新人強化合宿☆葉月アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 1.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/05〜09/11

●本文

 と或るところに、一人の老人がいた。
 彼はその年齢では珍しかった映像技師で、歳がいってからは小さいながらも関係会社を設立し、社長をしていた。今ではもう社長といっても名前だけ、引退の考え時だ。
 なにしろ今年で八十八、世間でいう米寿である。世の中にはこの歳でも一線に立つ元気な人もいるのだろうが、彼はそこまで元気ではなかった。幾ら獣人といえども、老いは老いとして身に染みてくる。
 ただし。
「わしも、そろそろお迎えが来る頃合じゃなぁ」
「そう言い続けて十年、まだ来ませんねぇ」
 衰えてきてはいても、今すぐどうこうなりそうな気配は欠片もない。この調子で百までいくのではないかと、身内や会社の部下達は考えていた。
 今だって、茶請けに煎餅をかじりながらの発言だ。物が美味しく食べられているうちは、あまり心配しなくても良いだろう。
「でも、仕事は引退し時じゃろうなぁ」
「そう思った時が、潮時かもしれませんねぇ」
「何かもう一つだけ、やってみたいものじゃがなぁ」
「あら、お元気ですねぇ」
 連れ添って五十年、一回り以上歳が違うので義父に結婚を大反対された妻が、お茶を淹れてくれる。遅い結婚だったが、子供にも恵まれて、孫もたくさんいる。これ以上会社に拘泥することなく、社員達に後を任せてもよいだろう。
 五十年?
「もしかして、金婚式とかいうのは今年だったかなぁ」
「そうかもしれませんねぇ」
 自分の米寿はさておいても、金婚式とやらは祝ったほうがよいと、彼は考えた。結婚式は大反対されたので挙げていない。銀婚式とやらも、会社の経営に忙しい頃で花束だけ贈って済ませ、後年、子供達に猛烈に怒られた。
 ならば、妻のためにも金婚式は祝わねばなるまい。派手なことは好まない妻だが、なにか一つくらいはやってみたいことがあるはずだ。こう、金婚式のお祝いの膳を囲む以外に、何か。
 ところが、尋ねてみたところ。
「思い付きませんねぇ。あぁ、でもこの機会に遺影用の素敵な写真を撮っておきましょうかねぇ」
 葬式の準備の話になってしまった。
 その後、色々と会話をしてみた結果。
「この先親戚全部の結婚式に出られるとも限りませんからねぇ。今のうちに、あの子達の綺麗な姿を見ておきたいような気もしますねぇ。それとなんて言うんですかねぇ、あのお庭でするパーティーを一度体験してみたいですねぇ」
「では、会社の子達に連絡を取ってみようかなぁ」
「あらまあ、お仕事でもないのに働かせては怒られませんかねぇ」
 怒られるかもしれなかったし、なにより社員達では気心が知れている分、新鮮な驚きに満ちたパーティーの演出にはなりそうもない。
 ならば。
「演出家の卵やいろんな新人にお願いしてみようかなぁ」
「楽しそうですねぇ」
 どうせ集まるのは、皆獣人だ。仮に何か失敗しても経験のうちと許してくれようし、互いに刺激を受けるいい機会になるだろう。最後にそんな場を提供できれば、彼も心残りなく社長業を引退できるというものである。
 人を集めるのは、さすがに社員や子供達の手を煩わせることになるだろうが、当日は彼らもお客さん気分で楽しめるパーティーになるよう、集まった人々に頑張ってもらおう。



『吉澤六郎・光子夫妻の金婚式、並びに六郎氏米寿、光子氏喜寿のお祝いパーティースタッフ募集』
 上記お祝い事の段取りをしてくれるスタッフ募集。
 年齢、性別不問。新人優遇。
 以下の仕事を滞りなく進められれば、常識的な範囲で演出等はスタッフに一任。人手が足りない場合には、主催者身内と会社関係者有志が手伝うことも可能。

