下積み生活〜ミイラ盗掘中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
フリー
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/17〜11/21
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●本文
「ああ、お父様、お母様、どうして私を置いていってしまったの」
シンデレラはめちゃくちゃ高いペルシャ絨毯にひざまずき、思わずそう言いました。目にはうっすら涙が浮かんでいます。
それを見て、年甲斐もなく襟の開いた、スパンコールがたっぷり縫い付けられた、ショッキングピンクのドレスを着たおばあさまは、ふかふかの長椅子に横たわりながら答えます。
「おっほほほ、それはねシンデレラ。私の代わりにおまえが遺跡に行くからよ」
「ああ、お父様とお母様の星はどれかしら」
今は昼間です。空にはお日様がきらきらと輝いています。
ついでに。
「まあいやだ。おまえの両親はヨーロッパでお仕事でしょう。縁起でもないことを言うものではありませんよ」
シンデレラのお父様とお母様は健在です。ヨーロッパで交響楽団にお勤めをしています。今はヨーロッパ各都市を巡る演奏旅行の最中です。夜空のお星様になっている暇はありません。
おばあさまに言われてしまったシンデレラは、すっくと立ち上がりました。大きくて立派な窓に向かって、両手を広げていたりします。
「なんてことかしら。私は親にも見捨てられて、実の祖母に盗みを強いられるのですわ。どうして神様は、そんな運命を私にお与えになったの」
大絶叫です。棒読みです。最後は声がひっくり返りました。
「んまあ、聞きしに勝る演技下手。楽器も出来ないし、声がよくても発生の基礎がなっていないし、顔が人より少し可愛らしくてよかったこと」
おばあさま、容赦がありません。
そう。お父様とお母様が弦楽器の演奏家なのに、シンデレラは楽器がさっぱり上手になりません。お芝居を見るのは大好きですが、自分ではさっぱり。声とお顔は可愛くて印象的ですが、モデルのお仕事は鳴かず飛ばず。
幾ら獣人がほとんどの芸能界といえども、たくさんいるモデルの中からお仕事をゲットするのは大変なのです。ぽけーっとしていてはいけません。ましてや、撮影の合間に木登りなんてもってのほかです。
つまり、シンデレラはあんまりお仕事のないモデルさんなのでした。
そんなシンデレラに、おばあさまが用意してくれたのは。
「これで、私ももう太陽を仰ぎ見て生活の出来ない犯罪者‥‥」
「まあまあ失礼な子だこと。ちゃんと許可は貰ってありますよ。今回は撮影前の確認ということになってますからね」
エジプトのとあるお墓から、ミイラを盗むお仕事です。
窓枠にもたれて自分の世界に入っているシンデレラに、おばあさまは説明します。
それはエジプトの、地下洞窟を利用した墓地の中。随分と前にWEAから派遣された獣人の皆さんが発掘したミイラ盛り沢山の墓地に、怪しいものがあるようなのです。
「アヌビス神のいる土地柄ですからね、多少のものならかまいはしませんけれど、アライグマ獣人のミイラはいただけませんわよねぇ」
「おばあさま、私達は死んだら人間と同じ姿ですわ。ひいおじいさまのお葬式、私覚えておりますもの」
「でも、あるかもしれませんのよ。きっとミイラに被せた仮面か何かでしょうけれど、古いミイラにアライグマの仮面は問題でしょう。それをね、持ってきてちょうだい」
たくさんにミイラの中に、獣人の存在を示すかもしれない世紀の発見が眠っているかもしれません。前の発掘では、洞窟が崩れてしまったのでそのミイラをよく確認できなかったそうです。
でも最近、別の入口が見付かったので、今度こそアライグマ獣人のミイラを目指してゴー!
