【城塞都市】NW襲撃中東・アフリカ

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 フリー
獣人 4Lv以上
難度 難しい
報酬 12.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/21〜09/23

●本文

 正式な仕事の書面に見せかけた連絡の差出人は、シャルロとなっていた。彼女の肩書きはコーディネーターで、舞台関係の劇場などの手配を行なう人物だ。
 肩書きとこれまでの動向だけなら、劇作家で演出家のエイに連絡があるのは不自然ではない。特に今回は、エイの上司でスポンサーからの紹介形式をとっていた。エイの立場からは、無視できないお膳立てだった。
 そういうわけで、彼は指定されたカルア・ミンジャルに出向くことになった。
「あの女、俺が断れないと思って無茶いいやがって」
「どうしてお断りできませんの?」
「シェイドの命令じゃ、俺は断れない」
「お仕事って大変ですのね」
 この度も同行しているシンデレラは、しっかりと『封印』を一つ抱えている。彼女が貰ったもので、エイが欲しがっていた品物だ。エイの所有する『封印』は、別に車に積まれていた。
 シンデレラはあまり気にしていないが、エイの元に届いたのは彼が持っている『封印』をシャルロに渡せという命令だ。シャルロがシェイドに手を回したのか、それとも逆かは、エイには分からない。
 ついでにシャルロがなにをするつもりかも、あまりよく分かっていなかった。でも、彼は彼女と長年の敵対関係だ。
 これをシンデレラに適当に説明したところ。
『恋敵? シェイドさん、素敵ですものね。それに男女どちらでもいけそう』
 ものすさまじい勘違いをかましたので、罰として彼女の『封印』を担いで車に持ち込んでいる。運転中に取り返されたが、まあそれはそれで構わない。
 そんなこんなはさておくとして。
「どうしても必要なら、シャルロに俺の持ち物を貸すのは構わない。だが目的くらいは確認したいし、それがシェイドの覚えめでたい話なら取り上げる算段もしたい。ついでにあの女は乱暴だから、護衛の一人二人‥‥五人六人は必要だな」
「私が思うに、どんな状況でもエイさんがお話してもシャルロさんという方と穏便なお話が出来るとは思えませんわ」
「その通りだし、する気もないので、交渉役を探しておいた。あの女から目的を聞き出してくれたら、大枚払ってやる。問題は現地集合にしたから、よく吟味できなかったことだな」
「‥‥お支払い、ユーロ?」
「お前には、まず無理」
 お給料が出るなら自分も頑張るのだけれどと、シンデレラが気負っていたが、エイはまず無理とすげなかった。余程の交渉術に長けた者か、シャルロを殴っておとなしくさせられる相手でないと、多分目的は達成されないからだ。
 シンデレラを連れてきたのは、単に彼女も『封印』を持っているから。それ以外の理由はない。
「向こうが何人連れてきてるかが、問題だな」
 なんでこの人はこうも危ないことに関わっているのだろうかと、助手席で呆れているシンデレラを無視していたエイだが、カルア・ミンジャルの入り口近くに人影を見つけて車の速度を落とした。敵か味方か確認してから、車をつける場所を決める必要があるからだ。
 けれども。
「また、でかいバケモノだな」
「そんなこと言ってる場合ではないですのよーっ!」
 確かに、ナイトウォーカーが誰かを襲っているとなれば、それどころではないのだが。
「俺は戦闘なんか出来ない」
 エイは様子見の態勢だ。シンデレラにいたっては、シートにしがみついて意味不明なことを叫んでいる。
 二人とも、車から降りてもいなかった。

 場所は人がいないはずの遺跡都市、カルア・ミンジャル。
 時は真昼間、ナイトウォーカーが本来出て来る時間帯ではない。
 そこにいるのは、劇作家兼演出家と名乗っているが色々怪しい男エイと、何を考えているのか分からないぽややん娘シンデレラ。それと、ナイトウォーカーに襲われている誰か。
 いるはずなのは、エイを呼びつけたコーディネーター、シャルロ。
 行なわれるはずなのは、エジプト国内各所で発見され、血なまぐさい争奪戦が繰り広げられた『封印』の受け渡し。
 周辺に獣人以外の人気はないが、実際に何人いるのかは不明。
 今まさに起きているのは、ナイトウォーカーの襲撃である。

●今回の参加者

 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa2670 群青・青磁(40歳・♂・狼)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3765 神塚獅狼(18歳・♂・狼)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)

