【城塞都市】工房発掘中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
13.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
1人
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期間 |
09/18〜09/27
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●本文
エジプト某所に、六十年ほど前までは人が住んでいた遺跡城砦都市がある。オアシスだったのだが水源が枯れて、住民は去ってしまった。
最近になって欧州の保護団体が保護、修繕、管理などの権利を得て、まずは研究と修繕を行っている。ここは同様の他城砦都市とは違って、街の中央に舞台上の集会所と思しきものがあり、保護団体の主な支援者である芸能人達が興味を示したのが保護の原因だろうと、地元では思われていた。
ところが、この遺跡城塞都市、最近通称『カルア・ミンジャル』と名付けられたここは、地下にオーパーツの眠る遺跡を抱えているとの風評で、一部の獣人が着目していた場所だったのである。
現在、実際に地下に遺跡は発見されたが、オーパーツは発見されていない。見付かったのは、大型石版に刻まれたエジプト全域の地図と思しき図と、そこに意味ありげに刻み込まれた幾つもの点である。その一つは、この遺跡がある地点にほぼ一致した。
それと、地下の工房ではないかと推測される空間の壁の向こうに、隠し部屋のような空間が発見されている。
この『カルア・ミンジャル』に過去住んでいた獣人を訪ねていた保護団体の一員となっているアレクサンダーとパナシェという夫婦は、カイロの街のホテルのロビーでよく見知った相手を一人見つけた。先方も気付いて、挨拶を寄越す。
アレクとパナシェが出逢ったのは、彼らが所属するあらゆる団体、組織と常々確執のある組織に所属するエイという青年だった。顔よし、体格よし、脚本家と演出家の才能ありだが、友人までもが『性格悪い』と評してはばからない人物だ。
「ここで会うということは、長老にお会いになりましたか」
「君はこれからかね」
「カルア・ミンジャルの地下の情報を調べつくさないで帰ると、ボスに合わせる顔がないので」
彼らが話題にしたのは、幼少時を『カルア・ミンジャル』で過ごした人物のことである。もちろん獣人で、長老と呼ばれるにふさわしい実績と年齢の方だが、あまり体調がよくない。
なにしろ場所が六十年前に廃棄されたも同然の街で、そこについての確かな記憶を持つような年齢だった人物は、いずれもが高齢者だ。調べようと思えば、同じ人物に行き当たって不思議はない。
パナシェとアレクは、エイとは基本的に非友好的な関係にある。だからエイもどんな話を聞いたかとは尋ねなかったが、パナシェはエイを差し招いた。
「ご老体に二度同じ話をさせる必要はないでしょ。私達からの伝聞でいいなら、聞いていきなさい」
ホテルの喫茶室のコーヒー代を誰が払うかで短いやり取りがあったが、しばらく後には、三人は一つのテーブルを囲んでいた。
現通称『カルア・ミンジャル』。
この城砦に囲まれた街は、オアシスだった時代は通商の中継で潤っていた。同時に通商路に点在するオアシスや街を巡る芸人達の家族が住んでいる街でもあった。
もちろん町の人口は常に人間が倍以上多く、人の出入りも住民が移動するまではそこそこにあり、その関係で古くから馬、駱駝の蹄鉄や鞍、その他の長期の旅を支える様々な道具類の製作、細工をする人々も少なくはなかった。街に定住する商人と、それら職人の代表が街を切り盛りしていたそうだ。
ちなみに地下に遺跡があって、すごいオーパーツが埋まっているとは長老の何代も前から伝わる話だったようだが、地下への通路が見付かったことはなく、長老も信じていなかった。
「あの都市の舞台は、集会所として使用されていたけれど、もちろん祭りや祝いの席の舞台にもなったし、わざわざ作ったのは芸人が集まりやすいように画策した結果ではないかと言っていたけれど‥‥この辺は推論ね」
