後輩育成〜運試し!中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
龍河流
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/28〜02/03
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●本文
「ああ、おじいさま、おばあさま、どうして私を置いてきてくれなかったの」
「ここまで来て、今更嘆いても無駄ですよ、シンデレラ」
「私も連れて来られたクチだから、言うのならパナシェに言いなさい」
アフリカ某所の砂漠の端のある町で、陽光の反射にぐったりしている孫娘に対して、祖父母が平然と言い放っていた。砂漠はどこまでも広く、町はかなり小さい。一応ホテルもあるのだが、ここに来る物好きな観光客は少ないようだ。
ただひたすらに広がる砂漠の、その光景はなかなかのものではあるのだが‥‥他には何にもないので。
そんな小さな町に、毎年やってくる人種も様々な男女がいる。シンデレラの祖母パナシェを筆頭に、年の頃は五十代半ばから六十代。職業はなんだか不明だが、芸能界の様々な職種に属するという話だ。実際に写真集の撮影などで何度かその恩恵にあずかった事がある町の人々は、この話を疑わない。疑われても困るけれど。
例えば現実にシンデレラの祖父のアレキサンダーはモデル事務所の社長だし、祖母のパナシェの友人にはスタイリストやカメラマンもいる。彼らはもう三十五年ほど前にこの砂漠で大きな仕事をしたことがあり、現在はここで仕事に追われない何日かを過ごして、旧交を温めるために集まっているのだそうだ。
それが表向きの理由だなんてことは、余人には知られなくてもよい。
「ところでパナシェ、砂漠に落ちた砂金を拾うって、どういう意味か知っているかな?」
「ものすごく困難なことを示す言葉ですわね。でも大丈夫。我々が探しているのは、砂金よりはよほど大きい仮面ですからね」
「三十五年も見付からないのに?」
「だまらっしゃい! シンデレラ、何をしているの?」
その昔、シンデレラの曽祖父、パナシェの父親は『後進の育成』とほざいて、世界各国の様々な場所にアライグマの仮面をばら撒いては若者達に回収させていた。仮面がアライグマなのは、当人がアライグマ獣人だったからだ。
このしごきに巻き込まれた当時の若者はけっこういたが、それでも見付けられなかった仮面が幾つかある。一線を退いた彼らは、今になってそれらを探すことを楽しみにしているのだが、この砂漠のどこかにあるはずの仮面だけは毎年探しているのに、なかなか見付からない。
今年はとうとう、若い者も連れてきて、なんとか探し出そうではないかとパナシェを始めとする以前の若者達は思っているのだった。
けれども。
「砂の山を作っているんですわ、おばあさま」
現代の若者の一人で、貴重な戦力であるはずのシンデレラは、砂遊びに熱中している。彼女を加えたところで、情況が好転するとは考えにくかった。
「仕方ないわね、他にも呼びましょう」
「私はね、パナシェ。諦めたほうがいいと思うよ」
アレキサンダーは妻に貴重な助言を繰り返したのだが、聞く気がないパナシェの耳には入らずに終わってしまった。
今を遡ること三十五年前。
『一ヶ月前に、この辺に埋めておいた仮面を探し出せ』
そんな一言で始まった仮面探しは、金属探知機とダウジングロッド、スコップ、鍬などの色々な道具を揃えて、今年も再開されようとしている。
参加する先達は十一人、それからその孫が一人。
そして、
「八人来たらきりがいいわねぇ。何を買うときも計算がしやすいし」
という誰かの一言で募集された若者八人を加えた二十人の手によって。
見付からなかったら、きっとまた来年なのだ。
●リプレイ本文
三十五年も前に砂漠に埋めた仮面を探す。宝探し気分で楽しいかもとやってきた源真 雷羅(fa0163)や、彼女と顔見知りのフゥト・ホル(fa1758)、甲斐 高雅(fa2249)は一様に『やっぱり』と呟いた。なにそれと相馬啓史(fa1101)と問われてハトホルが答えたのが。
「美味しいものが食べられると思うわよ」
