【城塞都市】地下工房中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
13.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/10〜08/19
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●本文
エジプト某所の遺跡である城塞都市の地下には、人間には知られてはいけないもうひとつの遺跡がある。先日までは『地下遺跡』と呼ばれ、現在は『地下工房』と仮に名付けられたそこには、まず地下三十メートル時点までほぼ垂直に落ちる壁がある。これは城塞都市の城壁にあるエジプト神話の神トトと水時計のレリーフで塞がれていた入口からの計測だ。
なお、このレリーフは四箇所、正方形を描く位置取りであるが、他の三つの入口は途中から細くなっていて下には降りられない。
そして、唯一の入口から地下に降りると、そこは伏せた漏斗を半分に切ったようなドーム型になっていて、入口側とは反対の壁際の地上近くが五十センチばかり裂け目となって、次の間に続いていた。約十四メートル半を這い進めば、そこにあるのが『工房』だ。
さすがに地下なので炉の跡は見付からないが、それ以外の鍛冶工房にありそうな道具立てが幾つも残っている。大半は石造りで、長らく使い込まれた様子が伺える、ある意味アンティークだ。または考古学的資料。
この中の、幾つかある石のテーブルのうちの一つに、エジプト地図にしか見えない図が彫られ、意味ありげな点が削り込まれていたのである。
その点の一つは、まさに『地下工房』を抱える城塞都市の場所を示していた。
「一つがここ、別の一つはウェンリーが潜ったリバーススフィアの近距離、他にルクソール、テーベとなにかこう遺跡が多いところにあるようね」
「全部我々で確認するのは無理だから、WEAのしかるべき筋に話は通しておいたよ。ルクソールなど、学術研究でそれなりの後ろ盾がないと発掘許可が下りないだろう。あと費用も」
実は城塞都市はともかく、その地下はこっそり発掘作業をしている表向き文化その他諸々保護団体である、獣人組織の偉い人々は、時々正論をこねるのが好きだった。しかし、もともとたいした人数がいる訳ではないところに持ってきて、現在城塞都市の保護・管理目的で滞在している人々は僅か七名だ。うち二人がこの都市が初めて、別の二人は一度しか来たことがなく滞在時間が短い。挙げ句にもっとも長時間の滞在者は、遺跡発掘の専門家ではないシンデレラという頼り甲斐のなさが歴然としていた。
残り二人がシンデレラの祖父母で遺跡探索の経験豊富なパナシェとアレクサンダーで、今回お初の二人もその仲間なので経験は十分なところが、一応『保護、管理』をしていると言える理由ではある。
しかし、この七人だけで遺跡の管理をして、ついでに『地下工房』の中の更なる発掘作業となると、とてもではないが手が足りなかった。そうなれば。
「うふ。こういうときはぁ、若い人に来てもらってぇ」
「どんどん働かせろ。どんどん」
まったくだと、往年のお姉様達が頷きあっているのに、同年代では唯一の男性のアレクは反対などしなかった。どうせ人手は必要なので、骨のある若人がたくさん集まるとありがたいと思っただけだ。
そんな彼の孫のシンデレラは、兄二人とこそこそ飲酒をしながら、相談していた。
「私は大学にはまだ戻りませんわよ。だってこのお仕事が楽しいんですもの」
「おまえ、遺跡探索は嫌だって言ってたじゃないか」
「そうだよ。それに大学だって長く休むと、復学してから大変だぞ」
「お兄様達が二年近くお休みしましたから、私ももうちょっとお休みしていいはずですのー」
わがまま妹、兄達を振り回すの図。
とりあえず『地下工房』を更に発掘、調査してくれる人材を募集である。
せめて、この遺跡が何を目的に使われていたものかが分からないと、次の遺跡探索にはいけないらしい。
●リプレイ本文
今回、応援に呼ばれてくれた八人は、大半が遺跡の関係者と顔見知りだった。そうでなくとも、全員と初顔合わせという者はいない。
「なにかこう、ひしひしと感じるものが。また面倒ごとを押し付けられそうで」
「過去のことは水に流してお願いしますね」
