【城塞都市】追跡中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/11〜02/15
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●本文
その地域で外国人襲撃事件が起きたのは、二件目だった。
その地域の外国人襲撃事件がWEA下部組織に緊急の対応課題として上がってくるのも、二回目だった。
事件の被害者の一人はハナブサ・サトシ。国籍は日本だが、ドイツベルリンで活動する舞台演出家であると地元のニュースでは流れた。この傷害事件は外国人排斥を標榜する武装組織に関係しているものと目されているが、WEAには違う報告が届いている。
それを受けて、WEAがエジプトで展開する幾つかの組織から、ナイトウォーカー追跡と痕跡抹消の仕事を請け負う獣人が集められた。
・事件被害者 ハナブサ・サトシ
通称エイ。欧州を中心に舞台演出と劇作家を兼任する日本人、二十九歳。
事件現場となった街の近くの遺跡城塞都市、通称名『カルア・ミンジャル』の見学許可を求めに関係組織等を巡っていた際に、別の街から訪れていた犯人に襲撃され負傷。全治三週間の怪我と診断されたが、転院日当日には一角獣獣人の治癒能力にて完治の見込み。
当人の証言では、街中で偶然出遭った人間男性が、ナイトウォーカーに実体化して襲い掛かってきた。姿はおおむね人間時の状態を保っているが、左肩付近から昆虫風の足に似た形状の組織が飛び出しており、それの爪か何かで負傷させられた模様とのこと。感染母体である人間男性の顔は見ていない。
このエイは、以前より仕事関係、私生活両方での訴訟やトラブルが多い。ここ二年間ではオーディションに絡んでの女性俳優の自殺未遂騒動、当人への襲撃事件、出演者間での刃傷沙汰が確認されている。また舞台設備や運営に関して、贈賄、犯罪組織への利益供与の疑いもある。
またプロデューサー・シェイドの会社組織の一つに籍を置いているため、ダークサイドではないかとの噂も付きまとうが、最近本人がそれを否定したとの情報あり。
・事件目撃者 シンデレラ・カンパニーレ
ローマ大学に籍を置くイタリア人、二十一歳。大学は現在休学中。
イタリアにてスポーツ用品カタログ中心にモデル活動も行なっているが、昨年十月以降は継続した契約のモデル仕事はない。『カルア・ミンジャル』発掘を行なう文化保護団体の一員として、当該地域が襲撃を受けるまでは発掘に関わっていた。
エイ襲撃時に同行しており、犯人の顔を正面から目撃している。ナイトウォーカー特有の外見特徴については、左肩から現れた組織のほか、右肩にも同様の組織が二十センチほど飛び出したのを目撃したと証言した。
こちらのシンデレラはエイと同行していたが、プロデューサー・シェイドとの関連なし。現地の病院以降、エイに付き添っている。
祖父母(通称『カクテル同好会』関係者・現在中東地域にて活動中)からは、身柄確保の要請が届いている。エイにエジプト国外へ連れ去られないようにとのこと。
・事件犯人、ナイトウォーカー感染母体
仕事で当該地域を訪れていたエジプト人男性、四十二歳。
自営業となっているが、詳細不明。警察でも確認中。
元来外国人に厳しい言動をとることが多かったが、この半月ほどとみにその傾向がひどくなっていたと親族の証言があり、外国人排斥を目的とする組織との関係が疑われている。
事件以後、街から逃亡しているが、現在まで見付かっていない。
・カルア・ミンジャル
五キロ四方の城塞都市。住民はおらず、遺跡としての保護活動が行なわれていたが、外国人排斥を求める武装組織の襲撃を受けて、現在は保護活動が一時停止している。この襲撃は獣人が関わっていたという目撃証言があり、実際には武装組織の活動ではない可能性もある。事件そのものは未解決。
ほとんど全部が日干し煉瓦等の造りで、内部の住居は一部に二階までが残存しているものの、崩れる可能性が高い場所も残っている。街の中央部に舞台のような場所があり、一部獣人間では地下に遺跡があると噂されていた。
事件現場の街からは、車で一時間程度の距離にある。現在立ち入り禁止。
ナイトウォーカーに感染、実体化した人間男性が内部にいる可能性が高く、今回の仕事ではこの内部の確認と、発見された場合の適切な処理が望まれている。内部地図を用いて、現地警察に見付からないように、速やかにナイトウォーカーを退治すること。