言われて、小塚透也(fa1797)はそうかもしれないと納得した。なにしろ彼らを集めた先達の皆様は、とても楽しそうだったからだ。現在は、どうも日頃から獣化する習慣があるらしい群青・青磁(fa2670)を取り囲んで、被っている覆面を剥ぎ取ろうとしているのか、単にもみくちゃにして遊んでいるのか分からない状況だ。モハメド・アッバス(fa2651)には、巻き込まれたくない光景である。群青だって抜け出したいだろう。
「そろそろ、仕事に取り掛かる頃合でござろうか?」
七枷・伏姫(fa2830)が、皆がその目で見えるのかと多少の差はあれ思った糸目で取り出した地図を眺めている。この町と周辺の地図だが、簡素なものだ。
ともかくも、群青と先達の皆様、その孫のシンデレラをさておいて、七人は真面目な顔で地図を取り囲んだのだった。残りの人々も、しばらくしてから合流はしたのだが‥‥
仮面が埋められた砂漠は、町から十キロほど離れた地域だった。三十五年前から現在まで、目印にするのは隣の町まで繋がる幹線道路の標識から東に一キロと言う、いい加減なものだ。
「砂しかねえってことだな。シンデレラ、これじゃパラソルは立たねぇぞ」
一度は現場を見ておかねばと、車数台に分乗した二十人が辿り着いたのは、まさに砂漠。日よけにパラソルを立てようとしているシンデレラにライラが止めとけと言う通り、棒を立てたら風で倒れる程に砂が良く動く。日除けは車を使用して作るのがいいようだ。
日除け作りは力仕事に自信があるけーちゃんこと相馬と、ライラ、伏姫の三人が請け負った。現地確認だけで切り上げるとしても、直射日光を避ける場所がないのは辛い。全員日差し対策はしていたが、それだけでは足りないだろう。
「印もしてないんなー」
けーちゃんが嘆き混じりに呟いた通り、『この砂の中に埋もれていたら、どこに移動しているか予測不能』と先達の皆様は、これまでの調査地点を控えておくことすらしなかったのである。素人考えでも、それで見付かるはずはないと断言できる。
おかげで広範な地域に及び、発見の望みが薄い仮面探しは『一から始まる』ようだ。仮に調べた地域が判明していても、『風が強ければ一時間で風景が変わる砂漠では無駄』というのも確かにそうかもしれないが。当てずっぽうよりは幾らかましである。
そして、その『幾らかまし』に期待して、カイ君は片手に今まで見付かった仮面を、反対の手にサーチペンデュラムを下げて、地図を睨んでいた。このサーチペンデュラムという首飾り、運が良ければ探し物のありかを示してくれるのだ。ゆえにパソコンで拡大印刷したこの周辺の地図を前に、カイ君は念を凝らしている。
「占いみたいなものか。それなら方法は色々あるな」
ならばと、群青が放り出したのは下駄だ。天気占いではないが、落ちたところを掘り返してみればどうだと言うことらしい。タバコをふかすのに飽きたか、それとも先達に弄られるのが嫌なのか、どんどんと皆から離れていくが砂丘の向こう側でも行かない限りは問題ない。障害物がないので、多少遠くても姿が見えるからだ。
それとは対照的に、トーヤとモハメド、ハトホルは『ここにはない』という方向性に傾いていた。思っていたより町から離れているが、『元は砂漠だった』と強引にこじつけて町のどこかにあるとか、町の住人がとっくに拾ってどこかに飾っているとか、『引き際の見極め』などの教訓付きでもともとないとか‥‥その他諸々の憶測が彼らの中では飛び交っている。
「あってもなくても、あの様子だと構わないって気もするけどな」
「事実であろうな。この装備の数からすると」
トーヤがいうことを不謹慎だとは言わず、モハメドは用意されたトランシーバーの数を見て頷いた。用意されているのは人数二十人に対して十五個。GPSの装置はカーナビの流用なので重いが、これまた同数。水や食料はやたらと一杯だが、全員で地道に作業するつもりがないのは明らかだ。つまり、彼らが言うとおりに『見付からなくてもあんまり気にしない集まり』なのだろう。
ハトホルも『色々な経験を聞けたら楽しいけれど』と、顔馴染みの先達の皆様の様子を窺っている。
「よし、反応が出た!」
ちょうど日除けテントも張り終わり、先達の皆様はもちろんお茶の時間としゃれ込んでいた所にカイ君が叫んだものだから、離れていた群青が戻った頃には地図を覗き見るスペースもないくらいの押し合いへしあいが展開されていた。
