ご褒美は危険な封印中東・アフリカ

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 不明
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/25〜07/29

●本文

 それは古い時代の遺物だということを除けば、興味のない者にはただの箱だった。
 けれども、興味のある者、興味を持たざる得ない者には、貴重な一つだ。
 持ち主がなんと呼んでいるかは知らず、関係者は『オシリスの扉の封印』と呼んでいる。
 現在、エジプトで活動している獣人の何割かが、目の色を変えて、人を殺しても手に入れたいと望むアイテムの一つである。

「課題は慈善活動だ。ただし札束を積めば叶うものではない。欲しいと申し出た我々が、ちゃんと自ら働いて人に尽くした場合に、目的の封印を譲ってもらえることになった」
 学校の先生よろしく、一室に集まった人々に説明しているのはアレキサンダーという初老の男性だ。大分白髪が増えても見た目が麗しいのは、一角獣獣人の特性によるところが大きい。ついでに当人の努力と。国籍はイタリアで、職業はモデル事務所社長。
 でもエジプトにいる獣人達の一部では、遺跡探索グループ『カクテル同好会』の一人としてのほうが知られている。この部屋にいるのも、大半は彼の仲間だ。
「金と物は出すから、働く人間は雇えばいいんだろう?」
 慈善活動と聞いて、『けっ』と上品とは程遠い態度を示したのは、そのカクテル同好会とおおむね仲が悪い『シェイド一派』と呼ばれるうちの一人エイだ。獣人種族は本人が誰にも明かさないので不詳、職業は欧州で有名な劇作家兼演出家。自由奔放といえば聞こえがいいが、好悪の別がくっきりきっぱりしていて、嫌いなタイプに過激な嫌がらせをすることで有名だ。あと、女遊びが激しいことでも。
 現在は、エジプトで表向き新作舞台の劇場探しと構想を練っている、裏で『封印』集めにさほど熱心ではないが活動していることで、WEAに監視されている。そんなわけだから、この場にはさすがに仲間数名と共に訪れていた。
「いけませんわよぅ。自ら働いてですから、エイさんも何かしないとおじい様達が貰えることになりますわ」
 両者の中間で、話し合いの最中だというのにトロピカルに果物が飾られたジュースを飲んでいるのは、シンデレラという。立場はアレキサンダーとその妻パナシェの孫、エイのアルバイト秘書だ。あまりものを深く考えないが、どんな面倒な事務仕事を言い付けてもやるので、エイが連れ歩いている。もちろん、ライバルであるところのカクテル同好会の動向を聞き出すのに便利だからと言うのが、一番重用される理由だ。
 かたやカクテル同好会側も、シンデレラが女遊びでは良識ある人々に非常に評判の悪いエイの好みに合致しないのと、当人が『割がいいアルバイトですの』と主張するのとで、エイが何をしているのか逐一報告させている。
 かっこいい言い方をすればダブルスパイ。本質的なところは、情報垂れ流しメッセンジャー。昔話に当てはめると無自覚なこうもりだが、当人は兎獣人だ。
「シンデレラが言う通りだよ。君本人が出てこないなら、この封印は我々のものだ」
「‥‥札束にものが言わせられなきゃ、そっちも不利なくせに」
「お金じゃありませんわ。ボランティアは心ですわよ」
 ぎすぎすしている二つの勢力の狭間で、その緊迫感が欠片も分からないシンデレラは器に挿してあったオレンジにかぶりついている。言うことは間違っていないが、彼女が口にしても、なんとなく言葉が上滑りする。当人がいかにも苦労知らずに見えるせいだろう。

