いい日竹好きアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 0.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/06〜07/08

●本文

 札幌市内の事務所を構える着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』は、この時期ご近所の保育園児と一緒に、事務所兼自宅の裏山で小さい筍を掘るイベントがある。保育園児はそれを給食にしてもらい、美味しく食べるのだ。
 もちろん『ぱはんだん』の人々が着ぐるみ姿などで一緒に参加し、安全に行事が行なわれるように目を配ることになっているが、例年このイベントに参加を拒否するパンダがいた。
 名前は笹村カンナ。『ぱぱんだん』は基本が家族経営だが、団長笹村恵一郎の娘である。父娘でパンダ獣人、着ぐるみ劇団の看板のはずだが、彼女は筍が嫌いだった。
 幼い頃に生筍を大量に食べた挙げ句に腹痛で苦しみ、以来筍に罪はないが、大嫌い。そこから繋がって笹も竹も嫌い、七夕なんかなくなってしまえという嫌いっぷり。
 よって、この行事にはもちろん参加しないでどこかに出掛けてしまうのだが、家族は彼女がいない間に筍料理三昧をするのが暗黙の了解となっていた。

 さて、ある日のこと。
 この日はカンナは、友人宅に泊まる約束で遊びに出掛けていた。よって、笹村家ではカンナの弟葉月が、筍料理に腕を振るっていたのである。
 その時は、肉団子に筍など色々な野菜を入れたものを揚げていた。笹村家は元が大人数の上に、副業のコンビニエンスストアのアルバイトやら、向こう三件まで全部親戚の誰かが出入りしたりするので、作るときは大量に作る。いつだって合宿状態だ。
 だから、葉月は予定を突然変更したカンナが帰宅したのに気付かなかった。カンナは在宅中は大抵完全獣化で、その姿だとやたらと賑やかだが、人間の姿だと無口で静か。揚げ物をしているときに、ささやかに『ただいま』と言われても分からない。
 けれど、いつだって食欲暴走気味のカンナは、揚げ物の音をちゃんと耳にしていた。まっすぐ台所にやってきて、いつものようにつまみ食い。肉団子は好物だ。
 ところが。
「姉貴っ。なんでいるんだ。なによりそれを食うな!」
「ぴーちゃん、実家のお母さんがぎっくり腰で、急に帰ることになった」
 食うなと言われながら、三つ目の肉団子をもりもり食べているカンナは、端的に事情説明を終えた。泊めてもらうはずの友人が都合が悪くなったので、とっとと帰ってきたのだろう。
 それはいい。悪いのは、筍入り肉団子を知らずにもりもり食べていることだ。後で責任転嫁されて、怒られるのは葉月はごめんだ。
「食うな!」
「もう一個」
「それはTが入ってるぞ! つまみ食いしたのは姉貴だからな!」
 笹村家では、家人が嫌いなものは暗号で呼ぶ。だから筍はT。ちなみに恵一郎が怖い蛇はS。でも恵一郎の妻で、カンナ達の母親の文子は蛇獣人。家族では恵一郎とカンナがパンダのほか、文子に子供の睦月、初美、葉月が皆蛇獣人。愛の力は偉大だ。
 でも愛がなければ、嫌いは嫌い。
「T〜!」
 悲鳴を上げて自室に逃げ込んだカンナは、葉月がふすまを叩いても返事を寄越さなかった。勝手に開けると彼の姉達はうるさいので、葉月は庭で家庭菜園の世話をしていた初美を呼ぶ。
 かくかくしかじかの事情説明の後、初美がカンナの様子を見たら泣いていた。
「なによ、おなかでも痛いの? 肉団子食べて泣かなくてもいいでしょ」
 すでに部屋着になって、完全獣化しているカンナは、ぐすぐす泣きながら。
「ちらなきゃっちゃっちゅ。てぃい、おいぴきゃったでちゅ。ひゃごちゃえがちゃくちゃく」
 次の瞬間、葉月が思わず蹴りを食らわせてしまった発言を行なった。
 二十年も『筍嫌い。目の前で食べたら絶交。笹も竹も七夕も嫌い』と家族だけでなく学校も友達も散々困らせてきたくせに、この言いようは何事かと蹴り飛ばしたとて、文句を言われることはないだろう。
 たとえ葉月が空手の有段者で、渾身の力で蹴りを放っていたとしても、パンダ獣人のカンナも丈夫なことでは引けをとらない。最終的には、カンナが謝って話が落ち着いた。
「ぎょみんにゃ。もちゃききらーしにゃーでちゅ」
 こんな『ごめんね、もう好き嫌いしないよ』で許せる辺り、笹村家の人々は心が広いのかもしれない。

