下積み生活〜集え勇者!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 0.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/28〜11/30

●本文

 着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』に警察の人が来たのは、札幌がこの冬何回目かの雪に降られた日のことだった。
「あたちぢゃないでちゅ。ちがうでちゅう。ごおとおにゃんかひないでひゅよう」
「ンなコトは分かってんのよ。泣きごと言わないでよ、うっとうしい」
 最近、『ぱぱんだん』所在地近くの地域では、幾つかの強盗事件が発生していた。『ぱぱんだん』には劇団全体の副業で経営しているコンビニエンスストアがあるが、そちらも最近被害に遭っている。ただしこちらの犯人は捕まったのだが、その後発生している強盗は連続強盗事件となって、いまだ未解決だ。コンビニには、地元商店会から『防犯見回りのお知らせと募集』の回覧が巡ってきている。
 そして、わざわざ『ぱぱんだん』に警察が来たのは、この連続強盗事件の犯人三人組が着ぐるみを着用していたからだ。疑われたわけではなく、着ぐるみの盗難などがなかったかの確認である。犯人側の着ぐるみ入手経路の捜査であろう。
 ただし。
『違うとは思うんだよ。ここの着ぐるみは、ものすごくよく出来てるし。これが写真だけど、きっと材質から違うだろう?』
 犯人が着用していたのは、パンダ、猿、牛の着ぐるみだ。パンダと猿は一応着ぐるみだが、牛に至っては全身を包むタイプのパジャマを手直ししたような代物である。日頃『ぱぱんだん』の着ぐるみと称する自前毛皮のパンダなどを見慣れている警察の方々は、『動きも違うよね』と団長笹村恵一郎と歓談して帰っている。
 ところが、警察はともかく、ご近所の保育園の園児達に『パンダさんじゃないよね?』と尋ねられた『ぱぱんだん』看板娘の笹村カンナがどっぷりと落ち込んで、二つ年上の初美に泣き言を並べていた。カンナは完全獣化していると喜怒哀楽の振幅が激しく、挙げ句に言葉が奇妙に舌足らずになるので、身内以外は何を言っているのか、よく分からない。『ね〜ね』と泣きつかれた初美はきちんと理解しているが、パンダの鋭い爪そのままに抱きつかれて嬉しいはずはなかった。
 結果、非常に邪険にする。ここで甘い顔をするとカンナがだんだん態度を変え、『夕飯のおかずをくれ』だの『アイスが食べたい』と言い出すからだ。基本的にカンナはものすごい甘えん坊。
「ねーね、つめたいでちゅ」
「今はそれどころじゃないからよ。劇団存続の危機よ、危機」
「そこまで大げさに言うなよ、姉ちゃん。姉貴がショックで固まってるぞ」
「固めとけ。スキーシーズンになれば、勝手に動くんだから」
 現在笹村家の居間に集まっているのは、カンナと初美の他にもう二人。カンナの二つ年下の弟葉月と、二つ年上で初美と同い年の兄睦月である。こちらの二人は自前毛皮で勝負するカンナと違い、スーツアクター。時々デパート屋上などで、ヒーローショーの中の人もやっている。
 そんな彼らが問題視しているのは、歳末に向けて幾つか入っている集客イベントの予約のことだった。獣人が自前の毛皮やその運動能力で勝負する『ぱぱんだん』は、素人とは比べ物にならないほど動きがよい。日々保育園児相手に子供のハートをキャッチする技を磨き、毎年この時期には福引会場だのなんだのと派遣予約が入るのだが‥‥
 今年は強盗のおかげでイメージダウン。幾つかの予約先は『着ぐるみはちょっと』とつれないことを言い出している。着ぐるみ劇団としては、確かに存続の危機かもしれなかった。
 ただし、それとは別に問題がある。
「この歳末防犯イベントに人を出すと、全体に人数が足りないのよね。でもこれ新規だから、逃すと印象が悪いわよ」
「強盗事件が生んだ唯一の仕事だからな。しかも大口。やっぱりバイト使うか」
「またビラまきかよ。姉貴も一緒にやってくれ‥‥って、姉貴、あんたも二十三なんだから、落ち着けよ」
 睦月の言葉を受けて、姉を振り返った葉月が手近にあったクッションを投げ付けた。そのクッションの行く先では、ジャージを着たパンダがダイエットグッズの大きなボールにしがみついて、一緒に転がっている。本物のパンダがやっていれば可愛いだろうが、獣人パンダがすねてやっているのでは、身内は冷たい。
「にーに、ねーね、はっちーがいじめにゅう」
「誰かはっちーだ! 名前くらいきちんと呼べっ」
 そんな裏の事情はさておき、着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』から、年末各種イベントの派遣するスーツアクターその他を募集である。