もう一人出遅れたシンデレラが、その群青に差し出したのは、長くてにょろにょろしたものだった。
「せっかく捕まえましたのに、誰も見てくれませんわ‥‥」
なんとなく、シンデレラの頭をなでてやる群青だった。おかげで二人揃って、どんどんと話から取り残されていく。
だがしかし、この二人は他の人々と違って、『機械もロッドもわかんないからいいや』という直感勝負の人々だったので、特に問題はなかったのである。どちらも人がいないほうへ行きたがるのが問題だったかもしれないが。
それでも一応、二十人を二人一組に分けて、サーチペンデュラムが反応したおおざっはな区域を等分し、念入りに調べることになったのである。
「よっしゃ、力仕事なら任せてくんな!」
「俺もー!」
ライラとけーちゃんほどやる気はなくても、基本的に若人は力仕事担当で作業開始である。なにしろ、うかうかしていると砂と一緒に仮面も移動する可能性がある。
それから三日後。
「町の中で歩けるところはくまなく歩いてみたわ。でもそれらしいものもないし、珍しいものが見付かったという話も聞かないわね」
午前の早い時間と、夕方から宵の口に掛けてを捜索時間にあて、昼前後は町で昼寝をするなり何なりと過ごしている一行は、本日の捜索を切り上げたところだった。これまでに見付けたもの、蛇、サソリ、蛇、木の板、何故か埋まっていた鉄のバケツ、また蛇、そしてネズミ。ちなみに蛇とサソリとネズミは、シンデレラが捕まえてきたものだ。
ハトホルとしては、雇い主達を喜ばせるためにもぜひともシンデレラに仮面を発見して欲しいのだが、当人が目的を忘れ去っているのでどうにもならない。そしてモハメドとトーヤも町の中は探したのだが、金属探知機は生活用具がどんどん引っかかるので役に立たず、カイ君のサーチペンデュラムを借りて探したが反応なし。二人で手分けして先達に尋ねたところでは、一応『このあたりに埋めた』と現在捜索している地点をじかに示されたのは間違いないようだ。
「ダウジングなん試してみん? ブツはヒカガクテキかもしれんけん。なんか出てくるかもしれんしー」
「ペンデュラムが砂漠でしか反応しないのは、あちらにあるからかもしれないか。この際、念入りに試してみる価値はあるな」
サーチペンデュラムがけっこう反応するので、つい初日に試しただけだったダウジングロッドをひょこっと顔を出したけーちゃんが勧める。自分でやると言わないのは、彼の本日の口癖が『はんかくせーっ!』だったからだろう。どうやら、彼の生まれた地方の表現で、『面倒くさい』との意味らしい。
勧められて、金属探知機唯一の反応がバケツだったモハメドが乗り気になった。
「俺もこういうの持ってきたんだし、やってみるかな」
トーヤも幸運のお守りアイテムを複数取り出して、撫でてみたりしている。ここまで来ると、本当に運試しだ。なにしろ、砂漠は毎日行く度に、そして帰り際に見るときにも姿が違う。今のところ誰も、シンデレラも群青も、一度足腰の鍛錬だと走ったライラとけーちゃんと伏姫も行方不明にならなかったのが幸運だと思えるほどである。
実はこの頃、伏姫は皆が話しこんでいるのを横目にホテルを出て、砂漠を走っているところだった。今回は足腰の鍛錬ではなく、都会では出来ないことをするためだ。人目の多い都会では、俊敏脚足と呼ばれる能力を解放しての全力疾走など滅多に出来るものではない。それも完全獣化しては特に。
砂漠で探し物だというので、これが出来るだろうと見込んで話を受けたのは間違っておらず、伏姫は全力疾走に、月夜の砂漠で『吠える』という望みを存分に果たしていた。ちょっと、癖になりそう。
とはいえ、まっすぐ行って帰るだけだからと何も準備せずに出かけようとした彼女を見咎めたパナシェが、『行くな』と言わずに貸してくれたのはコンパスだ。後は水。これだけあれば、町から離れて灯りが見えなくなっても帰れるからだろう。
「‥‥道に迷われたことがあるのでござるか?」
忍者みたいと、偏った知識の先達の皆様に大喜びされた伏姫だが、案外度胸があるようだ。問われたパナシェはにーっこりと笑顔になると、こう返した。
「それはもう、何度迷って迷わされて、何回死にそうになったことか」
宝探しの道は、険しい。
