ゲレンデで会いましょうアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/28〜01/03
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●本文
ことの起こりは、着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』の笹村恵一郎団長の言葉だった。
「いやぁ、こちらとは長いお付き合いだし、頑張らせてもらいますよぉ」
ちょいと間延びした、特徴ある口調の団長が安請け合いした仕事に、劇団員達が悲鳴を上げたのである。
「親父ーっ、そんな人手はないってあれほど言ったろうが!」
「白雪姫、七人の小人の配役に苦労したじゃないの」
「義兄さん、託児所とレストランの手伝いなんて、心得があるのはカンナと葉月だけだろう」
「着ぐるみでウェイターなんかできねぇ」
「‥‥ちゅきー」
この時期、ぱぱんだんは札幌市内のスキー場にあるホテルで、夕方から子供向けの劇をやる。今年の演目は白雪姫。これは練習もばっちりで、配役も裏方も人数が足りている。ぎりぎりだが。
そして日中は、例年ゲレンデに繰り出して、完全獣化の者はスキーに興じて皆様に驚いていただき、着ぐるみ組はファミリーゲレンデの下のほうで幼児を乗せたそりを引っ張ったりするのだ。ナイトスキーがあれば、また滑ったりしている。
もちろん、新年を迎えるカウントダウンイベントでは、延々と場を盛り上げるために愛想を振りまくのだ。
こうも忙しいのに、団長が託児所とレストランの手伝いまで引き受けてきたら、人数が全然足りない。と、皆は一斉に文句を言ったわけだが‥‥
「ぼかぁ、来年も劇団の仕事があるようにって思っただけなんだよぉ。そんなに怒らなくても‥‥ねぇ?」
この『ぱぱんだん』の団長はパンダ獣人、娘のカンナと一緒に、時間と状況が許す限りはパンダの姿でいる獣人の中では変わり者だ。この時もパンダのつぶらな瞳で皆を見渡したが、常ならば必ず味方になるカンナも納得していない。
パンダ、にらみ合い。
「ちゅきーちゅるでちゅ」
「だぁけど、カンナ。うちで保母さんの資格があるのは、カンナだけなんだぁよ?」
「お父さん、今は保育師よ。だいたいカンナも資格だけで、勤めたことないじゃない」
「俺も調理師の資格は取ったけど、着ぐるみでウェイターは無理だ。それは別次元」
「だぁけど、みんな」
団長は譲らない。確かに、請けると言った仕事を今更取り消せないので、団長も必死である。が、スキー大好きのカンナは頷かないし、せっかく専門学校に行かせた次男の葉月も『着ぐるみでは無理』と譲らない。衣装担当の大学家政科出身の初美も味方になってはくれず、団長危うしである。
そのとき、なにやら相談していた長男の睦月と、その叔父の虎太郎が妥協案を出した。
「休憩時間もなしは厳しいから、アルバイトで託児所とレストランは埋める。どうせ宿泊はいつもの広間だろう?」
「姉さんに費用のことを相談して、大丈夫だったら至急募集掛けよう」
「そうだぁね、それがいいよぉ」
次からは、二度と勝手に仕事を増やすなと息子と義弟に釘を刺されまくった団長だが、あんまりこたえた様子はない。
この人は、いつもこうだったと劇団員こと一族郎党は知っている。
半数余りが自前毛皮の着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』、年末年始のお仕事に助っ人募集だ。
●リプレイ本文
●暴走注意! 狐とパンダ
狐獣人のビスタ・メーベルナッハ(fa0748)とリス獣人の勇姫 凛(fa1473)は、ゲレンデ担当だった。どちらも俳優とアイドルとアクション系には縁が遠そうだが、身のこなしは軽い。ちゃんと恐竜と雪男の子供がスキーやスノーボードに興じる番組のビデオを見て、研究もした。主にヒメが。
そして、二人で交互に獣化してゲレンデの皆様の目を楽しませる予定を立てていたのだが‥‥
「ビスティ〜、競争しないでよ〜」
現在人間姿のヒメがスノーボードで追いかけているのは、同じくスノーボードの狐とパンダである。狐はビスティ、パンダは『ぱぱんだん』のカンナだ。どちらも蛍光色の派手なポンチョをつけて、ものすごい勢いで上級者向けのコブだらけのコースを滑り降りていく。挙げ句にビスティは、先程華麗に宙を舞っていた。
どちらも着ぐるみではありえない猛スピードだが、ポンチョに『着ぐるみ劇団ぱぱんだん』と書いてあるので、人々はひたすらに驚いて見送ってくれる。
そう信じたいところであった。