●今回の参加者

 fa0606 涼原 水樹(16歳・♂・竜)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa0722 神凪・真夜(27歳・♂・蝙蝠)
 fa1102 小田切レオン(20歳・♂・狼)
 fa1401 ポム・ザ・クラウン(23歳・♀・狸)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa1810 蘭童珠子(20歳・♀・パンダ)
 fa2161 棗逢歌(21歳・♂・猫)

●リプレイ本文

 着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』のアルバイト八名は、劇団の人々と一緒に三つの職場に適宜配置されることになった。一部の主張によれば、八名ではなく九名である。
「すみませぇん、キーちゃんがわがままで」
『誰がわがまままだっ。それにキーちゃんではない!』
 スーパーの朝市に配置された蘭童珠子(fa1810)が、腹話術師だからだ。相棒の人形フレデリック何とか三世は、自分も一人と数えるように主張する。着物姿のタマ本人とのギャップが激しいので、なかなか楽しい。
 そんなタマと同じ朝市の子供広場に向かうのは、紙で作ったつぼを抱えたトシハキク(fa0629)とラジカセを持たされた涼原水樹(fa0606)だった。トシハキクことジスは獣化して熊さん着ぐるみ役なので、有名どころに倣って蜂蜜入りのつぼを抱える予定。最初は大道具の見習いらしく蜂の巣の模型を作ろうかと思ったのだが、つぼがあるので急遽予定を変更した。子供に蜂の巣を見せても、分からなかったら困るし。
 水樹は歌手らしく歌のお兄さんとして登場、ついでにタマやジスの紹介も承った。一緒に劇団のパンダ団長も行くのだが、向こうでは完全獣化なので司会の役には立たないのだ。
 そして、今回の主力会場である防犯イベントには諫早清見(fa1478)が、『ぱぱんだん』の主力メンバーと向かう。彼は以前に『ぱぱんだん』が経営するコンビニエンスストアでアルバイトをして、強盗を捕まえた一人である。警察からも人が来るイベントには、ある意味向いている。イベントでの役どころが、ウサギのお姉さんからバックをひったくろうとする犯人役だとしても。
「あはは、狼の迫力で頑張っておいでよ。頼んだこと、よろしく」
 犯人役かと落ち込み気味のキヨミに、にこやかに言ってのけたのは棗逢歌(fa2161)だった。こちらも和服だが、男帯。一見するとどちらか迷う、綺麗なお兄さんである。見かけによらず口が悪いと注釈付き。
 他にすっかりクラウンの化粧を済ませた狸のポム・ザ・クラウン(fa1401)と羊の着ぐるみが入っている鞄を担いだ小田切レオン(fa1102)、こちらはテディベア風着ぐるみの入った鞄を肩にかけた神凪真夜(fa0722)が、ワゴン車に乗り込もうとしている。彼らは商店街の福引会場とその近辺で、皆様に愛想を振りまく係だ。なぜだかレオが、『ぱぱんだん』看板パンダのカンナに抱き付かれている。
「おみゃ〜げ〜」
「分かった、何か貰ったら持って帰ってくるから離せ。泣いてんじゃねーよ」
「カンナちゃん、ほらほら、冠作ったからね」
 商店街と『ぱぱんだん』は長いお付き合い。行けば休憩時間に色々食べ物をくれるらしい。父親のパンダ団長からも、兄弟からも『食い意地が張って』と言われたカンナは、もちろん商店街希望だったのに防犯イベントに行くので、レオに土産を要求しているのだ。ポムがバルーンで作ってくれた冠を被って、機嫌が直ったが。
「はい、それでは出発しますよ。ポムさんは、誰かに手を引いてもらってください」
 一般道ですたすた歩くと着ぐるみに見えませんからねと、けっこう着ぐるみ経験豊富な神凪が皆に改めて注意を促して、ワゴン車の運転席に座った。商店街組、お出掛けである。
 続いてパンダ団長が運転する車が、朝市組を乗せていく。最後の防犯イベント組が、歩いて近くの公園へと向かった。
「行く時からそのカッコか? そこまで頑張るなら、終わったらアイス買ってやるよ」
 すでにパンダのカンナの手を引いて、キヨミは感心していたが‥‥カンナは年がら年中、状況が許せばこの格好だとはまだ知らない。