フゥト・ホル(fa1758)と御影 瞬華(fa2386)がそれぞれ関係者への挨拶にしては、微妙なことを言い、でも不思議そうだったのは草薙 龍哉(fa3821)だけだ。後はこの遺跡が初めてのベアトリーチェ(fa0167)も、そうではないケイ・蛇原(fa0179)、高邑雅嵩(fa0677)、敷島オルトロス(fa0780)、甲斐 高雅(fa2249)の四人も、至極当然のような顔で似たような挨拶をしている。
幸いにしてリュウはその程度で腰が引ける性格ではなかったが、まあ何かしら感じ取ったらしい。
「発掘ってのは面倒だな。これで金目のものが出なかったら、どうしてやろうか」
「ここの舞台で稼ぐのはいかがです? 許可が降りればですが」
敷島がぶつくさ言うのを、ケイさんがたしなめつつ、地下遺跡、カイ君発案で『トートの秘密の部屋』と命名された場所の調査が再開された。
遺跡保護団体の関係者は、六十代のアレキサンダーとパナシェの夫婦に友人のバーボネラとマルガリータ、それからアレクとパナシェの孫のピノキオとネロとシンデレラで七人だ。応援八名と合わせて、総勢十五名。特技は色々、獣人種族も色々。一番多いのは、雅嵩とピノキオとアレクの一角獣。
「万が一の救急箱が三人いれば、ローテーションは心配ないな」
安心してくれと請け負った雅嵩が、他の何人かと気にしたのは前回遺跡で発見された地図の点の位置だった。特に。
「ウェンリーのリバーススフィアとおっしゃるのは、一体?」
ぽろっと往年のお姉さま方が漏らした一言に、ハトホルが食いついた。とたんにべリチェ、雅嵩、御影に敷島まで視線が泳ぐ。
「危険か? それとも誰かの名誉に関わるような内容か?」
無理に聞き出すような口調ではないが、リョウが尋ねると‥‥アレクが難しい顔で答えた。
「地下ピラミッドの一種を、ウェンリーと言うリーダーの元で発掘しているんだよ。何人か行ったことがあるようだがね。あちらはナイトウォーカー絡みの遺跡らしい。挙げ句にその中身を狙ってかな、ドンパチやる羽目にもなったようだね」
死傷者も多数出ているからと言われれば、詳細を知らずとも渋い表情になる。関係していたらしい四人は、かえって無表情になったようだ。
「こちらは六十年程度前まで、住人がいたようなのだけれど、その人達に関係者がいた可能性はあると思うのよ。さすがに誰が住んでいたかの確認が出来なかったけれど、そういうのはお任せしても大丈夫かしら?」
「総ざらいとなると時間は掛かるけれど、まあ、調査に必要って理由で試してみましょ」
べリチェの頼みはパナシェが引き受けることになって、とりあえず地下の遺跡に話が戻る。中に潜るにあたって、縄梯子と電動ウィンチのどちらの設置が適当かが話し合われ、部外者に設置箇所を見られない縄梯子に決定したり、内部調査と外部の警戒のローテーションが話し合われたりする。
その際にこの地下工房『トートの秘密の部屋』が何をしていたところかと意見が交わされて、
「幾つか他にも施設があるんなら、全部にエネルギーを充填させると他の場所にワープできる遺跡が出現する。どうだ」
「リバーススフィアは、獣人とナイトウォーカーの同化研究らしかったな」
「エジプトは錬金術発祥の地だから、オーパーツと言う意見が多いようだけど‥‥敷島さんはともかく、高邑君のは」
他言無用と言われたはずだと御影に叱られている雅嵩はさておき、敷島の意見もまあ今のところは脇に避けて、カイ君が言うように多勢はオーパーツ工房だったのではないかと推測していた。ハトホルが指摘するように、炉の存在がない工房は少なくとも鍛冶場ではないことになるのだが、わざわざ行き来も不自由な地下に潜って何か作るのはそれなりに秘密のものだろうと考えられるからだ。ケイさんは王族などの特権階級用の貴金属加工も上げていたが、それだと人間相手なのであんなに不自由な場所で作るかどうかが、やはり怪しかった。都市の歴史を詳しく調べれば、流通の有無で秘密のものだったかどうかの確認は取れるだろう。
そうして。
説明は一度でまとめてと、問題の『地図』は写真を前に全員に解説されていて、パナシェが一言。
「これ、第二次世界大戦後の彫り込みだと思うのよ」
「じゃ、これ本体にはたいして価値はねえな。何で分かるんだ?」
パナシェも現物は一度しか見ていないそうなので、この敷島の問いは全員の気分だったが‥‥しばらくしてハトホルが気付いた。彼女はエジプト出身だ。
