【城塞都市】襲撃中東・アフリカ

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 6.9万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 11/17〜11/21

●本文

『遺跡城塞都市で事件が起きる』

 この遺跡城塞都市は水源枯渇や生活様式の変化などで近隣住人に打ち捨てられていたところに、欧州演劇人などが出資者に名を連ねる各地の文化・遺跡等保護団体が調査と管理を名目にいずれは観光地として開発するつもりで入り込んでいた。実はこれが獣人だけで構成された、遺跡発掘も行う団体である。
 そして団体は、獣人の一部で噂されていた『都市の地下に遺跡』を実在を確認した。大変に強力なオーパーツが眠っているとの噂ではあったが、実際に見付かったのは『ラーの瞳』と他の遺跡の存在地を示すと思われる石版の刻まれた地図だ。
 けれども。
「毎度のこととはいえ‥‥」
「確かに毎度のことだけど、もう慣れただろう」
 この遺跡の発掘並びに石版地図の調査に、WEAの関係組織からストップが入ったのはつい最近のことだ。正確には、遺跡調査することそのものにストップは掛かっていない。ただ城塞都市のある地域で外国人排斥を目的とする集団が活動していると情報が入ったので、避難の指導があったのである。
 ただ遺跡があるのは報告済みなので、その状況確認にはWEA関連組織から定期的に巡回の人手を出すという。これは知らないうちに発掘される気配である。というか、『カルア・ミンジャル』現地責任者の夫婦は過去に何回か『ナイトウォーカーが出た』だの『落盤が起きる』だので一時撤退したら、その隙に全部掘り起こされた経験があった。
 とはいえ、そのこと自体に文句はない。ナイトウォーカーはわざわざ退治してくれてありがとうだし、落盤の危険と隣りあわせで発掘した根性は賞賛に値すると思っていた。けれども報告書が回ってこないのが、それはもう腹ただしい。
 なにしろ、ナイトウォーカー退治はともかく、他はうっかり警備を緩めた隙に発掘されたりしているのだ。報告書なんかない。出てくるはずがない。
 そうして今回など、警備を緩めなくたって何かされそうな気配が濃厚ではないか。運の悪いことに、彼らは律儀に報告書をWEAにあげていたので、ここに遺跡があることは人の口に戸が立てられない以上はそろそろ情報を求めている人々に伝わってもおかしくはない。オーパーツが出た遺跡を徹底的に掘り返したい輩は、結構いるのである。
 一応調べつくしたと思うし、問題は石版の地図に刻まれたここ以外の地点の調査だが、そちらに移るのも準備が必要だ。ここの調査に掛かるのも事前準備に二年掛かっている。
「少なくとも、今回は治安悪化だからね。被害がないうちに荷物をまとめて撤退しよう。そろそろ手伝いの人々も到着するだろう」
 この『カルア・ミンジャル』には、十三名の獣人がいる。二人が現地責任者の夫婦で六十代、残りは十代から二十代の青少年である。ここで生活していたので撤退するには荷物が多く、そのための人手を頼んでいた。それらしい車が見えたと、少年が一人呼びに来たので現地責任者のアレクサンダーとパナシェという夫婦は都市の門に向かった。他の人々も、迎えに出向いた者以外は様子を見に来る。
 そうしたら。

 治安悪化による一時撤退のため、遺跡発掘道具を近くの街の住人に怪しまれないように運び出すための手伝いに呼ばれた人々が、街から車で小一時間ほどの『カルア・ミンジャル』が見える位置までやってきたとき、前方の遺跡で爆発音と煙が上がった。
 それから三分くらいで一行は現地に到着したが、『カルア・ミンジャル』の門周辺でロケット砲を打ち込まれて負傷した人々と壊れた門を目撃することになった。
 こんなことをしでかした輩は、サンドバギーを走らせて彼らが来たのとは反対方向に逃げている。姿は、よほど目がよければ見えないこともないかもしれない、その程度に遠い。
「遺跡内部の機材はまだ上げてないわ。中に入れたままでもいいから、警察が来るまでに隠すこと。後は‥‥流石にこの出血だと思いつかないわねぇ」
 もちろん怪我人の手当てが必要だ。

