後輩育成〜海底洞窟探検中東・アフリカ

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 1Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/14〜12/18

●本文

「ああ、お父様、お母様、どうして私を置いていってしまったの‥‥」
「それは仕事ですからね。あなたも仕事があるのですから、一緒に行けないのは当たり前です」
 何を今更なことをと、高笑い付きで口にするのは老婦人。割と大柄で、髪が真っ白な割には肌に張りがあり、声もはっきりしたものだ。どう見ても、歯は全部自分の歯。
「またおばあさまに呼び出されて、きっとひどい仕打ちが私を待っているのに違いありませんわ」
 さめざめと、高級なホテルの高価な絨毯をむしりながら嘆いている女性は、シンデレラという。職業、売れていないモデル。芸能関係者の大半がそうであるように獣人で、兎だ。売れてはいないが、獣人のもう一つの仕事とも言うべきナイトウォーカーとの戦いに参加する気は全然ない。
 なのに、彼女にはそちらの道で勇名をはせた祖母がいて、最近何かと呼び出しを受けるのだ。
 今回は中東某国、ここにモデル女性の仕事がたくさんあるとは考えにくいから、シンデレラの嘆きももっともなのだが‥‥
「別にたいしたことではありませんよ。ちょっと海に潜って、海中洞窟から仮面を拾ってくるだけです。ひいおじいさまの遺産ですから、もちろん行ってくれますね?」
「スキューバダイビングですのね、私、やったことがありませんけれど」
「素潜りに決まっているでしょう? これは訓練ですからね」
 道具がなくても、遺跡探索やナイトウォーカー退治がこなせる強い獣人になるためですと、明らかに人選を間違っているおばあさまは断言する。そんな希望があるなら、やる気のない孫より、やる気のある若人を集めて仮面集めをやらせればよいのだ。
 ちなみにこの仮面、おばあさまの父親が『後輩育成』と言ってはあちこちにばら撒いた品物である。もちろん遺跡の中や、当時はナイトウォーカーが発生していた建物、非常に古い洞窟の中などにだ。それをやった当時はおばあさまが鍛えられていたのだが、幾つか未回収の仮面があるのを、今になって孫に回収させるつもりでいる。
 ただ、どう考えてもシンデレラがそうしたことに不向きなので、仲間を集めることにはしているらしい。
「いいですか、この地図の海岸の海底に洞窟があります。中も全部水です。その中のどこかに仮面がありますから、拾っていらっしゃい。そうですね、確かこの洞窟は奥行きが十メートル、幅と高さは五メートル程度のものだと思いましたよ。海底までは八メートルくらい」
 たいして広くないので、今時の道具がなくても何とか出来るはずです。頑張りなさい。
 酸素ボンベを使わなければ、他の道具は使って構わない。何をどう使って、課題を乗り越えるかを見せてもらいましょうなんぞと呑気なおばあさまの言葉に、シンデレラはうじうじと絨毯をむしり続けていたが‥‥ドンと突き飛ばされて止めた。どうせ彼女に拒否権はない。
「ところでおばあさま、ここは中東ですわ」
「ええ、そうね。外出するときはスカーフを忘れないようにするのよ。警察に連れて行かれますからね」
「女性は肌を見せてはいけない国で、海に入ったりしたら怒られますわね?」
「だから、こっそり行って、こっそり潜って、こっそり仮面を手に入れて、こっそり帰ってくる訓練ですよ」
 さらりと言われた課題に、シンデレラは固まってしまっていた。

●今回の参加者

 fa0163 源真 雷羅(18歳・♀・虎)
 fa0230 アルテミシア(14歳・♀・鴉)
 fa1305 拝 玲於奈(17歳・♀・狼)
 fa1646 聖 海音(24歳・♀・鴉)
 fa1693 瑯羽(26歳・♂・鴉)
 fa1705 影刃(23歳・♂・猫)
 fa1758 フゥト・ホル(31歳・♀・牛)
 fa2249 甲斐 高雅(33歳・♂・亀)