●リプレイ本文

 依頼人より早く目的地に到着した護衛の群青・青磁(fa2670)、神塚獅狼(fa3765)、各務 神無(fa3392)と交渉役の佐渡川ススム(fa3134)の四人は、不自然なものを感じていた。
「そもそも依頼人とは顔も合わせたことがなくて、交渉相手とは顔見知りってえのがおかしいわけですよ」
 言葉遣いは丁寧そうだが、口調がやる気なさげで綿埃のような軽さのまとう佐渡川が、首筋をこすりながら誰にともなく話している。風で飛ばされてくる砂が痒いので、真っ赤なタオルを首に巻いて、やはりぼやく。
 佐渡川が言うまでもなく、この話は怪しい。シロウも神無も聞き知っている範囲では、『封印』はWEAが集めているオーパーツの中でも危険度が高い。それを個人で所有し、入手方法も誉められないエイからの依頼となれば、疑って掛かってもおかしくはないだろう。
 ちなみに彼らがそう思うのには、群青によるエイの悪口オンパレードも多少なりとも作用していた。群青いわく、『エイはまったく信用ならん』だそうだ。本人の覆面はさておき。
「まったくシンデレラもあんな野郎と一緒にいないで、ちゃんと大学に通っていりゃあいいものを」
 延々と続いている愚痴の内容を聞くだに、年頃の娘が言うことを聞いてくれない父親のようでもある。
 最初にシャルロに出会ったのは、この四人だ。
「‥‥何をしている?」
「内気な色男が、美女の心の内を知りたいとかほざくんでね、そのお手伝いに来たわけですよ」
 こんな説明で、エイの差し金で目的を問い質しに来たのかと察してくれるシャルロは飲み込みが良いが、同時に油断のならない相手だろう。
「これはやっぱり、一筋縄ではいかないでしょうね」
「そう思うなら、そろそろ止めたらどうだ」
 たいして長くもない待ち時間で、足元に吸殻の山を一つ築いていた神無に、シロウが初めて意見したのだが、チェーンスモーカーは簡単には煙草を手放せない。この箱はこれが最後だからと、流れるような動きで銜えた一本にライターで火を付けた。
 一応は気遣いで明後日の方向に流れていく煙に、話し合いとも付かない場から一瞬視線を投げたシロウは、城壁の上に何者かの姿を捉えることになった。

 護衛と交渉役の四人が二輪三台で到着する小一時間ほど前から、カルア・ミンジャルで活動している人の姿があった。本当は四人ばかりいたのだが、二人一組になっていて、それぞれに周辺を警戒していたのでこの二組は出会ってはいない。
 ただし、気配には気付いている。そ知らぬ振りを決め込んだだけだ。
 そうして。
「オーパーツってのはただ愛でてりゃいいんだ。どいつもこいつも、変に使おうとしやがって」
「オルトロス〜、自分のなりを見てから言いなや?」
 敷島オルトロス(fa0780)と敷島ポーレット(fa3611)の二人は、すっかりと変装を済ませてエイが『封印』を持ち込んで来るのを待っていた。オルトロスは今回の交渉を聞きつけて、つまらん脚本だと切り捨てた挙げ句に、封印を強奪すべく駆けつけている。
 確かに、シャルロが封印を手に入れて強大なナイトウォーカーが封印を解かれて出現し、WEAがそれを倒せば映画に出来そうだが、彼の意見も結構偏っている。それにポーが指摘するように、オルトロスの『なり』は全身金色、身に付けたオーパーツは二桁。
「うちはナイトウォーカーが出んで、シンデレラが安全になったらええんやけど」
 ポーも虎マスクに獅子のたてがみかつらにマントで、『怪盗タルキスタン』に化けていた。二人仲良く、派手ななりで他人のものを強奪しに行く予定だ。
 もう一組は正しく不審人物の姿をしていた。一見しただけでは性別も分からないように、全身をくまなく覆っている。それで分かるのは、どちらもいささか細身で飛び道具を使う者だということくらいだ。この二人組である御影 瞬華(fa2386)はライフルを、神保原和輝(fa3843)は洋弓を持っているためだ。
「封印、ね。シャルロといい、エイといい、真意がどこにあるのかを知りたいところだね」
「シェイドが何を考えているのかも、気になるところですから」
 御影と和輝はどちらも『封印』の強奪を企てているが、目的意識は少しばかり違う。御影はシェイドとの繋ぎを取るために、和輝は目的意識より好奇心が勝って封印が欲しい。
 二人共に、『封印』が強大なナイトウォーカーの封じ込め道具だとの情報にまでは辿り着いたが、具体的にどういうもので、全部で十四個あるはずのそれを誰、またはどの組織が保有しているのかは調べ切れなかった。細かい事情を知っているのは、シャルロとその周辺だけかもしれない。
 そうした事柄に何度か関わった二人は、自分達が関与した『封印』が何をもたらすのか、求めている人々は何を考えているのかを知りたいところだ。
 とはいえ、獣人の一人として、もちろん封じ込められているモノが蘇っても構わないなどとは考えておらず、わざわざそれをしようとするシャルロの本意がなんなのか、やはり気になっているのだろう。
 そんな風に役者が準備を整えていて、最後に現われたのがエイとシンデレラの乗り込んだ四輪だったのだが。