 相手は、『警察が来るまで生きていられたら運が良い』と言ったという。

●今回の参加者

 fa0179 ケイ・蛇原(56歳・♂・蛇)
 fa0677 高邑雅嵩(22歳・♂・一角獣)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa1758 フゥト・ホル(31歳・♀・牛)
 fa2249 甲斐 高雅(33歳・♂・亀)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 前方で上がった砂煙と音が、爆発音だと最初に気付いたのは御影 瞬華(fa2386)だった。その指摘に、ハンドルを握っていた敷島ポーレット(fa3611)がアクセルを踏み込む。
 そうして『カルア・ミンジャル』の門まで辿り着いた一同を迎えたのは見るからに重傷の現地責任者アレクサンダーとパナシェの夫婦に、負傷者数名と怪我人の周りで右往左往している青少年達だった。
「何があったっ」
「離れろ! 邪魔だっ」
 日頃の丁寧口調をかなぐり捨てた各務 神無(fa3392)に追求され、車から飛び降りた高邑雅嵩(fa0677)に押し退けられたかすり傷程度の青少年達が口々に『襲われた』『あっちに逃げた』と堰を切ったように訴え始める。ケイ・蛇原(fa0179)とフゥト・ホル(fa1758)に促されて、水や布、あるはずの応急手当のキットなどを取りに向かった者もいるが、中には彼女達にしがみついて離れない者も。
「売られた喧嘩ってやつか」
 それなら買わずに済ませられるかと敷島オルトロス(fa0780)が獰猛に唸った時には、ポーレットが御影のサーガ3.5Lの運転席に再度乗り込んでいた。腕に覚えがあるオルトロスと御影、神無の三人が続く。
「フリでいい、知友心話はこれで喋って。受け手も同様でね」
「なんかあったら連絡してや」
 甲斐 高雅(fa2249)が友人の玉置美也への連絡手段を叫んだが、能力を使うときにはトランシーバーを使えと言われたのを、ポーレットがちゃんと聞いたかどうか。品物は神無が受け取って、了解の合図をしていたけれど。
 この時の派手な音が、朦朧としていた怪我人の意識を引きずり戻したらしい。雅嵩が半獣化して顔を覗き込んだアレクが、相手に気付いて呟いた。
「治療費はローンで頼むよ」
「それだけ言えりゃ、安心だな。俺がいるところで死神に出番はないよ」
 治癒命光で動脈を損傷したのではないかと思わせる出血の肩の傷を癒して、雅嵩は次にパナシェに向かう。こちらは太腿に貫通銃創があって、現地スタッフが止血をしているところだった。
「パナシェさん、あんたの統括が必要なんで、気合入れてくれよ」
「データは、CD−Rの赤いのが、見られたら困るわね」
 傷治してからでいいからと制止しつつ、雅嵩は傍らにハトホルがいるのを確認した。書類仕事は今回の応援の中で一番詳しいのが彼女だから、これで分かるのなら動いてもらわなくてはならない。ハトホルも心得て動き出そうとしたが、しがみついている一人を引き離せずについて来いと言い聞かせるところから始まっていた。
 この頃になって、ようやく水やら布やら応急手当キットやらを抱えて戻ってきた数名がいるが、揃いも揃って半獣化状態だ。少しでも早く走るためだろうが、それを見たパナシェが止せと声を掛けている。
「警察が来るまでと言っていたからね‥‥犯行声明を出したのかもしれない」
 先程より大分しっかりした口調のアレクが不審そうな雅嵩とハトホルに補足して、『気絶するから』と断ってから目を閉じた。慌ててハトホルが脈を取るが、消える様子はない。
 対して、治癒命光で大分回復した様子のパナシェは、ハトホルに回収が必要なデータや書類の位置を教えている。もし分からないことがあればトランシーバーで連絡を取ることにして、甲斐の乗ってきたi−Gに定員オーバー気味に現地スタッフも詰め込んで、遺跡の奥に向かう。
 その甲斐は、積んでいた機材を一部降ろして、撮影中の襲撃を偽装するようにケイに頼んでいた。
 ケイはケイで、軽傷らしいが倒れている数名を助け起こし、怪我の様子など確認していたのだが、妙に彼らの反応が鈍いのを怪訝に思っていた。砲弾の破片や飛び散った門の石材で多少の出血を伴う怪我や打撲があるが、意識がないわけではない。頭でも打ったかと、怪我人の一人のシンデレラのこめかみの傷を洗うついでに確かめると。
「耳鳴りが、いたしますの」
 こめかみからだらだら血を流しつつ、シンデレラは耳を押さえていた。見れば他に二人ほどが、同様の様子だ。兎獣人が、砲撃の音にも被害を受けたらしい。
「それなら横になっていたほうがよさそうですな。なに、すぐに治してもらえますから、痛いのも少しの間ですよ」
 自分の目が黒いうちに、先に死ぬなんて許さない。外見だけでなく、実際にシンデレラたちの親であってもおかしくない年代のケイが言うと、それは厳しくも優しい言い様の筈なのだが‥‥
「おじさまの目、青ですわ?」
 日本の慣用句を知らないイタリア人娘には、全然伝わらなかったらしい。ここはエジプトで、日本人は今この場には雅嵩と玉置しかいないのだったと溜息をこっそりついて、ケイはこめかみの傷にガーゼを当ててやる。
 雅嵩は、打撲の怪我人を治して回り、傷口を洗い終わったシンデレラの治癒に来たところで、パナシェに『出血跡を誤魔化しきれないから治すな』と言われてしまい、怪我が治って現地スタッフと共に血の跡を誤魔化す算段を始めた。恨みがましい顔つきをパナシェに向けていたが、当人は違うことに気を取られていて気付かない。
 ケイからも孫に痛い思いをさせてと言われようと、『誤魔化せないと、後が大変だ』とパナシェが主張を変えないので、こちらも偽装工作に。
 その頃、『カルア・ミンジャル』奥になる地下遺跡への入り口には、甲斐と数名の現地スタッフが到着していた。甲斐の指示で翼のある者ばかりだ。
 機材を運び出す予定だったから、入り口は砂避けの覆いをしてある以外は開いていた。その覆いを外して、現地スタッフがそれと運び出してあった機材を抱えて中に入っていく。念のために内部の機材にも砂避けの覆いをして、それから入り口を閉じる算段だ。時間が限られているので、この際遺跡保護の観点は脇において、接着剤等の利用も止むを得ないところだろう。
 入り口を塞いでいたレリーフの大きさと重さから、接着剤を必要な分だけ用意していた甲斐は、現地スタッフ達が戻ってきた後に入り口から伸びていた地下への縄梯子を落として、外部に見える傷の補修に入った。周囲では、城塞の補修作業中に見えるように、現地スタッフ達が木材や日干し煉瓦などを積んでいる。
 同じ頃、現地スタッフが居住に使っている家屋の中で、ハトホルがアレクとパナシェの持ち込んでいるノートパソコン周りを探っていた。
「パソコンのデータの確認なんてされないと思うけど、メールは消したほうがいいかしら」
 『カルア・ミンジャル』にライフラインはまったく引かれていないが、近くの街まで行けばインターネットも使える。そのデータが残っているといけないと、頭の中の確認する事柄リストに加えて、ハトホルは指定されたものと、置かれている書類から地下の遺跡に関係するものを見付けだしては自分の鞄に押し込んでいる。彼女達が先程ここに到着したことは調べればすぐ分かるのだから、荷物を確認されることはないはずだ。もちろんさせるつもりもない。
 他に何か忘れていないかと考えを巡らせて、彼女ははたと気付いた。