・六郎氏と光子氏の金婚式、米寿、喜寿のお祝いパーティー開催。
 場所は吉澤家庭でのガーデンパーティーを光子氏が希望。細かい条件はなし。
 庭はどちらかといえば和風。池はない。
 客数は親族、会社関係者で最大六十名程度。年齢は二歳から五十八歳まで。(吉澤夫妻除く)
 飲食物はケータリング等の使用可能だが、スタッフで作ってもよい。その場合の材料費等は支給される。
 打ち合わせ等は吉澤邸内で可能。必要があれば泊まり込みも出来、その場合の食事は提供される。


・親族若手のドレスアップ。
 未婚親族の結婚式風ドレスアップを光子氏が切実に希望。和装洋装の別は問わない。
 親族内訳(?)は以下の通り。
 男性‥‥二十七歳、二十歳、十七歳、十四歳、七歳、三歳。
 女性‥‥三十二歳、二十三歳、二十歳、十六歳、二歳。
 ドレスアップの後、吉澤夫妻と記念撮影のこと。

・六郎氏と光子氏の遺影用の素敵な写真撮影
 いわゆる遺影用、別称どこに出しても恥ずかしくない記念写真の撮影。
 夫婦二人のものと、個人のもの。何枚撮影してもよい。

●今回の参加者

 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa0750 鬼王丸・征國(34歳・♂・亀)
 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa1401 ポム・ザ・クラウン(23歳・♀・狸)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2361 中松百合子(33歳・♀・アライグマ)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)