「もしもし、止まりませんよ〜。下でストップさせてください〜」
ヒメ、言うことを聞かずに、競争に夢中になった二人を止めるために応援要請である。
伴走者は人間姿だから、獣化している側が合わせるつもりがなくなったら追いつけないのだ。自分より動きのよいカンナを追い回しているビスティはお忘れの様子だけれど。
●動物達のレストラン
狼の諫早 清見(fa1478)と鷹の蓮城久鷹(fa2037)とパンダの姉川小紅(fa0262)はレストラン担当だった。ゲレンデが目の前のホテルのレストランは、おおむねいつでも忙しい。昼時はもちろん、昼過ぎを狙ってくる人々をさばくとお茶の時間。休む暇は、作らなければない。
「もうちょっと真ん中に寄って。パンダさんは後ろ向かない」
自称着ぐるみには人間の付き添いが基本と言うことで、アルバイトでもウェイターの経験があるのと、種族の関係で人間姿のままのヒサがカメラを構えている。撮られているのはお客の家族連れとパンダの小紅である。表情を動かすわけにいかないので、小紅はなんだか苦しそうだ。
反対に、得意のカメラを操るヒサは悠然としたものである。今はたいていのお客が自前のカメラを持っているので、色々弄るのも楽しいのだろうか。小紅が子供好きなのをいいことに、様々なポーズを要求していた。たまにはレストランの入口に面した外で、ビデオ撮影まで請け負っている。
でも、俗に使い捨てカメラなどと呼ばれるものの時は、さりげなく不機嫌だと小紅は気付いていた。
「はい、狼さんの特製ミートパイですよー」
かたや葉月と組んだキヨミは、ワゴンを押して店内を歩きながら、心中『俺が作ったんじゃない』とか『人のスケッチブック返せ』などと思っている。お客と意思疎通がある程度出来るように、小さなスケッチブックに色々書いてきたのに、葉月に取られてしまったままだ。それはお客の子供の手に渡されて、『お水いりますか』のページをキヨミが示される。
キヨミも、もちろん小紅もコップに水を足すくらいは簡単に出来るので、お客には大好評だった。コックコートを着る前に、念入りにブラッシングした毛皮もさらさらのつやつやで、間違いなく綺麗。それでも毛が落ちないようには、十分に注意しているが。
ただ、パンダで尻尾が小さい小紅と違い、キヨミはふさふさ尻尾がズボンの中なのでちょっと具合が悪い。後姿が決まらないのは嫌だなあと思っていた。
●託児所は戦場に変わる
託児所の担当になった自前毛皮の熊のトシハキク(fa0629)と、腹話術師の蘭童珠子(fa1810)、猫着ぐるみのダミアン・カルマ(fa2544)のうち、タマ以外は白銀の戦場へと駆り出されていた。パンダのカンナは、先程休憩に入った途端にスキーを履いて飛び出している。
そして現在、雪合戦において二人きりの『くまさん』と『ねこさん』のチームは、三歳から六歳までの子供達八人に一方的に負けている。もちろん二人が手加減しているのもあるが、子供達には通りがかりのスキーヤーという応援団がいるからだ。それどころか迎えに来た親が加わっている。
『ふっ、惨敗だな』
「キーちゃん、そんなことは言わないのよ?」
しかし『ねこさん』名札のダミアンと『くまさん』トシハキクことジスが一番痛いのは、子供達が迷子にならないように見守っているはずの『おねえさん』タマと腹話術人形『キーちゃん』の会話だった。キーちゃんは大変な毒舌、しかもマイクつきだ。
しばらくして、ようやく雪合戦から解放され、雪だるま作りに移ったジスとダミアンの、特にダミアンの表情が『それは芸風?』となっていたのだが、猫の着ぐるみの中だから誰にも分からないのだった。
ジスは顔付きが変わらないように注意しながら、ダミアンの用意してくれたスポンジ製の目や鼻を使った雪だるまの仕上げをしている。ここにジスが作ったスキー場名の入った立て看板を加えると、子供達の家族が迎えに来たときの素敵な記念撮影会場の出来上がりだ。もちろん、ちゃんとそりを引っ張る姿や、雪だるまを囲んでポーズのサービスもして、キーちゃん以外には好評だったのである。
例え。
「あらまあ、キーちゃん、また雪合戦がしたいの?」
『そうだ。さあ子供達、熊と猫を追いかけろ!』
と、芸風の辛らつな二人組になんだかいたぶられている状態になったとしても、子供が喜んでくれたらいいと思う、優しい『ねこさん』と『くまさん』だった。
そんな名札は、雪に埋もれてどこかにいってしまったが‥‥予備があるからくじけない。
●夜は案外楽しい
