パラダイムシフト・散華アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 冬斗
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/31〜09/04

●本文

 色覚のない生き物が『色』というものを理解しないように、
 彼女にとってそれは当たり前の日常だった。

 けれどある日、違うものを見た。
 白と黒しか知らない彼女にとって、
 それは驚きと戸惑いの経験だった。

 男は哂う。
 愛するものを愛でる、美しくも醜悪な笑みで。


「花が何故美しいと思う?」
 男は自分の『作品』に向かい、呟く。
 『作品』は答えない。
 答える事を男が必要としていないから。
「そこに『愛』があるからだ。
 花は植物の器官で唯一、自身が生きる為ではない器官。
 だから美しい。
 植物も人間も、他の『何か』に身を捧げる姿は見るものを惹きつける」
 男は語る、『愛』を。
 それが酷く下衆なものに聞こえる。
「感情を捨てるのなら機械に頼ればいい。
 私は違う。私の人形は美しき殺戮人形。『愛』を知る、人間(ひと)と変わらぬ堕天使!」
 愛を覚えた天使は地に堕ちる。
 だが、それこそ男の望む最高傑作。
「苦労したぞ。『愛』は教えては身につけられん。目覚めるものだ。だからこそ――」
 かつての『作品』に向き直る。
 『それ』は『愛』を知らない。
 覚えられない。
 そう育てたから。殺すことに悦びを覚えるように。
 非情になれる為の歪んだ洗脳、だが――、
「アレはひたすら純粋無垢に育てた。殺しを営みながら、やがて『愛』に目覚めるよう」
 『彼女』に洗脳はされていない。
 少なくとも、殺しに悦びを覚えるようには。
 『愛』を覚え、それを殺すために。
「苦労したぞ! ようやく芽生えたか! その感情を覚えておけ! それが――」
 今までの『作品』に持ち得なかったもの。
 揺らぐことのない完璧なまでの――。
「――それがお前の強さとなる!」
 この世で最も哀しい事を体験した者にこの先何の迷いが現れようか。
 愛する者をその手で殺す。
 それを達した時、『彼女』は色のついた世界を見たまま、白と黒しかない日常を過ごせるのだ。


 『父親』は哂う。
 娘の最大の不幸を。
 己の最大の幸福として。


○舞台演劇
「パラダイムシフト・散華(ちるはな)」

 暗殺者の少女と狙われる刑事の恋愛物語。
 第三回です。
 再びアネモネが朋哉を狙います。

 尾瀬朋哉‥‥アメリカ帰りの刑事。腕は優秀で頭も切れるが、強すぎる正義感で上層部と衝突が多い(というか、上層部の意向を勝手に無視するだけだが)
 ある海外マフィア(舞台上では『組織』と記述)とはアメリカにいた頃からの因縁で、日本に来てからは日本の拠点から中枢を掴もうと追跡中。半年程前、組織主催のパーティを潰し、主催者の一人を捕まえる。 一月ほど前、組織の『使い手』アネモネに命を狙われる。(襲われたことは報告したが、相手の正体(以前あった少女だということ)は報告せず)

 アネモネ‥‥組織の暗殺者(『使い手』と呼称)の一人。腕利き。
 半年前、組織主催のパーティで内通者に制裁を下す。その時に朋哉と偶然接触。
 一月ほど前、朋哉の抹殺を命じられるが、失敗(故意に見逃した)。
 朋哉に対しての感情は未だに自覚なく、 戸惑いを覚えている。
 アネモネの花言葉:『はかない恋』『うすれゆく希望』『清純無垢』『恋の苦しみ』―――『可能性』
 紫のアネモネ:『君を信じて待つ』

