学苑七不思議〜明けぬ夜アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 冬斗
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 08/15〜08/19

●本文

「「‥‥もう‥‥逃げられない‥‥」」


「――――!」
 暗闇の教室で息を呑む女生徒。
 彼女に寄り添い、闇にではなく語り部に怯える友人。
「‥‥で、どうなったの?」
 続きが気になる、というよりも沈黙に耐えられないといった様子で少女は続きを促す。
 傍らの少女は震えたまま何も口にしない。
「どうなったのよ‥‥!」
 再び問う。
 声が掠れていることは彼女自身わかっていた。

「さあ?」

 茶化すようにではなく、闇の中、声色は変えずに語り部は話を切った。
「さあ、って!」
「私が知っているのはここまで。
 そのあと彼女らがどうなったのか。無事帰ることができたのか、それとも誰にも姿を見られることはなくなったのか――それはわからないわ」
 真夜中の怪談。
 この手の話には強いつもりだったけれど、正直少し怖かった。
 語り部の彼女のせいだろう。真に迫った迫力があった。
 意外な才能というものはあるものだ。今度、放送部員でもやればいいかもしれない。
 自分でさえこうなのだ。怖がりの友人は気の毒としか言いようがないくらい怯えている。
 流石にやりすぎだ。
 友人に対する気遣いと、あとほんの少し語り部の少女に仕返しをしたい気持ちもあって、あえて無粋な突っ込みをしてみた。
「でもさ、それっておかしな話よね。
 だってそうでしょ? 夜中の学校で彼女達しか知らない話なのに、なんでその後無事に帰ってきたかわからないわけ?」
 我ながらつまらない揚げ足取りだ。
 ムキになったかな。少女が反省しかけていた、その時――、

「そうね」

 それは意外な方向から。
 彼女の傍らで腕にしがみつき、震えていた友達。
 よほど怖かったのか、両腕をしっかりと絡ませ、痛い、ぎりぎりと、いたいくらい。
「ちょっと? ねえ? 痛い、痛いって‥‥!」
 いつのまにかつめをたててる。
 うでにぎりぎりとくいこむ。
「やめてよ! 痛いって!」
 語り部の少女はとても落ち着いて、まるでそうなることがなんのふしぎもないみたく。
「やめ――」
 そこで彼女もやっと気付く。
 友達は今も震えている。
 なのにぜんぜんこわがっていない。
「なんで帰ってきたかわからない子たちの話を知っているのか」
 語り部の少女が再び口を開く。
「どうしてだと思う?」
 そこに友達が言葉をつなげる。
 ふたり、まったくおんなじかおをして。


「「‥‥もう‥‥逃げられない‥‥」」


●舞台演劇『学苑七不思議〜明けぬ夜』
 『ある学苑』(名前は明かせません)にまつわる七不思議のお話です。
 先日、同舞台で四つを公演した為、残りの三つをお願いします。
 内容的に前作と繋がっていても別の話でも構いません。
 前作は見ていないでも大丈夫です。
 ただし同じ学苑の話ですので、前作の四つは残りの三つの内容からは外してください。
『一つ目・音楽室で勝手に鳴るピアノ』
『二つ目・美術室で動く彫像達』
『三つ目・廊下の太郎君』
『四つ目・成仏できずに学苑を巡回する用務員』
『補足(五つ目?)・とり憑かれた女生徒・正体不明の女生徒』
 最後のものはオチ用の為、アレンジを加えれば使っても大丈夫とします。

●今回の参加者

 fa0074 大海 結(14歳・♂・兎)
 fa0117 日下部・彩(17歳・♀・狐)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa4203 花鳥風月(17歳・♀・犬)
 fa4614 各務聖(15歳・♀・鷹)
 fa5003 角倉・雪恋(22歳・♀・豹)
 fa5112 フォルテ(14歳・♀・狐)

●リプレイ本文

●はなこさん
 こんこんこん、と三回ノックする。
 三回目はすこしふるえてた。
「ほ、ほら、やっぱり何も起きないじゃないの」
 拍子抜けだとでも言いたげに、しかしどこか安堵の色を持つ向日葵風月(ひまわり・ふうげつ)の一声は、
「はぁい」
 一拍間を置く形で裏切られた。