 こんな彼らに『慈善活動をしなさい』と言ったのは、エジプトはカイロ郊外の学校長だった。いわゆる地域の名士で、教職の他に様々な地域活動に携わっている。大半は子供の教育に関係する事柄で、目立つところでは費用が安い語学やパソコン教室、一人親家庭への様々な支援、地域のモスクへ集まった寄進を配分を相談する会議の役員などだ。
 カクテル同好会は元々文化・遺跡の保護活動をする団体を名乗っていて、そちらの経験は長い。欧州出身者が多いが、他地域での交渉にも長けている。それらの活動実績を支えるのは潤沢な資金力だ。ある意味、金に物を言わせて、色々な事柄を有利に運んでいた。もちろん賄賂も必要ならためらわない。
 対するエイは、芸能人が知名度やイメージアップに求められれば大抵協力するチャリティーも避けて通ることでもけっこう有名だった。この噂が相手の耳に入っていれば、カクテル同好会有利で話が進んだのだが、あいにくとエイもエジプトでの知名度はまだまだだ。
 よって、『封印』の持ち主はその重要性も知らず、突然譲ってくれと現われた二つの団体から事情を聞いた上で、どちらに譲るかは『双方の慈善活動成績を見てから』とのたまった。ここにカクテル同好会が関わっておらず、シンデレラが里帰りでもしていたなら、エイはためらわずに相手の射殺くらいは命じていたかもしれない。
 先方にとっても幸いなことに事件は起きず、カクテル同好会とシェイド一派の『封印争奪慈善活動合戦』が始まることになった。

 慈善活動場所として指定されたのは、以下の通り。

・語学教室
 アラビア語と英語以外の言語習得を目的としている。

・パソコン教室
 パソコン技能の習得を目指しているが、パソコン自体が二台しかない。

・給食施設
 親が働いているなどの理由で、自宅での食事が困難な子供に食事提供する施設。一日朝夕二食。

・物資倉庫
 子供用に限定されない、寄付物品の保管倉庫。先日棚が壊れて、荷物が雪崩を起こした。

 これらの場所での慈善活動内容が熱心だったほうが、『封印』を譲ってもらうことが出来る。
 関係者の一覧は以下を参考のこと。

・カクテル同好会
 五十代から六十代の、欧州出身者を中心とした団体。
 資金力あり、慈善活動、文化活動の経験あり、小言が多い。
 時に違法行為もためらわない腹黒い面がある。

・エイと愉快な配下ども
 外見が十代後半から三十代までの、出身地不明な団体。
 呼び名がエイ以外は、アルファベットでB、C、D‥‥と続く。
 資金力すごくあり、違法活動の経験豊富、慈善活動とは縁遠い。
 『封印』には執着心が強いため、多分今回だけは良く働く。

・シンデレラ
 外見十代後半、実年齢二十代前半の大学生(休学中)
 上記の誰に対しても、何を言っても怒られない人。ボランティア経験は程々。
 何か尋ねれば知っていることはなんでも教えてくれるが、秘密は守れない。

 以下の点には注意。

・全施設、男女別室
 家族以外の異性とは同席しない。恋人でも入籍していなければ駄目。

・服装
 女性は長袖長ズボン着用。スカーフなどはなくても良い。
 男性もタンクトップなど露出が大きいものは避ける。

・飲食
 アルコールを使用するレシピの持参禁止。

●今回の参加者

 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa2670 群青・青磁(40歳・♂・狼)
 fa2830 七枷・伏姫(18歳・♀・狼)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa4591 楼瀬真緒(29歳・♀・猫)
 fa4832 那由他(37歳・♀・猫)
 fa5167 悠闇・ワルプルギス(22歳・♀・蝙蝠)

●リプレイ本文

 第三勢力は、ある日突然興る。
 などといえばかっこいいが、カイロの街の片隅で裏事情満載のボランティア活動に勤しむために集められた男女の半数近くが依頼主のカクテル同好会でもエイでもなく、無派閥のシンデレラと徒党を組んだだけのことだ。群青・青磁(fa2670)、敷島ポーレット(fa3611)、悠闇・ワルプルギス(fa5167)に当人を加えて、四人で第三勢力に成り上がっている。
 完全無派閥は楼瀬真緒(fa4591)。普通にボランティア活動に邁進する心意気で、先の三人と同様に格別報酬に魅力は覚えないらしい。
 とはいえ、残る四人の湯ノ花 ゆくる(fa0640)、敷島オルトロス(fa0780)、七枷・伏姫(fa2830)、那由他(fa4832)も報酬目的ではない。単に示された二者択一で『エイよりカクテル同好会のほうがいい』と考えただけのことだ。理由はそれぞれだが、オルトロスのように今回の話題のもとの『封印』を自分が手に入れるのには、今後コンタクトが取りやすいカクテル同好会に持たせておくのが一番だからと考えるほどの変わり者は他にはいなかった。
 勢力分布図が完成したところで、全員で作業に当たることに変わりはなく、彼らはこれからしばらくみっちりと働くことになる。

