんも頼めるやろか」
「カイの旦那より、金山に入ってもらおうぜ。録音で手が足りなかったら、三田さん、あんたも本職だろ?」
 一日で、DVD特典の出演者対談を全部録音、撮影と言うスケジュールに、カナデが今にもぷっちりいきそうだ。メンバーの特性を速やかに把握したメイがてきぱきと仕事可能か確認を入れ、ヒサが軽く訂正を入れている。
「低予算にしたツケが、一度に押し寄せた感じだね、英田君」
「もうすぐ応援が来るから、心配せずにやってくれ」
 『るうぷ』元社員達が駆けつけた頃には、すでにアリスとヒサ、カナデにメイが対談を同時進行で進めるべく準備を終え、英田に手伝わせたカイ君が各話の録画放送セッティングを終えていた。
「あ、こんにゃくアイスが溶けちゃうのー」
「早くしまっておいで。今夜の炊き出しはカレーかね」
「‥‥撮影の時にたくさん食べたので、別のものがいいです」
 準備の様子を興味深げに眺めていたジュールが、下げてきた保冷箱を掲げて、アリスに急げと促されている。そんなアリスの戯言に、真剣に答えたのはルカだったが‥‥出演者達も揃って頷いていた。
「アップルパイ、好き」
 ジュールが主張していたが、さすがに夕飯メニューにアップルパイはないだろう。デザートはこんにゃくアイスがあるようだし。
 何はともあれ、作業開始だ。

「今日来られなかったのは、エリューシャとウェイ、夜啼鳥にレリア、リディアか。許せ、皆。俺にはやらなくてはならない使命があるんだ。何しろ仕事だからな」
 マイヤーが『何を言うつもりだ』と居合わせた出演者達に詰め寄られつつ、初音やくるみとの対談を行っている。相手二人が『NGが多くて、他の人に迷惑掛けた』『普段の自分とのギャップにてこずった』と反省しているのに対して、当人はいつものとおりにブイブイ言わせていた。
「自分、演技じゃなくて地でやってました。谷渡さんとは普段から、本当にああいう会話してますから。所属事務所で」
 上から予算がつかないから、請求できる熊野が心底うらやましかったとかなんとか。対談相手を持ち上げたり、茶化したりと忙しいトークを繰り広げている。
 そんな彼に用意されているNG集場面は、共演者を本名で呼びまくるシーンの二十連発だ。『一番NGが多かった人』のテロップが、本当に『地』だったことをうかがわせる。

 対談相手をマシンガントークで呆れさせているマイヤーと対照的に、ルカは呆れさせられていた。相手は黒曜石、またはエミリオ。この二人がべらべらと自分の意見をしゃべるので、彼は押されっぱなしである。
「そこでラガルの得意料理を違うものにしてくれれば、あんなに撮影中の食事がカレーにならないで済んだんですよ。せめて和食とか、そういうジャンルで言ってくれれば」
 そんな中、やたらとカレー漬けにされた撮影中と合間の食事、消え物を捨てるなんてもったいないと、ロケ弁ならぬカレーライスだった理由を知ったり、
「いやあの、個人の衣装に対する情熱はそれでいいので、買ってくれた方へのコメントを。携帯をマイクに近付けると、音が入るから止めましょう。その自前携帯、ごてごて‥‥」
 対談の進行に気を配ったりと、本編とはまるで別人の気配り君に変貌していた。なのに。
「おまえ、彼女が来なかったからイライラしてるだろ」
 とマイヤーに突っ込まれ、椅子から転げ落ちそうなほど脱力していた。

 そんなドクターズとはまるで別世界だったのが、ジュールと雪舟の親子対談である。
 まずは名前の違いでまったく予想されていなかっただろう、『実は本当に親子なのです』告白に始まり、基本的にはパパ主導。ジュールは進行予定表にカンペを見ながら、汗だくの会話なので致し方ない。
「親子なのに短毛種と長毛種なのはおかしいと、視聴者の人からご意見があったそうですね」
「そーなの。でもお父さんのゼロとお母さんのフローリアがいて、オリジンはお母さん似なの」
 段々会話が調子に乗ってくると、今度はジュールの地が出て、これまた会話にならない。『お母さん似』の一言で片付いてしまったので、次の話題に移るのだが。
「この時お父さんが見ていたDVDは、実はお父さんが歌っているのなの」
 今まで共演者も知らなかったような事実が出てきて、なかなか目が離せない。この場合は、耳が離せないだろうか?

