眼鏡美形格闘・運動系アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 10人
サポート 1人
期間 12/03〜12/07

●本文

 それは宣伝企画会議としては、取り立てて珍しいものではなかった。
 もし特筆すべきものがあるとすれば、十数人いる参加者の全員が眼鏡をかけていたことだ。
 とはいえ、ここは日本全国に店舗も展開する眼鏡メーカーで、もとより社員の眼鏡率はとても高い。眼鏡率なんてものがあるとして。
 彼らは今、直営店舗で展開する新製品の宣伝用ビデオの撮影について話し終えたところだった。新製品はスポーツでも着用できる眼鏡。以前も有名スポーツ選手を起用して宣伝したことがあるシリーズの新製品だ。
 今回は会社の懐事情のほかに、スポーツ選手だと特定スポーツにイメージが偏るために、モデルや俳優の事務所からスポーツや格闘技が得意な人を集めて新製品フレームを着用させ、店舗で流すビデオを撮影することになった。
 被写体の性別、年齢は問わない。スポーツや格闘技の種類は眼鏡を着用して、実際に競技等に参加できること。例えば野球はいいが、まず眼鏡着用はありえないサッカーは駄目となる。ゴーグルは今回の新製品に入っていないので、水泳も駄目。
 会議で出たのは、剣道や太極拳、野球にスキー、綱引き、フェンシング、マラソンなど多岐に渡るが‥‥
「スキーはこの時期に撮影するのは場所が限られるから、募集要綱の例から削除しましょう。店頭用に、ちょっと珍しいスポーツの出来る人がいるといいですけど」
 撮影の場所が限定されたり、用具にお金が掛かるものは避ける方針らしい。
 なにはともあれ。
 眼鏡ショップの店頭ビデオで雄姿を披露してもよい、運動神経抜群な人々を募集している。

●今回の参加者

 fa0388 有珠・円(34歳・♂・牛)
 fa0826 雨堂 零慈(20歳・♂・竜)
 fa1242 小野田有馬(37歳・♂・猫)
 fa1402 三田 舞夜(32歳・♂・狼)
 fa1435 稲森・梢(30歳・♀・狐)
 fa2029 ウィン・フレシェット(11歳・♂・一角獣)
 fa3225 森ヶ岡 樹(21歳・♂・兎)
 fa3351 鶤.(25歳・♂・鴉)
 fa4559 (24歳・♂・豹)
 fa5149 桐間玲次(17歳・♂・猫)

●リプレイ本文

 十名集められた宣伝映像モデルには、随分と色々なタイプが集まった。ついでに出来ると挙げたスポーツも、多彩である。
 小学生のウィン・フレシェット(fa2029)は野球。流石にチーム一つ集めるのは大変なので、ピッチングマシーンでよいと方向性もばっちり述べた。
 同じくスポーツ系では、鶤.(fa3351)がテニス。こちらもコートや対戦相手のことを考慮して、壁打ちでどうかと提案している。
 それからスポーツチャンバラをあげたのは、雨堂 零慈(fa0826)と稲森・梢(fa1435)。二人で実演なので、こちらも用具と場所だけの手配で済む。雨堂はテコンドーの型も可能と、スポンサーにはありがたい限り。
 武道は桐間玲次(fa5149)が空手のシャドー。これまた相手が要らずに、スポンサー大助かりだ。空手着まで自前である。
 ちょっと準備が要りそうなのが、三田 舞夜(fa1402)の居合い。静と動の差が際立つものだし、他と違う迫力が出そうと採用された。
 けれども、スポンサーも予想外だったのが、以下の四つ。
 有珠・円(fa0388)のウォールクライミング。誰かが『壁登り?』と呟いた辺りで、よほど意外だったと窺わせる。
 森ヶ岡 樹(fa3225)のウェイトリフティング。こちらは単純に音大生の肩書きとのギャップが大きかったらしい。本人、雑用でもいいですとちょっと弱気。
 笙(fa4559)はこれしかないと言わんばかりに、ローラーフィギュア。アイスフィギュアのローラースケート版との説明に、スポンサーはOKを出した。
 そうして小野田有馬(fa1242)はフェンシングも出来ると前置きしつつも、バスフィッシング。アウトドアスポーツなのだが、誰も思いつかなかったようだ。

