地帰物語アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 冬斗
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/25〜07/29

●本文

 真夜中、男は仕事を終え、身体を休める。
 昼も夜も日の光は当たらぬこの地においても『一日』は当然、存在し、
 そして、この時間は警備の人間以外はとうに床についている時間だった。
 だが、男はこれでも足りぬとばかりに職務に勤しみ、仮眠を取るためだけにそれを終わらせた。
 『姫』が『何者かによって殺された』直後である。
 王である男にはやることは多過ぎた。

「姫はどうしている?」
 傍らにて職務を補佐する女、朔夜に王は尋ねる。
「五人の方々と暮らしておられます」
 都から離れた人のつかぬ場所。
 そこに姫と五人の求婚者達は暮らしていた。
「ふん、男五人が惚れた女と共にか。醜く争う姿が目に浮かぶ」
 嘲るわけでもなく、ただ、感じたことをそのままに呟く王。
「いえ、本当に仲がよろしいようで。――喧嘩が絶えないことは確かなようですがね」
 醜くはない、と、朔夜は苦笑する。
 この女の笑うところを王は初めて見た。
 女が姫の下を離れ、自らに仕えてからまだ一年足らず。
 姫のところにいたときは、この女も笑うことがあったのだろうか。
 その時から自分の前では笑うことはなかったわけだが。

「明日、暇を取る」
 それは実に一年ぶりの休暇。
 姫を『賊の襲撃』で失ってから、国を立て直すために彼が休むことはなかった。
 同じく朔夜も休まなかった。
 それは姫を送り出すためのけじめ。
 姫の代わりに国を背負う。
 辛くはなかった。
 姫の幸せが嬉しくて。
 それにこの男も嫌いではなかった。
 見た目と裏腹に酷く不器用な男。
 義に厚く、王であることを決して裏切らない、
 あの五人とは全く違うが、それでもまっすぐな男。
 ひょっとしたら、彼も姫への想いは皆無なわけではなかったのかもしれない。
 そんなことさえ、朔夜は思い始めていた。
 だからわかった。彼の思うところは口にせずとも感じる。
 既にそのくらいの付き合いにはなっていた。
「牛車を手配しておきます。御者は私で」
 誰にも知られることなく。
 それに――彼女自身、会いに行くのが楽しみではあったから。


 燕の子安貝。
 王との戦いで使われることのなかったそれは、閉じた道を開き、繋げる役割を持つ。
 巣から旅立ち、巣へと戻るのだ。
 ただし、遠く離れた空の向こうまで行くのなら、力を蓄えねばならない。
 数百年と使われていないそれに力を注ぐ儀式は、人の寄り付けぬ祠で行われる。
 そこに行くことは地上にて五つの秘宝を見つけ出す難行をも更に苦難を伴う。

 都の月道は使えない。
 彼らは姫を殺し、そして王により殺された賊なのだから。

「我ながら無駄なことをしている」
 苛立ちと共に呟く言葉に、朔夜が笑みを浮かべていることに王は気がつかなかった。

 地上は七夕。
 月を見上げる故郷に帰るにはちょうどいい。


○舞台演劇「地帰物語」(たけとりものがたり)
 王達と共に祠を目指してください。
 今回は全員味方です。
 秘宝はそれぞれに返されます。
「治世に力ある秘宝は邪魔だ」とか。
(だから代わりに姫を娶ることになり、姫がいないならやはり秘宝は必要なのかもしれません。
 ですが王はそんなものに頼る気は毛頭ないとか)

キャスト /
 かぐや姫
 石作皇子(いしづくりのみこ)仏の御石の鉢
 車持皇子(くらもちのみこ)蓬莱の玉の枝
 右大臣阿倍御主人(あべのみうし)火鼠の裘
 大納言大伴御行(おおとものみゆき)龍の首の珠
 中納言石上麻呂(いそのかみまろたり)燕の子安貝
 朔夜
 月の王