 なんともすごい現場だとメイに感心され、経験者一同は苦い表情になった。時間はすでに午後十時、明日も来てくれる手筈のジュールもさすがに、父親と一緒に帰っている。それを確認してから喫煙を始めたカナデが、
「スケジュール管理」
 地の底から響くような声を上げたが、紗枝はこんにゃくアイスを食べながら、特典CD用の曲を聴いているから、耳に入らない。机に広げてあるのは、メイが作った携帯ストラップの原価計算とかそういう書類らしい。
「普通に仕事をしている姿を、珍しいと思うのもどうなんだかな」
 ヒサも零しているが、紗枝は撮影の時は倉庫から音源や資料映像を取り出してきたり、ロケ現場への案内が主だったので、書類とにらめっこしている姿は確かに珍しい。などと、皆で会話しているので、メイがなんとも言えない顔付きだった。
「ところで、特殊メイク用の準備は出来た? 予算大丈夫だった?」
 獣化していることが公に出来るはずもないので、今回の特典映像には特殊メイクシーンも入る。これはさっきまでメイと百合子が準備していたが、消え物がもったいないからと食べてしまった低予算番組なので、カイ君は必要なものがちゃんと準備できたのか不安である。何度もその件は英田に念押ししていたが‥‥
「それは平気やで。色々つてがあるんやろな。他所で使うたそれらしい品物、いっぱい借りてきてくれはったし」
 普通のドラマでは衛生上の問題から絶対にやらない消え物流用の食事をしても、こういうときはケチらないらしい。これを聞いたヒサが席を外したのは、特撮用のグッズの撮影に向かったのだろう。アリスが持ち帰るなよと呼びかけて、
「どうせ、泊まりだけどね。あ、明日の朝は野菜スープがいいなー」
 その後口にしたのは、通りがかった英田へのリクエストも含んでいる。ルカが、カレーでなければ何でもいいと、まだ言っていた。
 この頃のマイヤーは、大変マイペースに作曲した番組イメージ曲の打ち込みをしている。