実際に地下の遺跡が見付かっていることは窺わせず、パナシェは説明を終えた。嘘は一言もないが、黙っていることはある。
エイも疑う素振りもなく、アレクが用意してくれた聴取した事柄のメモのコピーを受け取った。
「あの地域の、WEA的組織の前身の本拠地だった‥‥ということかな。ところで、一つお尋ねしても?」
エイの質問に、アレクが答えられることならと応じた。するとエイはあっけらかんと。
「どうして、孫の三人に、ボスとあなた方のトラブルを言わないんです? 知らないようなので驚いたんですが」
「それは私の妻と友人達に銃を乱射して発掘物を奪おうとした人物に、シェイドがことを理解して出資していたかの確認が取れないからだよ。出資の事実は確認したが」
「やった当人はアレに喰われるしね」
そういうことをする輩と繋がっているとして、普通の悪人はまず白状しないとエイは口にするが、そんなことは彼の倍以上生きている夫婦は先刻承知だ。エイも、今言われたことだけが事実ではないのは承知している。
でも、エイはそれでもボスを変えるつもりはないし、夫婦もそれを知っているので、細かい事情は話さない。
けれども。
「そういえば。シンデレラに聞いたのよ。何でキスがしたいのかを。‥‥下手なんですってね」
ぷぷぷっと、パナシェが笑いながら孫娘の名前を挙げた。エイが最近、夫婦の孫娘に言い寄っていたのはどちらも面白くない気分で見ていたが、後になって知った理由を当人を前に思い出したらしい。
エイはシンデレラに挨拶でキスをしたことがあるが、それを後日交換したメールで『あんまりお上手じゃありませんのね』と評された。その訂正を迫っていたのだが、挨拶以上のキスは恋人と嗜むものだとお断りされたのだ。
「頼んだ仕事の成果が芳しくなかったので、挨拶くらいならいいかとキスを恵んでもらって、下手と言われたのでは我慢が出来ませんからね。また後日再戦を挑みに行きますと、伝言お願いしますよ」
なんとも失礼に宣言して、エイは挨拶もそこそこに立ち去った。夫婦が伝言を伝えるとしたら、孫娘に『近寄らせるな』と前置きしてのことに違いない。
「周囲の警戒はよくよくしたほうが良さそうだね」
「人が入れ替わったところなのに、大丈夫かしらね」
結局応援を呼ぶことにして、夫婦はまた自分達の用事に戻った。
『カルア・ミンジャル』の地下工房、細工があるらしい壁を崩して、その向こうを確認する計画だが、遺跡の常として崩落などの危険性と、ナイトウォーカーの存在を疑っての作業が必要である。その人員が募集されている。
『カルア・ミンジャル』にいる人々
・アレクサンダー・パナシェ・シンデレラ
爺婆孫娘の関係、一角獣、竜、兎の三人。
今回の発掘はパナシェが責任者で、アレクが治療担当、シンデレラは雑用係。
地下工房に降りる道具と、壁を開ける道具の基本的なものは、パナシェが準備してくれている。
・保護団体奨学生一同十人
遺跡発掘に携わることで、後日奨学金を支給してもらう目的の十代後半から二十代後半の男女。国籍、獣人種別は様々。
大半は荒事に慣れていないが、若干名銃器が扱えるメンバーが混じっている。
●リプレイ本文
今回集まったのは、大半が顔見知りで、初めて『カルア・ミンジャル』を訪れた各務 神無(fa3392)には、一日だけ都合がついた友人で経験者の御影が同行している。
後はほぼ皆勤賞のフゥト・ホル(fa1758)やそれに及ばないまでもベアトリーチェ(fa0167)、ケイ・蛇原(fa0179)、敷島オルトロス(fa0780)、甲斐 高雅(fa2249)、敷島ポーレット(fa3611)といるのだが。
「あ、星磁さん、こんにちは」
神無が挨拶したのは、二メートル近い筋骨たくましい男性だ。ケイさんより一回り半は年下に見えるが、この中では年嵩のほうである。それで、他の皆も挨拶したが。
「すまねえな、その名前は偽名なんだ」
いきなり詫びを入れ始めたところで、何人かが『え?』という顔になった。正しくは、ポーとシンデレラ以外は不審そうな顔付きになっている。