 『父親』(パテル)‥‥本名不明。アネモネをはじめ、組織の『使い手』達の育ての親。

 状況:
 組織はアネモネを処分する予定。
 『父親』は発言力はあるが、それを止めていない(『追い詰められることが、愛する者(朋哉)の抹殺に繋がる』と考えている。速やかに処分を進めようとする組織に対し、敵でも味方でもなく、アネモネを追い詰める思考)
 朋哉はアネモネを報告はしていない。親しい者達が知っているかは不明。
 アネモネは『父親』に匿われているが、組織から守られているわけではなく、『組織から許される為には、あの男(朋哉)を〜』と言い含められている。

 朋哉とアネモネ以外は配役自由。
 アクション、その他の演出は舞台で可能な範囲であれば問題ありません。

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa2807 天城 静真(23歳・♂・一角獣)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa3846 Rickey(20歳・♂・犬)
 fa5003 角倉・雪恋(22歳・♀・豹)
 fa5778 双葉 敏明(27歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

●CAST
 尾瀬朋哉‥‥双葉敏明(fa5778)
 アネモネ‥‥パトリシア(fa3800)
 天城静真‥‥天城静真(fa2807)
 霧島十梧‥‥片倉神無(fa3678)
 J・B‥‥Rickey(fa3846)
 ベロニカ‥‥MAKOTO(fa0295)
 イエロー・アパタイト‥‥タブラ・ラサ(fa3802)
 エミリー・ミラー‥‥角倉雪恋(fa5003)


●二人目の刺客
「ご命令の通り、アネモネの件はオゼの抹殺と平行して進めています。アネモネは『父親』の元に匿われている様ですが‥‥ずっとそのままにもしておけないでしょうし、時間の問題でしょう」
 組織を嗅ぎ回る男・尾瀬朋哉とその抹殺に失敗した『使い手』アネモネ。
 二人の件はJ・Bに一任されている。
「また新しい情報が入りましたらご報告致します。‥‥失礼致します」
 失敗は許されない。
「イエロー・アパタイト」
 闇に向かい命じる。
『欺き・惑わし』という石言葉を持つ宝石。
 姿を見せぬ暗殺者は主の命に従い、標的の命を狙う。

「それにしても、あの男‥‥『父親』(パテル)は、一体何を考えているのか‥‥」
 J・Bは自分を闇の世界の人間だと認識している。
 だが、それでも悪には悪のルールがある。
 規律を守らねば彼らとて生きてはいけない。
 そのルールすら存在し得ない人間。
 真の『悪党』とはああいうものをいうのかもしれない。
 J・Bは珍しく、そんな――彼には似つかわしくない――感傷的なことを考えてしまっていた。

●朋哉の想い
 尾瀬朋哉は悩む。
 自らの危険に怯みもせず、組織に肉薄しようとする男は、たった二度の少女との出会いに想いを巡らせる。
「あの子がアネモネ‥‥かな?」
 それは間違いない。
 いや、『アネモネ』だという確証はなくとも、今自分の命を狙ってくる相手、
 それも玄人ともなれば組織の『使い手』以外にはありえない。
「あんな可愛い子が? いや、可愛いということは疑われないことだから暗殺者としては最適なのかも。じゃあ、何で俺を殺し損ねたんだ‥‥?」
 思考は纏まらず、本を開く。
 先日もやもやとした想いを抱えながら、もやもやと手を伸ばしてしまった一冊の本。
 『花言葉』
 静真が見たら笑うだろう。
「アネモネの花言葉は期待、はかない夢、薄れゆく希望‥‥」

●アネモネの苦しみ
 現在、アネモネは『父親』の屋敷の一つに保護されていた。
 あれから一月、組織の手のものは来ない。
 『父親』からの連絡もない。
 それが彼女をより不安にさせた。
 無論、それは『父親』の思惑。
 今、口を出しては折角抱いた淡い想いが消し飛んでしまうかもしれない。
 だから―、