「他にも何人も行くようですから、ちょっと獣人らしく働いていらっしゃい。あなたのお転婆もちょっとは役に立つかもしれませんわよ」
にっこり笑ったおばあさまに、シンデレラは逆らえませんでした。
だっておばあさまは、お若い頃にはナイトウォーカーを一人で倒して強い人なのですから。
●リプレイ本文
「いーやーーーっ!」
「ふざけてんじゃねぇっ!」
「ああああぁぁあ」
砂地のど真ん中を貫いているかのような道路に、三種類の大声が木霊しました。それはもう、レンタカーのエンジン音をかき消すような勢いです。
そうして、その後方の車両では。
「ねえ、実はこの調査依頼そのものが、そのおばあさまの引っかけってことはないかしら?」
「あたいも、そんな気がしてきたよ」
「でも、洞窟墓地があって、ミイラが複数埋葬されているのは確かだ。行く先もこのルートで問題はない」
フゥト・ホル(fa1758)さんの嘆息交じりの呟きに、源真 雷羅(fa0163)さんが納得していますが、影刃(fa1705)さんは皆で探した資料の束をめくりながら言っています。その横の運転席では伝ノ助(fa0430)さんがちょっと唸ってから、他の人に言いました。
「スピード上げるでやす。シートベルトは大丈夫っすか」
四人が乗っているワゴン車の前を、シンデレラさんの運転するレンタカーがものすごい勢いで走っていって‥‥
しばらくしてからのことです。
「大変、でした」
ナイルキアハーツ(fa0053)さんが言った通りに、アルテミシア(fa0230)さんも小田切レオン(fa1102)君も甲斐高雅(fa2249)さんもぐったりとしていたのでした。シンデレラさんが、アクセル踏みっぱなしで車の運転をしたからです。止まるときはいきなりブレーキべた踏み。みんな死ぬかと思いました。シンデレラさんは平気な顔ですが。
でもとりあえず、問題の墓地に着いたのです。
今回はテレビ番組撮影前の現地確認なので、カイ君がデジタルビデオカメラを持ってきました。自前です。ミイラが撮れるなんてわくわくと、お顔に書いてあります。でも、誰かがちゃんとしないと怒ったりするのは、偉い人のふりだから。
シェイドさんも、大きな鞄を取り出しています。中には色々大事なものが入っているふりです。別のバックからは、埃や変なものを吸い込まないようにマスクを取り出して、みんなに配っています。カイ君と二人でトランシーバーの具合も試したりして、準備万端。
その間に、ハトホルさんとナイルさんは、二人で洞窟墓地の入口でお祈りしています。やっぱりお墓なんですから、きちんとお祈りしてから入るのが一番です。二人とも、きっと親切なのでしょう。洞窟の入口にいた、多分見張りをしているおじさんも、なんだか満足そうです。ハトホルさんが挨拶したら、うむうむと偉そうに何か言っていました。
ところで他の人はというと。
ライラさんは力仕事がないので、とっても暇そうです。早く洞窟に入りたいなというお顔で、お祈りが終わるのを待っています。出番はこれからなのでしょう。
シアさんとレオ君は、まだぐったりしています。洞窟に入る前に、他所の世界にいけそうだったので仕方がありません。シアさんはシンデレラさんに、レオ君は伝さんに介抱されています。お水でも飲んで、頑張りましょう。
だけど、でも、なのに。
見張りのおじさんは外で待っているというので、心の中で『ラッキー』なんて思いながら、みんなが中に入ろうとしたら、おじさんは入口に立って入れてくれません。まだ駄目って言いますけど、番組の企画表はカイ君とハトホルさん、ナイルさんが本物みたいに立派なのを書きました。許可はシンデレラさんのおばあさまが取っています。なんにも問題はありません。
どうしてだろうと、ほとんどの人が思っていたのですけれど、カイ君とシェイドさんが分かりました。伝さんを呼んで、紙のお金を二枚渡します。これは後で経費で請求しなくては。
「‥‥お役人じゃねえんですかねぇ」
伝さん、ちょっと呆れながらおじさんにお金を渡しました。もちろんその時は笑顔です。もう立派に素敵な愛想笑い。
こうしてみんなは、もう邪魔されることもなく洞窟墓地の中に入れたのでした。伝さんはシンデレラさんと一緒に、おじさんが入っていかないように残ります。
墓地の中は、前の調査の人達が行ったときには、一番奥にアライグマ獣人のミイラがあったのでした。でもミイラを作っていたころのエジプトにアライグマ獣人はいたのでしょうか。
「絶対に仮面被せてあるか、動物と人間を繋ぎ合わせてあるんだと思うぜ。日本が昔、人魚のミイラを輸出してたのと一緒」
仮面だったら、獣人の姿に戻してやっていたのかもと、レオ君は言います。伝さんやハトホルさんは、アライグマ獣人がエジプトにいたら神様扱いだったのではと予想しましたが、エジプト神話にアライグマはいません。それで番組では、その謎に迫るという企画にしておきました。
だけど、そのときに分かったのが。
「やっぱさ、ハトホルさんが言うとおりに、ばあさんのお茶目じゃねえの。シンデレラのひい爺さんがアライグマだって言ってたじゃん」
