下積み生活〜雪上リレーアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 1.5万円
参加人数 8人
サポート 2人
期間 02/04〜02/12

●本文

 北海道は札幌市の某所に、着ぐるみ劇団の看板を掲げる一族経営の団体がいる。名前は『ぱぱんだん』、確かに着ぐるみ劇団だがかなりの高確率で自前毛皮が混じる獣人の団体だ。劇団の他、よろずのイベント出演並びに支援、副業でコンビニエンスストアと簡素な貸しスタジオを経営し、季節により家庭菜園というにはやたらと広い畑仕事もこなし、町内会などの役員も率先して引き受ける、ある意味なんでも屋さんだ。
 とりあえず、食いはぐれないように頑張っているらしい。
 そんな『ぱぱんだん』に、あるスキー場からの仕事が舞い込んだ。以前は毎年仕事の契約があったが経営者交代で縁がなくなっていた、そのスキー場である。
 お仕事内容は、スキー場とホテルをまるごと買収した会社が家族向けに企画した雪上リレーへの協力である。この会社、スキー場が中規模で、ついでに上級者向けコースがそれほど広くないことから、全面ファミリー向けに限定して売り出すことにしたのだ。最初の企画が、雪上リレー並びに色々ゲーム。
 というわけで、『ぱぱんだん』に託された仕事は。

・リレー等競技、ゲームの見本
 ファミリーゲレンデを使用して行なわれるリレーのコース説明を兼ねたデモンストレーション担当。スポンサーからは着ぐるみの要望あり。自前毛皮OK。
 コースはホテル前からリフトまでの八十メートルをスキーで上り、リフトに乗ってファミリーゲレンデを下りで、第二走者に交代する。第二走者はゲレンデの下からリフトまで移動し、後は上って下りてくる。これを四人でリレーして、優勝すると記念品などが授与される。

・一組四名のリレーでの人数調整
 一家族三人や五人以上の場合に備えた、人数調整用の人員。これは普通の人間姿でよいが、スキー上級者はハンデとして着ぐるみ着用。そのため自前毛皮不可。
 一度のレースに最大八組が参加予定。参加数が少ない場合には、『ぱぱんだん』で登録して参加可能。その場合は優勝しても記念品は後程返品。

・ゲームの司会や記念品授与の手伝い
 司会者以外は着ぐるみ。自前毛皮可能。
 ゲームはホテル内レストランでのビンゴゲームや、フロントホールでの輪投げ、ダーツ、スキー場端での雪像作りなど。ビンゴゲームはレストランの利用が、輪投げ、ダーツなどはリフト券の提示がないと参加できない。成績優秀者には記念品あり。雪像作りは自由参加。
 スキー場で出来るゲームのアイデア募集中だが、今回以降のイベントで採用される見込み。

・その他賑やかし
 お客様が退屈しないように、愛想を振りまく。着ぐるみ推奨。

・イベント日程
 木曜日から月曜日まで。
 それ以外の日程は、リレーの練習や雪像作り会場の設営を行なう。

・参加特典
 スキー場のリフトが乗り放題。
 イベント開催期間の宿泊先、ホテルの大広間。お布団支給。
 食事、朝夕はホテルのバイキング利用可能。昼食はレストランで利用可能な食券配布。
 準備期間は通いで仕事。昼食のみ食券支給あり。

・参加の心得
 朝から晩までよく働くこと。

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa1401 ポム・ザ・クラウン(23歳・♀・狸)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa1810 蘭童珠子(20歳・♀・パンダ)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2361 中松百合子(33歳・♀・アライグマ)
 fa2544 ダミアン・カルマ(25歳・♂・トカゲ)