 最初に動いたのは、群青だった。なにしろ彼はシャルロの思惑などどうでも良いし、エイに依頼されたつもりもあまりない。まるで家で娘を連れ戻しに来た父親の勢いで、カルア・ミンジャル入口から車道方面に移動しようとして、襲われた。
 なかなかの身の軽さで避けた相手は、狐らしき頭部に蟻のような胴体のナイトウォーカー。更に二対の足だけが蜘蛛めいた大型犬である。どちらも見た目がそうだというだけで、大きさは二メートル前後。現われたのは砂の中からだ。
「群れてくるとは珍しい」
 一人場違いに冷静なシャルロが口にしたのは正論だが、群青はこれを見た途端に荷物から日本刀を抜いた。神無とシロウも、今回の得物は日本刀だ。交渉役の佐渡川だけは、さすがに表立った武装はしていない。
「エイの野郎、シンデレラを危険に巻き込むなと何度言えば分かるんだっ」
「あー、我々はあなたに危害を加えるつもりはないけれど、こういう事態なのでしばしお時間をいただけるかな?」
 ナイトウォーカーが相手では致し方ないが、自分達が危険なのである。佐渡川の言い分に間違いはないし、シャルロもさっさと退治しろといわんばかりの態度である。いきなり眼前で刃物を抜かざる得ない状況になったことを、気にした様子はない。
 だが佐渡川が知るところ、シャルロが一線に出てきたことはないし、エイとシンデレラも自分で戦力外だと言っていたようだ。最後の一人はさておき、シャルロもエイも油断ならないし、多分自分より悪党だが、見捨てて死なせたら祟られそう。
 それになんといっても、目的は聞き出さないと気分が収まらない。
「四の五の言う前に、速やかに働け。あれはしくじれば容赦なく報酬は不払いにするからな」
 シャルロの心温まらない声援に、『同類じゃん』と思った人がいたかもしれないが‥‥この時には実際シロウと神無はナイトウォーカーと交戦中で生憎とそれを口に出来る状態にはなかった。佐渡川も速やかに参戦である。
 当初の四人の予定では、佐渡川は基本が交渉担当で、緊急時には人命救助優先。群青がシンデレラ目標なので、必然的にエイを助けることになっていた。その時間稼ぎないし敵排除を、神無とシロウが担当する手筈にはなっていたのだが、ナイトウォーカー二体ならそれが出来ても、五体にまで増えると予定などあってなきがごとしだ。
 四人ともに、多少の差はあれ格闘の技には自信がある。ましてや人目もないので半獣化もしていた。だが素早いものが三体混じっての計五体、城壁の外で暴れられると追いかけるだけでも一苦労だ。
 とうとう二体がシャルロに向かったので、その時相手取っていた敵に背を向けて、シロウが庇いに行った。感謝されてしかるべきところだが、そう素直な相手ではなく、危ない橋を渡る愚か者と言われてしまったが。
「交渉のための護衛だ。相手が負傷したら、話し合いなど出来ないだろう」
 あまりに実直なシロウの言い分に、シャルロが珍しくも黙り込んだ。シロウは淡々と、愚直なまでに依頼を果たすべく、危ない橋を渡り続けている。実際、彼らは押され気味だった。
 と、その時に。
「‥‥これはまた、腕の良いことで」
 ナイトウォーカーが二体、続けて跳ねた。自らの力ではなく、銃弾と矢で跳ね飛ばされたのだ。幾ら城壁に近いとはいえ、どちらも尋常な腕前ではない。挙げ句に続いて、三体目、四体目、五体目とダメージを与えて、更には砂の中から頭を出した六体目にも。
「これほどの腕前ともなると‥‥馬鹿なことを考えているのなら、お仕置きですね」
 姿を見せない救援に心当たりがあるのか、神無が低く呟いた。誰も聞き取れなかったが、彼女の気配が変化したのには気付いただろう。ただ、それを気に掛けている余裕などないが。
 なにしろ銃弾一発で倒されるナイトウォーカーはおらず、止めは刺さねばならない。挙げ句に砂の中を這い進んでいる気配がした。
 シャルロとエイが明らかに様子見体勢だとは、現在戦闘中の四人は気付いていた。シンデレラがあれこれ叫んでいるのも聞こえていたが、内容が聞き取れるのはシロウだけだ。
『ドアは閉めてくださいですのー』