 今年ももうすぐ筍掘り行事がやってくる。
 『ぱぱんだん』は相変わらず人手が足りない。

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa1396 三月姫 千紗(14歳・♀・兎)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa1810 蘭童珠子(20歳・♀・パンダ)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2361 中松百合子(33歳・♀・アライグマ)
 fa2544 ダミアン・カルマ(25歳・♂・トカゲ)

●リプレイ本文

「これは、食べ応えのなさそうな」
 三月姫 千紗(fa1396)の一言はとても厳しかった。そんな彼女は、アルバイト先に何故か空のタッパーと大きな手提げを持参でやってくる。
「でも本数集めればいいのよ。ガンバろーねー」
「去年のより細いけど、美味しいといいわねー」
 姉川小紅(fa0262)と蘭童珠子(fa1810)がのほほんと、『筍食べたい』談義をチサと繰り広げている。彼女達の場合、美味しいものが食べられればいいらしい。
 そうして、今まで筍を食べられなかった笹村カンナを捕まえて、諫早 清見(fa1478)、蓮城久鷹(fa2037)、中松百合子(fa2361)の三人は、『好き嫌いがなくなってよかった』とやっている。ただし。
「なんでも食べ過ぎたらおなか壊すからな」
「あんな美味いもんを今まで嫌いだったなんて勿体無い。でも生は食うなよ」
「筍料理三昧したいけど、シーズンがずれてるのは大丈夫?」
 カンナに釘を刺したり、今夜の食卓の心配をしたりもしている。
 そうして、トシハキク(fa0629)とダミアン・カルマ(fa2544)は誓っていた。
「旧暦の七夕までの飾りつけ‥‥」
「日本版クリスマスツリー‥‥」
「「裏方の腕を振るう絶好の機会!」」
 この二人の盛り上がりを目撃した初美が、
「材料費しか出さないわよ」
 シビアな一言を残していた。実際、ダミアンとジスに『仕事』を依頼した場合、『ぱぱんだん』が提示する給与とは桁が確実に一つ違う。今回は睦月が間違えて、最低賃金を一桁少なく書き、チサに突っ込まれてもいたのだが。
 なにはともあれ、筍掘りである。

