まめのスタジオ探検アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 千秋志庵
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/20〜09/26

●本文

「犬がいなくなっただって!?」

 怒号がスタジオから聞こえてくる。興味本位でそちらへと耳を傾けると、内容はとてもシンプルすぎるものだった。
 バラエティ番組の撮影として借りてきた犬が、慣れぬ環境に興奮してスタッフの下からどこかへと逃げ出してしまったようだ。広い撮影スタジオを隅々まで探すのにも限界はあるが、これから新しい犬を手配するのにも時間はかかる。
「さっきわんちゃんが走ってたんですけど、誰のわんちゃんですか?」
 遅れて来たADの証言では、犬は進んで人のいる場所へ行っては一通り可愛がってもらい、満足しては違うスタジオや楽屋に向かっていっているらしい。
 それならば証言を追っていけば辿り着けるのではないか。
 手の空いているスタッフと、協力を申し出た出演者らは、犬の行き先を追ってスタジオを出て行った。携帯を手に同スタジオで撮影中のスタッフに連絡を取る者あり、芸能人に連絡を取る者もいる。
 犬種はウェルッシュ・コーギーで、メス。いなくなった犬は人懐っこく、噛み付いたりすることは滅多にないと言うので、その点だけは安心だ。名前はまめ。呼べばすぐ駆け寄ってくると言う。

●今回の参加者

 fa1396 三月姫 千紗(14歳・♀・兎)
 fa2459 シヅル・ナタス(20歳・♀・兎)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa3351 鶤.(25歳・♂・鴉)
 fa3651 海鈴(16歳・♂・猫)
 fa3860 乾 くるみ(32歳・♀・犬)
 fa4354 沢渡霧江(25歳・♀・狼)
 fa4612 黒戸シロー(30歳・♂・パンダ)

●リプレイ本文

 わんわんとどこかで鳴き声がして、それはすぐに甘えたようなくーんという鳴き声になる。ひょこっと顔を出したコーギーは、嬉しそうに尾を振ってしばらく気の済むまで頭を撫でられると、きちんと閉めていなかった楽屋のドアから出て行ってしまった。
 すぐにドアをノックしたスタッフによると、あのコーギーは収録の間際に逃げてしまった犬らしい。別に手配するのも面倒云々の問題で、手の空いているスタッフ総出で捜索に駆られているらしい。
 それは相沢セナ(fa2478)らが収録予定の番組に出演する犬で、確か名前はまめと言う。発見し次第収録は再開されるが、まだこの段階では待機するしか出来ずに、こうして彼は楽屋にいる。一通り教えてもらったまめの特徴を手帳にメモし、特にすべきことを失ったために手伝おうとゆっくりと楽屋のドアに手を掛ける。
「あ、まめだ」
 楽屋の外に出ると、丁度そこでまめがちょこんとお座りをしていた。妙に大人しいと思いきや、誰かに頭を撫でられている。
「何か用ですの?」
 シヅル・ナタス(fa2459)は撫でる手を止めることなく、セナに言葉を向けた。彼女も同じ番組の出演者。当然、ことの成り行きくらいは知っているはずであり、セナは「まめが見つかって良かった」と素直に感想を漏らした。だが高速で視線を逸らされたシヅルに疑問を持つ。
「そう言えば、スタッフの人には連絡した?」
 疑問に、シヅルは言いにくそうにまだと答えた。
 理由を問うのも何だか悪い気がして、セナは自分が連絡しようと楽屋に一度戻って携帯を取ろうとする。だがその背を向けた一瞬の内に、シヅルの小さな悲鳴と共にまめはどこかに逃走を再開してしまった。ぽつんと残された共演者に向けて、セナは聞いた。
「もしかしてなんだけど、携帯とか連絡手段持たずに探してた、とか?」
 返答は無言。
 つまり、肯定。
 じゃあ、今度は一緒に探そうか、と。
 その返答には、
「勝手になさい」
 だったので、なら肯定でいいかと勝手に解釈して、セナは携帯を取りに楽屋の中に入った。