 マオは語学教室の担当だった。教えるとしたら日本語だが、教えられるほどの技量があるかは自分でも少し危ぶんでいる。給食施設と倉庫の整理は人手があるので、語学教室はカクテル同好会が、パソコン教室はエイ達が主に担当していた。マオはカクテル同好会の熟年層と一緒だ。
 それが理由というわけでもなかろうが。
「後でパソコン教室にも行ってみましょうか。それとも倉庫?」
 どうせなら、若い人と一緒に仕事をして、流行り言葉の一つ二つも憶えたいとかなんとか、教材を用意しながら独り言だ。一歩間違えるとアブナイ人だが、作家で女優のマオには大事な交流の場でもあるらしい。
 でもまずは語学教室で、挨拶や良く使う言葉をイラストや画像、写真と絡めて覚えたら良かろうと、教材作りに専念していた。この作業はアラビア語がすっかり達者になったシンデレラと合同だ。
「これがアラビア語で、英語、日本語‥‥これはイタリア語で、この最後についているのはどこですの?」
「ドイツ語ですわ。今、フランス語も‥‥私、フランス語の筆記は苦手で」
 本格的に学びたい子供は、カクテル同好会の熟年層が担当してくれる。二人は小さい子供が興味を持って、いずれ何ヶ国語か覚えられるように勉強するきっかけ作りと言われたので、知る限りの言語で挨拶と数字と品物の言葉一覧表を作り、後程テープレコーダーに吹き込むことになっていた。マオはカルタを作って、読めるようになることにも力を入れている。
 マオの最終目標、日本の本を日本語とアラビア語で読み聞かせるまでには、相当な準備とが必要らしい。それを理解したのかどうか、彼女はアラビア語の辞典とにらめっこしていた。

 給食施設は、両派閥の直接の関係者は加わらず、集められた人々のうちの四人で切り盛りされることになった。元々作業していた人々は、この間近くのモスクの改修工事費用を賄うために、いつも以上に本業に打ち込んでいるらしい。
 そして料理の材料も、その日によって集まるものが違う寄付品が大勢を占めていて、これだと思うものを作るのはなかなか難しい。そのはずだが。
「カレーやシチューがいいだろうとは言ったけどね」
「なら文句はないだろう。刻んでくれ」
 羊肉の塊をぽんと渡された悠闇が呆れ顔なのは、オルトロスが大量の野菜を前に『カレーを作る』と宣言したからだ。事細かに使える材料や香辛料を検討し、設備も確認の上で、作るのはカレー。外見はともかく、日本とそれなりに縁深い悠闇とオルトロス、ポーとゆくるの四人ならカレーは日本風になるかといえば、まったくそんなことはない。そこが悠闇の呆れ顔の理由だ。
 なにしろオルトロスは大量の香辛料を混ぜ合わせているし、ポーはその配合をメモに書いている様子。アラビア語が分からないところがあるようで、時々二人でああだこうだ言っている。
 つまりどの地域なのかはよく分からないが本格派、それを作り方まで伝授するつもりらしい。悠闇がイメージするカレーとは、この時点で大分違う。まあ美味しければ、子供達が喜んでくれるだろうから、手伝うのには文句などないが。
 そして、一人黙々とパンを焼く準備をしているのはゆくるだった。ポーやオルトロスもその業界ではそれなりに名が知れていて、悠闇も小耳に挟んだことがなくもないが、ゆくるはその点文句なしの『有名人』だ。なんでここにいるのかという話もある。
 今のところ、ゆくる以外の一致した意見は『メロンパンの布教活動』だ。普及ではなくて、布教。彼女は宗教家ではないが、なんとなくそういう風に見える。
「カレーに‥‥合わせると‥イチゴジャムと‥‥メープルの‥‥どちらが、いいでしょう?」
「あんま甘くないのがいいと思うで。デザートやったら、色々あった方が喜ぶと思うけど」
 悠闇にとっての一番の謎は、カレーにメロンパンを合わせようとする『メロンパン芸能人』と、それに平然と答えているスタント俳優なのに名の売れたポーの、気の抜けるような会話である。
「私が修行が足らないのかしら」
「あれを真面目に取り合うな。ともかく手を動かせ。時間がない」
 ものすごい勢いで野菜を刻み始めたオルトロスが的確に慰めてくれたが、悠闇の疑問はなかなか解消しなかった。
 けれどももちろん悩むことがお仕事ではないので、早朝からあれこれ仕込んで朝ごはんを子供達に食べさせ、一休みして今度は夕飯の準備をしての日々は、それはもう大変なものだった。それでもまだ女性三人が揃っている女子の配膳はいいが、一人で男子側を切り盛りしているオルトロスは一日目は苦労したようだ。
 二日目からは、『言う事聞かない奴は飯抜き』の一言で、皆をいいように操っていた。
 学校が休みの日は、午前と午後で子供達に料理を教えるおまけも付いて、この日ばかりはカレーとメロンパン以外の多種多様な料理の仕方が調理場を席巻している。
 でも相変わらずオルトロスとポーはカレー、ゆくるはメロンパン。悠闇だけは一日帳簿付けに追われていたのだが。