 笹村家では筍というが、竹の子ではなく笹の子だ。細い、小さい、食べられるところは少ない。代わりに繁茂しやすいとなればみっちりと生えるので、本数は稼げる。少し力があれば、子供でも鎌で切り取れる。もちろん側に大人がついているのが最低条件。食べ頃は、地上から十五センチくらいまで育ったもの。春先に取れる笹筍とは、多分種類が違う。ただ笹村家の人々が植えたわけではないので、細かいことは分からない。
 ちゃっかりてんぷらを試食した小紅いわくの『ほろ苦い』お味は土と合わないためらしいが、保育園側がどうしても春に引き続きもう一度と申し入れてきたので、今回実行と相成った。今までは味が明らかに子供向けではないし、笹全体も少ないので自家消費していたらしい。
「途中入園の子が、偏食でしてな。二ヶ月で人参とトマトとピーマンとナスとジャガイモと長ネギを克服したので、次は筍。ここの家では後は何が取れたんだったかな」
 八人が今回初対面の保育園園長は、キヨミが『おもろいおじさん』と漏らし、チサ以外が同意した人だった。チサは『面白いおじーちゃん』と思っている。
 その園長先生が、人の家の敷地に勝手に笹を植えて事後承諾を取り付けた御仁である。そんな彼が率いるのは、午前の部の園児四十人と引率の保育士と保護者が十名。迎えるはキヨミとタマとユリとヒサ、カンナと睦月に文子が加わった七名だ。子供四十人に、大人が十七名、友情参加のキーちゃん一人とも言う。うちキヨミとカンナは自前毛皮、甚平はさすがに危ないのでジャージ姿。
『行くのダ!』
 キヨミも自前毛皮姿を相当ご披露しているため、子供達は慣れたものだ。キーちゃんが号令を掛けると、年齢に応じた動きでわらわらと裏山に散ろうとして、ユリやヒサ、睦月とタマに回収されている。数名ずつまとめて、ちゃんと筍がある場所まで引率されていく。先頭は何人かにしがみつかれた狼とパンダ。
「この笹、不用意に近付いたらすっぱりと切れそうよね」
「長袖手袋でも、顔だけはこっちで注意しないと駄目か。低い位置だからって見落とさないようにしなきゃな」
 筍取りを体験して、更に自分達の取り分も確保したいユリとヒサだが、目前の状況はそれどころではない。世の保護者達はなんと偉大かと感心しながら働いていると、
『こら、狼を蹴るナー』
 キヨミが背後からお尻を蹴られて、地面に突っ伏していた。それを睦月と助け起こしたら、別の子供がタオルでキヨミの顔を拭いてくれた。泥が顔全体になすられている。
 後程、自称着ぐるみだってゴム手袋に上に軍手をしていたのだが、土に触った後はよく手を洗いましょうとキヨミとカンナ以外の人々が子供達に言い聞かせたところ、指摘された。
「顔は?」
 キヨミの顔は、子供の前では洗えない。後で全身丸洗いだと言い張って、とりあえず子供達を保育園まで送り届けた。

 午後、今度はパンダの小紅と熊のジスと、普通の人のダミアンとチサと葉月と初美に卯月で七人が、午前とほぼ同数の子供達を出迎えた。ジスと小紅は『何人でもどんと来なさい、ただし平らなところでなら』という意気込みだ。実際、あっという間に数人が手足にしがみ付いている。
「ああ、本業でウハウハなギャラを稼いでみたい」
 チサは子供達の勢いにあてられたか、すでに白昼夢の中にいる様子。でもダミアンの、
「クッキーを焼いてきたから、後で食べようね。ほら、元気出して」
 という励ましに、一気に現実世界に戻ってきた。ただ飯、ただおやつ、奢り、チサに的確に効く一言だ。今回ちゃっかり早めに出て来たのも、お昼ご飯代を浮かせるためらしい。
 実は本業でも相当稼いでいるはずのダミアンは、俄然やる気のチサでは手が回らない子供達の引率を担っている。チサは元気な子供達と一緒に、すたこらと低い丘といえそうな高さの頂上目指して走っている。
 でも、筍掘りは山の中と聞いて『熊が出たらどうしよう』なんて心配していたダミアンは、この程度の山でほっとしていたところだ。そこに自称着ぐるみの熊がいたりするが。
 なんて思っていたら、笹の間から膝くらいの位置に熊の顔が覗いてびっくり。
「すごいでしょー」
 よく見たら、ジスがお馬の稽古よろしく子供を背中に乗せているところだった。二人乗ってもへこたれないのは、さすがに完全獣化。
 ただし同じ完全獣化でも、小紅は抱っことおんぶ専門だ。一部肩車になっていることもある。さすがに肩車、抱っこにおんぶに両足に一人ずつしがみ付いたら斜面の移動は危ないので、葉月とダミアンが足の子供ははがして小脇に抱えた。卯月がパンダと熊の先導役だ。
 それでも子供達はチサに教えられて、なんとか筍を切り取っていたが‥‥
「一人一本よ、一本。他の人の分がなくなったら大変だからね」
 チサが平等の精神で言い聞かせているかも思いきや、
「筍は、明日も生えてくるって睦月さんが言ってたよ」
「じゃ、一本ずつ取れたら見付けた人から二本目取ろうかっ」
 自分達の分を確保するための作戦だったらしい。あまりの切なさに、ジスが遠くを眺め、小紅が頭を撫でに行き、葉月が『畑で好きなものを取れ』と言っていた。ダミアンもクッキーの量を思い返している。
 この後、子供達を送り返した後の家庭菜園では、兎耳を出したチサがせっせと鍬を振るう姿が目撃された。ついでに熊とパンダのままのジスと小紅も。
 ダミアンは、皆の休憩用のお茶を淹れている。

