遺跡探索旅行中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
15.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
2人
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期間 |
01/05〜01/14
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●本文
その年も終わろうかというある日、武装集団に襲撃されたことを理由に遺跡の秘密発掘を中断しているカクテル同好会と呼ばれる団体は、エジプトのWEA出先機関近くのホテルに集合していた。大半が六十代の一団で、一人だけシンデレラという若い娘が混じっている。
このカクテル同好会とシンデレラを訪ねて、欧州からやってきたのがエイという青年だった。カクテル同好会の面々とは、互いにたいそう嫌いあっている仲である。もちろんカクテル同好会中心人物と目され、シンデレラの祖父母であるアレクサンダーとパナシェは不機嫌だ。
しかし、カクテル同好会とエイの両方に唯一共通しているのは、『シンデレラには喧嘩しているところは見せたくない』という気分だった。エイなど『性善説の申し子』とか『現実認識が乏しいお姫様』だとか色々と言うのだが、世間からも女たらしと評される彼にしては不埒な真似もせずに、親切かつ紳士的に振る舞っている。
そうして、現在。
「全部で十四箇所、ないし十五箇所。ちょっとこの辺が二点あるのか一点なのか怪しいですが、全部をあなた方だけで確認できるわけではないでしょう?」
「WEAで手を打てば、別に難しいことではないよ」
「金と時間と人材は有限ですよ。手分けしましょう。あ、これはシェイドからの小切手です」
「‥‥あの男が?」
カクテル同好会の中では、まだ理性的に話が出来るアレクとパナシェが会話の中心になって、エイと会話を繰り広げていた。話題になっているのは、カクテル同好会が遺跡の中から探しあてた『エジプトの石版地図』だ。この地図には十五個程度の点が刻まれており、うち一点は発掘された遺跡そのものを示していた。
ここはオーパーツの工房だったと推測され、実際にオーパーツも発掘された。遺跡がいつ頃に作られたものかはまだ判明していないが、放置されたのはおおよそ六十年程度昔だろうとカクテル同好会の意見は一致している。遺跡で確認された文字は古文書に出て来る様な代物だが、現在のエジプトの地図が描かれている点が決め手だ。後世のものを過去に書くことは出来ないが、過去のものを現在書くことなら幾らでも出来る。
当然、襲撃を受けて地元行政機関からも遺跡がある城塞都市への立ち入りを一時的に停止されている現在、現地の細かい調査は継続のしようもない。よって次の調査として、見付かった地図上の点がある地域の確認を行なうことになったのだが、そこで横槍を入れてきたのがエイとその背後にいるシェイドという男が率いる団体である。
シンデレラは『有名で、興行成績のいい舞台などをやる会社』と返事をするだろうが、カクテル同好会の面々からすると『非合法活動の一切をためらわず、獣人社会の不文律を無視してはばからない連中の巣窟』。
そして、エイは。
「ダークサイドと、手は組めませんか? ま、我々はダークサイドと言われても仕方ないくらいに、手段は選びませんが‥‥まさか風聞の『ナイトウォーカーを使う』なんてのを信用していらっしゃる?」
にこにこと若い女性に受けそうな笑顔で、エイは獣人として『そう呼ばれたら最悪』という単語を口にした。こういうことをするからカクテル同好会の面々に嫌われるのだが、当人は彼らの気分を逆なでして楽しんでいるので構いはしない。
「君らと組むと、我々の今後の活動に支障が出るので、WEAをきちんと通して独自に活動したまえ」
「俺が出向いても歓迎してもらえないから、こっちに来たんだよ。その程度は承知しているくせに」