遺体の処理はWEAの専門機関が行なう予定。
●リプレイ本文
内々でも、ダークサイドなんて単語が飛び交う仕事を喜ぶ獣人は少ない。よって、その疑いが捨てきれないと資料に書かれたハナブサ・サトシことエイに、御影 瞬華(fa2386)や犬神 一子(fa4044)は素っ気無かった。御影に面と向かって『あなたは信用の置ける人柄ではないでしょう』と言われたエイも、その通りだと頷いている。
これには元より事情を改めて聞くほどではないと思っていたアンリ・ユヴァ(fa4892)や面識がある者に任せていた烏丸りん(fa0829)も少々驚いていたが、何か起きないかと待ち構えていたベルシード(fa0190)には期待外れだ。
今回は警察にWEAの手が回りきらず、犯人の写真が入手できなかったために目撃者のシンデレラが同行するが、彼女は湯ノ花 ゆくる(fa0640)がエイに見舞いにと持ってきた『メロンパン粥』を興味津々。何で集まったのか忘れている。
こんなのを連れて行っても大変なのは、付き合いがいい加減長くなってしまった敷島オルトロス(fa0780)も承知しているが、獣人の目撃者が他にいないのでは仕方がない。他の面子がそれぞれに得物を使いこなせる腕前なので、シンデレラの護衛に努めることにしたようだ。
「シンデレラに怪我させなかったのは一応褒めてやるが、それとこれとは話が別だ。きりきり白状しろ」
エイも戦力にならないならと居残りだが、オルトロスはその前に知る限りの情報を全部言えと念押ししている。シンデレラにも同様に、犯人の顔付きから身長体型、それにこれは御影とわんこも聞きたかった『裏がないのかどうか』。
「ナイトウォーカー相手って、裏の事情があるものですか?」
挨拶代わりにサンバのリズムと衣装で踊って見せ、エジプト人のWEA職員に嘆かれたダイナマイト・アスカ(fa0383)が残念そうにしまっていた衣装から顔を上げて、尋ねた。普通はない。ダークサイドの関与が疑われたりしているので、念のための確認だ。
これで本当にエイがダークサイドと呼ばれる者だとしても、わざわざ裏の事情を白状するとは思えないのだが。
「今回は警察にナイトウォーカーに関係する目撃情報は黙って、挙げ句にWEAで片を付けようとするのだから、それが裏事情だろう? 初体験の俺が言うまでもなく、ナイトウォーカーに止めをさすってのは死体損壊だし」
面識のある者の大半が『分かってはいたが』と思い、そうではない者が『見た目と違って』と、エイを『やな奴』と考えたのはある意味当然である。
ただ、それとは別にこの時に報告が入ったのが。
「この名前の組織は、これまで確認されたことはありません」
目的地の城塞都市『カルア・ミンジャル』と先日のエイの襲撃とを行なったという犯行声明が、警察署に送られてきたこと。前者の実行犯は獣人の疑いが強く、後者はナイトウォーカーなので、人間の武装勢力など入り込む余地はないのだが、第三者が自分達の実績にしたいのか、それとも。
「命懸けなんだから、なんとか記憶できると思いますけど、でもこの地図、貸してくださらない?」
リンがこの期に及んで情けないことを言っていたが、表情は真剣だった。直前に『日差しが強い』と聞いて、慌てて日焼け止めを塗りなおしに行ったときも、やっぱり真剣。
その傍らでは、ゆくるの謎粥から離れたシンデレラがサーチペンデュラムでナイトウォーカーの行き先を探している。サーチペンデュラムはゆくるからの借り物で、地図はベルとアンリが眺めていたものだが、縮尺が大きいのでとりあえず『カルア・ミンジャル』が差せただけ。
「ついでに辛い料理の食べられるお店も」
アンリの質問は、さすがにこの場では返答がなかった。でもベルは、エイに『よろしく〜』と手を振っている。
WEAの職員が微妙に渋い表情になっていたが、九人は予定していた時間通りに出発し、『カルア・ミンジャル』にも到着していた。
『カルア・ミンジャル』地域は、外国人女性に全身を覆うようなことまで強制はしない。今回の女性は全員長袖にズボンで格別問題はないのだが、遺跡に付いたところでリンが慌てて髪をスカーフで覆っている。
「なに、日焼け予防? 日焼け止め、さっきあんなに塗ってたのに」
ベルがさすがに帽子は無理だよと茶化していたところ、中に入らないうちからオルトロスに引っ付いているシンデレラが口を挟んだ。
「宿主を変えていなかったら、腐乱死体だぞって脅かされましたのよ」
