地下迷宮〜side A〜アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
千秋志庵
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
1人
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期間 |
10/18〜10/24
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●本文
認識としていつからそこに存在していたか等、知ることはもはや不可能に思える。それならば、今からでも少しでも知ることは、決して悪いことではないだろう。
「‥‥以上、自己弁解完了」
仕事上の理由から、幼少時からしょっちゅう秘密基地として使っていた洞窟――否、遺跡と言うべきか――に足を向けてみた。当時は本能的な怖さからか入り口附近だけを縄張りにしていたのだが、古い友人に聞いてみてもこの遺跡深部がどうなっているのか知っている者はおらず、単なる遺跡と割り切るには不気味すぎるものがある。
暗い入り口を覗いて、足を踏み入れる。しかし、歩いて数分もしない内に三叉路に出くわした。
遺跡を題材とした映画のシナリオを書くための取材としてやってきたが、一人で勝手に奥へ進むよりはその辺りの事情に明るい方に同行してもらった方が安全かもしれない。
道を引き返し、光の差し込む方へと戻る。
カッコ付けにびしっと暗闇へと指を差して、また来てやることを宣言してやる。それで今は、見逃してやる、と言うように。
「これもやっぱり、負け惜しみみたいだよな」
苦笑交じりに呟いて、止めた足を再び動かした。
●リプレイ本文
事前に配られたのは、白い地に黒マジックで『遺跡探検隊』と書かれたお手製感満載の缶バッチで、付けないと付けないで無言の集団圧力が掛かってくるために、仕方なしに付けざるを得ない。
色違いのつなぎにお揃いのバッジ。
近くを通る地元の小学生が指差すが、気にしないでおこう。これは歴然とした学術的行為と、取材活動なのだと言い聞かせて車を降りた。
取材
多分、分類をするとしたら、そこに位置するのだろう。長年取り組みたかったジャンルに、漸く挑めるだけのステージに立てたというだけの話だろうが。ふいに浸った感傷から抜け出るかのように、俺は人だかりの方へと向かった。
「それでは、今回の方針を伝えます」
気を取り直して、依頼人である俺は声を上げ、視線を集める。流石プロだと言えるというのか、こういう場に慣れているのかというのか、本質的に明らかに浮いているのは俺自身だった。完全なアマチュア。その一言に尽きる。
「遺跡は内部は以前に説明した通り、入り口を入ってすぐに三叉路になっています。その夫々に分かれて、遺跡を最深部まで探査していただきます。それと、何かあった場合には無線で連絡を下さい。追って、指示します」
指示出来る能力がないかもしれない、という危惧は、意地でも言わないでおこう。
三叉路は、遺跡に入ってすぐのところにある。ちらと後方を見やって、「それでは」と小さく頭を下げて右の道を選んだ。思っていたよりも暗くはないことに面食らいながら、足を進めた。
俺達が進んだ右の道は、『遺跡』と言うのにはしっくりこない、例えるなら一般客用に整備された安全な観光地であるかのようだった。必要以上にきょろきょろするのが可笑しいのか、美角やよい(fa0791)にくすりと声を立てて笑われてしまった。恥ずかしくて思わず視線を固定し直すも、既に遅かったらしい。
「大丈夫だよ。私達プロが一緒だから、何かあっても対処出来るって」
彼女は目印になるような蛍光性の物を設置しつつ、片腕で重そうな荷物を担いでいた。ヘッドランプが、彼女が笑う度に小さく揺れる。
「それにしても、さ。‥‥なんて言うか皆、ノリノリだよねぇ」
集合場所に集まった人を見たかぎり、歌まで歌ってノリノリな人が多かったのだが、少し引いてしまう人も実際にはいたのだろう。実際、安堵してしまった感があった。
「探検隊って子供のころからよくやってましたからね、俺とかなんか地元の子なんか。だから、思い出しちゃう、とか」
「ふーん、なら一緒に歌ってみる? この歌」
「丁重にお断りします」
笑いながら言うも、BGMは止む気配はない。自然に二人とも鼻歌でユニゾンをしてしまいそうになり、慌てて口を噤んだ。
「「ぼっ、ぼっ、ぼっくらっは、遺跡たんけんた〜い」」
申し訳ないが、調子がずれている。
石榴(fa0481)と柊(fa1409)のユニゾンは、言わずもがな有名な某曲の替え歌である。特に先頭を歩く石榴はと言えば、棒を振ってご機嫌すぎる程にノリノリだ。柊は荷物持ちとして付いてきているので、自然と最後尾になる。つまり、BGMが先頭と最後尾に配置されていると言っても過言ではない。
「にぎやかだねー」
「だねー」
俺としては、荷物を預けているせいで身軽なのが救いで、そんな最中も簡易なカメラで遺跡中を撮影し続ける。ふいに、カメラの被写体がズームされた。否、石榴が立ち止まったのだろう。
「行き止まりだ」
そう言いながら附近を棒で突いてみるも、特に変化はない。どこかに仕掛けがあるのかと四人がかりで探ってみるも――手触りでしか判断の付かない俺は完全に戦力不足なのだが――分からなかった。
「どうする?」
「んー、他の人に連絡して、一旦は引き返しましょうか」
やよいは了解と、そこは探検隊らしくぴっと敬礼の仕草を取った。それを見て、石榴を柊も続く。