●リプレイ本文

 経営者変更で一度は縁が切れたと思った仕事場復活に、『ここで働きを認められて来シーズン以降の仕事も』と考えた人は多い。もちろん『ぱぱんだん』の人々だけでなく、
「カンナちゃん、来シーズンもただスキーしたかったら、ちゃんとお仕事するのよ?」
「ちょか」
 蘭童珠子(fa1810)に指摘されるまで、中松百合子(fa2361)の差し入れのチョコマフィンを食べるのに夢中だった笹村カンナはそんなことは考えていなかったようだ。相変わらずだと諫早 清見(fa1478)に苦笑されているが、笹村睦月、初美、葉月の三人は頭痛を堪えているような顔付きである。
 すでに彼らはスキー場に到着し、ホテルスタッフとの顔合わせも終えて、仕事に取りかかるところなのだが。
「一人見張りにつけとけば?」
「休憩時間が終わる時に、ちゃんと教えてあげるのも含めてだと‥‥スキーが出来る人かな?」
 蓮城久鷹(fa2037)とダミアン・カルマ(fa2544)がまるで幼児に保護者をつけるような口振りで言いつつ、トシハキク(fa0629)を見遣っている。多分気を使っているのだろうが、あいにくとジスはスキーがすごく出来る人ではない。
「教えてもらえばいいのよ」
 ポム・ザ・クラウン(fa1401)の助け舟で、とりあえず仕事の割り振りが次々と決まっていく。
「リレーのデモと司会がポムちゃん? 睦月さんの結婚式の練習よね。タマちゃんはゲームの司会だと、花嫁さんの練習にはならないけど」
 『ぱぱんだん』団長恵一郎がすごい三段論法で『パリに修行の旅』に行くことにされていたポムと、彼女が司会をするのが決定のタマの結婚式になぞらえて、姉川小紅(fa0262)が楽しそうに割り振りを確認しているが、そんな彼女に何人かが『自分は?』と視線で問いかけているのには気付いていなかった。
 ちなみに三段論法は『修行と言ったら旅回り』、『旅と言ったら外国』、『道化師修行はパリ』だった。実際は東京。
 総勢十二名、男女同数。多少年齢に幅があるように見えても、格別違和感のない一行は、全然甘い雰囲気をかもすこともなく、まずは雪像ゾーンの準備へと向かった。

 雪像を作ろうという企画は、雪祭りが有名な札幌のスキー場としては多分悪くない。
 しかし。
「土台はしっかり作らないと危ないし、雪像の元になる雪柱もないと大変だよね」
 ジスが大道具作りの経験を生かしながら、ヒサやユリと区画を決めている。雪像作りに参加する家族がいかほどいるのか初回で予想が付かないが、スノーランタンにかまくら作りも加えて参加しやすく、短時間で何かしらが完成させるのが目標だ。
「撮影用スペースも作っておけって話だったな。どのへんにする?」
 雪像を小さめに見積もって、ジスが区画を割り、ヒサとユリが会場全体の予想を立てて修正をする。ヒサは撮影をし甲斐がある背景も考慮済みだ。雪像が出来上がったときにホテルやゲレンデから見栄えよく見えるよう配置決定。
 その際にユリが作業中の休憩スペースを兼ねて、ホットドリンクのサービスはどうかとアイデアを出したが、無料で何か飲まれてしまうとホテルの収益にならない。ホテル内やリフト券売り場の自動販売機は市内より十円高いだけだし、ロビーにウェルカムみかんがあることで雪像会場サービスは見送る考えのようだ。
「まあ寒いし、仕方ないけど‥‥ここの自販機、ちょっと種類が少な目よね」
 ユリが言うのは、多分アルコールのことだ。ジュースは見劣りしない程度には揃っている。
 その頃、ダミアンとポムは雪像作り会場とリレーの看板を作っていた。イベント名・時間を書いた看板の他、方向や時間の表示用の張り紙などもまとめて担当だ。ホテル側が作ったポスターはすでに掲示されているが、子供の目に付きやすい低い位置にもイラストで雪像やリレーの様子を描いて張り出しておく。
 ほとんどのポスターのイラストはダミアンが下絵を描いて、ポムが色を塗って字を書いている。ダミアンは同じイラスト入りの写真撮影用ボードを作っていた。日付とスキー場名を入れて、写真一枚で覚書が要らない優れもの。
「ダミアン君、猫のイラストがあるけど、着ぐるみ用意してあったっけ?」
「僕が着る予定。あと狐と狸と狼とパンダがあるよ」
 獣化でスキーをするとプロを上回る腕前に化けるので、リレー要員は着ぐるみ厳守だ。その中の猫が軽やかにゲレンデを滑り降りているのは、多分ダミアンの願望込み。
 なお今回のメンバー、笹村四人以外で最もスキーが達者なのはポムで、狸を着るか、着ぐるみ先導役のどちらかを任されることになっている。ダミアンは一応滑れるが、着ぐるみ着用だと少し怪しい。
 いずれにせよ、全員事前にスキーの練習も必要なので、作業はどんどん進めていかなくてはならない。
 これとほぼ同じ時刻。タマは雪の中に埋もれていた。見上げると小紅と目があった。どうやら足元が斜面で均していないのに気付かず、すっぽりはまり込んだらしい。
「睦月君、タマちゃんが埋もれちゃった。あたしじゃ上がらないよー」
 かなり近くにいて、慌てて助けに来たキヨミが『嘘だ』と表情で語った。この冬の傾向で、雪像造り用の雪をスキー場端の林などでかき集めていた一同のうち、パンダ三人とキヨミは半獣化状態だ。帽子を被って誤魔化している。半獣化したパンダ獣人が女性一人引き上げるのはそんなに大変なことではないはずだ。
「女心って難しいな。俺、スキーに集中するから」
 見ない振りを決め込んでいる初美と葉月と頷きあいつつ、雪集めをしていたキヨミは、不意に葉月が声を上げたので振り返ると。
「葉月君、大変大変。小紅ちゃんが落ちちゃった」
 こちらは明らかな斜面に、小紅が転がっている。すぐ近くにカンナがいたが、葉月が押し退けて、結構あっさりと引き上げた。キヨミ、感心。
 と、どこから出したのかみかんが入った袋を抱えたカンナを睦月と初美が叱り飛ばしている。雪で凍らせていたみかんを踏まれそうになって、カンナが小紅の腕を引っ張ったらバランスを崩したらしい。
 葉月がカンナの頭に拳骨を食らわせると、小紅とタマが同情しているのが、キヨミにはよく分からない‥‥でも、雪集めで筋力が付いたらいいなとは考えている。

