下積生活〜ドッグショーアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 0.9万円
参加人数 8人
サポート 3人
期間 08/24〜08/28

●本文

 札幌市内に事務所を構える着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』は、市内ならびに近郊のイベントに出掛けて着ぐるみ劇を演じたり、盛り上げ役をしたりするのが仕事である。他にもコンビニエンスストア経営やら、細々とした仕事をやまほどやっているが、『着ぐるみ』の大半が自前毛皮なのは激烈に内緒。
 その『ぱぱんだん』に、新たなお仕事が舞い込んだ。
「お見合いぃ! うちの誰に、そぉんなステキな話を? 睦月? 初美? カンナ? 葉月はまだ早いかぁも」
「誰があんたの家の子供達の話をしているんだね、恵さん。今時の若い人が、近所のじじいの持ってくる見合い話なんか喜ばないよ」
 その子供達がゲイバーでの結婚式なる面妖な仕事に出掛けている『ぱぱんだん』の団長、笹村恵一郎はコンビニのレジで近くの住人と話をしていた。恵一郎の言葉遣いが面妖なのはいつものことで、驚いたからではない。常日頃から、こんな人である。
 対する自称『近所のじじい』は、三本向こうの通りに広い地所を持つ人だ。小型犬の何とかいう種類のブリーダーだそうである。おうちにはドッグショーで入賞回数も多い立派なワンコがいるらしいが、今日は連れて来ていないようだ。
 この『近所のじじい』こと結城さんが持ってきてくれた仕事は、あまり有名ではないドッグショーの手伝いだった。ドックショーと言うより、血統書つきワンコが多数集まっての集団お見合いらしい。
「犬のしつけ教室と、ちょっとドッグショーと、お見合いとあるんだけどね。飼い主も家族連れで来たりするから、子供の相手をしてくれたり、会場案内の標識持ったり、チラシ配ったりして欲しいんだよね」
「うちは、着ぐるみだぁよ?」
「子供の相手には一番じゃないの。犬のぬいぐるみはないんだっけ?」
 着ぐるみだが、結城さんは昔から『ぬいぐるみ』で通している。三十年以上こうなので、恵一郎も気にしなかった。
「犬はぁ、使えるかぁな」
「あればよろしくね。後で誰か寄越してよ。細かい仕事の相談しよう‥‥そんな顔しても、うちでは人間のお見合いは紹介してないの」
 結城さんはワンコと飼い主をおもてなしする仕事はくれた。お見合い話は、恵一郎はともかく、夜になって帰ってきた子供達には興味の範囲外だったようだ。

 仕事としてはイベントスタッフ、でも場所は小規模ドッグショー会場。よくある子供相手のイベントとは違う盛り上がりがあるだろう。
 そのあたりのことを考えて、色々出来る人を募集である。

●今回の参加者

 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa1396 三月姫 千紗(14歳・♀・兎)
 fa1401 ポム・ザ・クラウン(23歳・♀・狸)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa1810 蘭童珠子(20歳・♀・パンダ)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2361 中松百合子(33歳・♀・アライグマ)
 fa3860 乾 くるみ(32歳・♀・犬)

●リプレイ本文

 お仕事の場は、小規模ドッグショー。
「つーよりは、ワンコの合コンか、こりゃ」
 主催がドッグブリーダーの結城氏と知り合いのペットショップ、協賛に近隣の獣医師や他のペットショップが細々と名を連ねる集まりは、どう見ても大掛かりな『ショー』ではない。確かに蓮城久鷹(fa2037)が言うとおりに、『ワンコの合コン』のようだ。
「わー、今時はわんこも合コンなのねぇ。今の家、動物飼えたら子犬貰うのに」
 乾 くるみ(fa3860)も嬉しそうだが、それは彼女が犬獣人だからではないはずだ。合コンするにしたって、さすがに獣人仲間とがいいに決まっている。結城氏のワンコを抱いて、ご満悦だとしても。
 これは獣人種別に関わらず、蘭童珠子(fa1810)や諫早 清見(fa1478)、三月姫 千紗(fa1396)が撫でて和んでいるが、可愛い可愛いと大喜びのタマとキヨミに挟まれて、チサは奇妙な笑みを浮かべている。どことなく疲れているようだが、あいにくと両脇の二人は気付かない。
 そうして、ワンコを抱っこしていても、試しに作ってみたらしいワンコ用のクッキーを味見してもらっているポム・ザ・クラウン(fa1401)と、作ってきたワンコ服の試着をしてもらっている中松百合子(fa2361)も気付かなかった。まあ、学生の夏休み末期、ないし始業式すぐの時期の悩み事など、多くは誰もが体験したものだ。
 宿題が、という呟きを聞いてしまったトシハキク(fa0629)は、会場設営用の様々な道具類の数を確認していたのに、笑ってしまってどこまで数えたか分からなくなった。お手伝いで来てくれたポムのダーリンのカイ君や、ヒサの友人の小夜、胡桃の友人の初音も似たような状態らしい。
 そんな事情はあっても、まずは設営を始めないといけない。