「国境線が現在とほぼ同一と言うことは‥‥確かに近年のものだわね」
見ただけでエジプトだと分かる形の彫り込みがあったのだから、それは現在の国の形に酷似しているわけだ。中東からアフリカにかけては大戦後最近まで続々と新国家が成立した地域なので、それ以前の国境は現在とあちこちが違っている。
「まあ、それならそれで。大事なのはいつから、何のために使われていたかでしょうから。現場を見なくては、なんとも言えませんよ」
わざわざこんなものを残しておいたのは、何か目的があってのことだろうとケイさんがあっけに取られた一同を鼓舞した。
「そう、いつからが問題です。本当にオーパーツ工房だとしたら、そんなに最近まで作られていたことになって、それはそれで認識が変わりますよ」
御影が楽しげにローテーション表を取り上げて、最初の仕事の外部警戒に回っていった。半数ずつが地下と地上に分かれての活動だ。
一日地下にいたら気が滅入るし、何より生活するには様々な不具合があるので、まずは縄梯子が設置される。それでも人によっては降りるのが辛いが、その場合は誰かが抱いたり、背負って降りて間に合わせた。
「これ、絶対におかしいわ。こんなところに行き来するの、面倒すぎるもの」
「まったくだ。こちらの壁が俺の担当だな?」
べリチェとリュウが口々に言いながら、金属探知機を担ぎ出したのは調査二日目だ。一日目は縄梯子設置に思わぬ時間を取られ、ようやく行き来が楽になったのでこれを持ち込んだのである。まずはべリチェが工房で使った金属片でも落ちていないかと床、リュウが壁の一つを手の届く範囲で調べる。
同様の調査は、内部に残っていた石造家具類に対して、雅嵩がハンディタイプの探知機で行っていた。道具は誰でも使えるので、彼らが地上にいる場合には誰かしらがそれを使って、まず分かったことは。
「この作業台や椅子は、全部石材加工のはめ込み式で組み立ててあるんだな」
技術的にはオーパーツでも錬金術でもないが、大層腕のよい職人の作品であることだ。
そうしたものを作った細かい道具類は出てこないし、相変わらず炉に相当するものも見付からない。けれども明かりを大量に持ち込んで、作業台を確認したところ、何箇所か削れた跡が見付かった。これは積もっていた埃をカイ君が丁寧に取り除き、アップで写真に収めている。
「現物を持ち出すには、ちょっと重過ぎるものね」
ハトホルが言うのだから、相当に重い。組み立ててある接合部分を外してばらしても、吊り上げるのは重労働だ。
「これをどうやって持ち込んだかも、すでに謎ですな。この秘密の部屋は、作ったものを埋め込んだわけでもないようですし」
ケイさんはもっぱら地上で、実際の地図と見付かった地図の点の位置関係や交通の便を見ていたが、一度降りてきて軽く壁を叩いた。遺跡なのだからとカイ君に注意されて、こちらは反省していたが、勢いづく人もいる。
確かに、壁の向こう側の隠し部屋などを考えて、空洞がないかを調べるのは大事だと考えていた者は少なくない。けれども力いっぱい叩こうなんて考えて、実行するのは一人きりだ。
「そんな乱暴なことをする人がありますか」
居合わせた御影が、ピノキオと一緒になって敷島を止めようとしたが、なにしろ基礎体力が違う。ハトホルとカイ君が応援に入って、とりあえず壁際から引っぺがしたが‥‥
「この壁、あのあたりで岩の質が違いますね」
秘密の部屋の壁はほとんどが岩で、それを削って形を整えたものだが、御影の視力が見咎めたのは地層のような筋が縦に入っているところだった。ちょうど全体用の明かりに、個人がそれぞれ使っていた光球やライト類が集まって、薄い筋が見えたらしい。カイ君の能力なども使うと、それが高い位置まで続いているのが見て取れた。
しかも、何箇所かある。
壁を叩いた音は、反響があって聞き取り難いので、シンデレラとネロが降りてきて兎の耳を活用する。
「空洞がありそうな音がいたしますわ」
叩いて壊そうなる意見はさすがに置いて、マルチツールで小さな穴を掘ってみると、二十センチあまり進んだところで切っ先が抜けた。金属探知機には、反応はない。
「岩盤を切り出したか。それとも似たものに見えるように作ったか」
「方向は、レリーフがある方向ですよ」
