プールに行こう!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
龍河流
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
フリー
|
難度 |
易しい
|
報酬 |
なし
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
08/24〜08/28
|
●本文
札幌某所に事務所を構える、着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』の笹村葉月は調理師免許の持ち主だ。
色々不思議なつてを持っている彼は、ある日すすきののゲイバーの調理場手伝いに出掛けて行き、
「あらまあ、プールの招待券。それもこんなに、あんた何したの?」
「なんもしてない。店の皆でってお客さんがくれたけど、誰も行かないからって言うんで貰ってきた」
市内の大型プール施設の招待券を二十五枚も貰ってきた。これだけでも何万円分だが、ゲイバーのお姉さん方はプールと相性が悪いらしい。誰も行かないため、葉月がありがたくいただいてきてしまったのだ。ある意味ぼろ儲け。
「親父とおふくろは、プールの券いる?」
「ぼかぁ、文子さんが行くなら行くよ」
「行かない」
葉月の両親の恵一郎は、仕事以外のお出掛けは夫婦一緒がいい人だ。彼を見た人の誰もが有名焼き物の狸を思い浮かべるが、パンダ獣人である。本日は珍しく、自宅にいるのに人間姿。普段はパンダ姿で、うろうろしている。
母の文子はしっかり者で、仕事は大変できるのだが、あいにくと泳げない。この人もプールと相性が悪い人だ。それでも一応尋ねるのが、家族とはいえ礼儀であろう。
分かりきった返答が出たところで、葉月は二十五枚の招待券をしっかり握り締めている初美に視線を戻した。
「姉ちゃん、全部はやらない」
「今考えてるのよ。何枚あれば、心行くまで泳げるか」
初美は家族で一番泳ぐのか好きだ。だからプールの券など見たら、全部だって持って行きたいだろう。そんなこと、もちろん許されないが。
「おじさんとこにもいるかどうか聞いてくるから、それまで考えてて」
葉月はすぐ近所に住んでいる父親の弟家族、漆畑家の人々にプール券の話を持っていった。ここには大学生、高校生、中学生の三人の子供がいるので、きっと友達と行くだろうとの気遣いだ。『ぱぱんだん』は時に中学生まで駆り出す家族中心経営なので、日頃から譲り合っておかないといけない。
ここで、券が八枚減った。残りは十七枚。
次に葉月が必要な枚数を尋ねたのは、兄の睦月だ。
「二枚くれ」
「八月末までなので、早くデートの約束しな」
「お前は?」
「抜かりない。もうメール出した」
メールを出しただけではデートの約束をしたことにはならないが、睦月と葉月はそういうあてがあるようだ。四枚減って、残り十三枚。
最後に葉月が『二枚いるだろ?』と券を差し出したのは、姉のカンナだった。体型と顔と性格とやることが父親に似て、私生活の大半をパンダ姿で通している困った姉だが、
「にゃんで? ぴゅーりゅはちゅきらにゃいでちゅ。みじゅぎじゃにゃぁ」
食べても身に付かない初美と違い、パンダ姿がお似合いの体型のカンナは、水着姿になるのには抵抗があるようだ。泳げない訳ではない。ただ、もう一つの理由が、
「しょれに、あちょきょ、ちゃべもにょちゃきゃ〜い」
買い食いに費用が掛かるのが嫌だから。でも皆が行くと、自分も行きたくなる人なので、チケットだけは確保しておく。
そうすると、残り枚数は十一枚。初美が友人と行くので、更に三枚減って、残り八枚。
「アルバイトの皆を招待しなさい」
「それで余ったのは、チケット屋に売ろう」
文子の指令に、葉月がせこい案を追加して、チケットは無事に行き先が決定した。
この夏の『ぱぱんだん』のレジャーは、プールに決定である。
●リプレイ本文
漆畑家の人々がコンビニの仕事を引き受けてくれたので、プールには笹村家の四人と集まった八人の総勢十二名で押し寄せることになった。ただし八月二十七日。
なにしろプールに行く前に!