 スーパー朝市会場横、子供広場。
 連続強盗事件がなくとも、何かと物騒になったといわれる昨今だ。子供を返す先を間違えないように気を付けましょうと、スーパー側の人とも約束をした。もちろん迷子にも気を配る。
 しかし。
「はい、風船はここで配ってるよ〜。こらこら、そんなに走らないの」
 月に一度の大安売りだとかで、朝市会場であるスーパーのイベント広場は大変な混雑だった。もちろん家族連れも多く、やってくる子供の数も相当だ。水樹も方々に声を掛けて回るのだが、ふと気付くとジスが男の子数人に追い回されていた。どこかにあるはずのファスナーを見付け出したいらしい。とうとう追いつかれたふりのジスが、着ているトレーナーをまくられたりしているが、もちろんファスナーはない。
 あれはどうやってごまかすんだろうかと心配した水樹の横では、パンダ団長がけっこう鋭い爪のある手で器用にバルーンアートをしている。その膝にも背中にも子供がまとわりついているが、全然平気。子供達が水樹にも作ってくれというので、彼も始めてみたのだが、そもそも水樹は歌手だった。ジスなら何とかなったも知れないが、水樹は勝手が違う。
「待ちなさいって、もう一回やったら出来るから。下手って言うなーっ」
 だんだん興奮している水樹の姿を、
『おお、あれはなんだ。おねーさん、へたっぴがいるぞ』
 キーちゃんが、さりげなく辛辣に評している。タマとキーちゃんの周りは、どちらかといえば幼稚園に上がるかどうかくらいの小さな子供が多い。つられてそちらを見た子供達が、風船を欲しがりだし、更に水樹の苦労が増えたが、タマは『頑張ってね』と応援しただけだった。わざわざ子供達を並ばせて、待ち時間の相手をしてやっているので尚更子供が並ぶ並ぶ。ついでに知らない同士で順番で喧嘩したり、キーちゃんに宥められたりと忙しい。
 しばらく後、子供達の『ファスナーはどこだ』騒ぎから解放されたジスが見たときには、水樹はそれは必死だったそうである。ジスはだんだん勝手が分かってきて、スーパーの人が用意してくれた飴をつぼにいれ、食べる振りなどしながら配り歩いていた。今度はつぼの中を見せろと追われるが、不公平にならない程度に飴を渡しながら逃げ回っている。
『元気だな、子供達! これからパンダが踊るのだ!』
「キーちゃん、パンダさんがって言わないといけないのよ」
 タマがおっとりと注意するが、キーちゃんは相変わらず早口であれこれ言っている。しまいに、水樹を指して一言。
『お前は歌え!』
 はっきり命令だった。一瞬、団長と水樹とジスのタマへの視線が変わったのは、まあ偶然だろう。曲目は、子供に人気の特撮番組である。
 その後、歌う水樹と、変身ポーズ付きで踊る団長とジスを、タマはあたたかく見守っていたそうである。