 シャルロは車外に出たままだが、車内に閉じこもっているかに見えたエイ達の車のドアが開いていると、シロウが群青に叫んだ。
 なにしろ、まだナイトウォーカーは増えている気配がする。
 さすがに自分達だけ離れているのは危ないと思ったか、エイがようやくシャルロの近くまで車を移動させてきた。群青は走り寄っていたのが置いてけぼりで、エイへの罵詈雑言を並べつつ、方向転換している。獣人の特殊能力を使うには、まだ切実な危険がないのでごく普通に走っていたが。
 次の瞬間に、神無と群青の二人が四輪に駆けつける。その直前に、シンデレラがいる助手席が開けられたからだ。挙げ句に、見知らぬ人影が現われている。
「こういう予定ではなかったけど、『封印とワインを交換』して」
 この期に及んでも自分の『封印』は抱え込んでいたシンデレラが、そう言われて不審な相手に『封印』を差し出した。拳銃を突きつけられているにしても、妙に素直な動きだと何人かが思うと、また派手な銃声がする。撃たれたのは不審な人影の足元、砂の中から頭を覗かせたナイトウォーカーだ。これは昆虫めいた頭をしている。
 『封印』の手渡しが終わって、銃口が少しでもずれたら斬りかかってやると構えていた群青と神無が身を引いたのは、エイが突然車を発進させたからだ。不審人物をひき殺しそうな勢いだったがそれは叶わず、それでも一応はもう一人、新たに飛び込んできた金ぴか姿の不審人物は避けている。あくまで避けただけで、あっという間にドアに取り付かれて、引きずり出されているが。
 挙げ句に、エイが転げ落ちた場所に先ほど撃たれたナイトウォーカーが回っていて、服を切り裂いている。今度の援軍は矢のほう。四輪の中では、シンデレラが助手席で放心していた。神無が一応は予想していたが、群青は他をさておき、シンデレラ救出中。
 そして金ぴかの不審人物はエイを踏み越えて、四輪から『封印』を一つ取り上げると脱兎のごとく逃げ出した。もう一人は、特殊能力の一つを使用して『封印』ごと姿を消している。追いかける方法がない逃げ方だ。
 佐渡川など、体格から何か思い至ったらしく、ナイトウォーカー相手ほどの対決姿勢にも至っていなかった。シロウも着実に人命優先で、ナイトウォーカー退治に忙殺されている。
 神無だけが問答無用の勢いで残った不審人物と睨みあったが、簡単に斬りかかれる隙はない。挙げ句に足元にはエイが転がっているし、ナイトウォーカーが砂の中を移動する気配はあるしで、集中出来ない状況である。
 そこに。
「このっ、大馬鹿者!」
 鴉の獣人だと、居合わせた全員が見て取った。叫んだのは神無だ。これに、怒鳴りつけられた方は多少動揺したらしい。金ぴか不審人物から手際よく『封印』を取りあげたのに、危うく取り落としかける。
 当然のごとく、金ぴかから一撃喰らいかけたが、なんとか姿勢を立て直して空中に逃れた。追いすがろうとした者には、また矢の援護が飛んでくる。先程までは助けだったが、今回は攻撃。この隙に、鴉獣人は後も見ずに逃げ出していった。
 逃げられたと見るや否や、金ぴかの不審人物の体が光った。サーチライトを正面から浴びせられたような勢いに、佐渡川が目を覆う。他の者も直視は出来ずに、時間を稼がれて。
「無能者め」
 サングラスをしていた分、他より光で目をやられずに済んだシャルロがそう吐き捨てた。すでに自分の車に乗り込む態勢だ。
「シャルロさんさ、なにをしたくてあれが欲しいんでしょ?」
 やっぱり解くつもりかと佐渡川が問いかけたものの、それには返事はなく。だが無言であることが一番の返答だった。
「シャルロ以外の邪魔の指定はしてなかったからな。失敗とは言わずにおいてやろう」
 『封印』が奪われたことを謝罪したシロウに、エイは尊大に言い、群青から罵詈雑言を向けられている。
 神無はそうした騒ぎをよそに、しばし何か考え込んだ後、煙草を取り出して忙しなく吸い始めた。
 シャルロと同時にナイトウォーカーが消えたことについては、誰も触れない。どう考えても、ただ怪しいから。

 『封印』一つを持って帰ることにしたエイと共に街に戻った四人は、WEAの施設などが襲撃され、他の『封印』が奪われたことを知らされた。