「それだけのことをしているからだよ。ああでも、シンデレラにシェイクスピアを持ってきたくれたそうだね。それは、ありがとう」
「爺に礼を言われても嬉しくない」
仕方がないので、WEAを通してやらせてもらうと言いおいて、エイはホテルを後にした。
カクテル同好会の面々はやれやれと思いながら、WEAに事の次第を報告する。
それからちょっと後。
「目を白黒する‥‥? アジアの方は確かにほとんど黒っぽいですけれど‥‥黒い目ではない方はどうしますの?」
「さて、今はどうとでも言いようがあるだろうけれど」
エイは待ち合わせしていたシンデレラと、四方山話をしていた。あまり深く物を考えないシンデレラが、カクテル同好会所有の石版地図写しを持ってきてくれたので、エイがシンデレラの話に付き合ってやっているのだ。日本語の言い回しから、アジア系獣人で髪や目が黒くない種族が昔はどうやって人の目を誤魔化していたかなんて話題になると、エイは全然やる気のない返答になったが。
「きっと、とっても大変でしたのね」
「‥‥それで終わるのか」
「いつかお金を貯めて、中国に行って、そういう歴史を調べている方にお話を聞きますわ」
だがシンデレラも、集中力は続かない。当人なりに真剣に色々考えているらしいが、エイが見たところ、自発的な行動派ではない。指示があれば、動き出すタイプだ。子供のいたずらみたいなことだけは良くやっているが。
まあ、それならそれでエイには便利なことである。
「学費稼ぎに、調査旅行に行こうか? 人手が足りなくてね」
なにしろ最低十四箇所。どこから手をつけるかだが、ぜひとも実りが多いところから調べたいものである。
石版地図に記された遺跡があると思しき地域、そのいくつかを廻って遺跡がある場所の目星をつける。言うはたやすいが、実行は大変に困難な仕事の募集がなされている。
なにしろ目的地の中には有名観光地やダム湖も含まれているからだ。それ以外の地域も、軽く十キロ四方の範囲から、あるかも判らない遺跡を探す話となる。
【関係者一覧】
・エイ
獣人種族不明の舞台劇作家兼演出家。三十歳前後。
今回の遺跡の痕跡を探す仕事の依頼人。行き先はある程度決めてあるが、集まったメンバーの意見により変更しても良いと思っている。
軍資金は豊富。
・シンデレラ
一応モデル。モデル事務所のプロフィールでは十七歳。兎。
大学の学費稼ぎに、運転手として今回の仕事に同行する。
・カクテル同好会
若い頃に遺跡探索で結構成果を挙げた獣人の団体。この名称はいつの間にか付いた。
現在は大半が六十代なので一線からは退いているが、遺跡探索の許可を取ったり、行政機関と交渉したりする腕は優秀。
ただし今回のエイの依頼する仕事には、関与しない予定でいる。
●リプレイ本文
今回総勢九名になった一行のうち、エイと面識がないのは神保原和輝(fa3843)一人だった。エイは和輝を見てご機嫌に握手などしていたのだが、そこから一転。
「往路は飛行機を押さえろ。船のグレードが高すぎる」
端で見ていた敷島ポーレット(fa3611)とベルシード(fa0190)が目をぱちくりさせたことに、シンデレラが持ってきた旅程表を見て咎めた。エイが女性に厳しいことは言うとは、ベルもポーも思っていなかったのだ。
そのくらい女好きだと認識されていることにエイが気付いたかどうか。シンデレラがもごもご言うのを聞いて、今度は敷島オルトロス(fa0780)に向き直った。
「仕事で最高グレードの船を希望するな」
「いざって時のために英気を養っておくのは大事だぜ」
見た目の年齢が一回り違っているが、偉丈夫と美丈夫で喧々諤々とやっているとかなり目立つ。彼らがいるのはカイロの有名旅行代理店内だったので、仕方なくケイ・蛇原(fa0179)が割って入った。
その間に、今回の調査対象地が写された地図と旅程表をフゥト・ホル(fa1758)と甲斐 高雅(fa2249)が確認して、飛行機のチケットからクルーズ予約までをこなしている。こういうことはエジプト出身のハトホルが非常に長けていた。