「‥‥俺が隊長ですか?」
今更聞くのも何だったが、改めて聞くと三人に同時に頷かれた。
結局は皆楽しむ気は充分にあるらしく、
「それじゃあ、一同入り口に向けて退却!」
退却は間違いだろ、と自分自身に思いつつ、俺は言ってカメラごと入り口に向けて、元来た道を戻ることにした。
真ん中の道は、唯の感でもあったのだが、少しばかり異質な感じがした。臭いがするわけでもなく、色がするわけでもなく。
何となく。
直感的なものに頼るだけではあるのだが、思わずそう感じてしまった。
「何だか変な感じしますね」
巻長治(fa2021)はデジタルビデオで周囲をぐるりと撮影しながら、ぼそりと呟く。怖気付いた訳ではない。遺跡だ洞窟だと言われてこの場所に来たものの、この様子は少し奇異な感じがする。
「どう思います?」
「どうって言われても、特にはないですネ。『一般的』な遺跡と同じみたいですしネ」
『遺跡探検隊』の歌を口にしていた森村葵(fa0280)は、長治の言葉に歌を途中で止めてそちらへと意識を向けた。
「ま、『一般的』というのと、『普通』というのは、かなり差がありますけどネ」
正論だ、と長治は前を向く。
遺跡内は、それこそどこにでもあるような遺跡とそれ程の差異はない。依頼者の男はここが特に問題がある遺跡であるということを示唆していなかったし、世界中にぽんぽんとそんな異常があることの方が問題だ。
ただ何となく、変だと思ったという、それだけの話。
「残念、行き止まりです」
班の先頭を歩いていた各務聖(fa4614)は、正面を指差して他の二人に向けて言う。壁を触ったり、棒で突いたり、と。一通りの調査をし終わると、ふぅと溜息をついてくるりと振り返った。
「完全に行き止まりです。先に進めそうもないのでこれは一度引き返すか、依頼者さんの指示を仰ぐべきですね」
「そうですね」
仕掛けは聖曰く、ないらしい。仕掛けがない以上、進んでも意味はない。その意を互いに二言三言のやり取りで終え、返事のない葵の方へと再確認のために視線をやった。
「では帰るときには、みんなで歌いながら帰りましょうネ」
例の替え歌の同士を求められて、二人は顔を見合わせて、
「コーラスで良ければ」
「メインはお譲りします」
やんわりと拒否されてしまった。
聖の手にした無線で依頼者への報告を済ませると、三人は元来た道へと戻っていった。
「それじゃあ、行こうか」
夕月夜火燐(fa4452)が先導して、左の道を進む。すぐ脇には天道ミラー(fa4657)が棒を持って続き、辺りを突いて異常がないか調べている。その後方にはマッピングの道具を持った朱凰夜魅子(fa2609)が続いている。撮影する際に効率よく撮影出来るようにと、事細かに情報が記そうと手が動いていた。片腕にはリュックが下げられている。
「結構暗いんだな、この遺跡も」
足元に落ちている石に足を取られながら、曲がり角ごとに目印を付けて進んでいく。遺跡の内部は暗いが、人が進めない程ではない。三叉路以外にも分岐はあったが、すぐに行き止まりになってしまったので探検をすること自体は比較的楽ではあった。
三人で簡単な会話をしながら進んでいくと、ふいに視界が開けた。先頭を進む火燐の足が止まった。
「ビンゴ」
嬉しそうに微笑み、後方の二人に視線をやった。覗き込んだ二人も、同じように嬉しそうな声を上げた。
「階段‥‥? まだこの先に何かあるってことか?」
「一度報告して、他の人と合流した方がいっかな? でも、他の道の先にも階段があったら、召集するだけ無駄ってことかもしれないし」
「だったら報告して、それで進む、だな」
そんな訳で進もう、とのミラーと夜魅子に頷き一つで同意して、火燐は手の中の無線を操作した。通信は一分も経たずに終わり、すぐに満面の笑みに変えられる。
「了解は取ったよ。向こう二班は成果なしだったから、後からこっちに合流するみたい」
階段を下っていく。階段自体は人為的に石で作ったものらしく、人が降りていく高さに丁度適している。手すりがないのが唯一心もとないが、それを期待すること自体が可笑しいというものだろう。
階段を下り切ると、そこは広い空間だった。隠された仕掛けがあるかもしれないという可能性を除けば、それ以上は何もない。むしろ、ここが最深部と言っても間違いはないだろう。
何もない空間。
或いは、何かがあった空間。
「悪くないな、こういうのも」
合流までには、まだ時間がありそうだ。壁に手を当てて、その質感を確かめる。ひんやりとした冷たさだけが、手の平に伝わってくる。
詳細を調べるには、まだ時間が必要になるだろう。そうしてまたこの場所には、より多くの専門家が訪れることになるのだろう。
「でもさ、最終目的は取材、だよな」
適当な場所に腰を落ち着けて、ミラーは呟いた。遺跡の謎は謎のままにしておく、というのも或いはアリなのかもしれない。それはそれで、悪くはない。夜魅子とはと言えば、積極的にこの空間を探索している。
「ミラーさんは動かなくて、いいの?」
「動くって?」
「この場所、色々と探さなくていいのか、ってこと」
火燐の言葉に、ミラーは頬を付いた。
「食指は動くけどな。今は少し、この空間に浸るってのも悪くない」
階上から誰かが降りてくる音がする。首を回さずに、小さく笑った。
「で、どうよこの結果は?」
意外にも到着が早いのは、成果を逸早くその目に収めたいがためだろう。息切れをしていることにも、少しばかり笑えてくる。
嘲笑ではなく、逆に位置する笑いだった。
「満足です」
問いに俺は、カメラをその巨大な世界に向けた。