年年歳歳花相似たりアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 龍河流
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 なし
参加人数 10人
サポート 0人
期間 10/24〜11/06

●本文

 年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず。
 毎年花は同じように咲くが、それを見る人の姿は移り変わる。
 その昔、そんなことを書き記した人がいるという。


 毎日、仕事。
「にーに、どーちたでちゅ」
「‥‥新しい除雪機欲しいな。駐車場の除雪に」

 時々、お休み。
「まっさちゃーん、三連休ゲットよー。買い出しに車出してね」
「なんでお前まで同じ日に休む‥‥」

 お仕事。
「はい、ランチのセットお待たせしました。次の公演の脚本は上がったの?」

 お休み。
「ようやく有給ゲットよー。さー、観劇ツアーに行くわよ!」

 ビジネス。
「はい。それでは承りましたウェディングドレスのサイズの確認をいたします。犬種、ゴールデンレトリーバー‥‥」

 プライベート。
「本場の四川料理を体験してえ」


 年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず。
 花の変わらぬ美しさに比べ、人の世ははかないものだという。
 でも、だからこそ、この一日が後まで残る思い出の日になるのかもしれない。

 明日のあなたは、どこで誰と何をしている?

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa1810 蘭童珠子(20歳・♀・パンダ)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2361 中松百合子(33歳・♀・アライグマ)
 fa2457 マリーカ・フォルケン(22歳・♀・小鳥)
 fa2544 ダミアン・カルマ(25歳・♂・トカゲ)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)

●リプレイ本文

●約束
 出会いは四ヶ月とちょっと前。
 何か特別なことがあったかといえば、『お友達以上に意識してきた』かも。でも実感が伴わない。
 だけど油断していると、誰かに連れ去られてしまいそうなので‥‥
 角倉・雨神名(fa2640)は言ってみた。
「トッド君、京都に行ってみませんか?」
 タブラ・ラサ(fa3802)は返事をした。
「うかなさんの生まれたところだったっけ?」
 うかなとラサ、見た目は中学生のお姉さんと小学生の弟のようだが、実は歳の差一歳のどちらも中学生だ。
 仕事の移動に慣れている二人は、てきぱきと京都行きの準備を始めた。

 住宅地の中、どうしてここにと思う場所に木製看板の掛かった演奏会場がある。隣には、十一月一日オープンのポスターが張ってあった。
「いよいよですわね。楽しみにしてましたのよ」
「お客さん用のテーブルと椅子は明日入って、配置はこれ」
 廃業した質屋の倉を改装した演奏会場は、クラシック中心だ。そのこけら落としを担当することになったマリーカ・フォルケン(fa2457)は、同じ事務所で改装にも関わったトシハキク(fa0629)から内装の説明を受けていた。
 オープン前の十月三十、三十一日に近隣住人向けで行なわれる演奏会にも出演予定のマリーカは、これから練習付け。ジスは重要用件達成に札幌に向かった。。