「偽名ですって。映画みたいですわ」
「なんやろね。どんな仕事やったんやろ」
お出迎えの場所で、二人でほのぼのした空間を作り上げているポーとシンデレラを、神無以外が『やれやれ』と眺めている。一部は身内のオルトロスに教えてやれと身振りで示していたが。
「俺だ俺。お約束のように分からないとはどういうことだ!」
本日はスーツにサングラスで髪はオールバックに決めた群青・青磁(fa2670)が、いつもの狼覆面を取り出したところで、ほのぼの二人組も相手が誰だか分かったらしい。力仕事をお任せしますと、一気に話が飛んでいる。
「いや、崩れないように力仕事がいきなり来るわけじゃないんだよ」
「そういう機材を、いかに理由を付けて怪しまれずに手配したのか、その確認からね」
カイ君が慎重に行こうねと呼びかける横で、ハトホルが興味の方向性が違うことを示していた。神無への遺跡関係情報には、慌てて人間関係が追加されたらしい。
「私は細かい作業に自信はないから、いざって時に備えるけれど‥‥人が入れ替わったそうね。紹介してもらえる?」
「わたくしは荒事は無理なので、力仕事ですかね。これでも四十七歳です、まだまだ男盛りですよ」
べリチェがナイトウォーカー警戒や周辺警備に名乗りを上げると、ケイさんがないようなあるような力瘤を作って見せた。けれども。
「「「「「「「「え?」」」」」」」」
「すげえ老けてるな」
こちらも力仕事志願のオルトロスがいらぬ感想を口走り、アレクにたしなめられている。
仕事は大きく二種類。地下工房の壁を崩して奥を窺うのと緊急事態に備えて防御を固めることだ。一応ナイトウォーカーの存在が危険視されてはいたが、オルトロスがオーパーツ『ラーの瞳』を所持しているので不意打ちを喰らう恐れが軽減され、ハトホルが『宿主が朽ち果てていれば、多分活動はしていない』と指摘したので、べリチェと神無は地上で奨学生の何人かと訓練に励んでいた。すぐに壁を壊すわけではないようなので、奥の様子が少し分かってから地下に降りるつもりであるが‥‥
「銃器は持ち運びの制限が厳しいから、ライフル以外も使えるようになったほうがいい」
神無がくわえ煙草状態で指摘しているのは、見た目それほど歳の変わらない青年達にだ。非常に麗しげな外見に反して、ヘビースモーカーで、時々粗雑な口をきく神無に対して、彼らは当初反抗的だったが、おいたをして一撃食らわされてからはおとなしく言うことを聞いている。
「身元は確かだって聞いたけれど、獣人にしては経験が偏っているようね」
「仕方がない。政情不安定な国元から、ようやく脱出してきたような子もいるからね」
十月には保護と監督をする人手を増やすから、今回はストレス発散も兼ねて鍛えてあげてほしい。そうアレクに依頼されて、べリチェは嫌とは言わなかったが別のことにも気付いていた。
「人が増えたら、我々にお呼びが掛かることはなくなるから、今回結果が出ないと欲求不満になるわね」
これはもう、今回頑張らなくてはと零しつつ、べリチェは『ナイトウォーカーって見たことある?』と尋ねにやってきた年少の少年達の相手を始めた。こちらは人恋しいのか、やたらとべたべた引っ付いてくるのだが、その程度では彼女も揺るがない。段々そのことが楽しくなってきたのか、しまいには数人がまとわりついていた。
かと思えば、神無は数人で車座になって、アフリカ諸国の地図を地面に書いたり、欧州の情勢を語って聞かせたり、東洋の文化を教えたりと、学校のようなことになっている。日の高い時間の訓練は休むことにしたようだが、『案外軟弱』と言われて、力押しより技の実演もして見せたようだ。
この辺の適性を、それぞれに神無とベリチェが見てやったりしたので、奨学生の大体は自分のみを守る方法の方向性を掴んでいたが、かえって『ナイトウォーカーと戦ってみたい』と言い出す輩もいて、二人を悩ませている。
こんなことで悩んでいられるのは安楽なことだと、ベリチェなどは苦笑していたし、神無も同意見だが‥‥気分は子守である。