 ドアの開く軋みが夜の校舎に耳障りに響く。
 闇の中から赤いスカートの女の子が現れる。
 笑みを浮かべた口元が言葉をつむぎ出す。
「何して遊ぶ?」

●出演者一覧(パンフレットより抜粋)
 大海結(fa0074)
 各務聖(fa4614)
 角倉雪恋(fa5003)
 花鳥風月(fa4203)
 日下部彩(fa0117)
 タブラ・ラサ(fa3802)
 フォルテ(fa5112)
 (五十音順、敬称略)

●はじめのよにん
「何して遊ぶ?」
「おにごっこ‥‥」
 掠れた声で片山南は答えた。

(「『おにごっこ』なら『それじゃ、私が鬼ね』、
 『おままごと』なら『それじゃ、私がお母さんね』、
 『なわとび』なら『それじゃ、私が縄持つね』
  でも、それ以外の遊びには『私、違う遊びがいいな』って言われるんですよ」)

 友達の言葉を思い出す。
 肝試しを提案した眼鏡の友人は楽しそうに『トイレの花子さん』の話をしてくれた。
 友達四人で始めた学校の怪談。
 一番楽しそうだったのが彼女だった。
 怖がる南の反応に嬉々として、
「せっかくだからこのまま夜の肝試しをしましょう」
 今は夏休み。
 夜は宿直の用務員に頼まなければ校舎には入れないが、昼間からいれば別である。
 幸いというべきか、この学校の警備はそれほど厳しくない。
 閉門時の見廻りををやり過ごし、四人だけの肝試し。
 もちろん、一番乗り気でないのは南だった。

 だから目の前の少女に答えたのも決して勇気があってのことではなくて、
(「『おままごと』なら包丁、
 『なわとび』なら縄、
 『おにごっこ』の場合と選ばなかった場合は素手で――」)
 ただ、麻痺したあたまで
(包丁も縄も痛そうでいやだなあ――)
 そんな間の抜けた思考に達してしまっただけで。

「ばっ――!!」
 原愛美(はら・めぐみ)が叫んだ時にはもう遅かった。
 怪異の呼びかけに応えてはいけない。
 ソレらは返事を待っている。
 そしてどの選択肢にも例外などないのだ。
 それはもちろんこの『花子さん』も――。

 闇から少女が姿を現し、
 眼鏡の少女が悲鳴と共に明かりを落とす。

●みつけた‥‥
 真っ先に逃げ出したのは眼鏡の少女。
 単純に一番後ろにいたからだ。
 続けてタツキと風月。
 遅れて走るのが愛美。
 一番最後に南。
 恐怖は行動を鈍らせる。
 『花子さん』に魅入られた南は他の四人が逃げ出して、やっと呪縛から放たれた。

 廊下を必死で逃げる南を後ろから呼ぶ声。
 友達は皆、前に逃げたはずだ。
(「もし途中で呼ばれても、決して振り返っちゃ駄目ですよ。
 振り返る人がいたら――、
 花子さんが目を見開いたものすごい形相で追いかけてくるのが見えるんです」)
 再度、眼鏡の少女の言葉を思い出す。
 ああ、なんて役に立たない忠告だろう。

 聞かなければ、振り返ろうなんて思いつきもしなかったのに――。

「はい‥‥?」

 なにもない。
 『花子さん』は廊下にはいなかった。
「大丈夫‥‥!?」
 後ろにはいつの間にか風月が。
 心配する風月に手を引かれ、他の三人と合流する。

●とってもきれいなマスクのひと
「宿直の先生‥‥?」
 南のとぼけたセリフに葛葉タツキは『そんな訳ないじゃないの』と心の中で叫ぶ。
 無論、恐怖が現実を受け止めきれていない事も承知だ。こんな時でもしっかり回る頭が恨めしい。
 新聞部の部長である彼女はこの手の話に詳しい。
 だから目の前の女も知っている。
 有名すぎるくらい有名だ。
 学校に出てくるという話は初耳だが。
 自分はこの学苑の教師なら全員知っている。
 それに宿直は用務員の筈だ。
 更にいうならこんな毒々しい真っ赤なドレスを着た教師なんているものか。
 そして顔の下半分を覆う大きいマスクに、
「わたし、きれい?」
 こんなことを言う女なんて一人しか――。

