kinematograph:1stヨーロッパ

種類 ショート
担当 千秋志庵
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 なし
参加人数 6人
サポート 0人
期間 10/11〜10/17

●本文

「kinematograph:1st 出品者募集中」

 著名な映画監督の有志によって、実験的にではあるが映画を公開出来る場を提供する。
 それがこの企画の趣旨だった。
 アマチュアでもプロでも、本業が映画監督であろうとなかろうと、そのようなことは問わない。場所は提供し、公開するための環境は整えるというものだった。才能の育成という目的もあるだろうし、逆に監督陣が新しい作品のインスピレーションを得るという目的もあるだろう。結果としての相互作用を期待してのものが大きい。上演期間は2週間であり、ショッピングモールの中に常設されている映画館での公開を予定している。
 事前に書類にてタイトルと代表者名を記入し、公共の場で公開することにおいて作品に問題がなければ出品出来る。テーマは第一回である今回では置かずに、自由な作品を募集する。
 各自の持ち時間は15分まで。内容は自由で、映像で表現し得る範囲であれば物語でも旅行記でも何でも構わない。

●今回の参加者

 fa0521 紺屋明後日(31歳・♂・アライグマ)
 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa2347 斉藤 真雪(22歳・♀・熊)
 fa4042 蕪木ラシェイル熊三郎萌(27歳・♂・アライグマ)
 fa4061 寸沢嵐 野原(18歳・♀・アライグマ)
 fa4617 海堂 仁成(25歳・♂・トカゲ)

●リプレイ本文

 15分。
 その短い時間を表現する。
 映画を公開する場として与えられたのは、小さな映画館だった。

 平日だということもあり、人の入りはあまり多くはなかった。幾ら著名人の監修だとしても、こんな時間から訪れるのは余程の通か暇人という両極端に分かれてしまうのだろう。だからこそと足を向ける業界人の話も聞くし、評判は然程悪くはない。上手く行けば、定期的な上演を行うようになりそうだ。
 映画館内が俄かに暗くなっていく。上映前に次回公開予定のCMが流れ、館内での携帯電話の電源を切るようにと促すCMが流れた後にやっと上映は始まった。パンフレットを購入する以外に、簡易なチラシのような紙が事前に配られており、今回上演される映画の一覧と監督の名前、連絡方法――個人的な住所ではなく、所属事務所になっていたが――が載っていた。気になる監督がいたら個人的に連絡を取っても構わないという趣向だろう。
 暗い中、劇場内をぐるりと見回す。
 どこかで見たような顔が数人と、大学生のカップル、何かの若者のグループがスクリーンに魅入っていた。姿勢を正し、同様にスクリーンへと視線をやる。
 上映が始まった。

『仇討ち』 紺屋明後日(fa0521)

 映画の冒頭で、黒いバックに白地の文字で作品のタイトルと、製作者の名前が表示される。音楽は無音。だがそれもすぐにして、映画が始まった。
 クレイアニメーション、と呼ばれる粘土の映画が始まった。
 神社の境内で向かい合う二人の侍とそれを見守る一人の娘がスクリーンに映る。そして、モノクロ調で娘の回想が入った。それは、侍に斬られ倒れていく父親の姿だった。その仇討ちに、侍は今、侍に対峙している。
 じりじりと相手との間合いを詰める二者。
 一合のもとに切り結び、両者倒れることで一瞬の内に決着は付いた。
 娘が駆け寄ると、侍は起き上がらず、娘に付いた侍は起き上がり娘に支えられながら退場していく。傷が残り、片足を引きずる姿を残して、スクリーンはフェードアウトしていった。

『4の扉』 桐沢カナ(fa1077)

 次にスクリーンに映ったのは、コンクリートで固められた無機質な部屋だった。白い服を着た一人の女性が膝を抱えうずくまっている。周囲の壁にはそれぞれ金属の扉が一つずつ付いており、番号が書かれていた。
 「1」
 ペンキで殴り書きしたかのような「1」の数字。彼女は扉を開けた。
 最初にいた部屋と同じく、中は真っ白な空間だった。中では若い女が赤ん坊を抱いて立っているも、話しかけても赤ん坊をあやすばかりでこちらに対しての反応は無かった。
 スクリーンが光に包まれ、彼女は最初の部屋に戻っていた。見ると、「1」の扉は消えてなくなっている。
 彼女は続けて、「2」の扉を開ける。今度は室内に色があり、別空間のようでもあった。夕暮れの学校で二人の男女が話をしている。女生徒はかつての彼女だった。男子生徒の告白を女生徒は恥ずかしそうに承諾する。
 再びスクリーンがぼやけていく、彼女は気付くと最初の部屋にいた。そしてまるで何かに導かれるように、「3」の扉に向かう。そこでいたのは大人になった二人。
 彼女は泣いていた。
 怒りと悲しみと、言葉では表現出来ない何かを一緒くたに口にして、彼氏にすがり付いていた。苛々しているような表情で、彼氏は唇を噛み切った。浮気を問いただす彼女の悲鳴に、何かが壊れる音がした。それは単に趣味で持っていただけなのかもしれない。刃渡りの短いナイフを、彼氏は鬼気迫る彼女へと向けた。最初は脅しのつもりであったのかもしれない。ただ、歯止めはきかなかった。
 心の臓を揺さぶる音に目をつむった瞬間、彼女は最初の部屋に戻っていた。
「4」
 赤い文字で「4」と書かれた扉に、彼女はゆっくりと目をやった。全ての終わり。最期の最後がそこにあるのだということに、彼女は気付く。