そして、伏姫とシンデレラ相手にゴシップ記者との戦いを語っている群青以外の若人が集まって明日のことを話しているというのに、先達の皆様は酒盛りをして楽しんでいた。
「仮面そのものより、こうやって探しているのが楽しいみたいだね。あんなに一生懸命探すからには、他にも理由がありそうだけど」
カイ君は、パソコン画面で本日探した地域を地図上にチェックしながらぼやいている。皆が探した地域のど真ん中にまで砂が移動することは考えにくいから、これで多少は範囲の絞込みを計るのだ。来年があったら、もうちょっとどうにか効率化を図りたいものである。
「でもやっぱり、なくても平気だと思うぞ」
トーヤが言うのも最もで、酒盛りしている先達の皆様は全然残念がってはいない。『明日こそ』と乾杯して盛り上がっているのだ。見付けたしまったら、案外恨まれるのかもしれなかった。皆で集まるには、ちょうどいい理由なのだろうし。
その説に、思わず頷いてしまった六名は、だが仕事の手を抜いてもいいとは思わない若人だった。
「見付けても、埋めなおす?」
今度のトーヤの台詞に、手を打ったのが何人かいたとしても。
そして、更に二日後。
「見付けたーっ!」
そろそろ一度引き上げるかと皆が思い出した昼前に、本日のサーチペンデュラム反応地域を捜索していたシンデレラが歓声を上げた。すわ一大事と駆けつけた一同に差し出されたのは、トカゲ。おそらく砂の中で太陽を避けていたのを掘り出したと思われる。
「ほらほら、背中が真っ青。美しいトカゲですわよ」
「そんなに動物が好きなら、動物カメラマンになりなさーいっ!」
「それは困るよ。妻も子供も孫まで世界を放浪する職業では、私が寂しいじゃないか。パナシェがずっとそばにいてくれるならいいけど」
この人達ってとハトホルが溜息をつき、達観と言う名の傍観を決め込むことにしたカイ君やライラ、それを見習ったトーヤとモハメドと伏姫が、不思議とシンデレラに甘い群青と、珍しいものを見て素直に喜んでいるけーちゃんを生暖かく見守っている。シンデレラは祖父母に挟まれて、トカゲを弄り倒していた。確かに背中が真っ青なトカゲは珍しいが、仮にもモデルがそれを手にした写真がどこかのファッション誌に載るとは思えない。彼女が仕事もせず、祖父母に引っ張りまわされている理由に納得し、ついでにわが身を振り返った者が何人か。
いいのだ、これだってちゃんと給料が払われる仕事なのだから。
ところで。
「シンデレラ、その手にしているのはなんだ? ちゃんとした道具を使え」
この人は、もしかすると子供とそういう雰囲気の人には親切なのかもと、ホテル周囲での様子を皆に思い出されていた群青が、シンデレラの手にしているものに目を留めた。どう見ても、それで砂を穿り返していたのだろうが、細長い木片に見える。
だがしかし。
「シンデレラーっ!!」
パナシェの怒声が響いた理由は、シンデレラが『一昨日見付けましたのよ』とほざきあそばした細長いものが、真っ二つに割った仮面だと判明したからだ。仮面の裏には『目標が常に完璧な姿とは限らず』と書かれていた。確かに遺跡の出土品などはそうだろう。
ここで、こういう経緯で見ると、ちょっと腹が立ってもいいかなと思ったりするのは、一人二人ではない。すでにお亡くなりになって十年、パナシェの父親にしてシンデレラの曽祖父は、相当イイ性格をしていたようだ。
「さ、残り半分にいきましょうか」
ああ、自分も早くこういう立場になりたい。なにやら恐ろしいことをおぬかしになったハトホルの掛け声で、若人はのろのろと作業に戻ったのだった。
群青以外にも、靴を蹴飛ばして落ちたところを掘る人や、ダウジングロッド使用者がいきなり増えたのが、彼らの気分を如実に表している。
伏姫は、燦々と輝く太陽の下で『昼間に吠えるのなんか、もっと出来ないのではなかろうか』との考えに取り付かれ、しばし立ちすくんでいた。
そして、本年の捜索最終日。
「埋めちゃえ」
トーヤは、ダウジングで探し当てた仮面の半分を手に、そう呟いた。見ていた人々も、頷いた。
だって、仮面の裏には書いてあったのだ。
『目標が常に完璧な姿とは限らず。カンパリ』
『自分で見付けたいだろうと思って。アレキサンダー』
これを見て、埋めなかったら嘘である。
これで、また来年?