結婚式をしてほしい!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 不明
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/17〜08/19

●本文

 北海道は札幌市の某所に事務所兼店舗兼住宅を構える着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』は、大半が自前毛皮で勝負する『着ぐるみ』劇団である。中心は団長家族とその親戚だが、劇団の他にコンビニエンスストアはじめ多角経営な『ぱぱんだん』では常にアルバイトを雇用している。
 それはともかく。
 団長笹村恵一郎の次男である葉月が、時々行くすすき野のゲイバー厨房のアルバイトから帰って来たのは、昼過ぎだった。普段は朝に戻ってくるのだが、今日は仕事の後に一杯引っ掛けていたらしい。
 ちょうど揃って昼ご飯を終えたところの家族は、葉月の朝酒を誰も咎めなかった。代わりに。
「なんだよ、おまえ。朝酒とは豪勢な」
「土産はないの、土産は」
 と、長男の睦月と同居従姉妹の初美が羨ましげに言う。笹村家一同は、けっこうな酒豪だった。特にこの二人は飲む。さすがによだれは垂らさないが、この家には葉月の姉にあたるカンナがいた。
「おみゃーげ、いーでちゅね」
 ちょうだいと片手を出しているのがそれだ。カンナはプライベート時間の大半を完全獣化パンダ姿で過ごし、奇怪な幼児語を操る食欲魔人だ。酒も好き。差し出したのと反対の手で口元を擦るのは、多分‥‥
「土産はないが、仕事がある。兄貴、姉ちゃん、結婚式してくれ」
「えぇっ、睦月、初美、結婚式なぁんて、二人ともぉいつの間にぃ。ぼかぁ、気付かなかったよぉ」
 こちらの変わった口調は、彼らの父親ないし伯父の笹村恵一郎だ。カンナの幼児語が獣化時のみなのに対して、恵一郎はどんな姿でも仕事以外はこの口調。
 カンナの父親らしく、こちらもプライベート時間の大半を完全獣化パンダ姿で過ごしている。
 昼食の食卓に、一見着ぐるみパンダが二人も座って、卵かけご飯を食べているのってどうよとか、笹村家の人々は思わないのだった。いつものこと過ぎて。
 それはさておいて、結婚式である。
 実は、葉月が調理師資格を活かして時々出向くゲイバーの『お姉さん』が、彼氏と『結婚』することになっていた。それで店ではその披露宴を兼ねたお祝いをするために、料理の材料も酒もやまほど手配していたのだが、突如破談になったのである。葉月は理由は聞かなかったが、彼氏が店の中で『お姉さん』達に詰め寄られた挙げ句に、裏の路地まで引きずり出されたのを目撃している。その後、近くに救急車が来ていたような気もするが、関係は不明。
 そして、憂さの晴れない『お姉さん』達は、どこかの幸せカップルを連れてきて、披露宴だけはしたいらしい。ゲイバーだが、この際ゲイカップルかどうかにはこだわらないそうだ。
 とはいえ、こんな事情で結婚式の真似事をしてくれるカップルには葉月も心当たりがなく、仕方がないので手近な兄と従姉にお願いしたのである。
 結果、その二人に蹴りと突きを繰り出され、畳の上を転げて逃げ回っているが。
「ふぅん、にちゃものれも、キャップルだっちゃら、ちゃべほーだい、にょみほーだいでちゅか。にーに、ねーね、ちゅれてって」
 カンナはうっとりと、『食べ放題飲み放題』を思い描いている。挙げ句に連れて行けと言い出した。何をするわけでもないのに、ちゃっかりとご相伴に預かるつもりらしい。
「従兄妹で結婚式の真似事してどうするっ」
「そうよ、何ならカンナ、あんたと葉月で行っておいで」
「あ、俺は厨房だから。この際兄貴だけでもいいや、綺麗どころは店にいるから」
 部屋の中を駆けずり回っている睦月と初美と葉月が、口々に色々なことを言う。と、そこへ。
「従兄妹でも結婚は出来るのよ。本人達さえその気なら、お母さんもお父さんも反対しません」
 彼らの母親ないし伯母、いずれにしても育ての母である文子が口を挟んだ。恵一郎も頷いちゃったりしている。
「それはなくても、あんた達、こういうときに相手を頼めるような人の一人もいないの?」
 たまには彼女とか彼氏とか連れて来いと、そう含んだ文子の声に、四重奏の一言が返った。
「「「「ごめん」」」」
 どうやらこの四人には、そういうお相手はないらしい。

