演奏会場設立の前にアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 不明
参加人数 10人
サポート 0人
期間 09/10〜09/12

●本文

 八月中旬のある日のこと。
「ぎゃーっ、火事ー!」
「そこで掃除用具を抱えるなっ」
 十年余り住んでいたルームシェア専門賃貸マンションで、火事に見舞われた男女がいた。
 幸いにして火元の一室の壁が焦げただけ、火事による怪我人もなく、すぐ上の部屋が干してあった布団を駄目にした以外はほとんど被害がないかに思われた火事だったが、最大の問題はその後に発生した。
 火元の部屋は、大家の息子が女性と二人で住んでいたのだが、別れ話のもつれで息子自ら火を付けていたのだ。挙げ句に同日、そのことを消防と警察にしこたま怒られた直後の実況見分直前に、エレベーターホールでまたやった。今度はガソリンをまいたところで、他の住人に取り押さえられている。
 さすがに大家の息子だろうと、これで警察に連れて行かれ、どう見てもエレベーターの基部にガソリンが掛かって使えなくなっているのを、住人は速やかに修理してくれと大家に迫ったのだが‥‥
 大家は相手女性の家族と損害賠償の請求だのなんだのというトラブルに突入して、エレベーターを放置した。これはあまりにも予想外。
 これでは転居希望が殺到したのも已む無いが、不幸中の幸いは管理に入っていた不動産業者がちゃんとしていたことだ。大家都合での施設使用不可がなんとかかんとかと理由をつけて、家賃二か月分の金銭支払いを取り付けてくれたのである。敷金は全額返済だ。
「この手腕は見習いたいものよね」
「自分のところで新しい物件を紹介する点を特にな」
 実質家賃四か月分の現金を受け取った二人は、英田雅樹と皆川紗枝という。クラシックレーベル専門のレコード会社から、現在コンサートや演奏家や歌手のマネージメントもこなすようになった会社のクラシック普及ミニコンサート担当の社員である。
 同居暦十三年、周囲は『それはもう夫婦も同然』と認識しているのに、当人達は『ルームシェアだ』と言い張る変わった男女の取り合わせである。

 そして、そんな二人が転居先を探していた八月下旬。
「質屋さんの建物ですかー。あら広い」
「この店舗部分を集会所にして、土蔵が常設演奏会場? この広さならカルテットは余裕ですかね」
 会社の上司が、社内企画で使用するつもりの元質屋の建物管理を兼ねて、転居しないかと話を持ってきたのである。元質屋で、店舗部分が広く、土蔵がある面白い建物なのだが、住居部分までは必要ないところを、管理人がてら社員を住まわせて社宅としても活用しようと言うことらしい。
 それがどのくらいの節税になるのか二人には分からないが、新しい住まいを準備してもらえるのならありがたい。しかも社宅扱いだから、今までの住宅補助分よりもお家賃的にはお得な物件だ。多少古い日本家屋であろうと、広くもなるので気にしない。
 決め手は、風呂とトイレがリフォームされていたところ。
 そうして、英田と紗枝がそこに住み込むことは決まったのだが‥‥
「英田君、この土蔵の中の品物、処分しないといけないんだが」
「皆川を入れると、一年は掛かります。食器や家具なら、欲しい人がいるんじゃないですか」
「やっぱり皆川君は、一通り中のもの処分して、業者にリフォームしてもらった後から掃除してもらわないと駄目だろうなぁ」
 問題は、紗枝が社内でも有名な掃除魔であること。魔と付くくらいだから徹底的で、その分時間も掛かる。彼女は中途採用社員なのだが、入社してから一ヶ月間毎日、仕事の前後に給湯室を磨いていたことを知らない社員はいない。今では給湯室はぴかぴか。
 でも、こんな人に掃除させるとちまちま作業して土蔵を常設演奏会場に出来ないので、まずは空にするべく、臨時アルバイト募集を行なう英田だった。