 ドッグショーの会場設営。幾ら小規模でも外せないのは、まず受付。それからワンコのために必要な設備だ。ワンコだって休憩もするし、水や食事も摂る。摂ったものが体からさよならするスペースもなければ困るが、ここの設営が甘いと会場に借りた土地の持ち主に迷惑が掛かる。
 後は人間用にも整えられた休憩スペースに、飲食物を売る簡単な売店、とても大事なペットショップのグッズ売り場スペースに‥‥
「姉御、あんた達は何をしでかしたんだ」
「いやねぇ、ちゃんと許可をもらったわよ」
 ヒサが長机を運んだ場所には、ユリとぱぱんだんの笹村初美が二人で店の準備をしていた。何を思ったのか、二人してワンコ用の服を作って売りさばく算段をしたらしい。服だけではなくアクセサリーもあるのだと知って、ヌイさんがスキップでやってきた。こちらはアクセサリー作りが好きらしく、余ったあり合わせの材料でなにやら一品作り上げていた。挙げ句に、三人で販売戦略会議‥‥準備はどうした、である。
 力仕事はヒサのほかに頼りになるジスとキヨミ、睦月と葉月とカイ君に正規のスタッフがいるので問題なく進み、ジスなどベンチの安定が悪いのを点検して、直すことまでやっていた。キヨミが他のベンチも確認して、もう一つ安定が悪いものを見つけた時には、もう道具を抱えて側にいる。そう掛からずに、設営は終わるだろう。
 だが、販売戦略会議に入っている三人以外の女性陣は、この時もまだ大苦戦していた。
「指先が乾燥するけど、クリーム使うと紙に染みちゃうし」
「この絆創膏かわいいね。余ったらくれないかな」
「動物のお仕事も、ブタさんに蛇さんで今度はワンちゃんでしょ。どこかでパンダのショーってないかしらね」
 主催、協賛の持ち込んだチラシをまとめて折り、さらに販促品の絆創膏や、試供品の犬用お菓子の小袋をつけている。ポムは作業が終わってからだと、料理をするからクリームが使えないと悩み中で、チサは絆創膏を貰えたらお得だと考え、タマは到底日本国内では実現しないことを思い描いている。カンナは黙々と手を動かしているが、口には飴が入っていた。
 このチラシ類を箱に詰めなおして、設営された売店ブースの中に収め、鍵をかけたら準備は終了だ。さりげなく、ユリ達の売り物も一緒に収めてもらっているが。


 翌日はドッグショーに出るワンコたちのリハーサルや、売店商品などの搬入があったが、それほどの人手は要さなかった。ならばお休みで結城氏のワンコ達と戯れていられるかといえば‥‥そんなはずはない。
 ポム、明日の全員分のお弁当準備。ユリ、初美と一緒に服作り。タマ、場内案内などのスピーカーテスト。ヒサ、ジス、搬入手伝い。ヌイさん、キヨミはペットショップでドッグショーのチラシ配り。チサ。
「しゅくらい、おわっちゃでちゅきゃ?」
 家の掃除をしているカンナに見張られつつ、宿題。