 そして『ぱぱんだん』は、滅多にないアルバイトの募集を始めた。
・結婚(婚約、単なるカップルの場合あり)披露宴の裏方募集。司会なども含む。
・結婚(婚約、または単なるお付き合い宣言でもOK)披露宴してくれるカップル募集。
・カップル参加がなかった場合、カップルの振りをしてくれる人募集。
 場所はすすき野のゲイバー、しかしカップルの性別はこだわらない。

 どうにもカップルが成立しそうにない場合、以下の四人がカップルの片方を努めることも可能である。

・笹村睦月 26歳 男
・笹村初美 26歳 女
・笹村カンナ23歳 女 
・笹村葉月 21歳 男

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa1401 ポム・ザ・クラウン(23歳・♀・狸)
 fa1810 蘭童珠子(20歳・♀・パンダ)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2361 中松百合子(33歳・♀・アライグマ)
 fa2672 白蓮(17歳・♀・兎)
 fa3328 壱夜(15歳・♂・猫)
 fa3500 有沢 黎(20歳・♂・狼)

●リプレイ本文

 すすき野のあだ花めいたゲイバーは、なにやら狂乱の事態に陥っていた。昨日までは、店の売れっ子との縁談を放棄した意気地なしを激烈に責めていたのだが、本日は方針を百八十度転換している。ど真ん中に置かれているのは、壱夜(fa3328)と有沢 黎(fa3500)の二人だった。
「よかったねー、男の人同士のカップルが来てくれて」
「ほんとよね。いなかったら、睦月さんと初美さんでお式だったんだものね」
「後はしっかり皆様が憂さを晴らせるように、ステキな宴にいたしましょう」
「‥‥本当にそういう問題なのかな? おもてなしのプロが相手だよ」
 姉川小紅(fa0262)と蘭童珠子(fa1810)と白蓮(fa2672)がほんわかムードで『結婚式、綺麗、素敵、美味しいものいっぱい』と喜んでいる横で、栄養士で料理にはうるさいポム・ザ・クラウン(fa1401)はちょっとばかり緊張している。
 なにしろ場所はゲイバー、いるのは乙女心満載の、日々接客業にこれ努める、本職の『お姉様達』である。楽しませるのは、もしかすると大変かもしれなかった。
 とはいえ、蓮城久鷹(fa2037)が自分への熱い視線をきっぱり無視して観察したところでは、壱とアルのおかげでお姉様達は大盛り上がりだ。すでに憂さの半分くらいは晴れているかもしれない。
「ねえ、さっきから人の輪の中に埋もれちゃったアル君が見えないけど、大丈夫かしら」
 中松百合子(fa2361)が心配しているが、アルは今回の憂さ晴らしの主役に座っていたソファに引き倒されて、『こんな可愛い子を泣かせたら、ただじゃ済まさないわよ』と脅かされているところだった。それでは見えない。
 対照的に、イチは皆様からかいぐりかいぐりされていて、滅法可愛がられている。
「最後は死屍累々決定って勢いだな」
 手伝いと賑やかしでやってきた笹村家の睦月、初美、カンナ、葉月の四名も、ヒサのこの判断には異論がなかったらしい。もちろん他の誰にもない。
 結果は見えた気がするが、憂さ晴らしの三日間はこれから始まるのである。