「こちらは日本のテレビ局の方々で、番組制作の下調べに来ています」
傍らのカイや、着物姿のケイ、それと和輝とエイの四人はともかく、敷島姓の二人はアジア系には見え難いし、ベルとシンデレラはまったく違う。それでもハトホルが『日本のテレビ局関係者』を主張して、しっかりとチケットを入手した。
「まずは国内線でアブシンベル、そこからクルーズ船に乗って二泊三日でアスワンまで、そこで一泊して、船を乗り換えて五泊六日でカイロまで戻ってきます」
「思い切り観光ルートやねぇ。楽しみやわ」
「なんだー、もっとハードだと思って準備してきたのに」
ポーとベルが予想より楽な行程に楽しみ半分、残念半分の声を上げたが、ケイやオルトロス、カイに、旅程の手配をしたハトホルも今ひとつ納得しかねるような顔付きだ。和輝にはよく分からないが、こんなことでいいのかと思っている気配が濃厚である。
それでも、一行はまず国内線飛行機に乗るべく移動を始めた。
アブシンベル、エジプト国内でも南の端、隣国スーダンとの国境がすぐそこの都市は観光地だった。ダム建設で出来た人造湖のナセル湖クルーズの出発点でもある。
「地図の地点がだいたいこの水域。湖底に遺跡は幾つもあるようだね」
和輝にかなり親切に、調査地点が記された地図を広げて説明しているエイの横では、オルトロスが先程から船のグレードに文句を言っていた。一応中規模の船だが、彼には不満が一杯だ。でも、情報は欲しい。
「こちらが皆が行ったことがある遺跡で、こちらの赤丸は?」
「別の調査隊が入っていた遺跡。オーパーツの取り扱いでトラブルが発生して、WEAに責任者が召喚されている」
この会話でオルトロスが黙ったのは、オーパーツの単語と遺跡の位置からだ。彼に限らず、何人かがその遺跡には入ったことがある。責任者はウェンリー・ジョーンズというが、トラブルでWEAに召喚とは穏やかではない。
が、オーパーツの事をエイに聞かれたくないのか、オルトロスはだんまりを通した。和輝はその遺跡に関わったことが無く興味深く聞いていたが、そちらの遺跡の話題は続かなかった。エイも詳細は知らないのだろう。
実は和輝も別の遺跡に、あまり合法的ではない方法で潜ったことはあるのだが、その件には口をつぐんでいた。今回は遺跡を記した地図とやらの情報半分、観光半分でやってきたのだ。あえて手札を自分からは見せないつもりでいる。そのうちに、何かで役立つかもと少しばかり考えていた。
だからエイはヌビア人の遺跡について、カイと話し込んでいる。この近辺に独自文化を築いたヌビア人は、半獣半人を思わせる壁画を好んで描いたり、また巨大な像を作ったりしているのだ。そこに遺跡を示す印があるのなら、獣人と関わるものだと考えても大丈夫そうだが、問題は。
「今回潜るのは止めたがいいな。クルーズ船が他にも出ているし、最近は釣り観光もあるそうだ。先に目指す地点の探し方だな」
この頃、ベルとポー、シンデレラにお目付けのケイを加えた一団が、『船の写真を撮るのが好きだ』と船員に他のクルーズ船の就航予定を確認していた。ただ前途は多難そうだ。小型船舶まで含めた一括管理は船会社より、官公庁だろう。
挙げ句に、非常にアバウトな地点表示は、カイがコンピューターで位置補正してみても、五キロ四方の水底だ。
「あまり有効な手段も無いのに、どうして人を集めてまで調査などと言ったのかな?」
和輝が不思議に思ったのも当然で、エイが今回で真剣に遺跡を発見したがっているとは見えない。一応各自に仕事は割り振られたが、例えばハトホルが細々した調整事で、和輝はどこで知ったかナイトウォーカー関係の情報を聞いていないかと質された程度。オルトロスやケイは通称カクテル同好会の調査していた遺跡と縁が深いので雇い入れられたようなところがあり、それは地図の位置補正をさせられているカイや調整役のハトホルも同様だ。立場が同じでも、ポーやベル、シンデレラは雑用めいている。