「あの野郎、これが終わったらレストランで有り金はたかせてやる」
ベルとアンリがオルトロスの発言にうきうきと歩き始めて、御影に引き止められている。汚れるかどうかは別として、もしもの場合に顔を目撃されないような準備は必要だ。勿論『カルア・ミンジャル』は現在立ち入り禁止、時々警察の見回りがあるが、それらしい動きがあれば遺体処理に控えているWEA下部組織から連絡が入ることになっている。とはいえ、何事も用心は必要だ。
「これで‥‥準備は‥‥‥万端‥です」
ゆくるも髪をスカーフでまとめ、ドリルアームとSSXスレッジハンマーとを持ったが、いささか足元がよろけている。半獣化したところでようやくしゃんとした。彼女を含め、五人飛べるので、索敵はまず上空から。人影らしいものがいれば、それが十中八九、目指す相手だ。
「鴉が二人に、竜、蝙蝠、鷹。滅多に見られる光景じゃないな」
「他人の金でホラーアクションが撮れたぜ」
ああいうものはCGや模型で作るものは違うと、わんことオルトロスが、色々打ち揃った仲間の姿に創作意欲を刺激されていた。オルトロスには相変わらず逃げ腰のシンデレラがぶら下がるようにしているが、大鎧の戦鬼を身に付けたわんこには報告待ちで退屈しているベルがぺたぺたと触って鎧の感触を確かめていた。さすがに彼女自身が着けたいとは思わないようだが、続いてわんことオルトロスがそれぞれ着けている、種類が違うナックルもぺたぺた。
「こら、準備はいいのか」
どうも落ち着かないベルをわんこがたしなめているが、あまり応えた様子はない。そんなベルはじめ、ナックル使用者二人と弓を使うリン以外、銃器を携帯している。
さほど待つこともなく、街の中でもっとも目立つ舞台の傍らにそれらしいものがうずくまっていると、五人全員が確認して戻ってきた。
感染された人間の姿らしいものは確認したが、ナイトウォーカーが別の生物な情報に移動している可能性もある。情報になっていても面倒だが、別の生物だとどこから出てくるか分からない。昆虫くらいは入り込むだろう。
そのため、地図で確認した幾つかのルートを九人が三つに分かれて辿ることにした。最も先頭を進むのはベルの灰代傀儡だ。傀儡操作に集中するベルと一緒に、わんこと御影。
アンリとリン、アスカで一組、ゆくるとオルトロスとシンデレラで一組。
「相手に隙があったらフランケンシュタイナー‥‥諦めました、ええ」
女子プロレスラーのアスカは銃器があっても、やはり身に付いた格闘技に愛着があるのだが、先程上空でも感じ取れた腐臭を思い出して、今回は見送ることにしたらしい。人間の肉体にダメージを与えることは出来るが、腐肉をまとったナイトウォーカーに同じ技が効果的かは未知数でもある。
「それがいいわ。服を買い直すのだって、ただじゃないんだから」
そこまでのお金は出してくれないでしょうと、微妙にずれた会話に突入しているのはリンだ。アンリは必要最低限しか口を開かないので、リンがその分まで喋っている。なぜなら、目的地に近付くにつれ、臭いがするからだ。服に付いたらどうしようくらいは、考えているかもしれない。
それでもアンリが先頭を進んで、目的地はもう少しだ。
傀儡の後ろを歩くベルに、護衛の御影とわんこが進んでいるのは、舞台に向かう最も大きな道だった。
「舞台、何かがあるわけではないでしょうが」
御影がポツリと零した呟きに、ベルがすぐ反応する。場所がこの街の特徴である舞台となれば、何らかの裏があるのではないかと勘繰りたくなる気持ちが伝わったらしい。更に御影はエイに、プロデューサー・シェイドのことを尋ねた折に、異様に嫌がられたのも記憶に新しかった。ベルが遠慮なく『熱愛中恋人のことを、恋敵に尋ねられたような反応』と評したが、男性三人の三角関係ではない。ただ熱烈に崇拝している獣人がいる、カリスマなのは察した。その一人のエイは、仲間が増えるのがお断りらしい。
「スフィアとは関係ないといいと思っただけですよ」
何事かと思っているわんこには後程と目配せして、御影はエア・スティーラーを握り直した。彼の視線の先、うずくまっていた影が動いたのを、わんこのその耳で捉えている。ベルの傀儡が、それを誘うようにステップを踏んだ。
双眼鏡片手のシンデレラが加わっている三人組は、ゆくるも重量がある装備が多いので他に比べて移動がゆっくりだった。ゆくるの戦闘力は信用しているオルトロスも、完全お荷物状態のシンデレラがいるので急がない。ナイトウォーカー一体なら、よほど異様なものでもなければ他の面子で十二分に対応可能だと理解してもいるからだ。