 いきなり宴会ではないので、その分厨房はフル回転だった。なにしろ結婚式らしい体裁が整うような料理を人数分、実に五十人分近く作らなくてはならないからだ。さらにウェディングケーキも準備する。
 日頃からこの店で働いている人々にポムと葉月が加わっても大変な騒ぎだが、全員が食品関係の有資格者なので手際はよい。ただし。
「二人とも、物欲しそうにうろうろしないの。これは明日食べるものなんだから」
 業者から届けられた食品を運んできた小紅とカンナが、厨房の入口でうろうろしてポムにたしなめられている。ポムの再度の『めっ』も短時間しか効果がなかったので、葉月が野菜スティック用のセロリの葉をむしって、それぞれに与えている。
「似合うよ、小紅ちゃんもカンナちゃんも」
 目の前の二人は、厨房の大半の皆様は知らないけれどもパンダ獣人。青い葉っぱを齧っている姿は、ポムが呆れるほどにパンダっぽかった。というか、両手に掴んで食うなという意見もある。
 まあ、食欲魔人達に付き合っている場合ではないので、ポムは二人をフロアに追いやると、隠しておいたマジパン人形を取り出した。今回の新郎新婦に似せて、更に狼と猫の耳をつける。狼と猫、小さくなると区別が難しい。
「如月に連絡したから、後で車出すけど‥‥そんなに精魂込めなくてもいいんじゃない?」
 ウェディングケーキはケーキ屋のオーブンを借りようと、葉月のつてを頼った今回、マジパンだけでも先にと気張ったポムの額は汗びっしょりだった。

 店内フロアには、別の意味で汗びっしょりの御仁がいる。
「姉御様、私、何かおかしなことを言ってしまいましたかしら」
 本業を活かして、新婦役の壱にメイクの仕方を教えるついでに、お姉様方にもメイク教室を開いていたユリに、モデル役をおおせつかったレンが取りすがっている。今回『ぱぱんだん』関係でやってきた人の大半が、ユリを『姉御』と呼ぶので、レンも真似をしたらこういう次第になったのだ。初美は腹を抱えて笑い転げている。
「平気平気、ちょっとびっくりしただけだから。時間もおしてることだし、どんどん行きましょうね」
 どこまで行くんですかと尋ねたくなるような勢いで、ユリはメイクの仕方から、衣装の色合わせの方法、髪形の整え方までレクチャーし始めた。レンも本業だけあって、その講座のモデルを良く努めたが、自身はなかなか覚えきれるものではない。幸い、その様子はヒサが設置してくれたビデオに録画されているので、後でゆっくり見返したほうがいいだろう。
 ユリはお姉様達本人のメイク道具もチェックしてやって、効果的な使い方や、追加したほうがいいものを話し込んでいる。言われている本人の他に、『女性陣』はほとんど全員が拝聴していたのだが‥‥
 何人かは、壱が選んだドレス以外の試着をしようと、ドレスの山を狙っている。これは初美が知人のところから借り出してきたものだ。ついでに彼女は、カンナに手伝わせて、お姉様達からちゃっかりオーダー衣装の注文を取っている。
「姉御、俺は確かに撮影はやると言ったが、こんな試着大会は予定外だ」
 しばらくして、山をなすドレスを次々試着した『女性陣』が、『記念撮影』だと言い出したのに付き合いつつ、ヒサはユリ姉御に一応主張していた。逆らう気配はないが、言うだけ言ってみた感じ。
 でもヒサは分かっていた。ここで『撮影しないから』なんて言おうものなら、自分の身の安全が怪しいことを。なにしろ結婚式は女の夢、それが壊れた人とそのお仲間を相手に逆らうなんて、怖いことは出来ないのだ。
 だから、結婚式会場のセットを作っている睦月が一人で苦労していても、これはもう心の中で手を合わせるしかない。もちろん『ごめん』ではなくて、『頼む』である。撮影を頼まれて、引き下がるヒサではなかった。他に適任者も少ないことだし。
 撮影会では、意外にも小紅がしとやかな花嫁風を演じて見せ、妖精のようなレンと一緒にお姉様達の喝采を浴びていたが‥‥
「いいわよねぇ、あたしもサンドリヨン好きだけど、サイズがないのよね」
「残念ですわね。でも他のドレスも似合いますわよ」
「そうよぅ。あれだったら似たようなの作ってもらえばいいんだし」
 ヒサ張りの体格のお姉様に、本気でそういう返事をしているあたりが、この二人だった。
 もちろんヒサとユリは何も聞かなかったことにしている。