 そうして、ドッグショー当日。
 小型犬から大型犬まで、『合コン』にやってきたワンコと人はけっこうな数だった。もちろんお見合いが目的ではなく、ワンコが好きで好きでたまらないので見に来たという人もいるし、安売りのドッグフードその他のグッズを買い出しが目的の人もいる。
 その中で、二箇所ほど大変なことになっているのは‥‥
「はい、並んで並んで。撮影はカメラマンが来てますから、ご家族みんなでどうぞ」
 狼犬とかシベリアンハスキーとか、あれやこれや言われているのはキヨミで、迷わず誰もがポメラニアンだと叫ぶのはヌイさんだ。狼と犬の獣人の二人は、狼と縁のない北海道が会場ではどちらも『ワンコの着ぐるみ』と認知されたようで、写真撮影希望者に取り囲まれていた。ヌイさん、これを予想していたのか『ワンコ御用聞き』に立候補していたのだが、最初くらいは盛り上げ役に出てくれなきゃとぱぱんだんに押されて、大分もみくちゃにされている。キヨミは着ていた甚平の上が半ば脱げ掛かっていたが、人員整理に駆けつけたジスや睦月によって見栄えよく直されていた。
 どちらも、あまりの騒ぎにちょっと眼がうつろ。でも、そんなになるのはまだ早い。
「カメラをお持ちでない方は、百円ではがきサイズ二枚を撮影しますから」
 一組二枚限定で、主催者側が用意していたデジカメなどを使って、急遽商売になっているのだ。モデルはきちんとしていなくてはならない。
 さすがにヒサも二人のもみくちゃ具合が哀れだったのか、せっせと写真撮影に勤しんでいる。もともと撮影のプロなので、そうなると来場者達に撮らせるよりはかなり早い。出来上がりもきっと満足だろう。
 手が足りないところは、ヒサには劣るがプロはだしの腕前のジスがサポート。デジカメが二台あって本当によかった。チラシと試供品配りの仕事だったのが出来なくて、ちょっと焦っていないわけではないが、もちろんそんなことはうかがわせない笑顔だ。
 そんな彼らの周りでは、並んでいる間に退屈しないようにとポム狸クラウンとカンナパンダがチラシや試供品を配り歩いていたが‥‥子供にすらほとんど見向きもされなかった。
 おかげで、午前中いっぱいはキヨミもヌイさんもモデル役に徹する羽目になっている。
「狼犬とポメラニアンは、しばらく休憩って札を作ろうか」
「先に俺が出てやればよかったな。大丈夫か」
 主催者本部内のぱぱんだん更衣室で、死んだように横たわって休憩している二人は、なにやら唸っていたが‥‥明確な返事はなかった。
『ポメラニアンちゃんとオオカミくんは、おひるねちゅう』
 ジスが可愛く書いた札が、案内所に張り出されている。

 案内所には、チサとタマがいる。正規スタッフと協力して、受付と案内、それから迷子などの対応をするのが仕事だ。午前中は受付と注意事項などの案内、『着ぐるみとの記念撮影』への対応で忙しかったが、午後からは落し物が多発した。
 幸いにして、ワンコの『落し物』ではない。
「このお財布、持ち主が出てこなかったらどうするんだろう」
 財布がなくなっても気付かない愚か者は誰だと言いそうな表情で、チサが落し物として届けられた財布を見詰めている。他にもハンカチ、タオル、ワンコ用や人間用のスナックの袋、その他諸々の雑多な落し物が届いている。
 チサが財布以外のそれらを見やすいように籠に並べ、受付前の目立つ位置に置くのだが、引き取り手はあまり現れない。帰る人には、こまめに声掛けもするのだが、それでも滅多に減らなかった。
 挙げ句に、別の『忘れ物』がやってくる。迷子だ。
『名前ハ何ダ?』
 迷子が出ると、タマが相棒のキーちゃんと『二人』で話を聞き始める。こういう時の腹話術は効果があって、よほど大泣きしている子供でもない限りは驚いて泣き止んでくれる。この隙に、チサがべしょべしょの手や顔を拭いてやるのだが、べしょべしょを擦り付けられたりもする。
 そうして、タマは不思議なことに、子供の名前と一緒に来たワンコの名前、それから同行者を確認する。普通は名前と誰が一緒に来たかが大事なはずだが、このチサの謎は最初の迷子放送で解けた。
「迷子さんのご案内です。チワワのジョニー君と一緒にご来場の、翔太君という四歳の男のお子さんが」
 ワンコの名前も連呼されると、どの親もすぐにすっ飛んできた。二重に効果的で、迷子は大問題など発生せずに引き取られていく。
 でも、案内所は風が通らないので暑かった。それが一番問題だったかもしれない。