「姉御、見立ててー」
姉川小紅(fa0262)が店内に響く声で中松百合子(fa2361)を呼ばわり、我も我もと渡会 飛鳥(fa3411)とレイリン・ホンフゥ(fa3739)も寄っていったのは、蘭童珠子(fa1810)発案の『女の子は揃って水着を買いに行く』イベントがあるからだ。もう夏も終わりだが、プールとなれば新調したいのが女心である。
「可愛い空色ワンピースと真っ赤なせくしービキニ、睦月さんはどっちを気に入ってくれるかしら?」
「あの人はワンピースだと思うヨ」
「あんまり派手なのは好まない感じよね」
「空色」
「ワンピ」
「絶対ワンピースね。パレオも付いて、ちょっと大人っぽい感じもするし」
タマはほとんど自分で選んでいるが、他の女性陣がユリに殺到したのはもちろん理由がある。スタイリストとしてすっかり著名な彼女に、水着を見立ててもらう機会など滅多にないからだ。ないはずだが、大半がユリ姉御とちょくちょくお会いしているのは気のせいではない。
小紅はすっかりお任せ状態で、あれやこれやと水着を身体に当ててみては、コメントをちょうだいしている。レイリンとひーちゃんは、
「水着はしばらく着たコトないから恥ずかしいネ」
「そんなことないですよ。あたし、今年はお仕事で海に行ったときに買ったけど、ここでも新調」
年齢が近いもの同士で会話していたのをお姉さん方に聞かれてしまい、ほとんど着せ替え人形のようなノリであれがいいこれはどうだとやられる羽目になった。可愛らしい系と希望があったひーちゃんと違い、迷っていたレイリンはいいように弄られている。
結果、ひーちゃんはパステルイエローのフリルが多いホルターネックビキニ。レイリンはあれやこれやとやられた挙げ句に、ビビットグリーンのキャミソールタイプのビキニに白の短パンを合わせたセットを買うことになった。嬉しいのは、シーズンも終わりでセール価格であること。残念なのは。
「この歳になって、ビキニはちょっと悪あがきかしら」
「姉御、悩殺する相手はちゃんと選んでね」
初美の突っこみに皆で頷いてしまった、ユリの黒地に花柄、胸元とショーツの両脇にリボンが目を引く大人なビキニが、他の誰にも着こなせない事である。ぜひ来年以降、機会があったら見習いたいものだと考えている人々が何名か。
一人離れてサイズ違いの水着を漁っていたカンナは、どこから発掘したのかスクール水着のような地味なのを持ってきて、全員から駄目出しを食らっていた。
同日の男性陣は。
チケットをいただいた葉月は、また手伝いに呼び出されて仕事に行き、睦月は自分のスーツにアイロンを掛けていた。
笹村の二人はさておいて、今回は遊びに行く計画優先の諫早 清見(fa1478)と蓮城久鷹(fa2037)は水着を買おうと訪れた店で出会っている。女性陣のお出掛け先をチェックして、重ならないところを選ぶと選択肢はあまりなかったのだろう。
「渋いなあ、黒か」
「流行の派手なのは任せた」
こちらは悩むほどのこともなく、無難に買い物を済ませている。
もう一人のトシハキク(fa0629)は、この日は食い倒れの旅に出ていた。
そして、プール前日。
「行って来ましたーっ! うちの親もOKでーす」
スーツ姿の睦月を引き摺るように笹村家に現れたタマは、この予定を知って待ち構えていた人々から拍手喝采されている。前日から睦月を連れて実家に赴き、ご両親への挨拶なるものを済ませてもらったのである。睦月はまだ固まっている。
そんな幸せな人達の横では、カンナが悔し涙にくれていた。
「にゃんで、ひちょりでぇ」
「ごめんね、皆でお買い物だって聞いたから。ええとじゃあ、明日はプールでなんでも奢るから、それで許してくれる?」
前々日に一人で食べ歩いていたことを責められているジスに、助けの手はない。それは皆が冷たいのではなくて、放っておけばデートらしいものに漕ぎ着けられると分かっているからだ。
明日はいよいよプールの日。しかも夜には庭でバーベキューをする計画だ。
すでに翌日の準備のために、先程まではレイリンがキヨミを荷物持ちにして買い物三昧をしてきたところだった。もちろん運転手と買い物補助でヒサとユリとひーちゃんも手伝っている。買い物している最中のカート押しは、キヨミに一任していたが。
こういう時に率先してやってきそうな小紅と葉月は、別の買い物でこの日は直前まで留守だった。