 それから、皆で見本の雪像、スノーランタン、更にかまくらを作ったり、雪上リレーのスタート・ゴール地点の標識を設営し、宣伝も兼ねて着ぐるみでスキーの練習に勤しむと、あっという間にイベント当日だ。
 そのゲレンデを蛍光色ゼッケンをつけた狼が、丸っこい狸耳をつけた道化師に誘導されて滑り降りてくる。途中、思い切り転んでいたが、すぐに自力で立ち上がりなんとか下のスタートした地点まで。そこで同じ色のゼッケンをつけたパンダにタッチすると、今度はパンダがスキーを履いたまま、せこせことリフト乗り場へ向かっていく。
「はい、このスタート、中継地点ではハの字で歩かないと、後ろに滑って進めません。リフトに他の人が並んでいるときは、きちんと列の最後に並んでくださいね。リフトから降りるときは、係りのお兄さんの言う通りにしましょう。高いところが怖い人は、前を見て座っていてね」
 滑り終えた狼が、パンダを指差しながら解説する。でも狼着ぐるみの中身はキヨミで、声はポムだ。知らない人にはこの区別は付かないが、良く見ると狼が肩からスピーカーを下げていて、道化師がワイヤレスマイクで話しているのが分かる。
 これを何度も練習して、きちんと動きと声が合うようにしたのが、ばっちり活かされていた。パンダも着ぐるみだから、下から呼びかけても反応が鈍いが、誘導役が『高いところが怖い』で下を向かせて、慌てて真上に顔を上げたりしている。
 午前と午後に一回ずつ、ほぼ同じ解説とデモンストレーションを入れて、幸いにも参加家族は多いことはあっても少ないことはなかった。毎回人数が合わない家族がいて、人数調整で滑る狼とパンダと誘導役に暇はない。
 狼が口をきかないので、駄々をこねた幼児が数名、狼を襲撃する『事件』が記念写真の一枚に収められ、続いてその子供達を倒れた狼の上から引き抜く道化師とパンダも別の一枚に激写されていた。
 リレーの時間とずらして、ゲームの時間もある。こちらはパンダ耳をつけた司会と偉そうなキーちゃんが解説だ。ビンゴと輪投げは大体皆が知っているが、ここでもパンダがデモンストレーションをする。ダーツはシャトルではなく、マジックテープつきの布ボールを投げるものだった。
「あらら、ゲームはまだですよー」
『パンダ、仕事を取られてどうスル!』
 デモンストレーション最中に、よちよち歩きの女の子につぶらな瞳攻撃で輪投げの輪を強奪されたパンダが、キーちゃんに怒られている。リフト券を持っていれば、一回は無料参加可能とはいえ、順番はきちんとしないと子供相手はしっちゃかめっちゃかになりかねない。女の子には、一回投げたら一度戻ってもらって、仕切り直し。
 ビンゴは、大体滞りなく終わった。輪投げも入らなくて泣き出す子供が出たりしたが、パンダと記念撮影して笑顔が戻っている。
『こら、パンダが痛いと言っているゾ!』
 ダーツのボールは危険性が少ないのをいいことに、パンダの衣装目掛けて投げるいたずらが一日大流行。体中にボールをつけたパンダに、司会とキーちゃん、子供達が並んだ一枚は、ホテル側が全部の保護者に掛け合ってホテル内に展示されることになっている。
 雪像作りスペースには、猫がいる。巨大で、長靴を履いた猫だ。赤い長靴に、羽つき帽子、にマフラーを巻いたスキーウェア姿で、記念撮影用ボードを抱えて歩いている。
「お願いすると、一緒に雪像も作ってくれるのよ」
 ホテル名が背中にプリントされた上着を着て、スノーランタンの作り方を解説して歩いているお姉さんが、子供達に猫との記念撮影を勧めている。確かにお願いすると雪像も作ってくれるが、当然細かいところは人任せ。
