季節はずれの肝試しアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
千秋志庵
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/27〜10/03
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●本文
「肝試し開催 夏にやり逃した方歓迎! 参加希望者は幹事(オミ)まで」
そのようなことが書かれたチラシが、事務所の一番目立つところに貼られていた。
少しだけ季節外れの肝試しを最初に企画したのは、誰だったかは覚えていない。仲間内で誰かが企画して、皆が同意して。結果として、いつの間にか日程と時間と場所まで確保されていた。幹事となった方でさえどうして自分が取り仕切る羽目となっているのかは理解していないのだろうが、本人としても楽しんでいるからして問題はないだろう。
困ったことに、参加者のスケジュール調整も完璧だとか。何故そこまで娯楽に時間を割くのかは分からなくもない。単なる息抜きだろう、というのがほとんどの意見で、やはり概ね正解のはずだ。
場所は某トンネル。車を保有しているメンバーの運転で幹事の先導によってそのトンネルまで行って、数人のグループに分かれてトンネルを往復してくるというものである。トンネルは古く、いわくは不明ながら怪奇現象が頻発し、今では余程のことでなければ深夜に利用する人はいないと言う。怪奇現象の種類は、血まみれの女性が立っていたり、耳元で死を囁く声が聞こえたりと様々だ。また、特に霊感の強い人にはキツイ場所というのが、幹事から知らされたデータである。夏場は勿論興味半分で訪れる人が多いが、この時期になってしまうと遊びでやって来る人は滅多にいないらしい。
参加者は下記アドレスにメールを、とあり、そこに送れば飛び入りでも参加は可能だと言う。
●リプレイ本文
一足先に到着していたせいもあるだろうが、夜の怪談スポットと言うのは心細い。感想が「怖い」でなく「淋しい」と感じてしまうのは、まるで現世界にぽつんと取り残されてしまっているかのような、そんな感覚に陥ってしまうからなのかもしれない。
幹事のオミは事前に貰っていた参加者リストに目を落として、やってきた参加者に簡易にではあるが今回の企画を説明する。
トンネルの由来は不明。
誰かが死んで、取り憑いたという証拠もない。
それでも『何が』がいて、時折霊感のある人を通して目撃談が出る。――確かその関係だったか、どこかの事務所で実態をつかもうと企画しているという話を掴んだ。後半は伏せておいて、トンネルの先に事前に置いておいた缶ジュースを持って、こちら側へ帰ってくれば良いという単純なもの。
不審者の類が心配だということもあり、数人で一グループとして行動をしてもらう。女性だけだとグループとしての意味はないかもしれないから、考えておくべきかもしれない。
「ま、万が一ってときは携帯あるから、平気だと思うけど」
参加者がトンネルへと消えていくのを見送りながら、一番に戻ってきたグループから缶を受け取る。芸能人というだけあってすぐに仕事があるらしく、軽い挨拶を交わしてすぐに車の方へと戻ってしまった。
遅れてやってきた人達にも同じ説明をして、オミはその背を見送り続ける。
霊の心理がどういうものかは分からない。そもそも、存在するのかどうかも疑わしい。
「でもさ、こういう雰囲気だと出辛いって感じるだろうね。少なくとも、私だったらそう思う」
「確かに。でも、こういう雰囲気という方が、引き寄せるってことはないですか?」
「引き寄せて‥‥も、何だか出番入らずって、そんな気がするなぁ」
トンネルの中を軽やかに歩きながら、月影愛(fa2814)は楽しそうに言う。霊感がないというからだろか、信じていないかはさて置き、きょろきょろと辺りを見渡しては持参したデジカメを正面に向けている。
「だってほら、適任者が前にいるし」
それは可哀相な言い方ね、とどちらを擁護しているのかは分からない風に、大曽根ちふゆ(fa0189)は口元に手をやって苦笑した。愛と違って、ちふゆには霊感らしきものがある。前列を歩いている二人が特に霊を刺激しなければ良いのだが、この様子では少しばかり先行きが不安になってしまう。
「一応、忠告はしたんですけどね」
霊を刺激したり、不用意な行動はするな、と。
写真を撮ることが目的の高遠聖(fa4135)には土台無理な話であっただろうが、彼も
「努力はするよ」
と、一応は同意をしてくれたので良しとしよう。
そうは言ったものの、生活が掛かっている以上は全面的に信用出来ると思えない。現実として、前衛から愛を被写体としつつも、しっかりとトンネル内部の写真を撮っている。