 砲撃を加えたサンドバギーは、その先しばらくは砂漠に一直線に伸びる道路を素直に走っていた。ポーレットが車の性能全開で追いかけているのは、当然気付いているだろう。オルトロスが周辺に仲間がないかの警戒をしているが、今のところ双眼鏡に映る影は一つきりだ。
「他の仲間はいなさそうだ」
「あちらは三人‥‥一人は少年、少女? ライフルを持っているようですね」
「あの様子では、人間かどうかは不明‥‥ですか」
 御影と神無も同様にして、こちらは逃げる相手の確認に集中していた。もう少し近付けば、御影はそれなりに射撃で相手の害意に報いる自信があるし、接近戦なら神無は人間に負けるつもりはない。問題は、相手の正体がよく分からないことだ。神無はスカーフを頭に巻いて、半獣化で現れた耳を隠していて、ポーレットも同様にしている。オルトロスも同じ手が使えるのだが、鴉の御影には無理。
 人間相手ならいずれも引けは取らないとはいえ、相手が何を持ち出してくるのか分からないから、渡り合うなら出来るだけ短時間で片を付けたかった。
「ポーレット、追いつけないのか」
「出来るで。せやけど、なんや気になるんやわ。なして全速で逃げんのやろ」
 砂漠の中の一本道だから、けして道路状況はよくない。それでも通常の走行にはまったく問題なく、全速力であってもポーレットの腕ならば事故の可能性は限りなく低いだろう。最初に開いた差は、すでに相当詰めている。
 だが相手のサンドバギーは、こちらより悪路走行に適しているのに、全速で走っているとは思い難い。
「スピードを上げてみろ」
 相手からの狙撃を警戒しつつ、ポーレットが速度を上げる。すると相手も今までより速度を上げ、こちらが緩めると微妙に遅くなる。
「罠と判断して追跡を止める、もうしばらく相手の出方を窺う、一気に追いついて捕らえて詳細を白状させる、他には?」
 日頃とは違う冷徹な口調の御影がオティヌスの銃を構えかけて、オルトロスと神無に問いかけた。オルトロスはマグナムを構えて返答に代え、神無はIMIUZUににじり寄る。あいにくと、知人を攻撃されて解決を先に持ち越せるほど穏やかな性格はしていない。
 相手にも気配が伝わったか、今度こそ本気と思える速度で逃げ出したサンドバギーだったが、ポーレットの加速は並大抵ではなかった。乗り心地や射手の安定はまったく考慮していないが、一気に残っていた距離を詰める。
 双方から合計五つの銃火器が、どちらも安定を欠いた状態で火を噴いて‥‥大半は外れたが、御影の一弾が相手の小さい影の近くに跳ねた。
「狼っ」
 衝撃から背けられた顔は見えないが、顔のほとんどを覆っていた布が外れて頭が露出した。それで見たのは狼と思しき耳だ。
 つまりは、ご同類である。同じ獣人が、何の目的かは分からない。けれども。
「まずい、引き返せっ」
「皆が無事か確認を取って」
 神無とポーレットが戸惑うほどに、オルトロスと御影が声を張り上げた。その間も二人とも、相手への威嚇は止めていない。だががくんと落ちた速度に今度は同調することなく、サンドバギーは全速力で逃げていった。
 大至急戻って、銃器を隠すこと。
 ハトホルからの伝言が伝わったのは、それからもう少ししてからのことだった。