 スポンサーとCM撮影会社の誰も履歴書の振り仮名なしでは『とうま』と読めなかった鶤は、レンズが楕円形の二点フレーム眼鏡を選抜された。以前の別の撮影で銀ぶち眼鏡だったと口にしたので、別のイメージにされたようだ。色も少し薄くついている。
 当初は壁打ちの予定がスカッシュになって、相手役は撮影で借りたスポーツジムのインストラクターだ。スカッシュとテニスの違いを簡潔に説明してもらい、ちょっと練習して昔のテニス経験の勘を取り戻せたと思われるところで、カメラが入る。
 カメラを避けてなのでいささか場所が限定されるが、相手は何しろインストラクター。鶤がうまい具合にカメラの前に入るように球を打ち返してくれた。それでも汗だくになって、鶤は一心不乱に球を追っている。
「久し振りで疲れたが、壁打ちよりはずっと動きがあってありがたかった」
 あまり口は開かない鶤に礼を言われて、インストラクターは笑顔になった。が、鶤が同様に礼を述べつつ、フレームを返すのは残念と呟いたところ、スポンサーの社員は眼鏡をしっかり抱え込んでしまった。
 鶤は商品の発売予定を尋ねたかっただけなのだが。

 玲次の空手も同じスポーツジムだった。エアロビクスやヨガをやるような、壁が鏡張りになっている部屋だ。鏡に映っているところも映像の一部に収めたいが、畳でなくても平気かと尋ねられた玲次があまり場所には拘らなかったからだ。
 今回の被写体に多いが彼も眼鏡は普段使用しておらず、格別の希望もないので、担当者はあれこれフレームを選んでは悩んでいた。空手着に眼鏡。悩ましいところだ。
「自分ではないような気がします。全然印象が違いますね」
 担当者や他の人々との打ち合わせも積極的で、フレーム試着は随分こなした玲次だが、空手着を着用しての姿には思わず笑いが漏れていた。眼鏡を掛けている自分というのは、なかなか不思議だ。
 でも。
 最初は基本的な動きから、徐々に回し蹴り、後ろ回し蹴りに踵落とし、飛び蹴りなど足技中心で鏡の中の自分と組み合うような技を続ける。そこからまた少しずつ動きが小さくなって、最後は礼で終わる。
「一度もずれませんでしたよ、これ」
 もちろん幅はきっちりと調整してあるが、玲次の感心した表情までがカメラに収まっている。

 当初は『ウェイトリフティング?』と疑問形で返されてしまったので、自分は雑用係だと思っていたイッチーだが、スポーツジムにはもちろん道具一式が揃っていた。準備の手伝いに、インストラクターもいる。
 彼の眼鏡は丸ぶちの茶色。少しマーブル模様っぽい。髪と目の色が黒ではないので、眼鏡もちょっと変わった感じだ。
「すみません、色々お世話を掛けます。あ、それは僕やりますから」
 それをすまながって、準備に手を出そうとして『撮影用のメイクしましょう』と呼び止められたイッチーは、バーベルを床に落としている。何の被害もなかったが、これまた慌てて台に戻した彼の姿を見て、ようやく上げられるんだと納得している人がいる。
 ところが、上げられるなんてものではなく。
「あと一キロで自己新記録なんですけど‥‥時間、どうでしょう」
 記録に挑戦する姿を、しっかりと実行して見せていた。この時はなかなか雄雄しい。
 けれども撮影が終わると、なぜかまた自主的に雑用係に逆戻りしている。それはイッチーがやらなくてもいいのだけれど。

