盗掘品市場からの回収中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
フリー
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獣人 |
4Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
20.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/26〜03/30
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●本文
それは十日ほど前のこと。
「ありましたのー。カルア・ミンジャルで六十八年前に殺人事件ですのよ。こちらが新聞の写しで、別の新聞だと『呪いに触れたに違いない』と書いてありますわ」
エジプト国内遺跡の獣人に関与しそうな遺跡発掘を指揮しているエイという青年の元に、臨時アルバイト秘書のシンデレラが報告した。十日あまり、各所に保管されている古い新聞を総ざらいして調べた結果である。
『カルア・ミンジャル』とは、以前にオーパーツが発掘された地下遺跡がある城塞都市のことだ。水源の枯渇により放棄され、とうに住人がいなくなって六十年ちょっとが経つ。オーパーツの発掘は最近のことだが、紆余曲折の末に現在は住人もいなければ、調査のための人員も派遣されていない場所になっていた。
なお、この地下遺跡からは『カルア・ミンジャル』を含む十四ないし十五の地域に印が打たれた、エジプト地図を掘り込んだ石版が見付かっている。印の数が不明瞭なのは、一点印と見ていいのかどうか首を傾げる場所があるからだ。他の点が明確に掘り込まれているのに比べて、一点だけが妙に浅いのである。
それはさておいても問題なのは、この点が打たれた地域には『ナイトウォーカーが封印されたように存在している遺跡がある』ことだ。エイがこれまでに確認した出来た遺跡の全てで、ナイトウォーカーが確認されている。遺跡の解放が昔のことで不明瞭な場所でも、発掘時にはナイトウォーカーが出たと思しき形跡が認められた。
これらの情報を元に、根を詰める作業をまったく厭わないというか、『給料出すから』の一言で何十時間でも調べものをしてくれるシンデレラに『カルア・ミンジャル』での猟奇事件の有無を確認させたところ、出てきたのが『水量が減った井戸の再掘削中に、作業していた住人が突如錯乱して、他の住人数名を殺害した事件』だった。錯乱の仕方があまりに唐突だったのか、作業中に地下に埋もれていた呪いの掛かった品物を掘り当てたに違いないと証言した者がいて記事になっている。
この記事から存命している関係者を洗い出したエイは、『カルア・ミンジャル』に代々住んでいた獣人の一族に行き当たった。事件の犠牲者の兄が、現在では『長老』と呼ばれてエジプト国内の獣人社会である程度の影響力を持っている。あまりに高齢で、最近は何をしたわけでもないのだが‥‥
運の悪いことに骨董品コレクターでも名を知られていた長老は、つい一週間前に押し込み強盗に遭っていた。エイが配下の三名を連れて面会に出向く前日のことである。
けれども長老とその家族の受難はそれでは終わらなかった。
エイは予定通りに面会に出向くと、六十八年前に起きた殺人事件へのナイトウォーカーの関与の有無と『地下遺跡からの発掘品の外見』を、長老と息子から聞きだしたのである。地下遺跡については、最近の発掘調査の報告も内密にされているのだが、WEAに報告が上がった段階でエイとその仲間達のいずれかが情報を手に入れることは難しくない。
そして、ある事情により彼らは多少の危険は厭わず、『エジプト各所から発掘されたオーパーツないし、同条件の外見を持つ品物』を緊急で捜し求めていた。
「あんたがたは、この事件の時に遺跡の中の『封印』を引き上げていたが、そのことを他には漏らさずに保管していた。最近遺跡から発掘されたオーパーツは、目くらましだった。それで間違いないな?」