 保育園行事が終わっても、もちろん彼らの仕事は終わらない。
「筍ご飯をお母さんに持って帰りたーい」
 と主張したチサは、その他に多種多様な野菜にクッキーの残りを全部というか、皆が遠慮して食べなかった分をカンナの目を掠めて抱え、帰っていったが。この際ただおやつであるならばその抹茶色のクッキーが熊笹茶入りであっても気にしないらしい。
 そうして、キヨミはコンビニのレジで保育園帰りのお母さん達にお勧めコーナーの解説をしていた。
「七月七日はそうめんの日ですよー。いかがですか、おそうめん」
 更に現在、七夕用の笹飾りに下げる短冊も受付中。竹でも柳でもなく、笹。経費削減。ちなみにキヨミは先程『心願成就』と書いて、初美に『基本的に手仕事や習い事の上達を願うもの』と精神的パンチを食らっていた。
 いや、そのうちに今は妙にクラシック方向でうまい具合に歌詞も踊りも思い付かない『ぱぱんだん』のテーマソングだって作ってやるとか書きたかったが、精進が必要なので書けなかったのだ。後でどう書くか考え直さねば。
 その笹を切っているのは睦月で、当然のごとくタマがくっついている。二人は現在、笹が繁茂し過ぎないように刈り取っているところだった。刈り取る人睦月、運んでいく人タマ。二人で手が足りるわけはないが、周りはお邪魔虫にならないように手伝わない。
「ねえねえ、睦月さん。カンナちゃんも笹が平気になったら、団長さんも一緒にパンダいっぱいで記念撮影できるわねー」
「‥‥五人もいれば、確かに何かに使えそうだな」
 ぶんぶんと密集しすぎて枯れかけた笹を振り回しつつ、タマはスキップでもしそうな幸せ漏れ出し中だ。時々パンダ耳が出て、力仕事もしているのだが、そういう時は余計にスキップ風。
 まあとにもかくにも、この二人は仲良くやっていた。
 そうして、こちらは台所に隔離された小紅と葉月はといえば、七夕談義をしていた。
「テレビの全国区番組は七月に七夕って言うから、保育園でも七月と八月の両方やることにしたんだって。八月は園児も休みが多いから、七月のほうが揃うし」
「なるほど。あたしはまた、あの園長先生が楽しいからって二度やるのかと思ったのよ」
「それもある。あの人は旧暦というなら、今年は八月十九日? その辺だって騒いでたし」
 そこまで念入りにやらなくてもいいはずだが、やりそうなおじさんだったと小紅は思い返している。だが、そんなことより実は個人的に重要なのは、彼女は七月六日が誕生日だということだが‥‥葉月は忘れている模様。
 仕方がないので、後で愛をくださいとねだってみようと考えながら、小紅が人参の皮むきをしていると。
「誕生日は俺が太陽暦で、小紅が旧暦だと何日だったか年の差縮まるから。今度なー」
 台所から聞こえた歓声に、文子が怪訝な顔をしていた。
 ところで、このころのお店の裏では、大変なことになっていた。
「俺は姉御を手伝って、飾りを作ってるから。手が足りなかったら呼んでくれ」
「さー、てきぱき終わらせて、わんこ服も作らなきゃ」
 コンビニエンスストアの七夕飾りである。どこかのテレビ番組でも舞台でも、大掛かりな祭りでもないのに、何故か図面を引いて計画を立てているのはジスだ。相方としてダミアンが細々したところの飾りをスケッチしている。