 ところで、お仲間が得られなかったエイ達は何をしているかと言えば。
 ゆくるが心配したような『校長宅侵入、封印を偽物とすりかえる計画』を立てている様子もなく、オルトロスや群青と角突き合わせての喧嘩も嫌味の応酬程度の可愛いもので、悠闇やマオがあちこちで『どういう人なの?』と話を聞いて極悪人から単なる女好きまで色々で困惑したりはしたが、まあまあ真面目に仕事をしていた。
 ただし、パソコンはとりあえず女子用にしてしまい、基本的なことを一人が教えている間に、男子を連れてどこを巡ってきたものか。
「よし、作るぞ」
 自作パソコンの製作に取り掛かっていた。物がないので、まず入手するところからやり始めたようだ。予想外に真面目に働いている。
 知っている人達からすると、それはもう『中身の人が違う?』と尋ねたくなるくらいに異様な光景ではあったけれども。

 そして伏姫、ナユ、群青の三人が担当することになった倉庫の片付けは、時々子供達を駆り出して、順調に進んでいた。
「片付けの基本は不用品の廃棄。でも寄付品は捨てられないので、どんどん消費しましょう。置いているだけでは、古びるだけよ」
 見た目の年齢よりよほど迫力が身に付いたナユが最初に宣言したとおりに、まずは倉庫内をざっと点検して、保存食品の類を給食班に取りに来させた。届けるのではないところがポイントだ。缶詰などは長期間持つからと油断して、賞味期限をオーバーすることも珍しくない。埃を被せておくより、さっさと消費するに限る。
 もちろん簡単に消費できなかったり、季節により必要になる品物もあるので、ナユと伏姫はてきぱきとそれらを運び出し、分類していく。用途が今ひとつ分からないものがあったりすると、子供達の出番だ。
 丈夫な毛織の絨毯は近くのモスクに渡してもらったり、本棚は語学教室に運び込んで教材にする本を並べたり、結構な重さのある衣料品の入った箱を運んで開けて、中身を小分けに詰め直したり、力仕事から細かいことまで二人は良く働いた。
「リストにはサイズ別の数量を入れるべきか、それとも倉庫内の分類表にして各箇所を見ただけで分かるような整理方法にするべきでござろうか」
 その目でよくものが書けると子供達に不思議がられたような伏姫が、発掘したノートを一冊使用して、倉庫内から運び出したものをメモしている。奥に箱ごと詰め込まれていたせいで、すっかりと紙が黄ばんでいるものだ。ナユがこれを見て、更にてきぱきと物を運んでいたが、その力技たるや目撃した人が目を見張るほど。
 でも実は伏姫も負けず劣らずの力持ちで、二人して外見を裏切っていた。この際力の出し惜しみはしている場合ではない。倉庫内部はものが詰め込まれすぎているので、一通り運び出さないと整理にもならないことがまず問題なのだ。
 そしてもう一人の群青は、エイとカクテル同好会から資金を調達して、依頼主の校長の人脈で木材を安価で手に入れてきていた。若い頃に大工のアルバイトをしたとかで、これまた重いものを平然と担いで運んできて、倉庫内の棚を一新しているところだ。目標は『百人乗っても壊れない』だが、それ以前に百人乗れるほどの大きさにはならないだろう。
 なお、あまりに怪しいので集合時点で被っていた狼覆面は祖父母の言いつけによるシンデレラの説得で外させられたのだが、群青は外しても微妙に怪しかったらしい。言動が大言壮語だからだろうか。棚の資材を入手して、伏姫とナユが中身を運び出してくれた倉庫の中を採寸前に真面目に掃除していたのだが、木材の業者から連絡を受けた地元の大工や家具職人が集まってきた。
「棚を作る手伝いがしたい? 殊勝な心掛けじゃねえか。よし手伝え」
 この態度が、また棚が崩落‥‥の心配を掻き起こしているとも知らず、群青は棚作りに精を出している。完成したときの強度は、設計が大工で木材の切断が家具職人、群青は指定の場所に釘を打ち付けて組み立てるだけとなれば、まったくなんら問題のないものが出来上がるだろう。
 問題は、大量の物資をきちんと仕分けして、取り出し易いように小分けもしたナユと伏姫の前に積まれた綿布の山だった。群青からの差し入れだが、事もあろうに褌が一山。もちろん未使用だが、一山はもちろん片付けるのに場所が必要だ。
「おむつにでもしてしまおうかしら」
「用途としては大差がないが、使用頻度からいけば妙案でござる」
 群青は、女性二人の不興を買ったことには気付いていない。もちろん寄付品は、『乳幼児用おむつ、沐浴時タオル代用』と注意書きを付けられて、棚に収められた。
 百人は乗せられないが、荷物を全部載せても軋みもしない棚に、綺麗に品物が納まっていると今後の活用頻度も上がりそうである。