 さて、そのジスが札幌の目的地に到着した時、『ぱぱんだん』の笹村家では初美が真っ黒オーラを放っていた。
 その横では、中松百合子(fa2361)とダミアン・カルマ(fa2544)がなにやら作っていて、諫早 清見(fa1478)を従えた蓮城久鷹(fa2037)が図面を広げて相談中。
 皆が奔走しているのは、蘭童珠子(fa1810)と睦月の結婚式の準備だ。初美はドレスを縫っているところ。当人達は、葉月と当日の料理の相談をしていて、姉川小紅(fa0262)が皆にお茶を淹れて来ていた。ただしドレスや小物の作成中なので、居間の入口で立ち止まる。
「初美ちゃん、一休みしたら? 休憩してから一緒にやりましょ」
「僕も手伝うから、なんでも言ってね」
 ユリとダミアンが不機嫌初美を取り成している。ヒサも休憩しようとテーブルの上を片付けだしたが、キヨミと小紅、やってきたジスはあまりの真っ黒オーラにちょっと怯んでいた。おめでたい話なのに、なぜ?
 理由は簡単で。
「そんな仏頂面でどうした」
 笑って祝福しろとヒサにも促された初美がうふふと気味の悪い笑い方をし、なぜだか葉月が同調している。
「葉月君、どうしたの? お料理はちゃんと手伝うよ?」
 小紅も首を傾げたが、この時にコンビニから戻ってきたカンナが口を挟んだのが。
「タマちゃん、赤ちゃんいつ?」
 これだった。タマはにぱっと笑い返して。
「そんなのコウノトリさんに聞いて〜。や〜だ〜、睦月さん、紳士だしぃ」
 のろけつつ、ちょっと気になることを口走ったような違うような。
 次の瞬間、葉月と初美が睦月に蹴りと突きを入れ、かろうじて避けたがカンナにぽこんと頭を叩かれている。
「「「じゃあ、こんなに急がなくても!」」」
 三人声を揃えた叫びに、居合わせた人々は理解した。
 確かに性急なスケジュールで、笹村家の人達は色々考えていたらしい。仕事の都合でタマ達は当面同居なので、気遣いも大変。
 だがそれにしたところで。
「この二人でその心配はなかったんじゃないの?」
 キヨミに突っ込まれて、三人はあらぬ方向を眺めていた。

●アルバイト+α
 結婚式となると当人達は準備で忙しい。周囲も忙しいが、そこはそれ、勝手に仕事の確認をし、スケジュールを調整して、役割分担も完璧に『ぱぱんだん』とその副業仕事をこなしていた。
「ハロウィンイベントは、保育園はないのか」
 残念がっているのはキヨミ。ちょうどハロウィン当日にコンビニアルバイトが入ったので、ちょっと楽しみにしていたのだが、保育園もハロウィンは守備範囲外らしい。仕方がないので、関連商品が売れるのを楽しむ。
 ところがその客が外に出て待っていた車に乗ろうとしたら、落ち葉掃きをしていたダミアンが追いかけている。なにやら押し問答していて‥‥
「すぐそこにごみ箱あるんだから、捨てればいいのにな」
「心掛けの問題だけど、綺麗なほうが皆好きだろうにね」
 お客の『落し物』である包装フィルムをお届けにあがったダミアンが、苦笑というには剣呑な表情になっている。滅多にないことなので、それは怖い。普段は親切なお兄さんのダミアンだが、公衆道徳には厳しいのだ。
 でも子供には怖い顔ひとつせず、親切丁寧的確にゴミ箱に捨てるように促して、きちんと誉めている。保育園の園長からも礼を言われたくらいだ。
「落ち葉を埋めてくるので、レジはよろしくね。何時までだっけ?」
「戻ってくるまでいるから、心配しないで」
 中身は落ち葉の一抱えある袋を持っていくダミアンに、キヨミは気を効かせたつもりだったが、さらりと言い返された。
「歌担当は練習してくれないと」
 ほとんど手作りのタマと睦月の結婚式は、飾り付けまで皆でやる。素案はダミアン、作るのと飾るのは皆。
 そしてキヨミは、招待客代表でお祝いに一曲歌うことになっていた。そのために寒い地下スタジオで練習三昧だ。

 同じ頃、小紅は結婚式のケーキ担当の如月の店で臨時店員をしていた。キヨミと同じく、一応顔が知れているので化粧と髪形は変えている。
「ゴマ団子とか杏仁豆腐とか‥‥蚊の目玉のスープって実際に食べられるものなのかしら?」
「そんなメニューは言わない」
 如月に止められつつも、小紅が口にするのは中華料理の名前だ。現在の彼女と葉月の行きたいナンバーワンは中国。流石にしばらくは行く時間が取れないのだが。
「簡単、新婚旅行なら誰も文句言わないから。結婚式して行けば?」
「えー、初美さんがしばらくはドレス作ってやらないって言うのよ。待ってられないじゃない」
 本場四川料理が食べたいとお抜かしあそばした小紅に、如月がご馳走様と呟いている。

