レベルBアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 冬斗
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/05〜09/09

●本文

「どうですか?」
「うーん‥‥」
 とある劇場の一室にて。
 年の頃は30にも満たないであろう男が劇場のオーナーに読ませているのは一冊の脚本。
「うちは子供とかも観に来るからさ、これじゃテーマくらいよねェ」
「はぁ」
「公演も4時間って無駄に長いしね。2時間くらいでもっと明るくまとめてさ。
 設定はもっと単純でいいと思うよ。例えば悪い獣人と戦う人間とか」
「はぁ」


「――というわけで、フィクションの世界から人間達にメッセージを送り、NWの危険性をアピールする作戦だったのだが」
「貴方の脚本は回りくどすぎます」
 劇団瞳倶羅(どぐら)の団長鹿斗(しかと)のマイペース振りにはいつも頭を悩ませられる。
 そもそもの発端はWEAからの『NWによる人間への被害の防止対策』をこの男が任されたところから始まった。
 鹿斗は劇団員も集まっていないうちから劇団を立ち上げ、NWによる危機を知らせる脚本を作り、公演を持ちかけた。
 結果は――記述のとおり。
「そこで次の作戦だが」
「異議あり!! 我々も企画から参加させていただきたい!!」
 団長に反抗的な樺太(からふと)劇団員35歳。もちろんWEAの一員。
 完全に無視して鹿斗団長は発案する。
「正義感が強く、夢いっぱいの獣人達を集めて新たな対NW用の脚本を立ち上げる」
「だからなんで舞台公演にこだわるんだーーーーっ!!」


○募集/
 劇団瞳倶羅の初公演に向けての役者スタッフ。
(備考:『NW(エヌ・ダブリュー)』というアルファベットに嫌悪感を持たれる方(面接あり))

○公演内容(面接を通った方のみに公開)/
 NWの危険を一般人の心理に訴える脚本。
 詳細はスタッフが揃ってから。
 そのままの内容を公演するのには問題があるため、上手くぼかすこと。

●今回の参加者

 fa1772 パイロ・シルヴァン(11歳・♂・竜)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3225 森ヶ岡 樹(21歳・♂・兎)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa4880 森・ともみ(18歳・♀・犬)
 fa5486 天羽遥(20歳・♀・鷹)
 fa5556 (21歳・♀・犬)

●リプレイ本文

●我々は出ませんがね
「あの‥‥」
 台本に目を通したパイロ・シルヴァン(fa1772)は尋ねる。
「ナレーターなのに役名あるの?」
 さも当然と言わんばかりに鹿斗団長。
「ナレーターとは立派な配役だよ。君には少々高めの年齢設定にしたが、そこらへんは上手くフォローしてくれたまえ」
 なにをいっているのかよくわからないが、やるだけやってみよう。
 彼と付き合う上で諦めが肝心だと、何故かパイロは理解した。

●CAST
 恭子‥‥ブリッツ・アスカ(fa2321)
 雅‥‥草壁蛍(fa3072)
 直(なお)‥‥虹(fa5556)
 一司(かずし)‥‥森ヶ岡樹(fa3225)
 バグア(鳥怪人)‥‥天羽遥(fa5486)
 バグア(牛怪人)‥‥マサイアス・アドゥーベ(fa3957)
 ナレーター・佐渡(さど)‥‥パイロ・シルヴァン


●はじまりは軽率に
『ねぇ、知ってる? あのビルで最近、変な影が目撃されてるんだって
 気味の悪い鳴声までするって‥‥ね、ちょっと行ってみようよ?』

 ――それは、あまりに軽い遊び心。
 悪戯の結果がいかなる代償を払う事になるのか、彼女らはまだ知るはずもなく――。


 直と一司は都内の某大学生。
 二人の所属するオカルトサークルには怪奇現象の噂が絶えない。
 そのうちの一つ、怪物が出るという廃ビル。
「んー? 特に何にも居ないね?」
 誘ったのは直だった。
 オカルト好きではあるが臆病な一司は、現地に赴くなどという事は出来ない。
 乗り気でない一司を誘った直の意図に好奇心以外のものがあることを彼は気付くはずもなく、
「ねぇ、もう帰ったほうがいいよぉ、
 暗いし何もないし、楽しくないよぉ」
 泣きそうな一司に悪戯心を覚え、からかおうと、
「誰かいませんかー?」
 そう叫んでみたり、瓦礫をいじったり。