 語学教室のマオは、日々集まった子供達とカルタ遊びに興じて何ヶ国語かの挨拶をマスターし、作った言葉の一覧表は近くの観光業者も欲しがるので毎日書き足しをして、日本の本を読み聞かせは子供達の要望で観光ガイドブックと相成った。子どもたちの歴史の教科書を見せてもらい、最初は不思議に思ったマオも対比を楽しんでいる。
 給食施設はすっかりとカレーとメロンパンが定着したが、今後も毎日出てくる料理にはならなさそうだ。オルトロスの慣れた手つきで調理すれば香辛料もあっという間に混ぜ合わされるが、あいにくと他の人ではそうはいかない。ただ何人かは料理も面白いと思ったようで、野菜を刻むのに参加したりしている。女の子が多いので、基本的にはポーと悠闇の二人とカレー以外の料理を作っていた。カレーはまた戻ってくる調理担当の人々が、レシピをもらって研究するらしい。きっと適度に変更されて、ここの味になるだろう。
 倉庫は完璧なまでに整理され、今までこんなものがあったのかと使用していた人々が思うような一覧を作り上げた伏姫とナユは、最終日まで今度はそれらを的確に配る作業に時間を費やしていた。壊れていた電化製品は、エイ達が修理している。
 けれども。
「‥‥おそうめんです。‥‥ささ‥どうぞ」
 初めてメロンパンではないものを出したゆくるの、流せないため大鍋に泳いでいる状態で出されたそうめんを勧められた一同は、日本食文化に馴染みがある一部を除き、『なんだ、これ』と困惑していた。麺類とはいえ、めんつゆに馴染みがないと不可思議な食べ物に思えるらしい。挙げ句、イタリア人達はトマトソースで味付けしなおしていた。
 校長は両方ともいただいて、さりげなく後者を多めに食べた後に、問題の『封印』を持ってきて、こうおっしゃった。
「大変なご尽力をいただき感謝しておりますが、これを争ってまで欲しいというのは、あまり褒められたことではありませんな。もう一度、どうしても必要なのか、人が欲しいから余計に価値が上がっているのか、よく考えてください」
 それが通じる相手ではないがと思っている人々の前で、両勢力と関係が深いからとシンデレラに渡している。
「見返りを期待しない態度が良かったんだな」
 群青がよしよしとシンデレラの頭を撫でているが、彼以外の人々はこれで新たな火種が生まれたと思っていた。
 多分近々、また何かが起きるのだろう。