●リプレイ本文

 海底洞窟から、仮面を引き上げる。
 この難題を実の祖母から押し付けられたシンデレラは、集まった人々を見て感涙に咽んでいた。
「まあ、シンデレラさんたら。そんなに喜んでいただけるなんて、嬉しいですわ」
 アルテミシア(fa0230)が開口一番にお久し振りと言ったように、彼女達は以前にも同じようなことを、ミイラがごろごろしている洞窟でやったことがある。それは源真 雷羅(fa0163)、影刃(fa1705)、フゥト・ホル(fa1758)、甲斐 高雅(fa2249)の四人も同じである。
「経験者に聞くけどさー、ちゃっちゃと潜って、探して、さっさと帰ってくればいいんだよね?」
 拝 玲於奈(fa1305)が、顔合わせで集まったホテルの部屋の椅子に逆向きに腰掛けて、背もたれにあごを乗せて問いかけている。その様子をこの国では珍しい和服で、にこやかに眺めているのが聖 海音(fa1646)、別の椅子でバインダーに挟んだ紙になにやら書き付けているのが瑯羽(fa1693)だ。総勢九名で、仮面探しに行くのである。
「簡単にだけど、環境番組の企画書を作って、役所と警察には出しておいたよ。ロケハンで潜水しますって断っておいたから」
 カイ君がひらひらと示した簡素な企画書は、海中写真も添えられて、見てくれだけはそれっぽい。潜水の担当に女性もいると話して、困った顔はされたようだが、洞窟のある場所は町の住民が通る道路から離れているので、速やかに調査を行うようにと言われただけで済んだようだ。多分、同行したハトホルの力によるところも大きいだろう。エジプト生まれの彼女は、他の女性陣にとっても服装から何から、困ったことは全部尋ねることが出来る頼もしい存在だ。
 ただ、裾が長い上着は、どう着たところでライラもオガちんも『動きにくい』と嫌な顔をしっぱなしなのだが。
「やれやれ。シンデレラのばあさまも、こんな面倒なことをさせるかねぇ。絶対に楽しんでるんだぜ」
 懐が寂しいライラはぼやきつつも、一仕事前の力付けとばかりに色々食べている。支払いは、もちろんシンデレラのおばあさま任せ。オガちんも、当然のごとくご相伴に預かっていた。横では海音が、この地方料理に興味しんしんで覗き込んでいる。
 この間に、シェイドブレードが借りてきた様々な道具と、船の確認をロウと行っている。泳ぎの専門家がいないことをロウは気にしているが、獣人以外を呼ぶのも具合が悪いし、届けた内容と違ってしまうので腹を括ったようだ。
「時間を見ながら、あまり長く潜らないように管理はする。それ以前でも、少しでもだるいと思ったら、自分で上がってこい」
 素人が体力だけで勝負できるものではないと、ロウは厳しい表情だ。この言いっぷりだと、自分は潜らないだろう。
 ついでのように彼がまとめてくれた班分けだと、船上で待機するのがシアと海音、それとロウ自身にシンデレラだ。潜水班はライラ、オガちん、シェイド、カイ君、ハトホルの五人である。
「あら、シンデレラさんはご一緒しないと。おばあさまに怒られるわよ」
 ハトホルがこれも経験とシンデレラの名前を書き換えようとしたが、海音が留めた。
「シンデレラさん、まったく泳げないそうですの。今から特訓しても、危ないと思いますわ」
 カナヅチに海底洞窟探検を命じる祖母ってどうなのと、誰もが思ったが‥‥シンデレラが語るおばあさま像を聞いたら納得した。
「若者いびりが楽しいお年頃なんだろうな」
 シェイドの言い分は失礼かもしれないが、誰も反論しなかったのだ。
 でも、船のレンタル代を出してくれたのは、実はおばあさまだったりする。『次はないわよ』と一言ついていたらしいが。