●稲妻・虎娘
 直と一司が廃ビルに入った後、遅れて入り口を見つめるライダースーツの美女。
 その瞳に宿るのは好奇心でない何か。
「感じる‥‥『ヤツら』の気配‥‥」
 呟き、身を翻すと、女の頭には獣の耳と、スーツの下半身からは虎縞の尻尾が生えて――。
「人も入ったみたい――急がなきゃ!!」

●唐突に降りかかる恐怖
 一方、直と一司は廃ビルで女性と出会う。
「あ、誰かいるよ、ほら、持ち主さんとかだよきっと、
 だからごめんなさいしてかえろぉ‥‥お?」
 栗色の髪をしたその女の背には――
「えと、羽?
 普通の人ってあったっけ‥‥?」
 女は答えない。
 羽で身体を隠すと、
 再び覗かせた顔には鋭い嘴が生え、猛禽の瞳が――
「ヒッ――!」
 直は射竦められたように怯え、一司も、
「嘴‥‥? 突付かれたら痛いよねって‥‥おばけ〜〜〜〜!」
 その悲鳴に反応したのか、怪人は羽を凶器に二人を襲う。
「‥‥くぅッ」
 羽は直の足を掠め、痛々しい傷痕を残し、
 転びそうになるところを一司に支えられて逃げ出す。
「一司――」

 這いずり逃げる二人。
 その先には新たな後ろ姿。
 スーツ姿に帽子を被った大男。
 一司が助けを求める。
「たすけてくださ〜い!! 肝試しの下見に引きずられてきた‥‥ら!?」
 大男の帽子が落ちる。
 剥き出しになった頭部には二本の角。
 人間の頭から生えるものではなく、
「きゃぁぁぁあああああああッ」
 恐怖に引きつる直。
 一司は再び逃げようとするも、反対からは先程の鳥怪人が。
「あ‥‥あ‥‥」
 涙目で怯える直。
 手を引いてくれる一司は、
「めがねめがね‥‥」
 転んだのだろう。床を手探りで逃げ出すどころではない。
 前が見えない一司に牛の角を生やした異形が立ち塞がる。

「待てっ!」

 叫びつつ牛怪人に飛び蹴りを喰らわせる闖入者。
 2mの巨体が派手に宙を舞う。
「大丈夫?」
 二人を助けたライダースーツの美女。
 その頭には獣の耳と、スーツの下半身からは虎縞の尻尾が生えて――。
「今、助けるから! じっとしてろよ!」
 女は勇ましくも、金切り声で鳴く鳥怪人と低く唸る牛怪人、物言わぬ二体の異形に立ち向かう。

●いまそこにある危機
 『バグア』という存在がある。
 宿主とした生物を変容させ凶暴化させる地球外生命体。
 感染した生物は宿主の特性と『バグア』本体の特性の融合した怪人と化す。
 『バグア』は人を襲い、喰らう。
 だが、地球外の脅威より人々を守る為、この星により力を与えられし者。
 バグアに対抗するべく、同質の獣の力を授かりし正義の獣人達がいた。

●ビースト・ナイト(獣の騎士)
 虎の姿を模した女はその戦いぶりも虎を思わせた。
 俊敏さと強靭さを兼ね備えた蹴り技で怪人と渡り合う。
 事実、その動きは二体の怪人でも捕らえきれない。
 スピードでは圧倒的に彼女が上。
 だが、それでも彼女は苦戦を強いられていた。
 彼女の膂力は蹴りの音から直や一司にも伝わる。
 並の人間ならガードごと昏倒させる一撃。
 だが、牛怪人の巨体はそれすらも防ぎきる。
 ダメージを受けたのは先程の不意打ちのみ。
 力と体格で不利をとり、本来それをカバーして余りある敏捷性も――。
「くっ!」
 鳥怪人は羽を飛ばす。
 徒手空拳の彼女に飛び道具はそれだけで動きを封じられる。
 挟み撃たれての戦闘は彼女に圧倒的に不利だった。
「‥‥羽さえなければ――!!」
 意識が一瞬だけ逸れたところに牛怪人の痛烈な一撃が見舞われる。
 身体をくの字に今度は彼女が宙を舞う。
 追い撃ちをかけようと鳥怪人は翼を羽ばたかせる。