(「本物の幽霊の姿を写真に収めて写真に掲載すれば、一躍有名人に‥‥っ!!」)
 浅はかな動機に後悔する余裕すらない。

「きれい‥‥だと‥‥思うわ‥‥」
(バカ!!)
 この女の話を知らないのか。
 言ってはいけない返事をしてしまったのは原愛美だった。

●おんなじようにしてあげる
 四人の中で一番背の高い愛美は一番のしっかりもの。
 そんな彼女にも弱点はあった。
 南に負けず劣らずこの状況に押しつぶされそうになっていたのは愛美で、
 だからその反応もさっきの南と同じく、
 恐怖に負けた口からは言ってはならない返事が――。

「これでも‥‥?」

 マスクを外す。
 赤い亀裂は本来頬のある場所にまで伸びて、
 ぽたぽたと垂れている涎はなぜか唇と同じ真っ赤な色をしてて――。

(言わなきゃ‥‥!)
 タツキは喉の奥から必死に『その言葉』を絞り出す。
 この女の弱点はわかっている。
 だから言わなきゃ。
 でないと、あの鋏で、自分達もおなじように――。
「ポ‥‥」
 でも言葉が繋がらない。
「ポ‥‥」
 言わなきゃならないってわかっているのに。
「ポマ‥‥ド‥‥」
 やっと言えたのは文章もへったくれもない、ただの単語。

 それでも効果はあったらしい。
 女は鋏を下ろして呻き、悶える。
 鋏が下ろされたことより、目線が逸らされたことの方で皆の呪縛が解けた。

(いましかない――!)
 皆は示し合わせるでもなく、廊下を駆け抜ける。

●じゃあね、ありがと
 廊下を走る中、南はまた、誰かに呼ばれた気がした。
 女への恐怖でいっぱいの彼女に余裕はなく、
 余裕がないからこそ、警戒も出来ずに振り返る。

「ぇ‥‥?」

 だれもいない。
 いや、鏡が一つ。
 全身が写る姿見には風月の姿が。
「風月さん‥‥?」
 振り返ろうとして気がつく。

 姿見には風月の全身が。
 けど、
 わたしのすがたはどこに――?

 風月がこちらを向く。
 目が合った。
 それが、片山南が最後に見た光景――。

●ほんとうにあったこわいはなし
「もういやよぉ‥‥」
 愛美が半べそをかき、地面に腰を下ろす。
 校舎からは抜け出したものの、空は暗く、夜の学校には明かりもない。
「あれ、一人足りない!」
 眼鏡の少女の叫びに皆がぎょっと息を呑む。
「うそ‥‥うそぉ‥‥!!」
 愛美は腰を抜かしたままパニックに陥る。
「ま、待って!」
 タツキは必死に冷静でいようと人数を数える。
「一‥ニ‥三‥‥四‥‥」
 四人目に自分を数え、
「四人‥‥いるじゃない‥‥」
 そう、四人いる。
 問題ない。
 昼間、怪談をしていた時の仲良しグループ、四人組。
 減っていない。
「え? 四人? そんな‥‥」
 そうだ。
 自分達は四人組。
 なのになんで、足りないなんて思ったんだろう。
 慌てて数え直す。
 ただし、今度は周りを数えず、自分の記憶から。
「愛美さん、南さん、風月さん、タツキさん‥‥」
 ほら、やっぱり――
「――私」
 ――五人。

「ま、待ってよ」
 愛美が掠れた声で、
「風月って――誰?」
 誰も何もない。
 さっきまで一緒にいた。
 仲良し四人グループの‥‥でも‥‥いたっけ? そんな娘。

 誰ともなしに呟いた。
「あの娘――誰?」

「やっと、出られた」
「南?」
 傍にいる南の様子を愛美がいぶかしむ。
 そういえばこの娘、随分静かだ。
 自分と同じくらい怖がりなのに。
 怖いから?
 でも座り込んでさえいない。
 いや、それどころか、口元にはうっすらと笑みが――。

「次はあなたの番」


●CAST
 眼鏡の女生徒‥‥日下部彩
 原愛美‥‥大海結
 葛葉タツキ‥‥フォルテ
『トイレの花子さん』‥‥タブラ・ラサ
『口裂け女』‥‥角倉雪恋
 片山南‥‥各務聖
『最後の怪』向日葵風月‥‥花鳥風月