 元質屋の土蔵の中。
 そこには金目のものはないようだが、古い道具がたくさんで、必要なものがあればどれだけ持って帰っても構わないそうだ。
 傾向は、和風、木製、各種焼き物など。


・現地集合
 住宅地の中の元質屋。看板などはないが、事前に連絡すると地図を送ってくれるので、余程のことがなければ道には迷わない。
 土蔵は二階と中三階がある各階の天井が低い造りだが、リフォームでそのあたりは取り払う予定。中にはぎっちりと古道具類が納められている。今のところ確認されているのは、民芸風の茶箪笥や座卓、階段箪笥に食器類など。ものすごい値打ちものはない。
 最終的に、荷物を全部外に出せば作業終了。

・当日のお世話係
 英田雅樹と皆川紗枝。どちらも三十代の男女で、当日必要そうな道具と昼食、おやつを用意している。働いてくれるなら夕食も用意。
 荷物を詰めるダンボールは用意してあるが、運ぶ手段は出来るだけ自前で準備して欲しいとのこと。この二人に搬送を頼むと、ガソリン代を請求される。

・当日の参加に適した人
 自分のプロダクションや家に必要な物資を発掘したい人。
 古道具などが好きな人。
 常設のクラシックミニコンサート会場が欲しい人。
 なんとなく気が向いた人。

・注意事項
 ちゃんと働かないと蹴飛ばされる。

●今回の参加者

 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa2021 巻 長治(30歳・♂・トカゲ)
 fa2457 マリーカ・フォルケン(22歳・♀・小鳥)
 fa3797 四條 キリエ(26歳・♀・アライグマ)
 fa3860 乾 くるみ(32歳・♀・犬)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa4768 新井久万莉(25歳・♀・アライグマ)
 fa5486 天羽遥(20歳・♀・鷹)
 fa5669 藤緒(39歳・♀・狼)