ぜひともこのまま掘り進めたい者は多かったが、あいにくとそういう道具はあまりない。それと、べリチェが指摘した。
「隠し部屋だったら、何が出ても大丈夫な準備をしてから開けないと、無駄な怪我人は出さないに越したことはないわね」
警戒用に武器も何人か所持しているが、ナイトウォーカー戦より妨害を意識したものだ。敷島のオーパーツに反応はないが、それとて奥行きが分からないので確実とはいえなかった。
なにより。
「不用意に手を出して、崩れたら生き埋めだな。俺、飛んで逃げるわけに行かないんだが」
逃げる算段もある程度つけてからにしようと、嬉しくなさそうにリュウが口にした。探求途中で死んでは元も子もないと、不承不承頷いたのはリバーススフィアの経験組だった。それだけの体験をしてきたのだろう。
それでも地上部から、今までは通風孔かと考えられていた入口以外のレリーフ部分から下を調べなおすと、どうも埋めたような跡が見付かった。なので、そちらを掘ってみたりしている。
とはいえ、三箇所あっても全員が働くにはちょっと狭く。その際にカイ君がシンデレラにあることを尋ねていた。
「来月で二十一だろう?」
「お仕事のときは、十七ですの」
「なんで、仕事にかこつけて、未成年を装うのかな」
カイ君には色々と含むところがたくさんあったのだが、シンデレラの頭は難しいことを察する働き方をしていなかった。
「この身長だと、仕事がなかなか取れませんのよ。十七くらいまでの条件で、今契約しているお仕事が取れましたの。だから」
どうせ顔も大人っぽくないしと、当人はあっけらかんとしている。プロ意識って何、と問いかければ、『契約したお仕事に穴を開けない、文句は言わない』と返ってきた。噛み合わない。
この会話のことを耳にして、雅嵩やケイさんはわが身を振り返ったとか振り返らなかったとか。
ところで。
「地図で色々検討してみましたがね」
依頼期間も終了目前の日。ケイさんが全員揃ったところで地図を広げた。現在のエジプト地図に、色々と書き込みがされているものだ。
赤い点が十二箇所、これが秘密の部屋で見付かった『地図』に掘り込まれていた点の位置だ。国内各所、有名観光地には一つずつ位の割合で点在している。現在の交通網では、これらを結ぶ何も出てこない。なにかの図形を書くわけでもない。
「我々がいるここは、地下にトートの秘密の部屋があります。他に地下に何かあるところで目的が不明なのは、リバーススフィアとやらですな。ただし、位置が少しずれる」
ケイさんが指で押さえた場所に、視線が集中して、点の位置とのずれを確認した。地下の『地図』には緯度も経度も書き込まれてないから、本当にずれているのかは不明とも言えるが。
「あと、一箇所はダムに沈んでいます。調査は困難でしょう。もしもオーパーツを作っているとしたら、専門家でないとどうにもならないでしょうし」
「それじゃ何にも手にはいらねぇじゃないか」
こんな不平を述べる人物は一人だけだ。ケイさんは軽くかわして、身を乗り出している御影や雅嵩、べリチェなどに書き込まれて青いラインを示した。
「こちらは昔の通商路だそうです。これでも繋がりませんが、幾つかはここと同じくオアシスがあった地域らしいと分かりました」
「なんらかの方法であちこちに運ばれていた推測は成り立つわけか」
リュウが少しうきうきした様子で口を挟む。十二箇所も工房めいたものがあれば、『何か』が大量に作られていた可能性があるのだ。
「この先、遺物として製作物が出て来る可能性もありますよ」
はるか昔の製作物、オーパーツでなくても心が躍ると、想像をたくましくして楽しんでいる大半のメンバーの横で、敷島だけは見付かった場合の所有権についてアレクに詰め寄っていた。
「昔からオーパーツがあるといわれていた遺跡だからね、何か出てくるかもしれないが‥‥所有権は依頼主にさせてもらうよ。WEAに提出したら、活動費の支援が受けられるかもしれないし」
こちらで交わされる会話は、どこまでも現実的で夢がない。
ま、次は道具が揃ったところでがんがん掘り進んでやろうと、思う熱意の差は多少あれ、皆が考えていたところ、依頼主代表であるところのキールからはこんな連絡が。
『地上の都市部分で服飾雑誌とカタログの撮影を入れたので、地下の痕跡は隠しておくように』
活動資金の調達に、依頼主側は忙しいらしい。