パラダイムシフト・咲乱アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
冬斗
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/17〜08/21
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●本文
少女にとって『それ』は日常だった。
困難ではあったし、『それ』が世間においてどれだけ非常識かも自覚している。
だが、生きていく上で欠くことのできないその行為は、
やはり彼女にとっては日常でしかなかった訳で。
日課の鍛錬を終え、汗を流す。
アネモネがこの国に来て半年、組織の『仕事』はまだ一度しかしていない。
少ないわけではない。
組織の『使い手』は他にもいるし、
何より失敗が許されないのが彼女の『仕事』だ。
標的の調査は念入りに、舞台を整え、時を定め、そこに最も適した『使い手』を送る。
実行はほんの一瞬。
だが、その為の準備に手間をかけ、成功率を少しでも100に近づける。
そして半年。
アネモネの二回目の『仕事』が回ってきた。
「尾瀬さんが狙われている?」
尾瀬朋哉の後輩、天城静真に朋哉の同僚・山野桜が伝える。
辞令でも伝達でもなく、あくまで隠密に。
「署のデータがいくつか流されていたようです。犯人はまだ不明」
「その中に尾瀬さんのデータも?」
「それもわかりません。流れたのがどのデータかも‥‥。
ただ、朋哉君、最近無茶してますからね。ほら、例の組織」
軽い頭痛に悩まされる静真。
半年前の組織主催のパーティを思い出す。
あの事件は自分達は公式には『関わっていない』ことになっている。
それでも後で上司達に散々皮肉られたものだ。
胃薬だけで済んだ自分は正直肝が据わっているのではないかと自慢していいと思った。
「あの件もかなり無茶をしましたけれど、なにより朋哉君、追跡を止めませんからね。
ここだけの話、上では一時休戦協定的なものが出来ているらしいんですよ。
現状でこれ以上やりあってもお互いに損害が酷いですから」
だが、その意向に朋哉だけが従わない。
「向こうも出来れば警官を殺したくはないでしょうけれど、上層部で手打ちにしたのに勝手に動く輩となってくると‥‥」
「大変じゃないですか! 早く尾瀬さんに伝えないと――」
「当の本人に真っ先に伝えてないと思いますか?」
(「わかった。気をつけておくよ。警告ありがとう、山野」)
なぜかその光景は静真にも容易に想像が出来て――。
○舞台演劇
「パラダイムシフト・咲乱(さきみだれ)」
暗殺者の少女と狙われる刑事の恋愛物語。
数回に渡る構成での舞台演劇です。
今回は第二回上演。
尾瀬朋哉を狙うアネモネ。
二人の再会の話です。
尾瀬朋哉‥‥アメリカ帰りの刑事。腕は優秀で頭も切れるが、強すぎる正義感で上層部と衝突が多い(というか、上層部の意向を勝手に無視するだけだが)
ある海外マフィア(舞台上では『組織』と記述)とはアメリカにいた頃からの因縁で、日本に来てからは日本の拠点から中枢を掴もうと追跡中。半年前、組織主催のパーティを潰し、主催者の一人を捕まえる。
アネモネ‥‥組織の暗殺者(『使い手』と呼称)の一人。腕利き。
半年前、組織主催のパーティで内通者に制裁を下す。その時に朋哉と偶然接触。
現在、朋哉の抹殺を命じられる。
朋哉に対して他の人間に抱いたことのない感情に芽生えるが、それがなんなのかは自覚せず。
アネモネの花言葉:『はかない恋』『うすれゆく希望』『清純無垢』『恋の苦しみ』―――『可能性』
紫のアネモネ:『君を信じて待つ』
他の配役は自由設定。
アクションは舞台演劇で可能な範囲になります。
●リプレイ本文
●CAST
尾瀬朋哉‥‥双葉敏明(fa5778)
アネモネ‥‥パトリシア(fa3800)
山野桜‥‥天羽遥(fa5486)
