下積み生活〜デリバリーアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/06〜05/12
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●本文
札幌に桜の開花前線が近付いてきた大型連休の中休み。
その札幌市内に活動拠点を置く着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』は、相変わらず様々な仕事に忙しかった。着ぐるみ劇団と銘打った、着ぐるみ派遣会社の様相を呈している。
今回は、まさにそういう仕事だ。でも着ぐるみと詐称する自前毛皮のパンダ獣人笹村カンナには、とても魅力的なお仕事である。途中で口から汗を滴らせないように、よくよく注意しないといけないだろう。
「はっちー、あらちもこりちゃべちゃいれちゅよ。きゃって、きゃって」
「自分で買えば」
今頃になって巡ってくる花見シーズンに、花見弁当を配達する仕事である。札幌の花見はジンギスカンだと主張する向きもあろうが、色々料理があって場がしらけることはないだろう。ご要望があれば、ジンギスカン用の肉や野菜の他、刺身におにぎり、デザートなども選べる便利仕様。
こんなある意味無謀な企画をするのは、カンナの弟葉月の友人が洋菓子店を営む商店街だった。昨年末はクリスマス仕様のご馳走とケーキのセットを、動物が配達する企画で知名度を少し上げた場所である。今度は花見弁当を配達する、お花見幹事さんお気楽セット。
しかも通常のデリバリーが配達拒否するだろう花見会場に、お客の側からも見付け易い着ぐるみが登場して場を盛り上げてくれる、至れり尽くせり企画と銘打たれているが、もちろん初めてのことなので成功するかどうかはよく分からない。それでも予約はそこそこに入っているようだ。
なにより、旧パンダ酒店こと酒類を取り扱うコンビニエンスストアを副業経営する『ぱぱんだん』も、飲料の配達担当という割り振りを貰い、以前よりも稼げる企画になっているのがありがたい。
そして毎度のことながら、人手が足りなくてアルバイト募集をするのだった。
お花見会場に、着ぐるみ姿で飲食物の配達をする人募集。自前毛皮可。
当日は引率役と着ぐるみの二人一組で行動。引率のみでの応募も可。
お花見を盛り上げるお座敷芸があれば、なおよし。なくてもOK。
短期決戦のお花見シーズンを狙って、そんな募集がされている。
●リプレイ本文
パンダ、熊、狼、パンダ、鷹、アライグマ、トカゲ、猿。
着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』のアルバイトに応募してきたのは、こんな獣人達だった。別の言い方をすると、猿のレイリン・ホンフゥ(fa3739)以外はいつもの面子だ。
しかしレイリンが疎外感を感じることはなく、かえって姉川小紅(fa0262)がそわそわし、トシハキク(fa0629)と諫早 清見(fa1478)と蘭童珠子(fa1810)がどきどきし、蓮城久鷹(fa2037)、中松百合子(fa2361)、ダミアン・カルマ(fa2544)がやれやれと思う事態になっていた。
理由は簡単。レイリンが自称戦う料理人なので、調理師笹村葉月と意気投合しているのだ。その様子に、カンナが『美味しいものが食べられる』と期待を募らせていた。言われた小紅とタマも一緒に期待を膨らませて、ジスやキヨミを呆然とさせている。
だから心配しなくてもいいのにと、ヒサとユリとダミアンは心の中で思っている。
それはさておき、全員揃ってお仕事開始。
『各種イベントに、食品宅配いたします』
『合わせて、可愛い動物の配達員はいかがですか』
引っくり返すと、
『各種イベント用着ぐるみや衣装のレンタルあります』
『可愛いペットに一点もののお洋服やアクセサリーのご注文うけたまわります』
名刺大のカードに、ワンポイントイラスト込みでものすごい情報量だった。