ライラさんがひどいことを言いますが、地元の人は『熊のミイラなんか知らない』と言うのです。遺跡の管理をしているお役所にも問い合わせましたが、もう随分前に調査も済んだ、普通の人達のお墓だそうです。シンデレラのおばあさまが言った調査隊は、三十年位前にやってきた、やっぱりテレビの取材のことでした。
ちなみにおばあさまは竜、シンデレラさんは兎です。シアさんが、種族が違うのになんだか親近感があってと、車に乗る前は手を繋いでいたのですが‥‥今は楽しそうにランタンを持っています。光が綺麗だと左右に振るので、目がちらちらする人がいるかもしれません。
そんなことをしているうちに、いきなりミイラが見えました。ちょっとびっくりです。
「確か奥のほうだったのよね。そちらから確認したほうがいいかしら」
ハトホルさんが言うのに合わせて、みんなでぞろぞろと奥に入ります。洞窟は掘って広げたみたいで、墓地のところは案外広いのです。でもミイラがごぉろごろ。
「これだけあれば、入れ替えには困らないか。‥‥カイ、それ違うから」
ミイラを合掌で拝んでいるカイ君に、シェイドさんが突っ込みます。エジプトで、『うち浄土真宗なんだよ』と言われても困ります。さっきナイルさんとハトホルさんにお祈りしてもらったのですから、はやく問題のミイラを探しましょう。
と、気合を入れなおす前に。
「あの‥‥ありました」
ナイルさんの指差した先に、アライグマのお面をつけたミイラが一体、安置されていたのでした。
「シンデレラさんのおばあさまって、性格悪、いえ凄そうな人でしたよね」
聞いたお話だと、と口にしたシアさんの声に、しばらくは誰も応えられなかったくらいに、アライグマはアライグマでした。
みんなで一生懸命、マスクして、手袋はめて、半分獣化したり、ランタンで隅から隅まで照らしてみたりして他のところも探しましたが、怪しいものはこれだけでした。アライグマのお面。仮面ではなくて、どう見てもお面‥‥
黄色のペンキで着色って、どうなんでしょう。
その頃、中のことなんか全然知らない伝さんは。
「そうっすか。ミイラは、昔このあたりにあった村のお墓であるこの洞窟に入っているわけですか。で、その村は?」
「もう少し南で灌漑工事が進んだので、そちらに移住になったそうですわ。おばあさまがいらしたときには、まだ何軒か残っていたと聞きましたけれど」
シンデレラさんを通訳に、訛りが強くてさっぱり言っていることは分からないけれど、気のよさそうなおじさんと話し込んでいました。伝さんが気を利かせて渡した飲み物が良かったのかもしれません。
「ところで、それならこの人、何でここにいるんでやすかね。お役人でもないって話っすし」
「役所で、テレビ撮影が来るって言っていたので、お金になるからきたそうですわよ?」
つまりぼられたのかと思った伝さん、でも鉄壁の愛想笑いは崩しませんでした。
役者です、負けません。
洞窟に入ったみんなが、げっそりした顔で出てきた時に、伝さんはちょっとおかしいなと思ったのです。だけどおじさんがにこにこと『中のビデオを見せろ』と言うので、すぐには訊けませんでした。
それで、おじさんに中で撮ったビデオをちょっと、ライラさんが先導で中を進むところや、ハトホルさんとナイルさんがミイラの解説をしているところ、シアさんとレオ君がびっくりしているところなど、カイ君とシェイドさんが撮影したビデオを見せてあげたのです。
もちろん番組撮影のための取材なんですから、合間に『この辺が映りがいい』なんて声も入っています。そういう風に作ったのですから。
みぃんな、気が抜けたお顔にならないように、とってもとっても頑張ったのです。と、伝さんは帰りの車の中で聞かされたのでした。
もう一台の運転は、シンデレラさんではありません。それだったら、誰も乗ってくれないからです。
そうして、シンデレラさんのおばあさまがお泊りのホテルに、問題の『お面』を届けに行ってみたら‥‥
「おっほほほほほ、まあ、皆さん、墓地で悪霊にでも取り憑かれたようなお顔ですわよ。アライグマのミイラは見付かったのかしら?」
おばあさまは、全部知っているかのようなお顔で笑っていました。あんまりご機嫌なので、ライラさんは面白くありません。
「ただでさえ真っ当な仕事じゃないのに、出てきたのが偽物ってのはひどいんじゃねーの。ちょっとは古いけど、ペンキで塗ったお面なんかミイラに着けるもんじゃないぜ」
その背後では、ハトホルさんが『こんな予感はしていたんです』とまた口にしています。もしも言葉が見えたら、きっとトゲトゲです。ナイルさんがそのまた後ろでどきどきしたお顔、シアさんは応援するお顔で様子を見ています。
でも、カイ君がこんなことを言うので、みんな怒っていたのが、ちょっと気が抜けてしまいました。
「アキバ属オタク亀科としては、ミイラが撮れただけで満足だよ」
「出来れば、多少怪しげでも原稿にして売れるようなネタであって欲しかったな」
個人の満足を追求しきったカイ君と違って、シェイドさんはお仕事の種にならなかったので残念そう。いえ、恨めしそう?