●リプレイ本文

 パーティーの名目は夫妻の金婚式に、夫の米寿と妻の喜寿祝。
「これ以上はなくめでたい席なので、見た目も華やかで、それぞれでも一つ菓子が出来るような材料で、合わさるとそれが実に妙なる味になる‥‥そういうものをお願いしたいのですが」
 金婚式のお祝いを後進に任せることにした吉澤六郎氏と光子氏は、集まった八人の相談した中の一案、和洋折衷ガーデンパーティーの一角に茶席を設けるを大変喜んだ。聞けば、娘の一人が本格的にやっているようだ。
 それで弥栄三十朗(fa1323)は、その娘に紹介してもらった和菓子屋に出向いて、細かく主役二人の好みを伝えて、当日用の菓子の相談をしていた。
 三十朗も、わざわざ茶道の師範を手配するより、家族が振舞う茶のほうが祝いの席を和やかにするので、野点の場所や道具立て、何より場所の準備を娘と行えることをありがたく思っていた。もちろん、吉澤夫妻の食事の好みなどは、聞き漏らさない。
 そういうものを元に、当日必要な道具や小物、食事に飲み物の手配を取りまとめているのは鬼王丸・征國(fa0750)である。鬼征と言えば聞いたことがある人がいるかもしれない鬼プロデューサーだが、その横には雅楽川 陽向(fa4371)が、少しでも物事を円滑に進めるための手法を学ぼうとメモ帳片手について歩いている。今回の六郎氏の希望が『若い人に是非』だったので、その意思を尊重して鬼征も今日はそれほど鬼ではない。
「今回はほれ、庭に砂利があるのでな。椅子とテーブルのセッティングはこういうところを避ける。場所がなければ、板を敷いたりして安定を取らんとお子さんが危ないのう」
「そうやったんですか。テーブル天板の色も選んでいらっしゃいましたよね。配色は難しいと思うんですけど」
 今回、必要な各分野に手馴れた経験者が集まったので、準備は順調に進んでいる。その中で最も若く、その分経験も少なめの陽向はあれこれと采配をする立場になかったが、熱心に手順を観察をしていた。最初の挨拶からして『色々学びに来ました』と意欲に満ちていたので、鬼征も細々と意見を言わせている。出席者に事前にカードを渡して、一言夫妻にメッセージを書いてきてもらうことになったのは、彼女のアイデアが元だ。
 そうやって鍛えられる側にはないイルゼ・クヴァンツ(fa2910)とトシハキク(fa0629)は率先して当日の野点やらテーブルセッティングの位置を計測している。実はどちらも撮影の担当希望だが、夫妻が当日の料理の相談を受けているので、こちらの手伝いにやってきたのだ。ある意味勤勉な二人である。
 だが、ただひたすらに働くのが趣味というわけでもなかった。
「樹齢は三十年をくだらないでしょう」
「え? ああ、あの松か。俺もあれはいい枝ぶりだと思うんだ。記念写真の一枚はあれが背景でどうだろうね。気をつけないと、隣の屋根が入るけど」
 純和風とまでいかないが、なかなか立派な庭には、枝振りが良い松の木が一本あった。イルはそれを見上げて、感心した様子だ。あまり表情は動かないが、この家には色々と気になるものがあるようで、時々廊下でたたずんで静かに襖の絵を眺めているのが皆に目撃されていた。
 対照的にジスは気になるものがあると、家人の手が空いたところを見計らっては色々と尋ねているので、何に興味があるのかはすぐ分かる。今回は撮影と、パーティー当日用のスライド作成を主な仕事にしているはずだが、興味の範囲はそれだけではないようだ。
 それでも一応、二人で小さい子供が走り回れるスペースの予定場所の草むしりなどもやっていた。
 ところが今回の撮影担当責任者のはずの蓮城久鷹(fa2037)はこの時。
「ヒサさん」
「ヒサ君」
「あらあら、男の人って皆同じですねぇ」
 大先輩の六郎氏と、ヒサが持ち込んだカメラと六郎氏愛蔵のカメラ群を前に、二人で語り合っていた。かれこれ三時間近く。要するに他の人々が色々な手配で動いている間、ずーっと、延々と語り続けていたのである。
 光子氏と料理の相談を終えたポム・ザ・クラウン(fa1401)と、衣装の相談に掛かりたい中松百合子(fa2361)がヒサを呼ぶのだが、多分聞こえていない。部屋中に古い写真を大量に広げて、あれやこれやと話し込んでいる。その写真の何枚かは、夫婦の足跡としてスライド加工される予定だが‥‥
 仕方がないので、ポムとユリは光子氏と話を進めていたが、もはや後で文句を言われる筋合いではないと考えていた。最初に六郎氏も言っていた。苦労をかけた妻へのプレゼントだから、そちらの希望を優先してくれと。
「和装はたくさんお持ちのようですから、ドレスを準備したらどうかしらと思ったのですけど」
「お色直しみたいで素敵だね。‥‥紗枝さんも振袖なの?」
「あらまあ、紗枝ちゃんは訪問着のいいのがあったと思いましたけれどねぇ」
 吉澤六郎氏の肩書きは番組制作会社『るうぷ』の社長だ。そちらから話が回ってきたので、『るうぷ』から仕事を請け負ったことのある何人かは『そうかもしれない』と思っていたが。ちなみに紗枝というのは、社員で六郎氏の親族でもある。ユリは彼女も晴れ着で引き立ててやらねばならないのだが、当人は『面倒〜』とぶーたれていた。
 しかしユリは主賓の意見尊重だし、ポムは別のことで困っていたので、相手にしない。
 やってきた人へのお土産用のカステラに、夫婦の獣人種別に沿ったかわいい絵を焼印で入れ貰おうかと考えていたポムだが、紗枝が『二人とも豚。カステラに豚はねー』と首を傾げていた。確かに見ただけで『太る』と思ってしまうかも知れない。
 ユリは必要な衣装の手配を済ませ、他にも夫婦の好きな服を聞き出していた。と。
「姉御、いや中松さんさ。ちょっと」
 ようやく話を終えたらしいヒサがやってきて、ぼそっと一つ言い置いていった。おかげで衣装が二枚追加。