 ケイと雅嵩がパナシェに人数が足りないと質されたのは、ハトホルがトランシーバー越しに叫んできたのとほぼ同時だった。
『撤収作業手伝いで呼ばれた外国人が銃器を持っていたら、全員拘留されるわ。それ以前に全員揃っていないのがばれたら、怪しまれる。呼び戻して』
 エジプト出身のハトホルがそのことを失念していたのは、襲撃直後の惨状に多少なりと動転していたのと、やはり犯人許すまじの気分が強かったからだろう。しかし冷静に考えれば、銃器所持も、犯人への攻撃も文化保護団体の行動としては異常だし、違法である。
「じゃあ、ここから警察に通報がないとまずいとか、そういう話になるのか」
「‥‥いずれにせよ、現場検証はありますな」
 追跡組から細かいところははしょって『獣人だった』との報告だけ受けた雅嵩とケイが、彼らの戻ってくる時間を計算しつつ、通報するべきかどうかを考えていた。パナシェとアレクが犯人達の言葉から類推した『すでに警察に通報されている可能性』で、その到着までに何をどう誤魔化すかに思考が傾いていたが、アレクやパナシェは病院に担ぎ込んでもおかしくはない怪我人だ。行動が不自然と思われないだけの手配はしておかなければならない。
 それぞれの仕事を終えたハトホルと甲斐が現地スタッフを連れて戻ってきて、撮影中に襲撃されたと装うことと、そうした細工をせずに怪我人を病院に担ぎ込むかで短く相談が行なわれて。
 シンデレラとアレクとパナシェをワゴンに乗せて、甲斐の発案で演技力があるケイと雅嵩が付き添い、街に向かうことにした。途中で警察に行き合ったら、無線連絡を入れさせ、少しでも足止めさせるこの二人が適任。甲斐とハトホルは撤収作業と平行した写真撮影中の襲撃を装う工作と、追跡組の銃器隠しに尽力する。
 出発間際に追跡組が戻ってきて、ポーレットがシンデレラの付き添いを希望したので同乗。オルトロスと御影は相手が獣人で、しかも別地域で殺人も厭わなかった集団と関わりがあるのではないかと思い至り、いささか蒼褪めていた。もしそうなら、外国人排斥運動の治安悪化とは違う危険性がある。その話を聞いて、他の者も平常心ではいられないが、確認は出来なかった。
 神無が襲撃跡の細工の合間に煙草を一箱空にした頃、警察車両が二台やってきた。犯行声明が届いて、確認で派遣されたのだという。そうした連絡は、先程も受けていた。ドクターカーも念のため同行していて、現在は怪我人三名を収容し、病院に到着した頃合だという。
 あまりの出来事に興奮冷めやらぬといった人々に様々なことを一斉に訴えかけられ、最初に到着した警察官達は対応に苦慮していたが、すぐに応援が到着し。
 現場検証には巧妙に口裏を合わせることが出来る現地スタッフと、演技力に定評のある面々や年長者達が立ち会った。WEAからも、団体関係者として駆けつけた人々が現地警察とのやり取りに加わり、彼らは純然たる被害者としての義務を果たす。
 怪我人三名もWEAの手配で速やかに現地病院から関係施設へ転院し、事件の五日後には何事もなかったように歩き回れていたが。
「ウェンリーの発掘場所も一時閉鎖されたそうよ」
 事件そのものは、まったく解決の兆しを見せてはいない。