 なんともささやかな特技披露の場だった飛び入りありのドッグショーの後は、『ワンコの合コン』である。小型犬が多いが、同じ犬種が大量にいるとは限らないので、一部はワンコの『見せ合い』になっている。
「ワンちゃん同士が喧嘩にならないように、気を付けてくださいね」
 マイクを握って注意事項の説明をし終えたポムは、会場を見回して様子を確認した。お見合いと言っても、ワンコ達は時期的に異性にどきどきしないので、相性が良いお友達探しである。それで飼い主も話が合えば、実際に赤ちゃんがなんて話になるのだろうが‥‥
 ポムが見たところ、街中でも時々見掛ける『散歩途中に井戸端会議に突入した飼い主の輪』だった。耳を済ませれば、血統書がどうこうと言っている場合もあるが、中には以前は雑種と呼ばれたミックス犬の飼い主達が、『うちの子はハイブリッド』などと笑い合っていたりする。
 これを聞いて、ポムの頭に『そうか、獣人はハイブリッドなんだ』と浮かんだのは、なんとなく。たまには同種に拘る人がいるかもしれないが、彼女は出逢った覚えがない。まあ、色々混ざり合って楽しいと考えればいいのだろう。
 なんて思っていたら、狸クラウンと記念撮影とご所望があった。午前のワンコ着ぐるみの悪夢再び‥‥である。ヌイさんは、ワンコ達との会話で今回は参加なし。

 この日のユリは、ひたすらに売り子だった。オリジナル商品を結城氏のワンコ達に着てもらって、ヒサに撮影してもらった写真を出していたら、ペットショップのお手伝いに巻き込まれたのだ。あちらはしつけ教室が大繁盛で手が足りなくなったので、これはもう協力するしかない。会計は、レジに慣れている初美が担当だ。
「あ、これはオリジナルです。ご自分で作るキットもありますけど‥‥それはまだ予定が」
 自分のワンコに可愛いお洋服を‥‥に始まり、作るのは大変だからと買い占めていく人がいるうちはまだ良かった。ユリを悩ませたのは、『ワンコとお揃いで、同じものが着たい』というお客だ。勝手に請け負って、ペットショップに注文が入ると申し訳ないので、昨日作り足したアクセサリーをお揃いで売りつける。
「初美ちゃん、何考えてるの?」
「手が足りなくなったら、もちろんお仕事回しますよ」
 着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』、ペット洋服オーダーメイドに進出かもしれない。
 この後、二人で原価計算など始めて、ペットショップのオーナーと相談したのは内緒。

 結局一日、チラシ配りだ、モデルだ、撮影だ、迷子案内だ、落し物係だ、司会だ、売り子だと一日働いていた彼らは、夕方も遅くなってようやく解放された。実は片付けやら雑用がやまほどあるのだが、お客は無事に送り出している。落し物は色々残ったが、幸い財布の持ち主は登場した。
 片付け前に、ちょっとお茶を飲んで、甘いものでもと一休み態勢に入った一堂だったが、ポムが出したクッキーにはなかなか手をつけなかった。なにしろ昼の弁当が『ワンコ向け味付け』で疲れた体に優しくない減塩食だったからだ。なんと塩分、通常の三分の一。この時期に、良くそんな弁当を作ったなと葉月が感心していた。
 しかし。
「だいじょぶ、いい小麦だから」
 そんな弁当も『素材の味がいいから平気』と残さず食べたカンナは、『ジャムつけたほうが美味しいけど』と言いながら『ワンコ用味付けクッキー』を普通に食べていた。ポムとしては、ちょっとくらい驚いて欲しかったし、他の人々はその反応に驚いたのだが、当人は畑でむしった野菜をそのまま齧る人なので気にしない。
「空腹が最高の調味料を、体現している?」
 誰かの呟きが、事実をもっとも的確に突いていたかもしれないが‥‥とりあえず人間用のクッキーも出てきたので、皆、栄養補給に努めることになった。
 まだもう一仕事残っているのだから、うかうかとしていて、クッキーを食べ損ねるわけにはいかないのである。

 その後。
 カンナが普通に齧っていたワンコ用のジャーキーを知らずに受け取り、睦月に食べさせてしまったタマが事実に気付いて困っているのは、誰もが見てみない振りだった。
 食べてしまった兄妹は、それがワンコ用だと気付いていないことだし。