水没遺跡探索中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
フリー
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獣人 |
4Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
23.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/26〜03/04
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●本文
エジプトとスーダンの国境には、ナセル湖という人造ダム湖がある。世界で初めて世界遺産に登録された古代エジプトの神殿が水没しても構わないという勢いで作られた、エジプトを渇水から救っている大事な湖だ。
ここにはそのとき水没をまぬがれたアブシンベル神殿の他にも、多数の遺跡があったのだが、その多数が保存の手を打たれることもなく水没している。
そのダム湖の水没遺跡に、ヨーロッパのテレビ局が潜水取材許可を取り付けた。
これはエジプト国内の別の遺跡で発見された、遺跡群を示すと思しき地図にダム湖の中にも獣人に関係するだろう遺跡があったことを示しているためだ。他にも有名遺跡の近くや、すでに発掘調査中の遺跡が示されており、ダム湖の底にも何かが残っているだろうと推測されたため、WEAが裏から手を回していささか強引に潜水許可を取り付けている。
もちろん取材というのは、必要な機材を持ち込むための方便である。
この潜水調査は、一口にWEAと言っても関係する幾つかの組織団体が関係していて。
「俺達がこっそりやるのは問題で、贈収賄で許可を買うのはありなのか」
「こっそりで見付かるよりはいいだろう。私はイタリア人だからね、そのくらいは言うよ」
当初はこっそりと潜るつもりでいたエイという青年が集めた一団と、大枚はたいて許認可を貰ったカクテル同好会と呼ばれる集団が、角を突き合わせていた。
もとより『ダークサイド一党』と警戒されているエイ達はWEA全体から警戒されているが、カクテル同好会も時に強引な手法を選ぶ。今回はどちらも、時間を惜しんでいる場合ではないと結論付けたのだ。
その理由はWEAのエジプト支部のお歴々にも今のところ不明だが、彼らはどちらかといえばカクテル同好会の味方だ。よって、カクテル同好会がエイ一派と活動をともにして、ついでに見張ってくれればありがたい。
そういう事情はさておいて。
ダム湖で遺跡の潜水調査に加わってくれる人員の募集がされている。
今回の目的は『ナイトウォーカーが封印されている遺跡』で、探索用には水没前の遺跡位置の少々縮尺が怪しい地図と、オーパーツのラーの瞳、それから潜水に必要な用具一式が用意されている。
当然、遺跡が発見されればナイトウォーカーの殲滅も仕事に入るだろう。
【関係者一覧】
・エイ
劇作家兼演出家のはずだが、本格的に遺跡探索に乗り出した。当人は現地で監督するだけで、専門スタッフは別にいる。
黒い噂の絶えない人物で、性格はそれほどよろしくない。
・カクテル同好会
ヨーロッパ出身者が多い、過去に遺跡探索で活躍した一団。現在五十代から六十代の男女で構成されていて、実際に活動する人材は限られている。
交渉ごとには表も裏も強い。
・シンデレラ
カクテル同好会の中心人物の孫だが、エイとも親しい。
聞けば結構何でも応えるが、的確ではないこともある。
●リプレイ本文
ナセル湖水中探索に関与するのは、依頼人の一人エイが率いる彼を加えた七名と、カクテル同好会にシンデレラを含む九名。それに今回両者の募集で集まった八名で二十四名の大所帯だった。船も一隻借り切って、操船はカクテル同好会メンバーが担っている。
全員が揃った船上で、一通りの自己紹介が終わった途端に、カクテル同好会のアレキサンダーがエイに問いかけたことがある。
「シャルロという人物を知っているかね?」
この質問に、河辺野・一(fa0892)と群青・青磁(fa2670)、シンデレラ以外の全員がそれぞれに反応を見せた。多少は誤魔化せた者もいるが、ベルシード(fa0190)などは何事が始まるかときょろきょろしている。