本来なら、長老が墓の中まで持っていくはずだった秘密を聞き出したエイは、それでも家財の一切合財も同時に奪われた一家に当座の生活資金を渡すくらいの心遣いは見せた。別名を、口止め料とも言うのだが。
そこから、持てる情報網を全部駆使したエイ達は、盗まれた品物が海外のブローカーに引き渡されるルートを見付け出している。それはもうすぐアレキサンドリアを出航して、イタリアを経由し、フランスまで向かう貨客船である。一応客船の体裁も整えているが、乗っているのは密売ルートに関係する者ばかりで、エジプト国内各所から集められた品物の分配が予定通りに行なわれることを確認する立会人が多いらしい。
当然のことだが、長老が強奪された『封印』と呼ばれる品物が船内のどこにあるかは分からない。分かっているのは、筒状の入れ物に蛇の浮き彫りがなされていることだ。
それは、つい先月にエイ達がナセル湖から引き上げた物とほぼ同じ外見である。ならば探せないこともないだろうと、エイは考えるのだが‥‥問題が一つ。
「B、お前にこの仕事を任せた場合、どうする?」
「んー、船内全員皆殺しで、それからゆっくり探すかしら。犯罪者だし、いいわよね」
「Cは?」
「一人くらいは生かしておいて、案内役をさせないと」
「D」
「操船が出来る連中は殺すの止めようぜ。動きがおかしいと、悪い奴らの仲間が来ちゃうじゃん」
エイの配下だから、通称名はアルファベットで適当に付ける三人の仲間は、無駄に血の気が多かった。相手が犯罪者でも、皆殺しはまずいとエイは思うのだが。そんなことを言うと。
「やあね、偽善者」
「あのお姫さん来てから、いい奴ぶってるよ」
「PとかSに出し抜かれるのだけはお断りだぜー」
嫌味を言われるのである。
やがて。
「モーターボートなら操縦できますわ。悪い人をやっつけに行きますのね」
まったく事の犯罪性を考慮していないシンデレラが、うきうきと見当違いの支度を整えているのと同じ頃。内密に獣人の一部に回された連絡がある。
『強奪されたオーパーツ奪還のための手勢を求む。犯罪組織相手のため、戦闘能力ないし操船技能が高い者優遇。作戦指揮者は、応募者から選抜する』
ぶっ殺したほうが楽なのにと主張する仲間に手を焼いたエイが、作戦内容から丸投げで強襲の人員を募集したのだった。仲間には刃物使いが多いので、銃撃戦に長けている者がありがたいそうだ。
ついでに、血の気が覆い奴らに睨みをきかせてくれる人もいてくれれば、それに越したことはないらしい。
なお、探すものは『筒状で、蛇の浮き彫がされた入れ物』であり、これは現物とは違うが同用品の写真がある。他にもオーパーツが強奪されており、それらの回収が出来れば追加報酬もあるとのこと。
オーパーツの現物支給があるかどうかは、回収品の内訳による。
●リプレイ本文
今回の仕事は要するに泥棒だ。
オーパーツが関係していても、ナイトウォーカー退治ではない。何をどういったところで泥棒である。相手も泥棒なので、被害を申告される可能性は少ないとは言え。
「裏で名前が通るなら、別にいいかな」
奏上 静(fa5576)の発言は、神保原和輝(fa3843)に容赦のない平手でたしなめられた。芸能界で名の知られた者もいないわけではない。裏社会で名前が知られるのは大問題だ。
「宝の山に襲撃かよ。危ないヤマ押し付けやがって」
「いずれにせよ、あんまり表沙汰に出来る仕事でもないよな」
セルゲイ・グラズノフ(fa4965)とグリモア(fa4713)の言うことはもっともだが、本気で言っているとは思い難い口調なのがなんとも。
それでも銃器の消音器、スタンガンに催涙ガス、注射式の睡眠薬などなど。要望したものとは幾らか違うものも混じっているが、必要そうな道具類が山積みにされていく。
これらを吟味しつつ、ベアトリーチェ(fa0167)が追加したのが衣類など。相手に正体を気取られないために、覆面などの用意がないものにそれらの支給と、後は相手の船に近付きやすいように闇に紛れる黒い上下で動きやすいものと注文が細かい。
