封印奪取〜イシス中東・アフリカ

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 フリー
獣人 4Lv以上
難度 やや難
報酬 27万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/01〜04/07

●本文

 エジプトのアレキサンドリアで、悪巧みに勤しんでいる男女が、ある知らせで笑い転げていた。
「Pがインフルエンザ?」
「鳥? 鳥?」
 その知らせをもたらし、この状況を眺めている兎獣人のシンデレラは、きょとんとしている。
「ぺー君は風邪ですのよ〜。そう言ってましたもの。それに狼さんですわ」
 現在、盗掘品や盗難品を満載した船を襲う計画遂行中の一団の、依頼人と血の気が多い仲間達は、知人の不幸を笑っているところだった。話題の『P』ないし『ぺー君』と最近友人になったシンデレラは、彼らが何故に他人の不幸をこれほど喜ぶのか分からない。
「そんなに笑ったら、可哀想ですのよ〜」
 めっと、エイと困った仲間達を注意したシンデレラだが、彼女の言うことなんか誰も聞いちゃいない。
「も〜う、あんまり意地悪言うと、罰が当たりますわよ。ぺー君からのお手紙、見せてあげませんからね」
「手紙?」
 それは『見舞い代わりにこれ取って来て』との一文に、地図と写真画像が添付されたメールだった。

 地図に記された場所は、イタリアの長靴の土踏まずあたり。明確な住所も書き込まれているので、場所は特定できる。
 写真は、エジプトで有名なイシス女神と思しき図の描かれた箱に、蛇が浮き彫りにされた珍しい骨董品だ。『イシスの封印』と通称で呼ばれているらしい。
「おばあさまに訊いてみましたら、この住所の方は何年か前にイタリア国内で美術品の贋作を売りさばいた詐欺の疑いで逮捕されたことがあるのですって。本物も扱っていて、色々裏取引があって実刑は受けていませんけれど‥‥ええと、本物は盗掘品、盗難品の疑いが高いというお話ですわ」
 ヨーロッパの考古学会に繋がりがあるシンデレラの祖母は、地図と写真を見てすぐに返事を寄越した。『何かするにしても同行するな』と伝言付きだ。
 この内容からして、写真の品は盗掘品だろう。情報と現物の出所は『ぺー君』が明らかにしていないので不明だが、『イシスの封印』とついていれば、エイ達は欲しくなる品物である。
「あと、ぺー君から連絡が入ってましたの。『シードバンクルはやらないから、取りに来てる奴らは引っ込めろ』ですって。なんのことですかしら」
「そりゃ、俺じゃなくてSの手配じゃないかな」
 気にしなくていいからねと言われると、本当に気にしないシンデレラは、いいお返事をして話題を終えてしまった。
 よって、エイと仲間達が内密の相談をしていても、全然気がついていない。頼まれた調査はちゃんと続けているのだが。

 しばらくして。
「今いる方達に、引き続きお願いしたらよろしいですのに」
「契約期間が切れるから、その後の契約はまた別。今回の連中には、色々持って帰ってもらわないと、割に合わないかな」
 そう言われたシンデレラが、『詐欺師の自宅襲撃、盗掘品の奪回』と銘打った人員募集を、獣人のあまり表立てないルートに流している。当人は、自分が犯罪の片棒を担いでいるのに、相変わらず気付いていないようだ。

 募集人員は、戦闘員ないし住居侵入の方策、技術を所有する者。
 目的地はイタリア、イオニア海沿いの個人住宅で、周辺一キロに他の人家はない。ただし警備体制はそれなりなので、短時間で仕事が済ませられることが重要だ。
 目的の品物は、『イシスの封印』。写真があるので、同じものを持って来ればよい。ただし家の中のどこにあるのかは不明。家の広さは二階建て、一階四部屋、二階二部屋。地下にワインセラーと食料庫がある。
 目的人家の住人は男女二人だが、ボディーガードが何名いるのかは調査中。最低三人、最大六人いるようだ。
 一応イタリアマフィアの構成員ではないので、その点だけは安心していいらしい。
 出発地エジプト・アレキサンドリア。密入出国なので、そういうことに抵抗がある者は必要ない。

●今回の参加者

 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa2529 常盤 躑躅(37歳・♂・パンダ)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa5576 奏上 静(18歳・♂・豹)