 潜るなら、引き潮の時がよい。天候は数日穏やかなようだが、事前に下見もしておかなくてはならないだろう。引き潮の時間をシェイドが確認してくれたので、一行は揃って洞窟がある崖っぷちを訪れるべく出かけたのだが‥‥
 出掛けに誰が車の運転をするかでひと悶着あり、ハトホルの『女性の運転手は目立つ』発言でシンデレラとシアの希望者二名が撃沈した。何にも知らない海音やロウ、オガちんは誰の運転でも気にしないのだが、シンデレラと前回も一緒だった他の五人が大反対だったのだ。
 目的地より先に警察署に連れて行かれるのは嫌だ。と、ライラが口にしたので、三人もうすうす事情は察したらしい。
「あれ以来、ジェットコースターはもう怖くありませんわ」
 シアの目付きが、どことなくいっちゃっていたのが、更に効果的。
 ともかくも、船の免許なんか誰も持っていないかもしれないが、先方が気にしないのをいいことに進め方と止まり方だけ習って借り出し、大変な低速で目的地まで辿り着いた一行は、すとーんと切り立った崖と、そこに打ち寄せる波を見ていた。
「下は岩場みたいだね。洞窟はどこかなぁ」
 オガちんが体慣らしを兼ねて、ちょっと潜りだした。何時間かでもこうしておけば、体調を崩す心配が減るからだ。カイ君も潜水病の心配をして、対応可能な大きな病院の確認はしてきてある。あまり普通の病院には運ばれたくないのだが。
 誰だって病院に担ぎ込まれるのは嫌なので、続いてライラも海に入る。ウェットスーツもおばあさまの口利きで、男性用だが借りてあった。それにしたって寒いが、そのうちに水の中のほうが暖かくなるだろう。
 結局寒いの冷たいのと言いながら、カイ君、シェイド、ハトホルも続いて、実際に潜るときのための準備を始めた。なんとかあたりをつけた洞窟の入口近くに、ロープを結んだ重りを沈めて、ブイに繋いでおく。これで実際に潜るときには、手繰って降りればいいだろう。
 ドラム缶を用意して、息継ぎ用に空気を入れて沈めるハトホルの案は、あんまり無理はしないほうがよいとのロウの意見で取りやめになっている。さすがにドラム缶を積むと、環境番組っぽくないのもある。運ぶのは、それほど困らないのだが。
 ここで意見が分かれたのは、カイ君の浮上はゆっくりするのと、シェイドのウィンチを使って速やかに上がるのとでは、どちらが有効かというところだ。水深は八メートル程度。普通なら潜水病を気にすることはないのだろうが、何回も浮上と潜水を繰り返すなら話が違ってくる。潜水病でなくとも、気分が悪くなるくらいのことはあるだろう。
「そうだな、でも緊急用に一つは設置しようか。自力でうまく上がれなくなったら困る」
「酸素ボンベもあるから、上がったら吸おうね。いいの、水中じゃなければ」
 もちろん、潜る人は命綱つきだ。何かあったら引き上げますと海音も、つられてシンデレラとシアも請け負ったが、この三人の細腕で自分が引き上げてもらえると思う潜水担当はいなかった。三人とも、文字通り細腕なのだ。潜る中では一番小柄で、体格も普通のハトホルだって、水中に入れば相当重く感じるだろう。
 でも、やはり細いロウが加わっても、結果が変わらない気がするのは確かだった。
「ウィンチ、二つくらいにしたほうがいいんじゃねーの」
 ライラの言葉に、誰も反対はしなかったらしい。
 なにはともあれ、もうちょっと潜ったら、帰って温かいものか、暖まるものを飲みたいものである。