 眼鏡は芸能人の必需品。と言いつつ、視力にはなんら問題のない笙は、スポーツジムの駐車場でいかがなものかと打診をされていた。真新しい、コンクリートにしては綺麗に平らで、場所としては一応使えないわけではない。舗装が傷むこともあるけれどと告げると、全面使って一箇所が傷まないようにと指示される。他の注文は、『四回転ジャンプは?』と無理難題が出てきたのでイナバウアーでご勘弁願った。
 そんな笙の眼鏡は、たいそうスリムな銀のハーフフレーム、下フレームだけ。見るからに変わっているが、鏡で見たところ、それほど悪くはない。体ならしで滑ってみたところ、それこそ飛んでも全然平気だ。いささか幅がきつめなので、長時間の使用は駄目だと言われているのだが。
「こういう眼鏡が普及すると、都合がいい人もたくさんいるだろうしな」
 具体的にイメージする相手がいたのかは不明だが、軽快な音楽に合わせてのラインステップにイナバウアー、ジャンプにコンビネーションのスピンと多彩な技をこなした笙は、最後のポーズで大きな拍手を受けた。
 見れば関係者が打ち揃って、楽しんでいたようだ。

 普段から眼鏡使用のマイヤーは、なかなか眼鏡のおしゃれに注文が多かった。基本的には知性的で見るからに冷静な男性像を演出するわけだが、要求は遠慮なく伝えてくる。結果担当者との会話も多くなって、尋ねられたのが『どうして居合いを始めたか』である。
「精神修行にもなるし、礼儀作法も学べる。自分と向かい合うスポーツですしね。なにより日本の伝統文化です」
 いいことずくめでしょうと堂々と言ってのけたが、本音の『若い頃にもてるかと思って』は当然秘密。ちなみにその成果は、『まあ素敵』とうっとりしてくれた担当者の左手薬指に指輪があって、そういやこの人は人間だよと考えてしまう辺りに表されている。それももちろん秘密だが。
 撮影は藁束を切るものと、居合いの演舞のみのものと二通りだったが‥‥
「あれほど安いのって言ったのに、これ結構高そうじゃないか」
 そんなことを真剣に考えていたりする。スポンサーは彼の真剣な表情に、幸いにも騙されてくれたようだが。
 その真剣さは、『刃が欠けたら弁償できない』の心配だ。

 ウィンが連れて行かれたのは、ちょっと古めのピッチングセンターだった。撮影で使うにしては古い感じだなと思わなくもないが、モデルたるものどこででもきちんと仕事をして見せるものだ。さすがにピッチングマシーンを相手に、OKが出るまで頑張ってバットを振るような仕事は滅多にないが。
 服装は普段着、もちろん本当に普段着ているものではなく、『撮影用普段着』だ。眼鏡は随分と印象が強烈なコバルトブルーのフレームで、結構大きめである。髪が白っぽく、目は緑、しかも活動的というより繊細で本でも片手にしていそうなイメージなので、コミカルに全体をまとめたらしい。
「ちょっといたずら小僧みたい?」
 メイクも赤みを強くしてもらって、ウィンはいつもと少し違う気分になった。なにしろ今回は求められているものが違う。元気一杯で、それこそ眼鏡を落としても構わない勢いでバットを振り回す役だ。
 そもそも運動神経が人並みで、わざと少し速めの速度に設定されたボールを空振りし続け、ようやくフライを上げたときのウィンの表情には、最初にスタッフの女性達がノックアウトされていた。