●リプレイ本文

 土蔵の窓は小さかった。一辺二十センチの真四角が、二つきり。
「思ってたより埃はないけど、やっぱり特有の臭いが」
 乾 くるみ(fa3860)が零した通り、中には古本を開いた時のような臭いが満ちている。そして聞いてはいたが、大変な量の荷物も。
「ま、どうせ工事するんだし、良い物件じゃねえか。なんたって広い」
 ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)が笑って言うのも道理で、彼の小型トラックが庭に置けるのだからたいしたものである。さすがに後は巻 長治(fa2021)のミニバンと四條 キリエ(fa3797)の中型バイクで限界への挑戦は終了しており、新井久万莉(fa4768)とヌイさんの軽自動車とマサイアス・アドゥーベ(fa3957)のミニバンはご近所に断っての路上駐車である。
「火事は災難だったが、まあいい場所が見付かってよかったな、ところで」
「そうなの。あたし、焼け出されるの二度目でね、それで」
 ぱっと見たところ有名人もいるし、今回集まっているのは全員獣人だろうと思いつつ確認しようとした藤緒(fa5669)は、顔見知りになっている皆川紗枝の記憶をピンポイントに刺激していた。怒涛のごとく語りまくられて、目的を達成したのは五分後だ。
「これ、作ってきました。先に埃を払ったほうが良いですよね」
 鷹の天羽遥(fa5486)が自前の羽らしい羽箒を片手に、掃除の真似をする。マリーカ・フォルケン(fa2457)が自分が痛いような顔になってから、ふと小さい窓を見上げて。
「荷物出してからじゃないと、埃が舞うかもしれないわね」
 何人かが、確かにと頷いた。
 それでさっそく運び出しだが、ここで大活躍はトシハキク(fa0629)と久万莉、キリエの三人だ。力仕事なら分かりやすく男性陣にお任せなのだが、この三人は本職だ。なんのと言って、裏方系荷物搬入の。
「一階が家財道具、二階が小物類。割れ物が多いみたいだな。三階は紙と布って‥‥これは重いかも」
「二階の茶箱、中に割れ物が入ってるから絶対に二人で運ぼうね」
「三階は小箱だけど、天井高が私プラス十センチ。ハル、担当よろしく」
 英田雅樹がおおまかに確認しておいた一覧を見ながら、さっさと中を確かめ、的確に指示を出しつつ、庭に協力してブルーシートを広げている。
「それはまた、予想以上に低いのだな」
「ま、一階は何とかいけますから仕事しましょうか」
 紗枝や間の前に仲間に蹴飛ばされそうなので、マシーとマキさんが自分に気合を入れているが‥‥実は男性陣の中でも腰を屈めないで済むのはマキさん一人だけだった。そもそも日本の建物は鴨居の高さが一間、百八十センチが基本だから仕方がない。
 ところで。
 この仕事は、力仕事の割には報酬がちょっとナニである。代わりに昼食つき、希望者は夕食もつくし、帰り際に風呂も貸してくれる。薪で焚くタイプまで残っていて、男女別。
 ただし皆がやってきたのは、基本的に土蔵から出てきた品物は持ち帰りし放題だからだ。何が出て来るのか分からないのだが、その分『お宝があるかも』という期待は捨てきれない。
 そんな訳で、全員の希望。
 藤、娘のために湯飲みや抹茶椀。着物があればなおよし。質屋なので質草であることを考慮しても、『前の持ち主? 気にしない』と豪儀なところを見せた。多分娘思いなのだろうが、後半の部分は気付かないほうが幸せなことだろう。
 マシー、こちらも娘のためのお土産を希望。可愛らしい装身具や小物、民芸品が二つお揃いだったらぜひ欲しいそうだ。三つだったら、三つ目は妻に。なかなか家族思いだが、ついでに『積めるだけ積んで帰るか』と大胆な宣言もしている。
 ヌイさん、自分でやるのかどうかは不明だが着物リフォームでドレスなど作りたいので、着物と関係する品物を一式。帯、帯留め、半襟や簪は使い道も広いし、男物も反物や柄で味があればいただく気が満々だ。
 へヴィ、この機会に事務所に和室を作る計画を立てた。茶箪笥、座卓か卓袱台に茶器一式。出来れば手拭いと座布団まで。色々要望しているが、自分の誕生日祝いの兼ねているらしい。ならば頑張って見付けて貰おう。
 キリエ、目的は掛け軸、織物、染物に細工物など。作家には拘らないと公言しているが、なにしろ目的が『分析が楽しいんだよね』なので、それはもう高価なものである必要はない。きっとない。
 マキさん、実はこれだという目的の品物は、今のところない。色々と眺めて、そこから何か閃かないかと考えての参加だからだ。もちろんそんな品物があって、他人と競合しなければ持って帰りたいところである。
 マリーカ、知人が好きなので、茶道、華道の道具に出来るだけ揃いの食器類。こちらも銘柄に拘りはないけれど、彼女自身の目的は土蔵が演奏会場になった時に、自分も参加させてもらえれば、と。それを言ったら、紗枝が手書きで仮契約書を作ってくれた。
 久万莉、単純気が向いた人なので、これといって欲しいものはない。ただ無造作には捨てられない性格のようで、引き取り手はいないものかと英田に尋ねて、彼らの会社の人も後日来ると聞き、仕分け方法を考え始めた。
 ジス、撮影に使う小道具類を少し。実物を使うのではなく、古いものを研究して後日に役立てるためなので、多数は必要ないし、揃いである必要もないが、少しずつ種類はたくさん欲しいところだ。問題は歩きで来たこと。
 ハル、こんな機会は滅多にないので、宝探し気分を味わいつつ、土蔵の中を探検したい。三階担当は願ってもないが、一応あれば欲しいと思っているのは懐中時計だから二階のほうが可能性はある。じっくり探さねばならないだろう。
 なお人気の茶道具や食器、着物類は、かなり多数の品物があることだけは分かっているのだが‥‥その分運び出すのが大変だろうし、繊維ものは傷んでいるかもしれない。
 なにより埃が大敵だ。全員に顔を覆うためのマスクとタオル、安全のためのヘルメットが手渡された。
「不審者の群れ‥‥」
 誰かの一言は、あまりに的確すぎる。

