ゲレンデで愛のショーアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/21〜01/25
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●本文
それはある日のことだった。
「にーにとねーねは、どちて、びゃーしゅデーが三日もちぎゃふでちゅか」
着ぐるみ劇団『ぱぱんだん』事務所こと笹村家では、パンダ獣人のカンナが、同じく劇団員で兄の睦月に尋ねていた。やはり劇団員で睦月と同い年の初美は、確かに睦月より三日ほど誕生日が遅い。
「まみゃ、ちゃいへんでちたね」
身内以外は聞いてもすぐには分からないカンナの口調を、睦月は兄なのでもちろん理解する。が、この時は何が言いたいのかさっぱり分からなかった。彼と初美の誕生日が三日違うのは、それこそ生まれた時からのことなので、今更何を言い出したのか理解できなかったというのが正しい。
「なんで、母さんが大変なんだ?」
「ふちゃごが三日もちぎゃっちゃら、ちゃいへんでっちゅー」
「カンナ、その冗談は面白くないぞ? 冗談にもなってないけど」
ごくごく普通に人間青年姿の、この日をもって二十六歳の睦月は、今年十月に二十四歳になるパンダ姿の妹カンナを諭し始めた。この甘ったれの食いしん坊は、パンダ人気が揺るがぬのをいいことに、時々つまらない冗談で他人に笑いを強制するのだ。つまらないものはつまらないと指摘するのも家族の役目であろう。
だが、このときのカンナは鼻の頭にしわを寄せて、むっとした顔つきを作った。パンダの顔でこれをするのは、よほど睦月の返事が面白くなかったに違いない。それ以前の問題として、なんで一日中獣人の姿で過ごしているのかという問題があるのだが、これは父親からしてそういう人なので、もはや睦月も諦めている。
『ぱぱんだん』は、日頃から着ぐるみ姿で出し物の特訓をしている、非常に勤勉な劇団です。と、近隣には思われているはずだ。単なる変人の集まりと思っている人もいるかもしれないが。獣人だと思われたことは、お子様にしかないので、今のところは問題なし。今後もあってはならないが。
それはそれとして、カンナが『にーには親ふきょうでちゅ』と言うので、睦月は読んでいた仕事の依頼状を脇に置いた。そしておもむろに、カンナに拳骨を喰らわせる。けっこうマジ。なにしろ相手は完全獣化のパンダ、ちょっと殴ったくらいでは効果がない。
「お前の冗談は面白くない! それになんで俺が親不孝だ。初美と違って、陣痛が始まって二時間で生まれたはずだぞ」
「ねーねは、ちょれきゃら三日でちゅか」
「初美のお袋さんは、二日かかったって、爺さんが言ってたことがあるだろ」
「まみゃでちょ?」
「誰が?」
「ねーねのまみゃは、まみゃでちょ?」
今、何か変なことを聞いたと睦月がしばしの思考停止に陥っていると、いつの間にやら居間にやってきていた初美本人がこう言った。
「カンナ、あたしはあんた達兄弟の従姉妹なんだけど、もしかして忘れた? パパが死んだのは、あんたが七つか八つのときだったはずだけど」
「ねーねのじょうらんもちゅまらんでちゅ」
次の瞬間、カンナの頭は左右から拳で殴られていた。右が睦月、左が初美。息のぴったり合ったストレートだった。
「あんたの脳みそは、何を覚えてるのよ。確かにあたしはこの家で育ったけど、保育園の父親参観にはパパが来てたでしょ。パンダじゃないパパが」
「あのぱぴゃは、みんなのぱぴゃでちゅ!」
左からのストレート、もう一発。
多少複雑な家庭事情ではあるが、別に誰が隠したわけでもないのできちんと自分達の関係を把握していた睦月と初美は、分かっちゃいたが、カンナのぼけっぷりを厳しく叱り飛ばした。家系図まで書いて、何がどうしてどうなっているのか説明までしてやった。