なにやら不自然なところは多々あるが、ちゃんと情報は提示するし、地図のコピーはWEAの許可が無いと断られたが、そもそもパソコンに取り込んだらコピーは容易だ。
女の子達はともかく、皆がおかしいと思っていたのだが、それぞれ表出の仕方は違っていた。特にハトホルが顕著だ。
「わたくし、以前にどうも無許可で発掘を行なったらしい遺跡を知っているのですが、それは載っていますか? あと、疑念が育つのは真っ平ですからお聞きしますが、ダークサイドだと噂されている貴方が、実はカルア・ミンジャル襲撃の犯人とどこかで繋がっているようなことはありませんか?」
カルア・ミンジャルは、カクテル同好会調査の遺跡で、武装集団に襲撃された調査が停止している。
ハトホル、真正面からの直接問答だった。エイも他の面子も、目が丸くなっている。それでも気を取り直して、エイがハトホルの言う地点を確認したところ、そこにも印が打たれていた。エイが個人的に打つ、発掘途中の赤丸は無い。
「芸能関係者で」
エイがそう切り出したのは、獣人がという意味だ。それは全員がちゃんと察している。
「ダークサイドと言われれば、よほどの才能が無い限りは仕事を干される。そんなわけで、気に入らない相手をそう名指して、失脚を狙うのもたまにいる」
そうは言いつつ、エイはマフィアに場所代を払ったとか、オーディションでその当時に懇ろだった女性を落としたら駅のホームで電車に飛び込んだけど悪いのは当人だと平然と口にする。この性格では憎まれても当然。
「それにしたってよ、ダークサイドったら、アレを操るなんて話もあるじゃねえか」
これについてはケイの知人が『間違いない』と実例込みで断言した話がエイとシンデレラ以外には回っているのだが、オルトロスは当然そんなことはおくびにも出さない。
「そんな話だったら、今回の給料じゃ足りねえぜ」
「オルトロスさん。それは夢物語だよ。情報処理技術者の端くれとしての感想だけど」
カイがなだめるような事は言ったが、彼自身はナイトウォーカーと戦わずして使役が可能なら、コンピューターシステムのクラッカーが時にセキュリティプログラムの有能な作成者になりるえるような立場転換が可能ではないかと思わなくもない。
だが、エイはハトホルを『無茶が過ぎる』とたしなめた。
「ダークサイドがナイトウォーカーを使えるとして、餌をどうする? それと俺がカルア・ミンジャル襲撃に関わるなら、当然あの人達に恩を売れる立場に自分を配置する」
「では、無関係で間違いありませんね」
「襲撃なんかしないし、させない」
「それにしたところで襲撃犯が獣人なのだから、この場合には警察よりWEAに気張ってもらうのかしら」
まるで何事もなかったように、襲撃犯の追跡方法を検討し始めたハトホルとエイに、和輝とカイは沈黙を護り、オルトロスは飲み物を求めて船内に戻ることにした。
遺跡探索に知恵を絞る人々が、その後気を取り直して『水没遺跡の調査方法』を相談し始めた頃。ポーとベルとシンデレラは三人で観光計画を立てていた。遺跡があるらしい地点の中から、ナイル川沿いを選んだ今回は、当然観光地が目白押しの楽しい旅行にもなる。
「そういえば、エイに聞いたら遺跡の調査なんて今までしたこと無いって。何でいきなりし始めたのかね」
「シンデレラが遺跡探ししとるからやないの?」
「お仕事の都合だと聞きましたわ」
ガイドブックを三人で覗きつつ、噂話にも花を咲かせていた彼女達だが、ちゃっかりとエイには色々と目的を質していた。だが『いざというときには使えない奴で、経験もない、仕事を押し付けられた人』という変な結論に落ち着いている。
でも、彼女達はやはり呑気に観光計画を立て、おしゃべりに時間を費やしていた。こちらでもウェンリーとシャルロが関わる遺跡が地図に記されていることも確認し、これはすごいとしばし興奮して、それから。
「オーパーツ工房らしいところと、逆さピラミッドと地下の階層遺跡でオーパーツとナイトウォーカーが出たところ。よかったね、カルア・ミンジャルはオーパーツだけで」