 作業員は獣人だけ、土蔵の中は人目などない。よって半獣化くらいなら出来るというわけで、女性陣の何人かは力持ちになっている。男性陣は元々力持ち。
 問題は。
「入ったからには出る筈である!」
「まーったくだ。しかし、どう見たってぎりぎり。押さないでくれよ」
 マシーとへヴィが幅のある茶箪笥を運び出している。マシーが言う通りに、入ったからには出せないはずがないのだが、時々『これはどうやって入れた?』と思うようなものがあって、彼らは現在その一つの運び出しに挑戦中だ。
 ちなみにこの茶箪笥は大きいので、へヴィが予約済み。他の人々はもう少し小ぶりのものが好みらしい。置き場の問題もあるので、事務所の一室を改装予定のへヴィでないと持ち帰っても使えないだろう。
 マシーはこの茶箪笥の隣にあった、やや小ぶりな階段箪笥が気になっている。その引き出しに、いっぱいお土産を詰めて帰りたいとか考えていそうだが、まだ小物類はほぼ手付かずだ。一階が空かないと、上のものを下ろしてくるには通路が足りない。
 そうやって、ただ担ぐだけなら一人で十分な品物を二人掛かりで狭い入り口を通している背後では、ジスが長火鉢を右肩に担ぎ、左手で手提げ金庫を運び出していた。手提げ金庫、明治時代頃の質屋のからくり金庫らしい。後程全員で試してみたが、誰一人として空けられない代物だったが、それはそれで面白い。
「じゃ、じゃんけんで決めよう」
 この場合、ジスの敵は二人いる。もっとかもしれない。
 いい品物を見つけて緊張感が漂ったかと思えば。
「ぎゃーっ! ‥‥‥‥ああ、日本人形かぁ。こういうところでは会いたくないわねぇ」
 ヌイさんが突如悲鳴を上げた。階段箪笥をずらしたら、かなり大型の日本人形と目が合ってしまっての悲鳴だが、土蔵の中に反響しまくっている。踊りも踊る曲弾き芸人、肺活量はそれなりなのだろう。『お払いとかいらないのよねー』と叫ぶのを聞いてしまい、思わず自分の後ろを確かめたのが一人、二人。そういう話はない、多分。そういうことにしておこう。
 ちなみにこの叫びで、中二階に繋がる階段梯子を拭いていたハルが足を踏み外した。手すりなどないから、中程から下に転落しかけて、上にいた久万莉に襟首を掴まれ、下にいたマキさんを踏んづけるような感じで止まった。もちろんマキさんも、下から慌てて支えている。他の人々もものすごい勢いで駆けつけた。ハルがこの中では小柄で、軽かったので一人も怪我人は出ていない。
 問題は、上下で支えたものの、ハルが階段にしがみついてバランスを取り戻したのを確認した久万莉が、マキさんにこう言ったことだ。
「こっちは手を放すから、ちゃんと支えてあげてね。そのまま抱えて下ろしたほうが安全だと思うわよ」
 別にこれだけなら問題はない。至極当然の内容だ。
 しかし、集まった人々と言われた二人は見てしまった。久万莉の顔が、『にんまり、してやったり』の笑顔になっていたのを、だ。
 ハルとマキさん、ちょっと口数が減ったかも。他の人々、目尻が垂れたかも。久万莉がしばらくニヤニヤしていたのは間違いがない。
 しばらくして、一階がある程度空いたところで女性は二階にあがった。一階の家具は男性陣に任せて、上の小物類を下ろしてくるためだ。キリエが布紐をかなり抱えていて、あれこれ結ぶのかと思いきや。
「あー、仕方ないなあ。じゃあ、色別で分けるということで。でも種類がないから下の人達には内緒ね」
 自分が欲しいものを主張するための道具だった。よく見たら確かに名前が書いてある。それぞれ紙を用意したりはしていたのだが、布紐は目立つし、そのまま持って帰れるから便利だ。さすがは自前作業服で参加するだけのことはある。