 翌日からは、特典映像の特殊メイク撮影担当がルカとメイとヒサ、音源担当マイヤーとカナデ、特典おまけ映像作りがカイ君とアリスとなって‥‥ジュールは雑用係だ。時々特殊メイク担当に呼ばれて、『撮影合間の風景』として、獣人姿でゼリー飲料を吸っているシーンを撮られたりするが、基本はコーヒーを淹れたり、ゴミを集めたり、出来上がったゲームのテストプレイをしたりである。最後のが、一番楽しい。
 しかし、仕事は楽しいばかりではない。
「映像がたくさんありすぎ。このボードに関係しそうなシーンがあったら呼んで」
 アリスに呼ばれて、テレビの前に座らされ、いつの間にこんなに取ってあったのかと思うような撮影合間の映像にNG映像を大量に流し見て、指定のシーンを拾う手伝いをさせられている。アリス本人はその間にDVDで使う静止画を撮影して、選んで、合成して、メインキャラ全員のデフォルメイラストまで作っていた。人物写真は大半がヒサの取り貯めた映像からの流用だが、中には昨日のうちに撮ったものもある。いつのまにやらだ。
 そうかと思えば、カイ君は特殊撮影効果について薀蓄を語ったり、実際には使っていない画面を作ったり、そのうえでミニゲームまで作成。これをクリアしたら、番組HPから秘密のページにアクセスできて壁紙や着メロをダウンロード‥‥と紗枝や英田とあれこれ言っていたが、紗枝は放映局ではなく、スポンサーに話を持って行ったようだ。
「携帯待ち受け画面はどれにするか〜」
 ある意味、自分で自分の首を絞めている気配だが、当人はノリにのっている。
 こちらとある程度連動しているのが、顔にいろいろ塗りたくられているルカと、塗りたくったり張ったりしているメイ、その様子を一人で複数台のカメラを操って撮影しているヒサだった。
「今口を開けたら、おいしゅうないもんが入るで」
 ルカは番組で最も多い猫獣人だから、代表でモデルになるにはちょうどよい。しかし本職俳優とはいえ、特殊メイクが必要な仕事などほとんどしてこなかったルカには、メイク中はなかなかの苦行である。メイの手際はよいが、そもそも時間が掛かるものでもある。
「これで撮影が入ったら、本当に辛かったかも」
「カレーのほうがましか。確かによく食わされたけどな」
 撮影しているヒサは苦笑しているが、それは彼らが撮影以外の作業中は結構いいものを食べていたからだ。値段が、ではなく、料理趣味の英田がレトルトもインスタントも許さなかっただけだが。
「あ、その角度が入るならライトの位置を直すから待て」
 この撮影は特撮ファン向けなので、いかにも本当にやっていたように、でも細かいところまで移りこんでいる必要はないという、なかなか難しい代物である。ヒサはその辺を誤魔化すのに、影のつき方などで色や輪郭がわざとボケるようにしていた。
 もちろん、モデルとメイクの二人もこれに協力しているので、作業は案外と早く終わった。
 対照的に、作業が多すぎてちっとも終わる気配がないのが音響関係だ。クラシック音楽が番組の基礎にあるのだから、音楽関係は絶対に手を抜けない。更に特典CDや新規作曲など入れたので、カナデもマイヤーも多忙を極めている。
「あ、特典の他に熊野セレクトを入れたら、ブックレットの表紙がもう一枚必要じゃないか。それだと色違いは芸がないか?」
「あー、そうかもな。じゃあ、熊野直筆タイトルロゴでどうだ」
「よし、書いてくれ。今用紙の準備するから。色はどうするかな」
 特典CDだらけになりそうな気配だが、それがクラシックである限り、スポンサーからの苦情はない。ある意味やりたい放題だ。とはいえ、一つ物が増えれば付随する仕事も増えるので、こちらも自分で自分の首を、大喜びで絞めている気配だが‥‥困ったことに、今回の面子はその無茶がかろうじて通る配分だった。
 特定映像などの音編集の段階では、その心得がある全員が携わる状況であっても、まあなんとかいけそう。
 毎深夜、ないし明け方、ジュールが自宅で年齢にふさわしくすやすやと寝ている頃、まるで屍のように倒れ伏している人々が多数なのだが、それはそれ、いつものこと。

 そうしてなんと、彼らは作業終了予定日の半日前に、仕事をアップすることが出来たのである。
「わーい、よかったのー」
 一度、特典映像張りに英田に背負われて車で送られたジュールが、ぱちぱちと拍手をしている。彼が言いつけられた買い物をしている間に、他の面子は経費で銭湯代を出してもらうという珍しい経験をして、さっぱりとしていた。唯一の女性のメイは、経費をケチられたのか紗枝の自宅に連れて行かれている。戻ってきて。
「ここでいうこととちゃうかも知れんけど、表札が英田さんの名前と一緒やったんよ」
 うちは行ってよかったのかと、ちょっとばかりお悩みのメイに、カナデが全然構わないと言い切った。今更驚くこともないらしい。金山に色々あったらしいことを聞かされると、
「仲悪いよかいいだろ?」
「大人ってのはそういうものだ」
「元夫婦かと思ってたけど。大人ってのはずるい上に汚い存在なんだよ」
 カナデ、ヒサ、カイ君の順でぽんぽんと肩を叩いている。もちろん金山の。
 そんな彼らを見ている未成年のジュールとルカは、『へぇ〜』と言い出さないのが不思議なくらいに、妙な顔になっていた。それなのに、誰もがフォローを忘れている。まだ全員疲れているようだ。
 あんまり疲れているので。
「カレーでもいい、飯が食いたい」
「人のことを言うと、馬に蹴られるぞ。ただし、メールは必要だな」
 アリスに釣られてご飯ご飯と言いながら、何人かはマイヤー同様に誰かにメールを打っている。と、そこに。
「みんなで仲良く何してるの〜? 彼女にメール?」
 飲み物を買い込んできた紗枝が、ひょっこり顔を出して言った。これに思わず。
「嫁さんに、今年の水着の話」
 とカイ君が答えたので‥‥
「ごちそうさまー」
 話がねじれて、カイ君が皆にご馳走するような話になり、転じて。
「恩を売っとくから」
 と、追加購入された飲み物とデザート代の領収書を受け取りつつ、英田がにこやかにそう口にした。
 関係者以外には、『いいもん食べられてラッキー』というだけのことである。