 他の役を希望したい場合は作ってくれても構いません。
 空いた役はNPCとなります。

 シリーズとかではないので、配役変更も考え、性格設定などは多少変わっても構いません。
 秘宝の能力についても、燕の子安貝以外は変更可です。

●今回の参加者

 fa1715 小塚さえ(16歳・♀・小鳥)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3846 Rickey(20歳・♂・犬)
 fa4020 ロゼッタ・テルプシコレ(17歳・♀・犬)
 fa4047 ミミ・フォルネウス(10歳・♀・猫)
 fa4421 工口本屋(30歳・♂・パンダ)
 fa4563 椎名 硝子(26歳・♀・豹)
 fa5810 芳稀(18歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●CAST
「なよ竹のかぐや姫」‥‥小塚さえ(fa1715)
 石作皇子(いしづくりのみこ)‥‥ロゼッタ・テルプシコレ(fa4020)
 車持皇子(くらもちのみこ)‥‥劇団員・友情出演
 右大臣阿倍御主人(あべのみうし)‥‥Rickey(fa3846)
 大納言大伴御行(おおとものみゆき)‥‥佐渡川ススム(fa3134)
 中納言石上麻呂(いそのかみまろたり)‥‥椎名硝子(fa4563)
 朔夜‥‥芳稀(fa5810)
 月の王‥‥工口本屋(fa4421)
 祠の守り手‥‥ミミ・フォルネウス(fa4047)

●男、再び、立ち上がる
 月は地上と比べ、人の数が圧倒的なまでに少ない。
 よって『人里離れた地』というのは、もはや『人の寄り付かぬ地』である。
 王は独り、自分さえも伝承でしか知らぬ、未踏の祠に赴いていた。
「王の名において命ずる。
 王の一族たる我の求めに応えよ!」
 祠の門が軋みを立てて開く。
「月と大地を結ぶ月道‥‥都のそれ以外を使うのは千年振りか‥‥」
 都のそれは人目がある。
 だから新たな道を拓くしかない。
 閉じている道を拓けるのは試練に打ち勝てる者だけだ。
「来るなと言った筈だ」
 振り返らずに背後の気配に声をかける。
 山の麓で置いていった従者に。

「いいえ、これは私達の問題です。貴方だけにやっていただく訳にはいきません」

 二度と聞くはずのない声に、振り返る。
 そこには別れを告げた女と置いてきた従者、
 そして女を愛する五人の男達が。

●地上(テラ)へ‥‥
 地上に帰れる方法がある。
 なよ竹のかぐや姫と彼らが呼ぶ女と月で暮らす男達に朔夜は告げた。
 真っ先に目を輝かせたのはかぐやだった。
「本当なの!? 朔夜!」
 幼い頃より親しくしてきた彼女の言うことを信じていないはずもないのだが。
「私は無理にとは言いませんし‥‥其れは王も同様でしょう。決めるのは貴方々です」
 あまり喜びがないのが石作皇子。
 月に来るときに家族とは別れを済ませていた。
 いや、彼は家族に直接は告げてはいない。
 だが、元々彼は独り者であったし、それに、
(今はここでの暮らしが正直、楽しい)
 だから、断ろうとした。
 しかし、口を開いたのはまたもかぐやだった。
「いくわ。わたくしだけでも」
「ちょ、ちょっと待て! 姫!」
 大伴御行が慌てて割って入る。
 彼女を守るのは自分達の役目だ。
 危険な試練を姫に任せて、『はい、どうぞ』と道を譲られては格好がつかない。
 もちろん、それは他の四人も同じ気持ちだった。