天城静真‥‥天城静真(fa2807)
霧島十梧(きりしまとおご)‥‥片倉 神無(fa3678)
J・B‥‥Rickey(fa3846)
カザマ‥‥水沢鷹弘(fa3831)
『父親』‥‥工口本屋(fa4421)
●美しき花のように
「オゼの抹殺を、アネモネにさせるのですか?」
組織の幹部候補J・B。
若くして有能である彼は関東全域の運営を任されていた。
大抵の指令を通信手段で済ませる彼が、今日は珍しく、相手のところにまで赴いていた。
豪華な調度品の置かれた屋敷の持ち主が目の前にいる。
組織での名を『カザマ』。
日本の全権を任されている幹部である。
机の上の花瓶を弄びながらカザマは指令を下す。
活けてある花の名は『アネモネ』
「オゼの抹殺にはアネモネを行かせる。いつもの様に計画を監視し、報告してくれ」
上司から直属の部下への命令。
返答に『YES』以外はありえない。
だが、
「‥‥些細な事でしたのでご報告はしておりませんでしたが‥‥」
J・Bは有能だが若かった。
正義などというものを守るつもりは毛頭ないが、老獪な汚さまでは持ち合わせない。
責任を他者に押し付け生き延びようとする前に、任務の成功を優先してしまう有能な歯車が、上司に懸念を打ち明ける。
「半年前のパーティ‥‥アネモネの、この国での初仕事の時のパーティでの事です。あの時、アネモネはオゼを傍に置いていました。アネモネの性格からして考えられない事です」
あの時の違和感を思うと何かが引っ掛かって仕方ない。
有能故に、彼は自身の直観を裏切ることが出来なく、おそらく初めてであるであろう、上申を立てた。
しかし、それに対する上司の反応は穏やかと言えるほど落ち着いたものだった。
「今回の件には、アネモネの監視も含まれている。この半年、些細な変化ではあるが、アネモネの様子が変わったと言う事は聞いている」
もとよりカザマは手足に信頼など置いてはいない。
使えないのなら――、
「アネモネがこれまで通り暗殺者として使えるのか。よく観察してくれ。
そのままオゼの抹殺に成功すればそれで良し、もし仕事を躊躇う様なそぶりがあれば、その時は‥‥」
花瓶の隣に置かれたナイフを手に取り、首を刎ねるかの如くアネモネの花を切り飛ばす。
●二人の猟犬
警察署内、使われていない筈の会議室を二人の男が利用していた。
「ま、何だ‥‥表立って協力するわけにはいかんが‥‥他言無用だぜ?」
尾瀬朋哉は霧島十梧警部から渡された資料に視線を巡らせる。
半年前の一件から入手した組織の情報だ。
組織は下の者にはほとんど内部の情報を漏らさない。
それは思った以上に徹底していて、仮にも一つの取引を任された責任者を捕まえてすら得られる情報は微々たるものだった。
ただ、それでも得られた情報は、
組織の日本での活動はまだそこまで本格的ではなく、人員も限られていること。
その場合、暗殺者――組織でいう『使い手』――の数も限られ、日本で動ける者は僅かしかいないこと。
だから、おそらく朋哉を狙ってくるとしたら、半年前、『穴熊』エルリッヒを始末した『使い手』がくる可能性が高い。
それが、
「アネモネ‥‥この情報だけは分からない。暗殺者のコードネームというのは分かるだが、あらゆる情報がない。女か男か、得意な技能は何か‥‥」
本当に知らないのか、それとも吐かせられなかったのか。
「それでも、少しでもわかることがあるなら、対策も立てられます」
狙われているのならば、そこから敵の尻尾を掴むまで。
むしろ好都合だと構える朋哉に、
「わかってんだろ? 俺はお前を利用してるんだぜ?」
霧島は朋哉とは違う。
自身の安全を確保しながら敵の綻びをつくベテランだ。
今回も血気盛んな朋哉を囮に使うつもり、悪く言うのなら『駄目で元々』とすら思っている。
どうせ放っておいても無茶をする命だ。
有効に使うことの何がいけない、と。
そんなことは無論、朋哉も承知だ。