 防犯イベント会場。
 会場設営は主催者側がやってくれるのだが、早く行ってお手伝いしたら印象がよい。それでなくとも着ぐるみ連続強盗事件で、いささか好感度下落なのだ。キヨミでなくとも、獣人の平穏な生活が脅かされかねないと思うだろう。人間と平和に共存が、獣人のほとんどを統括するWEAの基本でもある。
 そんなわけで早めに出向いたおかげで、キヨミは警察官から連続強盗の写真を見せてもらうことに成功していた。ちょうど呼びかけ用に持ってきていたらしい。普通は手渡して見せてくれるものではなかろうが、着ぐるみ劇団から『間違えられたら困る』と頭を下げられたら融通してくれた。写り具合が心配だが携帯カメラでぱちり。
 それがあっという間に、他のところ回っている人々にも転送されたのだが、確認する暇があったかどうかは疑わしい。
 また、キヨミのほうも。
「と、こんな風に持っているとすぐにひったくられてしまうので、かばんはこうやって抱えてください。自転車のときは」
 と説明している司会のお姉さんの横で、捕まった犯人役をこなしていた。楽しくないが、お仕事だ。この後は、不審者に腕をつかまれたときの振り払い方で登場予定である。
 もちろん、振り払われるほう。

 商店街福引会場。
 世間は師走を目前にして、何かと気忙しそうだ。半獣化したおーかがギターを鳴らしても、あまり立ち止まってくれない。音に気付いているのかも怪しい。こんなに顔立ちのよい猫がいるのだから、誰か見ていけと思っていたら、子供が親の携帯カメラで写していた。とりあえず愛想良くしておく。
 そんなおーかの横には福引会場があって、なんだか静まり返っている。ちょうど昼時で、人が途切れているのだ。福引をする人もいないので、店番のポムが借りてきた防犯用のペイントボールでジャクリングをしている。他にも防犯ブザーや痴漢撃退スプレーなど持参してきたので、用意がいいと神凪が褒めたら『彼氏が持てと勧めてくれた』そうだ。とりあえず彼氏に感謝しながら、ブザーを借りる神凪だった。テディベア風着ぐるみの中だと何かあっても大声が出せないので不自由だ。そのままでも携帯電話が使えるようにしてあるが、ブザーのほうがおーかとレオを呼ぶには便利。もしものときは、ポムは避難誘導係である。
 と、おーかがのんびりとギターであれこれ弾き、神凪が『バーゲンセール』ののぼりを持って人の少ない商店街を巡っていると、こちらも獣化した上に羊の着ぐるみを着たレオが近付いてきた。両手で丸を作るのは、彼が見回ってきたあたりに異常はないという合図だ。神凪もせいぜい可愛らしく同じ動作を返す。
 自前毛皮のおーかとポムが、その様子に忍び笑いを漏らしていた。中身の狼と蝙蝠を知っているだけに、どうしても笑えてしまう。
 ところが。
 どうということはないミニバンが、商店街の中を通っていった。神凪とレオが立っていた横をゆっくり走り過ぎようとしたので、福引会場前で速度を落としたのだ。交通ルールに即した、歩行者への礼儀正しい車の態度である。
 でも、ポムとおーかは見てしまった。後部座席に、そこの二人と似たようなずんぐりむっくりの、白黒と茶色が座っていたのを。
「ブザー鳴らしたら、警察に通報だぜ」
 ものすごくくぐもった声で羊の中から声がして、おーかの合図で羊とテディベアがミニバンを追いかけていく。ポムが渡したペイントボールも一人一つずつ。
 すぐ先の小さな十字路を曲がった先に、質屋があるのは確認済みだ。しかも質屋のおじさんは遠目には髪が真っ白で高齢に見える。実際は五十歳前後らしいが。とりあえず、お金が置いてあるのは間違いがない。
 猫と羊とテディベアがこそこそと角で様子を窺っている姿は、まるで噂の連続強盗のようで、通り掛かった人がぎょっとした顔で立ちすくんだ。ポムを見て更に驚いたようだが、『にっこり』の威力で気持ちが少し落ち着いたらしい。でも、すぐに防犯ブザーの音がしたので、さぞかし心臓に悪かったことだろう。
 何事かと商店街の各店舗から人が飛び出してきた頃合には、質屋の前で羊とテディベアに踏み潰されたパンダと猿が、猫に車から引きずり出された牛がいたのであるが‥‥
「熊と羊と猫は、犯人じゃないんですっ。それは正義の味方ですー!」
 なにしろ全部が着ぐるみ姿だったので、半獣化を解いたポムがまとめて全部捕まえそうになった商店街の人々を必死に押しとどめる姿があったりした。『にっこり』を使おうにも半獣化していると話すことが出来ないので、人に戻っていきなりの『正義の味方宣言』である。商店街の人達も、落ち着けば『ぱぱんだん』からきた着ぐるみだと思い出してくれて、無事に犯人だけが警察に引き渡された。
 でも、証拠写真だと誰かが取ったのは、着ぐるみ大集合状態だった。とても強盗逮捕の瞬間には見えなかっただろう。
 なんにしても、ポムはまた、他の三人は初めての『事情聴取、本日は一時間コース』である。その間の福引会場は、防犯イベントが終わったキヨミやカンナ達が切り盛りしてくれた。