●リプレイ本文

 リバーススフィアを知っていますか。
 この御影 瞬華(fa2386)からの質問に付随して、ユウキ、ペルルという人名と、シードバンクル等の固有名詞を聞いたシンデレラはしばらく首を傾げていた。
 同様に何事かと思い、でもシンデレラよりは警戒心を持っているDarkUnicorn(fa3622)、神保原和輝(fa3843)、奏上 静(fa5576)の三人は周囲の様子を窺っている。
 敷島オルトロス(fa0780)と常盤 躑躅(fa2529)は何か見世物でも始まったかのように、様子を観察している。敷島ポーレット(fa3611)はオルトロスから何か聞いているのか、鼻の頭にしわを寄せていたが。
「リバーススフィアは、ウェンリーおじさまが発掘に行っているところですわよね。何か色々問題があったり、怖い人に襲われたりしているって聞きましたけれど。ペー君は、最近お友達になりましたの」
「友達?」
 御影の不審さを隠さない口調に気付かず、シンデレラはにこにこと頷いた。オルトロスに誰の紹介かと尋ねられれば、エイだと答える。
「ペー君、最近風邪を引いたのですって。こちらは乾燥しているから、喉は大事にしませんとね」
 ペルルを知っている者からすると『それは本当なのか』と尋ね返したくなる一言だが、シンデレラはお茶を淹れようと席を離れてしまった。
「なにがあるん?」
「リバーススフィアってのはナイトウォーカーがいて、シードバンクルってろくでもねえオーパーツが出たところさ。細かいことは言えねえな」
 常盤がちょっと得意そうに言うが、本来それだけでも漏らしたらいけないのではないかと、御影とオルトロス以外は察した。それにナイトウォーカーがいて、発掘途中の遺跡なるものには、シズ以外は見事に心当たりがある。あちらは名前も着いてはいないが。ナイトウォーカーが出ていないものだと、この中の大半は幾つも遺跡の場所を上げられた。
「仕事もいささか不本意じゃが、他にもあまり楽しくない事情がありそうじゃの」
「んなこと言ったって、もうこの間ので犯罪者だぜ。今更」
 ヒノトの唸るような言葉に、シズが肩をすくめた。まるで緊張感のない様子に、和輝が冷え冷えとした視線を向けたが、気付いたのは向けられた当人以外だ。シズの言い分も事実なので、それ以上のことはなかったけれど。
「そう。相手だって犯罪者だ。被害届けも出しにくいだろうから、目的の物はちゃっちゃと持ってこようぜ」
 こちらは別の意味で緊迫感のない常盤が、他の物も盗ってきそうな威勢の良さを見せ、ヒノトとオルトロスに嫌な顔をされていたが、自分の分だけ茶を持ってエイが顔を出したので、なんとなく会話が止まった。
「シンデレラに、なにやら色々聞いたって? 俺に聞いてくれても、相手によりちゃんとお答えするが」
「女性からの質問には、でしょう? 仕事をえり好みするわけではないので、安心してください」
 御影の返答も素っ気ないを極めていたが、事実を端的に突いていたようでエイは何も言わなかった。もちろんこの場の女性は、今すぐにじっくりこの話題を掘り返したいと考えていないので、シンデレラがBと運んできたお茶を飲むことに気を向けている。
 ポーの操船でイタリアを目指したのは、これから十二時間ばかり後のことだ。