 その後も準備で色々とあったが、たいした混乱も起きずに当日。準備スタッフは、この日は黒子である。
 それぞれの仕事の都合もあって客は一度にやってくるのではないが、おおむね昼食時には顔を出すことになっていた。九時頃には吉澤夫妻の子供と孫達がやってきて、段々とそのほかの親戚や仕事の関係者が揃う。食事はいわゆる松花堂弁当で、小さい子供には大人とは違ったタイプの弁当を用意した。
 あとは、何と言っても。
「泥団子こね‥‥」
「それは言ってはいけませんよ」
 手伝ったイルと陽向が珍しくも乾いた笑いを浮かべているのは、親族子供達が昨日のうちに作ったクッキーのことだ。せっかくなので親族の作ったお菓子の一つも並べようとアイデアが出て、都合が付く子供達に来てもらい、ポムの指導の下にイルと陽向、ユリ、ジスでクッキーを作ったのだが‥‥二歳と三歳がやっていたのは、泥団子をこねるのと変わらない。一部のクッキーは指紋だらけだし、何が混じりこんだか分からないようなものもある。計画では綺麗にラッピングして当日夫妻を驚かせたかったが、子供は隠し事が出来ない。作る前からばれてしまったので、全員が摘まめるようにしてあった。
 その籠を見ての、イルと陽向の呟きである。一緒に作った彼女達も味見はしたが、たくさん食べろと勧められたらちょっと迷うかもしれない。そんな二人は、飲み物とクッキーはじめお菓子の補充を担当だ。
 場を調えての野点も行われているのだが、三十朗は玄関付近でやってくる客や仕出し業者への対応を行っていた。午前中に次々と人が来るので、誰が来るのか把握しておかないと大変なことになる。変な客で祝いの席に来る人々の手を煩わせないのも、仕事のうちだ。
 彼の場合、庭木の枝を一本払って野点の場を整えたら、庭が明るい雰囲気になったと喜ばれたので、それに水をさすような事柄が起きないようにと仕事に熱中している。
 同様なのが、鬼征で。庭を回って歩きながら、問題が起きていないことを確認していた。時々時計を確かめては、昼食前に食べ物が出過ぎないように手配をする。
 使ったコップが放置されているなんてもってのほか、誰かが落とした紙ごみは見付けたら即拾う、立ったまま話している人に椅子を勧めたり、心配りの鬼と化している。
 途中、夫妻の孫達に捕まって、クッキーを一つ二つ食べさせられていたが、当人は基本的に裏方仕事が楽しい様子である。クッキー製作現場は見ていないし。
 楽しく仕事という点では、ヒサとジスも同様だ。なにしろ相手は大先輩。基本がカメラマンのヒサは当然、撮影も学びたいジスにとってもその経験談は聞き逃すわけにはいかないものだ。さらに親族や会社の人々がやってきて、あれやこれやと男女問わずで色々な話に花が咲いている。
 もちろんその合間にも、二人で違う方向から参加者をカメラに収めたり、少人数の記念撮影をしたりしているのだが、カメラマンは他にもいて、誰が担当なのかよく分からない状態になっている。業務用のカメラも、骨董品のような古いものも出てきて、品評会のようだ。
 それでも仕事で撮影しているわけだから、彼らが記念撮影に入ることはなかったのだが。
「記念さつえい、やってあげる」
 ただいま七歳の孫がやってきて、カメラを貸せと言い出した。そりゃあ確かに、孫が撮ってくれた一枚は素敵な記念になるだろうが‥‥重いものは持たせられない。本格的なものも渡すなと、背後で親が声なく訴えている。仕方なく、ヒサがビデオカメラを貸してやり、ジスが肘を支えてやったりして、撮影方法を伝授した。
 そんなこんながあっても、昼食会が滞りなく済み、また談笑の時間になった。この時、片付けを皆に任せて、ユリは孫世代のドレスアップに奮闘している。時間が掛かるので、庭ではスライドを使って、ポムが夫妻の足跡を振り返る企画をやっていた。六郎氏本人が撮影したものもあるが、親族と会社関係者から色々な写真が集まったので、なかなか見応えのある企画になったようだ。