 この頃、ドレス試着会を抜け出したタマと壱、アルの三人は、フロア端よりのテーブル席で話し込んでいた。タマは結婚式の司会になったので、二人に馴れ初めやら色々とインタビューしているところだ。もちろん相棒のキーちゃんも一緒。
「それで、この後はここまで移動してもらって〜、アルさん、いっちゃんが転ばないように支えてあげてね」
『お嫁さん抱っこでもイイゾ!』
「はあ、いや、それはまたちょっと‥‥そのときに考えます」
 今ひとつ日本語が達者ではない壱は、言われたことを覚えるのに必死だ。腹話術人形のキーちゃんにも興味津々だが、あいにくと時々言われたことが判らない。『お嫁さん抱っこって何?』と首を傾げた彼に、キーちゃんは『お姫様抱っこダ』とつれないお返事だった。それでは分からない。
 アルは、キーちゃんの台詞を聞いた人の大半がそうであるように、不思議そうな顔をしていた。腹話術人形なので、もちろんキーちゃんはタマが操っているはずだが、
「それでですねぇ、お色直しがこの辺に入って。聞いてます?」
『でレッとするナ』
 色々と分からなくなるアルだった。おかげで訊かれるままに、言わなくていいことも言ってしまったような気がしなくもないが、まあそれはそれ。馴れ初めは『壱の高校でのライブで、アルが運命を恋人を見初めて猛アタックをかけた』で多分いいはずだ。少なくとも、それほど間違ってはいない。きっと。
「オイロナオシって何?」
「ドレスを変えるのよ。白と青のドレス、試着したでしょ?」
 やっぱり花嫁は白のドレス、と性別はこの際度外視で、タマがうっとりしている。それがなにやら途中から面妖な表情に切り替わってきたが、アルと壱には彼女の心中を察する術はない。それだけではなく。
「あらぁ、お話が終わったなら、他にも試着してみましょうよ〜」
 同性のはずだが、胸の辺りが大層やわらかくてぽよよんなお姉様に捕まえられて、力強く引き摺っていかれていた。彼らは今回の主賓にして、生贄カップル。お姉様達を楽しませるために、粉骨砕身しなくてはならないのだ。
「アル〜、これカワイイ!」
 こちらもあまりこだわりのない壱は、大喜びでドレスをとっかえひっかえしていて、アルはそれを眺めながら、
『よだれがたれてるゾ! 嘘ダ』
 キーちゃんに突っ込まれている。