 彼女はゆっくりと、震える手でドアに手を伸ばした。

『街角の住人』 斉藤 真雪(fa2347)

 スクリーンを覗き込むような目がある。
 動物の、猫の目がこちらを捉えて、そしてすぐに興味を失ったかのようにどこかへと去っていった。振り返って待っているのを見ると、付いて来いとでも言っているのだろうか。猫らしからぬ仕草だと苦笑しながらも、有り難くその背を追わせてもらった。
 雑草の生えた空き地のような場所に、沢山の猫がいた。後から来た一匹と、見知らぬ珍入者に一斉に視線が向けられるも、ボスらしき一匹の鳴き声で無視する意向になったようだ。
 猫の会議。
 にゃーにゃー鳴く猫もあり、そんなのお構いなしに日向ぼっこをしている猫もあり、凡そ人間の言う集会ではない。それでもどこかのんびりとした雰囲気に、自然と笑みが零れてくる。
 会議が終わるのは太陽が落ち始める頃合。
 各々が気ままに空き地を出て行き、一鳴きして最後の一匹も出て行った。

『Kite』 蕪木ラシェイル熊三郎萌(fa4042)

 次にスクリーンに映し出されたのは、風に乗って空中へと挙がる凧に括り付けられたカメラで撮影された空撮映像を使った、環境映画に近い作品だった。
 欧州各地を中心に、日本やアメリカなどの世界各地の映像がスクリーンを流れていく。風景は広角に捉えられており、まるでその場にいるのではないかという錯覚を感じてしまう程である。
 映し出されるのは各地域の観光名所であり、色々な高さから色々な時間で撮影されている。
 途中、凧を揚げる瞬間から、地上を離れて空に登っていく映像が挟まれる。撮影者自身と、現地の子供達が凧を見上げる姿が次第に小さくなっていった。
 音声は、現場の地上で集音した環境音をそのまま使った上で、遠くから聞こえてくる。シャンソンの調べや工事の音、子供の遊ぶ声。時折、その音全ても消え、ただ壮大な景色だけが流れていく。
 最後のシーンは夕焼けのセーヌ川周辺だった。日没と共に辺りに灯かりが灯っていき、やがて暗転した。

『80日間世界一周』 寸沢嵐 野原(fa4061)

海辺の街を市街から港へ、猫の視線の高さで探索を開始するところから始まった。猫はトラックの荷台で目を覚まし、知らない街に降り立った。
 ある日には花の咲き乱れる庭を抜け、白壁の町の路地を抜けて高台か屋根から海を眺望する。
 ある日には朝市の賑わいを通り抜け、通り雨にあってベンチの下で雨宿りをする。
 ある日には公園で大道芸人さんのパフォーマンスに少しばかし見入ってから、漁船が次々と帰ってくる港へと四本の足を向けた。そこにいた一人の船員に拾い上げられ、一緒に船に乗り込んで港を出港する。
 船員さんと猫の肩越しから、港は次第に離れていく。
 空は青くなっていき、深みを増していく。
 天と地と。どっちがどっちか分からない世界に、船は向かっていった。

『真の英雄〜村を守りし者〜』 海堂 仁成(fa4617)

 舞台は『イクシオ村』と呼ばれる小さな村。主人公は、その村でずっと用心棒をしている若い男、リーシオ=アルシュタインである。年は22歳。無口で過去のこともあまり喋らないこともあり、村人達からはあまりいい目をされていなかった。
 だがある時、モンスターを引き連れて、魔王が村を襲ってくる。
 リーシオは思い出す。かつて自分の生まれた村がモンスターに焼かれ、両親までもが殺された事を。そして、果敢にも魔王の軍勢に向かっていった。モンスターたちを薙ぎ倒していき、最後に残ったのは魔王一人。魔王とリーシオの剣が交わった後、魔王がゆっくりと倒れていくと同時にリーシオも倒れていく。だが、リーシオはまだ生きている。それに気付いた、モンスターの一匹が怖がりながらもリーシオを剣で刺した。そして、モンスターは逃げていった。
 膝を付き、胸を剣で貫かれながら、それでもリーシオは満足気に息絶えていた。
 それから、数年後、村の真ん中にはある大きな墓が立てられた。
 そこには、こう書かれている。
 『村を救った英雄 リーシオ=アルシュタイン』と‥‥。

 上映が終わり、誰ともなく映画館を後にする。次の上演までの間に別の映画が入り、一日同じ映画館にいるだけでも何本もの映画を見ることが出来るらしい。出口の辺りでちらりと振り返ったが、どこかで見たような顔はまだ見る気でいるのか、手帳に何かを書きながらその場に座っていた。