着ぐるみで駅伝アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 0.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/12〜10/15

●本文

 札幌にある着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』のメンバー笹村カンナの誕生日は十月十日だ。
 しかし、当人の主張によると今年は、
「じゅーよっきゃでちゅー」
 十四日らしい。これに家族は、
「お休みじゃなくなったからって、なんで日曜日に動かさなきゃいけないのよ」
「そもそも誕生会って年齢じゃないだろうに」
「日曜日にケーキを焼いている暇なんぞない」
 冷たかった。
 そもそも着ぐるみ劇団、土日はあちこちで子供向け演劇だの、イベント手伝いだのと忙しい。そうでなくても仕事が満載なのだが、最も忙しい日曜日に誕生日を祝えと言われても困るのだ。
 ところがカンナはご機嫌で。
「けぇき、きちゃちゃーがちゅきゅってくれるでちゅ。はっちー、しんぴゃいしにゃーでいーでちゅよ」
 口から汗を流しつつ、宣言した。当然のごとく、床掃除を命じられている。
 だが、ここにいたってようやく事の次第が他の兄弟にも分かったのだ。

 カンナの弟、葉月の友人の如月が洋菓子店を営む商店街では、毎月のように色々なイベントが繰り広げられている。そのうち幾つかには『ぱぱんだん』も駆り出され、結構いいお客様になっていた。
 そして季節はスポーツの秋。商店街では家族、友人と参加するイベントとして、何故か駅伝を企画していたのである。それが十四日開催。カンナは如月から、この駅伝に『ぱぱんだん』も参加してくれるようにと依頼されたところだった。
『お姉さん、誕生日十月でしょ? うちの栗のケーキ、味見に差し上げますから、人数揃えて是非二チームお願いしますね』
 如月は、笹村家のことを良く承知していた。揃いも揃ってスポーツが得意なことも、カンナが甘い物好きでケーキで釣れば頷くことも、皆がカンナに甘いことも、全部。
 いいように使われていることが分かっているカンナ以外の人々だが、カンナがあまりに嬉しそうなので、今回も反対できなかった。
「お前が幼稚園の時に車に引かれかけたり、自転車にはねられたり、三輪車で土手から転げ落ちたりしなけりゃな」
「小学校の時に柿の木から落ちたり、鮭を見に行って川に流されたり、筍食べ過ぎて食中毒みたいになったりした記憶が消えればねぇ」
「ぼんやりしてるって、給食のデザートを盗られたり、だまくらかされてバレンタインに高いチョコレート巻き上げられたりもしてたよな」
 兄の睦月も、従姉の初美も、葉月も口々にカンナの過去の色々をあげて、『今でも色々心配』とちょびっとばかり胸を痛めているのだが、カンナは別のことを憶えていた。
「ちょーゆーちょき、みーんにゃ、しかーしちてくれたでちゅ」
 ご近所では、その昔、カンナを自転車で跳ね飛ばした当時中学生が竹光を振り回した睦月と初美に追い掛け回されたことや、危険走行を行なった車の窓に葉月がペンキをぶちまけようとしたことは今も有名だ。
 睦月と初美が小学校でカンナからデザートを取り上げた下級生を怒鳴りつけて、その親に怒鳴り込まれ、父親の恵一郎が近隣に響く声で怒鳴り返したことも、きっと憶えているだろう。その後、初美が悪知恵を絞って、今度は葉月がカンナの同級生を懲らしめに走ったりしている。これは流石に知られてはいない、はず。
 こういう『色々』の時、大抵カンナは疲れて寝ていた。一晩寝ると、たいていの事は忘れて、のんびりと日々を過ごしている。もしかすると、言われなければ自分が騙されたり、苛められたりしているとは分かっていないかもしれなかった。この様子に、祖父母が『柿の木から落ちたから』とか『自転車にはねられたのが』とか、以前は語っていたのだが。
「ま、彼氏が出来たことだし、もうあたし達が心配しなくてもいいかも」
「確かに」
「ケーキも焼いてもらえば」
「えー、おいわー、ちょーらい」
 甘やかされパンダは、本日もやりたい放題である。