 今回、十人ほどの襲撃担当者達は複数の写真を頭に叩き込んでいた。
 まず、目的地の航空写真、屋敷の外観に始まり、もちろん狙う品物の写真と、持ち主の男の顔写真だ。逮捕された際の新聞記事の荒い写真だが、顔立ちは確認できた。
 移動はトラックにしたが、御影の車は使用しない。目撃者がいて、車から持ち主を辿られたら困るからだ。Cが調達してきたが、
「これがレンタカーなんて、嘘もええとこやないの」
 ポーがぼやいたのは、運転を頼まれたトラックが明らかに『無断借用』されたものだからだ。髪の毛が落ちたりしないように、被っている帽子をもう一度確認する。先日、密輸船に強盗に入ったときは留守番だった彼女も、今回は襲撃要員なので気は抜けない。
 ついでに目的地まで『イタリアの免許証なのに』と運転手を買って出ようとするシンデレラから、荷台に潜んでいる九名を守る任務もあった。
 隣家まで距離がある家なので、目撃者の心配はそれほどないにしても近くなったら無灯火で不安全運転。道がほとんどまっすぐなので、無事に予定の場所までは到着した。
 本日の護衛の人数は五人のはず。誰が見張っていたのかわからないが、そういう連絡が届いている。
 制圧用の武器は、殺傷、非殺傷の区別なく、ポー以外の全員が所持していた。強盗することに対しては、それぞれの気分にかなり温度差があったりするのだが、基本的に御影やシズが言うように、『仕事に選り好みはしない』だ。受けてしまったからには、全員が共犯者である。
 よって、常盤が特殊能力を使用して近付き、ガラス戸を割って侵入路を確保したところで一同は速やかに内部に押し込んだ。相手は全て人間なので、オルトロスとシズ、ヒノトの殴る蹴るの取り扱いで簡単に勝負が着く。あまりに簡単だったのでシズなど一瞬きょとんとしていたが、はなから自分達が後れを取る可能性が低いと考えていたオルトロスやヒノトはあっさりしたものだ。護衛五人を縛り上げるのは、見張りを買って出た御影と荷物運び専門を称するDがてきぱきと行なっている。
 問題は、この家の住人二人だったが。
「ふっふっふっ、お宝のありかを白状しないと、ひどい目に合わせるぞ」
 護衛に気付かれる前に家の奥まで入り込んでいた常盤が、シャワールームから男女二人を引きずり出していた。女を人質に、男に金目の物のありかを言うように迫っていると見えないこともないが、目撃した一同の評価は違う。
「そんな女に色目使わなくても、帰ったら相手してあげるわよ」
 バスタオル一枚の女相手に、ぺたぺたとスキンシップを図っていた常盤に、Bが蹴りをくれている。
「こいつに白状させれば早いんだっ」
 うるさいと、もう一撃。誰も止めない。
 この間に、年頃の女性陣に配慮したわけでもなかろうが、シズとオルトロスとCが、これまたてきぱきと男女二人をシーツで包んで縛り上げている。このまま海にでも突き落としそうな会話は、ある程度芝居だ。覆面をしていても、全員声色は使っていた。
 女のほうは見張りに残った二人を除いても八人もいる強盗にすくんでいるが、男は肝が据わっていて、先程から何も話さないという姿勢を保っていた。特に常盤を憎々しげに睨むのは、当然のことだろう。それでも彼らが手馴れた様子で通信機器を破壊したり、各所の電気設備を壊したりしているのを見て、力任せの強盗ではないとは察したようだ。
 そんなことに慣れているのは、オルトロスとポーと常盤、なによりCである。ヒノトも携帯電話を見付けて、二人の目の前で叩き壊していた。示威行為としては、十分威力が発揮されたか、女が今度は泣き出した。
「さて、それでは始めるかな」
 ヒノトがくすぐり倒す拷問で、『イシスの封印』の保管場所を白状させようと、持ち込んだ写真を取り出した。が、それを見たBが仕草で出すなと繰り返している。目的のものさえ取れれば他の物は盗まずとも良いではないかとヒノトは考えているのだが、
「目的がそれだけですなんて、手掛かりを残すのは嫌よ」
「それで根こそぎはあまりに浅ましいではないか」
 身振り手振りでは流石に意思疎通がままならないので、男女に見えない廊下で押し問答を始めた二人だが、話し合いは容易にまとまらない。というより平行線で折り合う部分がなかった。
 目的のものだけ持って行きたいヒノトと同様のことをオルトロスも考えてはいるが、この二人の間でも他人を止めるかどうかの部分は考え方が違う。ついでにオルトロスは、いずれ自分が手に入れるために、一度エイに預けるくらいのつもりだ。目的物以外に興味がない御影も、わざわざ男と交渉しようとは考えていなかった。そもそも御影は、この場にいない。
 更に常盤は明らかに室内を物色して、金目のものを漁っているし、ポーも釣られたように色々検分している。ポーはそれでも女の『自分の物をどうするつもりだ』主張が気になるようで、検分するだけだ。常盤は気にせず、色々と懐へ。