「ごきげんよう。腕は錆び付いてはいないかしら?」
 やる事もなく、トレーニングを繰り返すアネモネに、一月ぶりの来客が現れる。
 アネモネと同じ、『父親』の愛の結晶。
 『ベロニカ』
 花言葉を“微笑をもって”。
 表情豊かな彼女はアネモネとは対照的で、それが逆に姉妹のよう。
「『お父様』は貴女をとても心配なさっているわ」
 姉は妹を気遣い、優しく銃を渡す。
「退くも進むも貴方次第。還って来るなら、今度はちゃんと殺しなさい」

 だから、
 愛する娘の初恋は、きちんと花を咲かせ、そして――
 ――手折るのだ。

●周囲の心配
 朋哉の悩みは周囲にも伝わる。
 当然、彼にも――。
「尾瀬さん一体どうしたって言うんですか? まさか例の‥‥」
(「おい!」)
 組織の調査は朋哉の単独行動だ。
 口にする事ははばかられる。
 ――なのだが、
 どうもこの件は違う理由で口止めされた気がする静真だった。

「尾瀬さんこの間の件以来なんか変なんですよ。
 例の組織が絡んでるみたいな気がするんですが、上のほうは相変わらずなんですか?」
 桜が出張中の現在、朋哉を心配するのは自然に静真一人となる。
 そして頼る相手のいない彼は霧島に相談を持ちかける事になるわけだが、
「相変わらずも何も、上層部は『決定』しちまったんだ。大きな変化でもない限り動かんよ」
 『癒着』――というほどのものではない。
 ただ、捕り物は相手が大きければ大きいほど、それに対する代償も増し、
 それを覚悟するには日本における組織の活動は大人し過ぎる。
 暴力団がなくならないのはそういうことだ。
 彼らは違法ではあるが、秩序を守り、
 故に社会に守られている。
 たとえ、その裏にどれほどの非道があったとしても。
「動かなければ‥‥『大きな変化』なんてあるわけないじゃないですか‥‥!!」
 矛盾に憤る静真。
 霧島は自嘲する。
「程度の差こそあれ日和見なのは俺も同様‥‥かね」
 だが、それより、
「その『この間の件』ってのについて――お前他にも知ってるんじゃないのか? 聞かせろよ」

●アメリカからこんにちは
「ハーイ、しばらくぶりだけど、腕が鈍ったりしてなーい?」
 エミリー・ミラー。
 朋哉のアメリカ時代の同僚という。
「エミリー? 何しにきた? 酒でも飲みに来たのか?」
「あら、冷たいじゃない。せっかく休暇をつかって遊びに来たっていうのに」
 聞けばちょっとした長期休暇が取れたという。
 だが、人手不足なのは日本も向こうも同じ筈だ。
 つまりは『しばらく休んでくださいよ』という上の意向で、
 なるほど、確かに朋哉の『同僚』だったのだろう。
 彼女の有能さと無茶振りは想像に難くなかった。

●迷いは確信に
 警察署からの尾瀬朋哉の帰宅ルート。
 アネモネは再び彼を待ち構える。
 ベロニカの下調べで、未だ彼は帰宅ルートを変えてはいない。
 あんな事があったというのに。
 誘っているのは明白。
 それでも少女に選択肢はなかった。
 この手で決着をつける。
 手強いが勝てない相手ではない。
 それだけだ。
 正体のわからぬ戸惑いに暗殺者としての認識で蓋をし、標的を待つ。
 果たして彼は現れた。
 予想外の人物と共に。

「おじさん、おじさん!」
 静真が聞けばへこみかねない呼び声に朋哉が立ち止まる。
 あまり良くない状況だ。
 アネモネの襲撃を警戒している今、この子供も巻き込まれる危険がある。
 だが、無視するのは余計に危険だ。
 とにかく早く遠ざけようと、子供の呼びかけに向き直る。
「なんだい? 道に迷った――訳でもないか」
 明らかに自分を呼び止めている。
「紫の髪のお姉ちゃんがこれを渡してって――」
 空気が凍る。
 ついに現れた。
 今も見ている?
 どこから?
 そう考え、周囲への緊張を高めた時、
 唯一、
 目の前の子供だけが警戒から外れた。