「まあ、大変でしたねぇ」
 全部のお仕事が終わって『ぱぱんだん』事務所で顔を揃えたアルバイト八名プラス一は、警察事情聴取の後にニュース番組のインタビューまで受けたらしい四人を労うところから始まった。ニュース番組スタッフもほとんど獣人だろうから、着ぐるみの印象アップに役立ててくれるといいとジスは思っているが、どうなることか。
「でも怪我もなかったし、これからクリスマスと年末年始で稼ぎ時だから、犯人捕まってよかったよね。俺もそういう活躍したかったな。知名度上がりそうだし」
「そういう知名度だと、スポーツマンか格闘系になりそうだな」
 水樹とキヨミがなんにしても良かったと笑いあうのに、着ぐるみのイメージが回復すればありがたいと神凪も同意する。そのときに本日の給料が配られて、それぞれに受け取りの判をついた後にジスが『また子供達を喜ばせて欲しい』と言ったら。
「くりちゅまちゅはおひごどでちゅ。ひみゃにゃらくるでちゅ」
 まだパンダ姿で、貰ったアイスを食べていたカンナに言われた。クリスマスにも仕事があるので来いということらしい。女同士の気安さか、ポムとタマに擦り寄るので、レオがからかい半分に『ポムは彼氏がいるから無理』と告げた。
 だが。
「いやその、そういうのにこだわる人じゃないから、カンナちゃんが暇ならスノボに誘おうかと思ってたくらいで」
 しどろもどろになって、大半から面白そうに見られているポムに、カンナが抱きついた。居合わせた初美いわく、カンナはスキー、スノーボードが大好きなのだそうだ。意味不明の叫びは、多分一緒に行こうと言っているのだろう。
「うーん、女の子同士だけど、あれは撮れないな」
 女性とだけ記念撮影をしたいとお抜かしあそばされていたおーかが、カンナに抱きつかれたポムを見て断じた。誰もが同意したし、誰もポムを助けに行かない。
 涙と鼻水と溶けたアイスでべしょべしょのカンナを引き剥がすのは、ちょっと嫌だなと皆が思った夕暮れの出来事である。