この夕方。
『探さないでください』
読みやすい綺麗な字で書置きを残して、カンナは家から姿を消していた。
「あらやだ。睦月、お義父さんのところに迎えに行ってよ。何か仕事の話があるんでしょ?」
母親の文子に言われた睦月は、丁寧にお断りした。それどころではない事態が、彼らを見舞っていたからである。どうせカンナは三軒隣の父方祖父母の家に家出したのだから、放っておいても明日には帰ってくる。子供のときからそうだった。
その間にある家も、隣が母方祖父母、もう一軒向こうが母方叔父家族と、この近隣に固まって住んでいる『ぱぱんだん』劇団員達だった。
「この仕事、人数が絶対的に足りないから、バイトの名目で人を集めないと駄目かもなぁ」
「なんで? 睦月も葉月もカンナも初美も予定はないでしょ?」
「カンナ以外は海の向こうにお出掛けなのよ、お母さん。特撮のオーディションで、ええとハーレー女王役だな、あたしは」
なかなか配役が決まらないらしい新番組のオーディションをパスポートが要らない海の向こうこと東京まで受けに行くついでに、あちらのテーマパーク巡りをして芸の肥やしにしたい睦月と初美と葉月の三人は、全然暇ではないのである。
「誰だ、ゲレンデで結婚式がしたいなんていう酔狂な奴らは」
そして本題。
札幌市内のゲレンデで結婚式をしたいと言う酔狂なカップルは、『ぱぱんだん』の着ぐるみと言う名の自前毛皮集団に囲まれて、ゲレンデを滑り降りたいのだと仕事の依頼を入れてきた。出逢ったのが、『ぱぱんだん』が愛想を振りまいていた昨年のゲレンデだったらしい。
ゆえに、『ぱぱんだん』派遣の着ぐるみと化して、カップルの望みを叶えるべく一緒にゲレンデを滑ってくれる人と、その際の様々な裏方作業にプロデュースをしてくれる人などがいると、大変にありがたいようである。
●リプレイ本文
差し出したお菓子の種類は小豆とカスタード。ポム・ザ・クラウン(fa1401)にどちらが好きかと尋ねられた笹村カンナは迷わず両手を出す。相変わらずだなと、それを見た諫早 清見(fa1478)や蘭童珠子(fa1810)は思った。口にしたのは蓮城久鷹(fa2037)だ。
「相変わらず、食い物に目がないな」
「食べ物に、目‥‥?」
ダミアン・カルマ(fa2544)はどういう意味かと首をかしげ、聖 海音(fa1646)が説明している間に、カンナは菓子二つを食べ終わっていた。挙げ句に菓子を配り歩いているポムを見詰めているが、佐崎寿徳(fa0551)が見るところ、それは『もっと食べたい』という顔付きだった。同じパンダ獣人だから分かったと言うより、カンナがもの欲しそうだったからだ。
「半分お食べになります?」
見兼ねたか、それとも心根が親切なのか、白蓮(fa2672)が申し出ると嬉しそうに彼女に擦り寄っていったパンダに、タマがとんでもないことを言った。
「ねえねえ、カンナちゃん。お兄さんとお姉さんが結婚したら、お姉さんも兄弟よ?」
「にーに、ねーね!」
ゲレンデ結婚式に必要な道具や衣装を借りに来た一同を出迎えたカンナがあまりに意気消沈していたので、すっかりお馴染みアルバイトのポムとタマ、海音が心配して様子を聞いたところ、けっこう込み入った家庭の事情を聞かされたのだ。
初美は実はカンナの姉ではなく従姉妹で、両親が早くに離婚したのでカンナ達と一緒に育った。ただし初美の父親は、仕事でちょくちょくいないとはいえ同居していたのに、どうしてカンナが従姉妹だと忘れていたかというと。
「人の恋路に口を出すな。だいたい叔父さんに騙されるお前が悪い」
「何がみんなのパパなんだ、よね。あ、そこの待ち針違うわよ」
「あの叔父さんは、そういう人だった。二股かけて怒鳴り込まれたしたし」