 イエロー・アパタイト。
 石言葉は『欺き・惑わし』。
 殺気を消し去るだけには止まらず、あえて警戒を煽る事で、『それ以外』への注意を逸らす。
 『惑わし』
 アネモネに意識が向いた彼には傍の子供が解き放った殺気にすら気付かない。
 さらに間の悪い事に、
「アネモネ‥‥!!」
 警戒の対象が姿を見せたことで、朋哉の意識は完全に子供から途切れる。
 そして、暗殺者の少女は、銃も構えずに朋哉に駆ける。

 何をしているのか、自分自身でわからなかった。
 銃を使うには二人が接近しすぎてる。
 子供のイエローは体格のいい朋哉の影にすっぽりと隠れていて。
 いや、それ以前に彼女は兄弟を撃ったことなどなく、純粋培養な故に考えにも及ばず――。

(――まって、
 私、何を考えて――)

 鈍い衝撃。
 イエロー・アパタイトの仕込みナイフが朱に染まる。
 飛び込んできた少女の鮮血によって。

「アネ‥‥モネ‥‥?」
 朋哉も少女も突然の出来事に困惑するしかない。
 暗殺者はそれを『好機』とみるか、
 銃声。
「トモヤ!」
 現れたのはエミリー。
 休暇中の彼女が何故銃を持っているのか。
 だが、その一発は威嚇として、二人を救った。
 上腕部を刺された少女を見たエミリーは即座に状況を判断した。
 静真や霧島に事情を聞いていた事も幸いした。
 この男がトラブルに巻き込まれないわけがない。
「こんな幼い子までも殺しに使うなんて‥‥貴方にも、あたしが愛を教えてあげようかしら?」
 一方の少年も状況を把握する。
 自分が得意なのは不意打ちだ。
 そして正体が露見してしまった以上、怪我をしたアネモネにすら勝てる保証はない。
 アネモネを案じる標的をすり抜け、一目散に逃げ出す。
「あ、こら!」
 エミリーは追うも、捕まえる事は出来ない事を自覚した。
 一流の暗殺者なら逃走経路も確保してある。
 その場合は脚力の勝負にはならないだろう。

「はぁ‥‥はぁ‥‥、‥‥ごめんなさい、しっぱいしました」
 心は冷酷でも仮面はあどけなく。
 少年の口調は組織においても変わる事はない。
「アネモネのおねーちゃんがじゃまをしてきて――」
 そして当然、身内にかける情もなく、
 少年は淡々と上司に経過を伝える。

●そして敵は動く
「‥‥あまり良くないご報告です。アネモネが、オゼの手に落ちました」
 イエロー・アパタイトからの報せを告げる。
 部下の失敗は自身の失態にも繋がる。
 が、J・Bは表面上は冷静さを崩さない。
「『父親』がアネモネをオゼの元に向かわせたらしいのですが‥‥」
 微かに苦々しい感情を覗かせる。
 生き残った標的よりも、
 失敗した部下よりも、
 裏切った少女よりも、
 理解の出来ない男の行動に最も苛立ちを覚えるというように。
「アネモネとオゼを纏めて始末するチャンスとも言えますが‥‥何れにせよ、いよいよ本格的に手を打たねばならない様です。如何致しましょう‥‥?」
 とにかく、もう捨ててはおけない。
 あの刑事を消す。
 これ以上は自分の立場も危ういと整った顔を仮面に憤る。
 邪魔をするならばあの娘も消す。
 もうあんな男の気紛れになど振り回される気はない。

