テーマはスクールライフアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/12〜09/16
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●本文
着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』は、日本の札幌に事務所を構える小規模劇団である。家族とアルバイトで構成される劇団員は相当流動的だが、その昔、ざっと四十年から三十年位前には大人気だったことがある。
『東京に行かなくても会えるパンダ』
当時の売り文句がこれだ。それが示すとおりに、現在の団長笹村恵一郎はパンダ獣人である。
ところで。
「ラスベガスの演劇ショーの事前審査に合格した」
ある日の『ぱぱんだん』では、珍しくも一族郎党全員が揃って会議をしていた。恵一郎に妻の文子、夫婦それぞれの両親に、恵一郎の弟夫婦、それから子供達が七名。子供といっても最年長は二十六歳で、この場で司会をしている睦月である。あいにくと、恵一郎はのんびり話す人なので、司会などさせたらいつまでたっても本題に辿り着かないからだ。
それはさておいて、ラスベガスの演劇ショーとは。
「テーマがスクールライフ‥‥学園ものってこと?」
カジノで有名なラスベガスは、一方でエンターテイメントの都でもある。この都では、それほど有名ではないのだが、年に一度『着ぐるみ演劇ショー』というコンテストが開かれるのだ。
要するに、着ぐるみと、そういうことになっている自前毛皮の劇団が世界各地から集まって、観客の前で劇をし、観客から採点されるコンテストだ。観客数が劇ごとに違ったりするので、コンテストとしての権威は怪しいが、何も知らない地元のお客への宣伝箔付けにしたり、相互交流で色々学んだり出来る場なのである。
『ぱぱんだん』は今までまったくご縁がなかった世界だが、たまたま睦月の友人がこの主催者側に就職した関係で、『日本初の参加劇団』の地位を狙って、事前ビデオ審査に応募していたところ、めでたく合格した。
ただし。
「兄貴、これはなかなか条件が厳しいな。新作限定だって」
参加するためには、幾つかの条件をクリアする必要がある。一番が、睦月の弟の葉月が口にした、『上演作品はショーで初公開の新作に限る』だった。挙げ句にテーマがあって、それが『スクールライフ』である。
「セーラーぷく。いーでちゅね」
一人すっかりセーラー服を着るつもりのカンナが、奇怪な言葉遣いで含み笑っているが、今から脚本を作って、大道具小道具の必要なものを考え、十月中旬にはアメリカに渡って準備を開始しなければならないのだ。ものすごいハードスケジュールである。
「脚本書きと、出来るだけ準備出来るように、ちょっと人集めるか」
そんなわけで、『ぱぱんだん』毎度のごとくにアルバイト募集である。
●ラスベガス着ぐるみ演劇ショー参加規程
・参加団体は、着ぐるみでの活動を主とする劇団であること。活動開始時期は問わない。
・ショーには、テーマに沿った新作劇で臨むこと。今年のテーマは『スクールライフ』
・上演箇所は主催者側指定の会場。ここで最低二回の上演を行うこと。
とにもかくにも、まずは『スクールライフ』テーマの脚本作りだ。
●リプレイ本文
畳敷きの十畳間に広げられた長机の上には、ポム・ザ・クラウン(fa1401)が作ってきたチーズマロンケーキとマロンティラミス。笹村葉月と一緒に全員分のお茶を淹れてきた姉川小紅(fa0262)に先んじて、蘭童珠子(fa1810)が机を台拭きで吹いている。 更にはカンナと半分ずつ、茹でたてジャガイモの皿を抱えたエミリオ・カルマ(fa3066)が身軽に歩いていた足を止めて‥‥
「そこで、現生徒会長が姉妹校から忍者の流れを汲む刺客を呼び寄せる。これが策謀で語るタイプで問題の番町二人を追い詰めようと画策するんだが、最終的には互いの力を認め合って、三人で学園支配。どうだ」
「どうだって、あのなぁ」
「何で番長なんだ、アメリカ人に理解できるのか」
「難しいんじゃないかなぁ」