「で、注文がないうちから働くのか」
「あら。いいのよ、ヒサ君も一緒に頑張ってくれるでしょ?」
デリバリーサービス期間中、何もみっちりと予約が入っているわけではない。そんな時にも、お客からの緊急連絡が入る可能性があるので応対係は必要だ。ついでにコンビニエンスストアの店員とか、『ぱぱんだん』は毎日忙しい。
そんな副業の一つ、ペット用衣類とアクセサリー製作にユリが駆り出されていた。この責任者は初美、ユリとは手仕事大好き仲間である。正確には、二人ともこれも仕事のうち。現在はペット美容院に卸す品物を作成中だった。この仕事があるので、ユリは配達要員に入らず、連絡係に固定されている。
そして、一緒に『頑張ら』されているヒサは、現在のところ連絡係のシフトだった。日によってはデリバリーの引率も担当するが、周囲の気遣いでこの組み合わせで落ち着いている。やっているのは、紐に防虫効果が高い木のビーズを通すこと。小型犬用の首輪に付けるアクセサリーらしい。彼とて手先は器用なほうなので、こういうことは苦にならないが‥‥相変わらず、何でもやるところだと思っていた。
でも文句の一つもなく、ダミアンがあまりの情報量に苦心惨憺した名刺広告にあるお仕事の一つを手伝っていた。二人に文句がなければいいのだろうが、この作業に対する報酬の相談はまったくなされていない。仕事としては大問題。
でも、緊急の連絡もないので作業そのものはとてもはかどっている。
配達担当は、二人一組。当然酔客にご相伴を勧められても、飲酒は厳禁。万が一に飲まされるようなことがあれば、応対係が駆けつける手筈になっている。
『この羊は食用ではありません。襲うと抵抗します。強いぞ』
『お酒飲めません。未成年です。飲ませたら捕まっちゃうよん』
名刺広告を作り、更に着ぐるみと自前毛皮用の可愛い台詞ボードを各種用意したダミアンは、レイリンと二人で配達に勤しんでいた。着ぐるみ経験がないレイリンに、面倒見がよいダミアンが組まされた形だが、一番の理由は。
「ほー、他の人はそうなってるのか。キヨミとウヅキも?」
「えーと、あの二人は男の子同士なので、関係ありません。運転免許の都合かな」
他の組み合わせがほぼカップル優先になっているので、メンバーのやりくりが必要なのは四人だけだったのだ。アットホームといえば聞こえがいいが、請負仕事にしては随分と密度の高い人間関係である。レイリンが全然気にしていないので、ダミアンも気楽に構えているのだが。
しかし、この二人の場合にはまったく別の問題が控えていた。
「その読み方では、絶対にないと思うんだ」
「私もそう思うネ。メールしよう」
アルゼンチン出身と中国出身。名前の読み方はなかなか難しいので、二人ともきちんと事前に確認をして、ちゃんとメモしてきたのだが‥‥その振り仮名をふった控え用紙を間違えて応対係の手元に置いてきてしまったのだ。
仕方がないので、レイリンが着ぐるみの頭を被っている間に、ダミアンが携帯メールで応対係に読み方を尋ねる。不幸中の幸いは、名前の漢字の個々の読み方は二人とも知っていたので、メール入力が出来たことだろう。
『それは『さえぐさ』とよむ。きをつけていっていらっしゃい』
戻ってきたメールが全部ひらがなだったので、二人ともちょっとがっくりしたのだけれど。急いで返してくれたのは分かるが、『読む』くらいは読める。
キヨミと卯月の二人組は、ご近所さんのお花見への配達を割り振られていた。どちらも本来の身分が学生なので、働ける時間の都合もある。
だがしかし。
「狼の姿で、羊の被り物が楽しそうだと言ったのはキヨミっちの方だから」
「そんな呼び方するなよ。それに卯月も子供と一緒になってぶつかってきただろう」
都合が付くならここへ行けと、近くの学童保育に行かされた二人は、小学生の群れにひどい目に遭わされていた。学童保育なので、お菓子を届けに行っただけなのだが‥‥キヨミが完全獣化姿に羊の角と耳をつけて行ったら、『狼と七匹の小ヤギ』を連想させたのか、あっという間に悪役扱いされて追い掛け回されたのだ。