 奇しくも舞台は地上の時の焼き直し。
 道案内の従者に志を同じくする五人。
 ただ、今回はもう一人。
 彼らと共に歩みたいと勇気を絞った少女が――。

●旅は道連れ、世は情け
「死人は大人しくしていろ」
 事情を聞いた王は六人に、
「貴様等が生きているのを知られては要らぬ混乱を招く」
 彼らを『死んだこと』にしたのは自分。
「故に、我々の目の届かぬ地へ放逐するだけだ」
 責任をとる為、と王は言う。
 けれど、
「‥‥月の民と言うものは、皆不器用な優しさを持っているものなのだな」
 石上麻呂は、いや、皆わかっていた。
 決して表には出さない想い。
 もって生まれた人としての心を鉄の仮面で覆い隠すのがこの男の生き方なのだと。
「祠へは私も行く」
 石上麻呂は応える。
「燕の子安貝は私が大変な思いをして手に入れた物だ。その行く末を見守る義務が私にはある」
 不器用な優しさに、不器用な信義をもって。
「取り計らいに感謝する」
 阿倍御主人も続く。
「あの時よりも更に困難な苦行を伴うとしても、恐れる事はないだろう。あの時とは違い、秘宝も今は我等の手にある。
 何よりも今回は一人ではない。頼もしい仲間が共にいるのだから」
 そう言って振り返る先に
「まさか地上に戻れるとはな。しかも皆で? 上出来じゃないか」
「僕は皆と一緒の生活が気に入っている。ならば迷うこともない」
 他の仲間達に加え、もう一人。
「皆の力を合わせ地上に帰ろう」
 阿倍御主人は王も含めた全員に向かい、そう言った。
「‥‥勝手にすると良い」
 王は呆れ、吐き捨てるが、納得もしていた。
 自分が祠の封を開けてまで地上に帰そうとするのはこういう者たちなのだと。

●千年少女
「ようこそ、空の道を拓く者よ。お待ちしておりました」
 祠の中に待っていたのは少女。
 まだ幼いといってもいい――少なくともそういった風貌をしている少女は、しかし、この人の寄り付かぬ地にてどれだけの月日を待っていたのか。
「奥に祭壇があります。そこで祭器をお使いください」
 奥は暗く、闇が敷きつまっているかのようで
 ためしに石作皇子が仏の御石の鉢を使い、闇の奥を照らしてみる。
 が、千里先さえ照らすことのできる鉢の光は闇に呑まれ、一歩先すら照らすことはできない。
「この闇は皆様の心を埋める闇、この闇に身体を浸し、抜けることの出来る者だけが祭壇へと辿り着くことができます‥‥」
 覚悟は出来ている。
 一行は躊躇わずに闇に身を浸す。

●命、燃やして
 闇の中に入れば中は周りを照らせるほどには光が届き、歩くのに困ることはなかった。
 かといって、障害がないわけではない。
「やはり簡単には行かないか。火鼠の裘よ、我にその力を宿し賜え!」
 阿倍御主人は紅蓮の炎を纏い、襲い来る異形を撃退する。
 だがなにせ数が多すぎる。
 倒しても倒してもキリがなく、まるで周囲の闇が異形を生み出しているかのようで。
 阿倍御主人は冷静に戦況を見定める。
 戦闘に特化しているのは自分以外は王と車持皇子のみ。
 ならばここは、
「ここは我が引き受ける。皆はその間に先に行け!」
 仲間たちを信じ、先を行かせる。
 全く、地上で争っていたときには思いもよらなかった選択だ。
 だが後悔はない。
「わたくしへの想いが真だとおっしゃるのなら、これくらいでへこたれないで下さいませ」
 愛する者の励ましを聞けたのはこれが初めてだったから。
 やがて力尽きるとしても悔いはない。
「私もここまでか‥‥皆、姫を頼む‥‥」
 そう呟く阿倍御主人の表情は欲しいものを手に入れたという満足感があった。