三田 舞夜(fa1402)の熱っぽい語りで呼び起こされたのは、皆の戸惑いに満ちた視線だった。かろうじて『どうだ』と面と向かって尋ねられた蓮城久鷹(fa2037)と桐生董也(fa2764)、藤田 武(fa3161)の三人は返事をしたが、やる気を呼び起こされた様子はない。他の面子にいたっては、呆然としているか、はなから聞いちゃいなかったかのどちらかだ。
「とりあえず、皆のアイデアを全部出してから考えたらどうかな」
ポムが場をとりなすように口にして、話を聞いてないパンダ三人娘がお茶の準備を続行する。リーオは不思議なものを聞いてしまったといわんばかりの表情だったが、
「やっぱり代行だから」
と妙な納得の仕方をしていた。
彼らは『ぱぱんだん』の依頼で集まって、ラスベガスで上演する『着ぐるみ演劇ショー』の台本作りを行っていた。参考までに見せてもらったこれまでの優秀賞作品VTRは、ミュージカル調にストレートプレイにどう見ても有名アクション映画を真似したコメディやら何やらと幅広い。時々、観客が大爆笑しているがよく理解できないものもある。この辺は文化の違いだろう。
そんな資料を眺めてから、それぞれのアイデアを示すことになった最初がマイヤーの『オトコは黙って拳で語れ』アイデアだった。この場合のオトコは、『漢』と書くらしい。
私立高校内での不良同士の拳と無駄に熱い台詞の応酬で語り合う権力闘争劇は、あまり皆の心を動かさなかったようだが、睦月など机に突っ伏しているが、キーワードの一つは受け入れられていた。
忍者、である。
「忍者の学校での騒動ってあたりを考えた。最初に生徒が二つに分かれて、これは種族間抗争辺りを理由にして、喧嘩を始める。それがエスカレートしていく中で主人公の二人組は別陣営に別れざるを得ないと。その中で卒業試験が行われるが、分裂した生徒達は教師達に手も足も出なくて、主人公達の尽力で和解して、卒業試験を乗り越える話」
トウヤのアイデアだと、配役は十名程度。『ぱぱんだん』のメンバーに応援を何人か頼んで、裏方も含めても何とかできる人数だ。
「忍者はきっとうけるよね。あっちでも『いかにも』ってパターン化されているけど、知ってる人が多いんだし」
今回唯一日本以外の出身のリーオが賛同すると、なかなか説得力がある。日本で仕事をしている彼はちゃんとした忍者の知識もあるが、外国人にありがちな何か違うイメージも持ち合わせているようだ。こんな、と決めポーズを取ってくれた。もちろん、わざと勘違い系。
劇のテーマはスクールライフだが、もちろんただの学園ものでいいなんてことは誰も考えていなかった。だから忍者は悪くない選択だし、時代劇調が客受けも良かろうとは誰でも理解できる方向性だ。幸いにして、手入れをすれば使える道具を『ぱぱんだん』は豊富に所有していた。今から新しく用意している場合ではないので、これを流用する。
そのためには、早く脚本が上がらないといけないのだが。
「僕は忍者学校に、敵対する大名とかが攻めてくるのはどうかと思ったんだけど。種族で分ければ、敵味方がはっきりするってところはいい案だよね」
トウヤのアイデアにタケが自分の考えもプラスする。学校内対決か、敵来襲かの差だが、どちらも獣人種族で敵味方を明確に分けるのは共通していた。それが見ている側にも親切というものだ。
更にそれに加えて。
「小ネタなら、転入生とか体験入学がいての交流もありだが、尺の問題もあるしな。四十分から一時間までだっけ?」
「そ。最低四十分、最高で一時間。去年の平均は四十八分だって」
ヒサの確認に睦月が答えているが、これだとどうやっても小難しい人間関係を演じだすのは難しい。よって単純明快に。
「衣装も敵味方とかで色分けして、生徒は明るい色、教師は渋い色で行けば?」
転用が間に合わなければ、最悪頭巾や鉢巻でもいいんだしと、ヒサの発案である。敵がいるなら、そちらにも別の色を割り振って区別すれば、子供にも一目で分かるだろう。後はBGMも和風のものを準備して‥‥などと、細かいところを考えている。BGMはマイヤーの専門なので、そちらと二人でどうするかと相談を始めた。
「転入生と元からいた生徒の確執」