「上層部はやる気がないんでしょう? だからやらざるを得なくなるように俺が動く。
俺がやりたいからやっているんです。霧島さんにやらされているわけじゃありません」
利用してくれるのなら望むところだと、礼を言う。
霧島は毒気を抜かれる。もしかすると自分はただ利用しているのではなく、
(期待してんのかもな、こいつの‥‥『若さ』ってやつに)
署を出る朋哉を窓越しに見送りながら、
「‥‥さて、どう動くかね、これで」
●サイカイ
「あれ、尾瀬さんデートですか? 隅におけないな」
何故こんなことになったんだろうと朋哉は考える。
街で見かけた女の子。
それが半年前にパーティ会場であった娘だとは彼も気付いていた。
物騒な現場での別れであっただけに、少女の無事に安堵するも、こちらから話しかけるつもりはない。
今の時期、万一巻き込んでしまうようなことがあっては今度こそ無事では済まないかもしれない。
そう思ったのに、
(「この間はありがとう」)
まさか彼女の方から話しかけてくるなんて。
「あっ、俺、尾瀬さんの職場の後輩で天城って言います」
そしてそこを後輩の天城静真に見つかってしまう。
静真は少女に聞こえないよう、そっと、
「桜さんに聞きましたよ。尾瀬さんマジでヤバいじゃないですか。あんな女の子連れ歩いてて巻き添えでも食ったら大変ですよ」
『俺だってわかっている』と言い返してもあまりに説得力がない。
いや、それより
「聞いたって、お前――!」
警察官が命を張れるのは警察の後ろ盾があってこそだ。
単独で命を懸けるのは既に警察官の職務ではない。
だからこそこの件は自分ひとりで挑むつもりだったのだが。
「じゃあ、俺はこの辺で。馬に蹴られても困るんで」
部外者である少女の前で話は出来ないと静真は二人と別れる。
(一言多いんだよ)
仕事優先の朋哉としては少女に先に別れを切り出そうと思ったのだが、先手を取られる形になった。
「馬? この国ではこんな街中にも馬が通るの?」
「あ、いや、それはね――」
べつに、それでも別れを切り出すことは出来た。
それでもそのまま少女に付き合ってしまったのは、なんのことはない、
半年前の出会いが朋哉にとって不快でなかったように、
この少女はどこか、張り詰めている自分に潤いを与えてくれる。
そんな存在であることがなんとなくわかってしまっただけのこと。
●やきもちさくらん
「‥‥参ったな、山野、お前にまで話したのか」
結局数時間、刑事であることも明かせず――明かしたくないと思ってしまったのか――、少女に街案内をし、別れを告げた後、静真と再び合流する。
何故か後輩に強く出られない朋哉だった。
(あ、そういえばまた名前聞きそびれたな)
まあ、こんなことを考えているなら当然かもしれない。
「話しましたが、何か?」
背後からの聞き覚えのある声。
霧島に続く情報提供者、山野桜。
元々霧島の情報も彼女を通じて寄越されたわけなので、この件に関わっているのはよく知っている。
それでも危険な単独行動に、静真同様、巻き込む気はなかったわけで。
「山野、お前――」
「あの子、なんなんですか?」
「は?」
文句が来ることくらいは予想していたが、それは朋哉の思ってもいない角度からのものだった。
確かにこの登場はタイミングが良過ぎる。
つまり桜は既に静真と合流していたか、
もしくは、既に朋哉の後をつけていたか、
「‥‥鼻の下伸びてますよ」
ぷいっとそっぽを向く桜に背後の静真は笑いを噛み殺している。
●開幕ベル
結局、今日も収穫はなし。
警察は権力と人数で捜査を進める。
後ろ盾がなければ腕利きでも調査に限界はある。
それでも全く手がかりがないわけではない。
地道でも調査を進めていけばじきに相手の懐への手がかりくらいは辿り着くだろう。
(ほら、さっそくだ。思ったより早い)
銃弾を避けられたのは奇跡に近い。
帰り道、周囲に気配がなさ過ぎたこと。
完全なる無音が朋哉の第六感に危険を告げた。
(かわされた――?)