 当人は、タオルとマスクの下で悔しがっていたかもしれない。
 貰った布紐を持って、藤はてきぱきと片付けに邁進している。主婦でもある彼女にとっては、掃除も片付けも日常生活の一部なのか手際はよい。
 でも。
「次の歌は何にしようかなー。チェレントアのアリアなんかどうだ」
 藤はオペラ歌手である。素晴らしい声量の持ち主だ。歌えるものも数多い。
 それはいいのだが、物が詰まった閉塞的な土蔵の中、当人もマスクにタオルで完全防備の不審者状態で、どでかい鼻歌。籠もっていて、なにがなにやら知識があっても分からない。当人はいい気分で次から次へと『何か』を歌っている。もちろん響く。
 なにより皆、この歌はなんだと気になったりしている。その筆頭がマリーカだ。こちらも本業歌手である。そのせいか、英田が途中で『あれなんですか?』と尋ねに来た。
「ご本人にその気があれば、歌って欲しいもんで」
「あら、でしたらわたくしもぜひ歌わせていただけませんか。人が集まるか分かりませんけれど、こけら落としの後でスケジュールが空いたら」
 すでに紗枝が仮契約書を作っていたが、英田に話が通っているのか分からないのでマリーカは念のため言ってみた。こちらも快諾してくれたが、彼女は『こけら落としでも、毎週でも』とにこやかに言われている。実際には、音大の学生にも開放されるので、毎週演奏会や独唱会を開くことは難しいようだが、今のうちなら希望の期間が押さえられる。
 となれば、利用の希望があるなしに関わらず、後は自分が欲しいものを手に入れるだけである。
「じゃんけんぽんっ」
 欲しいものが重なった場合の争奪じゃんけんは、相当白熱していた。品数はたくさんあるのだが、装飾品や着物の類は時々希望が重なっているので。
 でも、全員が自分のお眼鏡にかなった品物を、運べる分だけきっちりと手に入れていた。もちろんマシーは宣言通りに車いっぱいに品物を積んでいる。
 まあ、まだまだ色々残ってはいるが、使わないものまで貰っていっても仕方がないので、雨が降る気配はないが念のためにシートをかぶせて終わりとする。
「紗枝さん、何か食器とか貰っておけば? 二人暮しに良さそうなの、いっぱいあったわよ」
 ヌイさんは、昼時に『内縁だと家族扱いされないときがあるから、事故には気をつけるのよ』と英田に口走り嫌がられたのも忘れた顔付きで、紗枝に勧めている。紗枝がすげないのは、彼女が愛しているのは食器ではなく掃除道具だからだ。
 とはいえ、これからリフォームなので、今回は掃除は必要ない。おかけでハルとキリエ、藤、久万莉とジスは今ひとつすっきりしない顔付きだ。片付けまでやって、お仕事完了が基本の人と、そのつもりだった人々だ。そのせいか、ハルは先程からせっせとマキさんに見付けて貰った懐中時計を磨いている。動かないので修理が必要なのだが、見た目は新品のようにぴかぴかしてきた。マキさんのほうか、ハルが見つけて巻物を広げているところからして、何か閃きがあったのかどうか。
 ジスと久万莉とキリエは、その様子にからくり金庫の謎にまた挑み始めた。相変わらず、ちっとも開きはしない。マシーが面白がって、その様子を携帯電話のカメラで撮影していた。きっと妻子に見せるのだろう。
 ついでかどうか、いつの間にやら浴衣に着替えてすっかり寛ぎ、食事も済んだので気分が緩んだか湯飲みを傍らにすやすやと寝入っているへヴィまでが撮影対象になっていた。
 けれども、へヴィの幸せな時間は続かず。
 発案者ヌイさん、尻馬に乗ったマリーカと藤、そんな雰囲気が出ること並びに楽しそうなことは見逃さない人達が、夜だというのに土蔵に殺到したのである。

 リフォームは始まってもいないけれど、本日限りのリサイタルは今まさに開幕。