 スイッチが入ったらしいと見守っているのはヒサで、手先の器用さを活かして折り紙の飾りを受け持つユリの手伝いに回っていた。彼らが納得しないと、次の作業は始まらない。
「一月も飾るなら、その間きちんと形が保てるものにしないとな」
「でも笹は入れ替えるから、そこだけは取り替えやすいように作ろうね」
 ジスもダミアンも店内飾りつけは一応門外漢だが、物を作るのはプロ。駐車場敷地に少し張り出しても大丈夫と言われて、子供が喜ぶものを作ろうと盛り上がっていた。外に飾る笹には、ちょっと立派なオーナメントをつけようと、ダミアンは少し方向性を間違えているかもしれないけれど。
 なにはともあれ、まずは笹を支える支柱をしっかりと作り、そこに笹を挿してバランスを見ながら他の飾り付けをと始めた二人は、手際よく仕事を進めていた。
 この間にヒサとユリはせっせと細かい飾りを作り、短冊を大量に作ってレジに揃え、最初に飾り付けておく願い事も書き込むことにする。何にも願い事がない笹飾りなんて、カッコがつかないからだ。彼らの感覚からすると、竹でない辺りですでに物足りないのだし。
 と、その手伝いにはカンナもやってきた。
『これからも素敵なお仕事の縁がありますように』
『無病息災』
 ユリはともかく、ヒサのは違うとカンナはうるさく言った挙げ句に、自分の短冊に達筆で『およめさんになりたい』と書いた。それを見た二人がジスに視線を向けていたら、カンナはさくっと握りつぶしている。
「左で書かなきゃ」
 子供のふりをして、再度ミミズののたうつ字面で『およめさんになりたい』が完成。その光景だけ目撃したジスが、なんとなく蒼褪めていたのはダミアンの気のせいではないだろう。
 ダミアンは『皆が健康で過ごせますように』と書いている。ヒサのもそのまま。こちらは二人して、店内の壁に張る飾りを作ったりし始めたので、忙しかった。更に願い事を書くためのテーブルを用意して、ペンも太さ色々で準備。
 ジスはしばらくたそがれていたが、カンナが笹に結んでと言い出したので嬉しそうだ。彼がカンナを夏祭りで夜店めぐりでもと誘っているのを聞いた三人は止めなかったが、そろいも揃って考えていた。
 その二人で行ったら、幾らあっても足りないのではなかろうか。素直に食べ放題に行けばいいのに‥‥飲み放題も付いているところ。
 もちろん、思っているだけで伝わらない。
 やがて、タマと小紅も願い事を書くとやってきて、先に書き上げたタマの短冊を見た小紅が猛然と何事か書き付けていた。
「目立つところに吊るしちゃいましょ」
「姉御、そう言うか?」
「‥‥姉御のアイデアだからね」
 二枚の名前のところが違っている『お嫁さんになれますように』はカンナの短冊とは離れたところに並んで結び付けられた。翌日、園長先生が店に飛び込んでくるのだが、多分それはユリの狙い通り。
 そんなこんなして、夕食には筍三昧とは行かなかったがカンナも揃って筍料理を楽しんだ一同は、翌日になって気付いた。
 笹の一番目立つところに、
『人気アイドルになりたい チサ』
 と短冊がしっかりと結び付けられていることに。
 キヨミの短冊は、『楽器も出来るアイドル』。