ついでに醍醐・千太郎(fa2748)が動きを妨げられない者の分も、防弾ベスト等を用意するように言っている。B、C、Dの三人は、まるで防具に興味がなさそうだが、少し重くしておけば勝手なこともしないと考えたのかもしれない。
道具が揃えば、作戦を詰めて、オーパーツを奪い返しに行くだけだが。
「お船は帰りは有料やから。お土産よろしゅう」
操船担当の敷島ポーレット(fa3611)は、使う船のパンフ片手に手をひらひらさせている。どう好意的に解釈しても、言っていることは『根こそぎ持ってこい』だ。
更にDarkUnicorn(fa3622)がエイに『オーパーツは刀剣類が欲しい』と言ったのだが、返答は芳しくない。
「長老は骨董品マニアで、オーパーツフリークじゃないから。綺麗な品物好きと聞いたから‥‥装飾品のほうがありそうだな」
それぞれに役立ちそうなものを配布するとは確約してくれたが、それはつまり。
強奪して来い、の意。
相談の上、作戦は夜間に海賊を装って密輸船を襲撃することでまとまった。セルゲイと和輝は翼が船内での行動を妨げる恐れがあるが、他は半獣化か完全獣化で動く予定だ。相手は人間なので半獣化でも遅れをとることはないのだが、完全獣化なら単純に人相がばれないという利点もある。
ヒノトが主張したように『コスプレ海賊団』と名乗るかどうかはその時のことだが、帰りの船賃を稼ぐにもその方が便利だろう。さすがに獣人能力はものにより使用しないことで話がまとまった。ただ、ごまかしが効くものなら使用するに問題はないというか、身を守るのに有効なら使わずに済ませるのは勿体無いと、いちいち細かく制限を取り決めたものではない。
一応武器だけは確認したが、銃器はベリチェ、和輝、セルゲイが使用する。ヒノト、グリモア、シズ、醍醐とB、C、Dの三人は格闘技かそれに適応した武器だ。船に居残りのシンデレラ、エイは拳銃を装備はしている。撃ち方を知っているだけの留守番なので、戦力の上では計算外だ。ポーは防備だけ固めて、操船に専念予定。
そうして、日暮れ後にアレキサンドリアを出航し、イタリアへの入国が二日後の午前に予定されている密輸船を、深夜に襲撃することになった。相手が相手のため、穏当な足止め策が見付からず、どこで追いつくかが問題だったのだが‥‥
「しばらくどこかで速度を落とすから、そのときに近付こうか」
エイが何でもないように言うのが、『洋上でおそらく何らかの商談をする時間を取るから、その時に襲う』だった。複数組織の人間が乗り込む理由には、利益配分の会議だか何かが入るものらしい。船上で行なうことに、どういう意味があるのかは不明だが。
なんだか時代がかったことが好きな連中だが、襲撃するのに細かい相手の事情はどうでもよい。船の大きさと積荷の割に、人が多いことが分かれば十分だ。
推測していた時間にほぼ遅れることなく、十人の獣人がゴムボートでクルーザーを離れていった。
グリモアの呼吸感知で甲板にいる人数は四人と判明。出航前に確認した船の姿では、船内への扉は船尾に近い。よって船首部分に四人の目を引き付けて、侵入は船尾に近いところから、が色々と楽。
物を投げて音を立てるくらいならコントロールは必要ないと、醍醐が缶を投げる。居残り組はビールが勿体無いと嘆いていたが、他にいいものはなかったから仕方がない。的が大きいのできちんと当たり、鈍いが通常航行ではありえない音を立てた。
侵入用のゴムボートは四隻。人数に比して数が多いのは、戻るときに『お土産』を積んで帰るためだ。更に侵入箇所が複数のほうが、迎え撃つ側も分散して戦力が減る。今は音を立てないように手漕ぎで近付いたが、戻りはスピード重視でモーターも付いている。
まずはシズとヒノトが下から縄梯子を投げて、するすると甲板に上がっていく。続くのがBとDで、それから他の面子が連なった。全員が甲板に上がる頃には、ヒノトが三人、シズが一人を殴り倒して、無事に甲板制圧。