 ところで。
「一チーム六人必要な駅伝を二チームだと? しかも着ぐるみ? 如月、お前は何を考えてる?」
『えー、ぱぱんだんの着ぐるみは評判がいいんだよ。足りなかったら、一人が二回走ってくれてもいいけど。出来れば着替えて欲しいなと、商店会長から』
「着ぐるみで一キロ走るのが、どれほど大変か体験するか?」
 商店街からカンナが勝手に請け負ったお仕事は、商店街周辺の一キロコースを六人でたすきを繋ぎつつ走る駅伝への参加だ。コースそのものは六人全員同じところぐるぐる回る、商店街と住宅街の中の歩道だ。結構無茶なコース取りといえよう。
 『ぱぱんだん』には、この駅伝に『着ぐるみで参加して欲しい』と依頼があって、カンナがすでに快諾しているが‥‥流石に一キロ走るのに完全獣化はよろしくない。いつどこで着ぐるみではないとばれるか分からないからだ。
「にゃんら、こりらっちゃら、いっとーちょーにょのに」
 もちろん完全獣化で走ろうものなら、一般市民の参加者にはぶっちぎりで勝ててしまう点も大問題であろう。イベントに花を添えるための依頼なので、一等賞は良くない。
 でも何より、まずは参加するための必要人数十二人を集める必要があった。
 今回の駅伝は、『着ぐるみで一キロ走れる根性がある人』を募集である。珍しくも、自前毛皮禁止。

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa1810 蘭童珠子(20歳・♀・パンダ)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2361 中松百合子(33歳・♀・アライグマ)
 fa2544 ダミアン・カルマ(25歳・♂・トカゲ)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

 年中行事の『ぱぱんだん』の危機に集まったお手伝いの人々は、笹村カンナに宣言されていた。
「まけにゃーでちゅ」
 ほとんどの人には『あっそう』か『カンナちゃん元気ね』な台詞だが、今回『ぱぱんだん』の仕事は初めてのDarkUnicorn(fa3622)ことヒノトは、ころころしたパンダの指を突きつけられて、しばしきょとんとしていた。仕事の手伝いに来て、『負けない』宣言される意味が良く分からない。
「どういうことじゃ?」
「ん〜と、駅伝だけど区間記録は自分が出すぞ〜と思ってるのかな?」
「多分この中では一等になるつもりでしょ」
 至極冷静に蘭童珠子(fa1810)と姉川小紅(fa0262)が解説している。他の人々も異論がなく、カンナ自身が頷いているので当たっているのだろう。
「景気付けくらいに聞いておけばいいのよ」
「いつもこんな感じだから。困ったらこいつにパスしていい‥‥よな?」
「パスって、それはひどい」
 中松百合子(fa2361)と蓮城久鷹(fa2037)のアドバイスもなんだかずれているし、押し付けられたトシハキク(fa0629)は何かがお気に召さないらしい。
「ええと、ご説明いたしますと」
「あ、ちょうど誕生日の人が多いからそれもね」
 諫早 清見(fa1478)とダミアン・カルマ(fa2544)から人間関係説明を受けたヒノトが、どう思ったかは不明だが。
「兎獣人なら自前の耳があるであろうっ、わしに譲れ!」
 カンナの従弟漆畑卯月にライバル宣言をしていた。超有名な、グラビアも飾る芸人というヒノトの兎ラブ発言に、卯月はサイン色紙をいただき、ご満悦でクリーニング済みの兎着ぐるみを譲り渡している。
「うっちー、やーらぴー」
 カンナの余計な一言には、卯月の華麗な飛び蹴りが決まっている。
 この頃には、ヒノトも驚くことなく、この二人をさておいて駅伝チームの編成を考え始めていた。