 そうして、二日目の結婚式当日。
 一応床に赤い絨毯を切り張りしてヴァージンロードと祭壇らしいものを作り、ヒサが真面目な顔で、ポムに教えてもらった結婚式の決まり文句など並べている。さすがに神様に誓えとは言えないので、その辺は大分大雑把だが、お姉様達は感涙のあまり化粧が溶けそう。ユリの手元にメイク用品一式があるのは、この後の化粧直しのためだろう。なかなか読みが深い。
 そのユリに飾り立てられた壱は、ウィッグで纏め髪を演出されて、レースのヴェールに、白の清楚なドレス姿で俯いている。実は足元が怪しいからだが、真実は知らないほうがいいこともあるだろう。何も知らないアルは、そんな壱と腕を組んで、真っ赤になりつつも、笑み崩れる一歩手前の表情でヒサに言葉に耳を傾けている。おかげで視線は真横に向かっていたが。
 こんな新郎『新婦』を見て、あらまあ素敵と素直に感動している小紅とレンはそれぞれ和服でお揃いのエプロンを着けている。彼女達はタキシード姿で司会を務めるタマと違って、この後は給仕に入るからこんな格好だ。着付けはもうユリでは手が足りず、店長のお姐さんがやってくれた。あまり手馴れていない二人でも、全然着崩れる気配もない着付けは、さすがである。お姉様達はドレスや着物で好きに着飾っていた。なにかもう、新婦より派手だが主役はこちらなので致し方ない。レンと小紅に『綺麗〜、素敵〜、可愛い〜』と褒められたお姉様達は至極ご機嫌である。
 結婚式の会場にいないポムは、厨房で葉月達と最後の追い込みに入っているところだった。式が終わったら、お色直しの間にパーティー料理を並べなくてはならないのだ。運ぶ人手はたくさんいるが、作るのは基本的に厨房スタッフなので今がまさに戦場のような騒ぎだった。仕上げのエディブルフラワーも、見た目よく盛り付け終わる。この費用がどうやって出てきたのか考えて、ポムがちょっとどきどきした、そんな料理と飲み物の準備が整ったところで。
「はい、これから新婦はお色直しでーす」
『その間ニ、ご馳走ヲいただけ!』
 フロアでは、きゃあわあと悲鳴みたいな声と、割れんばかりの拍手があって、司会のタマとキーちゃんがパーティーの始まりを宣言しているのが聞こえた。

 そこから先の出来事はといえば。
 カメラマンにしてウェイターのヒサの証言。
「いいのかね、あれを現像して。録画もダビング前にチェックしたい奴は、今のうちに言えよ。後になって驚いても知らないぞ。少なくとも、俺は責任は持たない」
 ウェイトレスと厨房お手伝いをしたレンの感想。
「作ったクロカンブッシュが好評で良かったのですが‥‥姉御様のメイクも、お姐さんの着付けもとても参考になりましたけれど、仮眠用のタオルケットが裂けていたのはなぜでしょう?」
 ウェイトレスと暴れる酔っ払いの介抱と後片付けに尽力した人間姿カンナの呟き。
「あたち、おりょーりとどれしゅ、ぜんぶせーはしたかったでちゅ」
 厨房で頑張り続けた挙げ句に、これを聞いてしまったポムの言い分。
「カンナちゃん‥‥お料理もドレスもお店の人が優先なんだから、それでいいのよ。‥‥別の機会があっても、ポムはドレスはいいからね。お料理は、あんなに作るのは大変なの。葉月君におねだりするのも駄目よ」
 それが耳に入ったのか、死んだように仮眠室で寝ていたはずのユリが口走ったこと。
「なに、ドレス? 誰の? 見立てるけど、作るのはちょっと厳しいわ。メイクなら出来るけど、いつかしら。いつでもいいわよ、ここまで来たら、もう何人やっても同じだもの。でもちょっとだけ待ってね。手が、腱鞘炎になりそう‥‥」
 この会話を耳にした、初美の宣伝。
「あら、あたしが作ろうか? お友達価格で安くするわよ」
 従姉の所業に額を押さえた葉月の制止。
「姉ちゃん、押し売りは止せ。人には好みってモンがある」
 次の瞬間に、フロアに響いた小紅の爆弾発言。
「はーい、葉月くーん、年上の女は嫌いー? あたし、美味しいもの食べさせてくれる人大好き。お料理が上手い男の人っていいわよね。どう? ‥‥あはははー、びっくりしてるー」
 きゃっきゃと賑やかになったフロアの片隅で、タマがぽろっと口にしたこと。
「睦月さん、今度こういうことがあったら、お相手にあたしを呼んでくれら嬉しいな。だってあたし、睦月さんのこと好きだもの」
 準備と後片付けの力仕事でお疲れ気味だった睦月のお返事は。
「え、あ、ありがと。今後ともお仕事でよろしく」
 次の瞬間、誰かの怒声と悲鳴と、何かすごい音が店内に響き渡った。
 しかし、今回の生贄‥‥ならぬ主役カップルの大役を全うした新婚二人は、何にも言わなかった。
 唇は、違う作業で塞がっている。