『ぱぱんだん』は夕食前の時間帯に『白雪姫』上演で忙しいが、アルバイトはこの時間にはある程度手が空いてくる。さすがにめちゃくちゃ忙しい夕食時に、大きな着ぐるみがレストラン内にいると本職の邪魔なので、二人くらいずつ入口にいて欲しいと頼まれただけだ。
ただし。
「あー、おなかすいたぁ。もう八時半だけど、ご飯まだかなぁ。どこで食べるんだろ?」
「昼もここでサンドイッチだったしな。期待はしないほうがいいかもしれないぜ」
劇団用の控え室で、小紅とキヨミが語り合っている。それでも彼らが昼に食べたのは、レストランが出してくれたサンドイッチで出来合いのものより豪華だった。成長期をとうに過ぎたヒサは、量にも味にも文句はない。
かたや奇妙に疲れ果てているダミアンとジス、それからタマのお昼は託児所のサービスでミートソーススパゲティだった。サラダ付き。子供向けなのでミートボール入りで、こちらも悪くなかったが‥‥
「昼? どこも混んでるし、高いし、ヒメとホットドックで済ませた。あとお菓子」
延々とゲレンデを舞っていて、途中でカンナとの競争に夢中になって団長に追い回されたビスティは、床に寝転がっている。頭だけ、ちゃっかりとタマの膝の上。
対してヒメは、現在ジスと一緒にレストランに出張中だ。ファミリー向けブッフェのコーナーの片隅で、ぱぱんだんの皆さんと愛想を振りまいていることだろう。予定ではそろそろ帰ってくるのだが。
「ただいまぁ。あのね、ご飯食べにきてくださいって」
「という伝言が、これだな」
着ぐるみは一般に音が聞こえ難いはずなので、レストランの担当者がメモ書きを寄越してくれたらしい。ジスが貰ったメモには、食事OKと書いてあった。
「そこ、走るな」
「レストランの人に分かりやすいように、揃っていったほうが良くないかな?」
一目散に飛び出そうとした小紅を、ヒサが止めている。これは多分に安全面を意識したものと思われるが、ダミアンが言うことももっともなので八人は連れ立ってレストランへお出掛け。途中、『ぱぱんだん』の人々が荷物を抱えて引き上げてきて、すれ違う。
「レストランで明日の打ち合わせな」
睦月に言われたけれど、多分聞いていたのは半分くらいだったろう。
ブッフェなので料理にはなくなっていたものもあるが、とりあえず食べ放題。飲み物はというと‥‥
「いいんだよぉ? 明日に残らなければ、飲んでもぉ」
一杯だけ飲ませてとお願いした小紅に向かって、出処が今ひとつ怪しいがレストランのご厚意らしきビールをぐいぐいやりながら、団長はアルコールを許可してくれた。ただし未成年は厳禁。ついでに。
「このビール、気が抜けてますよね」
タマが冷静に指摘したとおりに、宴会用に空けたが手のついていないビールをくれたものらしい。ノンアルコールも同様。ここで観光地値段で好みのものを飲むかは、個人の判断であろう。
あとは温泉につかって、この時期に客室なんて使わせてもらえないから、宴会場に皆で雑魚寝である。布団はあるし、暖房も入るので、凍死の心配だけはない。テレビもビデオもあるから。
「ビスティさんも見る? 昼間の自分の滑り」
カンナの伴走をした睦月が撮影したビデオをヒメが取り出し、希望者は鑑賞会としゃれ込んだ。そして一様に思ったこと。
「いつも思うけどさ、ほんとにここは着ぐるみ劇団で通ってるのか?」
「これは着ぐるみの動きではないだろう」
キヨミとジスが呆れるのも道理、コブだらけのコースを華麗に滑り降りていく狐とパンダが映ったかと思えば、別の時にはふさふさ尻尾が向かい風にも負けずにぴんと立ち、リスがスノーボードでターンを決めている。
言われたヒメは画面に見入って動きのチェック中だし、ビスティははなから自分の布団の上で小紅やタマと戯れている。カンナはど真ん中の布団ですでに夢の中だ。
そして、ヒメとビスティとキヨミの尻尾ふさふさ系獣人が使っていたスキー服やコックコートの尻尾の穴の繕いをしていた初美が、答えてくれた。
「獣人ですって言ったら誰も信じないけど、一流のスタントマンに入ってもらってますって言えば納得してくれるから」
もちろん着ぐるみは特注の超特別製と称している。そしてスキーの時には、ゴーグルをするので、色々とごまかしやすいようだ。
「言われたとおりにワゴンを押していればいいのなら、別に構わん」
「そうだ。明日使う道具の点検しないと」
もうちょっと休憩がまめに欲しいと要望しているヒサの横、働き者のダミアンが自分の道具の他に、レストラン組のコックコートや帽子なども調えていた。
ふと見ると、ビデオを見ているうちに寝入ったのが何人か。これは起きている人々にぽいぽいと布団に入れられて‥‥おやすみなさいである。
●そんな生活が
大晦日の午前中まで続いた。
●カウントダウン!