移動中の車内で口を酸っぱくしていたつもりだったのだが、あまり意味はなかったのかもしれない。溜息に、愛が笑って「そういえば」と話を切り出す。
「車で移動の方が、遭遇率高いかもしれないかな。ほら、テレビで良くあるみたいに、フロントガラスに手形が‥‥って」
「それも悪くないと思うけど、こういうのって遭遇率が低いからいいってものなんじゃないかしら?」
「うー、納得」
既に慣れたモノで、不意打ちに近いDESPAIRER(fa2657)の脅かしにもノーリアクションで考え込んでしまう。
「‥‥リアクション、薄くなってきましたね」
例えば、こうして少し淋しそうにしているDESPAIRERにしても、先程からずっと人を驚かし続けている。ナンパ師が口を開くと全て口説き文句なのと同様に、これも癖なのだろうか、と思いながらも、最初は本気でびびってしまっていた。多分、霊以上に。それも車内での移動中からであったので、運転をミスしないで無事に着いて来られただけでも、奇蹟なのかもしれない。別段、本人としては驚かすつもりはないらしい。出てくる雑談の中で、仕事の話をすると自然にこうした結果となってしまう。
実演しなくてもいいのに、と思いながら、やはりリアクションが良いと話しがいがあるのだろう。嬉しそうにして、話を続けるのだから困ったものだ。
トンネルを抜けて、結局は何も起こってないことに安堵しつつ、言われた通りに缶ジュースを手に取って同じ道を戻る。
「‥‥‥‥」
ただ独り、ちふゆだけが真剣な顔を宙を見上げている。
「ずっといるのに気付かれない、ってのも、不憫ですね」
聖のカメラには写っているかもしれないが、基本的に愛とDESPAIRERにしか一眼レフを向けていないような気がする。先にトンネルの中へ入ったグループによると、一番必要なのは『認識』することだそうだ。
丁寧に一つ頭を下げて、トンネルを出ようとしている三人に置いていかれないようにと、ちふゆも駆けて行った。
全速力で逃げる。
逃げる、逃げる、逃げる。
「よし、完璧だ‥‥」
思考を行動に移そうとして、首根っ子をむんずと掴まれた。
「何が完璧なんですか。先に行っては、班分けをした意味がありません」
斑鳩透馬(fa4348)は呆れた声を出しながら、進藤恵夢(fa4553)の体から手を離す。へなへなと恵夢はへたり込みながら、上目使いで透馬を睨みつける。
「『逃げろと言われたら、原因を確かめずに逃げるのが鉄則』って、女将が言ってたから――」
「それは火事の場合の鉄則です。ここでは関係ありません」
不服なのか照れなのか、ゆっくりと立ち上がった透馬の腕を、がしっと沢渡霧江(fa4354)が掴んだ。
「今の音って、‥‥アレかな」
「アレ、かも。でも静かになったし、もう平気なのかもしれないよ」
「でも、やられちゃったとか」
「!? だって、前のグループってアレよ、アレ! 相当な使い手なのに、あり得るのかしら」
「相手が相手なんだ、きっと。アレならあり得る」
「お二人さん、いい加減『アレ』だけで会話を続けるの、止めてくれへん?」
変に想像力をかき立てられるから、と困ったように笑う観月紫苑(fa3569)に、恵夢と霧江は揃いに揃って、
「だって、怖いんだもん」
とユニゾンした。
確かに、怖い。自分達が見たという訳でもない分、余計にあれやこれやと悪い方向へと想像が及び、自分で自分の首を絞める結果となる。
ほんの数分前。
悲鳴が聞こえた。
「たった、それだけじゃないか」
透馬にしてみれば、一言で終わるらしい。紫苑は乾いた笑いを浮かべて、「それでも怖いもんは怖いんや」と二人の手を取った。
「はい、乙女心を傷付けた罰として、透馬君が先陣切ること!」
何事か文句を言おうとするも、透馬は「男を見せてやります」と不適に笑って見せて足を進めた。紫苑の両腕には気持ちの良い感触、もとい、恵夢と霧江がしっかりと掴んで離さない。きっと何かあれば、逃げられへんな、等と呑気に思いながら、意外とこの構図が安心することに安堵した。
「上空に、注意――ですよ?」
通りすがりに、既に缶を手に入れたグループとすれ違う。先に歩いている三人からはぐれたマネージャーらしき女性が、紫苑の耳元にぼそりと何かを呟く。
「へ、なんやねん」
上空上空とぶつぶつと呟きながら、紫苑は何となしにトンネルの天を見上げてみた。変な黒いシミは幾つもあったが、女性の言っていたことはそういうことではないような気がする。
「‥‥?」
視線の端に、何かが映る。紅いものが浮いている、と思ったのも一瞬。
――彼女はにぃっと、まるで『生きている』かのように綺麗に微笑んだ。