 『ぱぱんだん』は今回二チーム出場の要請を受けている。単純計算で十二人必要だが、幸いにして集まって全員が着ぐるみ駅伝に参加表明したので、後はカンナと睦月、葉月、卯月の四人が加わって十二人になった。
 後はこの十二人を二チームに分けるのだが、名前は何故かブーチームとフーチーム。笹村家で飼っているミニ豚というには大分肥えた二匹の豚の名前である。
「足は遅そうじゃな」
 ヒノトはちょっと納得いかない模様だが、二匹の耳が垂れているのを見て、多少考えを変えたらしい。兎ほどではないが、まあまあ愛らしいとか思ったのも。
 そんなヒノトをアンカーにするのがブーチーム。小紅を第一走者に、葉月、キヨミ、卯月、ダミアン、ヒノトでたすきを繋ぐ。ピンクのぶた、狸、狼、狐、猫、うさぎの着ぐるみがてけてけ走る予定だ。
 もう一チームのフーチームは、タマ、睦月、ヒサ、ユリ、カンナ、ジス。こちらの着ぐるみは黒ぶた、犬、ペンギン、アライグマ、パンダ、熊と続く。ペンギンは今回初お目見えの、新しい着ぐるみだが‥‥
「歩きにくい。姉御、悪いけどたすきははがしてくれな」
 足短い、手に指ない。もちろん着ぐるみの常として、視界は悪い。中に入るヒサはたすき渡しが困難を極めるので、次のランナーであるユリに頼んだのだが、こちらはこちらで問題を抱えていた。
「着ぐるみって、どうしてこんなに動きにくいの。この手でたすきを外すなんて、練習しなきゃ大変よ」
 ユリは基本的に裏方である。衣装を作ったり、メイクをしたりして『ぱぱんだん』を支援してきたが、着ぐるみ仕事はだいたい自前毛皮だった。中で半獣化するとしても、慣れていない点で困惑することしきりだ。
 似たようなことは、大抵が自前毛皮だったタマ、小紅も感じているが、ジスやキヨミ、ダミアンがわりと平気なように体力でカバーできるものらしい。『ぱぱんだん』の四人はスーツアクターの経験が長いので、全然平気。小紅とタマは恋人に色々教えてもらって、なにやら楽しそうだ。
 ヒノトはイメージを裏切りものすごい体力豊富な人で、身のこなしもいいものだから、初体験の着ぐるみにも平然としていた。ちょっと卯月に教えてもらって、あっという間に飲み込んでいる。見えないのはどうしようもなく、時に派手に転倒するが、立ち上がり方もスマートだ。
 ヒサが転ぶと、まったくバランスが取れないのでじたばたするのとは対照的である。これにはたすきを繋ぐ睦月とユリの二人のみならず、全員が呆然と眺めてしまった。誰か別の人が入っているのではないかと、思わず疑ってしまったくらいに。
「それでコースを回って慣れとけば?」
 走らない初美が提案したので、取り急ぎ葉月が商店街に問い合わせている。ついでに色々な宣伝行為の許可も。
 OKが出て、全員揃ってコースの下見に出掛ける。希望者は着ぐるみ、それ以外は引率の同伴者だが、ミニブタのブーとフーまで一緒だ。これでぞろぞろ歩いていると、それはもう目立ちまくり。でもハロウィンやら、まだ先の気がしてもクリスマスにお正月、お歳暮シーズンの各種チラシを配ったりするので、目立って困ることはない。
 中にはダミアンが新調してくれた『ぱぱんだん』のチラシも混じっている。相変わらず結構なんでもやる団体だ。
 この時もチラシを配りつつ、道行く子供に手を振り、商店街の人々にご挨拶し、いまだ募集中の駅伝チーム受付に並ぶ振りをしたりと忙しい。なお、この時の情報によると。
「中学校の陸上部有志? なんでこんなところに出張して来るんだ?」
 駅伝とはいえ、陸上部が出て来る場所ではなかろうとキヨミが驚いたが、答えは簡単。一等商品の商店街飲食店商品券狙いだ。
「くやちー」
「仕事じゃなかったら、狙うのに」
 そんなことを叫んでいるのは、パンダと熊である。どちらも着ぐるみだが、食べ物のことは良く聞こえるらしい。大きな声を出すなと、口のところを叩かれていた。
 言う内容は、着ぐるみ初心者もいることだし、仕事でなくともこの状況で一等は狙えないので、皆聞き流していた。コースは平坦、間違える場所もなさそうな分かりやすい道だ。
 でも何故か、ダミアンとジスにキヨミが加わって、コース案内の表示板を作ることになっている。ここの商店街の人達が、彼らの業界での認知度を知ったら仰天するに違いないが、『ぱぱんだんの人』と思われているので気安く頼まれてしまったのだ。彼らもまた気安く請け負っている。
 その頃、小紅とタマがヒノトのうさぎさんを連れて、なぜだか八百屋で買い物をしている。ペンギンさんのヒサは、ユリに連れられて如月のケーキ屋さん。背負わされたリュックに大量に色々入っていったが、ペンギンさんは小揺るぎもしない。
 ただダミアンとキヨミが気を利かせてリュックを担いでやろうとしたところ、バランスを崩して転げた。事前にダミアンが簡単に頭が落ちないように補強してたのだが、それに肩紐が引っかかったようだ。熊と狼とうさぎとパンダに助け起こされているところは、当然通りすがりの皆様の携帯カメラの餌食になっている。
「宣伝したと思うぜ」
 戻って着ぐるみを脱いだ後のヒサの言いようが、珍しくも言い訳がましかったことは皆気付かない振りをした。というより、たすき渡し練習に忙しいので。
「ほらほら、もう一回着てくれなきゃ。時間が足りないわよ」
 姉御の言う通りに、時間は幾らあっても足りないのだ。
 ペンギンにたすきを渡したら、首に掛かって引き摺ってしまった。
 視界が狭いので、ちょっど段差につまずいた。
 そもそも慣れていないので、へばる。
 まっすぐ走れない。
 走る練習のはずが、ラブラブモードに突入する。
 ゼッケンを作ったら、字が滲む。
 演出を考えていたら、思い切り転ぶ。
 練習していたのに、黄色い声援を送るのに夢中。
 そして結局、時間は足りないままに、当日になってしまった。