「よいか、我々はコスプレ海賊団なのじゃ。この角も偽ものじゃぞ」
気絶した相手に言っても記憶に残らないだろうが、ヒノトが海賊へ後ろ手に手錠をかけつつ言い聞かせていた。子供の玩具ではないが、この手錠はそれほど本格的なものではないので、体格が良い一人にはベリチェが更にロープも掛けた。なかなか手早い。
この間に、和輝とセルゲイが扉から視認出来る中の様子をうかがっていたが、今のところ異常に気付かれた様子はない。となれば、海賊らしく速やかかつ徹底的に。
「無駄に殺すなよ。後ろから鉛玉が飛んでくるぞ」
「それなら海に突き落とすアイデアの持ち主からね」
中には相手の戦力減を狙って、乗組員は海に突き落とすかという意見も確かにあったのだが、グリに念押しされたBが含み笑いで『溺れ死ぬ』と指摘したのでなしになった。刺殺は駄目で溺死はいいという理屈の持ち主は、流石にいない。溺死させるくらいなら刺殺だと主張するのは三人いたが。醍醐にも威圧されて、とりあえず諦めたようだ。
そんなわけで、まずはこっそりと入り込んだ十人は、二手に分かれて内部に潜り込んでいった。目当ての品物の形状はいずれも頭に叩き込んだが、それが見付からないことには何にもならないからだ。エイと仕事をしたことがある面々は知っている。彼が目的が達成できなければ、オーパーツどころか当初約束した報酬も削る性格の持ち主であることを。
依頼人の性格を鑑みたわけではなかろうが、先に密輸船の人間とかち合ったベリチェとセルゲイはまったく容赦しなかった。どうせ相手も犯罪者。グリの呼吸感知で、感知された人間には威嚇射撃に始まり、抵抗すればきっちり無力化、当然その後は縛り上げる。セルゲイも射撃は出来るが、あまり出番がなく、ついでに持参したコンパクトカメラはもっと出番がない。下手なものを写すと、明らかに悪いのは自分達になってしまうからだ。密輸に関係するものがあればと考えていたのだが、あいにくとそれらしいものにはまだ出会わずじまいだ。
「これで俺達が責められるのは、違うんじゃねえの」
飛び道具は性に合わないと、無力化した人間を拘束することに専念していたDが文句を言ったが‥‥誰も取り合わなかった。
「操縦室? 機関室? ま、呼び方はどうでもいいけど、あそこを壊せば一番よね。仲間に通信されたかしら」
「それは中の奴を締め上げるしか」
「‥‥ほんとに危ないヤマだよなー」
ベリチェとグリの会話に、セルゲイはカメラを懐にしまいこんだ。その背後では二人ばかりが『殴りたいー』と唸っている。セルゲイもちょっとは同感だが、先の二人の前に出たら蜂の巣にされそうなので、じっと我慢だ。
急ぐなら、それはもう徹底的に。壊すときも、同じく。
操縦と通信関係設備を嬉々として壊している狼と雄ライオンの姿を横目に、雌ライオンと豹とピエロに脅しつけられた数名が、船内の人数と積荷のありかを白状したのは程なくのことだった。
ところ変わって、別ルートの五人はと言えば。
こちらも威嚇射撃、ついでに実際に撃つのもやっているが、大半は殴り倒していた。メンバーの都合と人数が多いところに出てしまったのが理由だ。一部、銃撃戦の只中でも飛び込める度胸のある女性が二人ほどいたことにも起因しているだろう。
『なんつー無茶を』
『その程度で驚いている場合ではないよ』
小声の会話は、シズと和輝だ。相手が日本語を解するとは思わないが、用心することはどちらも知っている。対してBとヒノトはこの程度が危険に入らないのか、手近の数人が拳銃を取り出したのにも関わらず殴り倒しに行っていた。醍醐が予備で持っていた銃で威嚇射撃に入ってくれなければ、片方は撃たれていたかもしれないが、この二人は結果オーライ気分らしい。ヒノトはBに引きずられている気配濃厚。
「品物はどこだ?」
一応出血がある相手には止血を施しつつ、でも当然のようにきりきりと拘束した人間達の口は相当固かったが、覆面レスラー状態の醍醐が低い声でどやしつけ、シズと和輝が素早く銃弾の補給をし、ヒノトが鞭を鳴らして、Bが捕らえた一人の耳と鼻のどちらを削ぐかと真剣に悩んでいるので、こうした人種にしては一人が早く口を割った。多分彼らの命が続けば、後日色々とあるのだろうが‥‥それは五人の関与することではない。手早く殴って失神してもらう。