 そしてこちらは太い塩ビ管と思しき品物を持ち歩いているお姉さんは、それを雪の上にさして、雪を詰めたら踏み固め、管を外して形を整えて穴を開けるという簡単な方法を伝授していた。
 だが一度、管に入って雪を踏んでいた幼児が座り込んだらはまってしまい、親がなだめている間に猫とお姉さんが必死に管を押し開いて脱出させる一幕があったりする。その時のお姉さんの頭に、耳があったりしたらしいが帽子があれば一見しただけでは分からない。
 猫はかまくら作りに駆りだされ、固めた雪山の中を掘っている手伝いをしていたら、小学生に間違えて正面からスコップで雪をぶつけられ、しばらく周りが良く見えなかったらしい。口が塞がっているのに見えないのはおかしいなんて、それは言わないお約束だ。
 その後、雪まみれの猫が小学生が三人もいる家族連れと記念撮影をしていたが、撮影係になったお姉さんはどういうわけか猫の方は見ないようにしていた。
 そしてこのスキー場には、プロのカメラマンも出没する。時々熊だったり、人数調整スキーヤーだったり、山伏みたいな人だったりしているが、多分プロ。
 カメラマンは二人いて、神出鬼没にあちこちで写真やビデオを撮っているが、勿論お客の要望に応じて写真撮影もしてくれる。使い慣れないカメラの使用方法説明までばっちりだ。さすがにビデオ撮影は時間が掛かるので、あまりしてくれない。
「かまくらで記念撮影? 熊つけますか? パンダでも猫でも狼でも」
 スキー場やホテル内街には、イベント時間以外にも色々な動物着ぐるみが闊歩しているので、一緒に写真が撮れる。カメラマンに頼むとお目当ての動物を捜索してくれるので、とても便利だ。
 ただし、このカメラマンはまれに混じっている外国人客に大人気で、当人が撮影対象にされていることもしばしばだから、捕まえるのが大変である。山伏風の衣装が大受け。
 もう一人は時々いなくなる。代わりに熊が出てきて、一緒に写真に納まってくれるのだが、時と次第により熊が撮影してくれることもあった。熊に撮影してもらう、パンダとのそり遊び写真。更にそれを携帯カメラで撮る家族。
 とうとうホテル側の要望で、夕食の待ち時間に勢ぞろいした動物や和装の人と記念撮影するコーナーが出来てしまい、カメラマンは撮影したりされたり大忙しだった。写真によっては、海外で土産話と共に披露されるのだろう。
 そんなこんなで、なんとか最終日までを『男女同室だね』とか『この日は用があるから消える』とかやりつつ、一同は乗り越えたのだった。

 ところで。
「なに、ポムさん最後だからお花用意したけど、先に帰っちゃったの?」
「今うちに挨拶に来てるって連絡があったから、急いで帰るか」
 とっぷり日が暮れてから、この晩ばかりはお夕飯がホテルで頂けずに速攻帰ることにした十一人の一部は、二日後に迫ったバレンタインデーの話で盛り上がっていた。中にはすでにお菓子のやり取りをしているタマとか小紅とか、意外性のあるところでユリがいたのだが、皆手作り。貰う側も気合入れて貰えという品物だ。睦月と葉月とヒサ。
 中には我関せずの顔をして、ちゃっかり可愛い彼女に手作りマフラーをすでに貰ったダミアンもいる。
 それを横目に、ブリザーブドフラワーを用意したキヨミは初美と睦月の誕生祝いに贈る酒が買えなかったと困っている。こちらは年齢制限に阻まれていた。
「お返しは三倍返しか、三か月分か」
「明日、大通りの雪像壊しに行こー」
 バレンタインデーにチョコは買わないと言い切った初美とカンナの後ろでは、この二人のスキー教室で消耗したジスがぐったりしていた。