「転入を装って、実は敵のスパイだったとか。最後は忍者らしい奇策を駆使して、相手を退ける話だと勧善懲悪で分かりやすくないかな」
タケとトウヤが、すっかり『忍者学校もの』で話を進めている。
その横で、ポムがかくりとうなだれているので、リーオが何事かと様子を伺うと。
「みんな、色々考えてるなーと思って」
何故か空虚に笑ったポムの頭の中には、近未来の結婚資格を手に入れるための学校の万年留年男を巡る話や、バーチャルスペース学校などがあったのだが、今回はお蔵入りすることになったらしい。皆が相談している横で、幸せそうにマロンティラミスをほおばっているパンダ三人娘を見てしまったからだろうか。
「ぱぱんだん向けじゃないかも」
少なくとも、パンダ三人娘向けではない話だった。特に結婚資格取得学校‥‥カンナはさておいても、だ。
「あ、そういえばホテル泊まったら高いから、宿泊先はちゃんと選ばなきゃ駄目だよ」
「にーにのともらちぎゃ、こ、こん、こんど」
「コンドミニアムのこと? えー素敵ね。睦月さんのお友達が持ってるの?」
「ちゃがしてきゅれるでちゅ」
「自炊したら食費も安いしね。葉月君がいるから安心だよねー。スーパーとか近いといいね。調べてみよっか」
ヒサに裏方が必要な道具が揃うホームセンターの有無も確認するように頼まれた小紅が、パソコンを借りてネット検索を始めた。何度か仕事でアメリカに行ったことがあるそうで、『あれ? えー?』とか言いながらも、現地の詳細地図を探し当てている。それを横から覗いて、タマが『へー、すごーい』を連発していた。何がすごいのかは、聞いているだけではよく分からない。
「あの二人、行くのかな? 今兄ちゃんが向こうに行っててさ、俺、飛行機の注意事項聞いてきたけど」
リーオが気の利いたことをしているのに、小紅とタマは気付かない。カンナは自分の分のついでに、皆のお茶のお代わりを注いでいた。これまたリーオの言葉は聞いちゃいない。
「メモに書いておこうか。睦月さんと葉月君、忙しいみたいだし」
「相変わらず機内持ち込みの関係が厳しいんだって。でも貨物ならきちんと梱包しておけば大丈夫みたいだから、刀や手裏剣の小道具はきっちりまとめて袋か箱に入れないと。現地のステージはホテルの中かな? 花火は禁止なんだってさ」
ポムとリーオが参加説明書の英文を何とか読んでみたところでは、会場は同じ系列のホテルが共有する屋内ステージで、最大収容人数は六百五十人。屋内なので、発炎筒も厳禁だ。ドライアイスは使用を申請すれば使えるらしい。
「煙玉、出来るかな? あ、食べ物はエキスが使われているものは持ち込み禁止だし、生き物の検疫も大変だから、ブーとフーは多分留守番だぞ」
いつの間にか、二足歩行を覚えて『食べ物寄越せ』とやってきたミニブタ二匹を見付けて、リーオが言い聞かせている。けれどもブーとフーは何もくれない彼には用がないらしい。ポムにも駄目と手を振られると、カンナのところに行き、ポムに念押しされたカンナがしぶしぶジャガイモを引っ込めたところで。
「あ、ジャガイモ食べるの? おいでおいで」
「ほらほら、こっちが冷めてるわよ」
小紅とタマに愛想を振りまいている。『ぱぱんだん』にはいい戦力だが、こんなのをアメリカに連れて行ったら世話が大変だ。相変わらず、やたらと食いしん坊だし。
そうして、ポムに『めっ』とやられたタマと小紅は、それでもちゃんと調べたラスベガス近郊のスーパーとホームセンターの一覧をプリントアウトして、いまだ脚本で話し込んでいるトウヤとタケと睦月、葉月を置いて、『笹村一座』時代の小道具発掘を始めた。もちろんカンナやポム、リーオ、ヒサとマイヤーも一緒だ。
ゆえに。
「この手裏剣、鉄製か。なかなかいい重さだな‥‥」
「おっ、学生服もあるじゃないか。明治か大正かって風情だが」
時代劇大好きのヒサが小道具を広げて観察に入り、拳で語る学園ものが頭に残るマイヤーは風情溢れる学生服にマントを見付け出して悦に入っている。
あるはずの忍者装束を発見するのは、リーオと女性陣の手に託されたかに見えたのだが、これがまた。
「あ、この着物はお揃いだね。丈はどう?」
「あたしぎりぎりー」