 そしてこの翌日、引き潮の時間を狙って作戦決行。
「頑張ってくださいね。コーヒーの用意しておきますから」
「毛布とタオルもたくさん持ってまいりましたわ」
 シアと海音とシンデレラの、今ひとつ緊迫感の足りない見送りと、ロウの、
「三分経っても上がらなかったら、四人がかりで引きずり上げる」
 と言う心暖まらない声掛けを受けて、潜水役の五人が水に入った。人目がないことは十分に確認して、獣化している。人間でいるよりは、獣化したほうが幾らか寒さも紛れるからだ。
 水中では、ライトの取り回しと洞窟内の捜索を一人でやるのはなかなか困難なので、ライラとオガちん、ハトホルとシェイドは二人一組で潜っている。暗視の能力があるカイ君は、一人で頑張ることになった。亀だし。
 とはいえ、地上ならたいした広さはない洞窟でも、水中となると勝手が違う。一応一番奥にシェイドとハトホルが入り、入口付近はオガちんとライラが、中程をカイ君が探ることにしてみたが‥‥一度潜ったくらいでは見付からない。なにしろ内部は砂が入り込んでいる。この中に埋もれていたら、そう簡単に見つけ出せるわけがないのだ。
 一応ライラとオガちんが、長い棒を持っていって、あちこちかき回しているのだが、彼女達の力でもくまなく突付きまわすのは時間が掛かる。しまいには、泳ぎが達者なほうのオガちんが手を突っ込みだしたが、二十センチ程度は積もっている砂はやはり難物だ。
 かたやハトホルとシェイドは、地道に奥から順に、それも洞窟内を細かく区分した通りに調べることを続けていた。潜水時間の限界はシェイドのほうが早いが、動きのよさはハトホルが一歩及ばない。だからライトはハトホルが、探すのはシェイドがと分けて、丹念に作業しているのだが、それらしいものはなかなか出てこなかった。
 カイ君が最初から言っていたが、金でもない限りは海中に長らく沈んでいた仮面が原形を止めているとは考えられない。他の仮面が金属性だったそうなので、それらしい金属片が出ればいいわけだ。でも、たまに手に触れるのは岩か木片である。木片は念のために船に上げて、四人に確認してもらっていた。
 そして今までのところ、はかばかしい結果は出ていない。
 カイ君も地道に潜ったり、上がったりを繰り返していたが、しばらくして入口付近から内部に入ってきたライラとぶつかった。見れば、彼が探し始めたところまで、ハトホルとシェイドも辿り着いている。
「それはつまり、洞窟内から外に流れ出ている可能性があると言うことか?」
 揃って上がってきた五人の言葉に、ロウが渋面を作っている。こんな面倒なことをして、結果が出なかったら嫌だと思っているのだろう。潜っていない彼は体力的な苦労はしていないのだが、どうやらシアとシンデレラが船上でなにかやらかしていたらしい。
「案外、近くの海岸に打ち上げられているかもしれないわね」
 とっくの昔にゴミ扱いされているのかもと、追い討ちを掛けるのはハトホルだ。しかし十全を尽くしたはずだが、もう少し頑張ってみようと言い出したのも彼女で、再度洞窟周辺を今度は五人で探してみようかと言うことになった。これで駄目なら。
「素直にそう報告するしかないだろう。各種レンタル代を請求されるかもしれないな」
 おばあさまがやりそうなことを、シェイドが冷静に指摘した。この言葉には、財布の中身に余裕のない者が青ざめている。
 それはともかくとしても、体力的にもこの辺で切り上げるのが一番とばかりに、最後の潜水に挑戦した彼らは、洞窟周辺の海底でも何も見出すことが出来なかった。潮も上げ潮に転じてきたので、諦めて海上に上がっていく。一斉に上がるにはロープが足りないので、カイ君は右手だけ甲羅から出して、崖伝いにゆっくりと浮上していた。
 と。
「うわあっ、もうやってらんねぇっ」
「キミのひいおじいさんて、どういう人だったの?」
 洞窟の入口から上に三メートル、その崖のところに、しっかりと打ちつけられた箱があったのである。木箱で大分傷んでいて、箱は外さずとも中身を取り出せた。もちろん、黄色に塗られていたと思しきアライグマの仮面だ。
 シンデレラのひいじいさまは、アライグマ獣人だったという。
「まあまあ、スープもホテルで用意してもらったのがありますから、暖まってくださいね」
 ふてくされ気味のライラとオガちんを海音がとりなし、というか食べ物でなだめ、シアは仮面を自分の荷物に紛れ込ませて、シェイドとハトホルはかなり投げやりな態度で休憩中。カイ君は例外的に見付かってよかったと素直な態度だが、これはきっと見付けた本人だからだろう。ロウは海中に張ったロープを面倒そうに引き上げている。
 そうして、彼らはまた低速運転で、地上に戻ったのだった。

 ちなみに、仮面の裏にはなにやら掘り込まれていたらしい。おばあさまがそれを見て。
「宝の地図が、必ずしも正しくないことを知れ。まあ、お父様が言いそうなことだこと」
 と、皆からの恨みの篭った視線をぶつけられるようなことを口にしていた。どういう一族かと、誰かが呟いたのに頷いた者も多数いる。何故かシンデレラも混じっていたようだ。
 しかし、おばあさまは全然気にしていなかった。
「せめて、おいしいもの食べ放題にしてくれなきゃヤダ」
「あわせて、細々した経費もお願いしたいな」
「せっかくだから、こちらのホテルに近くのレストランのシェフを呼びましょうか」
「まあ、目の前で料理しているところが見られますね」
 外国人向け、パーティー用のキッチン付の素敵なお部屋にご宿泊のおばあさまは、太っ腹だった。オガちんとシェイドの要求に鷹揚に応じた後、海音のためにレシピも書いてもらおうかと言っている。
「私、海音さんが歌うところをまだ見てませんの。シェイドさんも」
「あー、あたいもお上品にしなくていいなら、気晴らしに聞きたいな」
「それならカメラ回しましょうか」
 シアとライラは、明らかに気分転換を求めている。カイ君も、自分の本来の仕事に近いことをやりたいようだ。
 けれども。
「わたくし、こういう無理難題も言うほうになるのは楽しいだろうと思いましたわ」
「確かに、言うだけなら楽でいいな」
 ハトホルとロウと、おばあさまがうんうんと頷きあってしまったのに、シンデレラ同様、しばらく凍り付いてしまったのだった。