これに応えたエイは、最初『その名前なら三人知っている』と返し、その後に女性だと言われて。
「仕事で何度か絡んだが、あれは性質の悪い女だな。仕事の成果の独り占めをされかけたことがある」
「あら、人のことが言えるのですか?」
フゥト・ホル(fa1758)がくさし、敷島オルトロス(fa0780)、敷島ポーレット(fa3611)、神保原和輝(fa3843)、アンリ・ユヴァ(fa4892)と皆に頷かれたエイは渋面を作ったが、この男も基本的に性格が悪い。
「俺の顔が好みのくせに、なびかない女は嫌い」
その根拠はどこから出てきているのか分からないが、少なくとも彼と初対面の群青と河辺野が『性格に難あり』を実感することは出来た。
他の人々は、それぞれにエイの言葉を心中で考えていた。
エイが集めた六名は、潜水調査の経験豊富な獣人だった。対してカクテル同好会は今回潜水に加わる人員がいない。代わりにラーの瞳を五つ持参していた。加えて河辺野とオルトロスが一つずつ所有しているので、ラーの瞳は七つある。
「これだけあれば、二人一組で一つずつ持って、捜索範囲も広がるってもんだな」
オルトロスが言う通りに、ダイビングは複数人数が一組で潜るのが基本だ。エイのグループの六名と、合流組の八人でじっくりと水中での合図と装備の分担などを確認して、実際に何度か練習する。用意されたのはハトホル希望の潜水具とは異なるが、長時間の潜水用だ。
ただし問題は、潜水地域として予定されている場所が、一番水深が浅くて二十メートル。もっとも深いところで六十メートルあることだ。もう一箇所、三十メートル地点の三箇所が、今回まず調査地点として挙げられている場所である。
「半獣化したら、かえって身動きが取れないかな」
「‥‥‥」
和輝とアンリは翼があるため、半獣化でもすると水中ではかえって動きが取れない。エイが連れてきたBからGまでのアルファベット呼び名を名乗るうちの竜獣人Dは、相当練習したとかで半獣化して潜水可能だが、ダイビング初めてとそれに近い二人では真似が出来ない。アンリが群青と、和輝がハトホルと組んで、もしも半獣化せざるえなくなった際に引っ張ってもらうことにした。
「ま、このくらいのずれなら体当たりでいけますよ。捜索範囲をマス目に区切って、しらみつぶしに反応を見ればいいわけでしょう」
河辺野が予想よりは狭い範囲に安堵しつつ、全然反応がないサーチペンデュラムを握って地図を覗き込んでいた。あいにくと未発見らしい遺跡などは、このオーパーツの出番ではない。
そう。目的の遺跡は公式には未発見だ。
「なぁ、なんで未発見なのに、地図があるん?」
お土産まで持参したシンデレラとカクテル同好会の面々相手は勿論、エイとその配下と呼びたくなるような六名とも和やかに話が出来るポーが、『縮尺が怪しい』と称された地図を広げて尋ねた。それに描き込まれた、当時すでに発見されていた遺跡からの距離を精密地図に写して、誤差も考慮したのが今回の捜索範囲だ。縮尺以前に怪しいのが、遺跡が描き込まれた地図は手書きであること。
これには、エイが応えた。彼はこの地図を入手して潜水調査を実行しようとし、カクテル同好会はラーの瞳を使用して遺跡を探し当てようとした違いがある。
「盗掘用の地図だから。水没寸前に一網打尽にされた連中のお手製」
それがどこに保管されていたものか、公式には未確認の遺跡が記されたと思しき場所が、三箇所あるわけである。
「じゃあ、すんごい宝物があるかも?」
ベルが目をきらきらさせて身を乗り出すと、オルトロスがそれよりも更に乗り気の姿勢を見せた。
「見付かったお宝の所有権はどうする。オーパーツだって、出るかもしれないな?」
「オーパーツが出たら、WEA預かり。ナイトウォーカーの感染物も同じくね」
カクテル同好会のアレキサンダーが懇々と言い聞かせたが、オーパーツマニアとしてそこそこ名の知られたオルトロスが納得するはずがない。が、まだ見付かってもいないものでもめても仕方がないので、話題はとりあえず保留。