後は合流して、ただひたすらにオーパーツを探すだけなのだが、問題点は相手が表向き骨董品だと言うことだ。ちゃんと箱詰めされていると、どこに入っているのかさっぱり分かりはしない。箱には品物を示すのだろう記号が書いてはあるのだが、何を示しているのか分かる人間を探すのは骨が折れるだろう。
よって、
「オーパーツのためじゃ」
「こういうのは、たいして経験値にならないと思うけど」
「静かにやりなさい」
「いいオーパーツが入ってますように」
「これで俺達も犯罪者だな。捕まらなきゃいいわけだけど」
「とにかく、仲間が来ないうちに全部運ぶわよ」
彼らは見事に泥棒になった。
もとより力仕事のためにと思っていた醍醐は、速やかな撤収を目指して、重そうな箱から手を掛けている。Cも同じく。BとDは、もう少し軽そうな箱だ。
「箱の配分も考えないと、誰か泳いで戻ることになるわよ」
オーパーツ探しは後回しだとばかりに、ベリチェが発破を掛けた。経験値稼ぎを口にしたシズは、船内の人々が正気付いていないかの確認に、和輝と駆り出されることになり、和輝から冷たい視線を浴びたようだ。まあ、筋力的なものも考慮した結果なので、ある意味仕方がないけれど。
同様の理由で獣化できないセルゲイも、甲板上で周囲の警戒である。
後はグリやヒノトもあれこれ呟きつつ、根こそぎ強奪に参加していた。ここで一々箱を開く訳にはいかないので、何が出てくるか分からなくても運ぶ。運ぶ。
この頃、彼らの撤収先では。
「シンデレラ、どんなや〜?」
「波の音がしますわ。それだけですの」
猫耳と兎耳を生やした娘二人が、緊迫感のない会話を繰り広げていた。先程まではシンデレラの兎耳が破裂音を拾っていたのだが、それがしなくなってしばらく経つ。当然仲間達が船内を掌握したものと、彼女達は信じていた。獣人が、人数が三倍いようが人間にやられるはずがないのである。エイなど操舵室の椅子に座って、欠伸を噛み殺していた。
「オーパーツ、見付かるとええね。他にもいっぱい出てくるとええなぁ」
「でも、人数分なかったらくじ引きですかしら」
それぞれも希望もあるし、その割に武器はなさそうだしとポーとシンデレラが顔を見合わせていると、エイが一応用意してあると行動能力を上げる効果があるといわれる薬剤を取り出した。どういう手配をするとそれが手に入るのか、ポーはあんまり気にしない。
それより。
「皆に渡してやらんでよかったん?」
今回使うのに向いているのにと指摘されて、エイが視線を泳がせている。ケチったのか、仲間にそれを使わせることを危惧したのかは不明だ。
所定の合図が来て、彼女達が『有料のお迎え』に出向いたのはもう少ししてからのことである。
実行後二日目、目的のオーパーツは六割の箱を改めたところでようやく見付かった。価値がどう見積もられていたのか分からないが、ごく普通の梱包である。筒だが開けた跡はない。そんなことをすると、やはり価値が落ちるのだろう。
「これを持って行けば、シェイドに面会できるものかな?」
和輝の問い掛けに、耳をそばだてた者もいるだろうが、エイは『せめてもう一つ探さないと無理』と苦笑した。
「会いたかったら連れて行ってはあげるけど、あの人の気が向くのを待つからね。一週間くらいは余裕を見て。ホテルはダブルでいい?」
「まて、こらっ」
和輝の兄に縁があるらしいシズが噛み付いたが、そもそも和輝本人がたわごとは相手にしない。ヒノトとポー、シンデレラに振られたと騒がれ、セルゲイとグリに冷たい目で見られ、嘘泣きで泣き付いたベリチェにも肘鉄を食らったエイに、醍醐が一言。
「遊んでいる場合か?」
盗品の強奪をしたのだから、まさしくその通りである。
処分は任せろと胸を張るエイに、皆が何を思ったのかは分からない。今回は貰うものが貰えれば、それでいいとしておくべきなのだろう。