さて、お待ちかねのプール当日。
友人と行く他にもプールは逃せないと自ら運転手まで務めた初美に、キヨミとひーちゃんとレイリンが引率されている。半ば強引なのだが、『カップルの邪魔は出来まい』という一言でこの四人で行動する羽目に。
ちなみにキヨミは『変なのが来たら、撃退しなさい』と本日の役どころは護衛にされているのだが。
「私、大丈夫ヨ。こう見えても強いネ」
レイリンはにぱっと笑って、そう口にした。確かに『ぱぱんだん』宛ての履歴書職業欄に『戦う料理人』と書き記したのだから、それなりの腕前だろう。初美は空手の有段者だ。どちらも水着ながら、はっきりいって隙がない。
キヨミもそれなりに腕に覚えはあるので、この四人で護衛されるとしたらひーちゃんになる。モデルだけあり、今現在のこの施設の中でもそれはもう飛び抜けて可愛らしいので人目は集めているのだが、彼氏持ち。本日来ていないが、声を掛けたところで無駄なのである。
キヨミが心中、『自分も次回は彼女と一緒に』と思ったとしても、この状態では無理はないが‥‥他人が彼を見た場合。
「綺麗どころを三人も揃えて、いいご身分に見えるなぁ」
「なぁんにも知らなかったらね」
無責任にヒサとユリが評したような状況である。
キヨミが二メートルプールで初美とざかざかと泳ぎまくりつつ、時々曲作りに止まってしまうのだが、その時は初美が付き合って止まってくれるので、見た目の状況は変わらない。
この間、ひーちゃんとレイリンは二人でウォータースライダーに突撃し、ドルフィン浮き輪を活用して楽しんでいた。女の子二人連れになっているが、なにしろ周囲に十名見た目だけなら五カップル、彼女達に注意を払う人がいるので怖いものはないのである。
しばらくしてまた四人に戻った彼と彼女達は、大きな貸し出し浮き輪一つにぐるりと掴まって、流れるプールを漂っていた。
「葉月、あれやろう、あれ」
「俺としてはもうちょっと応用が欲しい」
漂っている四人は気付かないが、やっぱりキヨミが『羨ましい奴め』と思われる状況が続いている。一応一番気を使っているのも彼なのだが。
ところで、この四人が遠慮してあげたカップル達はといえば。
「あたしも泳ぐの結構得意よ〜。クロールも平泳ぎも背泳ぎもバタフライも犬掻きも大丈夫」
「‥‥それは多分、コースで泳がないほうがいいな」
本格的に泳ぎたいキヨミや初美が使用しているのは、プールの一部が区切られた専用のコースだ。タマはそれを見て、自分の水泳の力量を説明したのだが、睦月はかえって心配顔になっている。
タマも別に競泳に来たわけではないので、空色水着に青の薄いパレオでポーズをとっては、睦月に感想を求めていたりするのだが、彼はそういう方面に口幅ったい。ヒサのほうがよほどいい褒め言葉を掛けていたりするので、タマもちょっと気になったようだ。
「睦月さん、もしかしてビキニのほうがよかった?」
でも、こちらも少しずれている。
もっとずれているのが、ジスとカンナだ。プールに来たのか、食い倒れに来たのか分からない風情で、皆がてんでに散ってから軽食屋のメニューの前に佇んでいた。
彼と彼女が注目しているのは、この月末まで行なわれているイベントだ。プールなのでスタンプカードとはいかないが、夏限定メニュー一つの注文でイベント用ストラップに通すアクリルパーツをくれる。
このパーツを溜め込むと、色々なプレゼントがもらえたりするわけだ。何回も来て、いいプレゼントを狙ってくださいと言う催し物である。
だが、この二人の場合。
「半分ずつ食べたら、いっぱい揃うよねぇ」
「そうだね、それいい。そうしよう、うん」
何か方向性が間違っている。しかもジスとカンナの方向性は、微妙にずれている模様。ジスが懸命に修正を図っているが、とりあえず何か食べないことにはそれも叶わないようだ。
お代は全部、ジスのお財布から。
そんな企画を横目に、まったりと流れるプールを漂っているのは小紅だった。大きな浮き輪に乗っかって、ぷかぷか流れるのを楽しんでいる。さすがに一人ではなく、浮き輪に片腕を絡ませて、葉月が横に浮いていた。正しくカップルにありがちな様子である。
「この夏限定メニュー、ちょっと高いよね。見た目は綺麗だけど」
「あの器欲しいな。そしたら中身は家でも作れるから」
会話はカップルにありがちでない、あまりに俗っぽい内容だ。無料招待券でも楽しまなきゃ失礼とばかりに、すでに一通り堪能した人達の会話とは思えない。