「あたしちょっと短いかも」
「あらちどーきゃな?」
着物を一枚取り出してはじっくりと確認し始めたので、仕事の進み具合は先の二人と変わらない。リーオが孤軍奮闘しているが、それとて出した端から広げて、後でじっくり観察しようとか考えているのだった。さりげなく、竹光を一本確保しているし。
これでも無事に忍者装束が出てきたのは幸いだが、色がモノトーン調なので、後ほど初美が手直しすることになるだろう。色分けは、頭巾と鉢巻かもしれない。一応赤いちゃんちゃんこが複数枚出てきたので、それも出しておく。小道具類は、ヒサが念入りに選りだして、マイヤーとリーオも加わって埃を落とし、これまた仕分けてある。
なんてことをしたところで、脚本担当者達のところに戻ってみれば。
「忍者学校の在校生と留学生の間で揉め事が発生、校長の提案で教師相手の卒業試験で決着をつけることになった。もちろん在校生も留学生も百戦錬磨の教師達に歯が立たない。最終的には、双方協力して、ようやく卒業試験を乗り越えて仲間の大切さを実感する。これでどうだ」
「敵が攻めてくるのだと、力尽くで倒せばいいって解釈されたら嫌だし、留学生だと国境を越えた友情ものになっていいと思って」
トウヤとタケが双方の案を適度に混ぜ合わせたような話にまとめていた。素案を読んだタマやリーオ、小紅、ポムも異論はない。マイヤーとヒサはもうとっくにBGMや背景の話に突入していた。
「忍者学校に留学生って、どの動物にするの? 人が決まってから?」
「親父とカンナは行くから、パンダが留学生。パンダはイメージが中国だし」
「じゃ、あたしも留学生ね」
尋ねた小紅と、睦月の返事を聞いたタマがふんふんと頷いている。タマなどパスポートを取らねばと口にしているので、すっかり行くつもりなのだろう。
「僕も出来れば行きたいけど、まずは準備だよね」
「俺は現地まで付き合えるかわからねえから、今回みっちりサポートするぜ」
「そうか。中国からの刺客か。音楽は厳選しよう」
タケの申し出はよい。ヒサのそれもありがたい。マイヤーになってくると、何かが違う。
「空港の手荷物検査でスーツケース全部開いてチェックされたりするみたいだから、しっかり対策したほうがいいよ」
リーオは兄の話に、子供の時のラスベガス訪問記憶を織り交ぜて、有益なのと今はどうなのか怪しい情報を織り交ぜた話をしている。カンナが熱心に聞いているが、何か不安になったのはポムだけではあるまい。
そんなポムのところには、葉月がやってきて。
「夕飯、何がいいかな。この調子だと、皆食べてくだろうから、買い物行くんだけど」
のほほんな事を言っている。ポムの目には、小紅の耳が大きくなったのが見えた。もちろん気のせいだが、そんなイメージが鮮烈に。
「小紅ちゃん、買い物だって。行く?」
行く行くと嬉しそうにやって来た小紅と葉月が出掛けていって、それを見送ったタマが睦月に言っている。
「スーツケースとか買いに行かなきゃ行けないから、睦月さん、付き合ってほしいな?」
あんまりはっきり言うので、皆が注目してしまい、睦月も断れなかったらしい。別の日にと約束している二人を眺めて、マイヤーが口笛など吹いている。
「なんだか賑やかなところだな。いつもこうなのか?」
「いつもというか最近? 仕事しろよ」
トウヤとヒサがさらっと会話して、ヒサの言葉の後半は持っていく荷物の相談を始めたカンナとタマにだ。トウヤとタケが脚本、ヒサが背景などのコンテ、マイヤーがBGM、リーオが尺を測るための台本読みなど始めると、衣装の準備が女性陣に回るからだ。まずは洗って、手入れも必要である。
そして何より。
「この脚本、英語で吹き込むんだろうけど、大丈夫なのか?」
ヒサのもっともな問い掛けには、カンナが平然と。
「えーごちゃべるしとに、ちゃのむれちゅよ」
他力本願の台詞を返した。まあ、ちゃんとあてはあるらしいので一安心だ。
着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』、ラスベガス着ぐるみ演劇ショーに『忍者学校もの』を引っさげて参加の予定である。
皆の尽力のおかげで。