 結果。
 参加十二チーム中、ブーチーム八位、フーチーム十二位。二チーム登場した幼稚園児チームが九位と十位、十一位はその親のチームだ。優勝は陸上部有志がぶっちぎり。
「最初はよかったけどな。でも子供が最下位は可哀想なんで、負けてくれて助かった」
 終わってから如月がけらけらと笑ったが、『ぱぱんだん』チームは大変だった。
 最初の小紅とタマはよかったのだ。二人とも愛想を振りまきつつ、それぞれ彼氏と婚約者が次の走者なので結構軽やかに走っていた。この時点ではまだ上から数えて何番目だった。葉月と睦月は、それぞれ順位を一つずつ下げたが、宣伝のプラカードを持っていたので別におかしなことはない。そもそも二人ともかなり速度をセーブして走っている。
 ブーチーム第三走者のキヨミは、途中で三位まであがった。まるきり見せ場がないのは困ると、彼は順位をあげるようにと指示されていたからだ。ただし最後のほうで転んで、たすき渡しは五位だった。続いた卯月も同様に順位あげに取り掛かったが、途中でコースを間違えて時間をロスした。走っているうちに視界がずれたらしい。
 フーチームは睦月からヒサに渡った時点から、ずるずると順位を下げ始めた。なにしろペンギンは速く走れない。それでも後ろには幼稚園児と親のチームがいたのだが、途中で伴走状態になってしまい、団子状態でユリにたすき渡し。ユリはてくてく一生懸命走ったのだが、この時の幼稚園児走者は二人とも速かった。どのくらい速かったかと言えば、中継地点で前を走っていたはずのブーチームを追い抜かしたくらいに。
 よって、ブーチーム五番手のダミアンは看板を抱えていたのもあって、幼稚園児の後ろをずっと走っていた。彼の場合、追い抜けと言われても躊躇ったかもしれない。懸命に走っている幼児を追い抜くなんて、絶対に無理。
 十一位でたすきを貰ったヒノトが八位まで順位を上げたのは、もちろん幼稚園児チームととてつもないデットヒートを繰り広げたからだが‥‥流石に最後のほうで我に返り、ふらふらになった幼稚園児と手を繋いでゴールした。ただ彼女のほうが先に入ってしまったので、八位。
 ブーチームはユリからカンナへのたすき渡しでもたついて、ものすごい大差で負けていた。負けず嫌いのカンナが走らなかったはずはないのだが、彼女も幼稚園児を追い越せなかったのだ。こちらは職業意識である。アンカーのジスにいたっては、幼稚園児を親と一緒に背中を押したり、手を引いたり、あれこれやっていたので‥‥こういう結果に。
 その代わり、参加者と見物に来た家族などの買い物でいつもより賑わった商店街からは、如月からのケーキの他に、惣菜とお菓子、飲み物が差し入れられた。
「ビラの余ったのはこの袋に戻してね。飲み物のボトルはこっちの箱に」
 ダミアンがこまごまと道具の片付けを指示し、睦月と葉月が営業活動で挨拶周りをしているのにタマと小紅が付いていき、ヒサとジスとキヨミと卯月が着ぐるみを片付け、ヒノトはユリにしこたま怒られていた。
「こんな格好で着ぐるみに入る人がありますか! もう、心臓が止まるかと思ったじゃないの」
 着替えのときに偶然皆の目を潜り抜けてしまったが、ヒノトはほとんどセミヌードだった。せめてTシャツと短パンくらいは身につけよう。
 カンナは貰った食べ物を車に積んでいる。触ると威嚇されるかも。