大晦日は、さすがに『ぱぱんだん』も公演がない。夕食の頃から、様々なイベントが行われるからだ。そしてカウントダウンでは、ゲレンデを着ぐるみの一団が乾電池式のランタンを持って滑り降りてくるイベントがある。
もちろんヒメとビスティは嫌だと言おうが連れて行かれる手筈で、当人達も嫌とは言わず。降りるのはファミリーゲレンデなのでジスやキヨミも連れ出されている。『ぱぱんだん』からはパンダが二人、虎と兎とハムスターが出演だ。
彼らがリフトで上がっていく姿は、今まで見たことがなかった小紅とタマが可愛いと叫び、ヒサが話の種にと激写し、ダミアンが近くにいた子供を見えやすいように肩車してやる程度には見ものだった。ちゃんと当人達も心得ていて、ホテル前に集っている人々に向けて手を振るのだ。
そうして、タマはキーちゃんと一緒にカウントダウンの壇上に上げられ音頭を取り、ヒサは『ぱぱんだん』から頼まれて資料用のビデオ撮影を行っている。小紅はちゃっかり樽酒の横に陣取って、一応お客の対応をするらしい。ダミアンはトランシーバーを持たされ、スキー組との連絡係である。
『今年もあと一分の半分なのだ!』
「もうすぐカウントダウンですよー、準備はいいですかー」
舞台上でタマとキーちゃんがカウントダウンを始める。ダミアンは、トランシーバーに向かって、同じく数を数える。
カウントダウンが、どんどん減って‥‥
「「「「「「新年あけましておめでとうございまーす!」」」」」」
わあっとゲレンデに声が響いたと同時に、上のほからでランタンを点けた自称着ぐるみ達がゆっくりと滑り降りてくる。ヒサが良くもまあ転ばないものだと思う暗さだが、人が歩く程度の速度だから、なんとか頑張っているようだ。
皆がそれを眺めている間に、小紅はえいやと蓋をかち割った樽酒の中身をすでに二杯目だったりする。だってコップは小さいし。一応彼女なりに気を使って、皆の分も取り分けてはあるのだが。
けれども、『ぱぱんだん』とそのアルバイト達がホテルの振舞い酒やお菓子を飲食できるようになるのは、まだまだ先のことである。
お祭り騒ぎはまだずっと続くのだ。
●正月だから初詣
正月三が日もかなりきっちり仕事をしていた彼らだが、帰り道に初詣をした。なにしろ『ぱぱんだん』の事務所は神社のご近所だ。そこで判明した衝撃の事実。
「でびゅぅちゅるでちゅか」
ヒメとキヨミが近々メジャーデビュー出来そうだというのである。これはめでたい。
けれども団長は、悔し涙にくれていた。先に言ってくれたら、今回の仕事で宣伝させてあげたのにと言うことらしい。これを聞いて、反応したのが俳優業の小紅とビスティだ。自分達が何かに出るときにも宣伝してくれるのかと尋ねて、了解を得ていた。
何かあったら頼るから、宣伝も協力するからねと言われて、給料も貰って、芸能界の屋台骨仕事を努める人々もそれなりに満足だったのである。
今度仕事を請けるとしたら、もう少し休憩が取れる内容だったらいいと思っただけで。