 スポーツチャンバラは国際ルールがあり、道具類も指定のものが決まっている。安全面に配慮されているので、店頭実演も可能かもしれない。
 そうコズエがスポンサー側のチーフに話を持ちかけてみたところ、即座に辞退された。何か悪いことを言ったかと彼女も心配になったが、単に眼鏡店は割れ物の宝庫だからだ。
「このシリーズは、簡単に割れないでしょう?」
 コズエがいたずらっぽく問うと、チーフは『強い衝撃を受けると、傷がつくことがあります』とわざとらしいしかめ面で返してきた。
「そういえば、幾ら位するものなんだ?」
 こんなに手を掛けるのだから高いだろうと尋ねたのが、零慈である。こちらは伊達眼鏡。よってフレームだけ選べば、後は難しい調整はなかったがコズエのレンズが出来て来るのを待っていたので、他より日程が遅い。場所は同じくスポーツジム。
 零慈の眼鏡は、とてもフレームが細いメタリックなブルーともグリーンともつかない色合いのものだった。コズエはレンズがかなり丸っこい、可愛らしい感じのグレーのフレーム。どちらも日本人離れした色味の顔立ちなので、眼鏡はくっきりと顔を際立たせるタイプが選ばれている。
 ちなみにレンズ抜きでと示された値段は、かろうじて片手で示せる範囲。もちろん単位は一万円。複数揃えるのは、ちょっと大変かもしれない。
 それでも、購買意欲を掻き立てるような映像をと、入念に身体をほぐして、零慈がコズエの動きを細かく見てやってから、撮影が始まった。基本は打ち込むのがコズエ、済んでのところでかわすのが零慈だ。時に攻守入れ替えるが、その時はちゃんと合図をしてから零慈が踏み込んでいる。
 ルールの三分一本勝負は、今回は撮影のためにちょっと無視させてもらっている。適宜休憩が入っているが、二人共に画面に映りこむのはこれだけなので、後程三分間に編集される予定だった。二台のカメラがあっても、思うような『画』が撮れるとは限らないのだし。なにしろ顔面保護のために防具をつけるから、顔を撮るのはなかなか大変だ、正確には、眼鏡を。
 随分と長いこと打ち合って、ようやくOKが出たのは、二人が防具を取って素顔を現すところが綺麗に撮れてからだった。
 零慈はこのあとテコンドーの型の実演が、コズエはナレーションが待っている。

 他の人々と分かれて、いささか遠出をしたのは小野田だった。バスフィッシング、チーフが上役の許可を取るのに多少の攻防があったが、無事に通ったのだ。道具が多岐に渡ることを調べたらしく、それだけは自前でと頼まれた。もとより借り物では具合が悪いので、小野田も文句はない。
「天候は悪くないけど、考えてみたら長丁場なのよね。ごめんなさい。頑張ってたくさん釣って、ご馳走するわ」
 ムニエルなんか美味しいからと、女性のような言葉遣いだが、小野田は男性。普通に釣り人の姿をして、サングラスを掛けると凛々しい出で立ちだ。なお今回、彼だけはサングラスと透明レンズの両方をあつらえた。釣り人にはサングラスが必須だから、追加すべきだと上司と部下の攻防で主張されたらしい。責任重大。
 けれどもそんな話を耳にしても、自身も芸能事務所社長を兼任する小野田は動じなかった。その調子で撮影場所の湖で、ルアー釣りを展開している。当人いわく『これはスポーツよ、ファイトなの』と力説したそうだ。
 最後にはスタッフに、本当にムニエルを振る舞ってくれている。道理で荷物が多かったわけだ。

 アリスは今回被写体で応募したが、撮影にも加わっていた。動画はそちらの専門が担当だから、彼は採用されるか分からないけれどポスター用の一枚を狙っていたのである。基本が動画になるので、いささかやりにくかったが、まあそれも経験のうち。
 そして、ウォールクライミング用の壁が設置されている場所に行って、撮影とスポンサー側のスタッフ一式に、今回参加者のうち希望した人に見上げられて、『壁登り』を敢行していた。安全面を優先して、インストラクターはもちろんついている。周囲には、こんな難所でカメラを使えるスタッフが複数配置されていた。アリス本人も、なぜか自分のカメラを背負っている。
 当然これは仕事なので、カメラを意識しなくてはいけないのだが、アリスは一心不乱に登っていた。他の人にカメラを向けていた時とは顔付きが違うが、下から眺めている人々は気付かない。やがて。
「かーっ。これやって見たかったんだ、俺」
 壁の上まで登り切って、そこの足場から下を見下ろし、カメラのシャッターを切ったアリスはそれはそれは幸せそうだったが‥‥
 後に、登り切った瞬間の達成感に溢れた自分の笑顔に赤面した。

 アリスが撮り貯めた写真は、被写体だった当人が承諾したものを、ポスターではなくパンフレットに使用されることになったが。
 全員、『自分はこんな顔していたのか』と赤面したり、戸惑ったり、感心したりしていた。