 鈍い太刀音――。

 羽の飛弾は飛ばされる事はなかった。
 鳥怪人を斬りつけた日本刀の美女。
 着物姿の女の頭と尻からはやはり獣のそれが生えていて、
 ただし、虎耳の彼女と違い、獣は狐のそれだった。
「雅!!」
 虎耳の女が狐の女の名を呼ぶ。
「恭子さん」
 雅が虎耳に返す。
「急ぐのは良いけど突出しない」
 言って、恭子の背後を守る。
「だったらそっちがちゃんとついて来いよ」
 恭子は愚痴り、牛怪人に向き直る。
「助けられて文句も言わない」
 雅はそれをサポートすべく、鳥怪人に対峙する。

 再び戦いが始まる。
 数の上では互角。
 だか、今度は劣勢とはならない。
 牛怪人の怪力も恭子の敏捷性を捕らえきれず、
 防御さえくぐり抜ければ虎の脚力で巨体をぐらつかせる。
 羽を飛ばす鳥怪人も一対一では分が悪く、雅の剣術に押されていた。
「――――!!」
 斬られた鳥怪人が姿の如き怪鳥音で鳴く。
「恭子さん!!」
 雅の意を察し、恭子がへたり込む二人を抱え上げる。
「きゃっ!?」
「わわっ!」
 まさに虎、自分より二回りは大きい一司までも片手で抱えつつ、
「逃げるぜっ!!」
 怪人のスキをついて雅と共に退却した。

●良いこの皆もこういう目にあわないようこういうところには近づかないようにしようね
 廃ビルから出た恭子と雅は助けた二人に説明する。
 事情は話さず、危険な『存在』だけを。
 『バグア』に対する明確な対策の整っていない人間社会において、彼らの存在を明かす事はタブーだ。
「あちこちにああいった怪物が潜んでいるかもしれない」
 それだけを二人は諭した。
「だから不用意に危険に首を突っ込むような真似は駄目よ。
 今回は私達が気付いたからよかったようなものの――」
 雅が窘める。
 独り飛び込んだ恭子以上にこの二人――というか直――の無茶は心配だった。
 一司は無論、それ以上に怯えているのが直。
 その姿からは数時間前の好奇心旺盛さは欠片もない。
(少し怖がらせ過ぎたかな)
 気の毒に思った恭子が直の頭に手を置く。
「とはいえ、もう大丈夫。
 『正体を見られた相手を消す』とかいうのはあいつらにはないから。
 あとはあのビルにさえ近づかなければ心配ないよ」
 頭を撫でられ、直はようやく安堵の涙をこぼすのであった。


●宴終わって、閉幕後
『おつかれ〜〜〜』
 初回公演も終わり、労をねぎらい合う一同。
 観客の反応は上々、皆は思い思いの感想を言い合っていた。
 初めに口を開いたのは終始セリフ無しの牛怪人、マシーことマサイアス。
「ふむ、舞台演劇であるか。
 確かに最善の方法ではないかもしれんが、
 我々獣人についての詳しい事情は明かせぬとなると、
 こういう手段に頼ることもやむを得んかもしれんな」
「実際最近はNW被害も増えてるしな。こういう取り組みもいいと思うぜ」
 と、恭子役の稲妻娘・アスカ。
「コウさん、ずいぶん女性役板についてましたね。男役メインって聞いてたけれど」
 臆病者役なのに途中はリードしてしまってちょっと意外な森ヶ岡樹、愛称イッチー。
「そうそう、私つい、いじめっこ精神に火がついちゃいました」
 ハルさん、そういうキャラだったっけ?

「――――」
「どうしたの? 団長さん、ご不満?」
 思案にふける鹿斗団長に蛍が声をかける。
「いや、アレでは我々獣人が誤解を持たれてしまう危険性はないかと思ってね」
「仕方ないじゃない、ちゃんとそれらしく説明はしたんだし、それとも特殊メイクで虫っぽくしたほうがよかった?」
 鹿斗は真面目に首を振る。
「それではせっかくのリアリズムが生まれない。ここはやはり――」
 真剣な口調に一同皆、彼に注目。

「本物のNWを生け捕り、舞台に放つスリリングな演出を――」

『すなっっっ!!!』

「樺太さんも大変だねー」
 眉間に手を置く劇団員に心底同情するパイロだったそうで。