 一方でベロニカも事の経過を『父親』に報告する。
「如何なさいますか? 今なら手折るは造作も無い事」
 しかし、携帯電話越しの『父親』の言葉は予想を反するものだった。
「は? 見張りを続けろ? アネモネに標的を始末させろと? でも――」
 それができなかった。
 なのに『父親』はそれをやらせろという。
 それは『父親』の執着。
 『作品』の任務も評価も完成度すらどうでもいい。
 ただ、美しさ。
 それのみを追い求める偏執。
 かつてそれはベロニカに向けられていた。
 “微笑をもって”対象に死を運ぶ。
 冷たいだけではない、美しさを備えた殺戮人形。
 だが、その興味が今度はあの少女に向いた。
 ただ、それだけ。
「――気に入らないわね」
 殺意にも近い嫉妬を、やはり美しい微笑のままで、女は呟く。

●消えた二人
「霧島さん! 助けてください! 尾瀬さん、今度こそヤバくて――!!」
 エミリーと共に朋哉とアネモネを保護した静真。
 頼みの桜は不在、話していいものかと迷うも、やはり霧島に相談する。
 アネモネのことを聞いた霧島は先日までの朋哉の様子に納得し、考えを巡らせる。
「少女‥‥? 組織に狙われている‥‥? ふむ、上手くすれば『切り札』になるかもしれんな‥‥よし分かった、取り敢えず俺が向かう」
 それと、と、
「保護するのは構わんが、今あいつを保護するってのは‥‥多分余計な事をしないように軟禁するも同義‥‥それは断っておくぜ?」
 断っておくも何も全て話してしまったのだから、静真に止める術はない。
 やはり話さなければよかったか。
 しかし、現在の身内で唯一頼れるのが彼である事も事実だった。
 その判断は間違ってはいまい。
 手段に違いはあれど、目的は同じ。
 いや、もはや目的も異なるかもしれないが。
 それでも、現在彼以上に頼れる人間はいないだろう。
 火中に飛び込む覚悟で、静真は霧島に同意した。

 二人が朋哉のアパートに着いた時、そこはもぬけの殻だった。
「――おい、どういう事だ?」
「そ、そんな、俺にも何がなんだか‥‥」
 確かに朋哉はアネモネをここに連れ込んだ。
 なのに――。
「‥‥まさかお前、二人を匿ってるんじゃあ‥‥」
「ち、ち、違いますよっ!!」
 そんな事は霧島にもわかっている。
 ならそもそも案内などしないし、
 自分からしたら朋哉も静真も嘘をつける人間ではない。
 ならば二人はどこへ行ったのか。
「さて、こいつぁまた‥‥厄介な事になりそうだな」

●恋は紫の花咲きて
 時は少しだけ遡る。
 出血により意識を失い、気がついたアネモネは見知らぬ部屋に寝かされていた。
 傍には怪我の手当てをしている男。
 見覚えは――ある。
 この一ヶ月片時も頭から消えた事のなかった男。
 コロさなければならない、自分の標的。
「‥‥じっとしていろ。この傷じゃあ、事件性を疑われて通報されるから、救急車を呼ぶわけにもいかないしな」
 聞かずに飛び起きる。
 焦りが冷静な判断を誤らせ、殺傷力の欠ける攻撃を放たせる。
 当然、自分と五分に渡り合える相手にそれが通じるはずもなく、
「いいか? ‥‥俺を殺したければ五体満足になってからこい。そうじゃないと‥‥反撃で倒されるぞ」
 壁に押し付けられ強引に大人しくさせられる。
 初めは呻くが、落ち着きだすと顔を赤らめるアネモネ。
「? ‥‥‥‥――――!!」
 思った以上に接近している事に慌てる朋哉。
 怪我の治療の為に上着を脱がしている為になんだかまずい気がしてきた。
 けれど、それ以上に戸惑っているのがアネモネで。
 自分が赤くなっている理由もわからず、意識を失う前、ここに連れてこられる時に一緒にいた女の言葉を思い出す。
「彼を殺せなかったのが意外? でも、彼もまた貴方を殺さなかった‥‥どうしてだか、分かる?」
 それがわからないから困っているのだ。
 でも女は続ける。
 とても優しいお節介を。

「素直な気持ちで、彼ともう一度話しなさい。
 きっと、自分の新しい気持ちに気付くはずだから」