「コアが‥‥目立つ場所で‥‥‥大きいと‥いいんですが‥‥」
せっかくのドリルアームなので、ぜひこれで一撃をと考えている節のあるゆくるが、その口調と裏腹にぱっと顔を上げたのは銃声が響いたから。一番最初に舞台に着くだろう三人のうち御影は消音器を付けていて、ベルは特殊能力のほうが使い勝手がよさそうで、わんこは銃を持っていない。よって、最初の一撃とは限らない。
それで銃声がするのは、相手が明らかにナイトウォーカーだったかとオルトロスがラーの瞳を見るが、まだ少し離れているのか反応はない。
「こ〜わ〜い〜」
「シンデレラ‥‥うるさい‥‥です」
いっそ置いて来ればよかったと後悔をしつつ、オルトロスがシンデレラを引きずる様にして舞台に近付くと、腐臭が鼻を痛いほどに突いた。
舞台の、階段上に広がる客席めいた場所に足を広げた大きさが一メートル程度の歪な蜘蛛がいた。足が四対あるように見えるので、蜘蛛に見えるが当然違う。
人間の胴体がそのまま蜘蛛の胴体に当てはめられて、足が飛び出たように見えるそれのもう一つ異様なのは、肩から飛び出る部分が鋭い鉤爪状になっていることだ。蟷螂が振りう上げる鎌のように、時々ベルが飛ばしている火の玉を打ち払うために、後ろ二対の足で立ち上がる。
「よし、そいつがあの野郎を襲ったので間違いない。移動も、別個体もなさそうだ!」
シンデレラが『仕事、仕事』と呪文のように繰り返しつつ、立ち上がったときに確認した『服が目指す相手と同じ、体格と多分。胴体の臍辺りにコア』の発言をオルトロスが皆に知らせた。伏せられるとコアが見えない、攻撃も直接当たらないと条件は悪いが、少なくとも情報に潜まれていないだけ仕事はしやすいというものだ。
首尾よく倒せば、もしかするとボーナスが付くかも。または何かご馳走が出るかも。
そういうことを考えて、俄然やる気になったのが何人か。
「まだるっこしいっ。近付ければ、ひっくり返しますけど!」
ライトバスターで一刀両断には、ちょっとばかり足場が悪いのだが、アスカが言う通りに近付ければひっくり返すのはそれほど苦労のしない場所だ。階段状ということは地面も斜め、運が悪いと転がり落ちた挙げ句に元の姿になるが、それならそれで舞台上で足場が広くなる。
「足止めが、難しいのよね。それに遺跡だから壊したらいけないような気もするし」
リンがブラッディボウを引きつつ、律儀に返している。彼女の力だと、石舗装の階段に矢を突き立てるとはいかないが、銃弾は確実に削って跡を残すだろう。
ただし、そういう注意がないのだから、ナイトウォーカー殲滅のほうが重要視されているとアンリや御影は考えて、更に狙いをつけているのでほとんど外さない。
「当たりません‥‥」
アンリの呟きは、狙った足関節に当たらないという意味で、胴体には弾が食い込んでいる。御影は一弾撃って、それからより良い射撃場所を探して移動中だ。念をこめた一撃に手応えはあったが、当てる場所がコアでなければ意味がないということか。
「五分三十秒〜、切り替えついでにぶつけるよー」
ベルの宣言で狙撃手達がより安定した足場や、射撃位置を求めて数メートルずつ移動する。その間にベルの飛操火玉がナイトウォーカーにぶつけられ、ぐいとその体が地に伏せた。と同時に飛び出したのはわんこで。
「お後は任せた」
ブラストナックルの一撃で、ナイトウォーカーの本体とも言うべき部分が浮き上がり、転がる。
わんこに避けろという声もなく、狙撃手から一斉に銃弾と矢が降り注ぐ。どれが当たって、外れたものかは良く分からないが、空に上がって様子を窺っていたゆくるがまだコアが壊れきっていないのを見て、地に下りる。
その役は譲って欲しいと思った誰かもいそうな、コアへのゼロ距離射撃。いいとこ取りの代償は、顔と腕に跳ね返った通常はありえない汚れと‥‥ずるいとか、臭うとか、早く落とせとか、労う前にそれかと思わせる一部の反応だった。
オルトロスは他人の涙と鼻水で、袖を汚されている。誰も同情しないけれど。
それから。
遺体は回収され、ナイトウォーカーの痕跡を取り払った後に焼却されて、武装勢力の仕業に見せ掛ける細工込みで警察に通報されると聞いた一同は思わず一斉にエイを見たが。
「WEAの仕事で、俺は関係ない」
そんな反応なら、レストランの予約は取り消すぞと嫌味ったらしく笑い返された。