●想いを力に変えて
 行けども行けども闇ばかり。
 もはや歩いた距離すらわからなくなっていた。
 その闇の中で石上麻呂は言い知れぬ不安に襲われていた。
(王は私達を地上に帰すと言ったが、本当はここで私達を亡き者にしようと言うのではないのか?)
 一度芽生えた疑念は闇に育まれるように広がっていく。
 疑惑は王だけには留まらない。
(私の秘宝は敵を倒す為の力を持ってはいない。
 皆の秘宝の力を使えば私を倒す事は容易。
 姫を巡る敵は少ない方が良い。
 無事に地上に帰ったとしても――)
 不安は広がる。
(私は他の四人に倒されてしまうのではないか?)
 今までの楽しかった暮らしがまるで嘘のように色褪せてくる。
 そして黒い感情は愛する女にまで及ぶ。
(姫も地上に帰りたいが為に私達の事を利用しただけなのかもしれない)
 ならばとるべき行動は簡単だ。
(ここで皆を倒し、自分一人が姫と共に帰ろう)
 姫も自分達を利用しているのなら、仲間達を手にかけたところで悲しむはずもない。
 むしろ好都合ではないか。
 闇は想いを惑わせ、疑念は彼に行動へと囁きかける。
 腰の刀に手を伸ばす。
 闇の中、誰も気付いてはいない。
 だが、

(「ここは我が引き受ける。皆はその間に先に行け!」)
(「わたくしへの想いが真だとおっしゃるのなら、これくらいでへこたれないで下さいませ」)

(いや、私は姫が幸せになれるならこの身を捧げる事も厭わないと誓った)
 だから、
(たとえ、裏切られたとしても、その事に迷いはない)
 地上で姫を恨んだこともあった。
 その時に誓ったはずだ。
 もう迷わない、と。

●優しさと弱さと
 大伴御行と石作皇子も闇に苦しめられていた。
 大伴御行は地上の家族達に責められていた。
 家督を継ぐ身でありながら、姫のために家を捨てた大伴御行。
 月への旅路は決して楽なものではなかったが、
 残された者たちはどのような想いでいただろう。
(すまぬ‥‥)
 考えなかった訳ではない。だが考えないことにしていた。
 姫の為に来た旅路を後悔という念で汚したくはなかったから。
(すまぬ‥‥)
 けれど、それさえも自分の責任を姫に押し付けただけではなかったのか。
(すまぬ、姫‥‥)

 石作皇子は大伴御行と比べ、弟という立場から、継ぐ家もなく比較的自由だった。
 だが、家を離れたということは家を捨てたということ。
 正直、不安があった。
 このまま戻って、地上の世界は自分達を受け入れてくれるのかと。
 勝手に飛び出していった厄介者を両親や兄弟達はどう思うであろうか。
(ああ、だから僕は)
 闇は心の中に眠る僅かな弱さすら見逃さない。
(地上(あそこ)に戻りたくないって‥‥そう思っていたんだ‥‥)

●たぶん、親友のために
「貴女があの方々を連れて来なければ、私は此の様に思い悩む事はなかったのに‥‥」
 姫を想う朔夜は、それ故そこにつけ込まれ、
「友達だと思っていたのに私を捨て王の下に。本当は私を苦しめたいのでしょう?」
 余計な事と思っていた。
 いつも悩んでいた。
 忠臣たるのならば命じられることのみをすればいい。
 友人でありたいのならば臣の立場を捨てればいい。
 そのどちらにもいけなかった結果がこれだ。
 認めよう。自分は姫の従者にも親友にもなりきれなかった。
 けれど、
「いえ、だからこそ、
 私のつまらない自責で姫を汚させはしない――!」
 せめて心だけは強く持つ。
 理想の従者にも親友にもなれなかったけれど、
(それでも――臣として、友として、貴女を想っててもいいですか?)