ありえない行為への動揺を、だが、瞬時に消し去り、アネモネは行動を移行させる。
人気のあるところまで逃げ込まれてはまずい。
狙撃で仕留められないのなら、動きを封じるまで。
●ロミオとジュリエット
(まさか――こんな――)
アネモネは戸惑う。
迷いはあった。
だが、それでも、
自分の攻撃を凌ぎ、追い詰める相手など、『使い手』となって初めての体験だった。
だが、朋哉の動揺はそれを上回る。
確かに強い相手だ。
一対一で負けるかもしれないと思ったのはいつ以来か。
二度勝てる自信はない。
が、体格差もあり、敵を捻じ伏せ銃口を突きつける。
夜闇の中、朋哉は初めて敵の顔を見た。
「――君は――!」
昼間、楽しそうに会話を交わした少女の顔を――。
一瞬の迷いが形勢を逆転させる。
組織屈指の『使い手』相手には致命的すぎた。
「どうして――!」
その言葉もアネモネには届かない。
殺さなければ、自分が消える。
見逃せば、それが自分にとっての『非日常』へと変わる。
アネモネの銃弾が一切の迷いもなく、朋哉の心臓を貫いた。
●花はただ、美しく
監視に寄越した部下に連絡が取れない。
だが、J・Bは慌てない。
それは既に予想の範囲内だったから。
「アネモネは抹殺に失敗致しました。やはりオゼに特別な感情を持っている様な所が見受けられます。これではもう暗殺者として使えない‥‥組織を危険に曝す存在にすらなりかねません。‥‥如何致しますか?」
つまりはそういうことだ。
監視員に連絡が取れないならば答えは決まっている。
暗殺は一流でも所詮は小娘だ。
確認をするまでもないだろう。
「‥‥そうか。早急に対策をとらねばならないな。アネモネと言う美しい花を失うのは、組織にとって大きな損失ではあるが‥‥。J・B、ご苦労だった」
報告を受けるカザマ。
その声音は氷の様な冷たさを含んでおり、
再び花瓶に生けられたアネモネの花を、感情の籠もらない瞳で見つめる。
「今度は手折らんのかね?」
部屋にはカザマ、J・Bともう一人。
氷のような二人とは対照的に、感情を隠そうともせずに笑みまで浮かべる中年。
名をギリシアの言葉を使い、『父親』(パテル)と呼ばれている。
「‥‥御不満か? 自慢の娘を手折らねばならない事にか? 自慢の娘が色を失った事にか? それとも――
自慢の娘を美しく仕上げられなかった御自身への不服か――?」
『使い手』達の『父親』。
アネモネは彼の自慢の殺戮人形だった。
「――何もわかってはおらぬな」
『父親』は哂う。
喜びと憤りが同居し、混ざり合う、
見ている者が不快になるほどの黒い笑みを。
「―――」
その醜さにJ・Bですら顔をしかめる。
これはまっとうな人間の接していい相手ではない。
「アレが失敗だなどと――まあいい、それが君らの意向ならば好きにしたまえ」
負け惜しみとは思えぬほどの喜びを浮かべ、『父親』は深く哂う。
●それはたぶんほのかな想い――
「尾瀬さん! 大丈夫!? しっかりしてください!!」
桜が倒れ伏す朋哉に駆け寄る。
「いったい何があったんです」
静真はあたりを見回すが、周囲には誰の気配もない。
狙撃の直後に受けた緊急連絡に駆けつけた二人だが、既に襲撃は終わっているようだ。
「――っ!」
朋哉が息を吹き返す。
防弾チョッキを着ていたとはいえ、至近距離からの一撃は昏倒するには充分だった。
いや、おそらく彼女はそれを狙っていた。
でなければ気を失った自分の生死確認すらせずにこの場を去るわけはない。
自分を殺す為に現れた少女は、
自分を生かす為に心臓を狙い、見逃した。
「アネモネ‥‥」
その呟きは追っていた『使い手』に対するものか。
それとも、やっと知ることのできた少女の名前にか――。