やはり地上に残っているハトホルは都市内部の家屋の一つで書類と戯れていた。毎度行政の目を掠めたりする様々な物品手配などに興味があった彼女は、パナシェについてそれらのレクチャーを受けていたのである。もう一つ、気になることもあったし。
「あらまあ、他にも城塞都市を保護している団体があるんですか。こちらもWEA関係で?」
「全然。繋がりがちょっとだけだわね。我々が遺跡にはいると、必要だからって壊したり、隠したりするから、ちゃんと保護と研究をしてくれる団体は大事にしないと」
それは仕事を押し付けていると思わなくもないが、獣人全体からすればそうせざる得ない場合も多々ある。よってきちんとした組織への援助も怠らないらしい。
ハトホルの飲み込みのよさにパナシェはご機嫌だったが、続いて尋ねられたことには表情を曇らせた。少し前に、シャルロという女性を通した依頼で、ハトホルが入った遺跡が、地下工房から見付かった地図に記載されていた場所かどうか、だ。
「そこの調査責任者は男のはず」
大至急で確認の依頼が出されたが、その返答が来るには少なくとも数日が掛かるとのことだった。
そして地下工房では、カイ君が取り扱いに繊細な神経と技術を要する道具類を使い、先日壁に開けた穴の向こうに小型カメラを入れたり、壁の強度などを確認していた。これが終わらないと、壁をどうこうできない。ここまで来て、生き埋めは誰だって御免である。
彼の誤算は、今回の奨学生達が専門技術を持たず、作業を手伝ってくれる人手がなかったことである。仕事の采配はケイさんもオルトロスもハトホルもいるが、カメラや機械類の扱いは得手ではない。ものによってパナシェとアレクが役に立つが、彼らは全体への目配りや何かで忙しい。
「自分の誕生日も忘れるし、だめだなぁ」
仕事がはかどらないのはまったく彼の責ではないのだが、ポロリとぼやいたのが運の尽き。緊急事態に備えるとして、明らかに『隠し部屋一番乗りは自分』と思っていそうなオルトロスと群青の耳に入ったのだ。オルトロスは暇、群青は自身の誕生日が過ぎたところ。
ケイさんがやれやれと思って眺めているが、地下工房のいすとテーブルを使っておしゃべりに忙しいポーとシンデレラは気にしない。ケイさんはそちらの話題も先程耳に入れてしまったのだが、若い娘達のキス談義など、とてもではないが聞き続けられなかった。ジェネレーションギャップ大実感、である。おかげで。
「おじさま達の中だったら、誰が一番上手そうですかしら。私、ケイさんのおじさまだと思いますわ」
「ありそうやねー。でも群青はんも思ったよりちゃんとしたお顔やしねぇ。エイにはかなり負けるけど。あれ、顔だけは文句なくいい男やしね」
好みかどうかは別問題〜と、『ナイトウォーカーは探知出来るし、戦闘向きの人もたくさんいるし』と緊迫感をどこかにおいてきた二人は、ほのぼのとおしゃべりに時間を費やしている。時々、皆の様子を見て、飴や水筒を回しているが。
そして頼られる側の人々も、『ラーの瞳』が光ることもないので、案外と呑気だった。オルトロスが一度、『一回も光ったことがないから信用できるかわからねぇ』と言って、顰蹙を買ったけれど。
「誕生日か。今回シンデレラと俺の誕生祝に酒を持ってきたからな。一緒に飲むか」
「お前の誕生日を祝うのは御免だが、酒は呑んでやってもいいぞ。カイは女房に祝ってもらえ。いるんだろ」
「そういやポーレットは奥さん似で良かったな。親父に似てたら、こんな顔で大変だ」
ここはエジプトだし、ラマダンが近いのだから程々にしておきなさいよとケイさんがたしなめたが、効果も程々だ。どうせなら隠し部屋を開けてから飲みたいと、その点だけは一致したオルトロスと群青は、好き勝手なことを並べ立てていて、ふと顔を見合わせた。
「群青さん、人様の家庭の事情に踏み込むのは感心しませんよ」
すっかり教育係と化したケイさんがまたたしなめると、オルトロスがそれを遮った。
「妹だ、馬鹿者っ」
近くでぎゃあぎゃあと騒ぎ立てられつつ、カイ君は黙々と仕事をしていたが‥‥頭の中では妻から誕生日お祝いメールが届いていなかったか記憶を探っていた。気分は相当ブルーである。
そういうことを何日か繰り返して。