シンデレラさんが出してくれたお茶菓子をしっかり摘みつつ、伝さんはお面の出所を尋ねます。なんだか一応は古くて、このお仕事のためにミイラに被せたものではなさそうだからです。レオ君も、それは気になっています。全員が気にしているかもしれません。
「ペンキが剥げてるところもあるから、何年か前のものじゃないかと思うっす」
「まったくだぜ、ミイラは全然おかしいところなかったから置いてきたけど、問題ねぇかな?」
するとおばあさまは、ルームサービスで軽食を色々頼んでくれてから、こんなお話を始めました。伝さんとレオ君で、お茶菓子がけっこう減ってしまったからです。
いえいえ、他の人だって食べましたけれど。
「今でもやっている団体があるけれど、私の父は遺跡探索の一線を退いてから、後継の育成に力を注ぎましてね。自分が昔調べた遺跡に、自分の顔そっくりに作った仮面をばら撒いて、それを取って来いという」
全員、とっても嫌な予感です。
それってつまり、シンデレラさんのひいおじいさまの悪戯の名残ってことでしょうか。おばあさまは、大きく頷いています。
「お恥ずかしい話だけれど、あそこは中を進んでいるときにちょっと色々あって、最初に見付かっていた入口を崩してしまったのよ。取り繕うのが大変だったわね。それで仮面が見つけられずに、父のお仕置きもそれはもう何と言ったらいいものかしら‥‥」
誰かが言いました。
「尻拭い?」
まさにその通りです。ルームサービスでごまかされている場合ではないかもしれません。
でも。
騙されたと憤慨するみんなに、おばあさまは言ったのです。
「私もね、あなた達の年頃には父にからかわれたり、鍛えられたりしたので、気持ちはよっく分かりますよ。でも、あなた達が私の歳になったら、私の気持ちも分かるようになるわ」
それはつまり、『若人をからかって楽しむ』気分が理解できると言うことなんでしょうか。
「泣くな、子供は親も祖父母も選べないからな」
しくしく泣いているシンデレラさんに、シェイドさんが優しく声を掛けました。
そう。みんなはもう二度とおばあさまに騙されなければいいのです。でも、シンデレラさんは孫だから大変だろうと分かったので‥‥誰も変わってあげたいとは思わなかったのでした。
だ、け、ど。
「私も一線を退いて、お友達と後継者育成に力を入れましょうねと話してるところなのよ。年寄りに苛められても平気な神経になるまで、ぜひとも遊ばれてくださいな」
にっこり笑ったおばあさまに、みんなは答えたのです。
「ちょっと、お断りしたいわねぇ。レポーターには荷が重過ぎるわ」
「冗談じゃねえ。どうせなら、ナイトウォーカーとやりあうほうがいいや」
「俺は芸能人として大成したい」
「あっしも‥‥背が伸びる薬探しでもなければ、ちょいと困りやす」
「飯の種になるなら、考えないでもないが」
「また面白いものが撮れて、厳しくないところならいいかも」
一人だけ、言葉も出ないナイルさんとシンデレラさんを抱きしめて、悲しみにくれています。
「私たち、まるで魔女に魅入られた哀れな子羊のようですわ」
魔女にされたおばあさまと、そんなシアさんを他の人たちが見ています。
そんなこと言っちゃうと、また何かあるかも?