その程度のことは『ぱぱんだん』の仕事ではよくあることだが、子供達に卯月が加わって、的確に退路は塞がれるし、何人もしがみついてきて怪我をさせないように気苦労が募るし、なんたって一人が首を絞める形になって、キヨミはひどい目にあったのだ。それもまたいつもの事のような気もするが‥‥
彼らの次の仕事は、依頼主の商店街間近の公園でのごみ拾いである。子供達はちゃんとごみを片付けていたのに、大人の後始末に駆り出されるのはあまり嬉しくない。でも仕事。
小紅は配達パンダのはずだったが、相方にして恋人の葉月が商店街の注文品準備に連れ去られることになり、一緒に攫われていた。料理は作るより食べるほうが何倍も得意だが、葉月の手伝いなら大抵の仕事に文句はない。
けれども、彼女を待っていたのは肉体労働だった。
「如月、電動ミキサー早く買え。お前、体壊すぞ」
「そうねー、あたしは今日だけだからいいけど、これ毎日一人でするのって大変でしょ?」
卵白の泡立てを延々とさせられている。大量のお菓子の発注が重なったので、葉月の友人如月の店の手伝い中だ。メレンゲ作りは、けっこう体力を使う。小紅は体力に自信があるほうだが、やはり腕が痛くなってくる。
でも葉月がまめにいたわってくれるし、味見もし放題だし、決して悪い仕事ではないと思っていた。配達だと完全獣化なのでおしゃべりもままならないが、人間の如月の手伝いで獣化する事はないのでおしゃべりもし放題。これはいい。
そう思っていたのだが。
「いちゃいちゃするのに電動ミキサーはいらんだろ?」
直前に壊れた道具と応援二人の態度に、如月は如月で愚痴が止まらないようだ。
配達パンダの二人目、カンナは人間の姿をしていた。相方のジスが熊さんになっているので、先導役である。この二人はカップルではないが、周囲の気配りというか、圧力で組まされていて、獣化は交代となっている。この日の配達三件目は、ジスが熊さん役なのだ。
そうして、ジスは荷物を一つ持ち、背中にのぼりを背負っていた。配達先を見付けるのに時間が掛かるといけないので、先方からも発見してもらう工夫だ。このくらいはダミアンの手を煩わせなくても、ジスも作ることが出来る。配達班数分作って、配布済み。
この時もそれが功をそうして、向こうから手を振ってもらえた。着ぐるみが気付いて走りよったらおかしいので、カンナの後ろに付いて行く。配達の品物が少なければ手を引いてもらえるが、今回は大口のお客さんなのでカンナは台車を押しているから‥‥
「この熊、引き綱が付いてるーっ!」
お客のご指摘の通り、胴回りに可愛いベルトを付けさせられて、それに留められた紐がカンナのベルトに辿り付く。一応カンナが紐を握って、まるで犬の散歩のように引いていた。なにかこう、切ない気分一杯だ。
しかし何が切ないといって、ジスが獣化していると話せない。そしてカンナは人間姿だと必要な時しか口を開かない。さすがに接客では愛想がいいが‥‥
せっかくの二人きりでも、彼と彼女の間に会話はない。
三人目の配達パンダ、タマは相棒で恋人の睦月と積極的にご一緒している。デートではなく、仕事で一緒。もちろん自由時間なんてほとんどないのに、周辺に幸せオーラを撒き散らしていた。今回初対面のレイリンが、獣化したパンダ四人の中で最初に見分けられるようになったのがタマだというくらいに分かりやすい。
しかも彼女は、他の面子が獣化しているときは相方との意思疎通に苦労しているのに、それもなかった。口は開かない。でも彼女は腹話術師なので、相棒のキーちゃんが通訳をしてくれるのである。
『パンダは笹を食べてきたので、おなかは一杯なのダ。どうしてもと言うなら、帰ってから食べるのに貰ってもいいゾ!』
さすがに着ぐるみパンダが腹話術を使っているとは誰も考えず、睦月が腹話術師だと勘違いされている。でも実はタマがキーちゃんを抱えて、うろうろしながら喋っているのだ。昼間のママ友の集まりでも子供はもちろん、夕方の歓迎会を兼ねたお花見でもキーちゃんは大人気である。