『どうしておねえちゃんはおじちゃんをパパと呼ぶの?』という姪の質問に、『みんなのパパだから』と意味不明な言葉で丸め込んだ初美の父親は、イイ性格をしていたらしい。
とはいえ、タマもとんでもないことを言った。悪気もからかう気もなかったらしいが、カンナ以外の笹村ファミリーに断じられて、ちょっと寂しそうだ。
その間に、カンナはレンではなくひーさまとポムから菓子を分けて貰い、ご満悦である。
「結局食えればいいのか」
「いつもそうじゃねえか」
氷を作るための入れ物を積み上げていたキヨミの呆れ口調に、何を今更と返したのはヒサだった。この二人とダミアンも、『ぱぱんだん』のアルバイトは初めてではない。
初めてのひーさまとレンは、山と積まれたスキーウェアと芝居用の衣装を前に、自分のサイズとゲレンデ結婚式に合うものを探さねばと、気合を入れていた。多少のサイズ直しはダミアンと初美がやってくれるが、それとて衣装を探してからだ。
必要な衣装と道具を借り出して、衣装には華やかな細工を加え、準備のために現地に乗り込んだ九人を迎えたのは、やたらと賑やかなカップルだった。ヒサが確かに酔狂だと納得はしていたが、そういうレベルではなかったようだ。
「昨シーズンにお知り合いになったんですか。一生に一度のことですから、頑張りますね」
「スキーでご一緒しますので、よろしくお願いします」
人型のカンナは無口なので、人当たりが良い海音とレンが新婦に挨拶に出向いた。ひーさまは新郎に結婚式の心得など説いている。ところが。
「去年、人相の悪いパンダに入ってた人はいる?」
「あのパンダ、今年も持ってきてくれた?」
今回『ぱぱんだん』の仕事が初めてのレンとひーさまは、すぐには分からなかった。けれど先日もこのゲレンデで仕事をしたヒサとダミアンとキヨミとタマは理解した。
カンナのことだ。なにしろスキーでは仕事とは思えないほど夢中になって、『そこどけそこどけ』状態で滑っていた。人相が悪いといわれても仕方のない表情だったかもしれない。
後のカンナの話によれば、確かに昨シーズンには『このパンダ、顔つき悪い』と大笑いして意気投合した男女数名がいたそうだ。その中の二人が、今回の依頼人なのだろう。カップルにはめでたいが、カンナには腹ただしい話である。でも仕事。
「カンナちゃん、頑張ろ? ね? お仕事終わったら海音さんにケーキ焼いてもらおうよ」
ポムがせっせとカンナを食べ物で釣って、アイスキャンドル作りに送り出した。本当はホテルやスキー場の人との打ち合わせなどがあるが、獣化時とは別人のように無口なカンナでは役に立たない。それでひーさまとヒサが打ち合わせに参加していた。見た目の年齢順である。
そしてホテルの前では、ダミアンの指示の元、キヨミと女性陣がせっせとアイスキャンドル作りをしていた。何事かと覗きに来る人々には、ポムが翌日のゲレンデ結婚式の宣伝をしている。その背後では、皆がせっせとアイスキャンドル作りや、明日の人前式のための会場設営に懸命だ。力仕事の設営は、ホテルの従業員とキヨミの仕事だが。
明日の夕方から始まる人前式は、アイスキャンドルで照らしたホテルレストラン前の会場に、ゲレンデから動物達を従えた新郎新婦が降りてきて、バージンロードに見立てた通路を通って署名台に向かう。後は本人達の親族、友人と、居合わせたスキー客を前にして結婚の誓いを述べるわけだ。
合間に皆が歌や一芸を披露したりするが、披露宴のほうにシャンパンサーブは入っているので人前式ではシャンパントーストだけになった。ダミアンが言うには、シャンパントーストとは新郎新婦がグラスを持った手を交差させてシャンパンを飲むという演出なのだそうだ。サーブだと、皆様にシャンパンを注いで回ることになる。これは振舞いワインの用意があるので、『ぱぱんだん』派遣の九人が注いで回ることになりそうだった。さすがに披露宴は出番がないので、彼らには時間がある。