代わりに口を開いたのが、今回最初からエイとシンデレラの取り合いをしている群青だった。どうやら彼はエイを、シンデレラにまとわりつく悪い虫と認識したらしい。でも仕事は真面目にやる。
「ナイトウォーカーだが、情報体の姿でもこれに反応するのか?」
遺跡の中にナイトウォーカーがいるとしたら、おそらく実体化はしていない。だが幸い、実体化前でもラーの瞳には反応するそうだ。後は遺跡内に大型魚類等の生物侵入をさせないようにして、情報体のまま確保できれば一番だとか。
「どうやってです? 人目もありますから、水上に上げるのは危険では?」
ハトホルの懸念は皆が感じたことだが、カクテル同好会の人々は漫然と年齢を重ねてはいなかった。まったく模様も、製造番号の打ち込みもない箱を取り出して、それに入れるようにと言ってきた。回収後は速やかにWEA施設に運び込み、実体化用の小型生物を与えて退治する予定だそうだ。
「それは、効果があるのですか?」
珍しくアンリが質問を投げかけたが、答えはあまり歯切れがいいものではない。とりあえず今までこの方法を八回実行して、失敗したのが二回だから何とかなるだろうと‥‥あてにしていいのかどうか。
「ナイトウォーカーが実体化していないなら、それに越したことはありませんが‥‥遺跡の壁面だったりしたらどうします?」
遺跡を壊すのは気が進まない河辺野の問い掛けは、素晴らしくあっさりした『削ってきて』の一言で終わっってしまった。駄目なら他の媒体に移せと言われそうなので、誰も言葉を続けない。
「ちっ、壊した責任は取ってくれよ。始めるのは明日の朝にしよう」
オルトロスが前半はカクテル同好会に、後半はエイ達に言って、この日の作業は終わりになった。すでに二日目の日が暮れそうな頃合で、今から潜水など論外だ。
船も街に戻って、アンリご所望の辛い料理と、ハトホルがムスリム以外の慣習も尊重する派なので希望者に群青の用意した酒が振る舞われる。更に希望するとオルトロスがカレーも作ってくれるのだが。
「なんや、毎晩賑やかやな」
ポーも経費で買い込んでおいた好きなものを摘みつつ、エイに食って掛かる群青を眺めていた。底無しに飲める二人は、他の人々からも生温かく眺められている。
「エイの好み、どうして変わったんだろう?」
貴女の方がよほど気に入られそうなのにとBに問われても、和輝も答える言葉がない。河辺野はカクテル同好会の面々に妙に気に入られて、延々とその関係の愚痴を聞かされていた。
ただ、酒が入ってもBからGまでの六名は、本名をまったく口にしない。滅茶苦茶怪しいが、話している分にはエイよりよほど気さくでいい連中なのがややこしかった。それと、見ただけで分かるほどに戦闘訓練を積んでいるのも、色々と。
三日目から、調査に掛かる。ナイトウォーカーが遺跡に封印されているとして、それが十メートルより奥だとラーの瞳は役に立たない。そうなったら怪しい場所を掘り起こす羽目になるので、ぜひとも反応があって欲しいところだ。
六十メートル地点にはEとG、三十メートルのところにオルトロスと河辺野、アンリと群青、CとD、二十メートルにベルとポー、和輝とハトホル、BとFが潜る手筈になっている。六十メートルだけはエイ派閥のみになるが、作業がきちんと行なえる人物だけ潜水させたほうが効率も良いので、カクテル同好会も異議は挟まない。
ちなみに相互の連絡は、河辺野とポー、Gの知友心話が使用される。通信装備などに感染されるのを防ぐためと、そんなものの使い方まで手が回らなかったからだ。彼らの装備は感染対象になりそうな記号も模様も全て一色で塗り潰されている。
調査地域を細かく区切って、ラーの瞳の効果範囲が重ならないように、途切れないようにして、水没前は土手だったのだろう場所をゆるゆると動く。やることはいずこの水深でも同じだ。一番体力がある者から照明設備を背負い、射撃の心得がある者は水中用の銛などを持っている。
ただし、基本は全員が念を押された『何か見つけたらまず連絡、装備を改めて再度調査』という『危なくなったらすぐ逃げる』方式だ。
そうして、三日目の潜水調査が終わろうかという頃。
『反応ありましたー。位置確認済みです』