「だからといって、本当に貰ってくるのはどうなんだ」
『何を言うのダ! これはカンナがくれたんだゾ!』
本当にお酒が入る容器を持参していたタマに、睦月が言うには言ったのだが‥‥キーちゃんと彼の会話は大抵いつもキーちゃんの勝ちだ。タマとは違う。
キーちゃんは腹話術人形のはずだが、その違いは相変わらず謎。
配達は、時間との戦いだ。挙げ句に今回は場所との戦いでもあった。配達間違いはなかったが、販売していると思われてよそのグループに呼び止められたり、色々とあったのである。
一度、サービスで用意したゴミ袋が風で飛ばされて、追い掛け回す羽目になったこともあるが‥‥多分カンナが一緒に走ってくれたので、ジスは楽しかったのではないかと他の人々は思っていた。カンナを待たせていれば、きっと簡単に事が済んだなんて事は言わない。
そうして、自分達も花見をしようとかなり遅い時間に近所の保育園園庭に入り込んでいた。もちろん許可を貰って、鍵まで預かっている。キヨミと卯月が、毎日園児の相手をしていた甲斐があるというものだ。
だが、なかなかご馳走が運ばれて来ないので、酒の差し入れを大量に持ち込んだヒサが様子を見に行くと。
「あれー、ヒサさんだ。もう皆揃いましたー?」
台所の入り口で、小紅が幸せそうに箸を手に座っていた。
中では、調理担当のユリとレイリン、葉月が三人で和気藹々と手を動かしているのは、料理かメモを取るかのどちらかのためだ。それぞれに得意分野が異なるので、勉強に勤しんでいるらしい。小紅はどう見ても、試食係。
花見場所では、依頼主の商店街でお得な買い物が出来たキヨミがジンギスカンの用意の真っ最中だ。ほとんど睦月とカンナが仕切っていて、言われた通りにキヨミとダミアン、ジスが準備をしている。彼らは今後とも商店街と様々なお付き合いが続きそうな気配に安堵してご機嫌だが、それゆえに早くご馳走にありつきたいと思っている。
タマも先程、差し入れ料理を抱えて、初美のペットのミニブタのブーとフーを連れ出していた。こちらも幸せオーラが倍増中。うかつに近寄ると、それだけで酔っ払いそうだ。
つまりヒサが、この人々を急かさないと花見はずっと始まらないらしい。いや、放っておいてもジンギスカンだけで始めるかもしれないが、それはまず絶対に後程喧嘩になるのでよろしくない。何で自分がこんな役回りなんだろうかと、ヒサが思ったかどうかは謎。
とりあえず。
「レシピの交換は後にして、始めようぜ。どれから運ぶ?」
「あら、もう時間なのね。レイリンちゃん、これに詰めてね」
「油たくさん使ったけど、この入れ物大丈夫ネ?」
予定ではとっくに重箱などに料理が詰まっている頃合だが、遅れていた分は急いでもらって、出来た分からヒサが運んでいく。
と、カンナが台所に走りこむのとすれ違う。
ところが。
「ジスさーん、燃え尽きている場合じゃないぞー」
「あ、ヒサさん、カンナさんおうちに戻った?」
桜の下には死体が埋まっているとか言うが、ここでは魂が抜けたジスが座り込んでいた。キヨミとダミアンが、ひっくり返らないように支えている。何事かと思えば、
『ずっと憧れていました。お付き合いしてください』
と、他の皆がとうに気付いていた思いの丈を、会話の勢いでジスがカンナに告白したそうだ。そしたらカンナが逃げてしまったので、放心している。
だが。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、葉月はいいって言った!」
「いーんじゃない?」
「いい奴じゃないか」
息せき切って戻ってきたカンナは、初美と睦月になにやら尋ねてから、ジスに魂を入れ直してくれた。これで断られたりしたら、花見が気まずくなるところだ。一安心したキヨミが、お祝いに歌ってくれることにもなった。
でも、花見開始して一時間後。
「睦月さん、あーんして」
ほろ酔い気分のタマの行動に、睦月が困っていた。