「せっかくだから披露宴も来いと言って、親に怒られてたぞ。大丈夫か、あの二人」
「まあまあ。どうせ今時、結婚式も一生に一度とは限らないし」
打ち合わせを終えて戻ったヒサの報告に、ひーさまはとんでもないことを言っていた。レンと海音とポムが途惑っていると、今度は別の声がする。
『腹の中でどう思ってもちゃんと祝えよ!』
「キーちゃんも、明日は意地悪なしよ。絶対ね」
腹話術師タマ、彼女の相棒人形キーちゃんは辛辣な発言が多い。それも多分、芸。
「ちょっくらスキーの練習してくるか」
キヨミが腰を浮かせたのは、だからタマのせいではないはずだ。直後に彼がしゃがみこんだのは、『自分も行く』とカンナに背中へ飛び付かれたからだが。
何のかんのと言いながらも、会場設営などの準備は順調だ。
そうして、ゲレンデ結婚式当日。
「このパンダよ、これこれ。お父さん、お母さん、写真ー!」
多分『スキー場で結婚式しなくてもいいのに』と思っている両親に向かって、白のスキーウェアに『ぱぱんだん』貸し出しの白いドレスを被った新婦はカンナとのツーショットをねだっていた。ひーさまもパンダだが、ちゃんと見分けるあたり、よほど印象的だったのだろう。
新郎新婦に同行する自称着ぐるみスキーヤー達はパンダ二人、狼一人、兎が一人、狸が一人の計五人だった。当初は海音も着ぐるみに入ってスキーに付き添うはずだったのだが、新郎新婦は上級コースから滑り降りる気満々だったので本物の着ぐるみでは危険だとBGMに専念することになった。慣れない彼女が着ぐるみの脱ぎ着をすると、大事な歌に間に合わない可能性もある。
スキーヤー達も新郎新婦ほどではないが可愛い、またはスーツっぽい上着を羽織っていた。その横では、ホテルの撮影係と最後の打ち合わせが終わったヒサが、スキー場のスノーモービルに乗せてもらって、ゲレンデの途中へ先回りしている。新郎新婦が降りてくる途中のシーンの撮影があるからだ。会場では、ダミアンが据付型のカメラに悪戯されないように付いている。新郎新婦が降りてきたら、彼は照明係もお手伝いだ。
タマはキーちゃんを抱えて、準備万端でリフトに向かう新郎新婦と仲間達を激励している。この時点からマイクを握って話しているので、レンなどは注目を浴びて途惑わないでもないのだが‥‥明らかに目立ちたがりの新郎新婦はともより、ひーさまもキヨミも動じない。カンナは一人で先に立って愛想を振りまいているし、ポムは『人前結婚式です』と書いた紙を掲げて宣伝している。ついでにレンが遅れないように、気配りもしてくれた。リフトに乗っている間中、そろいも揃って下から指差されはしたけれど。
「こういう注目は初めてです。びっくりしました」
リフトの上、レンの正直な感想である。
「はい、それでは昨年このゲレンデでパートナーを見つけたお二人が、劇団『ぱぱんだん』の動物さん達と一緒に滑ってきま〜す。どうぞご注目ください」
『滅多に見られるものじゃないぞ』
海音が会場のアイスキャンドルに灯りを入れて回っている間、タマは上からの合図で司会を始めている。ちょうど日も暮れる寸前、白っぽい衣装の新婦はいささかはっきりしないが、動物スキーヤーと新郎は見える。最初に滑り始めたのは、キヨミだ。狼の彼が先頭を切ると、なかなかに勇ましい。少なくとも、ヒサの撮影している映像の中では。下からは影にしか見えないだろうが。
それからひーさまとカンナが滑り出し、新郎新婦、フラワーガール風の衣装のレンとポムが続く。どこから出してきたのかとダミアンがいぶかしむサーチライトが、懸命にこの一団を追うのだが、なかなか追いつかない。そしてキーちゃんに『遅いな』と酷評された。