 次にまめが顔を出したのは、撮影スタジオだった。
 最初に発見したのは、エキストラとして待機していた三月姫千紗(fa1396)だった。事前にスタッフから経緯を聞いていたため、まめと目が合った直後に行動を開始する。小腹を満たそうと持参してきていた六ピース九百三十円で売られている某フライドチキンを餌に釣ってみようと、視線の先で揺らしてみる。
「‥‥くう」
 某金融CMのように、まめがうるうるとした瞳でこちらを見ている。
 堪らず、千紗は渡そうと手を伸ばしかけて、確か犬に骨付き鶏肉はまずかったのでは、という事前知識が脳内を流れる。
 考えている間に別のことに興味が移ったのか、まめはスタジオを出て行ってしまった。
 どさっと、直後に千紗の前に何かが倒れてくる。
「何してる、のかな?」
「いや、決して怪しい者では」
 きょろきょろと黒戸シロー(fa4612)は辺りを見渡して、大きな溜息をついた。
「フライドチキンでまめちゃんがじっとしてて捕まえられそうだったから特攻かけたんだけど、逃げられたしがないカメラマンです」
 見れば手にはジャーキーの棒が握られている。
「それじゃあ、次行ってきます」
 行ってらっしゃいと手を振って、千紗はシローのうな垂れた背を見送った。
 新人は大変だなあ、と心の奥で思いながら、持ったままのフライドチキンをかぶっと食べた。

 廊下で珍しく友人に声を掛けにくかったという事象を、今現在海鈴(fa3651)は保有している。例えば、何か深刻な顔をして、ぶつぶつと何か言いながら早足で歩いている沢渡霧江(fa4354)に会ったとき等。だからといって無視するのも変だったので声をかけると、まめという名の犬がどこかに逃走しているのだという話だった。
 霧江の方はと言えば、クライアントである人気俳優をスタジオまで送り届けた後、手が空いているなら、ということで捜索に加わっていたそうだ。
 対策を二人で話しながら歩いていると、後方をじっと見つめている鶤.(fa3351)に遭遇した。
「犬って、今の‥‥逃げてたのか」
 少し申し訳なさそうな顔をして、鶤.はまめの逃げていった方向を見やり、ややもして指差した。
「それじゃあ、目撃者ってことで協力してよね」
 そう言って霧江が捜索陣から渡されたというジャーキーを鶤.も分けてもらい、三人で廊下を進んでいった。

 廊下の先、楽屋の一室では、収録を終えたばかりの乾くるみ(fa3860)がその光景に軽く首を捻っていた。どこから侵入したのかは明らかではないが、コーギーが一匹、床でころんと寝ていた。確かスタッフ間で問題になっていたまめとか言う犬だろう。
「‥‥いや、あのねぇ。確かにテレビ局は楽しいところだけど、お前さん。下手すると今後テレビ局出入り禁止ー! なんて事にもなりかねないんだぞ」
 うりうりと鼻先をつつくと、気になるのか夢心地でぺろぺろと舐めてくる。
「ここに来るまでだいぶ遊んで貰ったみたいだけど、あーいうきれーなおねーさんたちとも遊べなくなっちゃうんだぞ? ちゃんと聞いてるかー?」
 お腹をわしゃわしゃ撫でまくると、つられて後ろ足が宙を掻く。はっとして目が覚めたのか、まだ寝たりない様子で抱えあげたくるみの腕の中でうとうと目蓋を落とし始める。
「とりあえず探してるだろうし、スタジオ戻るわよ」
 楽屋を出たところで、まめを探しているという海鈴ら三人に出会い、事情には明るい彼らに託すことにする。別れ際にその頭をわしゃわしゃと撫でる。
「次やったらプロダクションのお仲間に全部ばらすからね、まめ?」
 その言葉に「くうーん」とまめが小さく鳴いて、満足そうに再び眠った。
「捕獲かんりょーぉ!」
 と海鈴が頬を寄せて喜ぶ。
 見つかったとの報告は傍にいた鶤.の連絡によって即時にスタッフ間とその手伝いをしていた芸能人の間に広がり、ほんの僅かな冒険に幕が下ろされたのである。

 ――今のところは。