「せやなあ。どこもかしこもナイトウォーカーばっかりやったらたまらんし。でも遺跡調査は好きやから、調べられるところが出て来るとええな」
「おじいさま達にお土産を買いませんと」
お土産よりは土産話だろうと言いながら、彼女達はきちんと名産品の確認もしている。写真を見ては、オーパーツに似ているのがあると解説するのが、オーパーツマニアを兄に持つポーである。オルトロスがくしゃみをしたかもしれない。
「そういや、ラーの瞳はナイトウォーカーが探知できるでしょ」
「十メートルだけやって。危ないな」
「そういう感じで、オーパーツ探知が出来るのがあればいいよね。遺跡が工房だったら、分かりそうだし」
問題はダム湖の底で、探知範囲十メートルだと仮定したら役に立つか怪しい。
そして話題は、あっという間に現地料理の何を食べるかに移っている。
ナイル川沿いに点在する観光地化された遺跡と、その近辺の何らかの遺跡が隠されているだろう地域。アスワンで船便待ちの一泊の間に呑気な観光をし、川下りの最中にいったん船を下りて、地図に記された地点近くまでを車で確認に出た。
「遺跡というものは良く埋もれていますが、掘り返せるものですかな?」
「湖と同じで、遺跡をどう発見するかが問題さ。一杯やるか?」
エイに対して、ダークサイド云々より後ろ盾が遺跡調査に乗り出すことに懐疑的なケイは、彼と船や宿が同室だった。エイにあれこれ情報を与えるつもりが無く、表情を読み取られない自信があるためだ。
ついでに現在、すっかりと飲み仲間である。二人とも、浴びるほど飲んでも酔わない性質だった。
「カルア・ミンジャルも調査の許可を取るのに苦労したと聞きました。十箇所以上も調査するとしたら、許可の取り様が無いのではないかと思いますよ」
「その時は盗掘。どうしようもなく必要ならな」
「そも、貴方がどうして遺跡の発掘を?」
エイはケイと同じく舞台関係者で、役割が違う。その手の話では一度ならず意気投合したが、話してみれば、エイが遺跡に興味を惹かれているわけではないのが分かってしまう。
反面、それが分かればカクテル同好会との確執や様々な疑念が一時に晴れそうで、ケイは何気なく突っ込んでみた。当人が言うように、金だけあっても実績も信用も、実際に動く人材もない人々がいきなり遺跡発掘に乗り出すのは、獣人だからでは理由にならない。ケイとて、弾みでカルア・ミンジャルに関係しなければ、遺跡もナイトウォーカーも遠い世界の出来事だったはずだ。
「うちのグループ、覚えのない悪名が広まって再来年の開演予定舞台の進行が悪いからね。ここらでWEAに何か恩を売ろうと考えた」
そこで『恩を売る』と考える辺りがすでに協調性のなさを示しているのだが、エイ個人の発言かもしれないので黙っておく。ケイからすれば、エイもまだいきがる若人である。そう思えば腹も立たなかった。
ともかく、エイが崇拝しているシェイドとその一派は、再来年の舞台を滞りなく実行するために、WEAが欲しがっている何かを提供することにした。金銭では競合相手がいるし、最近ナイトウォーカー被害が増加傾向なので遺跡探索に乗り出したのである。
「本当に? 脚本のネタ探しのほうが、まだ真実味がありますぞ」
「酒返せ」
「ちょうど空ですね。それなら適任者を寄越さないのがおかしいということですよ」
いい大人が二人、どちらが酒をより飲んだかという話でもめながら、器用にも遺跡探索の話も進める。それでも、金があるなら適任者と協力すればよいと言われて、エイが自分が適任者だと胸を張った。
「カクテル同好会のアレクサンダーとパナシェの長男夫婦と孫二人が友人だ。今はシンデレラも入れて、孫三人か。他はもっと深刻に仲違いしてるか、まったく無関係だからな」
「貴方が一番ましでは、すでに今回の調査が適当に終わる理由に十分ですな」
ケイの言葉を誰かが聞いていたとして、それには誰も反論しなかっただろう。
なにしろほとんどは現地を見て回っただけ、そうして船は、明日にはカイロに着こうかという晩の会話だったのである。