●『弱さ』という強さ
 五人の男達は皆、倒れ伏した。
 あるものは己が身を犠牲にし、
 またあるものは想いの深さに堪えかねて。
(それを、弱いと思うだろう?)
 王に囁くのは王自身。
 鋼の如き心を持った彼を傷つけられるのは彼自身しかいない。
(そうだな)
(そんな弱い者に姫を任せられるか? お前は姫が不幸になっても構わぬのか?)
 口には出さないが、
 姫を愛していた。
 大切に思うからこそ、自分の出来る姫のもっとも傷つかないやり方を選んできたつもりだ。
 地上の人間では姫を守れる力も強さもない。
 そう思ってきたけれど、
(違う)
 たしかに彼らは王である自分と比べて脆弱だった。
(弱いからこそ辿りつける境地もある)
 王を捨てられぬ自分では姫を守れても、支えあうことは出来ない。
(共に悩み、苦しめる。それが弱さというのなら、
 奴らは弱いからこそ姫を幸せに出来る)
 自分は強いから勝てなかった。
 ならばこそ、誇りを持って、彼らに姫を託そう。
(後悔はない。幸せにな)

●そして空に道は拓く
 ここに来たときから決めていた。
「なんとしても地上へ戻るのです。皆様方と一緒に」
 月の「姫」はもういない。
 しかし、月にいる限り彼女は「かぐや」には戻れない。
 他の誰よりも地上へ帰りたいと願うのはかぐやだった。
「地上へ戻り、かぐやに戻り、今度こそ逃げずに応えるために‥‥祠の守護者よ、『燕の子安貝』に力を。月の姫ではなく、地上のかぐやの心に賭けて、どうか力を戻し給え」
 そして闇は光に溶け、消えていった。

「月道を拓いた王族は久しぶりです」
 守り手の少女の謳うそれは六人への祝福だった。
 名実共に地上へ帰る資格がある。皆の想いの深さを誇っていいと。

●さよなら‥‥
「皆、そして姫。故郷に、帰ろう」
「かぐやと呼んでください」
 試練以外で何かをねだられたのは初めてだ。阿倍御主人は珍しく破顔すると、
「王よ」
 火鼠の裘を渡し、
「この様な物が地上にあると争いが起こりかねない。後の処分はお任せする」
 半ば強引につき返す。
 それに倣い、皆、秘宝を王に手渡す。気持ちは同じのようだ。
「月を治める王‥‥いや、同じ女性を愛した男よ。名を教えてはくれまいか?
 それを土産に我等は元の国へ帰ろう」
 大伴御行の問いに、
「―――」
 王は唇を王になる前の名の形に動かせた。

「朔夜には世話になったな。我等がここにこうしていられるのもそなたのおかげだ。感謝する」
「貴方達の事は一生忘れないだろう」
 大伴御行に続いて石上麻呂も頭を下げる。
 そして石作皇子も。
「僕らさ、貴方達に勇気を貰いました。お元気で」
 もう、彼の瞳に迷いはなかった。
 この先何があろうと、彼女とならやっていける。
 だって、愛しているから。
「離れていても‥‥何時でも姫の幸せを御祈りしております。‥‥姫を頼みます」
 五人に改めて、朔夜。
「ありがとう‥‥今度こそわたくしは、己が心を欺かず生きます。二人のことは、忘れない‥‥」
 それは朔夜が望んでいた、心からの笑顔だった。

●エピローグ
「よいのか?」
 主であり親友との別れ。
「お前の有能さはこれからの奴らにこそ必要だと思うが」
 変わらぬ不器用な気遣いに朔夜は微笑する。
「貴方の其の様な所、嫌いではありませんから」
 むしろ彼にこそ自分は必要だ。
 いや、たとえ必要ではなくっても、
 自分がここにいたいと思っているから。

「姫‥‥いえ、かぐや。お心は決まりましたか?」
 そっとしておきたいとは思ったが、聞かずにはおれない。
 いつもの冷静さもどこへやら阿倍御主人は想いを尋ねる。
「誰に気兼ねすることは無い。姫が幸せになれば皆納得しよう。
 我を選んでくれれば言うことはないのだがな?」
 と、さりげなく押すのを忘れない大伴御行。
 するとかぐやはあまりに迷いなく、

「今ひとたび、お時間をいただけますか? 悔いの無い選択ができるように」

 ひとまず勝負は、延長戦。