 その頃のタマは。
「大きな荷物はいらないのよぅ」
 自分の家族と戦っていた。自分の荷物だけ持ってきてくれればと言われているのに、納得しないのだ。
 すでに家の中には送る予定のダンボールの山。

●京都
 巷に顔が知られているので、髪はまとめて帽子に入れ込み、服装も普段とは変えて、二人で並んで歩く。こそこそしているとかえって人目を引くから、堂々と。
 きっと自分達は姉弟のように見えるのだろうなと、他の家族連れを眺めつつうかながラサを案内したのは山城総合運動公園だ。中学生が二人、遊びに行くにはちょうど良い。
「どこに行きましょうか」
「午前中でも人がいっぱいだね」
 てくてく、とことこ。二人並んで、格別目的もなく歩く。ラサはうかなにお任せで、うかなは二人でいることに頭がいっぱいで、ちっともそれを気にしていなかったのだ。
 てくてく、とことこ、くるくる。なんだか同じところをぐるぐる回っているような気がしてきたのは、二人同時。
「‥‥」
「‥‥」
 ではここで、一体何を言うべきか。迷いに迷った二人が、頭の中で何を考えていたのかは余人がうかがい知るところではない。だが多分要約すると、どちらも『どうしよう』と『このどきどきが恋かも』辺りであろうことは、見る人が見れば分かる。
 結局公園の長い山道を更に歩いて、前にも後ろにも人がいなくなったところで、うかなが立ち止まった。何をしたわけでもないのだが、顔が真っ赤だ。
「あのね、トッド君‥‥学年違うけど、今はおんなじ十三歳の女子として言いますっ。好きです!」
 うかな、一世一代の告白であった。あまりに急でラサは一瞬、彼にしては珍しくきょとんとしたが‥‥
「僕もうかなさんのこと、好きだよ」
 優しい目で、応えた。
 そうして、二人でほうっと肩から力を抜く。笑い交わしたが、なんとなく照れ隠しが混じっていた。
 この時、ラサはうかなが目を閉じたのに気付きはしたし、意図も分からないではなかったけれど、ここは公園内。人の気配がして、二人でまた苦笑した。
「何か飲もうか」
 ラサがうかなに手を伸べて、しっかりと繋いで、二人はまた歩き出した。

●演奏会
 こけら落とし当日。マリーカは早い時間から出てきて、お茶を飲んでいた。
「こんなに綺麗なリーフレット、かえって申し訳なかったような」
 演奏予定の曲目のピアノなら『子犬のワルツ』、チェロで『動物の謝肉祭・白鳥』など、他に誰でも知っているようなポップスもまじえて、色々な曲が並んでいる。
 マリーカの略歴も書いてあって、紙は厚めの上質紙だが、かなり出来は良い。誰でも気軽に来てもらえる料金設定を目指しているマリーカには、申し訳ないような、勿体無いような。
 でも良く聞いてみると、作ったのは会社の近くのデザイン系専門学校の生徒達だとかで、実習がてら実費のみで受けてくれたそうだ。
「紗枝さん、売り込みに行ったの?」
「当然」
 マリーカが自分もまだまだ勉強中と言ったので思いつき、あちこちの学校に声を掛けて、演奏会の他にも使ってもらえるようにしたそうだ。いずれは調理師専門学校から、軽食のケータリングもやりたいとかなんとか。
「そんなに色々な人が来てくれたら、張り合いがあるわね」
 代わりに今日のマリーカが何か大失敗でもしたら、今後は低迷してしまうことになる。責任は重大だ。しかも。
「あれ、あの人はお客さんかな」
 開演三時間前に到着した最初のお客に、一気に緊張感が高まったマリーカだった。
 けれども、その緊張感が快いのも確か。