 結婚前の写真が出てきたら、孫娘が光子氏にかなり似ていることが判明し、現在はどっしりした体格の六郎氏に細身だった頃があることが皆を驚かせている。写真にまつわるエピソードの確認がばっちりなので、ポムも他人のことを話しているとは思えない見事な語りっぷりだ。
 光子氏はラジオ局のいわゆる受付嬢で、才色兼備の誉れが高かったこと。六郎氏とは、テレビの取材で出会ったようだ。六郎氏は光子氏の『人の良いところをすぐ見つけて褒めてくれること』に好意を寄せて、光子氏は長年『夫の努力は小さくても褒め称えること』で夫婦円満を築いてきたらしい。などなど。これらは、スタッフ全員で世間話の折に聞きだしたことである。
 夫婦円満の秘訣を語るあたりで、ポムが妙に力が入っていたのは、多分誰も気付かなかっただろう。
 ユリはユリで、子供から順にドレスアップさせていた。逆のほうが着崩れないのだが、これまた当人達が着る着ると騒ぐのでやむなくだ。ようやくの最後の一人が『るうぷ』の紗枝だったが、同僚で同居人の英田にエスコートしてもらえばと勧めても『なんで?』と分かってくれない。
 直前に羽織袴を着付けてもらった紗枝の弟が飛び出していって、英田を引き摺ってきてくれなかったら、ユリの達成感はちょっと目減りしていたかもしれなかった。
 そうして。
 着飾った親族一同で夫妻に花束を渡して記念撮影を何枚か。さらに会社関係者でも同様にして、全部揃ってまた何枚も。あいにくとドレスは『お肉が余るから』と光子氏が恥ずかしがったので、夫妻共に和装で通している。
 でも、それだけでは終わらない。
 ユリが最後に出してきたのは、白無垢と色内掛けだった。結婚式をしなかったのが六郎氏の気掛かりのようだと男性陣全員が聞き及んできたので用意したものである。イルが感じたように、彼らの年代で結婚式をしていない夫婦は多かろうが、機会があるなら写真の一枚や十枚、撮っても罰は当たらない。カメラマンはヒサとジス以外にもたくさんいることだし。相変わらず七歳児が混じっているが。
「まあ、至れり尽くせりですねぇ」
 せっかくなので髪もちょっと直して、結婚式風に写真撮影をする。残念ながら、完全獣化での記念撮影アイデアは、羽がある人々は正装が出来ないのでと実現しなかった。それでも楽しげに話し込んでいる人の輪から外れて、今度はスタッフ一同片付けだ。
 なにしろ鬼征が『宴の後を片付けるまでが宴会』と、遠足のように宣言してくれたのである。せっかく和んでいる人々の邪魔にならないところから少しずつ片付け始めて‥‥
 最後に。
「ご要望の写真はこれがいいと思う」
 遺影の撮影も、自然な表情をと金婚式前からずっと何枚も、皆と夫妻が会話しているところなども撮り貯めていたヒサが、何十枚もある候補の中から一枚取り出した。ちょっと角度が低いところからのようで‥‥どうも孫が撮影した一枚である。
「プロの君らが取ってくれた写真のほうが、見栄えよく撮れていると思うがなぁ」
 それは確かにその通りなのだが、表情の自然さではその一枚が抜きん出ている。
 結局。
「先は長いのですから、のんびり選んでいただけばよろしいのでは? たくさんあるようですからね」
 三十朗が若者にはなかなか言えない口調で、夫妻に勧めた。
 二人が楽しそうに目を細めて、そうしようと言ってくれたのが、仕事の終わり。
 陽向が驚き、ポムや鬼征、三十朗が恐縮し、イルとジスが庭ではない会場をちょっと悲しみ、ユリとヒサが素直に感嘆したのだが、仕事上がりの宴会会場はちゃんと予約されていた。出資者は親族一同である。