「でもカンナちゃん、きっとトライしてるよね。どれ食べると、一番お得だと思う?」
「原価率計算なんかしたくねー」
そして、カップルとは思えない会話は、その度合いを増していた。まるで何年も付き合った二人のようだが、彼らの出会いは兄夫婦(予定)と大差ないはずだ。
「タマちゃん、まだプール入ってなーい」
「パレオ着てたら、脱がせたくないんだろ。兄貴、プールで独占欲出しても無駄なのに」
この二人、現在は小紅の膝の上に葉月が乗っかりそうな姿勢で、今にもひっくり返りそうだがなんとか流れている。
こうもてんでばらばらに好き勝手やっているが、ちゃんと様子の確認を適時しているのはヒサだった。カメラは当然持ち込んでいないが、ついシャッターチャンスを考えてしまうのだ。指でファインダーを作って、撮ったつもり。
そんな遊びを一人でしていたら寂しいし怪しいが、先程までキヨミ、初美と同じコースで泳いでいたときからユリが一緒なので、怪しまれることはない。代わりに先程までスライダーを四往復ほどさせられた。いつもと違う筋肉をたくさん使った気配。
「屋内はいいわよね。紫外線を気にしなくていいんだもの」
「いずれにしても、こういう場所のカメラは無粋なんで、なんか足りない気分だけど」
ユリとの会話は、どちらもものすごく仕事に絡んでいる。皆が気を使って二人にさせているのだが、この二人もどうなのだかよく分からない。と、実はタマと睦月にまで観察されていた。
ついでにユリの大人ビキニに全然悩殺された気配がないヒサを、数名が『おかしい』とまで言っている。褒めたり褒められたりしてまんざらでもなさそうなのに、平然としているのが特に。
ただし、ヒサの水着もユリと同系色どころかよく似た黒なので、その点で勝手に満足している人も複数名。色がお揃いなのもいいなぁと考えたのが二人。
「来年になっても海は行かないわよ。紫外線対策、ほんとに大変なんだから」
「海岸でカメラは余計にまずいんで、水着のシーズンじゃないときがいいだろ」
他の連中もそんな話しているかねェとやっている人達も、その他も、集合時間まで結構お互いを見ていたりする。見られていることには、気付いていないようだが。
一応お昼ごはんは全員揃ったものの、またそれぞれで遊んでいた十二人だが、数の利点を活かして夏メニュー全部制覇を軽く成し遂げ、『魅惑の夏セット・フード』を二つもゲットした。
前日のうちにバーベキューの材料はたんまり買い込んだ。更にヒサとユリからスイカととうきびの差し入れがあって、さっそくスイカは冷蔵庫へ。
その二人とタマは浴衣に着替えている。他はほとんどプールに行ったときの服のままだが、ジスは借り物作業着の上着を着込んでいた。理由はバーベキューの火の番だからだ。隣でカンナがキャベツを切っている。
ユリがシーフードも用意してくれたので、バラエティに富んだ内容になったバーベキューは、レイリンと葉月がたれを何種類も作ってくれるのでより楽しい。途中、一人だけ味わい深い色味の大皿を使っている小紅が『葉月君に将来自分のお店で使いたい一枚ってプレゼントするつもりだったんだけどぉ』と意味深な発言をかまし、レイリンやひーちゃんに『二人で使うお皿?』とひそひそされている。レイリンは『自分のお店』にもうっとりしていたようだ。
途中、服を着たミニブタ二匹が姿を見せて、ひーちゃんが自分のペットとお揃いの服が欲しいと口にしたので、ユリと初美が速攻作り出しそうな気配だったが、二人とも飲酒している。周囲に後日にしなさいとなだめられた。
キヨミはその近くで、本日考えた『ぱぱんだん』のテーマ曲のイメージがポルカだと言っていたら、お姉様達に『演奏して』とねだられた。まさに、『強請られて』いる。火の番から焼き当番に移ったジスが、キヨミの分の食料を演奏終了まで確保しておいてくれるかは謎。なにしろジスの背後には上げ膳据え膳で満面の笑みのカンナがいる。
そんなこんなで、一部食べたいものを逃したかもしれないが、量だけは十分にあったので全員が満腹してから、今度は花火だ。いきなり線香花火をはじめ、『うふ、一緒〜』と灯心部分をくっつけてにこやかなタマに無用の声掛けはしないのが、この場の急造マナー。
でも、ヒサがその瞬間を激写したのは、多分当人達も喜んでくれるだろう。