●結婚式
 土日は忙しい『ぱぱんだん』の都合もあって、タマと睦月の結婚式は平日に行われた。それも会場だけ借りて、飾り付けから料理から衣装から気付けにメイクに音楽まで、全部自前だ。当人達は各専門家の言う通りにしていただけで、家族と招待客がすべてを取り仕切っている。
 それも新婦のドレスは初美製作だが、メイクと気付けは同業者間でも一目置かれるユリが担当し、写真もめきめき頭角を現しているヒサが係で、小物はダミアンが受け持って、会場内の飾りつけはジスが主導権をとり、音楽は生演奏込みでキヨミが準備万端だ。料理人補助の小紅が、自分の時もよろしくとアピールしていたが‥‥
「この二人もやっとというか、もうと言うかとは思ったが‥‥すごいな」
 ヒサがカメラ片手に呟いたのが、全員の気持ちを代弁していた。
 タマ、幸せでめろめろのオーラ放出中。良く結婚式は花嫁が主役というが、睦月は本当に霞んでいる。
 あまりに幸せで頭の中が大変なことになっていたらしく、ブーケトスでは独身女性全員にブーケを解体して花を分けてくれた。トスしていない。
 挙げ句に恵一郎が喜びのあまりに失神して、一騒ぎだった。
 こんな結婚式は滅多にないなと、招待客が全員思っている。

●そうして
 うかなは、携帯メールが届くのを楽しみにしていた。使い方を良く知らなかった様子の絵文字を、色々選んで送ってくれるのが楽しい。
 ラサはもちろん、携帯電話片手に自分の知識と経験をフル動員で、喜ばれるメールを書くべく努力していた。

 マリーカは先日大好評で無事に成功したリサイタルを、もう一度年末にお願いしたいという、美しい便箋で寄越された文面に目を細めていた。

 ダミアンは写真を一葉手にして、恵一郎に来年夏の仲人をお願いしに行き、『うおおん』と泣かれて度肝を抜かれていた。

 キヨミはまた地下のスタジオにこもって、今度こそ『ぱぱんだん』の歌を作ろうと励んでいる。寒いので、時々母屋に逃げてくる。

 タマは実家を経由して、熱海まで新婚旅行中。なにゆえ熱海かと言われているが、誰も連絡は取っていない。キーちゃんに蹴られるから。

 小紅は、葉月に将来の夢を訊いて、
「とりあえず」
 夢にとりあえずはないだろうと思ったのだが、
「来年あたり、小紅と結婚式したい」
「なんで来年なのよーっ!」
「立て続いたら、親父の頭の血管が切れる」
 納得していた。後のことは二人だけの秘密だが‥‥第一段階として、中国旅行は決めたようだ。

 ジスは、カンナを連れ出して食べ歩きを敢行し、全支払いを負担した後、夜景が綺麗な場所までようやく到達し、
「カンナさん、結婚してください」
 シンプルイズベストなプロポーズを実行した。カンナはお土産の大量のパンを抱えたまま、ぽかんとジスを見上げていたが、
「ぱひゃとまみゃとにーにとねーねとはっちーのまえでいえまちゅきゃ?」
 人間姿のままで、そう口走った。しかも、ジスの手を引いて、タクシーに飛び込んでいる。ジスのその後の言動は、皆に大公開。

 ヒサはユリに連れられて、彼女の行きつけのバーに来ていた。流石に姉御と思ったが、口にはしない。言って、今後連れてきてもらうなかったら困るからだ。いい雰囲気の店だし、
「女王様と下僕だよな」
「なんですって?」
「見ての通りでございます」
 見るだけなら、年代が釣りあう美男美女が並んできっつい酒を楽しんでいるところ。それはもう居心地が良さそうで、ごく自然で、何年も前からそうして一緒にいるかのようだが、
「珍しく仕事じゃないのにね。いつも我侭聞いてもらっているお礼だけど」
「いいよ、あんた見てると飽きないし。俺も手伝いたいからしてるんだぜ?」
 何か、今更の話を始めていた。まさに今更だが、不意に、
「私、あなたのこと好きだわ」
「姐御‥‥いや、ユリ、これからもよろしくな」
 突然同時に、そう告げた。ヒサはユリの手の甲にキス付き。
「あら、意見が合ったわね」
「ほんとに。で、次はなに飲む?」
 後はもう、普通通り。

 それがこれまでの、これからも日常だから。