ライトは追いつかないまでも、タマの実況は滞りなく続いているし、海音はキャンドルを灯し終えた。ダミアンは皆が降りてくる頃を見計らって、スキーの着脱の手伝いに向かったが‥‥
「撮影隊から連絡です。新郎新婦のご要望で、これから動物さんがスキーでジャンプをしますー」
聞いてないよと、下で待っていた関係者どころか、撮影係も、もちろん動物スキーヤー達も思ったのだが、多分一生に一度のこと。お祝いなのだから、多少の我侭には応じてあげたい。依頼主でもあるのだし。
それで中級コースあたりから、ポムとカンナが前に出て、エアリエルの簡単なのをご披露したが‥‥カンナはそのまま先へ行ってしまいそうなので、ポムが必死に止めている。新郎新婦はけらけら笑っていた。
『あれはあれで仲良くやっていけるかもしれない』
後刻のひーさまの感慨深げな一言であった。
その後、海音が屋外の悪条件もなんのそので歌を添える人前式会場で、スキーウェアにドレスやスーツ風の衣装をまとった新郎新婦がバージンロードを歩いている。その背後から、ポムとレンが花びらをまいて、結婚式ムードを高めていた。
人前式なので壇上で結婚の誓いを述べるだけだが、キヨミの提案で結婚の誓約書が用意された。それはひーさまが壇上に届けて、タマがアナウンスする中で署名がされ、最後に。
「では、ここで参列者代表として、お二人が知り合うきっかけになった『ぱぱんだん』のパンダさんに手形で署名をしてもらいましょう」
このためにダミアンが必死に作った、パンダの足型風手袋をしたカンナが、誓約書の台紙にぺったりと手形を押した。誓約書でないのは、失敗したら大変だからだ。それに新郎新婦は大喜びでも、両親はそんな子供の様子に呆れていたので、ちょっと遠慮気味。『ぱぱんだん』が遠慮したって、新郎新婦が好き勝手をやっているのでどうしようもないところはたくさんあるが。
それから新郎新婦とその親族、友人との集合写真を撮って、人前式は無事に終わったのである。
けれども。
「おおまかな編集はこんな具合だが、変更したほうがいいところがあれば‥‥あんたら、ちゃんと見たのか?」
スノーモービル上からと会場での撮影を終え、すぐさまビデオの編集に入ったヒサが真夜中に催した試写会の席で、他のメンバーは疲れ果てていた。人前式の後、お祝いのワインを振舞っていた彼らは記念撮影だといってはスキー客に引き回され、アイスキャンドルを分けてくれとか作り方を教えて欲しいとかで忙しく、腹話術だとまとわりつかれしているうちに、二時間は無料奉仕をさせられたのだ。ホテル側もレストランの集客に役立ったからとおいしいものを用意してくれたが、会場に作ったアーチが崩れないうちに片付ける人手のやりくりがつかず、無料奉仕の後にヒサ以外の八人で夜も更けてから凍ったアーチを綺麗に片付けた。温泉にはつかったけれど、けっこう皆疲れている。
おかげでヒサが編集し、光の補正も済ませた素晴らしい映像は、ひーさまとダミアン以外はよく見ていなかったのだが‥‥そういうのに限って、半分寝ながら拍手していたりする。
「ほら、寝るなら自分の部屋に行かなきゃ。隣だよ。今日は大広間じゃないからね」
ふらふらしているレンを海音が連れて行き、勝手に男性部屋の布団にもぐりこもうとしているカンナをポムとタマが引きずろうとして叶わず、最終的にひーさまがおぶっていった。その前にダミアンに散々起こされたが、寝ぼけて抱きつかれて閉口している。
結局のところ。
「あんたの意見だけは確認したい」
演出にはそれなりの経験があるダミアンを横に、ヒサは編集作業を続行した。
その映像は、参加した全員にもダビングして配られ、キヨミが『デビュー前のお宝映像になるといいなぁ』と感動していた。
ちなみに動物スキーヤー達の素顔は、当然ながら一カットも映っていない。