 さて、多少のことはあったが無事に『ぱぱんだん』事務所こと笹村家に帰りついた一同は、大量のデザートを前に浮かれ踊るパンダ姿になったカンナと、少しばかり途方にくれる他の人々に分かれた。デザート数、ケーキとプリンで十四個。種類色々。季節柄栗とカボチャが多い。小紅、ジス、ヒサ、ユリ、ダミアン、ヒノトがデザート類を用意したところに、キヨミが葉月と一緒に料理を作った。
 ケーキの理由である誕生日祝いをしてもらえるのは、タマとカンナ、ジスの十月生まれ組に、旧暦でユリ。更にタマと睦月の婚約祝いも兼ねている。キヨミの用意したブーケはじめ、プレゼントも乱れ飛んでいたが。
「てへ、ゆびひゃ、もらっちゃー。あ、こりあげゆ」
 カンナがジスにダイヤのリングを貰って披露しつつ、裏面がパンダ模様のフライパンをあげている。背中にはタマに貰った巨大熊ぬいぐるみを背負い、その首にユリに貰ったストラップを着けていた。
 ジスはストラップとフライパンを両手に、ちょっと茫然自失。一世一代の告白がお披露目されたからだろう。
「お誕生日の人優先で料理も取り分けるけど、希望は? 早く言わないとなくなるよ」
 ジスの白目が戻るようにキヨミが声を掛け、ヒサが後ろから小突いている。
「このプリンは、二人で『仲良く』食べてね」
 ダミアンがハート型の巨大プリンを出して、ようやくジスが正気付いたが、その頃には頭にタマがネクタイピンを着けて面白がっていた。そんな彼女はユリからバレッタを貰っている。
 更にユリは蛇の新郎とパンダの新婦が並んだウェディングぬいぐるみを持参していて、初美から『アライグマと鷹は洋装? 和装?』と尋ねられていたが、周囲はそんな二人がそのうちに商売し始めそうだと思っている。きっと宣伝写真はヒサ撮影。
「あれ欲しいなー」
 小紅は蛇とパンダのぬいぐるみに釘付け。ここも組み合わせは同じなので、衣装が違うのをお願いするべきだろう。
 だが、なんと言っても。
「自信作なのじゃ」
 ヒノトが胸を張って、ろうそく代わりにバナナを指したバナナケーキには勢いで負けていた。カンナはバナナの取り分を気にしつつ、『半分こ』とハートプリンを真っ二つ。勢いにつられた感じ。
「かんぱーい」
 ようやくここに辿り着くまでに、数名がふらふらになっていたが、それは最近良くあることだった。