 和輝とシズは屋内に他に誰かいないかの見回りに出ていて、こうしたやり取りは耳にしていない。でも和輝は『そもそもイシスの封印がここにあるのか』と、自分達がおびき寄せられたのではないかと警戒している。ただ美術品としての価値はそこそこでも、名の知れた品物ではないし、ほんの数ヶ月前までは誰一人としてオーパーツだと注目はしていなかったものだ。わざわざおびき出すこともないんじゃないのと、あっけらかんとしたシズを一睨みしていた。どうやら彼の思い切りが良すぎたり、遵法精神が欠如しているのを隠さないところが癇に障るらしい。と、理解しているのはシズ以外だ。
 ヒノトとBのすれ違いはまったく解決していなかったが、その間にオルトロスとCがのんびり常盤やポーを見守っていたわけではない。こうしたことは素早く、自分達の存在をゆっくり観察されない間に片付けるべきだと意見の一致を見たようで、ヒノト達が室外に出てから男女に目隠しをして、手早く『お宝のありか』を白状するように詰め寄っていた。
「うちら、地下を見てくるな。なにかあったら知らせるで」
「欲しいものがあるなら早く来いよ」
 ポーと常盤は、とうとう地下に向かっていた。二階の寝室にめぼしいものがないので、地下が怪しいとでも考えたのだろう。他の部屋は和輝とシズに任せたともいえるかもしれない。一階は御影とDだけでは、探すとしてもまったく手が足りないのだが。
 いずれにせよ、ヒノトには非常に心外な活動が多々行なわれそうな勢いで、彼女の額にはしわがくっきりと浮かんでいたが、Bは覆面越しの表情など読み取ってはくれなかった。
「他の物も持っていかないと、この間のオーパーツ狙いと結び付けられたら困るでしょ。全員の身の安全のためだから、多少のことは見なかったことにしなさいよ」
「あれのどこが多少じゃ」
 この場合の『あれ』は常盤のことだ。
「じゃあ、今度はナイトウォーカー相手の仕事を回すわね」
 向き不向きがあるからと言われたくはないが、ここで押し問答をしているよりは、地下に行った二人を止めたほうがまだ自分の思うところが叶うと思って、ヒノトはBと別れた。
 ヒノトが一階から地下に向かう頃。和輝とシズは屋内に他に人がいないことを確認し、ついでにオーパーツがないかを一通り見回っていた。和輝も皆と同様に完全獣化状態なので、翼が印象に残らないように住人等の人目を避けたほうがいいせいもある。
「めぼしい物はないみたいだね。オーパーツコレクターってわけじゃないし」
「本当に持っているのか?」
「また言う。確かに聞いただけだけど、俺達もちゃんと確認しようって言わなかったし、とりあえず探すだけは探してみようよ」
 シズの緊張感がない態度に、和輝がこめかみに痛みを覚えたとしても不思議はない。とりあえず、明らかに内容の怪しげな覚書は見付けたが、それは放置した。こういうものを探しに来たのではない。
 シズも実は自分の立ち位置に思うところがないわけではないのだが、言っても詮のないことだし、自分で選んだことなのできっちりやり遂げることを優先していた。腕の見せ所がなくて残念なんて考えているのがばれたら、浮かれていると怒られるだろうが。
 と、何をしたのか『お宝のありか』を聞き出したオルトロス達が、地下を目指すというので、二人も行くことにした。念のため、男女が気絶しているのは確認する。ちゃんと息を吹き返すかどうかも含めてだ。
 そうして。
「おい、あんまり見苦しいことはするな」
「うささんにお土産やん。ブツは?」
 ワインを数本、器用に布で縛って抱えたポーが、オルトロスと常盤に尋ねた。地下貯蔵庫を一部改装して、隠し部屋を作ってあると聞きだしたオルトロスが、常盤とDと一緒に壁をぶち壊す荒業に出たのだ。一応道具らしいものも使っているが、あくまで一部。
「色々扱っている割にちゃちい保管庫だな。湿度管理もしていやがらねえ」
 オーパーツコレクターとして名高いオルトロスらしい発言だが、内部から目的の物を見付けるのは素早かった。ざっと見渡しただけで、一つの棚から『イシスの封印』を発見し、常盤をDと引き摺って、そこから護衛を見張っていた御影などと合流して、屋外へ。ポーの能力で呼ばれたシンデレラが走らせてきたトラックに飛び込んで、後は密出国するのみだ。
 ポーはワイン数本、常盤は何をがめてきたのかよく分からないが、大半は格別これといって手を出していないので、根こそぎ強盗するようなことにはなっていなかった。
 ただ。
 アレクサンドリアで、使用した武器弾薬の補充を受けた御影が、エイに改めてシェイドのことを尋ねたところ。
「プロデューサーとして一流で、更にこの上なく人たらしなのよ。男女問わず、近寄ると精神的に隷属しちゃう感じ。あの人のためなら死んでもいいって言うのが、多分ごろごろしてるわよ。人たらし能力がどこから来てるかは分かんないわ」
 エイもその一人だから訊いても嫌がると、妙にご機嫌だったBが代わりに答えてくれた。彼女は今回の実入りで買い物三昧するのだと、そそくさと消えたが‥‥
「あの女、人のものをっ!」
 あまりきちんとしない服装で部屋を飛び出してきた常盤が、今回の成果を全部盗られたと嘆いたが、誰も同情しなかった。