河辺野からの連絡が入って、全員が戻ったところで河辺野とオルトロスがつけた目印の解説が行なわれた。幾らか泥が積もっているが、元は穴が開いていた場所らしい。オルトロスの力で押し込むと、僅かに泥が沈み込むのだ。掘れば、穴か凹みが現れるだろう。
この夜は酒盛りも程々で、必要そうな機材の準備に追われることになった。
四日目。
十四人がかり、実際に掘るのが群青とオルトロスとハトホル、それから体力に自信があると言った河辺野にアンリとC、E、Fの八人だが、これだけの人数がいなくても掘り返せそうなところに、空洞が開いた。出入り口というより、単に壁が崩れかけていたところらしい。
近いところにナイトウォーカーがいるはずと、武器を手にした一団は警戒を強めたが、いきなり飛び出してくるものはなく。ライトを差し込んで見たところ、空気もないようだった。いささかどころではなく、やりにくい。
口が利ければ『面倒な』と誰かが言ったかもしれないが、愚痴すら零すのが大変な状況ではそれもない。大きな石を外して、ライトが届く範囲を広げると‥‥そこには、エジプト神話の神々を示す壁画と、祭壇のようなものが見えた。動くものの気配はない。
この時しばし、上で待っている人々が知ったらため息をつきそうな、誰が最初に中に入るかもみ合いがあったのだが、万が一に襲われても怪我の少なそうな者から潜り込む。地表から近い割に、広い室内は墓のようではなく、何か神殿めいた造りだった。相当傷んでいるが、壁画に描かれているのは、単純に見れば悪神セトがオシリスを滅ぼす神話の場面だが、これに違う解釈をする一宗派と呼ぶべきものが獣人の中にいることを、この中の何人かは知っている。
だが、彼らの興味を一番に引いたのは、その壁画に向かい合う位置、彼らが入ってきた側の壁に埋め込まれるように置かれた筒のようなものだ。それには蛇が巻き付いている。厳密には、筒に浮き彫りされた蛇の姿なのだが。
『ナイトウォーカーが感染』
筒と距離をとるとラーの瞳の反応が消えることを確かめて、ポーが手信号で皆に知らせた。それほど大きなものではないので、用意した箱にハトホルとオルトロスが入れる。その間、半獣化しているアンリや和輝、群青が実体化に備えたが、実体化に適した生物が来ないように見張っているベルや河辺野がいるから異常は発生しなかった。残る六名は、壁画の撮影に余念がない。撮影機材を扱う腕は彼らが上なので、これもまた分担だ。
筒が回収されてからは、アンリや河辺野、和輝も壁画の確認を手伝って、見落としがないかどうかを確かめた。細かい分析は後日のこととしても、何度もダム湖に潜水なんて許可は取れないだろうし、獣人とはいえ負担もある。次はないつもりでの、時間いっぱいの調査だった。
それを済ませて、全員で箱の周囲を固めるように浮上する。すでに連絡を受けていた船では、撤収準備にWEA施設までの車の手配も済ませて、彼らの戻りを待ち構えていた。
「さすがにこう毎日だと、体が冷えるわね」
「シンデレラ、うちにもコーヒーちょうだい」
「僕もー。後すぐにエネルギーになるようなものない?」
「‥‥辛いもの」
後はカクテル同好会に任せて大丈夫そうと考えたハトホルが、やれやれと肩の荷を下ろした脇で、女の子達がコーヒーを啜っている。アンリの要望にはタバスコが出てきたが、それだけ貰ったって誰も嬉しくはない。
河辺野はちょこまかと甲板を移動して、回収された筒と撮影された映像などを確認していたが、和輝がなにやら魅入っているのに足を止めて‥‥銃器の類であることを見て取ると離れた。射撃の得意な和輝は、今後のための知識の蓄えとして、カクテル同好会やエイの仲間となにやら熱心に語り合っている。
そうして、誰より賑やかに、
「あれはオーパーツだ。きっとそうだ。調査には俺も入れろっ」
「シンデレラに引っ付いてんじゃねえー! ナイトウォーカー代わりに沈めてやるっ」
カクテル同好会にオルトロスが、エイに群青が吼えていた。どちらも適当にあしらわれているが、多分しばらくあの調子だろう。
あんなことでいいんだろうかと女性陣と河辺野は思ったのだが、そんなことをしていても、問題の品物がWEA施設まで運び込まれたのでいいことにした。
後は依頼人達にたかろうと考えている人が、ちらほら。