「皆さんの意見も集約したところ、この奥のスペースはすでに判明している工房と同様くらいの広さがあると推測される。オーパーツにナイトウォーカーの反応はないけれど、奥行きがあるので油断禁物。危険がなければ、非破壊検査中心でいきたいので、中の物は極力壊さないように。壁の強度は、この図のあたりが後から追加している部分なので、崩れる可能性がある。他の岩盤は火薬を使う予定もないので、危険度は低いと思うけれど、ヘルメットとゴーグル、マスクの着用は確実に」
細かい説明をしても分かる人が少ないのと、全然聞くつもりがないのが数名混じっているのとで、詳細な報告書は希望者配布にして、地下工房の壁をあける日がやってきた。この日ばかりは『穴の中は嫌だ』と拒否した奨学生数名が外の見張りに残った以外は、全員地下に降りている。どかんと壊す作業ではないので、生き埋めの心配はないはず。
力仕事に向かない人には温度計湿度計を見て、変化がないかを常時確認してもらう。水源が枯れた元オアシスなので、水が上がってくる可能性は低いが念のためと経験だ。
ベリチェや神無は万が一のために武器を身に付けている。だが彼女達が目を配るのは、どちらかと言えば奨学生のほうである。慌てて怪我をしないとも限らないからだ。そうしたことがないようにと、調査の必要から、工房はこれまでになく煌々とライトで照らされている。
後は力仕事担当や羽根のある人々がちまちまと根気良く壁を崩していくだけでいいのだが、パワードスーツを譲ってもらったばかりのオルトロスはあんまり我慢をしない人だった。こんなに人がいたら、隠し部屋一番乗りは難しいので彼としては苛々が募っていたのである。対して群青は、せっかくの酒がシンデレラに『願掛け禁酒中』と言われてしまい、残念無念である。こちらも苛々していた。
よって、様子を的確に観察していたケイさんが警告しようとした矢先に。
「あなた方は、大人の分別ってものを身に付けてくれなきゃ」
ガツンと音がして、壁をぶち抜いた者二人。その二人が怒られている間に、見事に開いた穴から中を覗き込んでポーが言った。
「なんや、箱があるで。うちやったら取ってこれるけど」
この不用意発言で、ポーはハトホルにとくとくと危険性を説いて聞かされる羽目になった。ハトホル、この日はあちこちで奨学生にも同じようなことをして、学校寮の舎監のようである。
しかし『箱がある』のは、穴から見れは誰でも分かったし、拳大の穴が開いても向こう側に何の気配もなかったので、神無やベリチェも武装を解かないまでも崩した壁の欠片を集める作業を手伝い始めた。これは材質を確認するので、地上に担ぎあげて調査機関へ送る手配をしなくてはならない。シンデレラが奨学生何人かと、それを担当する。
二度ほど、ガツンとやって壁の一部が崩落したが、幸いにして怪我人はやらかした本人達だけ。アレクの説教を受けてから治してもらえる程度の軽傷だった。
やがて、人の出入りが可能になった途端にオルトロスが入り込んでいって、瞬速縮地で箱の前に立ったポーに邪魔されている。ポーを焚きつけたのが誰かは不明。
「あけるのは写真を撮ってから。大きさも測るし、重さも知りたいんだけど」
カイ君とパナシェがこれでもかと資料を作成してから、ようやく開けた箱は木製で鍵もなかったが、中身はちゃんと入っていた。
出てきたのは水晶を金銀で包むように飾ったトップの着いた首飾り。この場の誰もが、ほぼ同じつくりのものを見たことがあった。
オーパーツ、ラーの瞳である。
箱は五十センチ四方はあったが、中身は五つだ。それでも、工房跡にオーパーツ。興味深い発見といえよう。
ついでに、部屋の奥には丹念に土で塗り固めてあるようだが、上部に繋がる階段跡が見付かった。これが工房で本来使用されていた出入り口かもしれない。通風孔として、外部に繋がっている孔と途中で重なりそうな予想図が出て来た。
「やっぱり人手がいるんじゃないかしらね」
「ここは煙草が切れると困るが、鍛錬するには悪くない」
ベリチェと神無の言い分に賛同する意見もちらほら。ハトホルの話が気に掛かった者もいたかもしれない。
彼らが気持ちよく酒盛りしたかどうかは、相当怪しかった。